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【直前プレビュー】厳しい組み合わせ引くも優勝候補は断然大野、アンは初戦のバジーレ戦が山場/東京オリンピック柔道競技男子73kg級

(2021年7月25日)

※ eJudoメルマガ版7月25日掲載記事より転載・編集しています。
厳しい組み合わせ引くも優勝候補は断然大野、アンは初戦のバジーレ戦が山場
東京オリンピック柔道競技男子73kg級直前展望
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大野将平が絶対の優勝候補

(エントリー36名)

エントリーは36名。「概況解説・シード予想」で示した予想からの、シード選手配置の変更はなし。ノーシード枠最大のジョーカー、階級の絶対王者の大野将平(旭化成)はドローの結果プールAに配され、この山でシードを張るルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)とビラル・ジログル(トルコ)の2名が割を食う格好となった。特にジログルは大野に勝利しなければ敗者復活戦にも進むことができず、もはや気の毒と言うほかない。シード外の注目選手では今年の欧州王者のアキル・ジャコヴァ(コソボ)がプールBのトミー・マシアス(スウェーデン)直下。そしてファビオ・バジーレ(イタリア)はなんとプールDのアン・チャンリン(韓国)と初戦(2回戦)で戦う位置を引いた。プールDには伏兵候補のヴィクトル・ステルプ(モルドバ)も配されており、こちらは3回戦でベスト8を賭けてトハル・ブトブル(イスラエル)と戦うことになる。

大野は初戦(2回戦)でアレクサンドル・ライク(ルーマニア)に勝利すると、以降は3回戦でジログル、準々決勝でオルジョフ、準決勝でマシアス、あるいはジャコヴァ、そして決勝でアンと対戦する可能性が高い。強豪のフルコースと言って良いだろう。楽な試合は一つもない。準々決勝以降の相手との様相の予想は「概況解説・シード予想」で行っているため割愛するが、初戦のライクも第1試合の相手としてはかなりの強者。左右に強力な腰技を持っている。続く3回戦のジログルも6月のブダペスト世界選手権3位と乗っており、引き込み技がベースの非常に面倒な柔道スタイル。とはいえ、あくまで優勝候補は大野。勝利の確率的はすべての階級の選手でナンバーワンと言って過言ではないだろう。果たして全選手にマークされる中でどのような戦いを見せてくれるのか。その絶対的な強さのほどに注目だ。

ほか、話題としてはジャコヴァが57kg級のノラ・ファコヴァ(コソボ)と同日出場である点にも触れておきたい。流石に阿部兄妹のように同時金メダルが狙えるほどの実力はないが、同時メダルを狙う力は十分。

有力選手の配置、各プールの勝ち上がり展望は下記。各選手の特徴については「選手名鑑」を、組み合わせは公式サイトで山組を確認のこと。

■ プールA
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前回銀メダルのルスタン・オルジョフは大野と同居。割を食う形となった。

第1シード:ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)
第8シード:ビラル・ジログル(トルコ)
有力選手:ムサ・モグシコフ(ロシア)ソモン・マフマドベコフ(タジキスタン)アレクサンドル・ライク(ルーマニア)
日本代表選手:大野将平(旭化成)

大野の勝ち上がりが確定的。他の選手はただただ気の毒でしかない。また、大野と逆サイドの上側の山も非常に強豪の密度が濃く、オルジョフとムサ・モグシコフ(ロシア)が初戦を戦い、その勝者が3回戦でソモン・マフマドベコフ(タジキスタン)とベスト8を争うことになる。実力的にはオルジョフの勝ち上がりが濃厚だが、確実とまでは言えない過酷な配置の山だ。順当であれば準々決勝は大野vsオルジョフ。これまでに世界大会の決勝2回を含めて大野が5戦5勝しているカードで今回も同様の結果になると思われるが、オルジョフがどのような戦略を持ち込むのかには注目したい。

■ プールB
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トミー・マシアス

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アキル・ジャコヴァ

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ツェンドオチル・ツォグトバータル

第4シード:トミー・マシアス(スウェーデン)
第5シード:ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)
有力選手:ヴィクトル・スクヴォルトフ(UAE)アキル・ジャコヴァ(コソボ)ニルス・ストンプ(スイス)

プールの上側と下側できれいに勝ち上がりの難易度が分かれた。上側の山にはシード選手のマシアスを筆頭にヴィクトル・スクヴォルトフ(UAE)、ジャコヴァ、ニルス・ストンプ(スイス)との強豪4名が詰め込まれた。このうちマシアスとジャコヴァはともにメダル獲得の本命候補。しかし、決勝ラウンドにはどちらか片方しか勝ち上がれない。組み合わせでは2回戦でマシアスvsスクヴォルトフ、ジャコヴァvsストンプが対戦予定となっている。実力ではマシアスとジャコヴァがやや抜けており、3回戦はこの2名によって争われるはず。両者は2017年の欧州選手権で1度対戦しており、その際はマシアスが勝利している。ただし現時点での力関係は読み難く、そして最近は両者がともに好調。

一方、下の山はシード選手のツェンドオチル・ツォグトバートル以外に有力選手のいない空白域。この選手の勝ち上がりはまず間違いない。準々決勝の様相を、対戦成績から考えてみると。まずマシアスであれば過去2勝0敗のツェンドオチルが優位、一方でジャコヴァが勝ち上がれば過去2勝1敗、現在2連勝と勝ち越しているジャコヴァが優位ということになる。ただしマシアスは最近足技に捨身技と技術を盛って力を伸ばしており、6月のブダペスト世界選手権の出来を見る限りツェンドオチルに遅れをとることはないはず。よってマシアスかジャコヴァのいずれかがそのままベスト4まで勝ち上がると予想したい。ただし前述のとおり下側の山は無風。上側の戦いの勝者が大きく消耗していた場合には、ツェンドオチルがベスト4入りを果たすことも十分にあり得るだろう。

■ プールC
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ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ

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アルチュール・マルジェリドン

第2シード:ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)
第7シード:アルチュール・マルジェリドン(カナダ)
有力選手:エドゥアルド・バルボサ(ブラジル)、ギヨーム・シェヌ(フランス)、ジャンサイ・スマグロフ(カザフスタン)フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)

こちらもプールの上下で勝ち上がりの難易度に差が出た格好。上側の山でシード位置に座るラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)は、初戦(2回戦)で当たるエドゥアルド・バルボサ(ブラジル)とギヨーム・シェヌ(フランス)の勝者に勝ちさえすればベスト8進出は確定的。この2名とは実力的に大きな差もある。

対して下側の山は混戦。まず2回戦でジャンサイ・スマグロフ(カザフスタン)とフェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)が戦い、その勝者がシード選手のアルチュール・マルジェリドン(カナダ)に挑むことになる。それほど大きな差はないが、ここでは実績で勝るマルジェリドンが勝ち上がると考えておきたい。

よって準々決勝のカードは恐らくシャヴダトゥアシヴィリvsマルジェリドン。両者は意外にも過去には1度しか対戦しておらず、その際はシャヴダトゥアシヴィリが勝利している。シャヴダトゥアシヴィリが6月のブダペスト世界選手権を制するなど好調なこと、そしてマルジェリドンが最近は内股、腰技中心のスタイルに変化してきており、その柔道の筋目の良さが「まともな力比べ」を呼びそうなことから、ここは力勝負に勝るシャヴダトゥアシヴィリがベスト4に勝ち上がると予想したい。

■ プールD
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アン・チャンリン

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ファビオ・バジーレ。階級最大の変数である。

第3シード:アン・チャンリン(韓国)
第6シード:トハル・ブトブル(イスラエル)
有力選手:ファビオ・バジーレ(イタリア)イゴール・ヴァンドケ(ドイツ)ヒクマティロフ・ツラエフ(ウズベキスタン)マグディエル・エストラダ(キューバ)ヴィクトル・ステルプ(モルドバ)

アンの山。初戦(2回戦)でバジーレに勝利すれば、以降は3回戦でヒクマティロフ・ツラエフ(ウズベキスタン)、準々決勝でブトブルとステルプの勝者と対戦する可能性が高い。やはり山場は2回戦。純粋な実力ではアンが数段上だが、バジーレは爆発力ならば階級ナンバーワン。五輪という特殊な場でどのような化け方をするかはまったく読めず、仮にノーマークから66kg級を制したリオ五輪のようなコンディションならば勝敗が揺れることも十分に考えられる。あくまでも勝利するのはアンと予想しつつも、バジーレがどのような状態で現れるのか、アンがどう仕留めるのかなど興味は尽きない。間違いなく序盤の最注目カードである。勝ち上がり予想としてはここさえ抜ければアンがそのままベスト4に上がると思われるが、少々気になるのがステルプの存在。密着しての「相撲柔道」が持ち味のこちらも極めて危険な選手であり、しかも相手が2回戦でマグディエル・エストラダ(キューバ)、3回戦でブトブルとそこまで強力ではないため、準々決勝までは勝ち上がって来る可能性が高い。アンとしては伏兵候補2名をプール内で相手せねばならぬ非常に嫌な組み合わせだ。ステルプ戦に関しては担ぎ技の天敵である“放る系のカウンター”をいかに防いで戦うかがポイントだ。

■ 準決勝~決勝
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ジャカルタアジア大会決勝、大野-アンの指導は試合時間11分に及んだ。

大野-マシアス戦の様相は「概況解説・シード予想」を参照。仮にジャコヴァが上がってきた場合は初対戦となる。階級トップクラスの技の破壊力を持つジャコヴァと、それも初対戦となれば怖さはあるが、相性を考えればさほど心配はないはず。ジャコヴアの強さのベースはあくまでもパワー。ここは間違いなく大野の土俵であり、パワー派はより上の力を持つものには脆い。まして組み手は力関係の差が出やすい相四つである。ジャコヴア得意の体を投げ出して仕掛ける支釣込足や足技(意外に切れる)にさえ気をつければそれ程苦戦することはないだろう。

一方、アンとシャヴダトゥアシヴィリ。戦績はアンの3勝1敗ながら。最後に戦った2018年のグランドスラム・パリではアンが右小外掛「一本」で敗れている。この試合のポイントは間合い。寄りたいシャヴダトゥアシヴィリに間合いを取りたいアンという構図になると思われ、どちらが自分の距離で戦えるかが勝敗を分けるはずだ。ここでは柔道の絶対値と組み手の技術力の高さからアンの勝利と予想したい。

決勝の大野vsアン戦に関しての読みは、「概況解説・シード予想」を参照のこと。これまで幾度も大野と名勝負を繰り広げたアンだが、大野を正面から投げる絵は率直に言って想像しにくい。現実的には粘戦で長時間試合に持ち込み、「指導2」対「指導2」の状況に辿り着いてから加速、担ぎ技で山場を作っての「指導3」狙いという作戦をベースラインに据えるのではないか。逆に言うと事前予測の段階では(新しい武器を想定しない段階では)、そのくらいしか大野に対抗する手段は思い浮かばない。持ちどころ選ばず投げを打てる大野の側はアンを投げる「出口」の想定は複数可能。大野がどんな過程を経て投げるかがみどころとすら言っていい。

アンの側から見た過去大野との6試合の振り返りが、ロングインタビューとしてまとめてあるので、こちらも参照頂ければ幸いである。

アン・チャンリン ロングインタビュー③ 「試したことの多さこそ本番の武器、大野将平との6戦を振り返る」

※ eJudoメルマガ版7月25日掲載記事より転載・編集しています。

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