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【レポート】芳田倒したジャコヴアが金メダル獲得、決勝は意外な幕切れ/東京オリンピック柔道競技女子57kg級

(2021年8月7日)

※ eJudoメルマガ版8月1日掲載記事より転載・編集しています。
芳田倒したジャコヴアが金メダル獲得、決勝は意外な幕切れ
東京オリンピック柔道競技女子57kg級レポート
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2回戦、芳田司がルー・トンジュアンから右一本背負投「一本」

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準決勝、思わぬ敗戦を喫した芳田。

日本代表の芳田司(コマツ)は初戦から動きよく、順調な勝ち上がり。まず前戦でダリア・メジェツカイア(ロシア)との投げ合いを制して意気揚がるルー・トンジュアン(中国)を、1分16秒右一本背負投で高々担ぎ上げ文句なしの「一本」。続く準々決勝もティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)との組み手争いで優位を取り続けると、2分25秒右袖釣込腰で「技有」確保。以降は密着の一発を狙う相手にまったく取り合わず、快勝でベスト4に名乗りをあげた。

しかし準決勝は暗転。過去4戦全勝のノラ・ジャコヴァ(コソボ)に意外な敗戦を喫することとなる。本戦は惚れ惚れするような進退。引き付けて腰技を狙いたいジャコヴァに対し、足を出し、肘を振り、完璧に間合いをコントロールして一方的に攻める。1分52秒には「指導」1つを確保。さらに寝技でも攻めっぱなし、相手にほとんど攻める機会を与えないまま本戦4分を終える。GS延長戦もこの構図は変わらず。芳田が左小外刈を中心に一方的に攻めるが、奥襟を叩いて形上組み負けていない恰好のジャコヴァにはいつまで経っても反則が与えられない。優位がスコアに跳ね返らないこの状況に焦ったか、芳田の進退が突如おかしくなる。まず遠間からケンケンの左内股を連発。芳田の内股は馬力ではなく柔らかさを生かして投げる典型的な女子の技法で、この遠い間合いから、しかも作りのない状態で体が長く体幹が強いジャコヴァは投げ切れない。抑制の利いていた本戦の戦いとはまったく異なる、明らかな攻め急ぎ。そして気力体力を一杯に費やしながら投げ切れないことで焦りはどんどん加速する。GS1分50秒、ジャコヴァは引き手で前襟、かつ釣り手を奥襟に入れる得意の「両襟奥」を完成させてパワーファイトの構え。ここまでは足技を起点にしっかり剥がしていた芳田だが、なぜか釣り手で低い位置を突いたまま状況を見てしまう。持ちどころが相手の体の外側に外れて、力が掛からない状態。ここでジャコヴァが間合いを詰めて右小外掛。芳田突き返そうにも釣り手が抜けており、押すその先にあるのは空。ストップがかけられない。ぐしゃりと崩れ落ちて「技有」。試合をほぼ完全に制していながら、意外過ぎる敗戦となった。

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3位決定戦、鮮やかな内股「技有」

失意の芳田はしかし気持ちを立て直し、夕方のセッションに再登場。エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)との3位決定戦は内股を2発決めて合技「一本」の快勝、気丈に銅メダル獲得を決めてみせた。畳を降りてフラッシュインタビューに応じた芳田は、V逸のショックからか呆然自失。涙ぐみ、声を震わせて「金を目指していたので…悔しい」と発するのがやっと。よくぞこの状態で3位決定戦を勝ち抜いたと、その気持ちの強さが切なく感じられるほどであった。

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2回戦、ジャコヴアがサンネ・フェルハーヘンを攻める

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サハ=レオニー・シジクがエテリ・リパルテリアニから隅落「技有」

というわけで決勝進出者はジャコヴア。配置は第3シード。2回戦は吶喊密着型のサンネ・フェルハーヘン(オランダ)を1分18秒に挙げた大内刈「技有」による優勢で下し、準々決勝は前戦でレン・チェンリン(台湾)を「指導3」で破っているカヤ・カイゼル(スロベニア)から小外掛で「技有」を奪うと、そのまま崩上四方固に抑え込んで3分36秒「参った」を引き出す。準決勝は前述の通り第2シードの2018年世界王者・芳田司を倒すジャイアントキリングを達成し、みごと決勝まで駒を進めることとなった。

もう1人のファイナリストは本命の一、第4シード位置からスタートしたサハ=レオニー・シジク(フランス)。2回戦はキム・チス(韓国)を高速の大外巻込「技有」で破り、準々決勝はリパルテリアニと大激戦。2分29秒まずリパルテリアニが払巻込「技有」を先行し会場を騒然とさせたが、続く展開の2分55秒シジクが大外巻込「技有」で試合はタイスコア。GS3分16秒、隅落「技有」を積み、合技「一本」でこの難戦を勝ち抜ける。本命対決(先に芳田が負けたので)となった準決勝は第1シードのジェシカ・クリムカイト(カナダ)をGS延長戦3分10秒「指導3」対「指導2」で下して決勝進出を決めた。

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圧を掛けるジャコヴア。

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コソボは2つ目の金メダル獲得となった。

迎えた決勝は意外な結末。ジャコヴァが引き手で襟、釣り手で奥の「両襟奥」で圧を掛けると、これまで組み勝ちながらなかなか投げ切れなかったシジク明らかに勝負を急ぎ強引な右内股巻込。崩れず受け切ったジャコヴァがトンと前に制動を呉れると、シジクは頭から畳に突っ込んでしまう。首が屈曲して内側に入り、後頭部が接地するかなり危険な形。シジク首の痛みを気にして「相手が押した」とアピールするがこれはこの接地の危険性を強調するものであり、かえって逆効果。映像チェックの結果シジクにヘッドダイブ(※いわゆる「頭突っ込み」)のダイレクト反則負けが宣されて試合終了。ダークホース・ジャコヴァが母国コソボに今大会2つ目の金メダルをもたらすこととなった。

シジクは痛恨のミス。準決勝で膝を傷めたことも影響したか、じっくり勝負すればいいはずの相手に明らかに勝ち急いでしまった。そして、シジクはこれだけの力を誇りながらまだワールドツアーの優勝がない。最後まで勝ち残った経験の少なさが、「最後の階段」を必要以上に高くしてしまったという印象。

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クリムカイトが袖釣込腰「技有」

3位決定戦もう1試合はクリムカイトがカイゼルをGS延長戦1分10秒、袖釣込腰「技有」に仕留めて勝利。銅メダルを確保した。

上位入賞者と決勝の戦評、芳田司全試合の戦評と全試合結果は下記。

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57kg級メダリスト。左から2位のサハ=レオニー・シジク、優勝のノラ・ジャコヴァ、3位の芳田司とジェシカ・クリムカイト。

(エントリー25名)

【入賞者】
1.GJAKOVA, Nora (KOS)
2.CYSIQUE, Sarah Leonie (FRA)
3.YOSHIDA, Tsukasa (JPN)
3.KLIMKAIT, Jessica (CAN)
5.LIPARTELIANI, Eteri (GEO)
5.KAJZER, Kaja (SLO)
7.KOWALCZYK, Julia (POL)
7.NELSON LEVY, Timna (ISR)

【成績上位者】

優 勝:ノラ・ジャコヴァ(コソボ)
準優勝:サハ=レオニー・シジク(フランス)
第三位:芳田司(日本)、ジェシカ・クリムカイト(カナダ)

■ 決勝戦評
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優勝したノラ・ジャコヴァ

【決勝】

ノラ・ジャコヴァ(コソボ)○反則[DH](2:45)△サハ=レオニー・シジク(フランス)
※「ヘッドダイブ」による

ジャコヴァが左、シジクが右組みのケンカ四つ。シジク組み手争いを最小限に、早々に袖と前襟を得て左大外刈。ジャコヴァ崩れるも立ったまま攻防を続ける。場外際でシジク優位での膠着があり、1分5秒ジャコヴァに極端な防御姿勢の「指導」。続く展開でも組み勝ったのはシジク。ジャコヴァは相手の背中を抱き、シジク優位のまま腰の差し合いが続く。一度展開が切れての2分30秒、ジャコヴァが引き手で襟、釣り手で奥襟を掴む万全の形。ここでシジク勝負を急いだか強引な右内股巻込を仕掛けてしまう。ジャコヴァ落ち着いて捲りに掛かるが、その際シジクが頭から畳に突っ込む場面が生まれる。首が屈曲して内側に入り、頭の後ろ側が接地する非常に危険な形。シジクしばし立ち上がれず首を気にしている様子。立ち上がって開始線に戻るが、2分45秒、シジクにヘッドダイブによるダイレクト反則負けが告げられて終戦となった。コソボは今大会2つ目となる金メダルを獲得。

■ 日本代表選手全試合戦評
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ルー・トンジュアンから右一本背負投「一本」

【2回戦】

芳田司○一本背負投(1:16)△ルー・トンジュアン(中国)
芳田、ルーともに左組みのケンカ四つ。組み手争いからルー飛びついて奥を狙うが、芳田落ち着いてこれを切り落とす。50秒、両者に「取り組まない」との咎で「指導」が与えられる。続く攻防の1分16秒、芳田釣り手で前襟を得るなり右一本背負投。打点高く一気に抜き投げ「一本」。芳田、上々の内容で初戦を突破。

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ティムナ・ネルソン=レヴィーから袖釣込腰「技有」

【準々決勝】

芳田司○優勢[技有・袖釣込腰]△ティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)

芳田が左、ネルソン=レヴィーが右組みのケンカ四つ。ネルソン=レヴィーいきなり背中深くを叩くも、芳田前襟を突いてこれを引き剥がす。25秒、芳田が右内股を仕掛けるも不十分でこれは伏せる。ここからは再び前襟を持って距離をとって戦いたい芳田と、釣り手で背中深くを持って密着したいネルソン=レヴィーとの組み手争い。どちらも決定的な形を作れないまま時間が過ぎる。とはいえ一貫して優位は芳田の側にあり。2分25秒、芳田組み手争いから釣り手で袖を得ると、引き手で袖を下から得る両袖の形を作って右袖釣込腰。腰を支点に押し込み投げて決定的な「技有」を得る。さらに「待て」と同時にネルソン=レヴィーに指を握り合わせた咎で「指導」が与えられる。リードを得た芳田、以降は密着しようとする相手を捌き続けてタイムアップを迎える。安定した試合運びでベスト4進出決定。

【準決勝】

芳田司△GS技有・小外掛(GS2:02)○ノラ・ジャコヴァ(コソボ)
芳田が左、ジャコヴァが右組みのケンカ四つ。距離をとって左内股を軸に攻める芳田と、奥を得て引きつけての腰技を狙いたいジャコヴァという構図。芳田度々左内股で相手を大きく崩し、左小外刈を交えながらほぼ完璧に近い間合いの管理。手も、足も良く動く。1分52秒にはジャコヴァに消極的姿勢の「指導」が与えられる。以降も芳田は相手にほとんど攻める機会を与えず、優位を維持して本戦の4分間を終える。

この構図は延長戦でも継続、芳田が一方的に引き手を引き、散発的にジャコヴァが奥襟を得る場面は出るが、芳田は左小外刈を出しながら前に出続けて優位を譲らない。ジャコヴアは技をほとんど出せず。しかし形上は組み勝って見えるためか、なかなか「指導」は与えられない。組み手争いを経てのGS1分50秒、ジャコヴァが両襟、かつ釣り手を奥の襟に入れる得意の形を完成させる。これまで足技を起点にしっかり剥がしていた芳田、ここでなぜか釣り手で低い位置を突いたまま状況を見てしまう。GS2分2秒、ジャコヴァが間合いを詰めて右小外掛を仕掛けると芳田ぐしゃりと崩れ落ち「技有」。芳田は試合をほぼ制していながら、まさかの敗戦。3位決定戦へと回ることになった。

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エテリ・リパルテリアニから内股「技有」

【3位決定戦】

芳田司○合技[内股・内股](3:16)△エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)

芳田が左、リパルテリアニが右組みのケンカ四つ。芳田相手の釣り手をいなしながら形を整え、26秒に左内股。いきなり大きく崩す。直後リパルテリアニが背中深くを抱いてくが、芳田落ち着いて左体落でこれを剥がし、自らの右一本背負投でこの攻防を終える。続く展開、リパルテリアニが背中深くを持つと、芳田これに巻き返して応じ、そのまま左内股。浅くケンケンで負いながら足を高く上げてぐしゃりと投げきり、1分1秒「技有」を得る。さらに1分30秒にも袖と前襟の二本を得ての左内股で相手を頭から畳に突き刺す。強烈な技だったが、これはリパルテリアニが体の柔らかさを生かして逃れてポイントには至らず。2分13秒には背中を持たれて守勢に回った芳田に極端な防御姿勢の「指導」が与えられるが、焦る様子はなし。両手で手繰って上から釣り手を持ち、相手が持ち替えると左小外刈、次いで右一本背負投と段重ねで技を積む。一度両者が離れての3分16秒、芳田再び袖と襟の二本を得ると切れ味鋭い左内股。芳田らしい美技。相手が回りすぎて「技有」になってしまったものの合技「一本」となり、芳田の銅メダルが決まった。

■ 全試合結果
【1回戦】
イヴェリナ・イリエワ(ブルガリア)○横四方固(3:39)△ゴーフラン・ヘリフィ(チュニジア)
テルマ・モンテイロ(ポルトガル)○合技[谷落・大外刈](1:37)△ズレイハ=アブゼッタ・ダボンネ(コートジボワール)
ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)○優勢[技有・引込返]△カラカス ・ヘドウィグ(ハンガリー)
キム・チス(韓国)○合技[隅落・横四方固](4:00)△ミリアム・ローパー(パナマ)
エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)○大内刈(1:04)△ディアッソネマ・ムクングイ(アンゴラ)
ルー・トンジュアン(中国)○GS合技[肩車・隅落](GS2:40)△ダリア・メジェツカイア(ロシア)
マリツァ・ペリシッチ(セルビア)○合技[一本背負投・横四方固](1:53)△サンダ・アルダス(オリンピック難民選手団)
サンネ・フェルハーヘン(オランダ)○GS出足払(GS1:35)△ザブリナ・フィルツモザー(オーストリア)
カヤ・カイゼル(スロベニア)○優勢[技有・大外刈]△ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)

【2回戦】
ジェシカ・クリムカイト(カナダ)○合技[袖釣込腰・崩袈裟固](2:03)△イヴェリナ・イリエワ(ブルガリア)
ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)○GS反則[指導3](GS5:31)△テルマ・モンテイロ(ポルトガル)
サハ=レオニー・シジク(フランス)○優勢[技有・大外巻込]△キム・チス(韓国)
エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)○内股(3:49)△テレザ・シュトル(ドイツ)
芳田司○一本背負投(1:16)△ルー・トンジュアン(中国)
ティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)○GS反則[指導3](GS6:07)△マリツァ・ペリシッチ(セルビア)
ノラ・ジャコヴァ(コソボ)○優勢[技有・大内刈]△サンネ・フェルハーヘン(オランダ)
カヤ・カイゼル(スロベニア)○GS反則[指導3](GS4:03)△レン・チェンリン(台湾)

【準々決勝】
ジェシカ・クリムカイト(カナダ)○崩上四方固(1:47)△ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)
サハ=レオニー・シジク(フランス)○GS合技[大外落・浮落](GS1:16)△エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)
芳田司○優勢[技有・袖釣込腰]△ティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)
ノラ・ジャコヴァ(コソボ)○崩上四方固(3:36)△カヤ・カイゼル(スロベニア)

【敗者復活戦】
エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)○GS技有・浮落(GS3:11)△ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)
カヤ・カイゼル(スロベニア)○GS釣込腰(GS1:45)△ティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)

【準決勝】
サハ=レオニー・シジク(フランス)○GS反則[指導3](GS3:10)△ジェシカ・クリムカイト(カナダ)
ノラ・ジャコヴァ(コソボ)○GS技有・小外掛(GS2:02)△芳田司

【3位決定戦】
芳田司○合技[内股・内股](3:16)△エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)
ジェシカ・クリムカイト(カナダ)○GS技有・袖釣込腰(GS1:10)△カヤ・カイゼル(スロベニア)

【決勝】
ノラ・ジャコヴァ(コソボ)○反則[DH](2:45)△サハ=レオニー・シジク(フランス)
※「ヘッドダイブ」による

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