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【プレビュー】「やりたいこと」が見えるはず、五輪日本代表の勝ちぶりに注目/グランドスラム・タシケント2021オーバービュー

(2021年3月5日)

※ eJudoメルマガ版3月5日掲載記事より転載・編集しています。
【プレビュー】「やりたいこと」が見えるはず、五輪日本代表の勝ちぶりに注目
グランドスラム・タシケント2021オーバービュー
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(Photo:IJF)

→グランドスラム・タシケント2021日本代表選手一覧
→グランドスラム・タシケント2021組み合わせ(公式サイト)

文:古田英毅
Text by Hideki Furuta

グランドスラム・タシケント2021がいよいよ本日5日からスタート。1月のワールドマスターズ・ドーハから国際大会に復帰した日本は、東京五輪代表5名を含む大量11名の選手を送り込む。一方で2週間前にグランドスラム・テルアビブというビッグイベントを終えたばかりということもあって、海外勢の陣容は全体的にかなり薄い。特に強豪選手の出場が前2大会でほぼ一巡し、かつ先週末の日本代表エントリーを受けてライバル選手の出場取り消しが相次いだ(この時期敢えて日本選手と対戦することにメリットはまったくないし、帰国後の隔離期間の活動を捨ててまで優勝する可能性が薄い大会に出ることはない。当然の選択だ)女子はほとんど「崩壊」に近い状態。金メダル争いのライバルが誰もいない。となれば、見どころはやはり日本の、それも五輪代表の出来ということになる。周囲のレベルが高くなく「やりたいこと」が試しやすいはずの今大会は、この1年間のブランク期間に何を志向して稽古を積んできたのか、五輪本番に向けてどんな柔道を考えて来たのかが、ひときわ濃く見える大会になるはずだ。結果以上に(とはいえ女子は全員優勝必須の陣容だが)、内容に注目すべき大会といえるだろう。

五輪代表に関して1人ずつ、注目点を挙げて大会オーバービューとしておきたい。

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阿部詩

52kg級の阿部詩は、個別分散合宿などで心肺系の強化に取り組み、ブランク期間の後半は低い担ぎ技や捨身技などの新技開発にも余念がなかったと仄聞する。これまで寝技、足技と次々使える武器を増やしてきた阿部はかねて「何でも出来るように、出来ないことがないように」と自身の柔道の志向について語っており、技術の幅を広げることに貪欲。この期間もまったく無駄にしていない。打点の高い背負投や袖釣込腰、内股など高い軌道の技が得意な阿部が一転低く潜り込む技も使いこなすとなれば、相手にとってはまさに驚異。今大会はアモンディーヌ・ブシャー(フランス)とマイリンダ・ケルメンディ(コソボ)のライバル2人が欠場、唯一面倒な相手と目されたオデッテ・ジュッフリダ(イタリア)も阿部のエントリーを受けてか突如出場を取り消しており、トーナメント内に阿部の敵になるレベルの選手はいない。前述「やりたいこと」がしっかり試せる環境が整っているといえるだろう。何が飛び出すのか、戦いぶり自体に注目。

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田代未来

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新井千鶴

63kg級の田代未来は優勝必須。唯一のライバルと目されるクラリス・アグベニュー(フランス)がおらず、1次エントリーの段階で姿のあったリオ五輪王者ティナ・トルステニャク(スロベニア)も週明けに出場を取り消した。トルステニャクと形上代表を争うアンドレア・レスキ(スロベニア)や、新進のオズバス・ソフィー(ハンガリー)といった注目選手は挙げられるが、勝ち負けというレベルで田代に迫る選手はゼロ。逆に言えば取りこぼし、もっと言えば苦戦すら許されない厳しい状況ではあるが、ここは圧勝に期待したい。

70kg級の新井千鶴は、大会中断直前のグランドスラム・デュッセルドルフではキャリア最高とも言えるパフォーマンスを見せて圧勝している。強気の組み手に冴えた足技、威力のある内股に手堅い寝技とついに才能完全開花の感があった。まずは、あの素晴らしい柔道が1度だけの花火ではなく、いまなおしっかり新井の掌中にあるものなのか、これをぜひとも確認したい。新井はパワーファイター打ち揃うこの階級にあって「やりたいことをやる」ためにこの1年間体幹トレにはひときわ気を配ってきたとのこと(もともと実はパワーでもこの階級ナンバーワンクラスであるが)。加えて今回は常の大会で優勝を争うレベルのライバルはおらず、新井の指向する柔道がストレートに表現される環境が整っている。これまでの新井の「嵌り」は、格下を相手にしたときに、組み手の悪さをパワーで塗り潰して「投げることが出来てしまう」「勝ってしまう」こと。これが、コンディションの良い相手と戦ってうまく行かない時の打開策の薄さや心理的な焦りを呼び込むことになっていた。技の威力は折り紙付き。今大会では、格下相手でもきちんと組み手で相手の武装を剥がし、その上で刃を入れていくことが出来るかどうかに注目しておきたい。昨年1度みせた「開花」に、太鼓判を押させる大会にして欲しい。

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素根輝

78kg超級の素根輝はひとり代表内定が早く、この大会が約1年3か月ぶりの実戦。この中断期間に個別分散合宿で繰り広げた素根のハードワークは業界の語り草、連続で男子との激しい乱取りをこなし、大量の投げ込みを行うその様に「凄まじい量と質」との感想が相次いでいる。視察に訪れた増地克之代表監督も「止めないとどこまでも稽古してしまう」と舌を巻いたとのこと。この充実の稽古ぶりと、ホマーヌ・ディッコ(フランス)の躍進以外にみるべきもののないいまのこの階級の様相を考えると、素根はこの期間で遅れをとるどころか、実力的に周囲をもう一段引き離している可能性が高いと推測する。この階級もイダリス・オルティス(キューバ)とイリーナ・キンゼルスカ(アゼルバイジャン)のターゲット選手2名が素根のエントリー後に出場を取り消し。加えて素根は第1シード配置、多少なりとも歯ごたえのある相手はほとんど逆の山に入ってしまい、勝ち負けはもはや視界の埒外。自分自身の出来に集中せざるを得ない状態だ。大型選手に「形上優位に見える時間帯」をいかに与えずに勝つか、本人も課題にしてきたはずのこの点に注目。

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永瀬貴規

男子は強国・韓国の一線級派遣(73kg級のアン・チャンリンのみは出場を回避)もあり女子に比べるとレベルは上。加えて、五輪代表永瀬貴規が送り込まれる81kg級はもともと強豪があまりに多く、常からレベルの低い大会などない。今回も世界王者サイード・モラエイ(モンゴル)にテルアビブで優勝したばかりのシャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)、ランキング1位のマティアス・カッス(ベルギー)らがエントリーして難易度は相応に高い。それでも永瀬の力をもってすれば狙うべきは当然優勝ということになるのだが、今回の課題は、まずしっかり試合をこなしてメダル争いに参加し、「いつもの永瀬」を取り戻すことにあるのではないだろうか。ご存じの通り永瀬は2019年春以降無敵の強さ、ハイレベル大会5連勝で2度目の五輪代表権に辿り着いたわけであるが、締めの大会になるはずだった2020年2月のグランドスラム・デュッセルドルフでは躍進著しいタト・グリガラシヴィリ(ジョージア)の前に思わぬ初戦敗退を喫している。グリガラシヴィリが以後勝ちまくって(いまや五輪金メダル候補の筆頭格である)いるために永瀬の名誉は傷ついていない形だが、いかなこの選手とて「初戦負け」の汚名をそそぐ機会を失ったまま過ごす1年間は心に堪えたはず。おそらく実戦機会が容易に訪れないであろう今後数か月の調整期間のためにも、まずは序盤をしっかり勝ち上がってペースを掴むことが肝要だ。幸いシード権があり、準々決勝のドミニク・レッセル(ドイツ)戦までは無風。永瀬らしい、芯のある柔道を期待したい。

※ eJudoメルマガ版3月5日掲載記事より転載・編集しています。

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