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【レポート】濵田尚里オール「一本」、史上に残る圧勝で金メダル獲得/東京オリンピック柔道競技女子78kg級レポート

(2021年9月2日)

※ eJudoメルマガ版8月7日掲載記事より転載・編集しています。
濵田尚里オール「一本」、史上に残る圧勝で金メダル獲得
東京オリンピック柔道競技女子78kg級レポート
■ 準決勝まで
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2回戦、マドレーヌ・マロンガがベルナデット・グラフから内股「一本」

マドレーヌ・マロンガ(フランス)と濵田尚里(自衛隊体育学校)の本命2人が、全試合一本勝ちで決勝まで勝ち上がった。

2019年世界選手権の王者マロンガは2回戦でベルナデット・グラフ(オーストリア)とマッチアップ。16秒にまず右内股で伏せさせ、28秒には後帯を引っ掴んでの右小内刈で「技有」、さらに1分6秒これも後帯を掴んでの右内股「一本」とあっという間に勝負を決めた。グラフは乗るか反るかの一発屋。腰の差し合いに持ち込まれれば何が起こるかわからない選手だが、マロンガはこの怖い相手に敢えて背中を抱かせて正面から投げ合いを挑み、その上で2度投げ切った。格が違うと唸らざるを得ない一番だった。

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準々決勝、カリエマ・アントマルチの裏投を食って「技有」失陥。これで試合はタイスコアとなる。

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なんとか勝ち越しも、気力・体力相当なリソースを消費した一番だった。

しかしこの強さと裏腹の粗さが、準々決勝を揉めさせてしまう。ケンカ四つのカリエマ・アントマルチ(キューバ)にまたも背中を抱かせての力勝負一択。2分34秒には相手の裏投を半ば食いながらも右小内刈で切り返して「一本」奪取、映像チェックの結果「技有」となったがポイントでリードを得る。ただしこの際マロンガも体勢を大きく崩されており、アフターながら体側から畳に接地、最終的に上から被ったのはむしろアントマルチの方だった。背中を着いての返し技が無効となる現在のルールではマロンガのポイントで間違いないのだが、このあたりから少々空気がおかしくなる。続く展開では奮起したアントマルチの突進を捌きかねて抱き勝負で後手を踏み、3分5秒裏投で叩き落とされて「技有」を失ってしまう。以後も試合は腰の差し合いによるノーガードの撃ち合い、3分32秒にはアントマルチの谷落にマロンガが引きずり落とされ、場外で大きくバランスを崩す場面も現れて勝負の行方はもはや予断を許さない。しかしマロンガは組み手を整える方向ではなく、あくまで投げ合いで勝負。残り14秒猛進したアントマルチの左大内刈を透かすと一歩下がり、場内に戻りながら背中を抱えて思い切り浴びせ倒す。一度場外に出たためノーポイントだったが、「一本」級のこの一撃から流れは少しづつマロンガに戻る。GS延長戦1分を過ぎると消耗したアントマルチが両袖を抑え始めるが、マロンガはこの申し出に応じず、あくまで背中を抱えてのパワーファイトを強い続ける。そしてGS延長戦1分30秒、またも「抱き勝負」からアントマルチに裏投を打たせ、右小内刈に切り返してついに決着の「一本」奪取。主審の声を聞くと、両選手ともに大の字に天井を見上げてしばし動けず。厳しい試合を勝ち切って、マロンガこれでベスト4入り決定。

続く準決勝は前戦でフッシェ・ステインハウス(オランダ)を「指導3」で破っているユン・ヒュンジ(韓国)とマッチアップ。この試合は全く危なげなく、「場外」「足取り」「場外」と守勢のユンから次々に反則ポイントをもぎ取りって2分23秒「指導3」で勝利。ぶじ決勝へと駒を進めることとなった。

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2回戦、濵田尚里がベアタ・パクトに食いつき「腕緘返し」を狙う。

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変則の横四方固で抑え切り「一本」

危うい勝負を演じたマロンガに対し、濵田の勝ち上がりは盤石。2回戦はベアタ・パクト(ポーランド)に寝勝負を狙い続けてプレッシャーを掛け、2分2秒には相手の左背負投を振り返して隅落「技有」。そのまま入り込んだ崩袈裟固は安定する前に逃げられてしまうが、腕を取って転がし、いわゆる「シバロック」の形でガッチリ抑え込む(横四方固)。2分32秒合技「一本」、完璧な内容で初戦を突破。

準々決勝はアレクサンドラ・バビンツェワ(ロシア)を相手にこれも完勝。支釣込足で大きく振って相手に剛体を強いると、巴投で滑り込んで2分38秒鮮やか「技有」奪取。このまま立たせず素早く「腰絞め」(送襟絞)に捉え、あっという間に勝負を決めた。新たな積み上げである巴投というエントリーと具体的なポイント奪取、寝勝負スタートから「一本」宣告まで僅か8秒というスピード、そして絞技による「参った」という曖昧さの一切ない決着。完成度高すぎる一番だった。

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準決勝、世界王者アナ=マリア・ヴァグナーをあっという間の腕挫十字固「一本」に仕留める。

続く準決勝は大一番。6月のブダペスト世界選手権でマロンガを破って優勝を果たした新王者アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)を畳に迎えることとなる。ヴァグナーは投技、濵田は寝技、いずれもチャンス1回で試合を決める力の持ち主。緊迫の構図であるが、勝利したのは濵田。ヴァグナーやや優位で迎えた50秒過ぎ、濵田が釣り手を絞らせたまま片袖の右背負投、立ったまま相手の腋下に抜ける。寝技へのエントリーを目的としたこの技術でヴァグナーを崩すと、もつれ合ったまま片襟の右大内刈で叩き落とし、素早く腕挫十字固に入り込む。背中を反らせて極めに掛かるとヴァグナーたまらず「参った」。試合時間なんと1分23秒、濵田この注目対決も完勝で決勝へと駒を進める。

■ 決勝
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決勝、慌てて逃れるマロンガに食いつき、もはや立たせず。

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崩上四方固「一本」で決着。

世界王者同士の対決、同じ日本武道館の畳で行われた2019年東京世界選手権決勝の再現カードとなった一番は濵田とマロンガともに右組みの相四つ。試合が始まるなり、マロンガ組み付きながらケンケンの右大内刈に打って出る。濵田相手には投げる以外には出口なしと肚を括っての挙と見受けられたが、あきらかに組み手不十分。濵田が捌くと前受け身の形で潰れ、早くもステージはマロンガがもっとも恐れていた寝勝負へと移る。背に食いつかれた慌てたマロンガすぐさま立ち上がろうとするが中途半端に腰を上げるその形こそまさに濵田の術中。畳と相手の体の間に滑り込んだ濵田、両手で帯を掴んで引込返で捲り、上体を半身で制し、腕を取り、裾で括り、と淡々と「仕事」を進める。マロンガ足を絡んで必死で耐えるが、カタストロフの進行を止めるだけの技術はなし。外堀を埋め切った濵田はマロンガ最後の命綱であるこの「絡み」を蹴って外し、崩上四方固で抑え込む。マロンガまったく動けずなんとファーストコンタクトで勝負あり、1分9秒「一本」を告げるブザーが鳴り響いて試合終了。濵田、圧倒的な強さで金メダル獲得を決めた。

濵田は全試合一本勝ち。全て本戦で勝負をつけ、世界チャンピオン2人をいずれも2分掛からず仕留めるという、史上稀に見る圧勝だった。

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3位決定戦、ヴァグナーがアントマルチから内股「技有」

3位決定戦第1試合はヴァグナーがアントマルチに内股「技有」の優勢で勝利。第2試合は本戦準々決勝でヴァグナーにGS延長戦の隅落「技有」で屈したマイラ・アギアール(ブラジル)がユンを「指導3」の反則で倒して銅メダルを確保した。

結果メダルを獲得したのは濵田、マロンガ、ヴァグナー、アギアールと全員が世界選手権の優勝経験者。チャンピオン4人が他と一段違う強さを見せ、さらにその中で濵田が上を行ったという格好。最終勝者・濵田の強さがさらに際立った表彰台の陣容であった。

成績上位者と濵田のコメント、濵田全試合の戦評と全試合の結果は下記。

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78kg級メダリスト。左から2位のマドレーヌ・マロンガ、優勝の濵田尚里、3位のアナ=マリア・ヴァグナーとマイラ・アギアール。

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試合終了直後、塚田コーチと大喜び。

(エントリー24名)

【入賞者】
1.HAMADA, Shori (JPN)
2.MALONGA, Madeleine (FRA)
3.WAGNER, Anna-Maria (GER)
3.AGUIAR, Mayra (BRA)
5.ANTOMARCHI, Kaliema (CUB)
5.YOON, Hyunji (KOR)
7.STEENHUIS, Guusje (NED)
7.BABINTSEVA, Aleksandra (ROC)

【成績上位者】
優 勝:濵田尚里(日本)
準優勝:マドレーヌ・マロンガ(フランス)
第三位:アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)、マイラ・アギアール(ブラジル)

濵田尚里選手のコメント
「優勝できてよかったです。実感はまだわかないですが、嬉しいです。試合中は他の国際大会の気持ちと一緒でしたが、金メダルをもらったときはやはり特別な気持ちになりました。(―4試合戦って) 練習したことをすべて出せました。得意の寝技で勝てて良かった。研究されてもその上をいけるように練習して来た、それが出せたかなと思います。(―地元・鹿児島に向けてメッセージをお願いします) いつも応援ありがとうございます。金メダル取りました!」

■ 日本代表選手全試合戦評
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ベアタ・パクトからいわゆる「シバロック」で一本勝ち。

【2回戦】

濵田尚里○合技[隅落・横四方固](2:32)△ベアタ・パクト(ポーランド)

濵田、パクトともに右組みの相四つ。パクトは格上の濵田に対して左構えで試合を進める。濵田、組み合うなり釣り手を突いて突進、場外際でパクトが苦し紛れに右内股を仕掛けると谷落を狙う。奥足に完全に足が掛かるも、これは上体の拘束が甘く決めきれず。続く展開では相手の右内股を潰して寝技に持ち込み、腕を取って「腕緘返し」を狙うが、ここもパクトが凌ぎきる。濵田、どうやら良く動けている様子。パクトの右一本背負投の掛け終わりに濵田が寝技を狙う展開を挟んでの2分2秒、パクトの低い左背負投を濵田が崩れず受け止め、振り返して隅落「技有」。そのまま膝を入れて相手の足をかわし、崩袈裟固で抑え込む。これはすぐに逃してしまうが、そのまま腕を取って転がし跨ぎ、いわゆる「シバロック」の形を完成。がっちりと抑え込み、2分32秒合技「一本」に至る。濵田、盤石の内容で初戦を突破。

【準々決勝】

濵田尚里○送襟絞(2:38)△アレクサンドラ・バビンツェワ(ロシア)

濵田が右、バビンツェワが左組みのケンカ四つ。釣り手のみを持ち合っての引き手争いが続き、56秒、両者に片手の「指導」。続く展開では交互に引き手を得て技を打ち合うも、いずれも間合いが遠く浅い技に終わる。再び引き手争いを経ての2分1秒、両者に消極的姿勢の「指導2」。直後の2分30秒、濵田引き手で襟を得て両襟を作るなり、支釣込足で大きく右に振り、相手が剛体になった瞬間に巴投に飛び込む。蹴り上げるとバビンツェワは綺麗な弧を描いて体側から落ち「技有」。濵田このチャンスを逃さず「腰絞め」にとらえて2分38秒、送襟絞「一本」でフィニッシュ。この試合も極めて集中力高し。コロナ期間に上積みした巴投も見せて、完勝でベスト4入り。

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高速の腕挫十字固「一本」、今年の世界選手権の覇者ヴァグナーを相手にせず。

【準決勝】

濵田尚里○腕挫十字固(1:23)△アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)

濵田、ヴァグナーともに右組みの相四つ。試合が始まるなりヴァグナー引き手で襟から持ち、奥を叩きながら右大内刈に飛び込む。深く足が掛かり追い込まれる非常に危ない形だったが、濵田は体の強さを利して辛うじて回避。すかさず引き込んで寝技を展開する。濵田、場外際から場内に向けて相手を引きずり込むも「待て」。成長著しいヴァグナー、どうやら立技の破壊力が閾値を超えた様子。互いに相手のフィールドでは一発で討ち取られかねない緊張感が漂う。続く展開でもヴァグナーは釣り手で背中を叩いて潰すが、寝技を警戒して深追いはせず。「待て」が掛かった44秒、濵田に偽装攻撃の「指導」。ここまではヴァグナーがやや有利。しかし直後の攻防、濵田は相手に釣り手を一方的に絞られた状態から片袖の右背負投を放つ。立ったまま相手の腋下に抜ける、寝技への移行を目的とした技術。ヴァグナーがバランスを崩しながら耐えると縺れ合ったまま濵田片襟の右大内刈で叩き落とし、すかさず腕挫十字固を完成させる。背中を反らせて一気に相手の腕を伸ばすとヴァグナー堪らず「参った」。試合時間は1分23秒。濵田現役世界王者を一蹴して決勝進出。

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逃げるマロンガを巧みに制し、崩上四方固へと繋ぐ。

【決勝】

濵田尚里○崩上四方固(1:09)△マドレーヌ・マロンガ(フランス)

幾度となく好勝負を繰り広げて来たライバル対決は、濵田とマロンガともに右組みの相四つ。立技の「一本」で試合を終わらせる以外に勝機のないマロンガは引き手を得るなり奥を叩きながらケンケンの右大内刈で追い込む。しかし不十分な形からのこの仕掛けは明らかな悪手。濵田余裕を持ってこれを潰し、得意の寝技を展開する。マロンガ懸命に耐えるも、濵田の前では無意味。引込返で捲り、腕を取って裾で括って淡々と手順を進め、足を抜いて崩上四方固で抑え込む。マロンガは万事休す。1分9秒に20秒を告げるブザーが鳴り、濵田の五輪制覇が決まった。

■ 全試合結果
【1回戦】
ベルナデット・グラフ(オーストリア)○隅返(1:36)△マー・ジェンジャオ(中国)
カルラ・プロダン(クロアチア)○優勢[技有・大内刈]△ヨワナ・ペコヴィッチ(モンテネグロ)
アナスタシア・タルチン(ウクライナ)○小外掛(3:42)△バネッサ・チャラ(エクアドル)
ユン・ヒュンジ(韓国)○合技[内股・後袈裟固](1:31)△ネフェリ・パパダキス(アメリカ)
ベアタ・パクト(ポーランド)○崩袈裟固(3:50)△サラ=ミリアム・マズズ(ガボン)
アレクサンドラ・バビンツェワ(ロシア)○GS合技[浮落・足車](GS0:46)△マリー・ブランセル(コンゴ民主共和国)
パトリシア・サンパイオ(ポルトガル)○外巻込(2:51)△カレン・レオン(ベネズエラ)
インバル・ラニル(イスラエル)○小外掛(0:18)△オトゴン・ムンフツェツェグ(モンゴル)

【2回戦】
マドレーヌ・マロンガ(フランス)○内股(1:06)△ベルナデット・グラフ(オーストリア)
カリエマ・アントマルチ(キューバ)○GS大外巻込(GS0:25)△カルラ・プロダン(クロアチア)
フッシェ・ステインハウス(オランダ)○優勢[技有・大内刈]△アナスタシア・タルチン(ウクライナ)
ユン・ヒュンジ(韓国)○巴投(2:36)△ナタリー・パウエル(イギリス)
濵田尚里○合技[隅落・横四方固](2:32)△ベアタ・パクト(ポーランド)
アレクサンドラ・バビンツェワ(ロシア)○GS技有・内股返(GS1:49)△ロリアナ・クカ(コソボ)
アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)○合技[谷落・谷落](2:15)△パトリシア・サンパイオ(ポルトガル)
マイラ・アギアール(ブラジル)○内股(0:40)△インバル・ラニル(イスラエル)

【準々決勝】
マドレーヌ・マロンガ(フランス)○GS小内刈(GS1:30)△カリエマ・アントマルチ(キューバ)
ユン・ヒュンジ(韓国)○GS反則[指導3](GS1:13)△フッシェ・ステインハウス(オランダ)
濵田尚里○送襟絞(2:38)△アレクサンドラ・バビンツェワ(ロシア)
アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)○GS技有・隅落(GS3:47)△マイラ・アギアール(ブラジル)

【敗者復活戦】
カリエマ・アントマルチ(キューバ)○GS払巻込(GS4:01)△フッシェ・ステインハウス(オランダ)
マイラ・アギアール(ブラジル)○反則[指導3](2:39)△アレクサンドラ・バビンツェワ(ロシア)

【準決勝】
マドレーヌ・マロンガ(フランス)○反則[指導3](2:23)△ユン・ヒュンジ(韓国)
濵田尚里○腕挫十字固(1:23)△アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)

【3位決定戦】
アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)○優勢[技有・内股]△カリエマ・アントマルチ(キューバ)
マイラ・アギアール(ブラジル)○崩上四方固(1:18)△ユン・ヒュンジ(韓国)

【決勝】
濵田尚里○崩上四方固(1:09)△マドレーヌ・マロンガ(フランス)

【日本代表選手勝ち上がり】

濵田尚里(自衛隊体育学校)
成績:優勝


【2回戦】
濵田尚里○合技[隅落・横四方固](2:32)△ベアタ・パクト(ポーランド)

【準々決勝】
濵田尚里○送襟絞(2:38)△アレクサンドラ・バビンツェワ(ロシア)

【準決勝】
濵田尚里○腕挫十字固(1:23)△アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)

【決勝】
濵田尚里○崩上四方固(1:09)△マドレーヌ・マロンガ(フランス)

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