PAGE TOP ↑
eJudo

【eJudo’s EYE】ブダペスト世界柔道選手権2021、女子日本代表「採点表」

(2021年7月3日)

※ eJudoメルマガ版7月2日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】ブダペスト世界柔道選手権2021、女子日本代表「採点表」
文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

男子に引き続いてブダペスト世界選手権2021、女子各選手および強化陣の「採点表」をお送りする。重きを置いた基準は男子同様「己の能力に比して、為すべきことを為したかどうか」、そして今大会の「評」全体を貫く視座である「自己理解」(≒他者へのまなざし)の有無。この点については男子評の冒頭を参照されたい。

(採点は10点満点)

eJudo Photo
初優勝を飾った角田夏実

48kg級 角田夏実 7.5
成績:優勝


全試合一本勝ちで世界の頂点。得意技2つを軸に勝ちに勝ちまくった。5試合戦って腕挫十字固で3勝、巴投で3度ポイントを獲得。3回戦ではメラニー・クレモンを1分弱で倒し、準決勝ではなんとディストリア・クラスニキを巴投で2度投げての一本勝ちと、倒した相手の格も高い。ダリア・ビロディドや渡名喜風南との対戦がないので採点は7.5に留めたが、事実上の最高点と解釈してもらいたい。誰もが角田の得意技である巴投、そして腕挫十字固を徹底警戒。しかし考え得る回避行動のその先には既に角田が次なる罠を仕掛けている。己の得意技にもっとも思考量を投下出来るのは自分自身、技術それ自体はもちろんだが何より準備力の高さで他を寄せ付けなかった。角田式巴投という技術自体のフォロワーはこの2年で爆発的に増えたが、選手・角田のスタイルは誰にも真似が出来ていない。もっかの48kg級世界の流れからまったく独立した「角田の世界」を作り上げているわけだが、ここまで技術に練り込みあれば、そして何よりここまで強ければワールドツアー文化との隔絶は逆に武器。文句なしの初戴冠劇だった。

eJudo Photo
準決勝、古賀若菜がフリア・フィゲロアから大外刈「技有」

48kg級 古賀若菜 6.5
成績:2位

勝ち上がりが素晴らしかった。今季躍進のフランチェスカ・ミラニをあっという間の片手絞「一本」、そしてもと世界王者ムンフバット・ウランツェツェグを大外刈「一本」、さらにかつて敗れたフリア・フィゲロア(スペイン)からも大外刈「技有」で勝利。内側の技(大内刈)がベースの古賀だが、今回はその内を晒して外側の技(大外刈)で仕留めるという組み立ての大きさが効いていた。とかく内側の攻守に籠りがちな軽量級選手にあって、一段違うジャンプ力を見せてくれた。描く自己像が大きいと感じさせられた。ムンフバット戦の寝技の対応にはかなりの研究の跡が見て取れ、この誠実さも買い。決勝は角田の前に敗れてしまったが、ジュニア世代選手の世界選手権デビューとしては上々。課題である線の細さも決勝以外はまったく感じさせることがなかった。表彰台の真ん中にこそ立つことは出来なかったが、一段評価を上げた大会だったと総括したい。

eJudo Photo
志々目愛は2度目の世界制覇

52kg級 志々目愛 6.5
成績:優勝


決して好調とは思われなかったが、表情一切変えずに粘り強い戦い。ライバル不在で優勝以外は許されないという難しい状況の中でしっかり優勝を飾った。とにかく冷静。スコア上、あるいは展開上競っているはずの場面でも一切の焦りなく、己の勝利を確信した進退だった。組み手で粘られても、掛け潰れられて形を壊されても、必ずチャンスが訪れると信じて淡々と「やりなおし」を続け、そして着実にゴールしたその戦いぶりはさすが世界王者。参加選手、対戦相手のレベルに鑑みて採点は6.5に抑えたが、文句のない5試合だった

eJudo Photo
決勝を戦う玉置桃

57kg級 玉置桃 6.0
成績:2位


出口クリスタに勝利、ジェシカ・クリムカイトに敗れて2位。「一時休戦」合意を拒否して虚を突く形で勝ち越しの投げを決めたエテリ・リパルテリアニ戦、相手の背景に一切斟酌せず極端に戦術的な戦いで勝利をものにした出口戦と実に玉置らしい勝負へのこだわりを見せつけた1日であったが、決勝の敗北で主役にはなり切れず。大会全体から見ればカナダの五輪代表争いを揺らした「ジョーカー」という扱いになる。まさに世界王者出口からの勝利を根拠に加点させて頂いたが、内容・結果とも順位ほどに高くは買えない。この2つは玉置の場合深く関連する。玉置の柔道は刹那の連続、ざっくり言うと、相手に組ませず、持てるところから先に持っては大外落(あるいは背負落)を中心に低い技を仕掛け、いけると見れば投げ切り、これが難しいとなれば掛け潰れることを続ける。その中で寝技で仕留めていくのが定番の勝利法則。長期戦略の薄い目先の「ショット」の連続である。明確な決め技があるわけでなく、入り口・経路・ゴールの曖昧なこの柔道は、どうしても内容自体で高い評価は受けにくい。本人は試合後この先の課題を「組み手」と語っており、この戦型には十分納得があるようだが、この戦い方を柔道自体の良さや将来性で評価することはやはり難しい。つまりはそれこそ「刹那」のアウトプットである“結果”で都度評価していくしかない。アジア大会優勝を高く評価したことの裏返しで、V逸という結果に応じて相応点を減じた。負けた相手が同じタイプの「持ったところから掛け捲る」クリムカイトであったことも痛かった。ちなみに増地克之女子代表監督は同日の取材会で玉置の課題を問われ「投げ切る技の獲得」を挙げている。柔道自体の幅が広がるような、新たな方向の成長にも期待したい。

eJudo Photo
アンリケリス・バリオスと戦う鍋倉那美

63kg級 鍋倉那美 4.0
成績:2回戦敗退


これが鍋倉とはちょっと信じがたい柔道で初戦敗退。格下のはずのアンリケリス・バリオスを相手に組み遅れ、目先のリアクションを続けて投げ切れぬうちにパニックに陥ってしまった。もっかの鍋倉の最大の長所は実は体の強さで、これをもっとも発揮できるのは接近戦とそれによって出来上がる「際」。そして技術的にもっとも危うさを感じるのはこれと逆、片袖、両袖から畳に引き手を突っ込む内股に象徴される「間合いの遠さ」との付き合い方である。最大の長所である力を伝えきれていない。中学時代に足腰の強さと凄まじい投げのセンスを土台に片袖(を両手で抑える)の内股でも爆発的な「一本」を量産していた鍋倉であるが、これは実は理に適っているとはいいがたい。鍋倉は両袖内股でもこの片袖と同じく、手を添えて引き手を前に突っ込むことが多い。ただでさえ内股の際に袖先を抑えることは投げの軌道の円周を大きくしてしまうため難易度が高いのだが、この「引き手突き出し」で縦の円軌道を描くのはさらに無理がある。軌道の中心は地下。相当なフィジカル差がないとまず決まらない(鍋倉の内股が綺麗に決まるのは実は相手に抱きつかれて距離が詰まったときで、本人もそれを知るゆえかこの日も中盤打開せんと自ら抱き着いての内股を一発放っていた)(両袖内股のあるべき例については字数の都合上ここでは省略)。つまりあの袖先投げは中・高時代の、相手とのフィジカル差があるとき限定の技であるべきと見ていたのだが、高校を卒業した鍋倉は、これに技術的な解を与えられるのではなく、定番の組み手練習と全方位性のフィジカルの獲得という方向の強化を受けてこの課題をひとまず置く形のまま柔道を塗りつぶしていた(さらにもう少し言うと、かつて決まっていたダイナミクスと他の技術が混ざって、この内股に関しては多少のフィジカル差があっても投げ切れない技になってしまっていたとように思う)。それはそれで柔道全体としては一応の形にまとまってはいたのだが、所属を変えてそのフィジカル的なアドバンテージが揺らいだところで、この技術的に未解決の部分、癖が大きく顔を出したのではないかと見受けた。他の技を見ていても思うのだが、かつての自分、徹底警戒にあって組ませてもらえずとも凄まじい投げを決めていた良い時代の感覚が、「袖先押し」という単なるパーツという形で体に残り、これが困った時に露出して「遠い間合いで力を伝えられず投げ切れない」事態を生んでいるのではないか。

この状態で対戦するしかも初戦の相手が、体が長くて受けが柔らかく、東海大での修行で組み手が練れていて両袖も厭わぬバリオスというのは、実は最悪パターンであったと思う。袖を絞られた状態のケンケン技では間合いが遠く投げ切れず、ならばと抱きつき技に出たところがフィジカルが足りずに受け切られ、出口戦略が見いだせない。最後の場面はもう、両袖の相手に腰を切られたまま「絞り返す」という反射行動しか出来なくなってしまっているように見えた。もっとも悪いシナリオに嵌ってしまった。敢えてメンタルではなく、フィジカル、そして技術の未整理の2つを敗因として挙げさせて頂いたのだが、出来れば「技術の整理」のほうをより濃く見つめて今後に臨んで欲しい。鍋倉はもともとメンタルもフィジカルも強い選手。「復活」ではなく「進化」を期すべく、より技術に思考量を投下しての稽古を期待したい。

eJudo Photo
大野陽子は銀メダル獲得、しかしその戦いぶり高くは買えず。

70kg級 大野陽子 5.5
成績:2位


本来圧勝して然るべき強さを持ちながらV逸。「己が力に比して為すべきことを為したか」という採点基準に基づいてまず減点。さらに戦略性のなさ、つまりは次なる評価ポイントである「自己理解」の欠如でさらに減点。持ち札はどれも威力抜群だがそれぞれの繋がりが濃いとはいえないのが大野の柔道。今大会ではそれを繋いでいた唯一の「理」である“前進圧力”という決定的な要素を弊履のごとく投げ捨て、しかもそこに無自覚であった。理を捨てた結果、準決勝・決勝で現れた失点シーンはそこだけ見ればちょっとあり得ない絵。柔道が上手く回らないので、立ち振る舞いにも焦りがありありだった。詳しくは「レポート・評」を参照頂きたいが、メンタル的にも技術的にもベテランらしくない試合ぶりであった。世界選手権2大会に出場、いずれも実力を発揮し切れずV逸。圧倒的な力を示しての1枠目出場以外に、もう世界に出ていく道はないはずである。

eJudo Photo
梅木真美。膝負傷のアクシデントにもかかわらず銅メダルを確保した。

78kg級 梅木真美 5.5
成績:3位


戦いぶりに大きな破綻はなし。ガッチリ掴んで腰を寄せ、そこで組み勝つようであれば投げ、力負けするようであれば途端に苦しくなるのが梅木の柔道だが、これをきちんと展開して上位選手とも呼吸が出来ていたと思う。決勝でマドレーヌ・マロンガと矛を交えるところまでがミッションであったと思うので点を減じたが、膝負傷のアクシデントにめげず銅メダルを確保したことは立派。というよりも、この3位決定戦に関してはちょっと超人的な戦いぶりだったと思う。大会通じて梅木らしい、組み勝ってからの捩じり伏せるような払腰で度々加点。長所をしっかり出し、負傷にめげずメダル獲得。健闘であったと総括したい。

eJudo Photo
朝比奈沙羅は出色の出来だった。

78kg超級 朝比奈沙羅 7.5
成績:優勝


過去最高の出来であった。両襟を掴んで相手の回転を封じ、己の力が伝わりやすいこの組み手を軸に背筋を伸ばしてゆるぎない進退。順方向の大技(払腰・大外刈)にこれと対になる支釣込足というシンプルな、しかし王道の柔道を確信持って貫き、2度目の世界選手権制覇を成し遂げた。詳しくは既出の「レポート・評」に譲るが、この柔道で勝負出来るフィジカルをしっかり作ってきたこと、そしてなによりこの戦型を貫くことが相手が最も嫌なことである、という頭脳面での裏付けが大きかったと見る。柔道のビジョンに関しては経験値が大きいと思うが、この短い期間で、そして「週3回+αの柔道の稽古」(本人談)でどうここまでコンディションを整えたのかは、ぜひ詳細を知りたいところ。所属のビッグツリーはスポーツジムも経営しているとのことなので、これを知らしめることはイメージアップにも繋がるのではないだろうか。フィジカル・メンタルともに整った状態のこの朝比奈がもう1度素根輝と戦うところを見てみたい、素直にそう思わせる戦いだった。

ひとつ苦言を呈したいのは、観客席に陣取ったお父さんの振る舞い。特に準決勝以降は会場中に怒声を響かせ続けて、良くない意味で非常に目立っていた。アップ会場で柔道衣を着ていたので所属の打ち込みパートナーとして登録していたと推察するが、言うまでもなくIJFは柔道のイメージとマナーを守るべく試合中に声を出してアドバイスするコーチを何人も退席させている。観客席にいるからといってこのルールの精神を無視するのは控えめに言って爽やかではない。なにより場面に関わらず発せられる「いけ!いけ!」の怒声は自立した選手・朝比奈のイメージを大きく毀損する。チーム朝比奈全体として、猛省を促したい。

eJudo Photo
初出場の冨田若春は銀メダル獲得。

78kg超級 冨田若春 5.5  
成績:2位


初出場の世界選手権で決勝進出。中途でマリア=スエレン・アルセマンにも勝利を得たが、決勝における戦略のなさで大幅減点。今大会の「2番手代表」たちに共通する、自分が強くなってその良いところをぶつけさえすれば勝てるという姿勢のまま大一番に臨む宿痾に嵌っていたように観察された。端的にいって、初戦(ランキング30位のヤブロンスキーテ戦)と決勝の朝比奈戦を同じ作戦で戦っていた。数合刃を交わしてのち、戦い方を変えられなかった戦略的機動性のなさも残念。このあたり詳しくは既出の「レポート・評」を参照されたい。両襟を持って担ぎを封じ、順方向の大技と対になる支釣込足で勝負するという、シンプル過ぎるポリシー1つに完敗した決勝は「ものの違い」と評されてしまっても致し方ない。屈辱と感じるべき。そして戦略の有無という視点で準決勝までの戦いを見返すと、実は決して能動的に試合を動かせていたわけでないことにも気付く。世界大会初出場のこの段階では力を出させてもらえたが、今後日本のトップとして出場を続けるからには、この点をしっかり見直しておく必要があるだろう。

eJudo Photo
舟久保遥香。写真はウクライナ戦、マリーア・スコラから小内刈「技有」

団体戦57kg以下 舟久保遥香 6.0
成績:2勝0敗


メジャー選手との対戦はなかったが、準々決勝・準決勝と隙を見せずに2連勝。しっかりスコアを作ってくれた。頼りがいのある戦いだった。得意の寝技だけでなく投げで得点したことも買い。初戦で決めた小内刈は4月の選抜体重別決勝を彷彿とさせた。世界に出る準備、整いつつある印象。

eJudo Photo
新添左季。世界王者マリー=イヴ・ガイから内股「一本」。

団体戦70kg以下 新添左季 6.5
成績:3勝0敗


2勝を経て迎えた決勝で、2019年東京世界選手権の覇者マリー=イヴ・ガイをみごと内股「一本」に仕留めた。フランスの数少ない得点ポイントをもっともキツい形で潰し、勝利への流れを確かなものとしてくれた。実績・実力は今回個人戦で優勝を争っていてもまったく違和感がないもの。社会人となって本来の力を取り戻した模様、今後の活躍に期待。

eJudo Photo
秋場麻優。フランスのレア・フォンテーヌから「指導3」をもぎ取って日本の優勝を決めた。

団体戦70kg超 秋場麻優 6.0
成績:1勝0敗


出場した1試合が、優勝の掛かるフランス戦のそれも「王手」が掛かった試合。しかも相手は躍進中のフランスの若手、個人戦代表も務めたレア・フォンテーヌ。間違いなくこの日の日本チームで一番きつい役どころが回って来たと思うのだが、粘り強く戦ってGS1分40秒「指導3」で勝利。集中力を切らしたフォンテーヌが思わず両手を広げて「やってられない」とアピールしてしまう、まさにしぶとい戦いぶりだった。1番手朝比奈が帰国、2番手冨田が負傷という日本の危機を救ってくれた、この1勝の価値比類なし。

eJudo Photo
52kg級決勝、コーチボックスに入った増地克之監督。

女子日本代表(強化) 5.5
成績:金3、銀4、銅1


五輪代表を欠く陣容でファイナリスト7名(5階級)輩出、3階級で優勝。増地体制発足以来のスローガンであった「層の厚い強化」が成績で証明された形だ。メダル数だけなら7.0レベルの好成績。団体戦専用メンバーで最後まで戦い切った団体戦も、同じ文脈から高く評価したい。
ただし、V逸した玉置桃、鍋倉那美、大野陽子、冨田若春らに、戦略性と自己理解の低さ(≒他者へのまなざしの薄さ)という共通項があったことで、大きく点を減じさせてもらった。こういう部分は本来あくまで「個」、あるいは普段の稽古(所属)、もっと言えば幼少期からの日本女子の育成システム全般に因を求めるべきなのだろうが、ここまで問題点が共通するのであれば、チームとして引っ張り上げるのはこの部分であったのではないか。増地体制の発進以来、これまで「寝技の強化」など女子代表が共通目的として掲げて来た項に対しては、全体としてきちんと成果が上がっている。強化合宿に参加したものから伝播して、実は業界全体への波及効果も大きかった。逆説的ではあるがこの点に鑑み、何か共通して出来ることがあったのでは、という問題提起としてこの採点とさせていただいた。現体制は五輪をもって解消されることになるわけだが、以後の強化体制にもこの課題(他者へのまなざしとこれが導く自己理解)はぜひ持っていただきたい。「組み手をしっかり、あとは目の前の試合に勝つことだけを考える」文化(女子は下手をすると小学生でもこのセリフを口にする)との決別には、まずトップ選手を教化することだと愚考する。これは競技力の向上はもちろん、勝ち負けにこだわり過ぎて痩せてしまった女子柔道全体の土壌を豊かにする、種まきとしてもかなり意味があると思う。

※ eJudoメルマガ版7月2日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る