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【eJudo’s EYE】いちばん面白かったのはこの階級!ファン視点で送る「各階級採点表」/ブダペスト世界柔道選手権2021

(2021年7月5日)

※ eJudoメルマガ版7月5日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】いちばん面白かったのはこの階級!ファン視点で送る「各階級採点表」
ブダペスト世界柔道選手権2021
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100kg級2連覇のジョルジ・フォンセカがTVカメラに向かって大ジャンプ!

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

初の試み。より「ファン」に寄った視点から大会の様相をお伝えすべく、独断と偏見に基づくブダペスト世界選手権2021「各階級採点表」をお送りする。予想を超えてかなり面白い大会であり、もっかのワールドツアーの豊かさが堪能出来た大会(階級による凹凸はかなりあるが)だったのだが、レポート記事や「評」だけはどうしてもこういう「楽しさ」が伝えづらい。2019年東京世界選手権の会場解説はこういう枷を外した「お祭り感」を前面に出して楽しくやらせていただいたのだが、ああいうファン感覚での、もっと楽しさとか、ドラマとしての完成度とか、階級間のレべル差とか、集まった選手の格とか魅力とか、そういうごたごたしたものを表現できるような「遊び」がないかと考えた結果、こういう形で試みることにした。きっかけは、4日目の81kg級があまりに豊かだったこと。これをどう伝えようと思いつつ決勝を見ながら「階級自体の点数をつければいいんじゃない?」とふと思い立ち、90kg級、100kg級とそこから充実階級が続いたことで、一度やってみるかと形にしてみた。あくまで「遊び」であるが、もし宜しければご一読いただきたい。好評なら、次回以降も試みる所存。

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決勝カードはアブラゼとキルギズバエフ。なんとか世界選手権の格を保ったというところ。

男子60kg級 5.0
①ヤゴ・アブラゼ(ロシア) ②グスマン・キルギズバエフ(カザフスタン)
③カラマット・フセイノフ(アゼルバイジャン)、フランシスコ・ガリーゴス(スペイン)

トップ選手の出場少ない中でV候補筆頭の永山竜樹が早々に脱落。ファン心理的にこうなるとメンバーからしてアブラゼ優勝以外のシナリオはちょっと受け入れがたいよなあ、という中でなんとかそのアブラゼが優勝してくれて大会の格を保った格好。決勝で相手役を務めたキルギズバエフとともに難しい大会をよくぞ勝ち上がってくれた、というのが率直なところ。日本勢2人の早期敗退によって逆に世界選手権らしい特別感は醸し出していたが、一線級少ない面子的にも試合内容の粗さからも唯一無二の世界一王座決定戦というよりは「ワールドツアー」の続きという匂いが濃かった。あまり高い点はあげられないかな?というのが正直な感想。とはいえ、アブラゼ自身は得意の腰を深く入れる外巻込に「加藤返し」とかなり魅せてくれたし(その後代表はロベルト・ムシュヴィドバゼに決定、率直に五輪で見てみたい男だった)、来るぞ来るぞと2年間マークしながらなかなか爆発しなかったフセイノフのついに来た確変3位入賞、全員本気の世界大会ではまったくダメだったワールドツアー安定水平飛行の鬼・ガリーゴスの世界選手権5大会目にして初のメダル(入賞すらこれが初めて)獲得など「やりおったのう」とウンウンうなずけるドラマ多し。サイドストーリーではあるが、ワリード・キアの準決勝、9分41秒掛けて「指導3」で勝ったと思ったら取り消し、直後キルギズバエフに投げられて全てを失うという結末(ちなみに展開的にはキルギズバエフの勝ちで良しの試合である)も、キアのキャラと相まって最高だった。もしこれが逆の結果だったらなんとキアが決勝進出であったわけで、そう考えると「なんとか形になった」この階級の最大のハイライトはこの試合だったかもしれない。キアはこのまま3位決定戦も落として表彰台なし。負けたら地獄の準決勝、このあたりは十分世界選手権ぽかったと言える。

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丸山優勝も、トーナメント全体として見るといまひとつダイナミズムに欠けた。

男子66kg級 5.5
①丸山城志郎 ②マヌエル・ロンバルド(イタリア)
③ヤクブ・シャミロフ(ロシア)、ヨンドンペレンレイ・バスフー(モンゴル)

丸山の優勝は圧巻。見ているこちらも早い段階で不調とわかってしまったゆえ、以後は逆に「凄い」「どういうメンタルだ」「人間じゃない」とその骨太の戦いぶりにハアハア息を荒げて大興奮だった。戦評用ノート、恥ずかしながら事実よりもこういう感嘆の書き込みで埋まってしまった。決勝の相手役にもマヌエル・ロンバルド(イタリア)が上がって来てくれて顔合わせとしてはまさに文句なしだったのだが、冷静に評価するとファイナリストの丸山・ロンバルドともに不調で、トーナメント全体のダイナミズムには欠けた。デニス・ヴィエルが大会直前に出場を取り下げて、上がり目のサルドル・ヌリラエフ(ウズベキスタン)やムラド・チョパノフ(ロシア)ら確変要素を孕むいまが旬の選手も上位対戦に残れず。トーナメント全体として好役者が互いに力を出し切って一段上の化学変化を起こす、というところまでは登り詰められなかった。とはいえ「体力おばけ」(2019年東京世界選手権の会場解説で小野卓志さんと命名。「タフネス直リン」でもいい)ことヨンドンペレンレイの3位入賞は嬉しかった。ガッツリ組み勝って思い切り掛けるけどなぜかなかなか決められない、組み負けて思い切り投げられてるんだけどなぜかギリギリでポイントにはさせない、そして長時間試合が当たり前というこの人にすべてを塗り潰されたのが前述ロシア期待の星チョパノフ。最終戦の3位決定戦は不戦勝、前戦(準決勝)でロンバルドの隅落を食って膝を傷めた模様のイェルドス・ジューマカノフ(カザフスタン)が畳に現れなかったのだが、思わず「もし出られるレベルの怪我でも、そんな状態でヨンドンとはやりたくないよなあ」とひとりごちてしまった。余談ながら、どこに重心があるかわからない冷蔵庫のようなこのヨンドンペレンレイ、強いくせにどこか初心者みたいな構え方も印象的なのだが、今大会2回戦ではモハメド・アブデルマウグド(エジプト)を完璧に袈裟固で抑え込みながら、息も絶え絶えのアブデルマウグドがようやく帯を持ち、膝を曲げ、おもむろに「よいしょ」と体を起こしたらなぜだかぶっ飛んであっさり逃げられてしまっていた。ちょっと異様な逃げられ方。寝技がヘタでは済まされない。どこに重心があったらそうなるんだろう。謎と言うしかないが、なまじ逃げられてしまったためにあと1分半、この面倒な相手と「相撲」をとらされ続けるアブデルマウグドのほうが気の毒だった(このあとも、そこで決まるはず!なんで返しきれないの?なんで投げが決まらないの?まだ試合続くの?という場面が頻発していた。一瞬たりとも休ませてもらえず全力で攻防を強いられるのに試合は全然終わらないのだ)。ますます、不調なのにこのヨンドンペレンレイをきちんと「指導3」で退けた丸山の凄さが際立つというものである。すっかり話が逸れてしまったが、フルメンバー揃って好試合連発だった2019年東京世界選手権の幸せな記憶があまりに濃すぎるゆえか、若干の寂しさは否めず。丸山の凄みに救われた階級と総括。

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「熱量」からのMVPはウングヴァリ・ミクロス。

男子73kg級 6.5
①ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア) ②トミー・マシアス(スウェーデン)
③ビラル・ジログル(トルコ)、橋本壮市

かつての変則柔道などその片鱗もなし、もはや全方位型と言えるところまで柔道の幅を広げてついに73kg級でも世界の頂点に辿り着いたシャヴダトゥアシヴィリ。そしてこちらもいったんオーソドックスな技を志向して幅を広げ、もともと得意であった捨身技のレベルを上げて明らかに一段強くなったマシアス。さらに世界の誰とも異なる柔道で勝ち上がった橋本壮市。表彰台に登ったこれら上位陣の個性豊かな戦いぶりをたっぷり楽しませてもらった。「熱量」の観点からのMVPは今大会を引退試合と定めた地元の英雄、40歳ウングヴァリ・ミクロス(ハンガリー)。3回戦ではなんとツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)を得意の小内巻込で屠ってもうこの時点で大会の主役。準々決勝では優勝したシャヴダトゥアシヴィリとなんと総試合時間11分7秒(「指導3」で決着)の大熱戦、ハンガリーのファンはボロボロ涙を流しながら試合を見守っていた、ことと思う。きっと。そうでないはずがない。だって私ですら涙が出てしまったから。正直言ってもうめちゃくちゃ勝たせてあげたい一番だった。最終結果は7位であったが、奇跡の五輪出場に望みをかけて、地元の世界選手権という一大イベントを死に場所に定めたウングヴァリの壮絶な「終戦」(ヒダヤット・ヘイダロフに抑え込まれて力尽き動けない、その絵がまた心に染みた)には大いに感情を揺り動かされた。日本でこれが出来る(=40歳までトップで五輪に挑戦して討ち死に)なら誰にやって欲しいかなあと思わず候補者の顔を思い浮かべたりもしながら。面白い階級だった。女子でも57kg級カナダ代表決定という大きなドラマのあったこの第3日が、ブダペスト世界選手権2021のターニングポイントであったように思う。単なる五輪のクオリファイ大会ではない、4日目以降の大熱戦に向けてく大きなうねりが生まれた1日であった。

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カッスの柔道はもっかの国際柔道の最前線。

男子81kg級 7.5
①マティアス・カッス(ベルギー) ②タト・グリガラシヴィリ(ジョージア)
③フランク・デヴィト(オランダ)、アンリ・エグティゼ(ポルトガル)

上位選手たちの熟れた柔道、そして豊かなやりとりが最高だった。特にカッスとグリガラシヴィリの決勝はもう、息を呑みっぱなし。カッスの柔道はもっかの国際柔道の最前線。常に能動的に試合を動かしながら、寄せて良し、離れて良し、そして担ぐわ、捨てるわ、投げるわ、「指導」を押し付けるわ。握っても抱いても柔道が出来て、しかもそういった手札(具体的な技だけではない)を「どう使うか」が実に的確。投技はどれも2発、3発と組み合わせてプログラムされており陳腐さがない。普通の受けではちょっとついていけない。準備の時点の知力でまず上を行き、そして相手の意図を読んで的確な技術を繰り出す現場運用能力の高さで「効き」にターボを掛けている。カッスの柔道で、グリガラシヴィリ相手に移腰で勝負決めに行くか。緻密さなだけでないこの発想のジャンプ力、と言いたくなるのだが、むしろ緻密で冷静、ドライな判断が出来るからこういう一見「想像の上」の投げを決められるのだろう。一方のグリガラシヴィリも代名詞の豪快な一発に向かって、そしてカッスの意図を読んで種々様々の仕掛けでゴールを目指す。柔道という肉体言語をフルに使ったコミュニケーション、実にレベル高く豊かなやりとり。ワールドツアーという「文化」の面白さに酔いしれて当方は大満足、そしてほとんど嫉妬すら覚えた。デヴィト、シャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)、サイード・モラエイ(モンゴル)ら出来にはバラつきあれど、これぞの選手が自身の面白さと他者との「やりとり」の旨味を発揮。エントリーは大会最多の77名、面子も良し。最高だった。

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シェラザディシヴィリ。ガッツポーズも「長い」

男子90kg級 7.0
①ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン) ②ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)
③トート ・クリスティアン(ハンガリー) ③マーカス・ニーマン(スウェーデン)

前日81kg級の流れが加速。自身の長所は何かを知悉し、いかにそれを発揮するかを突き詰めたスター選手たちが魅力的な戦いを繰り広げた。カッコ良かった。シェラザディシヴィリ、ボボノフ、ニーマンの日本勢に勝利して表彰台に登った3人に特にこの色濃し。シェラザディシヴィリが己の長身と腰の強さを生かすために技、組み手、間合いとすべての手札を尽くして迫り(捨身技すら作りに使う)、一方のボボノフがあくまで同じ土俵に立つまいと己の柔道を「引き算」、的確に引き出しを開けて並走した決勝はこの日の白眉であった。まさしく豊穣。冷静に言えば、81kg級に比べると参加メンバーがやや歯欠けで比較的上位の顔ぶれが読みやすかったことで、全体としては一段減点。2回戦で素晴らしい帯取返を決めながら河津掛でダイレクト反則負け(史上最も豪快な河津掛だったのではないか)となってしまったベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)を上位対戦で見たかった。グヴィニアシヴィリが優勝して悲願の世界一達成、そこに彼を兄貴と慕う、そして己が手でその五輪出場の夢を砕いてしまう残酷な運命に見舞われた後輩ラシャ・ベカウリ(あの試合後、逆に涙して寄り添うベカウリを肩を抱いて慰めるグヴィニアシヴィリの絵は泣けた)が駆け寄って「おめでとうございます、俺もやります」と五輪金メダルを誓って2人で涙するとか、そういう絵があっても良かったなあ、と妄想はどこまでも膨らむ。早く日本人選手もこういう妄想の輪に加わって欲しい。若い村尾三四郎に大期待。

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100kg級は「フォンセカ劇場」状態。

100kg級 7.0
①ジョルジ・フォンセカ(ポルトガル) ②アレクサンダー・クコリ(ポルトガル)
③ヴァルラム・リパルテリアニ(ジョージア) ③イリア・スラマニゼ(ジョージア)

「フォンセカ祭り」再び。初戦の大巨人ムザファルベク・ツロボエフ(ウズベキスタン)狩りを皮切りにバシバシ背負投と袖釣込腰を決め捲ったその試合内容はもちろん、LIVE中継中のクレーンカメラに向かって見せた勝利の大ジャンプに満場期待の「ダンス」締めまで、まさにワンマンショー。この人だけで十分以上に楽しめる1日だった。あの2019年東京世界選手権決勝後、嬉しさのあまりオフィシャル解説の業務を忘れて「フォンセカ―!」とひたすら叫び続けていた筆者であるが、正直なところ「フォンセカ、1回世界一取れて良かったな。それもこんなに凄い階級で。あとは時々ツアーでメダルを獲って、尊敬されつつオンリーワンの幸せな柔道人生を送ってくれよ」くらいの見積もりでいた。そして以後のツアーの成績は大枠この予見通りに進んでいたと思うのだが、もう不明を恥じるしかない。なんと世界選手権2連覇。秒殺連発の戦いぶりから勝利のパフォーマンスまでもう、まさに世界のスターである。10点満点じゃ採点できない、いっそ100点あげちゃうよ!と叫んで許しを請いたい(冷静に7.0としました)。そして大スターになったその姿に、私が大好きだった3回戦ボーイの業師はもういないんだなあ(毎度予選ラウンドでコケる度に、ああー今回も放送乗らないよ、いつになったら紹介できるんだろう、とJSPORTSでため息をついていた)、と一抹寂しさを感じるのが、これがまた贅沢。ワールドツアーも豊かになったものである。
そしてフォンセカだけじゃない。決勝進出以外は五輪代表権獲得が難しかったはずのクコリの奇跡的なミッション達成をはじめドラマ多し。前日までの流れを踏襲し、己の長所をしっかり伸ばし、これをどう発揮するかにリソースを振った強者たちの戦いは実に見ごたえがあった。役者揃ったプールファイナルは特に華々しく、エルナハスのアルマン・アダミアン狩り、フォンセカのスラマニゼ一蹴、クコリのリパルテリアニ打倒と、どれも結果と内容はもちろんカードだけで大興奮のレベル。マイケル・コレルがアレクサンドル・イディー(フランス)を倒した一番のみが「まあ順当」と一瞬捨てカード(※そんなことはない)に思えてしまうほど。実力者ぎっしりのここも「修羅の国」である100kg級のサバイバル、その中でありえないジャンプ力を見せて他を引き離したフォンセカ。飯田健太郎の予選ラウンド敗退は悔しいが、その後の試合が面白過ぎた。最高の1日だった。

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3位入賞のメイヤーはダンスで魅せた。「ワーム」もぜひ映像でご確認を。

1100kg超級 5.5
①影浦心 ②タメルラン・バシャエフ(ロシア)
③ロイ・メイヤー(オランダ)、ヤキフ・ハモー(ウクライナ)

期待通りに影浦、バシャエフと優勝候補同士による決勝が実現してここは買いなのだが、肝心のこの2人の調子があまり良くなく、予想ほどのワクワク感には至らず。本調子でないながらもそれぞれの潜在能力(影浦はしぶとさ、バシャエフは的確な手札の選択)をフルに駆使して勝ち上がった2人は間違いなく凄いのだが、トーナメントの面白さや充実度を表現せんとすると、ちょっと艶消しではあるが点は抑えざるを得ない。世界王者経験者3名の出場がなく、面子的に歯欠けであったことで基礎点も上げられなかった。とはいえ期待された両雄の決勝進出、そしてヤキフ・ハモーの爆発的な「一本」連発(この日最大のみどころであったと思う)、五輪出場ならなかったメイヤーによる世界選手権2大会連続銅メダル獲得と、満場期待の「ダンス」披露(畳の上でうにょうにょ跳ねていたのはブレイクダンスの技の1つで「ワーム」と言うのだそうです。豆知識。)と、十分楽しめる1日ではあった。地味ながら、ラファエル・シウバ(ブラジル)がハモーを仕留めた、珍しい正調の片手絞(仰向けに押さえつけて手首の外側で前頸を圧する)もなかなか良かった。クラシカル柔道のブラジルらしい、ひょっとして日系一世以来脈々伝わっているものがあるのかしら、との妄想を掻き立てられた。

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団体戦。イベントして今回は及第点はあげられない。

男女混合団体戦 4.0
①日本 ②フランス ③ウズベキスタン、ブラジル

各国が五輪後を睨んで3番手以降、あるいはジュニア世代でチームを構成して「育成」にリソースを投下。一軍で組んだ海外の強国はブラジルくらい。下手をすると「三軍」レべルの大会になってしまった。となればまず基礎点を低く抑えるしかないのだが、その状況にあって、戦力ナンバーワンの日本が全試合4-0で周囲を「フルボッコ」。決勝では男子3名を若手から実績十分のメダリストに総入れ替え、「とにかく勝つ」ことに全振りしてあっさり4連覇を決めた。看板は世界選手権ではあるが、育成大会に大魚が紛れ込んで小魚を食いまくった形になってしまった。決勝のフランス戦、男子3名の対面は全員「誰それ?」の若手。勝った日本もまったく恰好良くない。そして五輪後を見据えた各国、五輪「前」(確実にシード権を獲る旨のコメントがあった)の事情を重視した日本という構図も決して愉快なものではない。2019年大会でかなりの成熟を見せた男女混合団体戦であるが、今回はアウト。五輪代表を怪我させられないこと(実際ジョージアのベカウリは90kg超枠で出て負傷してしまった)、これに絡めての女子の層が薄い国のマネジメントの難しさと各国の事情を冷静に考えればこのメンバー構成は致しかたなし。五輪代表を抜き、個人戦代表も使いづらいこの状況で「混合団体戦」をやれるほどまだJUDOのプレイヤー層は厚くないということだ。とはいえ、ブラジルでもっとも弱いはずの57kg級ケテリン・ナシメントがチームの勝敗かかる最終戦で遥か格上のアナスタシーア・コンキナに一本勝ちして銅メダルを決めたり(これぞ団体戦の醍醐味。この経験で絶対に一段成長すると思う)、70kg枠のグルノザ・マトニヤゾワと90kg超枠の大巨人ムザファルベク・ツロボエフの上がり目2人を軸にしたウズベキスタンがまさかの銅メダルを獲得したり(準々決勝はブラジルをなんと4-0で下した)、日本以外の試合はかなり見ごたえがあった。点は低いが、楽しめた大会ではあった。

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角田とクラスニキによる準決勝。豪華!

女子48kg級 6.5
①角田夏実(了徳寺大職) ②古賀若菜(山梨学院大2年)
③フリア・フィゲロア(スペイン)、ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)

優勝した角田の柔道が面白過ぎた。腕挫十字固と巴投を次々決めて全試合一本勝ち、しかも中途でディストリア・クラスニキを屠って、とこの人だけで興行が成立するレベル。技術のいちいちが何度見返しても面白い。あらためて「ゼニの取れる」選手である。決勝で敗れはしたが古賀の勝ち上がりも見ごたえあり、柔道に対する「構え」の大きさが確認出来た。以後の日本のこの階級、目途が立ってきた感あり。3位決定戦の豪華対決でムンフバットがクラスニキに見せた「片襟反則の強要」は凄かった。主審、1度採ったからには論理の罠で2度目を見逃すわけにはいかない。準備力、発想力、判断能力。相手の振る舞いどころか審判まで支配してしまった。やはり恐ろしい選手である。上がり目フィゲロアのメダル初獲得も良し、シリーヌ・ブクリ(フランス)を小外掛「技有」で倒したのだから表彰台登攀の資格は十分以上。角田だけでも高得点、周辺も面白し。旨味たっぷりの階級だった。

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志々目優勝。ただ相手役がいなかった。

女子52kg級 5.5
①志々目愛 ②アナ・ペレス=ボックス(スペイン)
③ファビアン・コッヘル(スイス)、ジェフェン・プリモ(イスラエル)

志々目愛の優勝はさすがだが、周囲に役者が足りな過ぎた。戦いぶりはまさに王者のそれなのだが、敵役の格が物足りず、たとえば相互作用でお互いの奥にあるものが引っ張り出されるというような高いレベルのドラマまで上り詰められない。もともと52kg級はトップとその他の差が激しい。トップは逸材ばかりなのに、正当な評価を受ける機会が限られる。この点「見る」柔道という文脈からは勿体ない階級であるわけだが、その典型的なパターンの大会であった。周辺トピックも、39歳ラモスの2大会連続5位入賞(なんとかメダルを獲って欲しかった)くらい。選手・志々目は高く評価も、面白さ重視の「各階級採点」はこの点となる。

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3位決定戦終了。出口は立っているだけでやっとの状態だった。

女子57kg級 6.5
①ジェシカ・クリムカイト(カナダ) ②玉置桃
③ノラ・ジャコヴァ(コソボ)、テレザ・シュトル(ドイツ)

出口クリスタまさかの五輪代表落選、一方のクリムカイトは選考ルール上最大のハードルであったはずの「直接対決」(ここまで全敗)ないまま代表決定。コロナ禍が生んだこの理不尽。あまりにも辛すぎるドラマ(それでも畳に立たねばならない出口の3位決定戦は到底涙なしには見られなかった)だったが、感情的絶対値の高さで、逆にこの「各階級採点」の点は上がる。2021年世界選手権全体のボルテージを一段大きく引き上げた階級だった。引っ掻き回した挙句自身はV逸という玉置の「ヒール」ぶり(あまりにも飄々とした一夜明け取材会の様子もかなりのキャラ立ちだった)もドラマの配役として秀逸。シナリオライターである柔道の神様が、ひたすら観客の感情を煽るというプロの仕事に徹したとでも言おうか。辛くて、切なくて、だからこそ目が離せない1日だった。

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強すぎるアグベニュー、その存在だけで興行成立。

女子63kg級 6.0
①クラリス・アグベニュー(フランス) ②アンドレヤ・レスキ(スロベニア)
③アニャ・オブラドヴィッチ(セルビア)、サンネ・フェルメール(オランダ)

裏投、腕挫十字固、裸絞(「ネクタイチョーク」)に大外巻込。全試合一本勝ちで優勝を飾ったアグベニューの強さ自体で大満足。男子81kg級の激戦に意識を引っ張られがちの日だったが、この人の試合だけは見逃すまいと気を張り続けた甲斐のあった1日だった。全体的な役者の少なさから同文脈の48kg級より点は抑えたが、決勝でアグベニューの敵役を務めたのが(鍋倉那美敗退の状況にあっては)唯一の資格者と見積もられるレスキであり、しかもこのレスキの勝ち上がりが良かった。鍋倉初戦敗退でどうなるかと思われたが、予想以上に楽しめた階級だった。

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大野を怒らせたことが致命傷となったが、ファンダイクの戦いぶりは買えた。

女子70kg級 5.0
①バルバラ・マティッチ(クロアチア) ②大野陽子
③サンネ・ファンダイク(オランダ)、ミヘイラ・ポレレス(オーストリア)
 
大外からの捲り、というシナリオもまた面白しではあるが、マティッチ優勝という結果でシード選手は全員切腹もの。同じ山のAシード、マリー=イヴ・ガイ(フランス)がまたしても頼りなさ(「興行」視点からの)を見せた大会であり、全体としていまの70kg級世界の不安定さを見せた大会であった。どうシナリオが崩れても、最後に大野が蓋をして厳しさを見せつけるべきだった。大野の戦いぶりについては「評・レポート」「各選手採点」で書かせて頂いたので割愛。最近の戦いぶりから五輪金メダルのダークホースと勝手に見込んでいたファンダイクの試合が、どれもかなり良かった。準決勝では大野の指を噛んだようでこれは本来頂けないのだが(反則であることはもちろん、怒った大野が復活して負けのきっかけになってしまった)、このタフな選手が満座で相手に噛みつくガッツの持ち主であることは怖い。昨年来じわじわランクを上げて大陸枠1位→正道での五輪出場権獲得に辿り着いたイーファ・コーグラン(オーストラリア)の試合時間13分かけてのジョヴァンナ・スコッチマッロ(ドイツ)打倒(「指導3」)もかなりのみどころだった。

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決勝で決めたワグナーの内股「技有」。78kg級で新チャンピオンが出るなら、やっぱりこういう選手でないと、というスケール感高い柔道だった。

女子78kg級 6.0
①アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ) ②マドレーヌ・マロンガ(ドイツ)
③梅木真美、フッシェ・ステインハウス(オランダ)

手足の長さをどこまでも生かし切り、大砲(この人は大技しかない)を打ち捲り、梅木・マロンガと2人の世界王者を打倒した新王者ヴァグナーに拍手。プリミティブだが面白い。シンプル過ぎるが威力抜群。この戦い方が、78kg級の階級特性に適った、歴代の強者たちの文脈に連なるものであることがまた楽しい。「ノーガード王国」の面目躍如である。かつて大味だったマロンガがかなり戦略的になって技の切れ味も増す一方(仕掛けのバリエーションが増えている)、その上を行ったのがまたもやって来た「粗削りだけどあくまで大技連発」のニューカマーであるという繰り返しの新陳代謝構図がまた、最高だった。3位決定戦はどちらも良し。負傷を乗り越えて銅メダルを得た梅木真美の試合はもちろん、ステインハウスとマルヒンデ・フェルケルクのオランダ勢2人が意地むき出しの戦いを演じ、試合が終わると一転抱き合って健闘を称え合った一番も、良かった。

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とにかく強かった朝比奈。過去最高に近い出来だった。

78kg超級 6.5
①朝比奈沙羅 ②冨田若春
③ベアトリス・ソウザ(ブラジル)、マリア=スエレン・アルセマン(ブラジル)

朝比奈の強さだけでかなり楽しめた。オルティスと戦った準決勝は内容、決着とも相当に見ごたえがあり。激しく代表を争うアルセマンとソウザ、またしても成績に差がつかなかったブラジル代表2人の奮闘も痺れた。アルセマン、18戦目にしての初のオルティス打倒には大拍手。既に書いた通り筆者はあまり買わないが、決勝終了後の「おんぶ」劇も大会の締めとして、ボルテージ上がる絵であったことは間違いない。冨田をはじめとした、周辺選手の勝ち上がりが良かったことも高得点要素。地味ながら、5位入賞のジュリア・トロフア(フランス)が内股に大外刈と投げを決め続けてこの点かなり良かった。特にメリッサ・モヒカを投げた大外刈「一本」は出色。ディッコに抜かれ、レア・フォンテーヌに追い上げられる中でのこの好パフォーマンス。ライバルの存在は、やっぱり大事だ。

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