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【レポート】猪瀬真司が悲願の優勝、決勝はライバル福田大和から鮮やか「一本」/第43回全国高等学校柔道選手権男子66kg級レポート

(2021年3月30日)

※ eJudoメルマガ版3月30日掲載記事より転載・編集しています。
猪瀬真司が悲願の優勝、決勝はライバル福田大和から鮮やか「一本」
第43回全国高等学校柔道選手権男子66kg級レポート
文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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準々決勝、福田大和が顕徳海利から内股透「一本」

【決勝まで】

優勝候補と目された選手は4人。全日本カデ王者・全国中学校大会王者の福田大和(島根・平田高)と、同大会の上位対戦でいずれも福田に敗れた猪瀬真司(埼玉・埼玉栄高)の2年生2人、それに全国中学校大会55kg級王者の顕徳海利(兵庫・神港学園高)、服部辰成(神奈川・東海大相模高)の1年生2人だ。

決勝進出者は福田と猪瀬。両者ともに1年生のV候補を、直接対決でしっかり破っての勝ち上がり。

福田は2回戦から登場。まず都市弦介(広島・崇徳高)をGS延長戦1分13秒背負投「一本」で下し、3回戦は仲條樹(新潟・開志国際高)から肩車と上四方固の合技「一本」で試合時間わずか1分34秒の快勝。そして迎えた勝負どころ、顕徳海利との準々決勝をGS延長戦開始早々の鮮やかな内股透「一本」で乗り切ると、準決勝は今季の近畿ブロック王者・秋田伯(比叡山高)をGS延長戦開始早々の小外掛「一本」で沈めて決勝進出決定。

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3回戦、猪瀬真司が服部辰成から背負投「一本」

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準決勝、猪瀬が工藤泰輝から左小内刈「技有」

猪瀬はまず榎本帆高(三重・四日市中央工高)を相手にGS延長戦1分17秒、「指導」を得ての僅差優勢で下して2回戦を突破。続く3回戦で早くも服部辰成戦という山場を迎えることとなる。この試合は左相四つ、激しい組み手争いもフィジカルに勝る猪瀬が僅かに優位の様相で試合が進む。迎えた2分7秒、組み手で閉塞気味の服部が思わず釣り手から持ちに行くと、猪瀬がその袖を掴んで腹側に大きく折り込む。いなされた服部は持ちどころがなくなり、両手で空を掴む形でたたら。体勢を直そうとしたその一瞬、猪瀬が素早く片襟を差して左背負投の一撃を呉れる。腋にガッチリ入った肘、そして肩と頭を一体に固めて密着面をしっかり形成。服部は両手を着いて逆立ち、このまま技は抜けるかと思われたが猪瀬はこの密着面で相手を強く支えて制動、膝を伸ばしながら強引に回旋を呉れる。最後は両足ジャンプで己の足が「八」の字で上を向くところまで押し込み切って、文句なしの「一本」。
これで波に乗った猪瀬、続く準々決勝は越知世成(愛媛・新田高)を開始56秒袖釣込腰「一本」に仕留める快勝。準決勝は工藤泰輝(東京・修徳高)をGS延長戦29秒小内刈「技有」で振り切り、宿敵・福田との決勝戦に辿り着くこととなった。

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猪瀬が思い切った左腰車で攻める

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巴投を食ったはずの福田が、素早く腕挫十字固を狙う。

【決勝】
猪瀬真司(埼玉・埼玉栄高)○GS背負投(GS4:00)△福田大和(島根・平田高)

福田が右、猪瀬は左組みのケンカ四つ。手先の組み手争いから猪瀬が釣り手で袖を抑えて絞り込み、両者釣り手を低く抑え合ったまま引き手を争う形となる。これを受けて34秒、双方に片手の咎による「指導」。再開されると福田組み立てを変えて釣り手で奥襟を狙うが、猪瀬が判断早く一歩下がって外し、再び双方釣り手を絞り合っての引き手争いとなり。膠着続くが1分12秒に猪瀬が釣り手を横、奥と動かして思い切った左腰車。福田の上体が折れ、膝から着地して「待て」。続く展開は福田が釣り手を片襟に入れて相手を引き寄せ、釣り手で前襟。この手順を経て福田が下、猪瀬が上から持っての引き手争いとなる。福田相手の釣り手の肘を外側に叩き出して引き手を求めるが取り切れず、猪瀬が顎を、福田が前襟を突いてのプレッシャーの掛け合い。ここで猪瀬が巴投。福田が一回転して伏せ、猪瀬起き上がって捲ろうとするが福田は淀みなく、むしろ相手の巴投をスイッチに素早い動作で腕挫十字固に入り込んでいる。猪瀬慌てて足を絡んで体勢をずらし、なんとか耐え切って2分0秒「待て」。猪瀬続く展開では左への巻き込みで攻防を終え、これを受けて2分23秒主審は福田に消極的試合姿勢の咎で2つ目の「指導」を宣告する。

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猪瀬の引込返。「技有」かと思われたが映像チェックの結果ノーポイント。

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「指導2」まで奪回した福田が「一本大外」に入り込む。

スコア上後のなくなった福田は激しく前へ。まず展開を押し戻そうと手先の組み手争いから片手の右背負投、入りが浅いと見るや身を翻してすばやく立ち戻る。しかしこれはやや不用意、片襟を引き寄せてこの「立ち戻り」をコントロールした猪瀬がそのまま引込返を呉れる。福田が崩れ、猪瀬は相手に脚を絡ませたまま縦四方固の体勢。猪瀬が引き抜いた瞬間に福田が反転「待て」を貰ったときには残り時間僅か5秒。このまま本戦は終了となり、試合はGS延長戦へもつれ込むこととなる。

釣り手の袖の落とし合いから、福田が左小内巻込、左大内刈、肩車と技を積む。いずれも体勢不十分で浅い技だが「指導」ビハインドの後のない状況を考え、手数を出しながら一発の機を探る形。GS57秒、福田両袖からの右袖釣込腰に潰れる。立ったまま受け切った猪瀬これを見逃さず、釣り手を後帯に持ち替えると足を突っ込んで相手の両膝を浮かせ、思い切った引込返。福田は大きく回って体側から畳に落ちる。寝姿勢から立ち姿勢への明確な移行、そして側面での着地とこれはポイントがあって然るべき技と思われたが、映像チェックの結果これはノーポイント。試合は続行となる。

命拾いした福田は釣り手を奥、脇、と狙いどころを変えながら前進、しかし猪瀬落ち着いてすぐさまことごとく外す。以後は再び釣り手を絞り合っての引き手争い。福田は巴投、さらにここから流れた展開での猪瀬の巻き込みに合わせた隅落、と有効打を2つ続け、GS2分5秒には主審が猪瀬にも2つ目の「指導」を宣告。ここでスコアはタイとなる。再開直後、福田は左の「一本大外」を深く入れ、沸かせる。どうやら福田に流れが傾いて来た印象。

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猪瀬の前技が「立ち関節」ではないかと映像チェックが入るも、これはさすがにスルー。

続く展開、釣り手の袖の絞り合いから猪瀬が体を反転させて左体落様の前技。しかし引き手を添えて両手で片腕を制する形になったことで、福田が肘を傷めたとアピール。コーチ席からも、立ち姿勢からの関節技に該当するのではないかとの旨、声が飛ぶ。映像チェックによる長い中断があったが、審判団は反則に該当せずと判断。試合は続行となる。

再び厳しい組み手争いから猪瀬が隅返、さらに右に組んでの左大内刈に左一本背負投と技を積んで攻勢。優位を取ったまま「待て」を受ける。

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猪瀬の左背負投が決まって「一本」。

再開直後、猪瀬が引き手で前襟を掴む。迎え撃った福田は同時に引き手で袖を持つチャンスを得た格好だが、意外な展開に面食らったか対応が遅れ、釣り手が定まらない。福田いったん膝を落として腰を引き、一瞬待ちの間を作ってしまう。ここから体勢を戻さんと上方向への衝動が生まれた刹那、猪瀬必殺の左背負投が閃く。引き手で前襟、釣り手で片襟を差す形で放ったこの技のタイミングはまさに絶妙。福田は耐えようなく吹っ飛び、文句なしの「一本」。試合時間はGS延長戦4分0秒、猪瀬がついに悲願の全国制覇を成し遂げた。

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猪瀬は3戦目にしてついに宿敵・福田を倒した。

「一本」で決まった試合だが、内容はまさに鍔迫り合いの接戦。釣り手の持ちどころを変え、手順を変え、と先んじて次々異なる手立てを繰り出す福田に対し、その組み手の機微を巧みに捉えて勝負技を繰り出した猪瀬の集中力の高さが光った。

そして、この「一本」は突発的に生まれたものではなく、あくまで試合の流れに沿ったものである。福田最大の勝機はGS延長戦2分20秒過ぎ、「指導2」奪取で追いつき、左の「一本大外」を打ち込んで優位を取った時間帯だ。過去2戦逆転負けを喫している猪瀬にとっては嫌な展開であったはず。明らかに勝負の行方が揺れていた。しかしここで「立ち関節」を巡る映像チェックと合議があり、福田に傾きかけた流れがいったん切れてしまった。猪瀬はここで立ち直り、立ち直らせてしまったことで福田に焦りが生まれたように見受けられた。いったん敵失で勝ちかけたことで逆に福田の集中力が切れてしまった印象もあり、以後の攻防にこれまでの展開と異なる、鍔迫り合いへの忌避感が生まれていたように見えた。そしてここで受けに回ったことが、これまで組み手手順の変化で先を行っていたはずの福田の初めての「待ち」、つまりは「相手の引き手に前襟を許し、しかし自身は引き手で袖を持てている」という状況に対する処理の遅れ、一瞬の躊躇に繋がったとみる。その結果として現れた現象が猪瀬の背負投「一本」である。過去2度逆転負けしている相手に終始流れを取りながらスコアで追いつかれるという苦しい状況を跳ね返し、集大成の「一本」に繋げた猪瀬の精神力に拍手を送りたい。

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優勝の猪瀬真司

【入賞者】
(エントリー47名)
優 勝:猪瀬真司(埼玉・埼玉栄高)
準優勝:福田大和(島根・平田高)
第三位:秋田伯(滋賀・比叡山高)、工藤泰輝(東京・修徳高)
第五位:古賀雅都(佐賀・佐賀商高)、顕徳海利(兵庫・神港学園高)、柴田渚(山口・高川学園高)、越知世成(愛媛・新田高)

猪瀬真司選手のコメント
「過去2回負けていて、今回は絶対に勝ってやろうと思って試合に臨みました。少し研究はしたが、結果として、自分の投げに行く柔道をすれば負ける気がしない、と思えた。なので作戦ではなく、投げて勝つ、絶対に『一本』取ってやるという気持ちで戦いました。最後の技は普段から練習している技が咄嗟に出た。早く勝ちたかったが1年間試合がなく、やっとこの日が来たという感じ。自分らしい、泥臭く投げにいく柔道が出来た。この優勝を次に繋げていきたい。」

【準々決勝】
秋田伯○合技[袖釣込腰・横四方固](2:22)△古賀雅都
福田大和○GS内股透(GS0:11)△顕徳海利
工藤泰輝○GS技有・背負投(GS2:07)△柴田渚
猪瀬真司○袖釣込腰(0:56)△越知世成

【準決勝】
福田大和○GS小外掛(GS0:27)△秋田伯
猪瀬真司○GS技有・小内刈(GS0:29)△工藤泰輝

【決勝】
猪瀬真司○GS背負投(GS4:00)△福田大和

※ eJudoメルマガ版3月30日掲載記事より転載・編集しています。

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