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【プレビュー】81kg級はムキとモラエイの初対決に期待、48kg級ビロディドは再起を期す/グランドスラム・テルアビブ2021オーバービュー

(2021年2月17日)

※ eJudoメルマガ版2月17日掲載記事より転載・編集しています。
81kg級はムキとモラエイの初対決に期待、48kg級ビロディドは再起を期す
グランドスラム・テルアビブ2021オーバービュー
→グランドスラム・テルアビブ2021組み合わせ(公式サイト)

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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17日に行われたドロー。

グランドスラム・テルアビブ2021がきょう18日、現地イスラエルのシュロモ・アリーナで開幕する。先月のワールドマスターズ・ドーハが2020年ワールドツアーの締めの大会として扱われるとの情報なので、この大会が2021年IJFワールドツアーの開幕戦ということになる。ここから5月まで毎月グランドスラムが行われ、6月に世界選手権というのがこのコロナ禍においてIJFが急遽組んだ、7月の五輪本番に向けた大会のスケジュール。

さてそのテルアビブ大会。ワールドマスターズという大イベントが終わったばかりということもあって参加選手の陣容はややおとなしめ。五輪代表を含む複数名を送り込む予定だった日本代表も出場を回避し、たとえば「スター目白押しの超豪華階級」というような強豪の密度高い階級は見出しがたい。

男子の軽量級はいったいに薄く、常日頃から陣容厚い81kg級、90kg級、100kg級がハイレベル。超スター選手の出場は女子の方に多いがいずれも対抗馬となるライバル選手の出場がなく、階級全体としては「一点豪華主義」のトーナメントばかり。男女ともにイタリアが次代期待のイキのいい若手を大量に送り込んで来ているなど面白いトピックは結構あるのだが、いずれも大会全体の傾向として捉えるには少々弱い。今大会の様相を粗掴みにするには「人」にフォーカスするほうが良いのではないかと思われる。

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サイード・モラエイ(モンゴル)

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サギ・ムキ(イスラエル)

男子は81kg級のサイード・モラエイ(モンゴル)とサギ・ムキ(イスラエル)、加えて100kg超級のルカシュ・クルパレク(チェコ)、66kg級のデニス・ヴィエル(モルドバ)に注目したい。

モラエイはご存じの通りイラン出身。イランでは政治上の理由から長年イスラエル選手との試合が認められず、対戦の可能性がある大会では選手は常に欠場を強要されてきた。しかし2019年東京世界選手権、モラエイは会場に乗り込んで来た当局の激烈な干渉に屈せず出場を強行。しかし実力を発揮出来ぬままライバルのサギ・ムキ(イスラエル)との対戦を前に敗れ、そのまま国に帰ることなくドイツに逃れることとなった。あれから時は流れ、国籍をモンゴルに移したモラエイはいままで一度も訪れることの出来なかったイスラエルの地を、ついに今回初めて踏んだ。15日にはムキが「Welcome brother」とのメッセージとともにモラエイと肩を組む感動的な2ショットをツイッターに投稿。いまだ対戦のない2人の王者の、歴史的初対決なるか、今大会には世界の注目が集まっている。こういったドラマを拝してドライに捉えると、大混戦階級の81kg級にあってリオ-東京期の世界王者2人が未対戦であることは、戦力分析上の大きな空白。この対戦から得られるデータは大きいはず。国際大会再開後まだベストパフォーマンスのない2人が、モチベーション高く臨んでくるであろうことから、分析上の重要度はいや増す。組み合わせはムキが第2シードでモラエイが第5シード、対戦あるとすれば、決勝。遠間からの一撃に秀でたムキとオールラウンダーのモラエイ、そして双方ともに両袖を苦としない。どんな様相の戦いになるか、非常に楽しみ。

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ルカシュ・クルパレク(チェコ)

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デニス・ヴィエル(モルドバ)

クルパレクは10月のグランドスラム・ブダペスト大会への出国寸前に新型コロナウイルスの陽性反応が出、急遽欠場。2週間の隔離を経て強行出場した11月中旬の欧州選手権では当然ながらベストパフォーマンスにはほど遠い出来で、準々決勝でタメルラン・バシャエフ(ロシア)、3位決定戦でグラム・ツシシヴィリ(ジョージア)に敗れて5位に終わっている。テディ・リネール(フランス)がどうやら完全復活を果たしたこのタイミングで、ワールドマスターズを見送って力を溜めて来た2019年の世界王者クルパレクがどのくらいのパフォーマンスを見せてくれるかは、五輪本番に向けた100kg超級序列再編成における最後の変数と言っていい。結果として1年以上まったく成績を残していない形のクルパレクがどのくらいの仕上がりを見せ、番付のどの位置に座るのか。注目したい。

ヴィエルは東京世界選手権での3位入賞以降低空飛行が続き、自粛期間明けも冴えないパフォーマンスが続いていたが、ワールドマスターズではついに復活の兆し。二本持っての柔らかい体捌き、そして相手の力を利用した切れ味ある投げを見せていた。スタミナ不足から表彰台は逃したが、確実に手ごたえを掴んでいるはず。絶好調だった2019年5月のグランドスラム・バクー以来のツアーVを目指す。

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ホマーヌ・ディッコ(フランス)

女子の注目は女子の注目選手はホマーヌ・ディッコ(フランス)、ダリア・ビロディド(ウクライナ)、サハ=レオニー・シジク(フランス)の3人。

長年フランスの秘蔵っ子として期待を集めて来た78kg超級のディッコは、昨年ついにブレイク。1月のグランプリ・テルアビブを制すると以後は無敗、2月のグランドスラム・パリに11月の欧州選手権、そして今年1月に行われた最高峰大会ワールドマスターズとビッグゲームに次々優勝を果たし、一気に素根輝やイダリス・オルティス(キューバ)と並び称されるグループまで序列を上げて来た。世代が近い(ディッコが1年年長)こともあって度々比較されてきた素根とは、2017年世界ジュニア選手権で対戦があり、素根が余裕を持って勝利を収めている。パワーと巻き込み技に頼る限りはこの先どんなに伸びても素根の敵ではないという印象であったが、ここ数か月は丁寧な組み手とタイミングの良い足技、理合を良く心得た多彩な投技に手堅い寝技と、いかにもフランスジュニアチームらしいロジカルな柔道を繰り広げて少々様相が変わってきている。日本の強化陣の「この先伸びてくるのはディッコ」との警戒を証明した格好だ。今回勝てば国際大会5連勝、ついに五輪シード圏内のワールドランキングベスト8に手が届く。この先果たしてどこまで伸びるのか、もはや五輪まで1試合たりとも見逃すわけにはいかない。要注目だ。

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リア・ビロディド(ウクライナ)

48kg級の絶対王者ビロディドは、173センチという高身長で最軽量級に留まる減量の厳しさゆえかこのところ良くないパフォーマンスが続いている。1階級上げて52kg級に参戦した10月のグランドスラム・ブダペストはアンドレア・キトゥの内股透に嵌って3位、階級を戻した1月のワールドマスターズではこれまで無敗の渡名喜風南に敗れてこれも3位に終わっており、その絶対性が大きく揺らぎつつある。「待て」が掛かるたび座り込んで大きくため息をつくフィジカル面もよろしくないが、危うくなれば相手の髪を掴み、負ければ不貞腐れ、勝てば一転その場で号泣とメンタル面で見せる不安定さも相当なもの。再び自信を取り戻し、ライバルたちにプレッシャーを与えることが出来るか、そして五輪本番にコンディションを合わせるだけの余裕はあるのか。今大会は渡名喜やディストリア・クラスニキ(コソボ)のような強敵は参加していないが、かつて大苦戦したシリーヌ・ブクリ(フランス)がエントリー。メンタル面での観察には絶好の相手である。注目である。

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サハ=レオニー・シジク(フランス)

シジクは急成長中の本格派。ファンは、東京世界選手権男女混合団体戦における芳田司からの大外刈「一本」で強く記憶していることと思う。1月のワールドマスターズでは芳田の上手さの前に敗れて2位だったが、勝ち上がりの途上ではセンス溢れる投技、そして新兵器の腕挫十字固を決め捲っており、もっとも目立っていたと言っても過言ではない大活躍を見せていた。あと半年でどこまで伸びるのか、超激戦区57kg級を勝ち抜くだけのメンタルの強さは獲得出来るのか。強豪の影薄い今大会で、しっかりその仕上りをウォッチしておきたい。実はワールドツアーではまた優勝なし。今回タイトルを獲るかどうかは、五輪に向けてかなり大きな分水嶺になる可能性がある。

※ eJudoメルマガ版2月17日掲載記事より転載・編集しています。

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