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【レポート・評】まさかのマティッチ優勝、己のモデルチェンジに意識薄かった大野/ブダペスト世界柔道選手権女子70kg級

(2021年6月17日)

※ eJudoメルマガ版6月17日掲載記事より転載・編集しています。
【レポート・評】まさかのマティッチ優勝、己のモデルチェンジに意識薄かった大野
ブダペスト世界柔道選手権女子70kg級レポート・「評」
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驚きの優勝を飾ったルバラ・マティッチ

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

ブダペスト世界柔道選手権2021、10日に行われた女子70kg級は、第1シード選手の現役世界王者マリー=イヴ・ガイ(フランス)が初戦であっさり姿を消すという意外なスタート。とはいえ、大方のファンにとっては意外というよりも「やっぱり」という感想になるだろう。ガイは2019年夏の王者戴冠以後はまともなパフォーマンスを見せることなく連敗に次ぐ連敗、五輪代表も落選が決まったばかり。もともとメンタルの強いタイプではまったくなく、ツアーでの戦いぶりから心身ともに壊れていることが明らかだったこの選手に、ただでさえ位置づけの難しいこの大会で意地を見せることは望むべくもなかった。2回戦でヒルデ・ヤヘル(オランダ)に横四方固「一本」で屈して見せ場ないまま終戦となった。

優勝は意外や意外、バルバラ・マティッチ(クロアチア)。2013年と2014年の世界ジュニアを連覇するもその後ブレイク出来ず、長年の立ち位置は紛うことなき「中堅」。コロナ明けからツアーで立て続けに好成績を上げて「なぜか上位にいる選手」というニッチを獲得しつつはあったが柔道自体に存在感のあるタイプではまったくなく、今大会のスタート配置もノーシード。その選手が、第1シード・ガイの消えた山からスルスルと勝ち上がる。2回戦はエボニー・ドライスデール=デリー(ジャマイカ)から「指導3」の反則、3回戦はガイを破ったヤヘルを2分53秒釣込腰「一本」で一蹴、準々決勝はミリアム・ブートケライト(ドイツ)をGS延長戦の内股「一本」と組み合わせにも恵まれて極めて順調な勝ち上がり。初めて水準以上の相手との対戦となったミヘイラ・ポレレス(オーストリア)との準決勝はGS延長戦3分37秒を掛けて内股巻込「一本」、これで決勝進出決定。

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決勝、マティッチが大野陽子から谷落「技有」

絶対の優勝候補大野陽子(コマツ)を畳に迎えた決勝では、両組みの特徴を生かして決まった形を作らず、緩やかに手数を積み続けて善戦。大野の作りの粗さと慎重さにつけこんで試合を流し続けると、終盤には焦りを募らせる大野の中途半端な技を抱きつきの隅落に捉えて、奇跡的な「技有」リード。そのまま移った寝勝負で「腰絞め」に捉えられたが、絞められたまま20秒を耐え切ってタイムアップ。驚きの初優勝を成し遂げた。ガイが消え、ジュリ・アルベール(コロンビア)が引退し、世代交代の波に洗われつつある70kg級。その第一波が五輪を待たずにやって来たと総括すべき結果であったと言える。混戦期到来の可能性が、さらに高くなってきた。

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2回戦を戦う大野

この先は2位の日本代表・大野陽子の戦いぶりについて評したい。率直に言って、良くなかった。形上2位という成績を得たが、それに見合った高い評価を与えられるものではない。

大戦略なく目先の現象に刹那的に反応し続ける、という点ではいわばいつも通り。そもそも、使い方に理は薄いが、持っている手札それ自体が爆発的に強く、ゆえに勝つときには極めて派手というのが大野の柔道で、ある程度の行き当たりばったり感は予想の範疇。これはむしろ大野の持ち味ですらある。大野にはそれでもなお世界を極められるだけの力があると踏んだから、我々は強く優勝候補に推していたわけだ。

ただしまず、この日の大野は己の柔道の核である「前進圧力」を、理由はわからないがおそらく確信的に、削いでいた。これが最大の問題点。これまでの大野は徹底して前に出、圧に負けた相手が「指導」を食らい、あるいは度を失ってくれることで試合を動かしていたのだが、この核を外した結果、2戦目のジェンマ・ハウエル(イギリス)戦から早くも試合は膠着した。しかも大野は「前進圧力」という屋台骨を外したその隙間に、何か代替となる技術的な柱を持ち込んだわけではなかった。組み勝ち、揺すり出し、円運動で体を捌き、相手の組み手を切り離しては技を仕掛けようとするのだが、相手の防壁を外して体の芯にアプローチする具体的な手立ての持ち合わせがなく、結果として相手の周囲を旋回するのみ。一見丁寧な作りのその丁寧さは単に丁寧に見えること自体が目的という類のもので、技術的にはあまり実がなかった。もちろん試合には失敗はつきもの。判断ミスもあるだろうし、相手が強すぎることだってあるだろう。ただし、己の柔道の核を見誤った、この「自己理解」の誤りだけは位相が決定的に違う。選手としてのあり方に関わる問題だ。

一方大野がこの日遮二無二「前進圧力」を利かせた唯一の時間帯である準決勝サンネ・ファンダイク戦におけるビハインド追撃の場面、これは紛うことなき「大野らしい試合」だった。ここでは相手をパニックに陥れて心を折り、「指導2」奪取の末に見事「技有」奪回に成功している。持つ手札から帰納して考えるに、柔道選手・大野にとって勝利に繋がる振る舞いがどちらかは明らかだと思う。大野はもともと穴ぼこだらけ、しかしその穴ぼこに寸断されながらもいくつかすさまじい威力の手札を持つ、凹凸の激しい選手である。その穴ぼこを埋め、手札と手札を繋いでいたコネクタである「前進圧力」という生命線を、これは作戦ですからとばかりにあっさり排除してしまう。この意図は少々理解しにくい。自己像を誤っていたと評するしかない。単に失点のシーンを振り返ってみても、ファンダイクの懐に包まれながら、手を放したまま棒立ちで下がった準決勝の「技有」失陥、中途半端な技を仕掛けたところ既に間合いを詰められていて自ら滑り転んだ形の決勝の「技有」と、どちらの場面も、もし大野が本来の「前進圧力」をベースに試合を組み立てていたら絶対になかったと思う。

大野はもしかすると、しっかり組み合って相手を崩す、正統派・王道の柔道を作り上げようとしていたのかもしれない。であれば、それ自体は柔道を成長させるという観点から間違いではない。ただし、圧倒的に時間が掛かる。このやり方を言葉にすれば「釣り手の操作と足技、体捌きを連動させて作りを行い、精妙な崩しで投げに繋ぐ」ということになるのだろうが、これはなかなか一朝一夕に出来るものではない。このあたりは片襟・両袖・奥襟の選手である阿部詩が「オプションを増やす」意図で前襟を持ったところ途端に停滞したグランドスラム・カザンの戦いとオーバラップする。日本人の柔道が尊敬されるのはまさにその、豊かな育成環境と圧倒的な経験値が必要な、海外の選手が決して届かない「世界」を幼少期から長年かけて作り上げているからだ。そこはなかなか、簡単に手を伸ばせるものではない。

もし大野が今大会でモデルチェンジを図っていたのであれば、2戦目を戦った時点でこれはまだ完成していないと、本来の「前進圧力」に推進エンジンを切り替える判断が欲しかったと思う。年齢的にこの先さほどチャンスが多いわけではない大野に今回どうしても必要なものは、世界チャンピオンのタイトルただ1つだったはずだからだ。ただし、一夜明け会見における大野が冒頭総括として語った「準決勝で『技有』ビハインドを取り返したことだけは良かった」という発言からは、ひょっとすると大野がこの「前進圧力」という核を取り除くという大問題に対して意外と無自覚であったのではないだろうかという疑問も沸く。一大決心に基づくモデルチェンジではなく、柔道の質を上げる、きちんと崩して進退する、という普段の稽古における長期的なポリシーをそのまま試合の場に持ち込んだ可能性がある。この部分の言語化が薄かったのであれば、現場での切り替えは難しかっただろう。

2つ目。技術が寸断されて繋がっていなかった。たとえば寝技の得意な大野だが、相手の技を遠くに弾き飛ばした離れた体勢からの「ヨーイドン」が多く、これではさすがに取るのは難しい。多くの女子選手が最重要課題に掲げる「立ち→寝」のシームレスな連携が出来ていない。左右の技で掛け潰れを繰り返したマティッチに手を焼いた決勝も、突き飛ばすのではなく、「立ったところから寝技の作りをスタート」させていれば、大野の寝勝負の強さからして早い段階で取り切れた可能性がかなり高いと思う。

この「強い手札を効果的に使えない」ということで言うともう1つ。2020年グランドスラム・パリ決勝の新添左季戦や2018年全日本選抜体重別決勝の新井千鶴戦で見せたあの凄まじい右一本背負投を、この日は一度も見せることが出来なかった。これだけ手詰まり多い中、打開に最適の逆一本背負投、それもあれだけ威力ある技を繰り出せなかったのは勿体ない。これはあくまで憶測なのだが、ひょっとすると大野の右一本背負投は相四つ専用(新井も新添も相四つ)なのではないだろうか。仮にもしそうであれば、対戦相手ほぼ全員がケンカ四つの70kg級ワールドツアーではこの手札は効果を発揮できない。仮定の話ではあるが、せっかくの威力あるカード、国際大会仕様にアジャストしておくという手もあったのではないだろうか。

3つ目。これはファンの議論、感想戦の呼び水としての「勝負どころの見極め」について。筆者が挙げたいのは、ファンダイク戦で前進圧力をガンガン利かせて「技有」を奪回した場面。試合開始時には眼光爛爛としていたあのファンダイクの目から、完全に光が消えた。心が折れたと感じた。明らかに一気に勝負を決めてしまうべき場面だ。しかし同時に、ほぼ抑え込みの形を作っていた大野の目からも光が消えてしまっていた。大野は寝技で決め切ることをせず、立ち上がると、残りの20秒ほどを、みずからGS延長戦突入を申し出る形で「流し」て、本戦終了ブザーを聞いた。

開始早々の凄まじい大外刈「技有」を見るまでもなく、ファンダイクは危険な選手である。筆者はコラムの中で「東京五輪の70kg級優勝は新井の可能性がもっとも高く、次点は大外から意外な選手が捲ってしまうこと」と書かせて頂いているのだが、その際イメージした選手は実はこのファンダイクであった。生かしておく限り常に事故の可能性がある。受けが不安定で消耗戦になればなるほど「丁半博打」属性が増す大野であればなおさらだ。自分は疲れているかもしれない、しかし危険極まりないファンダイクはいまこの瞬間完全に心を折られ、自らの下に横たわっている。たとえば松本薫や大野将平ら「殺戮本能」を持つ選手であればこのチャンスを絶対に逃さないと思うし、ましてやGS延長戦突入を自ら申し出て、息を吹き返させる挙には出ないと思う。火が消えているうちに試合を決めにいくはずだ。実際に大野はこのあとのGS延長戦では落ち着きを取り戻したファンダイクの前に「指導」を失い、袖釣込腰を跨いでかわす危うい場面も作られてしまっている。この判断には疑問が残る。

これについては本人の見解を翌日の合同取材時に直接聞いてみた。曰く「相手も息が上がっていたが自分もかなり息が上がっていた。無理をして掛けて返されるのだけは避けたかった。向こうに「指導2」もあったし、1回試合を落ち着かせて、仕切り直そうと思った。」とのこと。戦略は色々、見方は様々。ただし、これを聞いた後でもやはり筆者はこの策を支持しない。もっとも勝てる可能性が高まった時に勝負を終わらせる姿勢があるべきだったと思う。そして、本当は大野もここで勝負を決めるべきだと本能的には思っていたのではないか、しかし疲れ切った状態でその時食いつける論理に無意識的に食いついてしまったのではないか、という見方を取る。

この「技有」奪取時に採るべき策の見解の割れについては、すなわちファンダイクの評価の相違ということに帰結するのかもしれない。筆者はファンダイクを危険極まりない選手だと思っていたから「殺せるときに絶命させるしかないはず」と考えたが、たとえば「力関係は自分が上だから落ち着いて料理すれば大丈夫」と捉えていたとしたら、ここで時間を置くことは理解出来る。ただし、序盤のラッシュで一回絶命級の技を食っている状態でのこの解釈は少々難しいと思うし、今年のファンダイクのツアーの戦いぶりから「安全な相手」と捉えていたとしたらこれはやっぱり見積もり損ねだと考える。

この「ツアーを見た上での見積もり」ということでもう1つ。翌日の合同取材に臨んだ大野は、決勝の相手の名前をきちんと言えなかった。名前を言えず、クロアチアの選手で、昔1回戦ったこともある、という説明だった。長年中堅選手の位置に座り続けているマティッチはコロナ明けからなぜか常にツアーの上位に進み続け、昨年10月のGSブダペストで優勝、3月のGSタシケントでは2位、4月のGSアンタルヤでは2位。印象決して濃い選手ではないが、成績上は今年のツアーのメインキャストである。両組みであることを理由に歩留まりよく勝ち上がり、しかし階級特性上左で組む(右の相手が多いので)ことが多い選手。世界選手権に臨む選手が気に掛けないわけがないはずの存在だ。だから、この受け答えには少々違和感があった。ひょっとすると大野は、平時のツアーをあまり見ていないのではないか。少なくとも、ツアーを見て日々相手を想定し、己の稽古の中に消化させていく作業にあまりリソースを割いていかなかったのではないか。

孫子に曰く「彼を知り己を知れば百戦殆からず」。となると、敵の名を知らず、自分の柔道の肝を見誤った大野が最後まで勝利するのはやはり難しかったと思う。たくさんの判断ミスや準備・戦略上の誤りを犯しながらも「結果オーライ」で形上勝ち上がったものの、決勝でこれが閾値を超えて崩壊してしまった。これがまさかの格下マティッチ相手のV逸劇だと考える。

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大野の戦いぶりに欠けていたのはむしろ「ベテランらしさ」だった。

翌日の一夜明け取材会で、報道陣から増地克之監督に「大野選手が30歳を超えてもなお成長を続けている、その理由は」「やはりベテランならではの戦いかたが出来ていることか」という質問があがった。前回(2017年)の銅メダルから4年を経て成績をひとつ上げたからには、仕事として彼らはこういう質問をしなければいけない。増地監督も真摯に応えていた。大野が年齢を重ねてもコンディションを維持し、一発の技の威力という面ではさらに凄みを増しているのは事実。それ自体は素晴らしいことだ。ただし、この日の大野の試合ぶりに果たして「成長」が見て取れたかというと甚だ疑問だ。そして、大野に欠けていたものは、深い自己理解と適切な強化プラン、冷静な判断、勝負どころの見極めといった、まさに「ベテランらしさ」であったと思う。

もう少し。蛇足ながら、ファンの間で賛否分かれたであろう決勝の「ビハインド時に寝技を選択して、絞め続けた」場面について。これについては、筆者は大野の判断を尊重する。形上絞めのフォームは完成していたし、あとは本人の手ごたえ次第。映像ではエントリー時に指が3本しかかかっていないように思われたので本人に直接聞いてみたところ「最初は3本だったが、途中で持ち直してしっかり4本指が入っていた」とのこと。十分取り切れる感触があったのだろう。外野が評として語れるのはせいぜい「技有」ビハインドの場面まで。これは大野が己の手ごたえをもとに乾坤一擲の大勝負をかけた結果であり、我々が喋々するには当たらない。(余計なことかもしれないが、こういう質問を受けたときの大野の受け答えは実に明晰で、言葉も的確。しっかりものが見えていると感じさせられる)

長々書いてしまった。実は、大野の敗戦には、今回敗れた「2番手」日本代表たちに共通する要素が語りやすい形で顕在化しており、世界選手権8日間を通して、ここで濃く触れておくべきだと思ったのだ。適切で有機的な自己強化プラン、強い手札と手札をコネクトする「理」の練り上げ、相手を知った上での大戦略。これらすべてが「徹底した自己理解」という一丁目一番地に基づくもので、上位選手たちと引き比べて、彼らに決定的に足りないのはここだと思う。大野以外については、「選手採点表」あるいは「総評」で補完出来ればと考えている。

■ 入賞者・準々決勝以降結果・決勝戦評
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70kg級メダリスト。左から2位の大野陽子、優勝のバルバラ・マティッチ、3位のサンネ・ファンダイクとミヘイラ・ポレレス。

(エントリー38名)

【入賞者】
1.MATIC, Barbara (CRO)
2.ONO, Yoko (JPN)
3.VAN DIJKE, Sanne (NED)
3.POLLERES, Michaela (AUT)
5.BUTKEREIT, Miriam (GER)
5.FLETCHER, Megan (IRL)
7.COUGHLAN, Aoife (AUS)
7.PORTELA, Maria (BRA)

【成績上位者】
優 勝:バルバラ・マティッチ(クロアチア)
準優勝:大野陽子
第三位:サンネ・ファンダイク(オランダ)、ミヘイラ・ポレレス(オーストリア)

【準々決勝】
バルバラ・マティッチ(クロアチア)○GS内股(GS0:14)△ミリアム・ブートケライト(ドイツ)
ミヘイラ・ポレレス(オーストリア)○片手絞(2:49)△イーファ・コーグラン(オーストラリア)
サンネ・ファンダイク(オランダ)○釣込腰(1:08)△メガン・フレッチャー(アイルランド)
大野陽子○送襟絞(2:19)△マリア・ポルテラ(ブラジル)

【敗者復活戦】
ミリアム・ブートケライト(ドイツ)○GS反則[指導3](GS1:38)△イーファ・コーグラン(オーストラリア)
メガン・フレッチャー(アイルランド)○GS後袈裟固(GS1:54)△マリア・ポルテラ(ブラジル)

【準決勝】
バルバラ・マティッチ(クロアチア)○GS内股巻込(GS3:37)△ミヘイラ・ポレレス(オーストリア)
大野陽子○GS横四方固(GS2:52)△サンネ・ファンダイク(オランダ)

【3位決定戦】
サンネ・ファンダイク(オランダ)○合技[大外巻込・横四方固](1:02)△ミリアム・ブートケライト(ドイツ)
ミヘイラ・ポレレス(オーストリア)○合技[隅落・袈裟固](3:26)△メガン・フレッチャー(アイルランド)

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決勝を戦うマティッチと大野

【決勝】
バルバラ・マティッチ(クロアチア) ○優勢[技有・隅落]△大野陽子
大野は左、マティッチはおなじみの両組み。マティッチ両袖から押し込んでの右袖釣込腰、これは掛け潰れたが再開されると首を抱いての左大外刈と連発。「腕緘返し」など寝技で攻め返す大野だがいずれも取り切れず、序盤は後手を踏む形。マティッチ続いて右の内股巻込で露骨な掛け潰れ。大野弾き飛ばして寝技に飛び掛かるが、立ちと寝の連携が完全に途切れてしまって攻めきれず「待て」。マティッチは左、右と構えを変えて大野にしっかり組ませず、左右の技で巧みに試合を流す。大野引き手を絞り込んで相手を固定に掛かり、左「小内払い」を放つが同時に右袖釣込腰を仕掛けられるとドウと崩れてしまい、展開は流れる。続いてマティッチ左の「一本大内」で食いつき、大野はしばし耐えた後、弾き飛ばして寝技へ。しかし完全に離れた状態からの「ヨーイドン」でマティッチには備える時間が十分、これも取り切れず「待て」。直後の2分28秒には大野に「指導」。マティッチ右の巻き込みに潰れるが大野これもドンと突いて離れた位置に落としてしまい、有機的な寝技への連携が出来ない。続く展開、大野は引き手で腋の外側を握り、相手の左を腹側に折り込む良い組み手。釣り手も高い位置を持っており、ほぼ完璧な状態を作り出す。初めて訪れた、大野の技の威力がじかに伝わる状態。しかし大野はようやく訪れたこのチャンスを、接近して良い形を続けるという「キープ」のままで過ごしてしまい痛恨の「待て」。この際一本背負投の形に腕を抱えてディフェンスしていたマティッチに片襟の「指導」が与えられたのみで、この展開は流れてしまう。直後、双方左組みで組み合った形から大野が嫌って釣り手をブンと切ると、マティッチはフリーとなった右を片襟に差して右背負投の形で迫り、嫌った大野が半身の中途半端な体勢になるとみるや右を離して背中を抱く。大野の両手はいずれも持ちどころ半端で利かない状態、しかし大野はここから身を翻して前技に行こうと試みてしまう。相手の懐の中で横腹を見せたこの悪手、マティッチそのまま体を預けると回転半ばの大野は大崩れ、体側から畳に落ちて3分18秒谷落「技有」。大野すぐさま逆襲、立たせず寝技で攻め続け、残り22秒ついに「腰絞め」に捉える。このまま勝負を決せんと絞め続けるがどうしても効き切らず、マティチが耐え続けたまま終了ブザーが鳴り響く。優勝はダークホースのマティッチ。大野は無念の敗戦となった。

■ 日本代表選手全試合戦評
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初戦はナタリーア・チスティアコワを横四方固「一本」

大野陽子(コマツ)
成績:2位


【2回戦】
大野陽子○横四方固(1:54)△ナタリーア・チスティアコワ(ウクライナ)
大野左、チスティアコワ右組みのケンカ四つ。大野は左内股に左出足払で攻める。チスティアコワが大野の釣り手の袖を絞って左構えにスイッチすると、大野引き手で袖を折り込んで一方的な形で前へ。本意ではない左組みを強いられたチスティアコワが仕方なく中途半端な捨身技に潰れると、大野なんなくパスして横四方固。あっという間の「一本」。

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3回戦、ジェンマ・ハウエルから内股「一本」

【3回戦】
大野陽子○GS内股(GS1:51)△ジェンマ・ハウエル(イングランド)
大野が左、ハウエル右組みのケンカ四つ。ハウエル釣り手で腋裏を掴んで右袖釣込腰、さらに背中、腋裏と持ちどころを変えながら低く構えて守りに入る。大野引き手で袖を掴み続けて前に引きずり出そうとするがやや付き合い過ぎの感あり。ハウエルの捨身技から送襟絞を狙うが取り切れず「待て」。大野大枠良い組み手を作るのだが、さらに一段組み手のレベルを上げようと腐心。これに腰を引くハウエルの割り切った守勢、背中を持たれた釣り手を直す大野の具体的手段の欠如が加って戦線膠着。大野は丁寧に試合を作ろうという意図かかつてのような前進圧力による無理押しをせず、試合を動かせない。1分以上の膠着を経て、もはや仕方ないとばかりに遠間から内股を仕掛けるものの空振り、自ら倒れてしまう格好で「待て」。ハウエルここで思い切って背中を叩くと、腕を懐内に収められた大野腰を浮かせたまま腰の入れあいに応じる。ハウエル浅く大内刈を2連発、体勢の悪い大野打ち返せぬまま場外に押し出され、2分56秒大野に消極的試合姿勢の「指導」。ハウエルほぼ技を掛けぬままポイントリードを得る。ハウエル再び背中、あるいは腋裏を掴んで腰を引く守勢。しかしやはり大野はこれを崩す具体的手段を持たず、前に揺すり出して相手の手を切りながらきっかけを探るのみ。手先の引き手争いにも応じてしまい、鷹揚な乱取り状態のまま時間を消費する。残り1秒、引き手で袖を絞り込んで優位を作った大野の前にハウエルが畳を割り、場外の「指導」。試合はGS延長戦へ。GS30秒過ぎ、大野膝車で相手を大きく崩し、ようやく周りが見えて来た模様。ここからの「秋本返し」と送襟絞は失敗したものの、この攻めで疲労したハウエルは続く展開で釣り手の管理が甘くなる。形上背中は持ったが拘束が甘く、大野の釣り手はフリー。大野先に足を差し入れて手ごたえを確認すると、回旋を呉れて跳ね上げ、内股「一本」。大野はかなりの疲労、結果オーライではあったが、格下相手にここまでリソースを消費する必要があったのか。疑問の残る戦いぶりだった。

【準々決勝】
大野陽子○送襟絞(2:19)△マリア・ポルテラ(ブラジル)
大野が左、ポルテラ右組みのケンカ四つ。ポルテラが釣り手で下から腋を突き、大野が上から細かく肘を入れながらこれに対峙する形。ポルテラ肘を上げて大野の腕をこじ上げ、そのまま突いて距離を確保。大野引き手争いに気を取られ過ぎたかこれを静観、十分なところまで位置取りを開いたポルテラは、一本背負投崩れの左大外刈に飛び込む。大野が引き手を求めて前に出て来た瞬間、釣り手の手首を叩いて腕を伸ばしてやりながら仕掛けた巧みな一撃。予期すべき攻めだったが大野は虚を突かれた格好、肘を上げながら慌てて前に倒れて回避。一瞬踏ん張ったポルテラが大野の肘に阻まれて仰け反り、崩れて「待て」。そのままポルテラ優位で進んだ寝技が止まったところで、攻めない大野に1分13秒消極的試合姿勢の「指導」。大野一気に前襟・奥襟を持つ強気を見せるが相手に釣り手を絞られると過敏に反応、自ら離れて再び手先の組み手争いにステージを戻す。続く展開、ポルテラが大きく体を振って右袖釣込腰。崩された大野は両手で歩く格好で畳に手を着き、立ち直って振り向く。座り込んだポルテラ、中腰で振り向いた大野が離れたまま目を合わせる一瞬の間があって、我に返った大野寝技に飛び掛かる。出遅れたポルテラ、引き込みの体勢を作れず座ったまま大野の猛進を受けることとなってまったく抗えず。後に転がされ、首へのアプローチを許す。大野首にプレッシャーを掛けて抑え込みを狙うが、相手がしっかり体を残している状況を的確に判断。「腰絞め」に切り替えて送襟絞「一本」。

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ファンダイクの隅返をかわした大野が横四方固を狙う。

【準決勝】
大野陽子○GS横四方固(GS2:52)△サンネ・ファンダイク(オランダ)
畳に上がるファンダイクの眼光の鋭さただならぬものあり。事実上の決勝と目される大一番は大野が左、ファンダイク右組みのケンカ四つ。ファンダイクいきなり釣り手で背中を抱いて右大腰。ここから右大外刈へと繋ぐ。ところがまずはじっくりと思っていたのか大野は無抵抗、どころか大腰を仕掛けられた瞬間自ら釣り手を離し、掌を中空に上げてしまう対応。釣り手を弾こうとしたのか、背筋を伸ばしたかったのか。しかし下がりながら手で宙を掻くこの対応はまさに暴挙。抗う材料ない棒立ちのまま一撃を食らって「技有」。開始から僅か13秒、「一本」でないことが不思議なほどの強烈な一発だった。大野ここから猛進、今大会これまで見せていなかった「前進圧力」をフル発動する。技術的には無理押し、長い腕で背を抱くファンダイクの間合いの中に入る具体的な手立てにはやはり欠け、出口戦略も見えにくいものではあったが、大野のパワーと「前に出る」という行為自体が利いてファンダイクは疲弊。1分30秒場外の「指導」、1分58秒には消極的試合姿勢の「指導」と一方的に反則が積みあがる。あと1つの反則を失えば負け確定のファンダイク、あと2分弱で追いつかなければいけない大野、両選手はともにかなりの焦り。とにかく前に出る大野、下がりながら内股と袖釣込腰でしのぐファンダイクというシナリオ一本で括られる攻防が続く。ファンダイクは度々掛け潰れるが、立ちから寝に隙間のある大野は、時間のない中で寝勝負に移るだけの決定的な形を作れない。残り50秒、大野はついに引き手で腋を深々握り、自らの力が伝わる形を得る。大野回り込みながら5秒ほど体勢を作り直すと、場外に向かって左内股。ファンダイク膝から着地するが大野の巻き込み動作に抗えず転がって3分19秒「技有」。ついに追いついた大野はほぼ袈裟固に抑え込む形、ここから体を捌いて横四方固に近いところまで歩を進めるが足を絡まれると自らあきらめ、手順を止めて「待て」。大野、以後の20秒ほどはGS延長戦への突入を自ら申し出た格好。組み合わずに距離を取り、相手と組み合わないまま「それまで」の声を聞く。ここで大野は前進圧力の矛を収め、前戦までの「しっかり組んで、ゆすり出す」作戦にシフト。失点のショックから立ち直る時間を貰った格好のファンダイクは反撃開始、袖釣込腰に内股と打ち返し始め、GS1分14秒には右袖釣込腰を大野に跨がせる場面も作り出す。跨いだ大野はそのまま場外へ、決めに掛かったファンダイクの腰が引っ掛かりかけたが「待て」。GS2分過ぎ、ファンダイクの払腰を潰した大野が寝勝負で攻めると、大野慌てて攻めを辞めてしまう。どうやらファンダイクが防御の際に指に噛みついた模様。大野は噛まれた箇所を主審に示してアピール、映像チェックが行われたが確認出来なかった模様でこれはスルー、どころか前段の攻防を受けて大野に消極的の咎による「指導」が与えられる。大野怒気を発して奮起、奥を叩いて前に出始める。窮したファンダイクが大内刈から隅返に掛け潰れ、大野は首を掴み、跨いで体を制すると腕を差し返してガッチリ横四方固に抑え込む。ほどなくファンダイクが「参った」して試合決着。疲労困憊の両者、しばし天井を見上げたまま動けず。

【決勝】
大野陽子△優勢[技有・隅落]〇バルバラ・マティッチ(クロアチア)

※前掲のため省略

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