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「己の力で次の道を切り開く大会」鈴木桂治男子日本監督コメント要旨/グランドスラム・バクー2021

(2021年11月1日)

※ eJudoメルマガ版11月1日掲載記事より転載・編集しています。
「己の力で次の道を切り開く大会」鈴木桂治男子日本監督コメント要旨
グランドスラム・バクー2021
グランドスラム・バクー(5日~7日)に臨む、鈴木桂治・男子日本代表監督のコメント要旨は下記。30日の出国にあたり、報道陣の取材に応じた。

今大会に関しては、国内のトップではない立場の選手が「自分の力で次の道を切り開く」大会と規定。ほか、報道陣の質問に応じて、グランドスラム・パリから残留して現地で稽古を続けている田中龍馬・飯田健太郎・斉藤立選手の現状や変則スケジュールの意図、重量級再建に向けた選手の「甘さ」の払拭など、ホットなトピックについて濃く語った。

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出国前に報道陣の取材に応えた鈴木桂治監督

――久々、または初めて国際大会に出場する選手が多い。どんな試合を期待するか。

五輪や世界選手権代表のほかにも、講道館杯や選抜体重別で活躍して、きちんと評価しなければいけない選手はいます。今回はそういう選手に機会を与える形の派遣となっています。もちろん結果が出れば次に繋がります。決して国内のトップではない自分の立場を自覚して、己の力で次の道を切り開いて欲しい。そういう立場にある選手たちがどんな戦いを見せてくれるか、非常に期待しています。

――飯田健太郎選手と田中龍馬選手はGSパリに続く連戦。狙いは?

2人とも連戦となりますが、意味合いはそれぞれ違います。田中は期待の若手で有力株、しかしコロナ禍でジュニア期に本来積むべき国際経験がまったく積めなかった。これを埋めるために、GSパリ、そのまま残って練習・合宿、さらにGSバクーというスケジュールを組みました。大学の授業はオンラインで補完出来るということで、パリ、ロスに向かってためになるはずと、所属と強化に無理を言ってこういう形をお願いしました。飯田に関しては、連戦を決めたのはGSパリ前ですが、大会の結果(初戦敗退)からするとこの形を採って良かった。ウルフアロンが東京五輪で優勝しましたが、この先ウルフ1本だけで強化していくのは実際には不可能。飯田は五輪の補欠でもありましたし、ウルフに対抗すべき選手だと思っています。もっと自覚を持てという気持ちも込めての措置です。必要な強さが兼ね備わっていない。日本代表としての強さというものをもっと真剣に考えてくれという思いで、このスケジュールを入れました。こういう経験は今後も色々な選手にさせていきたいが、簡単には出来ない。出来るうちにやる、という意味も籠めて、今回の2人ピックアップとなりました。

――斉藤立選手は、練習パートナーとして参加したGSパリからそのまま残留。

そうです。もともとGSバクーのメンバーに入れていたのですが、重量級選手にとって今の日本、自分の大学だけで稽古する環境は非常に厳しい。練習相手もあまりいない。ここは思い切って海外で良い環境を作るのが、所信表明でも掲げさせて頂いた重量級の強化に必要なことではないかと、強化にお願いをさせて頂きました。敢えてスタッフは帯同させていません。フランス柔道連盟に宿泊の手配と練習場所の確保は協力頂いていますが、こちらが用意したのはそこまで。あとは「自分でやれ」という形です。選手とのコミュニケーションや、万が一稽古がなくなったときの対応は自分でやる。今残っている3人にはこういう時間が必要です。飯田が一番年上ですが、自分のやるべきことに向かって色々なことを解決していく、こういう経験をしっかり次に生かして欲しい。斉藤については「ひとり立ち」ですね。まだまだ甘ちゃんで、重量級特有の甘えが凄く強い人間だと思うので、こういった時間を取ることにしたという面もあります。

――「重量級特有の甘え」とは?

まず、所属にいるときからそうなのですが、どこが痛いから休みます、どこがかゆいから休みます、これを基本的に休んで治そうというシステムになっている。重量級は体が重いから色々なところに負担が来るのはわかりますし、今は医学的にも最前線を行っている治療が多いので「休んで治す」というのが当たり前になっていると思うのですが、私がよく言われていた言葉で「出来る痛みと出来ない痛み」というのがあります。このくらいの痛みなら出来る、これ以上やるとまずい、こういう痛みの線引きは自分しか出来ないわけですが、その線引きが非常に低くなっているという印象です。痛みに対しても、また練習に対しても、「このくらいでいいだろう」と自分で自分に線を引いてしまう選手が重量級には非常に多いと思うんですね。で、あとは笑ってごまかす。それがかわいさといえばかわいさなんですけど、勝負の世界は残酷です。シビアな状況が降りかかって来たときに乗り越えられる強さは、普段の生活や普段の稽古の中に隠されています。甘えていてはいけない。そして、やるときはやる、休む時は休む、このメリハリがはっきりしていないのが重量級だと思っています。メリハリをつける、自分で解決する。残っている3人はこういったことを少なからずわかっている選手だと思います。例えば田中が一生懸命やっていたら自分もやらなきゃと思うだろうし、所属にいると自分が一番上で甘えてしまう部分も生じてしまうと思うのですけど、日本代表として出ている以上はそうもいかないはず。斉藤立であれば、自分はあくまで練習パートナーとしてパリに来たんだという自分の立場、GSパリの試合で上には上がいることを実際に見て、理解した上で、良い時間にしてもらいたい。

――「甘さ」、新しい世代特有の文化がある?

仲間意識が非常に強い。良いことだとは思うのですが、同じ階級に関しては「蹴落とす」という気持ちも持って欲しい。井上監督も同じ話をされていたかと思うのですが、同じ階級の中では、自分が強くなろうという気持ちだけで十分。同じサプリメント渡し合ったりして「一緒に強くなろう」とか「一緒に切磋琢磨しよう」という気持ちは、勝負の世界では要らないと思っています。少なくとも同じ階級では要らない。違う階級であれば刺激を貰うことはあっていいと思いますが、同じ階級で同じ目標を持った選手から「刺激を貰う」ことは本来はありえない。そういう選手が今は多いなと思います。そこで突き抜ける、「俺はお前らとは違う」というくらいの強い意志を持った選手が出てくれば面白いし、最終的に代表を掴み取るのはそういう選手だと思っています。

――怪我が多くなかなかまとまった稽古期間が取れなかった斉藤選手、いまの稽古、柔道の状態は。

たとえば、腰の調子が悪い、それは体重が重いから、と、そういった理由が大学に来てからも多かった。大学に入ってすぐ、体重を落として負担を減らすということで、2週間くらい病院に入って、食事等の調整で体重を落とす療法もやりました。ただ、「重さ」というのも重量級では武器になるわけですし、単に絞ればいいというものでもない。ではこの腰の痛みや負担を軽くするには、自分の体を強くするしかないわけですよね。そこで、ウエイトをしたり、階段、坂道、そういった重量級特有のトレーニングを積んできました。いまは腰の痛みは訴えていませんし、膝も、時折痛みがあることもあるが、練習を休むということはありません。パリでは自分より大きい選手と稽古が出来ているという報告もありましたので、しっかり練習も出来ていると思います。いま盛んに言われている「動ける重量級」というのも大切ですが、「重量級らしい重量級」、こちらも大事。この2つの重量級をハイブリッドさせる必要があると思います。いまは100kg級出身で、組み手が厳しくて、担げて、というタイプの選手が目立ってきていますけど、ではそういう選手が日本で育つかといえばなかなか難しい。重量級らしい選手を、重量級らしく育てることも大事だと思います。色々な選手に対応できる重量級、世界で戦える重量級。斉藤立にも、また非常に器用な中野寛太選手にも、こういう選手になって欲しいと期待しています。パリに残したのもその思いがあってのことです。もっとこういう機会を増やして、重量級らしい重量級を作りたい。

――例えば、かつて永瀬貴規選手がパリで武者修行した経験則を生かしての計画?

もともとの目的は「2連戦」でした。最終的に武者修行という位置づけになりましたが、飯田と田中は連戦、斉藤はバクーというそれぞれの設定があって、徐々に肉付けしてこうなったというです。かつて羽賀(龍之介)がモンゴルで単身合宿、高上(智史)も海外を回って単身合宿をやりました。そういった時間は今後も取っていきたい。コロナ禍の中、長い時間海外選手と稽古しようとするとこういう方法しかないとも思います。

――あらためて田中龍馬選手のどんなところに将来性を感じますか。また、阿部一二三、丸山城志郎と2人世界のトップがいる66kg級の選手をピックアップして残した意図は?

田中の魅力は、まだまだ伸びしろが大きいこと。凄く攻撃力がある。速さも強さも、勝負強さもある、その魅力がパリでも出た。そしてまだ海外の選手は田中の柔道を把握していない。試合を重ねるごとに勝負の厳しさが立ちはだかると思うが、それを乗り越えていける選手。今後研究されたときの対処法も、どんどん切り開けると思っています。66kg級に関してはご指摘の通り非常にレベルが高い階級。田中自身もこれは重々承知している。阿部は年齢も近く、どんどん試合をするであろうとも自覚している。その中でいかに闘争心を出すか、いかに「この人」を倒すか、そういう火をつけて欲しいという意志を持ってピックアップをしました。丸山も阿部も今の時点では「なんだこいつは?」くらいにと思っていると思います。でも必ず彼らを脅かす日が来ると思う。そうやって66kg級をレベルアップさせていきたい。頭ひとつ抜けている選手が独り相撲しなければいけなくなると、その階級のレベルは確実に落ちる。ですので、(現在レベルの高いトップ選手がいる)66kg級と100kg級を強化しようということです。

(了)

→グランドスラム・バクー派遣選手

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