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【レポート・評】自身の長所突き詰めた強豪たちの競演、シェラザディシヴィリが2度目の世界王座奪取/ブダペスト世界柔道選手権男子90kg級

(2021年6月16日)

※ eJudoメルマガ版6月13日掲載記事より転載・編集しています。
【レポート・評】自身の長所突き詰めた強豪たちの競演、シェラザディシヴィリが2度目の世界王座奪取
ブダペスト世界柔道選手権男子90kg級レポート・「評」
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準々決勝、ニコロス・シェラザディシヴィリがガンツルガ・アルタンバガナから内股「一本」

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準決勝、シェラザディシヴィリが長澤憲大から釣腰「一本」

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

ハンガリーで行われたブダペスト世界柔道選手権2021、男子90kg級は2018年大会の覇者ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)が優勝を飾った。

シェラザディシヴィリは第1シード。己の長身と、何より腰技の強さという長所に対して直線的にかつ誠実にアプローチの手立てを増して、柔道自体の線の薄さというかつての弱点をキッチリ消し込んでいた。勝ち上がりはファルク・ブレクロフ(キルギスタン)から「指導3」、ピオトル・クチェラ(ポーランド)から隅落と浮腰の合技「一本」、本格派対決となったガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)との準々決勝は1分45秒格の違いを見せつける鮮やかな内股「一本」。そして準決勝では日本代表の長澤憲大(パーク24)と相まみえることとなる。

この試合はシェラザディシヴィリが右、長澤が左組みのケンカ四つ。腰技の得意なシェラザディシヴィリの命は右釣り手による背中の確保に他ならない、とともに認識しあったこの一番は、このポイントがそのまま攻防の最前線となる。長澤は、横抱きに掴んで来る相手の釣り手に肘を載せて殺すことを徹底。担ぎ技に活路を見出すが、シェラザディシヴィリは手を変え品を変え黙々と背中へのアプローチを繰り返す。掴まれた長澤が窮して仕掛ける担ぎ技はすべて潰し、帯を持っての捨身技で返しに掛かり、再開されればまた淡々と背中へのアプローチを続ける。明確な出口を持たず防戦が基本ラインの長澤は徐々に手が詰まる印象。そして長澤の集中が切れた2分半過ぎ、シェラザディシヴィリついに引き手で袖、釣り手で後帯を持つ最高の形を作る。ここで引き手を押し切ろうとした長澤の両手が伸びると見るや、シェラザディシヴィリまず大内刈を突っ込んで腰を寄せ、続いて隅返で座り込み、そのまま立ち上がってグイと腰を入れる三段の作り。この間引き手の袖は一方的に掴んだまま、結果として組み手の完璧さはさらに一段上がる。慌てた長澤思わず背中を横から抱き返して堪えてしまい、これまで作り続けて来た釣り手の防壁を外したノーガード状態。シェラザディシヴィリそれでもまだ足りぬとばかりに、相手が腰を引いて出来上がった空間にまず腰を突っ込んで隙間を潰すと、時計回りに呼び込みながら右釣腰。ここまで完璧に作られてしまえば、長澤に抗う材料はもはやない。密着、浮揚、そして縦に回転と投げの手順がひとまとめに襲い掛かって豪快「一本」。単に「腰技の強さを生かす」という抽象的なお題目ではなく、極めてリアルに「その強さが一番生きる状態は何か」「同時にこの形に対して相手が一番弱い状態とは何か」「その状態を作るためにはどんなアプローチをすればよいか」を考え抜いた跡が見える、シェラザディシヴィリの知恵の詰まった実に魅力的な一番だった。

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決勝、シェラザディシヴィリはダヴラト・ボボノフの出口を限定。待ち構えて捕まえ、最後は大内刈「一本」。

自己理解の深さと準備力の高さ。決勝もこのシェラザディシヴィリの長所が光った。相手のダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)もシェラザディシヴィリに背中を掴まれることの意味を十分理解して、自身の勝負モードの一である「抱く」オプションを敢えて捨て、この試合は相手の釣り手を殺しての担ぎ技勝負に戦略を定める。しかしシェラザディシヴィリはあらゆる手立てを駆使して背中にアプローチ。時間が経つごとに選択肢をもぎ取られてボボノフの手が詰まっていく。背を与えれば腰技が来る、先んじて担いでも帯を掴んで逆襲される。結果「指導2」を失ったGS延長戦にボボノフは戦略を一転。乾坤一擲、組み際に抱きつきの左小外掛に打って出る。しかしこれこそシェラザディシヴィリにとってもっとも欲しかった「背中を掴んで、腰を深く入れる」最高の形。しかもシェラザディシヴィリはここで誰もが予想した本命の腰技をフェイントに使い、大内刈による後技フィニッシュというさらに一段上の選択を為す。腿同士がぶつかるところまで深く入った一撃にボボノフ両足を浮かせて吹っ飛び「一本」。ここでシェラザディシヴィリの優勝が決まった。全試合一本勝ちの圧勝である。

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ニーマンは30歳にして悲願のメダル獲得

この2人のファイナリストのほか、表彰台にはマーカス・ニーマン(スウェーデン)と、トート ・クリスティアン(ハンガリー)が登攀。長身からの隅返と巴投という長所を突き詰めた苦労人ニーマンは30歳にして世界選手権初の表彰台。早くから騒がれながら抱き勝負と担ぎ技の二極を行き来し、なかなか己の長所をまっすぐ発揮できなかったトートもついに己の戦い方を掴んだ印象、27歳で2014年チェリャビンスク世界選手権(銀)以来のメダルを獲得することとなった。

このメダリストたちに共通するのはまず自己理解の深さ、そして、相手の長所を十分理解した戦略性の高さ。

ワールドツアーの上位で戦うためには、まず大前提として己のストロングポイント、そして出来ることと出来ないことをしっかり把握する「自己理解」が何より大事だ。己の柔道をもっとも知悉するのはまず己自身であるべきであり、誤った自己像からは誤った強化戦略しか生まれない。これを土台に、いま持てる手札で出来ることを突き詰めて、どうしても必要なパーツだけをしっかり足していく。その上で、今度は相手を十分研究する。ワールドツアーの上位対戦者同士は互いの長所や柔道の特徴、そして実力差を実に的確に把握しており、この前提に立っての駆け引きがあり、長所比べがあり、己のフィールドへの引きずり込み合いがある。見ていて実に面白い。上位対戦は前日の81kg級に続いてまことに旨味のある戦いの連続、豊かそのもの。決勝、シェラザディシヴィリとの長所比べでは自分は不利と、あえて己の「結構出来る」モードである抱き勝負オプションをあっさり引っ込め、相手の嫌な担ぎ技フィールドで勝負し続けて相対的勝利を目指したボボノフと、これをむやみに追いかけるのではなく相手に「来ざるを得ない」ところまで追い込んで網を張るシェラザディシヴィリの戦いなど、戦略それ自体がみものだった。

そして今回の「2番手」日本代表に欠落しているものを彼ら上位陣が実にハッキリと見せてくれた、81kg級と90kg級(+翌日の100kg級)の2日間(3日間)でもあった。総評でとっくり書かせて頂くのでここでは我慢して大幅割愛するが、今回の日本代表の仲間外れ感、ワールドツアーからの置き去り感は半端ない。その戦い方の貧しさ、見ていて率直に悔しかった。

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3位決定戦、長澤はニーマン得意の隅返に沈んだ。

日本代表2人の戦いについて。

長澤は大枠良く戦ったが、シェラザディシヴィリとニーマンのメダリスト2人に敗退。示唆に富むのは、この2人が上記「自己理解」の鬼であり、手札を「増やす」のではなく「使いかたを考え抜く」という、「強くなる」という行為の王道・本質を貫く人間であること。長澤が出来る技の数を10とすればシェラザディシヴィリはおそらく5か6、ニマンの技は2か3しかないだろう。日本代表屈指のテクニシャンである(そして組み手という手段を目的化してしまい、ここに溺れて負けてしまうことも多い)長澤が、ざっくりいって隅返と巴投しか出来ないニーマンに投げられて負ける。これは単に「我慢が利かなかった」とか「妥協した」とかいう現場の現象に収めていい話ではない。根本的なものの考え方の方向性の違いと喝破すべきだろう。詳しくは、総評に譲る。

初代表の村尾三四郎(東海大3年)は既報の通り2回戦でボボノフに敗退。上記「置き去り」感に通じるのだが、「指導」を簡単に貰い過ぎた。この「指導」に対する感覚の鈍さは今回の日本代表の通弊で、ワールドツアーをウォッチし、今回も全試合(もちろん視線は行き来するが)見ている感覚からすると、「ボンヤリ試合を見ていて、急に『指導』をボンボン貰う選手が出てきたら日本の選手だった」という感じだ。

話題となっている「立ち姿勢から関節を極めた」反則のシーンに関して。「極まっていない(だから反則ではない)」というのは現象そのものの観察としては正しいが、語るべき論点としてはずれている。戦う立場で重視すべきは「ルールそのもの」<「ルールの運用(審判傾向)」である。継続的にワールドツアーをウォッチしている方であれば、この手の「関節が極まりそうな形」や「意志」に関しての裁定がもっか極めて厳しく、「グレーゾーンはほぼすべて『指導』」であることはよくわかっているかと思う。別に村尾だけが特別に不利を被ったわけではなく、ワールドツアーでは近い状況での「誤審」(敢えてこういう言い方をするが)は頻発している。筆者のリアルタイムの感想は「当然極まってはいないけど、今のツアーの流れなら取られてしまっても仕方がないな」というもの。少なくとも「指導2」で後がない状態で足を踏み入れるべきエリアではまったくないのだ。

加えて、「ワールドツアーにおける文脈」について周辺事情をもう1つ。村尾はグランドスラム・カザンのミハイル・イゴルニコフ戦で似た形のエントリーからガッツリ腕挫十字固を施している。あの、肘を極められながらイゴルニコフがそのまま立ち上がり、腕を開いて村尾を振り落としたシーンだ。村尾の怖さを示すものとして、またイゴルニコフの凄さを示すものとして繰り返し再生されたであろう、GSカザンにおけるもっともインパクトのあった、そして危険なシーンの1つだ。イゴルニコフが明確な寝姿勢に移っていたためもちろん反則裁定自体は免れたが、「グレーゾーン」を巡回するIJFビデオチェッカーたちの目に留まったことは間違いない。村尾は危険人物としてマークされていたはずだ。その当の本人が今回は腕の付け根を抑えて「極めに行く」意思が見える形を採り、しかも相手は投げを継続中、結果としてはそのまま投げた格好(「技有」が宣されている)なのだから、「お願いだからもうこういうことはやってくれるなよ」という事故予防策としても、IJFがこれに反則裁定を下すのは十分理解できる。スカウティング部隊はIJF目線にたって「今回ああいうことには足を踏み入れない方がいい」と十分注意しておくべきだった。「実際に極まっていないのに反則負けは厳しすぎる」という向きには、与えられた反則が「指導1」(軽微な反則)であることを理解頂きたい。IJFは一発反則でいきなり選手の権利を奪ったわけではないのだ。

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準決勝を戦うダヴラト・ボボノフ。本当は村尾がここに進んで欲しかった。

話は頭に戻るが、とにかく簡単に「指導2」を貰い過ぎ。これが根本的な敗因である。力のある選手を相手に、まず双方、出来れば相手だけに「指導」2つを押し付け、テクニカルファウル1つか、3シークエンスの手数攻撃で試合を終わらせることが出来る状況を作るのは、ワールドツアーを戦う選手の常套手段。そして、勝てる相手であれば「作り」の段階から能動的に展開を動かして無駄な「指導」を貰わずに試合を進めていくのは強者の条件(今回の男子日本代表では丸山城志郎と橋本壮市がこれをしっかりやっていた)だ。余談ながら、この試合で相手役を務めたボボノフは決勝のGS延長戦でシェラザディシヴィリにほとんど投げられかかり、まだ「指導1」使える己のスコアを計算し、敢えて脚を抑えてディフェンスして「技有」失陥を回避している。柔道という将棋の「指導」という駒の使い方に関する意識がまったく違う。決勝までは「本当は村尾がこの場に立っていたはずなのに」とちょっと嫉妬していた筆者だが、この意識の差では負けて当然だ、村尾は勝てない、と一気に認識をあらためた次第だ。

だから、あんな反則で負けるのはおかしいというのは、残念ながら負け犬の遠吠えだ。世界選手権もオリンピックもあくまでワールドツアーの世界観で行われる大会であり、日本はもっかそのフィールドでは「ビジター」。この立場を良くわきまえる必要がある。俺たちの地区ではこれは反則取られないよ、と全国大会の場で叫んでも相手にされないだろう。戦略とはあくまで戦いが行われる場を支配する論理(ルールとその運用)を踏まえて作られるべきものなのだ。この先は余計なことかもしれないが、代表とはすなわち我々ファンの鏡であるので「ここで、なんで反則取られるんだよ、と訝しがるファンが多いから、代表選手は同じミスを犯した」のである。日本人は、(五輪や世界選手権の世界を形作る論理の品評会である)ワールドツアーをほとんど見ない。騒げば騒ぐほど、村尾のミスは必然であったと逆説的に裏付けてしまう構図であることも指摘しておきたい。村尾の負けは不運ではない。あっさり「指導2」を渡してしまうようなローカルな戦い方をしているから負けたのであり、相手の戦略(まず「指導2」を押し付けてアクシデントを待つ)に素直に乗り過ぎたから負けたのであり、場を支配する論理に反して危険なエリアに足を踏み入れたから負けたのだ。残念ながら、論理的帰結だ。

最後に。筆者はこの日の村尾優勝というシナリオに、物凄く思い入れていた1人である。私が書いたメディアの「ピックアップ」にはすべて村尾を押させて頂いたはずだ。勝つ村尾を見たかった。強い村尾を堪能したかった。負けたあとは喪失感のあまりにフリーズして数試合見逃してしまったくらいである。村尾の勝ちぶりは、この世界選手権最大の楽しみの1つだったのだ。ぜひ次回の世界選手権こそは1日中、最後まで「村尾の強さ」を堪能させて欲しい。

■ 入賞者・準々決勝以降結果・決勝戦評
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90kg級メダリスト。左から2位のダヴラト・ボボノフ、優勝のニコロス・シェラザディシヴィリ、第3位のトート ・クリスティアンとマーカス・ニーマン。

(エントリー58名)

【入賞者】
1.SHERAZADISHVILI, Nikoloz (ESP)
2.BOBONOV, Davlat (UZB)
3.TOTH, Krisztian (HUN)
3.NYMAN, Marcus (SWE)
5.GANTULGA, Altanbagana (MGL)
5.NAGASAWA, Kenta (JPN)
7.FEUILLET, Remi (MRI)
7.BOZBAYEV, Islam (KAZ)

【成績上位者】
優 勝:ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)
準優勝:ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)
第三位:トート ・クリスティアン(ハンガリー)、マーカス・ニーマン(スウェーデン)

【準々決勝】
ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)○内股(1:45)△ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)
長澤憲大○優勢[技有・大外刈]△レミ・フイレ(モーリシャス)
トート ・クリスティアン(ハンガリー)○GS技有・袖釣込腰(GS2:02)△マーカス・ニーマン(スウェーデン)
ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)○内股(1:50)△イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)

【敗者復活戦】
ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)○優勢[技有・隅落]△レミ・フイレ(モーリシャス)
マーカス・ニーマン(スウェーデン)○反則[指導3](2:44)△イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)

【準決勝】
ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)○釣腰(2:56)△長澤憲大
ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)○優勢[技有・腰車]△トート ・クリスティアン(ハンガリー)

【3位決定戦】
トート ・クリスティアン(ハンガリー)○GS反則[指導3](GS2:10)△ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)
マーカス・ニーマン(スウェーデン)○GS技有・隅返(GS0:19)△長澤憲大

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2度目の優勝を果たしたシェラザディシヴィリ。

【決勝】

ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)○GS大内刈(GS1:49)△ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)
ともに右組みの相四つ。試合を貫くベースラインは、釣り手で背中を抱えて得意の腰技一発を狙う長身シェラザディシヴィリ、これをさせずに担ぎ技で潜り込みたいボボノフという構図。ボボノフが引き手でシェラザディシヴィリの釣り手を絞り落とし、シェラザディシヴィリも引き手で袖を掴み返す両袖の絞り合いから試合がスタート。ボボノフ両袖の左袖釣込腰を放つが長身のシェラザディシヴィリの懐の深さの前に空転、潰れてしまう。絶対に背中を与えたくないボボノフがまたもや釣り手の袖を殺し、シェラザディシヴィリが応じて再び形は両袖。ボボノフ絞った左袖を右袖の上に重ねて切ろうとするが果たせず、54秒クロスグリップの咎で「指導」失陥。そして1分半過ぎ、シェラザディシヴィリがついに釣り手で背中を得る。引き手も袖に持ち替えて組み手は完璧、このまま前に引きずり出すが、ボボノフは背中を掴んで左釣込腰に潰れ、攻めることで危機を解消。1分41秒、シェラザディシヴィリに消極的との咎で「指導」。
3分過ぎ、シェラザディシヴィリ引き手で襟、釣り手で脇を差して背中を抱える大チャンス。ボボノフここも敢えて強気に左大腰を仕掛けて対抗するがやはり懐の中で空転、シェラザディシヴィリは左腕一本を抱えた崩袈裟固に抑え込む。大ピンチのボボノフ、しかし7秒で逃れて「待て」。
まだ一発も腰技を打てないシェラザディシヴィリ、釣り手で奥襟を持つと背中、後帯、と素早く持ちどころを深め、これ以上ない形を作り出す。ボボノフここは敢えて低く構えて守備に集中、シェラザディシヴィリが腰を切りながら一発の間合いを測るこの恐怖の時間を耐え切り、もはやここまでとついに割り切って潰れて「待て」。直後の3分41秒、ここまで約12秒後帯を持ち続けたシェラザディシヴィリに「指導2」。試合はGS延長戦へ。

ボボノフ組み際にスイッチして左の片襟背負投。しかしシェラザディシヴィリは立ったまま潰す。ボボノフは左背負投、左袖釣込腰、左背負投、片襟の左背負投と低い担ぎ技を4連打。しかしシェラザディシヴィリは潰し、膝を突っ込んで右内股に繋ぎ、帯を掴んで引込返に切り返し、いずれも己の投げのチャンスに繋げてプレッシャーを掛ける。GS1分過ぎからボボノフの集中力が切れ始め、背を掴んだシェラザディシヴィリは腰を深く切り返して隅返、さらにボボノフの左釣込腰を隅落に捌いてもろとも一回転、あわやポイントという場面も作り出す。危機のボボノフは残りの「指導」差を考えて敢えて脚を触って防御、GS1分42秒「指導2」。これでついにスコアはタイとなる。

背を与えれば腰技が来る、先んじて担いでも帯を掴んで逆襲される。手の詰まったボボノフはここで乾坤一擲の大勝負。組み際に抱きつきの左小外掛に打って出る。しかしシェラザディシヴィリは立ったままガッチリ受け止めて揺るがず、そしてこれぞもっとも欲しかった「背中を掴んで、腰を深く入れる」最高の形。シェラザディシヴィリは腰技の形で僅かに腰を切り返し、フィニッシュには右大内刈を選択。腿を突っ込むところまで深く入った一撃、前段のフェイントで後に重心を移していたボボノフはまったく耐えられず両足を宙に浮かせて後方に吹っ飛び「一本」。シェラザディシヴィリみごと2度目の世界選手権制覇決定。

→全試合結果

■ 日本代表選手全試合戦評
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3回戦、長澤がニコラス・ムンガイから内股「一本」

長澤憲大(パーク24)
成績:5位


【2回戦】
長澤憲大○崩上四方固(2:15)△マックス・スチュワート(イングランド)
長澤が左、スチュワート右組みのケンカ四つ。長澤25秒に両襟の左内股も投げ切るに至らず。スチュワートは釣り手の袖を抱き込む「ケンカ四つクロス」を経て背中へのアプローチを狙う。1分20秒双方に「取り組まない」咎の「指導」。スチュワート組み際に背中に手を当てると、長澤回避せず自らさらに深く手を回して相手を抱き込み返す。慌てたスチュワート右内股を放つも長澤は体の外側で透かし、そのまま潰して寝勝負へ。脇を差し、上体を固め、絡まれた足を引き抜いて縦四方固に抑え込む。相手の動きに応じて横四方固、さらに崩上四方固と拘束のレベルを上げて「一本」。

【3回戦】
長澤憲大○内股(2:33)△ニコラス・ムンガイ(イタリア)
長澤が左、ムンガイが右組みのケンカ四つ。引き手争いから試合がスタート、22秒双方に「取り組まない」咎による指導。長澤左足車から左内股、左内股から小内刈、左内股と立て続けに攻める。2分半、長澤ひときわしっかり組み手を作ると左小外刈で下げ、空いた空間にムンガイの頭を落として左内股。ムンガイ脳天を支点に倒立する格好で縦に一回転、「一本」。美技。

【準々決勝】
長澤憲大○優勢[技有・大外刈]△レミ・フイレ(モーリシャス)
長澤は左、ここまで大健闘のフイレは右組みのケンカ四つ。長澤素早く釣り手で襟を持つと肘を振って前進。フイレは立っておられずいったん潰れ、立ち上がると下がりながら巴投に左一本背負投と潰れて時間を使う。1分12秒には偽装攻撃の「指導」、さらに引き手を嫌ったフイレに1分42秒「取り組まない」咎で「指導2」が与えられる。これで相手が逃げられないと見た長澤一気に両手で持つ展開を2度続け、3度目の2分30秒には左大外刈を決めて「技有」。その後も丁寧に、しかし無理押しをせず試合を進める。フイレが担ぎ技に巴投と放って試合を散らすが危険な場面はなし。このままタイムアップ。

【準決勝】
長澤憲大△釣腰(2:56)○ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)
長澤が左、シェラザディシヴィリが右組みのケンカ四つ。シェラザディシヴィリが長澤の釣り手の袖を殺し、嫌った長澤が左背負投に潰れて展開を流すところから試合がスタート。シェラザディシヴィリ釣り手で本命の背中にアプローチ、長澤肘を載せて腕を落とそうとするがシェラザディシヴィリは肘を上げて外し、危機を感じた長澤は再び肘を載せ返しての左内股でひとまず攻撃。以後も腰技で勝負したいシェラザディシヴィリが長い腕で執拗に背中にアプローチ、長澤がこれを外すという構図で試合が進む。1分8秒、後帯を掴まれた長澤が背負投の形で潰れ、偽装攻撃の「指導」。長澤肘を振り、持たれては載せ返し、いよいよとなれば内股に背負投と繰り出して展開を切る丁寧な駆け引きも、シェラザディシヴィリは慌てず淡々と背中へのアプローチを継続。長澤の内股を透かし、掛け潰れには帯を持って引っ張り上げての捨身技で対応を続ける。長澤が左大内刈から拝み打ちの左背負投を繰り出した直後の2分34秒にはシェラザディシヴィリにも消極的試合姿勢の「指導」。続く展開、シェラザディシヴィリ一方的に引き手で袖を持つと釣り手で後帯を掴む良い形。両手で引き手を切ろうとした長澤の両腕が伸びると見るや、まず大内刈を突っ込んで腰を寄せ、続いて隅返で座り込み、そのまま立ち上がってグイと腰を入れる三段の作り。この間引き手の袖は掴んだまま、結果としてさらに組み手はほぼ完璧な形となる。窮した長澤思わず背中を横抱きに堪えてしまい、釣り手の防壁がなくなってしまう。シェラザディシヴィリは長澤が腰を引いて出来上がった空間に腰を突っ込んで隙間を潰すと、いったん時計回りに呼び込みながら右釣腰。抗う材料を持たぬ長澤浮き上がり、縦にそのまま一回転「一本」。シェラザディシヴィリが貫禄を見せつけた一番だった。

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3位決定戦を戦う長澤。

【3位決定戦】
長澤憲大△GS技有・隅返(GS0:19)○マーカス・ニーマン(スウェーデン)
長澤は左組み、ニーマンは両組み。ニーマン両襟を握ってにじり寄り、長澤は引き手で袖、釣り手で横襟を握って対峙。最終的に真捨身技で勝負したいニーマンはこれを狙って右で背中を掴み、長澤が腕をずらして良い形を作ったところで「待て」。52秒技の出ない双方に「指導」。ニーマン長澤の袖を殺しては背中へのアプローチを狙い、長澤は手が詰まる前に度々左内股を放つがいずれもニーマンの深い懐の中で空転、立て続けに自ら潰れてしまう。ニーマン右構えから隅返、さらに長澤の左背負投を潰しての寝技、続いてひときわ深く背を抱えての隅返と加速。2分59秒には背負投を掛け潰れた長澤に偽装攻撃で「指導2」が与えられる。長澤「大内・小内・大内」の良い攻めを見せるが組み勝っているニーマンは揺るがず、体勢を立て直すと隅返で反撃。長澤が巧みな駆け引きで引き手で袖を一方的に得る良い形を作ったところで本戦4分が終了。試合はGS延長戦へ。延長開始早々ニーマン左で袖、右で背を深く抱き込む良い組み手、時計回りの動きからひときわ大きく隅返。詰めるのではなく敢えて遠くに体を捨てたこの技に、引き出されて体を伸ばされた長澤は死に体。なんとか手を畳についたが次いで襲い来る回旋運動には抗えず、膝を着いたところを転がされて「技有」。ニーマン見事銅メダル獲得。

村尾三四郎(東海大3年)
成績:2回戦敗退


【1回戦】
村尾三四郎○小外刈(0:52)△ユーリ・モカヌ(モルドバ)
村尾が左、モカヌ右組みのケンカ四つ。モカヌは袖を両手で抱き込む変則組み手から右足を股中に突っ込んで互いを固定。この「サリハニ状態」から隅返に内股と繰り出す。いずれも投げを狙うというよりは時間を使い、終盤に勝負を持ち込むための見せ技。村尾数合付き合うと左内股、左大内刈、左内股と繋いで相手の防壁を外す。モカヌが再び足を突っ込もうと頭を離して後重心になったところで、村尾左小外刈。奥足に当てて真裏に崩し、しっかりコントロールして「一本」。

【2回戦】
村尾三四郎△GS反則[指導3](GS0:17)○ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)
勝負どころの大一番は村尾が左、ボボノフが右組みのケンカ四つ。ボボノフ後帯を掴むと、後ろに手を残したまま固定して頭を突っ込むウズベキスタン式の右釣腰。さらに引き手を争いながら片手の右釣込腰、右体落に右内股と細かく技を仕掛けて手数で先行、一方組み手に集中する村尾はなかなか技が出ない。1分37秒双方に片手の咎で「指導」。村尾引き手を求めるがボボノフ細かく切りながら右体落を見せて形上の拮抗を演出。村尾左内股、左小外刈、左内股と見せるが後半勝負を期すボボノフの割り切った姿勢を崩せず、3分22秒には双方に片手の咎で「指導2」。ボボノフはここからややペースアップ、低い姿勢のまま背中を掴んで間合いを詰め始め、一本背負投に片手の釣込腰と見せる。いずれも掛け潰れたが、村尾は少しづつ手数を上積みされる格好で状況は悪し。GS延長戦開始早々、ボボノフ再び伏せ手の釣込腰。村尾は崩れず、ボボノフが残した腕をまたいで制すると左に押しつぶして「技有」を得る。しかし腕挫十字固の入りに近くなったこの体勢に審判団が反応。こうなると相手の腕の付け根を抑えて「極めにいく意思」を形で見せていた村尾は分が悪い。主審は立ったまま関節を極めに出たとしてポイントを取り消し、村尾に「指導」1つを追加する。村尾「指導3」で無念の敗退決定。

※ eJudoメルマガ版6月13日掲載記事より転載・編集しています。

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