PAGE TOP ↑
eJudo

【レポート】「名誉と尊厳を取り戻す戦いだった」上水研一朗・東海大監督インタビュー /全日本学生柔道優勝大会男子マッチレポート⑤

(2021年12月4日)

※ eJudoメルマガ版12月2日掲載記事より転載・編集しています。
【レポート】「名誉と尊厳を取り戻す戦いだった」上水研一朗・東海大監督インタビュー
全日本学生柔道優勝大会(男子70回)マッチレポート⑤
日時;2021(令和3)年11月13日~14日
会場:千葉ポートアリーナ(千葉市)
取材・文:古田英毅/ejudo編集部

→④「評」からつづく)

第70回全日本学生柔道優勝大会で5大会連続、史上最多記録を更新する25度目の優勝を飾った東海大男子・上水研一朗監督のコメント要旨は下記。

■ キーマンは安部、「お前の大会にしろ」と送り出した
eJudo Photo
上水研一朗監督

――おめでとうございます。今の気持ちを。

ホッとしているのが一番の感想。大会が開催されたことに感謝しています。昨年大会がなく、2年間選手のモチベーションを繋ぎとめるのに必死でしたので、目標になる試合があることのありがたさが身に染みました。二重の喜びです。5月にクラスター感染が発生して、想像以上に厳しい状況でした。本格的な稽古再開は9月下旬、2か月で仕上げるのは至難の業と思いましたが『出来るところまでやろう』と。4年生を中心に、学生が逆境を力に変えて頑張ってくれました。

――準決勝は大接戦でした。

この大会は必ず山場があります。1年間試合がなく、「修羅場」を忘れていた。それが準決勝に出たと思います。ただ、普段からミーティングで2点取られるケースもあるぞと話しをして、戦い方は想定していました。副将、大将がバタバタせず、落ち着いて、踏ん張って乗り切ってくれました。私は半分死んだと思っていたんですが(笑)。

――決勝を振り返って。

準決勝を経て、開き直ることが出来たのが一番。今大会は安部をキーマンとして指名していて、準決勝は疲労を考慮して1回外したのですが、決勝は予定通りに先鋒に入れました。村尾と同級生、同階級。人が好く、野望が見えないタイプなのですが「お前の大会にしろ、野心を持て」と檄を入れて、送り出しました。

――今年のチームはどんなチーム。

4年生がみんな「いい人」。石川だけはちょっと違うんですけど(笑)、松村や、中島や、笹谷や、キーマンが「いい人」なんです。大人しくて優しい。そこで、強烈にガッと引っ張るところがみえなかったのが物足りなかった。試合がない、コロナで稽古の制限があることと併せて、三重苦ですね。2か月の突貫工事で仕上げるには、徹底して危機感を植え付けるしかないと、かなり強烈な言葉を掛けました。これでは今回は終わる、ベスト4で終わりだ、4年生が悪い、だらしないと。大会が近づくにつれて4年生がイニシアチブを取って、「いい人」が「嫌われ役」に変化していきました。1、2年生は優勝の味をまだ知らない。もしここで優勝を逃すと、勝った経験値を持つ代、勝たねばならない使命をナマに感じて背負える代が1学年だけになってしまう。それはまずい。またイチからやり直しになってしまう。こういうことは「つけダレ」みたいなもので注ぎ足して注ぎ足して熟成させていかないといけないんです。全部捨てたりするとイチから味付けしなおさなければいけない。その「味」、絆と文化を途切れさせず繋ぐことが出来たことは大きいと思います。

■ 「名誉と尊厳を取り戻す大会」
――クラスター感染も起こり、大変な1年でした。優勝の喜びもひとしおでは。

学生には、この大会は「名誉と尊厳を取り戻すための大会だ」と言い聞かせました。クラスター感染を起こしてしまったことで、犯罪を犯したようなレッテルを張られてしまった。感染してしまったことは犯罪ではありません。しかし学生たちの罪悪感は凄まじく、また、そういう扱いを受けることも非常に苦しかった。そして私は何よりも、学生が自信を失ってしまうこと、生きていく自信を失ってしまうことが物凄く怖かった。確かに反省をしなければならない。ただ、反省しろ反省しろと言われても、それを取り戻す場がないと人間は卑屈になっていきます。自分を認められないと自暴自棄になって、選手云々ではなく、人間として壊れてしまいます。だから、我々に出来るのはそれでも勝つことだと話しました。勝つことを目標に、誇りを取り戻さなければいけないと話しました。

――施設使用などもかなりの制限があったと聞きます。

9月の時点で状況を見たら、これはちょっと仕上がらないのではないかなというのが正直なところでした。練習時間にも制限があり、シャワー室や、トレセンのウエイト室の使用もかなりの時間制限がある。ウエイト室は全体で1時間ないくらい。日本一を掛けた勝負の世界にいる集団としてはこのビハインドはきつかったですね。なにより、クラスター感染を起こしたことで選手が卑屈になり、自信を持てていなかったことが良くなかった。自信を持てていないと心ここにあらずになり、「練習のための練習」になってしまう。必要なのは試合に勝つための練習。意味のないことはしたくない。勝つために、考えた練習をしたい。これをやることが東海大の根幹なのですが、その根幹が揺らいでしまったんです。卑屈になってしまうとそこまで頭が回らないんです。練習をすること自体が目的の単なるパフォーマンスになってしまうんですね。そんな中で、内からも外からも責められる矢面に立った松村はかなりきつかったと思いますが、本当によく頑張ってくれました。

■ 決勝オーダーのポイントも安部、「安部・中村」の前衛への信頼感が配列の大前提
――決勝オーダーの目当てを教えてください。

キーマンは安部です。この大会は、安部です。「お前がこのチームのスターターであり、お前が流れを作るんだぞ」と繰り返し話して、送り出しました。準々決勝の天理大戦も、戦力にそんなに差がないのにああいうスコアになった(※5-1)のは、安部が、取られながらもすぐに絞めて一本勝ちをした、あの流れがあったからです。決勝も彼がポンと腕挫十字固で「一本」を取って流れが出来た。あの「一本」を取る強さが彼の魅力です。団体戦で「一本」を取るというのは本当に大きいんですよ。彼が期待通りに働いてくれたことが最大のポイントでした。

――安部選手は、高校時代から、ちょっと典型的な東海大タイプとは毛色の違う柔道でした。

同じタイプだけではどんなに強い選手が揃っても、チームは全体として弱っていく。違うタイプの選手が入ると化学反応が起こてって、逞しい選手が生まれます。ハイブリッドを作りたいです。…安部は物凄く力があるのに自分自身を信じていないんですよ。村尾が同階級にいるということで、入学して1度階級を落とした。お前、そんなことをしていたら良さが消えてしまうぞ、村尾三四郎と勝負してやる、という柔道をやりなさい、そうすれば団体戦で活躍出来るよと話していました。

――安部選手以外では。

鈴木と中村にはこういう時に切り替えが出来る大物になろうと話しました。2人とも準決勝では負けてしまった。鈴木は準々決勝でも星を落としているんですね。で、決勝はどうするんだと聞いたらと、やります、と。ではお前は勝負を決める位置をやりなさいと話してあの位置(三将)に入れました。中村の準決勝は前の試合の悪い流れが伝染して事故にあったようなものだったので、決勝は、お前はエースになる人間だから、エースとしての働きをしなさいと話しました。4年生は言わなくてもやってくれるんです。問題は下級生ですね。自信喪失したり委縮しないように、名誉挽回の機会を与えると。これは次の大会にも繋がります。

――中村選手の強さは我々も知っていますが、しかし、とはいえ、準決勝で事故にあってしまった1年生を決勝で、それもオーダー配置が巧い筑波大を相手に前衛で使うというのは怖くないのですか?

信頼ですよね。それこそ。力がわかっているからこその信頼です。エースにならなければいけない選手ですから。彼はその点では1年生だけど1年生ではない。信頼していました。

――4年生の成長は試合に生きましたか?

それは、もちろん。彼らは強くなりました。石川は「やらかし王子」。空気を読む能力が少し足りないのですが、彼なりに頑張って考えてやってきたんです。で、準決勝の後で「やるか?外すか?」と言ったら「やります」と。

――てっきり外すと思い込んでいました。

そうおっしゃるだろうと思っていました (笑)。

――かなり回りを動かしたのでは?位置にかなりの配慮を感じました。前衛で使わなければいけないですよね?

そうです(笑)。後では難しい。ただ何より安部・中村に信頼感がありましたし、加えて村尾で挟んでいますので、何かがあっても大丈夫というところではあります。後から、石川もいたよね?というか、そういう使い方で貢献させようと思っていました。ここまで頑張って来た選手に、単にダメだった、ではなく、名誉挽回の機会を与えないと。

――石川選手にとっても、準決勝でチームが勝ったこと、決勝で勝ったことは大きかったですね。

はい。・・・あの準決勝は中島が頑張ってくれました。落ち着いていましたね。練習通りにやってくれました。

――クロージングを期す八木選手タイプに、追いかける中島選手タイプという構図は傍目には厳しそうにも見えるのですが、どんな練習、どんな想定をしていたのですか?

自分のことを考えがちですが、まずは相手のことを考えなさいというところからですね。相手が、東海大を相手にリードして大将戦に出て来るというのはどんな心境になるか、もし俺だったら、狂ってしまうよ、と。相手は必ずそういう心境になる、普通の力は出せない、だからこちらは慌てず落ち着いて詰将棋をやっていけばいいと。八木選手は良い選手ですが、あの場合は彼に限らずどんな選手であっても、ああなってしまいます。平常心ではいられない。ですから、私は、三将戦(鈴木直人――グリーンカラニ海斗)は取られてもいいと思っていました。ここまで来ると、追い掛けるほうが取れる。相手にとっては内容差リードくらいで追われるのが一番きついんです。真綿で締められる感じになる。で、その通りの展開になりました。準備以外の何物でもないです。「ウルフタイム」と一緒です(笑)

――村尾選手と松村選手の評をお願いします。

松村は動きが重く、本来の調子ではなかった。この大会、責任感の強い4年生は実はなかなか力を発揮できない。「やらなきゃ」と思うと体は重くなります。それでも全部勝ったのはさすが。上出来です。このあとは、筋力があって自分の体のコントロールが効く彼の良さを生かすべくもう少し体を絞って、手の速さを上げて、「重戦車」的に作っていってほしいですね。海外で戦うためにはそういう方針だと思います。村尾はさすがでした。海外から帰ってきて、「この大会できっかけを掴もう」とヒントを与えると、彼は賢いですからしっかり調整してくれた。あとは、この大会ではやはりちょっと力自体が他とは違いましたね。

――これで5連覇。

来年は厳しいかもしれません(笑)、もっともっとレベルアップしないと、土俵にすら乗れないと思っています。ただ、5つ取ったら6つ目を狙うのは当然のこと。頑張ります。

(了)

※ eJudoメルマガ版12月2日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る