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【プレビュー】トーナメントの軸は埼玉栄、崇徳筆頭に強豪各校がこれを追う/第70回インターハイ柔道競技男子団体戦展望

(2021年8月6日)

※ eJudoメルマガ版8月5日掲載記事より転載・編集しています。
トーナメントの軸は埼玉栄、崇徳筆頭に強豪各校がこれを追う
第70回インターハイ柔道競技男子団体戦展望
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2019年大会の開会式。2年ぶりにインターハイが帰ってくる。

2年ぶりの頂点決め。高校柔道日本一を争うインターハイ柔道競技の開幕がいよいよ8日(日)に迫った。昨年は3月の全国高校選手権に始まる三冠大会すべてが中止、今年の全国高校選手権は個人戦のみの開催であり、団体戦による日本一決定戦は実に2019年インターハイ以来ということになる。

今年度は大規模招待試合がほぼまったく行われず、ブロック大会の開催も地区によってまちまち。強豪校の東西の交流が極端に限られ、互いに情報が少ない状態にある。西のチームは関東地区の強豪の相互交流による練れた仕上りを恐れ、東のチームは西の強豪が涵養した地力と技にそもそもの絶対値で上を行かれるのではと警戒怠らず。まるで昭和時代のような「本番で蓋を開けてみるまで、実際にどこが強いのかわからない」緊張感が漂っている。

そんな極めて情報少ない中ではあるが、簡単に強豪校を紹介し、各ブロックの勝ち上がりを展望してみたい。

なお、現在(8/5夜)の時点で、既にかなりの学校から新型コロナウイルス陽性者が出、濃厚接触者と認定されたチーム全員が出場停止との情報が寄せられている。筆者が聞いたところでは全柔連の指定検査で1名が陽性と判定され、マニュアル通りに受診を薦められて向かった地元医療機関で再度PCR検査をしたところ陰性が証明された(擬陽性であった可能性がある)ケースもかなり多く、そういったチームは「直近の検査で全員が陰性証明を得ている」にも関わらずチームまるごと出場停止となる理不尽な扱いを受けている。指定検査で陽性者が発見された以上ガイドライン通りに出場を止めるしかない連盟、全員が陰性である以上出場停止は受け入れがたい学校側、双方に相応の理あり。ただしこの措置が、ガイドラインの想定不足によって起こった事態であることも間違いないだろう。我々は非常時に生きており、コロナとの付き合い方にまだ習熟していない。これは弾力的運用を考えるべき局面ではないかと強く訴える次第である。が、この稿は敢えて組み合わせ終了段階の全校出場という前提で進めさせて頂く。

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優勝候補筆頭は埼玉栄高

優勝候補の筆頭は、埼玉栄高(埼玉)。現3年生代から全国中学大会を2連覇、試合自体が少ないこの2年間にあって、頂点取りに最も重要な「勝った経験」を独占している形の強豪だ。全国高校選手権無差別2位の長濱佑飛に、全国中学校大会90kg超級2位の野村陽光、100kg級の新井道大、急成長した原凪人らよく鍛え抜かれた選手を揃えた隙のない集団。全国中学大会90kg超級王者の2年生坂口稜ですらレギュラーの当落線上、3月の全国高校選手権66kg級の覇者猪瀬真司がメンバーに入れないという、極めてレベルの高いチームだ。

野村、坂口ら中学時代から実績を残した大砲型が目立ちがちだが、チームカラーをよく表すのはむしろ長濱や原といった「叩き上げ型」の選手たち。戦い方、繰り出す技術とも実に現実的で、良い意味で余計な「願望」がない。こうすれば飛ぶはず、こうすれば良い技のはずといった仮定の領域を論理で塗りつぶし、リアルな方法論で直線的に勝利に繋がる行動を採る。全国の強豪各校の選手が「試合はあるのか」「どこまで強くなれるのか」という手探り状態で稽古を重ねる中、具体的に全国制覇をイメージし、ひたすらリアルな強化に勤しんで来た様子が思い浮かぶ。今代の高校生がなかなか積みがたい「詰め」の作業にここまで長く時間とリソースを費やせたチームはほとんどないのではないか。

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崇徳は全国高校選手権無差別の覇者・藤本偉央を擁する。

追いかけるチームとしては、崇徳高(広島)、作陽高(岡山)、天理高(奈良)、木更津総合高(千葉)、東海大相模高(神奈川)らの名が挙がる。加えて加藤学園高(静岡)、神戸国際高(兵庫)、九州学院高(熊本)も前評判はかなりのものがあり、メンバー構成からすると大成高(愛知)、そして土壇場の育成力からは国士舘高(東京)までを含めておくべきだろう。

崇徳は穴のないチーム。全国高校選手権無差別で優勝した藤本偉央はもちろんだが、高原大智、高原健伸に萩俊佑、小澤陸斗、村戸朱斗と登録6名どこからでも点が取れる攻撃力が魅力だ。最軽量の小沢が90kg級であとは全員100kg以上とサイズもある。組み合わせを見ると、このチームの決勝進出の可能性はかなり高いのではないかと考える。

作陽は1年生から金鷲旗大会で活躍した笠原勇馬と高橋寛が軸だが、2年生の津志瑛寿の突き上げが凄まじく、チーム力がこの数か月で一段上がっている。3年生の塗木大和も力を上げており、あとは1年生にしてレギュラーを射止めた身長180センチ体重130キロの工藤瑠希を「虎の穴」作陽がどこまで鍛え上げたかが見もの。

天理は100kg級の平見陸を中心とした攻撃型チーム。歴代天理の系譜に連なるスケール感高い、ケレン味のない柔道が魅力。木更津総合は甲木碧を中心に総合力が高く、このチームを埼玉栄の対抗馬1番手に挙げる識者も多い。東海大相模は優勝候補筆頭に挙げられながら三冠大会すべて中止という悲劇に見舞われた前代の思いを背負い、頂点を目指す。

以下、組み合わせを見ていきたい。最激戦区は崇徳を中心にしたCブロック。AブロックもV候補埼玉栄に対し相性的な強敵が仕込まれ、単なる戦力比べでは測り切れない難しいブロックとなっている。

■ Aブロック
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埼玉栄を引っ張るのは高校選手権無差別2位の長濱佑飛。

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木更津総合のエースは甲木碧。

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作陽の主将・笠原勇馬。

上側の山は埼玉栄の勝ち上がりが濃厚。勝負はベスト8以降のはずだ。

下側の山が大激戦。まず2回戦で木更津総合と作陽が戦い、勝者が神戸国際大附と戦うという、ベスト8以上で組まれてもまったく違和感ないカードが続くハイレベルブロックとなっている。

木更津総合と作陽の2回戦はトーナメント全体の行方を揺さぶる、序盤戦の最注目カード。木更津総合のポイントゲッター甲木碧の強みは「抱き勝負」にあるが、作陽は伝統的に強者を潰すのがうまく、特にこの型の選手への対応が抜群に上手い。「抱き勝負」の究極系と言える全国高校選手権無差別の覇者・高橋翼(国士舘大)を輩出してまだ間もなく、チームの中にノウハウも豊。少なくとも1人か2人、この型から具体的に取り得る選手を養成しているはずで、オーダー順(※組み合わせ決定前に提出済み)に試合が大きく左右されるはず。

神戸国際大附はエース宮本力玖を中心に非常に鍛えこまれたチーム。伝わる評判につけられる修辞はとにかく「練度」にまつわるものばかり。このチームの伝統である体の強さは今年度も健在である。

そしてこのあたりが難しいのだが、木更津総合、神戸国際大附いずれが勝ち上がってきても、埼玉栄にとっては「正面勝負」の様相となり、勝利のシナリオが比較的描きやすい(決勝レベルの戦いだが)のではないかと考える。一方、作陽は地力勝負では不利のはずの木更津総合に勝つ可能性も(相性的に)十分あるが、試合にケレン味薄く正面勝負志向の神戸国際大附戦がかなりの難関。ただしここを勝ち抜くようであれば、逆に埼玉栄とは十分勝負になるはず。春の錬成大会の結果は接戦、内容的にも、どちらが勝ってもおかしくなかった。さらに、これは今大会全体を規定する構図であるが、今年はコロナ禍の影響で、団体戦の試合時間が3分に短縮されている。あきらかに「しのぐ側」に優位の構図だ。泥沼粘戦を志向するサイド、「持たざる」側に流れが傾きやすいレギュレーションであることは十分考えておくべきだろう。

埼玉栄の勝ち上がり最有力、次点は木更津総合だが、ジョーカー作陽の振る舞いで何が起こるかわからない。場合によっては神戸国際大附にもチャンスあり。面白いブロックである。

■ Bブロック
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大成の大黒柱・中山康。

今大会4ブロックの中で、もっとも密度が高くないブロック。勝ち上がり候補の筆頭は全国中学校柔道大会90kg級の王者中山康、同81kg級の覇者菊池駿星、同じく2年生世代の90kg級王者三並壮太とビッグネームをずらり並べた大成。初戦で齋五澤凌生を擁する白鴎大足利高(栃木)との対戦があり、また下側の山にはルターエンフボルドを擁する開志国際高(新潟)が配されているが、ベスト4勝ち上がりは堅いだろう。高校選手権における中山と三並の早期敗退でチームの評価が保留されている状況だが、総合力は他を圧している。

■ Cブロック
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東海大相模は重量級の奮起がカギ。

上側の山が最激戦区。Aブロック下側に迫る密度である。ここからまず崇徳、大牟田、東海大相模がベスト8入りを狙う。山場は崇徳-東海大相模のカードが見込まれる3回戦。東海大相模はもっとも切れ味ある木原慧登が73kg級の1年生で、柔道に確変気配を孕む上田夏也人もまだ2年生。主将の81kg級代表天野開斗の活躍はもちろんのこと、金子竜士ら3年生×重量級勢の振る舞いがカギになるはずだ。ベスト4勝ち上がりには崇徳を推す。僅かな凹みに得点を擦り込む総合力の高さがある。

■ Dブロック
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国士舘。勝ち上がり最有力の天理に対し、どこまで食らいつけるか。

上側の山の国士舘は、全国中学校大会90kg超級の覇者・入来院大樹を中心にしぶとい選手を揃えたチーム。1年生の畠山凱と川端倖明の加入で戦い方の幅が一気に広がった。例年に比べると小粒でまだまだ粗いチームなのだが、代表決定以来の2か月でかなり鍛えこんでいるはず。また何よりも、この上側の山には総合力で対抗できるこれぞというチームがない。事前予測としてはベスト8入り濃厚としておくべきだろう。

下側の山は加藤学園と九州学園が2回戦で激突。登録6名のうち加藤学園が5名、九州学院は4名が体重100キロ以上という大型チームだ。柔道の巧さでは加藤学園が上回る印象だが、勝負は予断を許さない。これも序盤戦の最注目カードの一。

そしてその勝者が天理と激突。天理は攻撃型を揃えたがそのケレン味のなさゆえ粗さも同居するという、良くも悪くも歴代の系譜に連なるチーム。加藤学園が来た場合は縺れる可能性が大きいが、ここは仮に地力の高さで天理が捌き切る展開を推しておく。

国士舘と天理の準々決勝。順当シナリオは、地力で天理が勝利する筋書き。ただし組み合わせ決定から相応の時間が経っており、また上側の山の戦いやすさからも、国士舘はじっくり、岩渕公一総監督の口癖を借りれば「とっくり」と天理対策を練っているはず。強いが粗さもある天理に対し、泥沼の消耗戦を演出できるようであれば最終的な得点収支はどうなるかわからない。天理を推しつつ、予断を許さぬというエクスキューズをつけておくのが妥当なところかと考える。

■ 準決勝―決勝
C-Dブロックからの決勝進出は崇徳を推す。崇徳の凹凸なく、それでいてどこからでも「凸」を擦り込むこの布陣を突破するのはいかな天理といえども難しく、もともとポジションごとの戦力差大きい国士舘にあってはこの構図さらにいや増す。試合時間3分レギュレーションは確かに「凌ぐ側」「もつれさせようとする側」に有利であるが、同時に「穴がなくどこからでも攻められる」総合力で勝負するタイプのチームにも極めて有利に働く。どんなチームでも、5試合綻びを作らずに戦い切ることは難しく、となれば堤の切れたところから即座に水を送り込める総合力型は、相対的に得点のチャンスが増えるからだ。ここは、崇徳と見ておくのが妥当だろう。

A- Bブロックは難しい。順当シナリオだと埼玉栄だが、下側の山の様相次第では作陽、あるいは木更津総合の可能性もありえる。事前予測としては穏当に埼玉栄を推しておく。

決勝の様相。勝負の機微を捉えるということでは全中連覇経験者で構成する埼玉栄が上であるが、具体的な配列のない状態では少々読みがたい。ただし埼玉栄であれば野村、崇徳であれば藤本という、良くも悪くも戦いぶりに余白のある大駒の振る舞いが勝負を分ける、という見立ては持っておいて間違いないだろう。熱戦に期待したい。

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