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【直前プレビュー】髙藤最大の山場はチフヴィミアニとの準々決勝、序盤のみどころはムシュビドバゼに“ロシア60kg級の確変”あるか/東京オリンピック柔道競技男子60kg級

(2021年7月23日)

※ eJudoメルマガ版7月23日掲載記事より転載・編集しています。
髙藤最大の山場はチフヴィミアニとの準々決勝、序盤のみどころはムシュビドバゼに“ロシア60kg級の確変”あるか
東京オリンピック柔道競技男子60kg級直前プレビュー
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V候補筆頭は髙藤直寿

(エントリー23名)

エントリーは23名。ドロー(抽選)を終え、「概況解説・シード予想」で示した予想からのシード選手配置の変更はなし。日本代表の髙藤直寿(パーク24)は第2シードでプールC配置、準々決勝で2019年東京世界選手権の覇者ルフミ・チフヴィミアニ(ジョージア)との対戦が待ち受ける。

「第1グループ」と規定される強豪で唯一シードから溢れていたダシュダワー・アマルツヴシン(モンゴル)は抽選の結果プールA、ロベルト・ムシュヴィドバゼ(ロシア)の直下に配された。伏兵候補2名はともにプールD、ヨーレ・フェルストラーテン(ベルギー)が髙藤の直下、カラマット・フセイノフ(アゼルバイジャン)がルフミ・チフヴィミアニ(ジョージア)の直下にそれぞれ配された。

優勝候補は髙藤。この階級は上位候補が全員シード枠に入っているため、大枠としては「シード予想」で示した勝ち上がり予想からの変化はない。もっともコンディションの影響を受けやすい階級で事前予測は難しいのだが、順当であればシード選手8名がそのまま準々決勝に勝ち上がるはず。髙藤にとって最大の勝負どころもドロー前と変わらず、準々決勝のチフヴィミアニ戦だ。ただし、初戦に伏兵候補のフェルストラーテンが置かれたため、まずはこの山を超える必要がある。今年4月のグランドスラム・アンタルヤで突如ブレイク、準決勝からの2試合をすさまじい内股「一本」で勝ち抜いて優勝した、つまりは順行運転に留まらぬ「梯子」を持った選手だ。持ち味はもちろん馬力ある立技、そして寝技。髙藤の練度を考えれば寝勝負で敗れることは考えられず、警戒すべきはやはり立ち勝負。力の差を考えれば危ない場面すら生まれないはずだが、相手は馬力があり、かつ先に1試合を戦って既にエンジンが掛かっている状態。試合の入り方、特に開始直後にいきなり間合いを詰められての一発には十分気を配っておきたい。

有力選手の配置、各プールのひとこと展望は下記。各人の特徴は公開済みの「選手名鑑」を、勢力図と巨視的な「読み」は「概況解説・シード予想」を参照頂きたい。山組みは公式サイト(https://www.ijf.org/competition/2035/draw?id_weight=1)で確認のこと。

■ プールA
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第1シードはロベルト・ムシュヴィドバゼ。

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相性と今年ここまでの成績からはヤン・ユンウェイの勝ち上がりを推したい。

第1シード:ロベルト・ムシュヴィドバゼ(ロシア)
第8シード:ヤン・ユンウェイ(台湾)
有力選手:ダシュダワー・アマルツヴシン(モンゴル)トルニケ・チャカドア(オランダ)レニン・プレシアド(エクアドル)ヤニスラフ・ゲルチェフ(ブルガリア)

トーナメント最大の激戦区。第1シードのムシュヴィドバゼの直下にダシュダワーとトルニケ・チャカドア(オランダ)が置かれて初戦で激突。第8シードのヤン・ユンウェイ(台湾)の下にも階級屈指の曲者ヤニスラフ・ゲルチェフ(ブルガリア)が配されている。ダシュダワーとチャカドアの対決は1回戦屈指の好カード。両者ともに密着しての一発を持ち味としており、緊張感ある接近戦が楽しめるはずだ。

順当であれば2回戦のカードはムシュヴィドバゼvsダシュダワー、ヤンvsゲルチェフとなるはず。ムシュヴィドバゼとダシュダワーは過去に6回戦っており、戦績はムシュヴィドバゼの4勝2敗。直近でも2連勝している。ムシュヴィドバゼは組み手巧者だが、最終的な形は相手を抱き込んでの密着。この試合もお互いに間合いを詰めての激しい投げの打ち合いになるはずだ。ダシュダワーが今年唯一出場した1月のワールドマスターズ・ドーハであまり良いパフォーマンスを見せていないことからムシュヴィドバゼの勝利と予想するが、この選手は調子に波があるタイプ。コンディション次第ではここで姿を消す可能性も十分に考えられる。ただし、なにしろムシュヴィドバゼは「五輪に強いロシア」の、それも2大会連続金メダル獲得中の60kg級代表。ムシュヴィドバゼのピーキングは、大会第1日を通じた最大のみどころのひとつである。今回も凄まじい仕上がりを見せてこの段階で我々を仰け反らせてくれるのではないか。楽しみで、そしてちょっと怖い。

一方、ヤンとゲルチェフはこれが初顔合わせ。例によってゲルチェフは引き込み技を連発するはずだが、ヤンは寝技も巧者、逆にこれを端緒にキッチリ寝技を展開するはず。グラウンドでの練度ではヤンに分があると思われ、かつ引き込み技しかないゲルチェフの属性を考え合わせると、最終的には寝勝負でヤンの勝利と予想したい。

よって、ベスト8はムシュヴィドバゼvsヤン。対戦成績は1勝1敗のタイ。ヤンが階級上位の力を手に入れてからの対戦は2019年東京世界選手権(2回戦)のみで、ヤンが組み手で圧倒して「指導3」で勝利している。組み手はムシュヴィドバゼの生命線でもあり、そこで上を行かれては自らの柔道をまっとうするのは厳しいはず。今回もヤンの勝利と予想したい。もしムシュヴィドバゼが勝ち上がるようなことがあれば、それは前述、ロシア伝統の「五輪での確変」が起きている可能性大だ。

■ プールB
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他プールに比べると凹みあり。もっかの調子からフランシスコ・ガリーゴス優位。

第4シード:フランシスコ・ガリーゴス(スペイン)
第5シード:シャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)
有力選手:ルカ・ムヘイゼ(フランス)アルテム・レシュク(ウクライナ)

シード選手2名のベスト8への勝ち上がりが濃厚。2回戦の組み合わせはフランシスコ・ガリーゴス(スペイン)vsルカ・ムヘイゼ(フランス)、シャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)vsアルテム・レシュク(ウクライナ)と予想するが、両カードいずれもは力の差が大きすぎる。ガリーゴスがいかに“平均値男”でも、そしてルトフィラエフがいかに最近勝ちきれていなくても、よほどのことがない限りは負けないはずだ。よって、準々決勝の組み合わせはガリーゴスvsルトフィラエフ。「概況解説・シード予想」でも触れたとおり、ルトフィラエフは爆発力はあるもののここ最近は不調。さらに平均値がそれほど高いタイプではない。一方のガリーゴスは6月のブダペスト世界選手権で自身初の世界大会のメダル(3位)を獲得するなど乗っている。ルトフィラエフがよほどのハイコンディションに仕上げてきていない限り(仕上げている可能性ももちろんあるが)、ガリーゴス勝利と予想するのが順当だろう。

■ プールC
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髙藤―チフヴィミアニはこの日最大の山場。

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髙藤の直下には伏兵候補のフェルストラーテンが配された。

第2シード:髙藤直寿(パーク24)
第7シード:ルフミ・チフヴィミアニ(ジョージア)
有力選手:ヨーレ・フェルストラーテン(ベルギー)モリッツ・プラフキー(ドイツ)アシュリー・マッケンジー(イギリス)カラマット・フセイノフ(アゼルバイジャン)

プールAに次ぐ激戦区。役者の数では劣るが、質は明らかにこちらの方が上だ。ベスト8への勝ち上がり候補はシード選手の髙藤とチフヴィミアニだが、それぞれの2回戦の相手にはともに本トーナメント屈指の「伏兵候補枠」であるフェルストラーテンとフセイノフという刺客が配されている。フセイノフは6月のブダペスト世界選手権で永山竜樹(了徳寺大職)を破って3位入賞したばかり。この勢いを考えれば、1回戦で戦うアシュリー・マッケンジー(イギリス)が止めることは難しいはずだ。2回戦のカードはまず間違いなく髙藤vsフェルストラーテン、チフヴィミアニvsフセイノフとなる。

前者については既に本文でも触れたので詳細は省くが、髙藤の勝利が濃厚。一方、後者はこの試合が初顔合わせ。フセイノフの担ぎ技連発スタイルは返し技の専門家であるチフヴィミアニにとっては戦いやすいと思われ、チフヴィミアニが抱分、あるいはそれに類する技でフセイノフの担ぎ技を返して勝ち上がると予想する。チフヴィミアニのコンディションが悪い場合はフセイノフ勝利もあり得るが、5月のグランドスラム・カザン(優勝)での戦いぶりを見る限りその可能性は低いだろう。よって、準々決勝のカードは髙藤vsチフヴィミアニ。間違いなくここが本トーナメント最大の山場だ。内容の予想は「概況解説・シード予想」で詳細に行っているためここでは触れないが、まさに必見。最注目試合である。

■ プールD
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イェルドス・スメトフの勝ち上がり濃厚。

第3シード:イェルドス・スメトフ(カザフスタン)
第6シード:キム・ウォンジン(韓国)
有力選手:ミフラジ・アックス(トルコ)エリック・タカバタケ(ブラジル)

シード選手の勝ち上がりが濃厚な山。プールBと比べてもシード選手2名とそれ以外の力の差が大きく、番狂わせはまずあり得ない。2回戦の組み合わせ予想はイェルドス・スメトフ(カザフスタン)vsミフラジ・アックス(トルコ)、キム・ウォンジン(韓国)vsエリック・タカバタケ(ブラジル)。アックス、タカバタケともに柔道の面白い好選手ではあるが、相手がスメトフとキム、さらにすべての選手が一段も二段も調子を上げる五輪が舞台とあっては、勝負に持ち込むこと自体が難しいだろう。よって、準々決勝のカードはスメトフvsキム。意外にも過去の戦績ではキムが2勝1敗で勝ち越しているが、最後に戦った2020年グランドスラム・パリではスメトフが豪快な裏投「一本」で勝利している。恐らくこれが現在の力関係にもっとも近いと思われる。最高到達点の高さも考えあわせて、今回もスメトフ勝利と予想したい。キムとしては前述の対戦のイメージが残るスメトフが密着してきたところで何らかの勝負を仕掛けたいところだが、そもそもの地力に差があるため、これも厳しいだろう。

■ 準決勝~決勝
準決勝以降の読みは既に「概況解説」で書かせて頂いた通り。髙藤vsスメトフの準決勝は過去3戦全勝というスタッツをテコに、髙藤勝利を予想する。

逆側の山は、平時の力関係で試合が進めばヤンとガリーゴスと読む。この場合、ヤンが決勝に進む可能性が高い。そしてヤンは髙藤にとって戦いにくい相手ではない。髙藤優勝のシナリオは大きく広がる。

怖いのはムシュヴィドバゼが上がってくる場合。いまのムシュヴィドバゼがここまで辿り着くということは、間違いなくロシアの伝統である「五輪60kg級代表の確変」が起きているということだからだ。そうなればこの試合はまさに髙藤の柔道キャリアの総決算。リオでは五輪独特の「全選手が異常に巻き上がる」空間の前に一敗地に塗れた髙藤。以降の5年間この異常な空間でいかに勝つかを考え抜き、すべてのリソースを注ぎ込んで来た髙藤が最終戦で相手にするのが、この確変現象の申し子であるロシア代表であるというのはまさに運命のめぐり合わせだろう。髙藤の道行きのまとめとして、これ以上の相手はいない。髙藤勝っての大団円を、強く願う。

※ eJudoメルマガ版7月23日掲載記事より転載・編集しています。

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