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【プレビュー】豪華日本勢が大会支える、注目は久々登場の阿部一二三とウルフアロン/グランドスラム・アンタルヤ2021オーバービュー

(2021年4月1日)

※ eJudoメルマガ版4月1日掲載記事より転載・編集しています。
【プレビュー】豪華日本勢が大会支える、注目は久々登場の阿部一二三とウルフアロン
グランドスラム・アンタルヤ2021オーバービュー
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31日に行われたオフィシャルドロー。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

今年のIJFワールドツアー4つ目の「グランドスラム」、トルコ・アンタルヤ大会がきょう1日に開幕する。この5週間でこれが3つ目のグランドスラム大会。前週のトビリシ大会終了から中4日、さらに中2日空けて今度はアジア・オセアニア選手権が控えるというこの超過密日程を受けて、さすがに参加選手の陣容は薄め。もともと強豪選手の数が極端に限られる女子48kg級や52kg級、63kg級などはほとんど崩壊状態。五輪当落線上のローランキング選手が1大会で状況を根こそぎ変えることすら可能なボーナス大会の様相を呈している。

その中にあって、大会の目玉はなんと言っても五輪日本代表5人。66kg級の阿部一二三(パーク24)、90kg級の向翔一郎(ALSOK)、100kg級のウルフアロン(了徳寺大職)、100kg超級の原沢久喜(百五銀行)、そして女子78kg級の濵田尚里(自衛隊体育学校)と揃ったこの豪華な日本勢が、危機に陥ったIJF興行を一手に支えていると言って過言ではない。

五輪本番の開幕まで残すはわずか114日。実戦感覚の維持と現在地の確認のためには定期的な大会出場が欠かせないが、技術・作戦の秘匿という戦略面や鍛錬期の確保というコンディショニング面を考えればそうそう頻繁に試合に出るわけにもいかない。まして現在はコロナ禍のさなか。海外大会への出場はそのまま帰国後の2週間を事実上棒に振る(隔離期間)ことになるわけで、スケジューリングの難しさは常とは比べものにならない。つまりは、今回(アジア・オセアニア選手権と連戦する選手は「今シリーズ」)が五輪前の「みおさめ」となる選手も多いはず。ファンとしては絶対に見逃してはならない大会である。

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阿部一二三

わけても注目は阿部とウルフ。ともに五輪代表内定後これが初の実戦、久々の国際大会出場である。

阿部はこれが昨年12月に行われた異例のワンマッチ「東京五輪66kg級日本代表決定戦」以来の実戦、昨年2月のグランドスラム・デュッセルドルフ以来1年2か月ぶりのトーナメント出場である。コンディションは本人いわく順調、そして組み合わせを見る限り、今大会に阿部の敵役が務まるレベルの選手はいない。豪快な技で投げまくる阿部らしい柔道、圧倒的な内容で五輪に弾みをつけてくれるはずだ。加えて注目したいのはその戦いぶりに進化あるかどうか。足技や寝技を上積みして来たという技術的な幅の広がりはもちろんだが、あの丸山城志郎と繰り広げた24分間の激戦、そしてただ1試合、たった1人の相手に勝つためにすべてを捧げたという異常な数か月の経験が阿部の柔道にどんな影響をもたらしてくれるのか。粘られた場面、うまくいかない時こそ注目である。

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ウルフアロン

ウルフは実に、2019年12月のワールドマスターズ青島以来の実戦。この間右膝半月板の手術を受けており、まずは五輪に向けてこの「新しい体」のフィット感を確かめるのが今回の課題。手術からは既に1年以上が経過、入念なリハビリとトレーニングを積んで準備は万全とのことだが、「練習と試合は違うはず」と本人の分析は意外にもシビア。五輪に向けての仕上りは85パーセント、残る15パーセントを実戦の場で見つけることが今回の課題とのこと。ウルフ持ち前の頭脳的な柔道と豪快な一発が復活しているかどうかはもちろん、膝の手術を経て、課題であった「受け」がしっかり機能するかにひときわ注目して見守りたい。100kg級はご存じの通り極めて人材の濃い階級であるが、今大会にウルフの敵になるレベルの相手はほとんどいない。そんな中、最大のみどころは準決勝で組まれるはずのアルマン・アダミアン(ロシア)戦である。アダミアンは怪力、かつ両組み。膝手術後のフィット感、受け、ウルフが「増やした」と語る技術的な幅(本人は相四つの技種、内股の入り方などを挙げていた)、それら全てが確認出来るであろう大一番である。ウルフはこのままアジア・オセアニア選手権にも転戦予定。早いスパン、濃い内容でのPDCAサイクルを期待したい。

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原沢久喜

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向翔一郎

原沢は1月のワールドマスターズで久々実戦の場を踏んだが、フィットし切れず初戦で格下のヤキフ・ハモー(ウクライナ)に敗退。この際肋骨の負傷(亀裂骨折)も受けてしまった。あれから2か月が経ち、負傷も癒え、「国内モードになっていた」(本人談)稽古のありようも変え、今大会にアジア・オセアニア選手権と組んだ2連戦で出直しを図る。順当に勝ち上がれば準決勝でタメルラン・バシャエフ(ロシア)、決勝では2019年東京世界選手権の覇者ルカシュ・クルパレク(チェコ)との手合わせが可能。バシャエフとクルパレクももっか決して好調というわけではないが、原沢がこのシリーズのテーマに掲げる「海外選手と組み合う経験、自分の現在地の確認」にはまさにうってつけの相手。ぜひ対戦に期待したい。

向は1月のワールドマスターズに出場したもののまったく覇気なし、気乗りしない風情のままあっさり予選ラウンドで姿を消している。そもそも何を企図したのか、どういう状態であったのか、読み解くこと自体が難しい試合ぶりであった。もっかこの選手は前後の文脈がない、そして見えない、全てがリセットされた白紙状態。向は「勢い」や「流れ」に極端にパラメーターを振ったタイプの選手であり、五輪に向けてこのあたりでぜひ上昇機運を掴んでおきたいところだ。今大会は、強い選手はいるが金メダルレベルのスターは出ていないという派手さのないトーナメント。そしてもっか向は紛れもなくこの「スター以外」。ここで勝ち上がれないようでは、そのままダンゴ状態の中堅世界に埋没しかねない。他の選手とは異なり、内容云々ではなく結果が求められるはず。五輪で勝つためのジャンプ台として、ぜひメダルの欲しい大会だ。

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濱田尚里

濱田は試合をこなすこと自体で調子を上げていくタイプ。本人も出来得る限り試合に出たいとの意向を強化サイドに伝えており、他選手と違って以後まだまだ大会に姿を見せる可能性も高い。金メダルを狙える力があることはもはやハッキリしており、ということは単なる勝ち負けではない文脈、課題の消化率にフォーカスして観察するのが面白い。1月のワールドマスターズ・ドーハ決勝では宿敵マドレーヌ・マロンガを抑え込みながら逃がして苦杯。増地克之監督が語ったこの間の稽古の様子からすると、今回の観察ポイントはあの「ワンチャンス」を「たくさんの機会」に変える「立ち→寝」の技術の引き出しの増加あるかどうか、そして取り切る精度の向上。出場メンバーの顔ぶれからして優勝自体はほぼ確実。どう倒すか、いかに決めるかという具体的な技術に注目したい。気を付けたいのは前週のトビリシで驚きの優勝を飾ったナターシャ・アウスマ(オランダ)戦が初戦で組まれること。しっかり勝って「こなす」試合の数を確保したいところ。

14階級それぞれのみどころについては、常の通り、日程別に配信するプレビュー記事を参照されたい。決勝ラウンドは日本時間23時から。

※ eJudoメルマガ版4月1日掲載記事より転載・編集しています。

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