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【直前プレビュー】トーナメントの軸はカッスとグリガラシヴィリ、「死のブロック」引いた永瀬の初戦はアルバイラク/東京オリンピック柔道競技男子81kg級

(2021年7月26日)

※ eJudoメルマガ版7月24日掲載記事より転載・編集しています。
トーナメントの軸はカッスとグリガラシヴィリ、「死のブロック」引いた永瀬の初戦はアルバイラク
東京オリンピック柔道競技男子81kg級直前展望
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日本代表は永瀬貴規。

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6月のブダペスト世界選手権を制したマティアス・カッス。

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カッスと決勝を戦ったタト・グリガラシヴィリ。敢えて軸を挙げるならこの2人になる。

(エントリー35名)

エントリーは35名。階級概況・シード予想で示した予想からの、シード選手配置の変更はなし。シードから漏れた第1グループの3名の配置は対照的に難易度が分かれ、永瀬貴規(旭化成)とクリスティアン・パルラーティ(イタリア)はともにプールB上側の山、永瀬がヴェダット・アルバイラク(トルコ)の直下、そしてパルラ−ティがこの永瀬vsアルバイラクの勝者とベスト8を賭けて対戦する位置を引いた。率直に言って、相当厳しい山だ。一方、アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)はプールAの下側、アラン・フベトソフ(ロシア)がシードを張る、ほかの山と比べればもっとも勝ち上がりの容易な位置に置かれた。

全体としては強豪がバランスよく散らばり、第1シードのマティアス・カッス(ベルギー)の山がほぼ無風状態(ほかに有力選手がロビン・パチェック(スウェーデン)くらいしかいない)となっているくらいで、勝ち上がり難易度にそこまで大きな差はない。ただし、前述の永瀬の置かれたプールB上側の山だけは明らかに事情が異なる「死のブロック」。詰め込まれた選手が全員有力選手、敗者復活戦の出場が可能なベスト8までに前述の第1グループ3名とモハメド・アブデラル(エジプト)、ウングヴァリ・アッティラ(ハンガリー)の5名が壮絶な潰し合いを行うことになる。プール単位での過密はあれど、ベスト8までにこれだけの強豪が詰め込まれているのはさすがに異常事態。今大会全階級を通じてナンバーワンの過酷さである。詳細はプール評で触れるが、勝ち上がったとしても果たしてその後の上位戦を戦う力は残るのか、しかし生き残った後のことなど考えていては勝ち上がることなど到底覚束ないのではないか、そんなことを考えてしまうほどの地獄だ。

ここからは再び話をトーナメント全体に戻して、優勝の予想について述べていく。シード選手のほとんどが、山場はあれど概ねベスト8への勝ち上がりが期待できる組み合わせにはなっている。前述の「死のブロック」を除けば、フベトソフがヴァロア=フォルティエ、フランク・デヴィト(オランダ)がドミニク・レッセル(ドイツ)にそれぞれ取って代わられる可能性があるくらいだろうか。ベスト8までの対戦相手のレベルとしては、カッス、タト・グリガラシヴィリ(ジョージア)、サイード・モラエイ(モンゴル)の3名が比較的軽めの相手(といっても十分に強豪だが)を引いており、ある程度力を残して上位戦に勝ち上がる可能性が高い。この階級は全体のレベルこそ高いが、大会ごとに極端に調子の上下する選手は少ない印象がある。組み合わせを見る限りでは、恐らく極端な番狂わせはそれほどないはず。上位戦では全員優勝候補の、文字どおり最高峰の王座争奪戦が堪能できるはずだ。

有力選手の配置、各プールの勝ち上がり展望は下記。各選手の特徴については「選手名鑑」を、組み合わせは公式サイトで山組を確認のこと。。

■ プールA
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マティアス・カッス

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アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ

第1シード:マティアス・カッス(ベルギー)
第8シード:アラン・フベトソフ(ロシア)
有力選手:ロビン・パチェック(スウェーデン)ウラジミール・ゾロエフ(キルギスタン)アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)アレクシオス・ンタナツィディス(ギリシャ)

ベスト8への勝ち上がり候補はカッスとヴァロア=フォルティエ。カッスの側は3回戦で対戦するパチェック以外に有力選手はおらず、この選手とは力の差がある。ここは順当にカッスが勝ち上がるはず。一方下側の山は混戦。2回戦にフベトソフvsウラジミール・ゾロエフ(キルギスタン)、ヴァロア=フォルティエvsアレクシオス・ンタナツィディス(ギリシャ)のカードがそれぞれ組まれている。順当ならばフベトソフとヴァロア=フォルティエが勝ち上がるはずだが、ゾロエフは4月のアジア・オセアニア選手権を、モラエイを破るなどして制している実力者。爆発力もあり、この選手勝ち上がる可能性も十分にありえる。ここは仮にフベトソフが勝ち上がるとして、3回戦(まだ3回戦である…)の組み合わせはフベトソフvsヴァロア=フォルティエ。両者の対戦成績はヴァロア=フォルティエの2勝1敗、現在は2連勝中だ。ヴァロア=フォルティエが2019年以降非常に柔道の質が良くなりかつ一貫して好調であること、フベトソフには実力差をひっくり返すような飛び道具がなく今回のロシアチームはいずれも不調であることなどから予想すれば、ここも実力どおりにヴァロア=フォルティエが勝ち上がるはずだ。よって準々決勝はカッスvsヴァロア=フォルティエ。対戦成績は1勝1敗で五分だが、最近のヴァロア=フォルティエは癖のない正統派の業師であり、カッスのような戦術タイプとはあまり相性が良いとは考え難い。また、組み合わせによる消耗の差があるとも考えられ、ここはカッス勝利と予想したい。

■ プールB
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ヴェダット・アルバイラク

第4シード:ヴェダット・アルバイラク(トルコ)
第5シード:フランク・デヴィト(オランダ)
有力選手:モハメド・アブデラル(エジプト)ウングヴァリ ・アッティラ(ハンガリー)クリスティアン・パルラーティ(イタリア)ドミニク・レッセル(ドイツ)
日本代表選手:永瀬貴規(旭化成)

「死のブロック」。まずは下側の山の1回戦でアブデラルvsウングヴァリの試合が行われる。両者は今年4月のグランドスラム・アンタルヤで対戦しており、その際はウングヴァリが右小外刈「技有」で勝利している。試合の様相を見る限りウングヴァリはアブデラルの怪力を余裕を持って捌けており、今回もこちらが勝利するはずだ。よって続く2回戦の組み合わせはアルバイラクvs永瀬、パルラ−ティvsウングヴァリとなる。永瀬とアルバイラクは2019年に2度対戦しており、いずれも永瀬が勝利している。アルバイラクの最大の強みはその怪力だが、永瀬は体幹の強さと足腰の粘りで十分以上にそれと渡り合えていた。これを前提にすれば、柔道がわかりやすい腰技系のアルバイラクは永瀬にとっては戦い易い相手。対応を誤って密着しての一撃を食らわない限りそこまで苦戦せずに勝てるはずだ。一方下側の山からはパルラ−ティの勝ち上がりが濃厚。対戦成績でも5勝0敗と一方的に勝ち越しており、過去の対戦ではいずれもウングヴァリは長身選手パルラ−ティの「長さ」を持て余していた。よって3回戦は永瀬vsパルラ−ティとなる。永瀬は今年3月のグランドスラム・タシケントでこの選手に大内刈「一本」で敗れており、ここが序盤戦最大の山場だ。ただしこの大会はパルラ−ティがトップ層に加わるきっかけになった大会であり、永瀬だけでなくこの選手独特の右大内刈(「低空コンパス回し」とでも表現すえばよいか)でシャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)も敗れている。一度食らった永瀬は対応策を準備してくるはずであり、順当ならば実力どおりに永瀬が勝ち上がるはずだ。

と、ここまで書いて気づいたのだが、上記はあくまでのもプールの上側だけの話。あまりの密度に認識が狂うが、まだ下側が残っている。

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>フランク・デヴィト

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ドミニク・レッセル

とはいえ、下側は至ってシンプル。デヴィトとレッセル以外には有力選手はおらず、3回戦で組まれる両者の試合の勝者がベスト8に勝ち上がることになる。対戦成績はレッセルの2勝1敗。しかし最後に対戦した2018年グランプリ・ハーグではデヴィトが右小内刈「一本」で勝利している。相性的には返し技専門のレッセルに本来分があるが、この選手はコロナ明けは2月のグランドスラム・テルアビブ7位以外に上位線に勝ち上がれておらず、調子を落としている。ここは敢えてデヴィトが勢いでと馬力で塗りつぶして勝ち上がると予想したい。

よって準々決勝は永瀬vsデヴィト。過去の対戦では永瀬が3連勝している。ただし相手とのやり取りのなかで技を繰り出すタイプの永瀬はそんなものお構いなしに自分のやりたいことをやってくるデヴィトを比較的苦手としている。事実、初回の対戦では先に「技有」をリードされての逆転勝ち。以降の2戦も先に「指導2」を背負わされている。デヴィトは戦略性が極度に薄く、最終的には実力で勝る永瀬が勝利すると思われるが、それはあくまで最低限の体力が残っていた場合のこと。やはり勝負のポイントはここに至るまでの消耗をいかに抑えるかだ。

■ プールC
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2019年の世界王者サギ・ムキ。

第2シード:サギ・ムキ(イスラエル)
第7シード:シャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)
有力選手:エドゥアルド=ユウジ・サントス(ブラジル)アンリ・エグティゼ(ポルトガル)シャミル・ボルチャシヴィリ(オーストリア)イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)エマニュエル・ルセンティ(アルゼンチン)

この山も上側と下側で明暗が分かれた格好。上側の山は2回戦でサギ・ムキ(イスラエル)vsエドゥアルド=ユジ・サントス(ブラジル)、アンリ・エグティゼ(ポルトガル)vsシャミル・ボルチャシヴィリ(オーストリア)のカードがそれぞれ組まれている。順当ならば勝ち上がるのはムキとエグティゼ。ただしボルチャシヴィリは肩車で過去に佐々木健志(ALSOK)やモラエイなどを食っている階級屈指の荒らし屋。もちろん相応に実力もあり、こちらが3回戦に勝ち上がる可能性もある。ムキに関しても最近はあまり冴えた戦いを見せておらず、サントスに敗れる可能性、決して低くはない。これは事前予測であるので、仮に、順当にムキとエグティゼが勝ち上がるとして稿を進める。両者が矛を交えたのは今年の欧州選手権の1度のみ、その際はエグティゼが「指導3」で勝利している。この選手は6月のブダペスト世界選手権でも3位を獲得するなどもっか好調であり、ムキの調子が仮に戻っていなければこちらが勝ち上がる可能性も高い。ここも純戦力で勝るムキが勝ち上がると順当に予想してはおくが、ここまでを読んで分かるとおり全員に勝ち上がりの目がある混戦だ。

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シャロフィディン・ボルタボエフ

続いて下側の山。こちらはシャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)とイヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)の3回戦での対戦が濃厚。対戦成績は1勝1敗でどちらも過去1年以内。直近の戦いではボルタボエフが勝利している。戦績的には五分だが、ボルタボエフが敗れた試合はコロナ禍明け直後、選手のコンディションにかなりばらつきがあったグランドスラム・ブダペストという特殊な大会。以降は一貫して好成績を残していることからも、ここは格どおりにボルタボエフの勝利と予想したい。

よって準々決勝はムキvsボルタボエフ。対戦成績はムキの2勝1敗ながら、直近ではボルタボエフが勝利している。最近の両者の戦いぶりを比べてもムキがボルタボエフに勝利できるところまで調子を戻してくるとは考え難く、ここはボルタボエフ勝利と予想する。

■ プールD
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タト・グリガラシヴィリ

第3シード:タト・グリガラシヴィリ(ジョージア)
第6シード:サイード・モラエイ(モンゴル)
有力選手:ナシフ・エリアス(レバノン)イ・スンホ(韓国)ディダル・ハムザ(カザフスタン)ムラド・ファティエフ(アゼルバイジャン)

この山はAシード選手2名の勝ち上がりが濃厚。どちらも形上の山場が設定されているが、実力的に乗り越えることはそれほど難しくない。まずは上側の山のグリガラシヴィリ。3回戦でイ・スンホ(韓国)の挑戦を受ける。強者ではあるが、組み手と足技の連動から担ぎ技を仕掛けるという柔道が素直なタイプ。グリガラシヴィリとしては戦いにくい相手ではなく、それほど問題なく勝ち上がれるはずだ。

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サイード・モラエイ

続いてモラエイ。こちらはやや勝ち上がりの難度が上がり、2回戦でディダル・ハムザ(カザフスタン)、3回戦でムラド・ファティエフ(アゼルバイジャン)と対戦する。ハムザは2018年のアジア競技大会決勝で敗れた因縁の相手だが、今年のアジア・オセアニア選手権ではGS延長戦での肩車「技有」で勝利している。現時点での実力差ならば敗れることはまずないだろう。3回戦のファティエフも好選手ながらモラエイとの間には力の差があり、余程のアクシデントが起こらない限り敗れることはないはずだ。

よって準々決勝はグリガラシヴィリvsモラエイ。少々以外ではあるが、過去の対戦では2勝1敗とモラエイが勝ち越しており、かつ2連勝中。2020年以降は対戦がないが、モラエイとしてはそれ程戦いにくい相手ではないということだろう。とはいえ、最近の戦いぶりから予想される純戦力はグリガラシヴィリの方が上だと思われ、勝ち上がるのもこちらになるはずだ。

■ 準決勝~決勝
上記から準決勝はカッスvs永瀬、ボルタボエフvsグリガラシヴィリになると予想する。

前者については、日本人としては苦しいところだが、両者の勝ち上がりの厳しさの差、そしてそれによる消耗の具合の差からカッスがかなり有利なはず。ただし柔道自体の強さは永瀬が上だ。勝敗予想としては戦略力に勝るカッスが永瀬の消耗を前提とした作戦で勝利すると予想するが、永瀬もご存知のとおり異常人である。こちらの想像を越えての勝利に期待したい。

一方後者はグリガラシヴィリの勝利が濃厚。両者は2018年のヨーロッパオープン・プラハで1度だけ対戦しており、その際は大内返「一本」でボルタボエフが勝利している。しかし、ボルタボエフはパワー前提の柔道のためここまでの消耗が大きいはず。普段のトーナメントでも前半に比べて後半は失速することが多々あり、この点はグリガラシヴィリにアドバンテージがある。また、最近の試合を見る限り純粋な柔道の強さでもグリガラシヴィリが上と思われ、こちらが決勝まで勝ち上がるはずである。

よって決勝はカッスvsグリガラシヴィリ。6月のブダペスト世界選手権決勝の再戦になると予想する。その際はカッスが常にグリガラシヴィリの一手先の手札を出し続ける展開力の高さで勝利しているが、あの試合を経たグリガラシヴィリがどのような解を持ち込むのかに注目したい。

※ eJudoメルマガ版7月24日掲載記事より転載・編集しています。

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