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※eJudo携帯版「e柔道」5月2日掲載記事より転載・編集しています。

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全日本柔道選手権マッチレポート
1回戦~準々決勝 3/4


準々決勝

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写真:棟田、加藤の腕を
逆にロックして「待て」をもらう
加藤博剛○優勢[僅差3-0]△棟田康幸

準々決勝第1試合は棟田康幸と加藤博剛、ともにこの日非常に良い動きを披露している両雄の対戦。
ともに左組みの相四つ。互いに引き手を欲しがって両袖の膠着、これを破って加藤が思い切った左内股巻込。ケンケンで追った末に棟田が伏せると加藤はその上にかぶって棟田の肘を引っ張りだそうとするが、棟田は逆に加藤の腕をロックして膠着を選択、「待て」の声を聞く。

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写真:加藤独特の背負投。
棟田が耐えたところを
後ろに押し込もうとも試みた
以後も引き手が欲しい両者の意図がぶつかり試合は比較的静かな展開。棟田は辛抱強く組み手を積み上げて前に圧を掛けるが、加藤は2分に巴投、さらに相手の左体側に座り込む右背負投で耐えた棟田を後ろに押し込もうと試み、3分にも巴投を放つ。いずれも棟田はしっかり潰してポイントの予感は漂わないものの、手数で加藤がやや攻勢。棟田は3分22秒に組み際の支釣込足で加藤を大きく崩して反撃。

3分40秒過ぎから棟田が右引き手で加藤の左袖を押し込み続ける展開が続き、組み手は依然棟田優勢。しかし加藤はこの展開を切らんと左背負投を放ち、棟田は逆側に抜け伏せる。この展開の直後の4分2秒、加藤のこれまでの技の積み重ねが効いたか、ついに棟田に「指導1」が与えられる。

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写真:棟田の支釣込足で
加藤大きく崩れる
棟田奮起して釣り手で奥襟を叩いて圧を掛ける。加藤は再び座り込みの左背負投で展開を切ろうとするが棟田は両手を離さず引き起こして攻撃継続、さらに加藤を前に引き落とすと、はたきこまれた加藤は前に伏せて倒れてしまう。これを見た主審は4分36秒に加藤に「指導1」を宣告。これでスコアはタイ、試合展開の優劣はつけがたいがコントロール権を握る棟田が小差で優勢といったところ。

終盤戦。引き手を絞り、かつ釣り手で背中を叩いた棟田が加藤を圧殺、加藤はなんとかこれを切り離しに掛かるという展開。
残り30秒を切って棟田の圧力はますます効き始め、加藤は左背負投を2度見せるもののいずれも仕掛けるなり棟田が潰し、加藤の技は偽装攻撃スレスレ。残り時間20秒を残して判定の材料は棟田有利に出揃ったかに見えた。

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写真:加藤の変則の左背負い投、
棟田手を突いてこらえるが
印象点で加藤が逆転
棟田は勝利を確かにすべく再び左釣り手で奥襟を叩いて加藤を圧殺に掛かる。ところが加藤はこれを首抜きの方向に掻い潜り棟田の左体側に出ると、ふと気づいたように両手で棟田の上衣の左裾を握って高い位置での左背負投。棟田慌てて逆側に逃れようとするが加藤の背中上で回りかけ、畳に倒れこみながら辛うじて回転を止めて伏せる。間違いなくこの試合ここまでで一番のインシデント、場内逆転の予感に大いに沸く。

残り時間はほとんどなく、試合はそのまま終了。残り数秒で放った左背負投のの印象が明らかに効き、旗は3本が加藤に揃う。
僅差3-0。加藤、好調棟田を辛くも下し、初のベスト4進出を決めた。

敗れはしたが、全日本一本のみに競技生活の目標を絞る棟田、今大会は近年稀に見る動きの良さと気迫だった。掛け潰れを峻拒し前に出続ける姿勢は全盛時を思わせ、チャンスを虎視淡々と伺う戦いぶりはベテランならでは。今大会に限って言えばベスト8という成績はその出来を正確に反映したとは思えない。

頂点に挑戦する資格十分の柔道を見せた棟田、試合終了直前に食った背負投一発がなんとも悔やまれる。引退を否定し「いつか辞めるときに『棟田がいなくなって全日本も寂しい』と言われるまでやります」と来年度の挑戦も明言した棟田、次回の活躍に期待したい。

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写真:百瀬は上川の釣り手を
しっかり落として組み、
主導権を握る
百瀬優○優勢[僅差2-1]△上川大樹

世界無差別王者の上川と、同学年の100kg超級の強者百瀬の対戦。上川、百瀬ともに右組みの相四つ。
百瀬の両襟、双方の「手四つ」という組み手の準備段階を経て30秒過ぎからお互いガップリ組み合う。と見えたが、組み手が生命線の百瀬はやはり巧妙。上川の釣り手は百瀬に落とされて低い位置に甘んじ、逆に百瀬は横襟に近い高い位置を確保。
百瀬の右大内刈で一瞬上川崩れるが持ち直す、という動きは一つあったものの、30秒以上に渡ってこの「ガップリ組み合うが上川の釣り手だけが低い状態」での間合いの探りあいが継続。攻めようにもいけないこの状態に業を煮やした上川が自ら釣り手を切り離し、前に出て百瀬を場外にはたきだしたところで「待て」。経過時間は1分11秒。

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写真:上川の大外刈は不十分、
百瀬はこれを崩して
抑え込みを狙う
再開と同時に百瀬、引き手で上川の右袖を内側にいなしながら釣り手で右片襟を差して、上川の右足に支釣込足を打つ教科書どおりの一手目。上川崩れて場外にはたきだされる。

百瀬はさらにガップリ持ち合うと釣り手の肘を上下に振りながら前へ。上川の釣り手は相変わらず低く、前に出てくる百瀬に対し見せ技に近い大外刈で展開を切るのが精一杯でほとんど技が出ない。

3分過ぎ、百瀬突如組み立てを変えて一呼吸で釣り手から持つと激しく肘を上下に振って上川を幻惑。応じた上川は組み合うもののやはり釣り手を落とされて苦しい体勢。それでも技を出さねばならぬと上川、百瀬の支釣込足の戻りに合わせて右大外刈に飛び込むが釣り手の低さゆえ肘のみが上がってしまい相手を制すことができず、百瀬にほとんど返されかかって辛うじて伏せる。百瀬はそのまま上川に覆いかぶさり、体重をかけて相手の左肩を下げながらめくり回して抑え込みを狙う。胸を合わされてしまった上川は万事休すかと思われたが脚を二重に絡めて必死の防戦。百瀬、ほとんど脚が抜けかけるところまで攻めたが時間を消費しすぎ「待て」。残り時間は2分。

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写真:百瀬が送襟絞で
上川を絞めあげる
奮起した上川、前に出て左引き手で百瀬の右袖を内側にいなすと、その戻りに合わせて思い切った右内股巻込。しかし頭を下げる動作が早く自ら潰れてしまい、百瀬は上川が伏せた瞬間に出来た一瞬の空白を突いて所謂「腰絞」で上川を絞め上げる。
どうやらこれは効果あり、数秒に渡って継続された絞めに「参った」はあるかと会場固唾を呑んで見守る。が、上川意を決して逆側に回ってこれを回避、一瞬腹を見せる形になった上川を百瀬が抑えるかに思われたがここは上川の決断が百瀬の予想よりも一瞬早かったか、百瀬の胸の下で一回転した上川なんとか伏せてこれを回避、「待て」の声を聞く。残り時間は1分15秒。
上川、絞めが効いたかしばし正座して黙考、回復を待つ。

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写真:上川、
ようやく得意の支釣込足で反撃
再開後、両者再びガップリ組み合うが、やはり上川の釣り手は低い。しかし上川ここから得意の支釣込足を放つと百瀬は大きくつんのめり浮いて場内は歓声。直後の残り46秒、百瀬に「指導1」。

あと一つ「指導」を得れば上川の勝利は確実。上川は前に出て引き手で百瀬の袖をつかんでこれを内側に折込みいなしながら前に出ると百瀬はあっさり場外に逃れてしまう。

同じ展開があと一つ続けば百瀬への「指導」宣告が濃厚。試合を決定付ける山場の時間帯が来た印象で両者の出方が注目されるところだったが、ここで先に技を出したのは百瀬。上川が前に出、百瀬に場外を背負わせて波打つように間合いを測る中、先んじて横に向かって果敢に右体落、一瞬の拮抗の後上川これを返しに出るが両者崩れて「待て」。残り時間は21秒。

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写真:勝負どころの時間帯、
先に攻めて出たのは百瀬
再開後、上川は激しく前に。しかしやはり具体的な技を出すには至らず、百瀬が先手を打って右体落。両手が離れてしまいこの技は利かなかったが展開を切るには十分。試合はこのままタイムアップ。

運命の旗判定は主審が上川、副審2人が百瀬を支持。百瀬は思わず拳を握り締める。
場内大歓声。僅差2-1で百瀬が初のベスト4へと駒を進めた。

旗は割れたもののこの試合は百瀬の圧勝と評したい。誰とやっても「面白くない試合」に引きずり込んで勝利を得る百瀬の真骨頂だ。

この上川戦に関しては単に組み手で相手を封じるだけでなく勝負どころでの果敢な攻撃、機を見て「一本」を狙いにいく寝技と、全日本の舞台で勝ち抜くにふさわしい勇気を見せた、その「心」の部分を高く評価したい。
かつて強敵相手には掛けつぶれの多かった百瀬の技だが、この上川戦で仕掛けた技は決して見せ技ではなく、前半にこの技の威力と意図の部分で上川を威圧したことが非常に大きかった。もし序盤から掛け潰れで攻勢点を稼ぎにいくような柔道であれば後半の上川の逆襲は数分繰り上がっていた可能性があり、試合はどちらに転んだかわからない。百瀬はその決意と勇気にふさわしい果実を得たと言って良いだろう。

上川と同学年の百瀬は高校時代からのライバル。時には国内で上川を上回る成績を残し、また時には直接対決で勝利しながらも強化陣からは常に一段劣る評価を受け、しかも大学3年時の上川の世界選手権無差別制覇という偉業の前にその序列を受け入れざるを得ない状況におかれていた。上川の五輪代表が掛かるこの大舞台での逆襲は、長年上川の「陰」を強いられてきた百瀬としてはまさしく本懐だろう。

ひるがえって上川、百瀬に釣り手を落とされた状況を受け入れ続けた時間が長かったことがこの試合の致命傷となった。釣り手を高く保つ仕掛けが欲しかったのはもちろん、釣り手が低い位置からでもある程度効く技、例えば後半同じ状況で見せた支釣込足が出続けるような展開があれば試合はまったく違ったものになっただろう。世界選手権決勝という極限の場であのリネールを崩し続けた支釣込足が、この苦しい場面、支釣込足こそまさしく効くであろう状況で見られなかったことはなんとも勿体無い。スクランブルが掛かるのが遅すぎたという他はなく、篠原信一・男子監督の「何がなんでも勝とうという必死さがない」という評も甘んじて受け入れざるを得ないだろう。

試合後報道陣の取材に応じた上川の表情はさすがに強張ったままで、「自分が弱かった」と呟くように言葉を紡ぎだすのがやっと。ロンドン五輪出場はこの時点で限りなく厳しいものとなってしまった。


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