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【レポート】最終勝者は永瀬貴規、巧さと粘りで金メダル獲得/東京オリンピック柔道競技男子81kg級

(2021年8月11日)

※ eJudoメルマガ版8月11日掲載記事より転載・編集しています。
最終勝者は永瀬貴規、巧さと粘りで金メダル獲得
東京オリンピック柔道競技男子81kg級レポート
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リオ五輪に続き、この激戦階級で日本代表を務めるのは永瀬貴規

「優勝候補20人」と評された、競技史上稀に見る大混戦期の区切りがやって来た。ありとあらゆるタイプが揃って生態系極めて豊か、ワールドツアーの爛熟をもっともよく表すこの階級の最終勝者は誰か。リオー東京期の81kg級レース、いよいよ大締めである。

激戦を経て準決勝に生き残ったのはマティアス・カッス(ベルギー)、永瀬貴規(旭化成)、シャミル・ボルチャシヴィリ(オーストリア)、サイード・モラエイ(モンゴル)の4名。ボルチャシヴィリ以外は全員世界王者経験者だ。大会の様相を掴んでもらうべく、それぞれの勝ち上がりを簡単に追ってみたい。

■ 準決勝まで
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これが五輪、これが81。オープニングゲームの開始早々あのカッスが投げられるという衝撃的な幕開け。

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カッスはあっという間にポイント奪回、ペースを取り戻す。

6月のブダペスト世界選手権を素晴らしい柔道で制したカッスは、2試合連続の逆転勝ちという出だし。2回戦はエイドリアン・ガンディア(プエルトリコ)に開始早々左体落「技有」失陥。硬くなったか、作用足で膝を止め、潰れながら足元を引っ掛ける泥臭い技法についていけなかった。しかしビハインドは僅か14秒、続く展開で特攻に出たガンディアの谷落を素早く切り返してすぐさま隅落「技有」奪回。その後はじっくり「指導2」まで得て展開を取り返すとGS延長戦29秒腕挫十字固「一本」でフィニッシュ。3回戦はロビン・パチェック(スウェーデン)の小内刈を食ってしまい、1分11秒「技有」失陥。これも僅か17秒後、怒気を発した小外掛「技有」で追いつき、最後はGS延長戦3分11秒、巴投「一本」で収拾。ゲームプラン命のカッスらしくない不安定な試合ぶりであるが、これが五輪、そしてこれこそ81kg級。むしろこれだけ荒れた空間を鎮めて勝ち上がるカッスの引き出しの多さ、必要なときにすぐさまスクランブルを掛けられる準備力の高さが際立ったと言える。並の選手であればこの大波を乗り切って上位対戦に勝ち進むなど、到底出来なかっただろう。

そしてアラン・フベトソフ(ロシア)との準々決勝は一転安定した戦い。本戦を「指導1」同士のタイスコアで終えると、ここから3分9秒掛けて2つの「指導」を押し付けて快勝。地味ではあるが、これがカッス本来のモード。どうやらペースを取り戻して、上位対戦に臨む。

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ドミニク・レッセルとの準々決勝を戦う永瀬

永瀬の相手は強敵ばかり。そしてこの日永瀬が選んだ作戦は「並走して削り続け、抵抗できなくなったところで仕留める」という持久戦。初戦のヴェダット・アルバイラク(トルコ)には常に自分の間合いで戦い、ひたすら組み勝つ作戦を徹底。袖を絞り、腕を張り、肩をずらし、体幹で弾き返して、あらゆる手段で相手の体勢のレベルを下げ続ける。パワー自慢のアルバイラクは時折背中を深く抱えて形としては良い組み手を作るのだが、実際にはほぼまったく力を効かせることが出来ない。本戦4分はともに「指導2」で終了。GS延長戦になるとアルバイラクが明らかに疲労。それでも永瀬は一発勝負に「出てあげず」、組み勝ち、圧を掛け、しつこく寝技で攻め、プレッシャーを擦り込み続ける。GS3分16秒に永瀬が組み勝つと体力を削られ切ったアルバイラクがついに根負け。膝をついて潰れ、偽装攻撃の「指導3」で永瀬の勝利決定。

永瀬は、削り続けて勝機を掴むこの方針を以後も徹底。3月のグランドスラム・タシケントで苦杯を喫したクリスティアン・パルラーティ(イタリア)との3回戦は早い段階で双方に「指導2」が与えられたが、永瀬に慌てる様子はなし。パルラーティの「やぐら投げ」、そして得意の低空大内刈をかわしては着実に攻め返し、差を付けさせず、半歩先を走りながらじっくり機を窺う。そして本戦終了間際、相手の集中が切れるとみるや掴みかかりながら必殺の右足車一撃。パルラーティ堪らず一回転、鮮やか「一本」。

準々決勝の相手は「後の先」の鬼ドミニク・レッセル(ドイツ)。手数で先行しては密着して圧を掛け、焦った相手の技を呼び込んでは返し技で勝ち切る面倒な相手だ。永瀬は相手の誘いに乗らず、この試合もひたすら組み手の優位を作り続ける。GS36秒に「指導2」まで失ってスコア的にはビハインドとなるが、このあたりをきっかけにレッセルの体力がガクンと落ちる。永瀬は密着1回のテストを経てもはや返す力は残っていないと判断、反攻に出る。GS2分40秒にはレッセルの密着に食らいつき返し、釣り手の四指で後襟を掴んだ谷落一撃、ついに「技有」を得てぶじ準決勝進出決定。

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シャミル・ボルチャシヴィリがサギ・ムキから裏投「技有」

プールCを勝ち抜いたボルチャシヴィリは知る人ぞ知る大物食い属性選手、世界王者ずらり並んだこの準決勝に送り込まれた「混戦世界」からの刺客である。この日は最高の舞台で、己の特徴を遺憾なく発揮した。まず2回戦、アンリ・エグティゼ(ポルトガル)をGS延長戦43秒の小外刈「技有」に仕留めると、3回戦ではサギ・ムキ(イスラエル)を削りに削り、一時は縦四方固に抑え込み(7秒)、バイタリティを完全に奪う。そしてともに「指導2」で迎えたGS延長戦4分43秒、「抱き勝負」からの投げ合いに競り勝ってついに裏投「技有」獲得。みごと世界王者の首級を挙げた。こうなると勢いは止まらず、準々決勝はシャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)をGS延長戦2分15秒の左肩車「技有」で食って堂々ベスト4入り決定。エグティゼ、ムキ、ボルタボエフに、しかも全員投げて勝つ。大物食い属性という己のアイデンティティの、まさに集大成というべき勝ち上がりである。

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サイード・モラエイがムラド・ファティエフから払腰「技有」

2018年の世界王者モラエイは動き良し、集中力高く、気持ちの入った試合ぶり。まずディダル・ハムザ(カザフスタン)を3分56秒谷落「一本」、続いてムラド・ファティエフ(アゼルバイジャン)をGS延長戦3分55秒の左払腰「技有」に仕留めると、この日最大の山場、タト・グリガラシヴィリ(ジョージア)との準々決勝を迎える。グリガラシヴィリはここまで全試合一本勝ち、前戦はイ・スンホ(韓国)を「相撲」状態からの大内刈「一本」で一蹴しており、力が有り余っている印象。

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グリガラシヴィリが豪快な釣込腰で「技有」

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再びの襲来をモラエイ敢えて受け入れ、右脚を入れていったん制動。返し技の賭けに出る。

この試合は開始31秒にグリガラシヴィリが豪快な左釣込腰「技有」で先制。「一本」でもおかしくない、戦意喪失ものの強烈な一撃。今年ここまでの両者の出来を考えればこれで試合ほぼ決まりかと思われたが、この日のモラエイは一味違う。1分44秒には右方向への肩車、しぶとく投げ切ってまず「技有」奪回。焦ったグリガラシヴィリがクロスグリップ組み手からまたもや強引な左釣込腰を放つが、これは既にモラエイの術中。外側に体を逃がして背筋を伸ばし、釣り手で腹を押して距離を保ったままこの技を受け入れると、右脚を相手の右脚の前に引っ掛けることでいったん制動。次いで自ら前方に飛び込んで相手の投げより一瞬早く縦回転を作り、相手を空転させることで背中を着かせて「技有」奪取。まさに玉砕戦法、そしてとったリスクにふさわしい戦果。V候補グリガラシヴィリを「技有」2発で突破、全試合一本勝ちでベスト4入り決定。

己のあまりの投げの威力、そして高すぎる攻撃意欲ゆえに投げて、そして投げられたグリガラシヴィリ。一方決定的な「技有」失陥にめげず泥臭くポイントを奪い返し、そして試合を落ち着かせるどころかむしろ荒れた磁場を利用し、オリンピックの大舞台、かつグリガラシヴィリという超強豪相手を相手に綱渡りの罠を張って賭けに勝ったモラエイ。僅か2分7秒の短い時間に2人のスターの魅力がこれでもかと詰め込まれた、見ごたえのある試合だった。

■ 準決勝~決勝
永瀬とカッスの準決勝は、またしても永瀬が組み手で絡み付き、相手に力を出させない展開。袖の絞り合いで膠着した3分16秒に両者に「指導」ひとつが与えられたのみで本戦4分が終了、試合はGS延長戦へ。そして延長に入ると永瀬のしつこい袖の絞りにカッスが辟易、永瀬が押し込む場面が増える。カッス激しく手を振って切り離そうとするが、永瀬はきつく握った引き手を決して離さない。しかしカッスもさるもの、引き手を絞った永瀬が奥襟を叩くタイミングに罠を張り、「掛け倒す」形の強烈な左小内刈で勝負に出る。あるいは勝負あったか、という一撃であったがしかし永瀬危うく難を逃れる。

そしてこの技ですべてを使い果たしたかカッスはいきなり大減速。永瀬機は熟したとばかりに勝負に出、GS延長戦2分46秒、タイミングを計って右背負投に飛び込む。体落様に外足を張った技法、カッス身を翻すも体側から落ちて「技有」。永瀬決勝進出決定、この時点でメダル獲得を決めた。

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モラエイがボルチャシヴィリから肩車「技有」

もう片側の準決勝はモラエイがボルチャシヴィリに圧勝。まず57秒、両袖を掴んだまま相手を場外際に追い込むと、吸い込むように体を捌いて左への「モラエイ」。腕を張り、体を反らし、背中で押し込む得意の変則肩車を決めて鮮やか「技有」。曲者ボルチャシヴィリは右横変形に位置をずらし、上から背中を叩く「際」の出来やすい形で追いかけるが、モラエイ右脇下から潜り込み、左腕を抱えて低い肩車。相手が伏せて耐えると、その体を乗り越えて最後の回旋を呉れ57秒とどめの「技有」。合技「一本」で試合決着、ここに永瀬―モラエイという世界王者同士の豪華決勝カードが実現することとなった。

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密着を期すモラエイ

決勝は永瀬が右、モラエイが左組みのケンカ四つ。この試合のポイントは「間合い」。距離をとって戦いたい永瀬と、密着して潜り技を仕掛けたいモラエイというのが大枠の構図。そしてモラエイは永瀬の防壁を縫って正対の密着を度々作り出すが、ここで永瀬は意外にも組み合いに応じる。おそらくモラエイの狙いは払釣込足。嫌った永瀬の下がり際にこの得意技を叩き込む罠を張っているのだが、先刻承知の永瀬は敢えていったん密着を受け入れて反応を遅らせ、この技を封じ続ける。2分22秒、場外に押し込まれた永瀬に場外の「指導」。以降も間合いの奪い合いが続き、双方決定的な場面がないまま本戦の4分間を終える。

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永瀬の体落が決まって「技有」

延長戦になっても戦線は「間合い」。モラエイが近間、永瀬が遠間を狙っての距離の奪い合いが続く。しかしGS延長戦1分過ぎから焦れたモラエイが前襟を持つようになり、永瀬の時間帯が増え始める。モラエイ右の払釣込足を打ち込むが、釣り手の距離が遠く技を効かせられない。いよいよ永瀬の勝機訪れつつある印象。そしてGS延長戦1分43秒、永瀬引き手で袖、釣り手で襟を持つ万全の組み手から右体落に飛び込む。まず大外刈を打ってターゲットの右足を止め、次いで低空に飛び込んだ勝負技。組み負けていたモラエイ堪らず崩れ落ちて「技有」。

熱戦ここに決着。両者「礼」を済ますと、試合場の真ん中に歩み寄り、互いに手を挙げて健闘を称え合う。永瀬貴規、見事金メダル獲得。膝の大怪我に苦しめられ、しかしあきらめず五輪を目指して戦い続けた永瀬の5年間を凝集させたような、粘りの5試合だった。

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ボルチャシヴィリが銅メダルを獲得

3位決定戦第1試合はボルチャシヴィリがレッセルに勝利。背中を上から抱え、圧を掛けて相手を潰し掛けるといったん己も膝をつき、立ち姿勢に戻りながら浮技一撃。この奇襲で開始13秒「技有」確保。1分過ぎにはいわゆる「国士舘返し」から崩袈裟固に抑え込んで合技「一本」。この日倒した敵のグレードにふさわしい戦果、堂々の銅メダル獲得を果たした。勝利が決まると大きく吼え、顔を覆ったまま転がり、次いで畳を幾度か叩くと突っ伏したまま号泣。動けないボルチャシヴィリの背中を敗れたレッセルが「よくやったよ」とばかりにポンと叩いて、熱戦の幕が引かれた。

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明らかに企み、罠を張ったカッスの抱分「技有」

ブダペスト世界選手権決勝の再現、豪華な顔合わせの第2試合は、カッスがグリガラシヴィリに勝利。グリガラシヴィリが左組み、両組みのカッスが右に組んで陣地を取り合う慎重なスタートであったが、1分過ぎに様相一変。グリガラシヴィリが左一本背負投を放つとカッス待っていましたとばかりに時計回りのジャンプで乗り越え、相手が膝を伸ばした決めのタイミングに合わせて谷落様の抱分一発。相手がスピードを上げれば掛け算で己のスピードも上げる、単にかわすのみならず必ず攻撃に繋げる、相手が強ければ強いほどこれを利用して己の技の威力も上がる。カッスの真骨頂ともいえるこの一撃に、ビデオ判定を経て「一本」が宣告されて試合終了。最後のメダルはカッスの手にわたることとなった。

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健闘を称え合う永瀬とモラエイ

前日までの、五輪独特のどこか悲壮感漂うトーナメント進行と打って変わって、この81kg級は華々しい撃ち合い。才能ある強者たちが己の長所を存分に発揮する「足し算」が連続する祝祭感が強い1日だったのだが、その中にあって己を見失わず、歯ぎしりするような「我慢」の末に金メダルを獲得した永瀬は見事。史上稀なる激戦期の最終勝者にふさわしい戦いぶりだった。

上位入賞者と日本代表選手全試合の戦評は下記。

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81kg級メダリスト。左から2位のサイード・モラエイ、優勝の永瀬貴規、3位のシャミル・ボルチャシヴィリとマティアス・カッス。

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念願の金メダルを手にした永瀬

(エントリー35名)

【入賞者】
1.NAGASE, Takanori (JPN)
2.MOLLAEI, Saeid (MGL)
3.BORCHASHVILI, Shamil (AUT)
3.CASSE, Matthias (BEL)
5.RESSEL, Dominic (GER)
5.GRIGALASHVILI, Tato (GEO)
7.KHUBETSOV, Alan (ROC)
7.BOLTABOEV, Sharofiddin (UZB)

【成績上位者】
優 勝:永瀬貴規(日本)
準優勝:サイード・モラエイ(モンゴル)
第三位:シャミル・ボルチャシヴィリ(オーストリア)、マティアス・カッス(ベルギー)

font color="#0000cd">永瀬貴規選手のコメント(フラッシュインタビュー)
「(―五輪までの道のりを振り返って)リオで悔しい思いをした。辛いことのほうが多かった。それに耐えて来て、やっていてよかったと思いました。(―今日の勝因は)僕の長所は気持ちで折れずに最後まで攻め抜く姿勢。それがしっかり出来たことが良かったと思います。(―応援してくれた人たちに一言)一人では獲ることが出来ないメダルでした。たくさんの人に支えられて、金メダルを取れて、本当に感謝しています。ありがとうございました。」

【準々決勝】
マティアス・カッス(ベルギー)○GS反則[指導3](GS3:09)△アラン・フベトソフ(ロシア)
永瀬貴規○GS技有・谷落(GS2:46)△ドミニク・レッセル(ドイツ)
シャミル・ボルチャシヴィリ(オーストリア)○GS技有・肩車(GS2:15)△シャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)
サイード・モラエイ(モンゴル)○合技[肩車・隅落](2:07)△タト・グリガラシヴィリ(ジョージア)

【敗者復活戦】
ドミニク・レッセル(ドイツ)○出足払(2:47)△アラン・フベトソフ(ロシア)
タト・グリガラシヴィリ(ジョージア)○優勢[技有・大内刈]△シャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)

【準決勝】
永瀬貴規○GS技有・背負投(GS2:48)△マティアス・カッス(ベルギー)
サイード・モラエイ(モンゴル)○合技[肩車・肩車](2:55)△シャミル・ボルチャシヴィリ(オーストリア)

【3位決定戦】
シャミル・ボルチャシヴィリ(オーストリア)○合技[浮技・崩袈裟固](1:21)△ドミニク・レッセル(ドイツ)
マティアス・カッス(ベルギー)○抱分(1:26)△タト・グリガラシヴィリ(ジョージア)

【決勝】
永瀬貴規○GS技有・体落(GS1:43)△サイード・モラエイ(モンゴル)

■ 日本代表選手全試合戦評
【2回戦】

永瀬貴規○GS反則[指導3](GS3:16)△ヴェダット・アルバイラク(トルコ)
永瀬、アルバイラクともに右組みの相四つ。まずは組み手争い、永瀬が得意な袖の絞り合いから試合がスタートする。アルバイラクは永瀬の厳しい組み手をなかなか攻略出来ず。時折背中やクロスグリップなど釣り手で深い位置を持つものの、強靭な体に弾かれてこれを効かせられず。持ちどころの良さに比してほとんど力を伝えられない。有効打出ぬまま、2分2秒には両者に消極的姿勢の「指導」。以降も様相は変わらず、3分45秒には両者に消極的姿勢による「指導2」が追加される。永瀬が右小外掛で伏せさせたところで本戦4分が終了となる。

GS延長戦に入っても大枠の構図は変わらず。しかしアルバイラクのスタミナが切れ始め、永瀬優位の時間が長くなる。それでも永瀬はあくまで慎重。まだ力が残っているとみたか安易に勝負に出ず、組み勝ち、圧を掛け、寝技では得意の「横三角」でしつこく攻めて、ひたすら体力を削り続ける。GS3分16分、永瀬が奥襟を持ってあおると疲労困憊のアルバイラクたまらず潰れてしまい、偽装攻撃の「指導3」。永瀬、堅実な戦いで強敵を突破。

【3回戦】

永瀬貴規○足車(3:58)△クリスティアン・パルラーティ(イタリア)

永瀬、パルラーティともに右組みの相四つ。お互い遠間が好きな選手のはずだがなかなか間合いが噛み合わず、様子を窺いながらの組み手争いが続く。1分12秒、両者に消極的試合姿勢による「指導」。しかし以後もステージはやはり組み手争い。前回対戦で破れている永瀬は警戒レベルを最大まで上げている印象、丁寧に相手の釣り手を抑えにかかる。2分18秒、再び両者に消極的姿勢による「指導2」。ともに後がなくなる。ここで先に勝負に出たのはパルラーティ。直後の2分25秒、組み際に得意の低い右大内刈を仕掛ける。しかし、想定済みの永瀬これは余裕を持って躱し、大過なし。続く展開でもパルラーティが攻勢。抱きついて間合いを詰め、左脚を揚げての「やぐら投げ」、次いで左小外掛で接近戦を挑む。もはや投げ合いを受けて立つしかない永瀬いったん右大内刈で応じ、伏せて逃れる。ここまで2シークエンス続けてパルラーティが山場を作った形。しかし永瀬的確に右小外刈で相手を伏せさせ、素早く状況をリセットする。永瀬が寝技で攻める攻防を経ての3分28秒、パルラーティ再び低い右大内刈も永瀬動ぜずかわす。本戦終了間際の3分58秒、永瀬引き手で袖を一方的に持つと、釣り手で相手の肩を抱きながら右足車。パルラーティの長い体が大きな円を描いて転がり「一本」。永瀬、2試合目も盤石の試合運びで制す。

【準々決勝】

永瀬貴規○GS技有・谷落(GS2:46)△ドミニク・レッセル(ドイツ)

永瀬が右、レッセルが左組みのケンカ四つ。間合いをとって戦いたい永瀬と、密着して際を作り、カウンターに繋げたいレッセルという構図。序盤はレッセルのペース。まず密着、次いで右一本背負投で攻勢を演出する得意の戦法で主導権を握り、2分18秒には永瀬に消極的試合姿勢の「指導」。直後、永瀬はレッセルの密着に抱き返して応じてしまい、被り返される危ない場面が生まれる。永瀬が「横三角」で攻め返す場面はあったものの、大枠レッセルが優位をとったまま試合はGS延長戦へ。

GS延長戦でもレッセルの密着は続き、GS36秒には永瀬に消極的姿勢の「指導2」。しかしこのあたりからスタミナが切れ始め、永瀬が組み勝ち、自分の距離で戦える場面が増える。GS1分12秒には永瀬が右体落に右大外刈と技を繋ぐ。レッセルが伏せて逃れたこの場面がこの試合の転換点。続く展開でレッセルの密着に永瀬が抱き返して応じると、レッセル何もできずに隅返で自ら展開を切る意外な挙。明らかに力が減じている。GS2分8秒には永瀬が左釣込腰を捲り返し、あわやポイントという場面も出現。そして十分場が煮えたGS2分40秒、永瀬がレッセルの密着に食らいつき返して谷落。後襟を逆手に持ち、肘を重しに引き落とす。映像確認の結果これが「技有」。試合時間はGS延長戦2分46秒。永瀬、タフな試合を制してベスト4入り

【準決勝】

永瀬貴規○GS技有・背負投(GS2:48)△マティアス・カッス(ベルギー)
永瀬が右、カッスは両組み。カッスやや左構えで組み手を開始、右手の位置を奥、袖と変えながら様子を窺う。30秒に右一本背負投を仕掛けるも、これは永瀬余裕を持って潰す。以降も大枠は組み手争いで試合が進む。双方時折技は出すものの、起点となる形が不十分で決定的な位置までは踏み込めない。袖の絞り合いで膠着した3分16秒、両者に消極的試合姿勢の「指導」。試合が動かぬまま、あっという間に本戦4分間が終わる。

延長戦に入っても激しい組み手の攻防が続く。永瀬の強烈な袖の絞りにカッスが押し込まれる状況が続き、嫌って伏せたGS延長戦45秒にはカッスに偽装攻撃の「指導2」追加。以降も永瀬はこの引き手の絞りを徹底、カッス激しく手を振って切り離そうとするが、永瀬きつく握って決して離さず。苦しいはずのカッスだがさすがは階級きっての試合巧者、永瀬が勝負を決めようと奥を叩いてくるタイミングに罠を張り、GS1分53秒、強烈な左小内刈。掛けて浴びせる「小内掛け」式の技法。永瀬危うく飛びかけるも深い懐で処理、腹這いで難を逃れる。この技にすべてを賭けていたか、カッス以降は明らかに減速。GS延長戦2分10秒には永瀬が右大外刈で大きく崩し、伏せさせる。GS延長戦2分46秒、カッスがやや雑に右奥を叩いてきたタイミングに永瀬右背負投に潜り込む。外足を出す体落様の技法。カッス身を翻して接地も体側が畳に着いており、映像確認の結果これは「技有」。永瀬、難敵カッスを退けて決勝進出。

【決勝】

永瀬貴規○GS技有・体落(GS1:43)△サイード・モラエイ(モンゴル)

永瀬が右、モラエイが左組みのケンカ四つ。距離をとって戦いたい永瀬に、抱き込んで得意の潜り技を仕掛けたいモラエイという構図。28秒にモラエイの手が永瀬の顔に当たるが、両者握手をして試合再開。以後の様相は一貫して間合いの攻防、組み手争いを中心に試合が進む。モラエイは釣り手で背中を深く抱き、引き手で脇を差し、正対の密着を度々作り出す。狙いはおそらく払釣込足。密着に相手が反応した下がり際にこの得意技を叩き込まんとする構え。しかし永瀬は先刻承知、敢えて組み合いに応じることでこの技を封じ続ける。2分22秒、場外に押し込まれた永瀬に場外の「指導」。以降も間合いの奪い合いが続き、双方決定的な場面がないまま本戦の4分間を終える。

延長戦になっても構図は変わらず、永瀬が遠間、モラエイが近間を狙った距離の奪い合い。しかし、GS延長戦1分過ぎからやや焦れたモラエイが前襟を持つようになり、永瀬の距離になる時間が増える。GS1分25秒には引き手で脇を差したモラエイが右払釣込足を繰り出すも、釣り手の距離が遠く効かせられない。GS1分43秒、永瀬は袖と襟の二本を持って万全の形を完成させると、一度横方向の右大外刈を打って相手を止め、次いで低空の右体落に潜り込む。やや足を上げて足車式に引っ掛けると、組み負けていたうえに一瞬剛体で対応が遅れたモラエイ堪らず崩れ落ち「技有」。熱戦ここに決着。疲労困憊の両者、「礼」を終えると互いに相手の手を掲げ、試合場の真ん中で健闘を称え合う。永瀬、5年前の借りを見事返して金メダル獲得。敗れたモラエイも全て出し尽くしたとばかりに満面の笑みでコーチに抱きつき、抱えられたままミックスゾーンへ。激戦うち続いた81kg級の結末にふさわしい、素晴らしい試合だった。

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