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【レポート】とっておきの「先鋒・安部」策が巨大戦力を着火、東海大が圧勝で5連覇決める/全日本学生柔道優勝大会男子マッチレポート③決勝

(2021年12月4日)

※ eJudoメルマガ版12月4日掲載記事より転載・編集しています。
【レポート】とっておきの「先鋒・安部」策が巨大戦力を着火、東海大が圧勝で5連覇決める
全日本学生柔道優勝大会(男子70回)マッチレポート③決勝
日時;2021(令和3)年11月13日~14日
会場:千葉ポートアリーナ(千葉市)
取材・文:古田英毅/eJudo編集部

→②準決勝からつづく)

■ 決勝
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決勝オーダーが開示される

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東海大は準決勝から1人のみを入れ替え、先鋒に再び安部光太を投入した

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決勝の畳に向かう筑波大の面々

東海大 - 筑波大
(先)安部光太 - 田中航太
(次)中村雄太 - 千野根有我
(五)石川智啓 - 阿部拓馬
(中)村尾三四郎 - 戸高淳之介
(三)鈴木直登 - 日野山剛
(副)松村颯佑 - 長谷川功斉
(大)中島大貴 - 関根聖隆

東海大は準決勝で休ませた斬り込み役・安部光太を再び投入。準決勝でチームを敗北寸前まで追い込むミスを犯してしまった石川智啓を敢えて下げず、選手の入れ換えはここ1枚のみで布陣した。並びを額面通りに見れば、前衛に中村雄太という重しを1つ前出しした上で、村尾三四郎・松村颯佑・中島大貴の大駒3枚をいずれも後半に配した後ろ重心ということになる。

一方の筑波大も好調の日野山剛を三将に配するなど重心は後ろにあるが、前戦で流れを作った殊勲者・田中航太を引き続き先鋒に起用。関根聖隆はやはりまとめ役として大将に置いており、大きく言って、この決勝も前でリードして後で締める陣形を採ったと考えて良い。タイプ的に後ろで使うことが難しい千野根有我はやはり前衛。準決勝勝利の立役者となった戸髙淳之介は中堅に配した。

戦力で言えば東海大の側が明らかに上。双方これを大前提に、東海大は試合を誤らぬよう、筑波大はその「正シナリオ」を壊すべく配列したということになる。

東海大の布陣にもう少し踏み込んでみたい。オーダーを一瞥した感想は、石川と鈴木(特に石川)の置きどころにかなり気を配ったオーダーであるということと、先鋒・安部をどう見積るかでこの配列の評価がまったく変わってしまうということ。

東海大サイドはおそらく、ともに「抱き勝負」属性で、状況を読むことが苦手な石川と今回が優勝大会初出場でまだ経験値の少ない鈴木の2枚が、勝敗定かならぬ弱点であることを強く自覚している。準決勝を見る限り、状況判断の変数が増える後衛に石川を置くリスクは冒せない。とはいえ前でミスして展開が壊れたときにフォローが効かないのも困る。そして後々を考えるとここで鈴木も使って経験を積ませておきたい。ゆえにこの2人のポジションを離し、まず中村と村尾で前後から石川を囲み、続いて村尾と松村で鈴木を囲むことで「万が一」にリカバー可能な保険を掛けた。この点のリスク管理に苦心の見られるオーダーだ。むしろ凹みから帰納して組んだ配列という匂いすら感じられる。

そして安部をどう見積るかで、この「保険」のありようがまったく変わる。高校時代に絞技と関節技を駆使して印象的な活躍をした安部ではあるが、コロナ禍による1年半の中断で、外野からこの選手の現在の力を判断する材料は少ない。見る側からすれば、寝技の爆発力はまさしく抜群だが、準々決勝の天理大戦で開始早々に「技有」を失ったあたり、立ち勝負ではまだまだ隙ありと見ておくのがひとまず穏当。しかし、この大一番で常勝・東海大が敢えて先鋒に起用するからには、かなりの信頼を得ているものと思われる。直後2枚の配置からもその信頼の高さが匂い立つ。

もし安部が絶対の信頼が置ける駒であり、これまでの試合のように1点確実に取って来れるカードならば。万が一「凹み」の試合が全て失敗に終わったとしても前衛の2点を背景にどんな状況でも常に1点リードしながら、戦力に勝る味方が「出て来る」敵方を待ち構えて叩く自軍優位の形で最後まで試合を運ぶことが出来る。リスク管理としても「緒戦で叩く」団体戦の正シナリオとしても完璧、うまく行けば大勝すらあり得る。一方もし安部が立ち勝負がまだ不安定なギャンブル駒であった場合、ここを落とすと以降は最悪「取って取られる」タイスコアの泥沼が続くことも考えられる。この場合、試合が進むほど、「こんなはずではない」東海大の精神的な減速と、「やれている」筑波大の加速が起こるはずで、試合はどう転ぶかわからなくなる。

ここまで考えた上で「当たり」を眺め直してみると、筑波大がかなり上手く布陣したことがわかる。東海大にとって嫌な要素が随所に仕込まれている。単に戦力を見るだけではわかりがたい潜在的な得点、彼らが狙う「裏」のシナリオの存在が強く匂う。安部を前段2つのうち「まだ立ち技が不安定なギャンブル駒」と考えてこの「嫌な予感」を音量目盛りマックスまで上げて文字に起こしてみると。

先鋒安部はまだ絶対性が薄く、体の強さを生かすことに長けて準決勝で殊勲の先制点を挙げて乗っている田中が相手であれば何が起こるかわからない。もしここを落としてしまうと、相性的に取れるはずの次鋒戦で千野根に凌ぐ戦いを許してしまうことになり中村が取るはずの1点が「0」になる可能性も出て来る、となるとビハインドに焦った五将石川が事故を起こす可能性も上がり、安部が落としている場合最悪ここで0-2すらあり得る。村尾は1点確実だが、戸髙に当たるこの当たりは実は痛い。東海大の他6人は全員階級が上でしかも直接力をぶつけることに長けており、おそらく他の誰が当たっても取る可能性が高い。その相手に、逆に敵方の誰に当てても1点確実な村尾を消費してしまうことは当たりとして決して良からず、1点が「相手の取りどころを奪う2点分」ではなく、単に相手がどこかで計算しているマイナス1点をポケットに収めるに矮小化される。ここでスコアは1-2、あるいは2-2。そして三将戦、日野山の絶好調ぶりを考えると鈴木は厳しい戦いは間違いなく、戦前評としては日野山が取ると見ておくのが穏当。絶対性の薄い駒に、もっとも勢いのあるカードを当てられている。後衛2枚、この日の松村が動きが重く決して好調ではないこと、中島が安定感が増したぶん以前の機動性の高さが薄れていることを考えると、追いかける展開で、クロージングのみを考える長谷川、そして業界随一の図太さを誇る関根を取ることが出来るのかどうかは疑問だ。

ということになる。長くなってしまったが、オーダー開示から選手の入場までの時間で、当方の脳内に去来した「読み」のもろもろはこんなところ。

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2021年の学生王者を決める大一番が、いよいよ始まる

そしてこのシナリオの「白・黒」を全て決めてしまうのが先鋒戦。ここでのリードが背景にあれば、東海大は正シナリオで試合を運べ、のみならず、想定される「事故」すべてをそれぞれのブロック内で吸収することが可能となる。前者なら大勝すらあり、後者でも勝負を落とすことまでは考えられない。しかしこの要衝を落とした瞬間、シナリオは筑波大が狙う「裏」の側に落ち、以後はコインの裏表が全てひっくり返ることになる。柔道の上手い筑波大が、追いかける展開で焦る東海大を翻弄、試合は相当に揉めることになるだろう。勝敗の帰趨は、一(いつ)に先鋒戦に掛かる。

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田中航太が強烈な先制攻撃、安部光太を支釣込足で大きく崩す

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田中が潰れると安部はすかさず寝勝負を挑む

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裏、表、裏と腕を引っ張り出しながら幾度も展開

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ついに極め切って腕挫十字固「一本」

(先)安部光太 ― 田中航太
ともに左組みの相四つ。バチっと、無観客の場内に打撃音を響かせながら田中の釣り手が安部の首裏を叩き、安部がこれを突き離して試合がスタート。田中は強気、再び奥襟を叩いて引き手で袖を得ると、安部が腋を突いて落とそうとする動作に合わせて左大外刈で先制攻撃。いったん距離を取った安部が奥襟を叩き返すとタイミングよく支釣込足を合わせ、反時計回りに大きく崩す。のめった安部が膝を着いて田中の押し込みをなんとかこらえ、「待て」。田中は激しいスタートダッシュ。安部その勢いを鎮めんといったん横変形で組んで左払巻込を見せるが体の強さの前に弾き返され、効なしと見て早々に潰れてしまう。田中抑え込みを狙うも展開し切れず「待て」。

続くターン、時計回りにまず引き手で襟を得た安部は、釣り手で横襟を掴んで横変形に展開。概ね欲しい形を作り出す。出遅れて釣り手で高い位置を持てなかった田中だが腋を突いて間合いを取り、引き手を袖に持ち直して体勢を整えると思い切った左大外刈一撃。大きく踏み込み、刈り足を畳に着けて大外落の形で踏ん張るが、後ろ回りさばきの大外返で迎え撃った安部を崩すことは出来ず。一瞬の拮抗ののち、前のめりに抜け落ちてしまう。安部はすかさず背中について寝勝負を展開。片手で脇から襟を持ってローリング、残った右腕で首を狙うという一見極めてオーソドックスなエントリー。この時点では取り味はあまり感じられなかったがここからが安部の真骨頂。一回転して相手を伏せさせると、体を伸ばしてやり、左脚で頭を跨いで右腕を抱え、回転式の腕挫十字固を狙う。右脚を腹に入れてめくり返そうとすると田中は耐えて剛体、これを利用してごろりと頭側に展開する。仰向けの相手に乗ったまま腕を引っ張り出そうとして数秒、耐え切れなくなった田中が相手の方向を向いて逃れようとするとその力を利用して結ばれていた手を切り、今度は腹ばいにさせて伸ばし、ついにガッチリ極めるに至る。田中、腹ばい着地とともに耐えようがないところまで腕を伸ばされ、1分38秒無念の「参った」。寝技のエントリーからここまで実に36秒、淡々的確とシナリオを選び、「一本」まで歩を進めた安部の業師ぶりは見事。動けば動くほど嵌っていくまさに蟻地獄だった。

田中は先鋒らしい思い切った柔道を見せて1年生としては十分過ぎる出来だったが、職責を果たしたのは安部の側。安部は、常勝・東海大が大一番の先鋒として送り込むにふさわしい選手だった。東海大が1点先制、盤面の最重要ポイントを取ってここでこの決勝戦の流れはほぼ決まった感あり。

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千野根有我が得意の出足払で中村雄太を崩す。しかしこの技に効があったのはこの一撃のみだった。

(次)中村雄太 ― 千野根有我
ともに右組みの相四つ。中村が両襟で固定に掛かり、千野根がこれを外して「五分五分」ではなく一方的な組み手を作らんとする構図で組み手争いが続く。1分2秒、双方に「取り組まない」咎による「指導」。組み手争いの中で千野根が引き手で袖、さらに釣り手横襟で肘を高く揚げて相手に持たせぬ良い形を作るが、肝心の技は「小内払い」による蹴り崩しに遠間からの大外刈フェイントと牽制の域に留まる。中村は己の釣り手を絞られるこの形を片襟の右大内刈による突進で打開、展開が流れたところで「待て」。

中村は両襟を徹底。組み合いを厭わずじわりと前に出る。外し続ける千野根は1分54秒に得意の前技フェイントからの出足払を放って中村を伏せさせるが、以降は前に出る中村の圧力が効き始め、双方組み合っての攻防が増えていく。2分過ぎ、千野根が再び見せた前技フェイントからの出足払は中村両足を地に着けて弾き返し、まったく効かず。前に出続ける中村は釣り手を首裏に回して頭を下げさせる時間も増え始め、じわりと優位。一方の千野根は組み立ての生命線である順方向の技が出ず、試合の眼目はあくまで組み手の構築による優位確保に留まる印象。

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中村の右大外落が決まり「一本」。東海大のリードは「2」となる。

残り1分、釣り手で横襟を持った中村、相手が絞り合いに持ち込まんとするとこの動作に混ぜ込んで自らも引き手を襟から袖に持ち替える。この試合おそらく初めてしっかり袖を握り込んだ、このチャンスを中村は逃さない。絞られた釣り手を片襟に入れながら低く右大内刈、これで相手を一歩下げると重心の掛かった右足めがけて右大外落一撃。釣り手は引き手に添えるようにして肘下、典型的な「落」技。千野根の巨体は意外なほどあっさり崩れて右後隅に落下、ついで中村の乗り込みを受けてグルリと回転して背中から接地。3分11秒「一本」。

勝った中村は文句なしの試合。持たれることを嫌い過ぎず相手と繋がることを最優先とした強気の組み立て、そしてチャンスを逃さぬ戦術眼。振る舞い全体が「投げる」という目的に向かって綺麗に収斂していた。

敗れた千野根は一方的な組み手の確保にこだわってチャンスを逸し、なにより組み立ての要である順方向の大技が利かず、勝ちに繋がるシナリオが作れなかった。両者の地力の差が振る舞いを分けたという評価になるが、1年生選手相手に一工夫入れられるなり箍が外れてしまったこの負け方は宜しくなかった。得点計算的にも、士気という面でも、自軍へのダメージ大きすぎる一敗である。スコアは2-0、田中が作った強気の機運もここで鎮火され、試合は実質終わった。

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阿部拓馬が大外刈、石川智啓を崩す。

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終盤、石川は試合を塩漬け。大過なく引き分けを得る。

(五)石川智啓 ― 阿部拓馬
要衝の先鋒戦を取り、得点を伸ばし、勝負の行方をほぼ手中に収めた東海大にとって残る最大の不確定要素がこの試合。狙い通りに前衛で2点をリードし、東海大がこの試合に賭けた保険はまさに満額。この石川が大過なく試合を終えれば、もはや優勝以外のシナリオはありえないと言っていい。

その五将戦はともに左組みの相四つ。幅のある体幹でどしりと前に出て来る石川に対し、90kg級の阿部が足元を蹴り崩してその前進を止めるという攻防で試合がスタート。双方引き手で襟を持つが、この腕を張るがゆえに釣り手はともに届かず、その形のまま阿部が前にあおって引き出して足元を蹴り続けるという展開。捕まえたい石川一計を案じ、釣り手でまず頭裏を掌で触って流すと片襟を掴み、ここから柔道衣を被せる形で奥襟に位置を変えようと試みる。しかしもたつく間に片襟の時間が長くなり、主審試合を止めて31秒石川に「指導」。

「指導」を受けて石川やや慎重、距離を取って対峙する。リードした阿部にとってはありがたい展開、いったんこれを受け入れて間合いを取り、接近すると足技を入れて引き手で前襟を持ち、持ったまま前に引きずり、耐えさせて今度は抱き着きの左大内刈というヒットアンドアウェイの良い攻め。すぐに離れ、ふたたび間合いを取っての組み手争いに立ち戻る。石川引き手のみの片手でじわりと前進するが技が出ず、釣り手を奥襟に伸ばしたところで「待て」。1分4秒両者に消極的試合姿勢による「指導」。石川はこれで反則累積が「2」となり、後がなくなる。

勢いを得た阿部は続く展開、石川の奥襟を外すなり右出足払でマトを固定すると思い切った左大外刈。膕に足首が入り、石川はドウと崩れて、四つん這いの形でなんとか逃れる。あるいは3つ目の「指導」という先行きも予想される流れだったが、以降は石川の圧が利き始めて展開がいったん落ち着く。執拗な奥襟のアプローチに阿部が手こずり始め、2分2秒には首抜きの咎で阿部の側にも「指導2」。

石川はこの「指導」で息を吹き返し、以降は奥襟圧力を効かせて試合を塩漬け。2分20秒には引き手を背中に回しての抱き勝負で形を崩し、2分58秒には左大外刈の空振りから自ら膝を折って四つん這いになってしまうなど危ない場面もあったが、残り1分となると完全に封殺モード。阿部がなんとか圧を逃した時点で残り時間は僅か20秒、安部残り数秒で左背負投の特攻を見せるも「待て」となり、この試合は引き分けとなった。

9割方試合の行方を決めていた東海大が、また少し、ゴールに向けて歩みを進めた試合。石川は開始1分で「指導」2つを貰うという危うい出だしであったが、このことでかえって戦い方がハッキリした印象。得意な分野ではない状況理解に補助線を貰って、的確な解が導き出せたという一番であった。

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村尾三四郎が戸高淳之介から「一本」。スコアはこの時点で3-0。

(中)村尾三四郎 ― 戸高淳之介
面倒な「谷」を渡り終えた東海大はここでポイントゲッターの村尾三四郎が登場。この試合は左相四つ、戸髙先に引き手で袖を得て片襟の左大内刈を見せるが、村尾は敢えて切らず「繋がる」ことを優先。引き手を持たせたまま両手を使ってまず己が引き手で袖をしっかり握り、把持が完成すると初めて切って、引き手一本を一方的に持つ形を作り出す。ここからフリーの釣り手を晒しながら、戸髙が引き手で前襟を持つとこの袖を捉えて両袖の左大外刈。戸髙体を屈し、両足を踏ん張って耐え切ったがこれは村尾の「作り」。村尾、相手の体が小さくなったと見るや間を置かずに本命の左内股、両手首をまとめて相手の上体を前に伸ばす得意の形で投げ切り、鮮やか「一本」。

この間僅か25秒。戸髙は筑波大決勝進出の立役者、1年生ながらその働き天晴れであったが、さすがに村尾は格が違った。東海大は3点目を得て、もはやほぼ既定路線となった優勝というシナリオをいよいよ現実として具体化する段階。

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鈴木直登が冷静な進退、日野山剛から隅落「技有」

(三)鈴木直登 ― 日野山剛
身長177センチ体重100キロの鈴木、同173センチ81キロの日野山ともに右組みの相四つ。鈴木引き手で胴を突きながら相手を下げ、下げながら左出足払を打ち込む良い出だし。伏せた日野山に挑んだ寝勝負はエントリーに手間取り、腕挫十字固を狙ったところで「待て」。日野山は体格差を考えてヒットアンドアウェイ戦法を徹底。遠間から引き手で襟、これを弾かれると釣り手で袖を持って流し、さらに左組みに組み替えてと形を変えながら迫る。このやりとりの中で距離が詰まると、鈴木右内股から流れて両手で背を抱き、左移腰の大技一発。しかしいったん浮いた日野山両足で着地、これを鈴木が隅落で捲ろうとしたところで日野山が潰れて攻防は収束「待て」。戦前の予想通り、寄って力を伝えたい鈴木に、間合いの出し入れの中で瞬間的に組み勝って一発効く技を入れたい日野山という構図。

日野山は以後もヒットアンドアウェイ戦法。いったん間合いを取り、遠間から一気に釣り手で奥襟、あるいは引き手で前襟と大胆にアプローチを試みる。一方これに対峙する鈴木は存外慎重。とにかく寄るというわけではなく、同じ接近戦でも「質」にこだわる印象あり。受け入れる形を厳しく選別して、日野山の接近を弾き続ける。

日野山が引き手で襟を持っての絞り合いの中、鈴木はこの袖を抑えて数歩後退。ここに出来た隙間に日野山足を突っ込んでおそらくは捨身技を試みんとするが、足を引いた鈴木が踏みとどまって体を預け返すと棒を突っ込んだ形で仰向けに崩れてしまう。反転して前技に逃れんとするが鈴木が空間を潰して押し込み、1分33秒隅落「技有」。

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裏投で2つ目の「技有」。鈴木は優勝を決める大仕事を果たした。

ビハインドの日野山は気落ちせず抵抗。アプローチのタイミングを一呼吸ずらして奥襟を叩くことに成功すると、敢えて釣り手を離して右小内巻込。これは空振りに終わったが、2分20秒には再び奥襟を得ての右出足払で鈴木に膝を着かせ、前掛かりに攻め続ける。しかし残り1分、日野山の左への肩車の戻りを鈴木が右出足払に捉え、あわやポイント。ここで流れが再び鈴木に戻ることとなる。

残り30秒、日野山まず引き手一本から右小内巻込。鈴木が一歩引くと同じモーションから外足を張って体落崩れの右外巻込に飛び込む。しかし離れた間合いからこの動きをしっかり観察していた鈴木、タイミングを合わせてピタリと抱き止め、抱き止めると同時に体を捨てて得意の裏投一発。巻き込みのフォームをそのままに日野山大きく持ち上がり、後方に吹っ飛んで「技有」。試合時間3分38秒合技「一本」で鈴木の勝利が確定。4点目を得た東海大、ここで優勝を決めることとなった。

鈴木は状況を的確に踏まえた進退で、しっかり成果を得た。高校時代はむしろ試合展開を誤って力を出し切れないことが多かった選手だが、その戦いぶり見違えるよう。鈴木の柔道、そして優勝大会初出場の新人に3点リードのバックグランドを与えて力を発揮させ「優勝を決める」大仕事を成し遂げさせたというこの状況自体に、東海大の育成力の高さが垣間見えた。

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松村颯佑は嫌い過ぎず、長谷川功斉に持たせたまま圧力。

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必殺の裏投「一本」でフィニッシュ。

(副)松村颯佑 ― 長谷川功斉
副将戦は180センチ155キロの松村、175センチ100キロの長谷川ともに右組みの相四つ。長谷川巧みに引き手で袖を得るが、松村敢えて切り離さずほぼ左組みの形で圧を掛けながら体全体で前へ。押し出された長谷川横滑りに逃れるも松村の圧に場内に入れて貰えぬまま「待て」。この攻防を主審は松村の「押し出し」と判断、35秒「指導」を宣告する。続く展開で松村珍しい左内股を見せるが、これが潰れると再びじっくり進退。組み手を嫌い過ぎず体全体で圧を掛け続ける。長谷川が横変形に構えると支釣込足で崩し、組み手で絡みつかれると左袖釣込腰。これは意外にも早々に掛け潰れてしまったが、以後も相手と繋がることを優先し、組ませて組む形でじわりと前に出続ける。

長谷川が横変形にずれて構えると切り離さぬまま数十秒進退。そして2分20秒、この横変形から時計回りの支釣込足。釣った引き手で肘を押しのけて側面を向かせると、蹴られて背の低くなった相手の背面からがっぷりその胴を抱く。長谷川慌てて前に潰れようとするが、掌を着いたところで松村の背筋力が勝り、その形のままグイと体が持ち上がる。両足が畳から離れたところで松村一段力を籠めて反りかえると、長谷川の体はその頭上まで大きく浮揚。相手の「協力」なしにこんな大技がありえるものか、驚く間もなく極めて高い軌道の裏投鮮やかに決まって「一本」。畳に沈んだ長谷川をよそに、立ち上がった松村は「よっしゃ」と一声挙げて勝利を噛み締める。主将の松村がしっかり仕事、この時点で東海大の得点は「5」まで伸びた。

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中島大貴はがっちり二本持ち、関根聖隆の片手技を封殺

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内股で大きく崩す場面も作り、危なげなく4分間を終えた。

(大)中島大貴×引分×関根聖隆

最終戦はともに左組みの相四つ。中島は、関根が得意とする一本背負投の形に腕を抱えての大外刈・小内刈・一本背負投の片手技による連携を徹底して封じる構え。大きく離れる、近づけば早々にしっかり二本持つ、そして足技で蹴り崩すという戦型を徹底。出足払に支釣込足、左内股で大きく崩し、乗り込めばポイント、という場面もいくつか作る。一方の関根はこの防壁を崩せず、得意の「一本大外」に入り込めたのは1分34秒に放った一発のみ、一本背負投も残り14秒で見せたただ一回のみに留まる。何より生命線である連続攻撃がまったく出来ず、己のフィールドである乱戦を演出することが出来ない。この試合は中島が描いた絵通りに引き分けとなり、これで7戦すべてが終わった。

東海大 5-0 筑波大
(先)安部光太○腕挫十字固(1:38)△田中航太
(次)中村雄太○大外落(3:11)△千野根有我
(五)石川智啓×引分×阿部拓馬
(中)村尾三四郎○内股(0:25)△戸高淳之介
(三)鈴木直登○合技[隅落・裏投](3:38)△日野山剛
(副)松村颯佑○裏投(2:26)△長谷川功斉
(大)中島大貴×引分×関根聖隆


レポート④「評」につづく)

※ eJudoメルマガ版12月4日掲載記事より転載・編集しています。

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