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令和2年全日本柔道選手権感想戦「令和最初の『全日本』を振り返る」②二回戦

(2021年2月11日)

※ eJudoメルマガ版2月11日掲載記事より転載・編集しています。
令和2年全日本柔道選手権感想戦「令和最初の『全日本』を振り返る」②二回戦
①1回戦から続く>
 →全試合結果

参加者:朝飛大、上水研一朗、西森大
司会:古田英毅(eJudo編集長)

※座談会は1月6日にオンラインで実施されました

■ 二回戦
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石内裕貴が山本考一から右内股「一本」

【2回戦 第2試合】
石内裕貴(九州・旭化成)○GS内股(GS0:14)△山本考一(東海・オネスト)
石内が右、身長190センチの山本が左組みのケンカ四つ。山本リーチを生かし「ケンカ四つクロス」を踏み台に、引き手で袖、釣り手で奥襟を確保するところまで歩を進める。石内良く動き、相手の体を振りながら技を仕掛けるが山本は動じない。山本は良く攻め、左内股で浮かせた直後の1分24秒には石内に「指導」。続く展開、石内は両襟で組み勝つもなかなか大技に持ち込むには至らない。2分25秒、山本が「ケンカ四つクロス」から一気に引き手で脇を差し、抱き着いての左小外掛。捕まえれば「一本」という大技であったがすんでのところで石内が外す。これに奮起した石内は釣り手一本で場外際まで追い込むと、両襟を掴んで頭を下げさせ右大外刈、右小内刈、左小外刈と繋ぐ見事な連携で山本を伏せさせ、直後の3分24秒には山本にも「指導」。石内がペースを掴んだところで試合はGS延長戦へ。GS14秒、組み手争いの中で山本が奥襟を深く叩き、引き手をいったん「ケンカ四つクロス」に戻した瞬間石内の右内股が炸裂。釣り手で腋を差す形で回したこの大技鮮やかに決まって「一本」。


古田 2回戦に入ります。第1試合では藤原崇太郎選手がシードのウルフアロン選手に不戦勝ち。それを経ましての第2試合、石内裕貴選手と長身選手、東海地区代表オネストの山本孝一選手の試合です。両者の魅力が堪能出来た好試合でした。

西森 山本選手も良かったですよね。

古田 非常に良かったです。スケールの大きい柔道でした。

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山本はリーチを生かして「ケンカ四つクロス」

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ここから一気に引き手で脇を差して左小外掛。石内辛くも外すが、迫力十分の技だった。

西森 全日本レベルで言うと、まだ見ぬ強豪ということになるわけですが、長身からの大外刈、内股、それから抱きつきの小外掛も思い切って入って、魅せてくれました。
朝飛 1回すごく良い小外掛がありましたよね。引っ掛かっていたら吹っ飛んでいたのではないかというくらいのが。

古田 あの小外掛が、勝負の伏線になった面もあります。山本選手は釣り手と同側の袖を引き手で持つ「ケンカ四つクロス」からの出し入れを見せていて、あの小外掛もスタートはその形でした。で、石内選手が内股で投げた場面は、山本選手が引き手を切ってそのまま「ケンカ四つクロス」に一瞬戻したと思います。そうすると実は引き手が晒されているので、石内選手はそのまま引き手で袖ひっつかんで、釣り手で脇を掬ってドカンと投げた。切った引き手を遠ざけるのではなく、棲める形である、同側の袖を掴むところに戻すと確信していたように見えました。

朝飛 面白い試合でしたね。打ち合いですね。そして石内選手はそこまで読んでいたわけですね。試合の中での修正能力があるんですね。今回、石内選手は左組みの選手と戦うことが多かったんですけど、釣り手の使い方は本当に勉強になりました。大きい相手にはこう、小さい相手にはこう。あらゆるタイプへの釣り手の使い方が本当に巧くて、映像で見返すのが面白くて仕方ないですね。上からの方がやりやすそうで、上から持ち直す場面がよく見られたんですけど、下から持っても実に上手い。

古田 山本選手の試合、もう1試合くらい見たかったですね。こんなに魅力的な選手がまだまだいるのだなと感じ入りました。山本選手が決勝まで進んだ2018年の実業個人、私は世界選手権と被って直接観に行けなかったので、生で山本選手をきちんと見たのはこれが初めてなんです。驚きました。

西森 石内選手について感じるのは、足車という一つ頼れる軸があるとやっぱり強いと思いました。そこに持っていくための手立ても豊富になりますし、この後の藤原選手との試合でも見せているんですけど、勝負どころになるとケンカ四つでも引き手から取りに行くことを厭わない。ひとつ自分の型を持っていることは大事とあらためて感じさせてくれますね。 

朝飛 そうでした。藤原選手の時は、引き手から持って、釣り手を外して入ったんですよね。あの形。足車の威力を信じられているから、そういう組み立てが出来るんですね。

古田 ゴールを設定できることがどれだけ己の手立てを豊かに、太くしていけるかということですね。そして、これも「ベストスロー」級の投げでしたね。石内選手はこの後の藤原選手に決めた足車をピックアップしたので、そちらを掲載したんですけど、これも見事な一発でした。

上水 うまかったですよ。非常にいいタイミングで入りました。

古田 ウルフ選手が欠けた山ですけど、石内選手はやっぱりベスト4に入る価値のある、素晴らしい勝ち上がりを見せているんですね。

上水 実力者ですよ、彼は。去年は上川君に勝っていますし、以後も着実に成長している。彼も先ほどの尾原選手と同じく、旭化成の延岡組なんですね。

古田 そこですよね。技一発の威力は高校時代から素晴らしいものがありましたけど、こんなに組み手が上手い選手だったかなと。

上水 成長が見て取れる、着実に成長している。ですから延岡に何か秘密があるんじゃないですかね。

一同 (笑)

古田 山本選手実力十分、魅力十分も石内選手がその上を行ったという試合でした。

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小林悠輔が中野寛太から左大内刈「有効」

【2回戦 第3試合】
小林悠輔(東京・旭化成)○優勢[有効・大内刈]△中野寛太(近畿・天理大2年)
両者左組みの相四つ。小林が中野の釣り手を抑えるところから組み手争いがスタート。釣り手の絞り合いが続き、1分10秒、両者に消極的との咎で「指導」。中野引き手で襟を持ってから奥を叩きに掛かるも、小林細かく組み手の形を変えて接近を許さず。しかし2分1秒、中野が前進すると密着を嫌った小林が思わず試合場の外に出てしまい、場外の「指導2」。直後の展開、中野が釣り手をクロスに背中を叩くとこれに合わせて小林が左大内刈。中野これは足を外してかわしたが一瞬棒立ち、小林すかさず再度の左大内刈に飛び込んで転がす。中野腹ばい伏せようとするが小林襟を掴んだ釣り手を効かせて天井を向かせ、体を乗り上げて「有効」。中野取り返そうと前に出るが、小林うまい組み手と的確な技出しで付け入る隙を与えず。そのまま時間となる。


古田 続いて、小林悠輔選手が中野寛太選手を大内刈「有効」で下した一番です。

西森 中野選手が釣り手をクロスに入れたところで、いわゆる「足取り大内」。実際には足は持たないんですが、首を抜いた状態から、しかも2回目で投げた。

朝飛 2回目だったですね。

古田 ウルフアロン選手も似た技術を使いますよね。

上水 去年、小川雄勢選手を投げたのなんかそうじゃないですかね。

古田 あの時は、引き手で前帯を握って引き付けて投げましたね。あれが「足持ち」の代替技術として機能していました。

朝飛 脇の下に頭を入れる、少し斜めになって入るというのは、身長差がある時、あるいは大きい相手に対して本当に有効なんですよね。正対すると振られてしまうので。いまお話があった去年のウルフ選手もそうですし、今回の小林選手もそうですね。小林選手は1回空振り気味になってからもう1回入って決めましたからね。この形の安定性を感じますね。

古田 私たちの世代だとこの技術は岡野功流の、クロスの形に首を抜いての「足持ち大内刈」というのがまだ実戦感覚として体に残っています。ですのでこれはその応用だなと腑に落ちるわけですけど、たとえばウルフ選手はこの技術を確信的に練習しているんでしょうか?僕たちは「足持ち大内」があるから、あの技術の応用で、今のルールであれば代わりに帯を持とう、という発想のプロセスを踏めるわけですけれど。

上水 私は、記憶をたどると高藤かなと思ったんですよ。

一同 ああ!

上水 髙藤が朝飛先生の愛弟子の本間大地と練習やっているときに、本間大地があれでよく投げられていたんです。クロスグリップが反則になる時に、高藤がやたら「やぐら投げ」とあの大内刈を練習してました。

古田 相当な身長差がありますからね。この技術の練習には恰好の相手ですね。 

上水 はい。彼を実験台に使っていたと思います。

朝飛 本間大地も役に立つことがあるんですね(笑)

上水 外国人選手に、ああいう風にクロスで持って来る選手が多いですからね。永瀬貴規選手なんかも上手い。そういうのは彼らが共有したのかなという気がしています。始めたのが誰かというのは私にはよく分からないですが、ただ高藤がよくやっていたなというのは記憶に残っていますね。

古田 高藤選手は本当にトレンドの発信源ですね。思い返すと、先ほど後藤選手のところで話題に挙がった支釣込足を浮落で返す技術も、もともと髙藤選手の技でしたからね。

朝飛 考えていますよね。柔道IQ高いです。

古田 中野選手、組み手をすごくしっかりやったために逆に良さが出なかった、組み手に嵌ってしまって破れのない試合に陥ってしまったという印象もあるのですが、いかがでしょう。

上水 ご指摘の通り、自信があったゆえに嵌ったかなという気がします。中野選手は組めてさえいれば持っていけるという、ある意味天理の王道のような柔道。非常に力をつけてきていますし、しっかり組めば大丈夫という自信があったのだと思います。この自信があったがゆえに嵌ってしまい結果として柔道をさせてもらえなかったという点では、影浦と事情が似ていると思います。小林選手は試合巧者ですから、そういう中野選手の自信は百も承知でいいところを持たせないですね。

西森 いいところ持たせないで、では小林選手が切っているかというとそんなことはなくて、結構持ち合っているんですよね。持ち合っているんですけど、微妙にずらしている。

古田 あの肩の使い方など、本当に上手いですよね。

上水 そうなんです。ずらしているんですよ。「持たれた」ではなく、「持たせた」という感じですね。いいところを持たせたという感じで、それをずらしているから、いけそうでいけない。形上は持っても芯を捉えることが出来ない。中野選手はそういうもどかしさを感じていて、だからこそちょっと間合いを詰めたところで、あの一発を食らってしまったのだと思います。間合いが詰まらないとあの技は掛かりませんから。

古田 過たずそこを狙う小林選手も見事。中野選手は全日本の洗礼ですね。いかに強くとも、こういうタイプにも勝てないとトーナメントを上がっていけない。

上水 そう思います。まさに、これこそ全日本の洗礼です。

西森 中野選手ほどの力と素質のある選手が、出場3回目で1勝も挙げられていないわけですからね。1回目が山下(魁輝)選手、去年が王子谷(剛志)選手、そして今年が小林選手ですから。やっぱり厳しいですよ。

古田 そしていま挙げた3人、強さはもちろんタイプがバラバラなんですよね。やはり全日本は厳しい舞台ですね。ありとあらゆる選手に耐性がないと勝ち上がれない。小林選手は、その点年輪を感じさせますね。酸いも甘いも噛み分けた柔道という印象です。

朝飛 同感です。本当に上手いですよ。

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熊代佑輔が得意の「袖釣大外」を度々見せるが、野々内悠真は崩れない。

【2回戦 第4試合】
熊代佑輔(東京・ALSOK)○GS反則[指導3](GS7:24)△野々内悠真(関東・京葉ガス)
熊代は左、野々内は右組みのケンカ四つ。熊代は引き手を求めて前へ、野々内は釣り手を良く振って熊代の拘束を剥がしながら対峙。32秒、野々内が相手の指を握って防御し「指導」。熊代じっくり圧を掛けながら組み手を進め、野々内は片手の技で展開を切って凌ぐ。熊代が引き手を得て一方的に組み勝つも膠着し、2分11秒両者に「指導」。熊代が左大内刈、さらに右組みにスイッチして左大外刈崩れの袖釣込腰も見せるが効なく、試合はGS延長戦へ。熊代左大外刈に右大外刈、さらに野々内の片手体落に合わせた左小外刈を放つも取り切れず。GS1分42秒、野々内の外巻込を熊代隅落に捉え掛けるが両者アドボードに激突して「待て」。野々内は小内返に右小外刈と良い技を見せて抗し、熊代は両袖あるいは両襟の左大外刈を見せるが投げ切れず。GS7分24秒、動きの止まった両者に「指導」が与えられて試合は終了となった。


古田 続いて、熊代佑輔選手と野々内悠真選手の一番。「指導3」、11分24秒という長い試合になりました。

上水 内情を言うと、今回熊代は試合に出られるかどうか微妙な状態だったんです。満身創痍なんですね。もともと両膝を傷めているんですけど、今回は左の上腕の筋肉が切れてしまった。意外と重症で、熊代だからこそある程度戦える状況まで持っていけましたが、試合ではもう手が上がらなかったですね。万全とはいかないまでも、もう少し良い状態で出してあげたかった。久々の試合であることと怪我が重なって、今回は彼らしさが影を潜めた気がしました。

古田 そうだったんですね。解説しながら、「ちゃんと餌を撒いてから仕掛けているのに、思ったほど相手が崩れていない」と不思議に思っていました。あの「袖釣大外」にいつもの威力がないなと。

上水 本人は一言も言わないんですけど、影響は大きかったと思います。

朝飛 それを言わない熊代選手はかっこいいですね。

上水 ケガを受け止める力がすごい。前十字も両方切れている状態ですが、それでも「やれる柔道」を探すんです。もともと彼は固定観念がない。中学まではサッカーと柔道が半分半分くらいで、本格的に柔道を始めたのは高校から。ですので、考え方が柔軟なんですね。まずやってみるというところでは海外選手のようです。まずやってみる、真似てみる、右も左も関係ない。柔道家からすると予測できないような動きもする。羽賀やウルフのような選手はコンピューターが狂わされますから、対戦を嫌がりますよね。

古田 強さはもちろん、長く現役を続けられることも、そのあたりに秘密がありそうですね。もうひとつ。熊代選手といい中矢力選手といい、上水門下のコーチはみんな今までにない、自分だけの柔道を作った人ばかりですね。

上水  ちょっとアウトローですね(笑)

一同 (笑)

古田 「ものの考え方」自体を尊重しているというのがすごくよく分かります。

朝飛 その上水先生の幅の広い考え方、受け入れが色々なタイプの強い選手を生んでいると思いますし、五十嵐選手のような32歳で初出場する選手が育つことに繋がっていると思います。柔道が好きでいられるんですね。自分がやって来た柔道をそのまま認めてもらえるということが、どれだけその後に大事かというのがよくわかりますね。上水先生の感性は素晴らしいと思います。

上水 勉強になるんですね。私もかつて非常に理想論者で「こうあるべき」という固定観念に凝り固まっていたんですけど、教え子に出会うたびに柔軟にさせられていったといいますか、「こういうのもありだな」「これ本当に正しかったのかな?」とやりとりするうちに変わっていきました。教え子たちに学んだのは、答えはいくつあってもいいんだということですね。熊代には特に学ばされました。

古田 この試合、かなりの長時間試合になりました。2分ちょっとで野々内選手に「指導2」が入ってから、そのあと8分間「指導」が出ませんでした。大消耗戦です。

上水 熊代としてはおそらく両者への「指導」を狙った時間帯が長かったのではないかと思います。そこでなかなか反則が出ないのは、全日本ならではというところもあるのではないかと思います。この後の羽賀と後藤の試合もそうでしたね。「指導」で決着をつけるんじゃないよ、投げに行くんだよというメッセージを感じました。それで最後は羽賀も、これは「指導」では終わらないなと覚悟を決めて投げに行ったのだと思いました。

古田 全日本のそういう姿勢、私は嫌いではありません。なんとなくそういうジャッジに流れていくのはダメですけど、ポリシーを持ってやっている限りは、買います。

上水 はい。それも含めて全日本なんですよ。

古田 本当はこういう「運用」で示すのではなく、「ルール」自体にきちんとそのポリシーを反映するべきだとは思いますけど。…ちょっとだけ話をずらすと、皇后盃の決勝でもなかなか最後の「指導」を出しませんでしたよね。あそこは主審の「要領の良い『指導』狙いで皇后盃を獲らせるわけにはいかない。そんなにお手軽に取れるタイトルではない」という強い決意を感じました(笑)。

上水 全日本にはあって良いのではないかと思いますけどね。誰が見てもハッキリわかるように決着をつけなさい、という姿勢。

古田 それにしても熊代選手、怪我を抱えながら11分半の長時間試合をよく戦い抜きました。

上水 はい。ただし相当消耗しましたね。これが後になってだんだん効いてきます。

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西山大希が釣り手巧みに試合をコントロール。

【2回戦 第6試合】
西山大希(東京・日本製鉄)○GS反則[指導3](GS3:17)△高木育純(四国・香川県警察)
西山左、高木は右組みのケンカ四つ。西山は釣り手の肘のコントロール非常に巧み、常に良い位置を確保し続けながら引き手を争う。47秒、高木に片手の咎で「指導」。2分過ぎに西山が引き手を得ると奮起した高木が右体落、左一本背負投と技を積み、2分6秒には西山にも「指導」。このあたりから西山やや釣り手の管理が甘くなり、高木が上から肘を入れて釣り手を制する場面が増え始める。3分42秒両者に「指導2」が与えられて試合はGS延長戦へ。互いに腰を切り、足を飛ばし合って動き自体は増えるものの大枠の構図は変わらず、なかなか試合が動かない。GS1分38秒に西山が引き手をしっかり得ての左内股、GS2分26秒には高木が深く左一本背負投を仕掛けるがいずれの技も相手の警戒の厳しさの前に、効き切らず。GS3分14秒、西山が引き手で袖、釣り手で奥襟を作ると嫌った高木が場外に出てしまう。主審が場外の「指導3」を宣告して試合は終了となった。


古田 後藤龍真選手が小川雄勢選手に不戦勝ちした第5試合を経まして、第6試合は西山大希選手と高木育純選手がマッチアップ。GS延長戦3分17秒を使って、西山選手が「指導3」で勝利を得ました。

西森 西山大希選手に少々元気がないな、というのが印象に残ってしまいました。講道館杯での、若手相手にゴールデンスコアを続けても続けても衰えない、我慢強い柔道で決勝まで勝ち残った姿が印象にあっただけに、ちょっと意外に感じました。

古田 講道館杯からここまでの間に、体調を崩した期間があったという情報がありました。

西森 その影響は感じてしまいましたね。

古田 しかし、そんな元気のなさを感じさせながらも試合自体はしっかり勝っています。

西森 どちらも技が切れる本格派のタイプなので、激しい打ち合いになるのかなと思ったのですけど、お互い丁寧に戦う展開になりましたね。

朝飛 この試合も「指導2」ずつになりましたよね。高木選手の方が少しまた勢いが出てきて、直前の熊代選手と野々内選手の試合という伏線があったのでこれはまた長くなってもおかしくない形だったんですけど、西山選手が高木選手が回り込むときにパッと合わせるような感じで。

古田 最後は場外でしたね。

朝飛 はい。こういう所を見逃さないなと。

古田 3つ目は主観の絡む反則ではなくて、テクニカルファウルを取る。やっぱりそこは西山選手の経験が、瞬間的に生かされた。うまいところだなと思います。

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影浦心が福本翼から左背負投「技有」。

【2回戦 第7試合】
影浦心(推薦・日本中央競馬会)○優勢[技有・背負投]△福本翼(中国・広島県警察)
両者左組みの相四つ。影浦は釣り手から持ちに掛かり、福本は初戦と同様に敢えてまず右構え、引き手で襟を掴んで相手の左背負投への防壁を築きつつ、釣り手で片襟を探る。1分6秒、双方に取り組まないとの咎で「指導」。続く展開は影浦が今度はまず引き手を抑えにかかり、福本は抑えさせたまま片襟の左大外刈。影浦はこれを凌いで左背負投を2連発、福本が腹ばいで着地し「待て」。これでペースを掴んだ影浦はやや横変形にずれて引き手で袖を掴んで折り込み、これを開きながら片襟の左背負投に潜り込む。背中の接触は浅かったが体捌き巧みに押し込み、体ごと乗り込んで回し切り2分33秒「技有」。影浦、以降は釣り手から持って横にずれ、襲ってくる相手の釣り手を抑え、あるいは絞り、あるいは襟を突いて距離を詰めさせない順行運転。そのまま時間となり、「技有」優勢で影浦の勝利が決まった。


古田 優勝候補と目されていた影浦心選手の初戦、福本翼選手との試合です。影浦選手の片襟の左背負投「技有」による優勢で勝負が決まりました。

西森 ここで上水先生に伺いたいと思っていたのは、影浦選手の初戦の入り方ですよね。去年、ウルフ選手が初戦物凄く良い入り方で勢いをつけて、今大会も羽賀選手と佐々木選手がこれはきょうは違うぞと思わせる入り方をしました。一方でその後に出てきた影浦選手は割合に順行運転。もちろん福本選手が強かったというのはあると思いますが、もっと激しい入り方をしても良いのではと思いました。そのあたりはいかがですか?

上水 西森さんが仰る通りだと思います。初戦の入りっていうのは、とても大事で、たとえ「一本」が取れないにしても、きょうは違うなという部分、気持ちが入っているなという部分は見せられると思うんですね。影浦は去年、影野選手とやった時も相手の技を返して「技有」を取って、そのまま順行運転で終わったんですよね。今回も福本選手から背負投で「技有」取った後、そのままの流れで最後まで終えてしまった。もう一つ行ってやるぞという気持ちがなかった。影浦はスタートの掛かりが遅い選手なので、彼の気持ちもわからないでもないのですが、このあたりが改善されるともっと絶対的な強さを見せられるのではないかと思います。

西森 毎年見ていると、全日本選手権は決勝までトータルでの戦いと痛感します。その中でどう入って、どう作っていくか、影浦選手のように本当に優勝を狙うような選手は、そこも意識しないといけないんだろうなと、この2年特に強く感じてしまいました。

古田 私も影浦選手には優勝候補として相当期待していたので、今回は当然入りからして違うだろうという勝手な思い入れがありました。ですので、拍子抜けしたというか「これでいいのかな」というのが率直な感想でした。普通の国際大会の1回戦みたいな戦い方だと思いました。そういう部分では、全日本選手権にアジャストする感性という部分での物足りなさを、この時点で少々感じてしまいました。

上水 今回出た私の教え子のグループに言った共通の言葉が「欲」と「風」だったんですね。

古田 「欲」と「風」!

上水 特に太田、そして羽賀、王子谷、それから松村にも、もちろん影浦にも試合前に言ったのですが。まず「欲」。全日本は欲がないと絶対に勝ちきれないと。本当に勝ちたいのであれば、欲を出すこと。そしてそれが「風」を呼んでくると。「風」の読みについては、変な話ですけど例えば、この後で王子谷が石原選手に投げられたじゃないですか。あれは「一本」と言われても致し方ない技でしたが、それが「技有」になって逆転で勝った。この場合は「少し風が吹いているのかもしれないな」という表現になるわけです。そして、この「風」を持って来るのは「欲」です。影浦はこの「欲」の部分が、もちろん心には持っていたと思うんですけど、試合には十分に出なかったですね。やってやるんだ、勝ち切ってやるんだという部分のインパクトがちょっと弱かったかなという気はしました。ですので、最終的に風を吹かせることが出来なかったのかなと。

古田 朝飛先生が予想座談会で、東海大の選手が初戦に勝ったとして、仮に内容的に乗れなかった場合でも、上水先生がうまく声を掛けてどんどん良い方向に持っていくはずだという見立てを語っておられたんです。上水先生、影浦選手にはこの試合が終わった後、どんな声をかけられたんですか?

上水 影浦と羽賀に関してはお互いが直接対決に的を絞っているのは十分わかっていたので、どっちがどう、ということは言えなかったですね。どちらに肩入れするわけにもいきませんので、同じことしか言っていないです。それはもう「欲」の部分。「欲の強いほうが勝つよ」ということを言っていました。加えて。影浦に関しては入りの部分は悪くはないぞ、悪くないけども次だぞという話ですね。羽賀に関しては、次に出てきますけど、佐藤選手の時に思ったより消耗したんですよね。ちょっと目一杯な試合で、後半ちょっとぐらついた。帰ってきてから「龍、これは欲だぞ」というところは確認しました。今回はそのくらいですね。

古田 朝飛先生、この試合いかがでしたか?

朝飛 いま皆さんが仰った通り、爆発的なものがないなというのは感じました。あと、普段は足を止めるためにもっと小内刈を打つことが多いんですが、それが少ないな、とはこの1回戦を見て思いました。ただ、やはり勝負強いし上手いので、少しでも背中に乗れば「技有」まで持っていく。上手くいっていないときでもこういう風に結果としてきちんとまとめる力があるんだなと、感じ入りました。

古田 福本選手は1回戦で物凄い強さを見せていましたし、この試合での序盤でも組み手を弾く体の芯の強さを見せていました。こういうフィジカルの強い選手と全日本の初戦で当たるというのは非常に厳しい配置ですが、それだけにこれを真っ向粉砕するようなものを見せればこれは流れが来るぞ、と最初の1分くらいでは思っていたんです。いよいよ優勝を狙う影浦選手の最初のハードルとしては申し分ない強さの敵役だなと。それが「技有」リードをあっさり受け入れた格好でしたので、やはり少々意外さはありました。こちらが勝手に思い入れ過ぎたのかもしれませんが。

上水 朝飛先生の観察がすごく的確で、私は小内刈は打てなかったのでなく、敢えて打たなかったんだと思うんです。次の一戦に備えての伏線として。ですので背負投、背負投、と見せていたのはある意味次のことを見据えてなのかなと思うんです。何かしら、次に控える対羽賀戦に向けて持っていた、そこを考えていたと思うんです。だからこそ、見せ過ぎるまいという安全運転の試合になった面もあるのではないかと思います。この点、ちょっと羽賀の存在が偉大過ぎたのかもしれない。

古田 なるほど!このあたりは影浦選手に直接聞いてみたいくらいです。このあたりが上水先生を招聘することの魅力ですね。この観点から私、もう一度試合の映像を見返してみたいと思います。

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羽賀龍之介が左内股で攻めまくるも、佐藤正大がことごとく受け切る。

【2回戦 第8試合】
羽賀龍之介(推薦・旭化成)○GS反則[指導3](GS2:07)△佐藤正大(関東・自衛隊体育学校)
羽賀が左、佐藤が右組みのケンカ四つ。羽賀は両手を同時に出して組み手を開始。佐藤引き手を切って離れるが、羽賀釣り手の肘を落としてしっかり圧力。両襟を得て引き落とすと「横三角」で攻める。以後も羽賀は両手で持ちに行くことで、佐藤が組み際に狙う一本背負投を封じる。引き手争いから羽賀が左内股、左出足払と攻め、常に釣り手を潰される佐藤はなかなか技が出せない。1分57秒双方に片手の咎で「指導」。羽賀は度々左内股、佐藤は反応良く防ぐが羽賀が腰を切るフェイントから左出足払を打ちこむと堪らず伏せ、2分40秒佐藤に消極的との咎で「指導2」。以後佐藤の攻撃は残り55秒に放った右背負投一発のみも、羽賀が再三放つ左内股をあるいは先んじて腰を切り、あるいは起こりの段階で腰を落とし、あるいは側面を合わせながらインパクトの前に体を預け、と速い反応とカンの良さですべて受け切る。残り10秒、羽賀ひときわ深くケンケンの左内股で追うが佐藤巧みに脱力してこれも受け切り、試合はGS延長戦へ。佐藤は右大内刈から出足払、右外巻込と繋いで反撃も投げ切れず崩れて「待て」。奮起した羽賀大内刈から左内股で激しく追うが佐藤腰に食いついたまま釣り手側に回り込み、これも耐え切って「待て」。羽賀それでも「大内・小内」に左内股と攻め手を緩めず、GS2分7秒佐藤に3つ目の「指導」が与えられて試合決着。


古田 続いて羽賀龍之介選手の2試合目。佐藤正大選手との2回戦です。GS延長戦「指導3」。終わってみると羽賀選手が一番苦労したというか、非常に高い階段となった試合であったと思います。

上水 試合が終わった後、率直に「強かった」と言っていました。実際に佐藤選手が、そもそも相当強かったのだと思います。右の背負投が強烈ですから、羽賀はかなり用心していたと思うんですね。絶対に担ぎを食らわない間合いで勝負していた。珍しく「大内・小内・内股」のコンビネーションのところで、少し「無茶打ち」していましたね。

古田 「無茶打ち」。

上水 彼は絶対にそういう無茶打ちはしないんですよ。この日の試合で無茶打ちしたのは佐藤君の試合だけなんです。

古田 内股に関してのお話ですね。

上水 そうです。通常、彼の「小内・大内・内股」の配分は、3対3対4くらいなんです。それが1対1対8くらいになっていて、珍しく内股にこだわっているなと思いました。「小内・大内」の後技は間違えるとそのタイミングで担ぎ技を食ってしまう可能性があるというのが、頭にあったのかなと思います。ですので敢えて内股の比率を上げたと思うんですが、後半珍しく掛けながら少しふらついたんですよね。もう「指導」で勝ってしまっても良いタイミングだからどんどん行ったのもあるんでしょうけど、通常ああいう場面でも彼はそういう無茶打ちはしない。結構目一杯になったなという気がしています。

古田 内股をいろんな防がれ方をしたじゃないですか。踏ん張って耐えられた時もあるし、脱力して釣り手側に回り込んでインパクトを外した時もあった。少々意外ではあるんですが、見ていて、羽賀選手はちょっと意地になっているのではないかと思った瞬間もありました。

上水 そうですね、仰る通りです。場外際のあの回し方なんて彼は芸術的なものを持っていますし、「大内・小内・内股」の三拍子も絶妙の配分で最終的には必ず持っていくのですが、この試合は噛み合わなかったですね。佐藤選手の強さだと思いました。

古田 「噛み合わなさ」も佐藤選手の大きな特徴ですから、この評はなかなか味わい深いです。

西森 やっぱり印象に残るのは、佐藤選手が羽賀選手の内股を受け切るところですね。あれでペースを狂わせているところがあるのではと思いました。初戦で黒岩選手をあれだけきれいに投げているのに、しかもその内股が「大内・小内」と連動して入っているのに、妙な受けといいますか…

古田 妙な受け、いいですね(笑)。

西森 一定していないんですよね。一定しない受けで、あれで微妙に狂わされているんだろうなあという感じはありました。一種よく分からない佐藤選手の強さが印象に残る試合でしたね。

古田 ピースに嵌めたはずが噛み合わなくて、そのことで流れは佐藤選手の方に傾いていくという。朝飛先生いかがですか。

朝飛 先生方の仰る通りだと思います。上水先生が仰られた内股の配分の多さ、古田さんが「意地になっているのかも」と仰った内股の連発、あれは、羽賀が「指導2」が入ったところから「攻め勝つ」に切り替えたのではないかと思います。そうするとああいう攻め方になるのではないかかと私は見えました。さっき仰った佐藤選手の「妙な受け」の強さですかね、
彼は場外際でも気を抜かず技を連発して状況を作ってしまう。ああいうところを警戒して、ここは着実に3つ目の「指導」を取りに行ったのではないかと思います。

古田 なるほど。単に連打と見るよりは、佐藤選手のいいところ、あの細かい隙間に技を入れてくるその隙間を、相手が最も怖いと思っている内股を続けて仕掛けることで潰していたと。

朝飛 佐藤選手が3つ目の「指導」を受けた場面、ビデオを見ていると、あの佐藤選手が全然攻められていないんですよね。もう羽賀が圧倒して攻めているんです。あの間合いの中で、凄い駆け引きをしているのだろうと感じました。普段の佐藤選手なら、少々自分が不利な体勢でも掛けること自体で流れを変えてしまうんですけれども、それがまったく出来なくなっていると思いました。

古田 まさに七戸選手を相手に時間いっぱいそれをやって、不利を有利に変換することを続けて勝ってきた選手を、きちんと潰したわけですね。

上水 受けに専念せざるを得なかったんでしょうね、佐藤選手も。相手の得意技をしっかり受け切ることで流れを持って来ていたはずが、いつの間にか「投げられない」こと自体に専念せざるを得なくなってしまった。このあたりが羽賀の強さでもあるんですね。

西森 1回戦で「羽賀選手は相手の一番勝負したいポイントをまず潰してしまう」と話しましたが、この試合でも技を出し続けることで佐藤選手の強みを潰していたということですね。

古田 大変面白かったです。やはり勝つ選手の行動には、きちんと理由があるんですね。

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加藤博剛が鈴木直登から巴投「有効」

【2回戦 第9試合】 
加藤博剛(推薦・千葉県警察)○優勢[有効・巴投]△鈴木直登(東北・東海大1年)
今大会最年長選手と最年少選手による一番は35歳の加藤が左、19歳の鈴木が右組みのケンカ四つ。互いに前傾し、加藤は組み手の形を変えながらじっくり対峙。引き手争いから袖を一方的に掴み、嫌った鈴木が切ろうと腰を落とすとすかさず巴投一撃。横から足元に滑り込み、両足で縦にコントロールして投げ切って1分5秒「有効」。加藤続いて横分の奇襲、そのまま伏せた相手の腕を取って「加藤返し」の構えとなり、これを餌にする形で逆方向に押し倒して抑え込みを狙う。鈴木なんとか耐えて「待て」。残り1分半を過ぎたところで加藤が巴投を2連発、鈴木辛くも逃れるがここで「指導」。鈴木奮起し、釣り手で上から背中を深く抱くと低い軌道で右内股。この技は加藤が腰に食いついて潰したが、鈴木そのまま投げ切ってもろとも一回転。寝姿勢ゆえポイントにはならなかったがひとつ見せ場を作った格好。鈴木この攻防に自信を得たか残り1分から釣り手で背を抱き始め、思い切った右内股で攻める。しかし残り時間は僅か、加藤は手堅く巴投、鈴木が思わず畳に着いた腕を掬い、腕挫十字固を狙ったまま終了ブザーまで辿り着く。「有効」優勢で加藤の勝利決定。


古田 2回戦、ここから後半戦です。加藤博剛選手と東海大の1年生、田村高校出身の鈴木直登選手の試合です。鈴木選手、きちんと前襟を持ってスタートしました。これ、高校時代のイメージからは得意の「抱き勝負」をぶつけていくと思っていたので少々意外でした。上水先生、ここはどういう観察をされましたか?

上水 正直、これは加藤選手のオーラだと思いますね。

古田 おお!

上水 古田さんが仰る通りで。私は鈴木には、最初からくっついていいぞという話をしていたんです。なにしろ相手が加藤選手ですから、思い切って自分の一番良いところで勝負しろと。ところが、それでも前襟を持ってしまった。ということはやっぱりオーラですよね。いけないというオーラ、来させないというオーラ、いったらやられるというオーラだと思うんです。鈴木が得意の形で組もうとし始めたのは、巴投で投げられた後なんですね。緊張がほぐれたというか。飲み込まれていたオーラからちょっと解放された形で、死に体になった時点で勝負にいけるようになった。そこで結構やれたのは、面白かったですけどね。

古田 朝飛先生も解説席で、自分の良いところを出した方がいい、出してほしいと何度も仰っていましたけど、いかがでしたか、この試合。

朝飛 私もくっつきに行くだろうと予想していたので、鈴木選手が前襟を持ったときには、上水先生が2つの路線で作戦を授けているのかなと思いました。だけど、今のお話を聞いたら、やっぱり加藤選手の、実際に対峙してみないと分からない、私たちが見えない部分が確実にあるんですね。そういう何か、思わず持たされてしまうものが。…以前上村(春樹)先生とお話させて頂いているときに、ご存じの通り上村先生は身長172、3センチで体重も100キロない、その体で無差別・重量級で勝っていたわけですが、「先生、こんなに大きい選手に持たれてしまったらどうするんですか」とお聞きしたら、「違うんだ、持つんだよ」と。「持って相手に持たせることが勉強なんだよ」と。相手が思わずそこしか持てなくなる、そういう術をしっかり会得していたということですよね。だからさきほどの上水先生の「持たされてしまった」という話が本当によくわかります。鈴木選手としては、どういうわけかあそこを持たされてしまったということなんですね。お話お聞きして良くわかりました。

古田 西森さん、いかがですか?

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鈴木、背中を掴んで右内股。寝姿勢からごろりと回して見せ場を作る。

西森 もう仰る通りです。もっと鈴木選手にガンガン行ってほしかったという気持ちもありますし、一方で行こうにも行けなかったんだろうなというのも、よく分かります。途中、寝姿勢から内股でくるっと回したあのあたりから鈴木選手の良さが出てきたなと感じて、もう少し見たい、というところで時間になってしまった試合でしたね。…もうひとつ、加藤選手、今年は調整が厳しかったんだろうなと感じた試合でもありました。最初巴投で「有効」を取ったところで、胸ですかね、痛そうにして、後半はスタミナ的にも苦しそうな様子に見えた。この2つが印象に残りました。

古田 加藤選手、体つきからしてちょっと一番いい時とはシルエットが違いましたよね。とはいえあの巴投は凄かった。その間合いから入るか、と現場で叫んでしまいました。

西森 加藤選手は隅返の間合いで巴投に入れますからね。

古田 鈴木選手はあのとき、巴投を警戒してちょっと低くなっていて、加藤選手が横にいる、でも気が付けばお腹に加藤選手の足がある。滑り込みの「横巴」なんですけど、その後は縦に投げる。

上水 調節するんですよね。すごいですよね。

古田 もうひとつ。全日本選手権には直接関係ないんですが、せっかくの機会なので。上水先生、鈴木選手をスカウトして採った、その心は?

上水 彼のいいところは皆さんご承知の通り、真っ向勝負が出来るところですね。体自体はそれほど大きくないんですけど、体幹の力が強くて東北人特有の粘り腰がある。こういう選手は作っていく過程が面白いんですよ。白いキャンパスに絵をかくような感じで。しかも、彼は丈夫な画用紙みたいな感じで、重ね塗りしても破れない。

一同 (笑)

朝飛 さすが。

古田 「丈夫な画用紙」!名言ですね。鈴木選手、高校時代ここぞの場面では相手との力量差やバックグランド関係なく「抱き勝負」を試みる選手でした。

上水 度胸があるんですよ。

古田 その選手に思わず前襟を持たせる加藤選手は、すごいですね、やっぱり。

上水 一方で鈴木は東北人特有の非常に真面目なところもあって、純粋なんです。うちの大学に来た時の練習でも、やたら前襟を持っていたんですよ。なぜ前襟を持つんだろうと、ずっと、本人には聞かずに観察していたんです。何か意図があるのかなと思って。結果から言うと、雰囲気に呑まれていたんですね。よそ行きの柔道になっていたんです。「ちゃんとした柔道をやらなければ」と思い込んで、たとえば村尾(三四郎)と稽古しても、到底かなわないのに折り目正しく前襟を持っている。そこはまさしく村尾の土俵ですから当然ボコボコに投げられる。それがわかったので「もっと自分を出していいんだぞ」と声を掛けて、解散期間が長かったというのはありますけど、くっついて勝負し始めたのが10月くらいからでしたね。そういう、真面目過ぎるがゆえに呑まれるところがありますので、これが加藤選手との試合では出てしまったなというのが正直なところです。

古田 加藤選手、そういう相手を圧するのは得意そうですからね。

上水 ハブににらまれたカエルですね(笑)

古田 何を聞いても面白いことが出てきますね。とりあえずノートに「丈夫な画用紙」とメモしておきます。

上水 重ね塗りが出来るのがポイントですよ。習字の用紙じゃないので、簡単には破れないんです。

古田 この後鈴木選手がどうなっていくか、ぜひ定点観測していきたいと思います。

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佐々木健志が捨身技から垣田恭兵の背中に食いつき、胴を抱いて素早くローリング。

【2回戦 第10試合】
佐々木健志(東京・ALSOK)○崩袈裟固(0:57)△垣田恭兵(九州・旭化成)
佐々木が右、垣田は左組みのケンカ四つ。垣田引き手で袖を外側から掴む良い形。しかし佐々木はこれを嫌うフリをしながら突如スピードアップ、思い切りよく巴投。逃れた垣田が膝を着いたときには既にその背後に食いつき、釣り手で襟を掴んだまま胴を深く抱いている。そのままローリング、回り終えると変則の崩袈裟固が完成。相手の右から体側を沿わせ、右手は左前襟、左手は背中を通して左の横腹を握る。垣田掴まれた前襟を両手で切ろうとするが果たせず、続いて左回転、右回転と隙間を探すも佐々木その度に体を入れて拘束を強める。あっという間に20秒が経過し「一本」。


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佐々木が変則の崩袈裟固。垣田が体を振ると右膝を入れてスペースを潰し、力を籠めることを許さない。

古田 そして次が垣田恭平選手と佐々木健志選手の試合です。何もかにも異次元、最後に決まる技術まで異次元という試合だったと思います、朝飛先生いかがですか?

朝飛 最初の、寝技に繋いだ隅返風の巴投がありましたよね。この直前は垣田選手が組み勝っているんですよね。引き手を完璧に自分のところを持っていていた。佐々木選手の捨身技はそこで出て来たので、一瞬苦しまぎれの技かとも思ったのですが、あそこから寝技に入るところまでがひとつの技になっていたんですね。前に倒れたと思った時には、垣田選手の反対側の襟まで手が届いているんですよね。この打ち込みは相当やりこんでないと出来ないと思います。抑えた後も肩を決めているわけでなく胴を決めているんですけども、相手の体の自由を奪うように、後転やブリッジを阻止するために右膝が下に入っているんですよね。ものすごい技術だと思います。あの垣田選手をあれだけ動けない状態にしてしまうのは凄い。大会が終わって、もう、あればっかり見ていると言ってもいいくらい繰り返し映像を見ています。

古田 私と西森さんも、実はあの技術についてその後だいぶ話したのですけど、そのあたり西森さんからご紹介頂いた方がいいかと思います。

西森 あの入り方、抑え方は七大学(※東大や京大など、戦前の高専柔道の伝統を受け継ぐ独自ルールの大会「全国七大学柔道優勝大会」に参加する7つの大学)の、寝技のコミュニティ内でも、これまでにない抑え方、これまで自分たちがやってきた技術と違うものだと話題になっていました。議論では、最後あの形では、たとえば七大学の学生の筋力では抑え切れないのではないかという結論になりました。技術としての「抑え込み」としてはかなり不十分に見える。肩を決めているわけでもないし、体幹が強い選手だったら逃げ切れるくらいの、どちらかというとスピード重視、抑えるまでの手順のスピード重視の抑え込みではないかと感じました。長く抑えきるのが難しいので、20秒抑えれば「一本」の国際ルールに向いた技術とも言えますし、佐々木選手のグリップの強さに負うところもかなり大きいと思います。普通の学生の筋力だと垣田選手や加藤選手くらいに体幹が強い選手を抑えるのは至難の技。そういう意味では佐々木選手でなければ出来ない技じゃないかという結論に至りました。とにかくみんな衝撃を受けていましたね。

古田 技術だけで言えば、いわゆる「フナクボ」と同じで弱点をさらしているわけじゃないですか。相手の視界にある前襟を、しかも片手で折り返さずに持つという決して強くないツールで握っていますし、自分の頭も肩も決まっていないから体は振れるはずだし、両手は自由だし。見返すと、垣田選手は当初慌てていないんですよね。私も見ていて、正直これはすぐに外れるのではないかと思いました。それが、体を振ってもうまく振れないし外れない、では切るかと思ったら片手で握っているだけの佐々木選手の指がまったく剥がれない。

朝飛 佐々木選手のあの技術。垣田選手が襟を切る動作を観察すると、人間って自分の前襟を切る動作をするときは、体を一回丸くするじゃないですか。前の力を使うというか。それが背中に膝があってこの動作が使いづらい。体が伸びてしまって、一回体を丸めて力を出すということがやりにくいんですね。しかもブリッジをすると、自分の右の肘が凄く畳まれてしまうんですね。それで反対を向こうとすると、背中にある佐々木選手の左手がバランスを取って、これをさせない。こういう技術の裏付けと、「絶対に抑え切れる」という良い意味の思い込みがあいまって、あのパワーが生まれてくるのだと思いました。

古田 なるほど。あの体を入れていく動作は単に隙間を潰すだけでなく、相手が全身の力を使って切り離す動作を封じる、このグリップを成立させるための技術的な裏付けでもあったわけですね。

朝飛 特に加藤選手との試合のときは、「韓国背負い」から繋いだので、抑えられた相手にはグリップが見えてなかったですよね。そこまで考えているのかなと思って見ていたんですけど。

古田 手首に柔道衣が巻き付いていましたね。

西森 これはもう切れないなという感じでしたね。まだ垣田選手の時は切れるのでないかと思ったんですけど、ああなると難しい。やはり相当練りこんできた技術であることは間違いないですね。それが一般の人が出来るかはともかくとして。

朝飛 垣田選手もきちんと切りにいっていましたもんね。手に圧力を掛けたけど、力が伝わらないと判断して逃げ方を変えていましたよね。

古田 朝飛先生が仰る通り、持ったけど力がこもらない感じなんですよね。垣田選手はこれなら逃げられるという王道の手順をいくつも踏んだものの、もうその間に20秒経ってしまったという感じでした。佐々木選手の能力の高さはもちろんこれもプランニング、「準備」で勝った試合であったと言えるかもしれません。

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佐藤和哉が杢康次郎から送襟絞「一本」

【2回戦 第11試合】
佐藤和哉(東京・日本製鉄)○送襟絞(1:36)△杢康次郎(関東・神奈川県警察)
佐藤が左、杢が右組みのケンカ四つ。佐藤組み合うなり右足を振り上げて前技のフェイント、そのまま右出足払を打ちこむと杢堪らず体側から畳に落下し、11秒「有効」。杢慎重に組み手を進めるが、リードした佐藤は姿勢良く、焦らず組み手を自分優位に直して圧を掛け続ける。佐藤は引き手で袖を外側からがっちり得ると、低く構える杢の体を起こしてまず右内股、次いで右払腰と連発。耐えた杢が思わず釣り手を畳に着く中途半端な姿勢となると、佐藤素早い動きでそのままいわゆる「腰絞め」。襟を掴んだ手と胴で相手の首を挟んで拘束、このまま腰をわずかに切ると、絞めを効かされた杢は耐えきれず「参った」。「一本」で佐藤の勝利が決まった。


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佐藤が「有効」奪取。試合開始からわずか11秒の早業だった。

古田 第11試合、佐藤和哉選手が送襟絞で杢康次郎選手を下した試合です。

西森 佐藤選手の仕掛けが早かったですよね。開始早々得意のちょっと腰を切るフェイントからスパンと小外刈に入って「有効」を取った。どちらかと言うとスロースターターの印象が強い佐藤選手なんですが、この試合は全般にすごく攻撃の仕掛けが早かった。最後も内股に行って、受けの強い杢選手がこらえて膝をついたところで素早く送襟絞で取った。佐藤選手の調子の良さを感じた試合でした。

古田 杢選手の前の試合の勝ちぶりが良かっただけに、佐藤選手の強さ、動きの良さが際立ちましたね。

上水 佐藤選手は年々円熟味を増してきたというか、柔道がうまくなってきていますよね、加えて、もともと重量級同士よりは、こういうタイプの選手を取るのが上手い選手なんですよね。小さくて上手い杢相手に隙のない試合をした、これはこのタイプの相手に積みあげた実績と自信があったというのは大きいかもしれません。非常にいい入りで、着実に成長しているなと感じました。

朝飛 いま、西森さんがさらりと「杢選手の受けが強い」と仰いましたけど、この言葉に、1回戦で上水先生が仰った、杢選手が一つ一つ積み重ねて強くなってきたというところを実感しました。小学校の時は、取るときも凄く綺麗だけど取られる時も綺麗な選手という印象があったんです。それがどんどん強くなって、いまや受けの強い選手ですから。こういう試合があって、また1つ、前進するのではないでしょうか。

上水 終わった後にすぐに(羽賀)龍之介にいじられていましたね。彼は”羽賀塾”の生徒ですから。「早いよ、お前」なんて言われていました(笑)。

朝飛 ぜひ、次につなげてほしいですね。

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石原隆佑が王子谷剛志から体落「技有」。今大会のベストスローだった。

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王子谷が釣り手で背中をひっ掴み、隅返「有効」奪回。

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冷静さを取り戻した王子谷、支釣込足から浮落に繋いで「一本」。

【2回戦 第12試合】
王子谷剛志(東京・旭化成)○浮落(2:16)△石原隆佑(北海道・トーエー企業)
王子谷が右、石原が左組みのケンカ四つ。石原ヒットアンドアウェイで遠間から揺さぶりを掛けるが王子谷動ぜず歩み足で近寄り、釣り手を深く入れて圧力。これは王子谷ペースかと思われたが、応じた石原引き手を掴むなり左小外掛で寄せ、思わず避けた王子谷の下がり際に左体落一閃。王子谷まったく反応出来ず吹っ飛んで畳に真っ逆さま、55秒「技有」。最初の接地が肩だったゆえか「技有」となったが、「一本」でもまったくおかしくない大技だった。リードした石原は釣り手を突いて距離を取る作戦、王子谷は動揺収まらぬ様子であったが、1分51秒に引き手で前襟、釣り手で後帯を持って完全拘束、ここから隅返で放って「有効」奪回。以後は冷静さを取り戻す。続く展開は引き手で襟、釣り手で首裏を持って相手を固定。まず大内刈で寄せ、反時計回りにグイと捩じって支釣込足崩れの浮落。石原一瞬右膝を着いて耐えるが、王子谷の強烈な捩じりと質量に抗せず大きくバウンド、背中から畳に埋まって「一本」。


古田 王子谷剛志選手と石原隆佑選手の試合です。石原選手が素晴らしい二段の追い込み体落で「技有」を取って、最終的には王子谷選手が逆転した試合です。上水先生、王子谷選手が投げられた技を「一本」でもおかしくなかったと仰いましたけど、投げられた時はどのように感じましたか?

上水 前の試合が終わって下の階に降りたところだったので、実は私、投げられた瞬間はリアルタイムで見てないんですよ。回転した後のところを見たんですね。控室がざわついたので、どうした、と思ったら王子谷が投げられたと。今は便利な時代なので、そのあとすぐにYoutubeで見ました。じっくりスローで見るとこれは「一本」と言われてもおかしくないなと思いました。石原選手は埼玉栄高から中大、学年は王子谷の1つ下。おそらく対戦経験があったのではないかと思いますが、

西森 全日本ジュニアでの対戦歴があるようです。

上水 やはり、そうですよね。さきほどの加藤選手と鈴木との試合の流れで言えば、この試合では石原選手は王子谷に呑まれていなかったですよね。普通は王子谷と対戦すると力強さと重さに圧倒されて腰が引けるんですけど、石原選手は過去の対戦経験ゆえか自信があったようで、前に出ていたんですよね。その前に出る姿勢があったのであの二段の、小外刈からの体落が本当に上手いタイミングで決まった。お手本にしたい技でした。ただ「一本」でおかしくない技が「技有」になって、そのあと王子谷が冷静に詰めて逆転したということで、「風」が1回王子谷に吹いたのかなと思いました。…控室はどの選手もあのシーンを何回も再生してかなりざわついていて、皆、最後は「名前だな」と。王子谷という名前が審判に「一本」と言わせなかったな、と言っていました。昔、山下(泰裕)先生が渡辺浩稔さんの蟹挟を食ったときに主審が驚いて何も言えなかった、あれと似ているなと話していましたね。背中をガッチリ着いたわけではなくすぐ立ち上がったというのはもちろんあるんですが、王子谷の「名前」が「一本」と言わせなかったという話は、皆かなりしていました。

朝飛 素晴らしいタイミング。この大会で一番きれいな技ではないかと思いました。相手を下げさせて前重心になったところ、インパクトは奥の足ではなく手前の足にちょんと当たるくらいだったのですが、あまりにもタイミングがピッタリ過ぎて王子谷選手が軽く見えました。本当にくるっと相手が回る、良い技でした。その後理詰めできちんと逆転した王子谷選手はさすがですが、なにしろあの技は素晴らしかったですね。

西森 冒頭にお話させて頂いたことの繰り返しになりますが、これが海外に配信されていたことが素晴らしい。日本柔道の奥深さ、無差別の魅力を伝えられたかなと思います。無名と言っていい石原選手が世界選手権の最重量級代表になっている王子谷選手を、それも体重も感じさせないくらいに見事に投げられるというところが見せられた。全日本の面白さが存分に伝わったのではないでしょうか。そして今大会では石原選手と福本選手、中大出身の2人の技が印象的でした。このところ団体戦ではなかなか上位まで進めていないのですが、古豪・中大の「技」、私たち以上の年代のファンにはあらためて印象づけられたと思います。本当に素晴らしい技でした

古田 今大会のベストスローですね。そういえば、石原選手は高藤直寿選手とおさななじみらしいですね。高藤選手が「王子谷選手は中高一緒で、石原選手はおさななじみです」とツイートしていました。対戦経験もそうですし、こういう部分でもトップの選手に精神的に遅れを取っていなかったというのはありそうですね。

上水 そうですね、それが大きかったですね。呑まれていなかったですね。

古田 西森さんの仰った「発信」。SNSでフランスのトップ選手をフォローしていると、誰か海外のファンが投稿したこの試合の動画のコピーが、彼ら選手経由で私のTLまで届く。こういう現象はいままでなかったですよね。やはり相当のインパクトがあったのだと思います。全日本選手権のライブ中継という試みは、大成功だったと思いますよ。石原選手の技、全日本選手権の価値を高める一撃でもありました。

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太田彪雅が小川竜昂の左内股を待ち構え、股中で透かして「技有」。

【2回戦 第13試合】
太田彪雅(東京・旭化成)○GS技有・内股透(GS2:48)△小川竜昂(近畿・日本製鉄)
太田が右、小川が左組みのケンカ四つ。太田釣り手を下から持って手首の位置を上げ、圧を掛けながらじわりと前へ。この太田の圧を、小川が片手の左内股で振りほどくという展開が続く。1分半過ぎから太田が釣り手を上から持つようになり、今度は肘を入れて圧力。小川は釣り手が潰されて上げられなくなる。ここから太田引き手で袖を得ると、小川の左体落を待ち構えて右内股を合わせる。投げ切るには至らなかったが、直後の2分10秒、小川に片手の「指導」。太田は上から釣り手を潰し続け、不利をかこつ小川は3分0秒に意を決して釣り手で奥、引き手で襟を掴んでの左内股で勝負に出るが太田落ち着いて捲り返す。いったん技が止まったと判断されてポイントにはならなかったが、太田が着実に優位を積み上げる印象。3分43秒、太田に手首を握った咎で「指導」。直後組み合いは不利と見た小川が組み際の左内股、続いて左大外刈と思い切って仕掛けるが柔道衣が手につかず潰れて「待て」。このまま試合はGS延長戦へ。延長戦は太田が引き手で袖を得、釣り手も制する良い形が続く。GS30秒、万全の形から作用足を深く差し入れての右内股、これは決まってもおかしくない軌道だったが引き手が切れて小川は腹ばい「待て」。小川GS1分14秒に左内股を仕掛けて抗するも組み勝っていた太田は余裕を持って捌く。太田以後も慎重に組み手を制しては小内刈、大内刈、内股と技を積む。GS2分半過ぎ、組み手をほぼ完ぺきに制した太田がしつこく右小外刈を浅く当て続けて誘いを呉れる。耐えきれなくなった小川が左内股、待ち構えた太田は待ち構えて股中で跨ぎ透かして叩きつける。GS2分48秒、この「技有」で試合決着。


古田 太田彪雅選手と小川竜昴選手の試合です。GS延長戦の内股透「技有」で決着。

上水 この太田の初戦、今回かなり注目していました。講道館杯は、内容的に彼本来の柔道ではなかった。久々の試合であることと準備不足の部分を差し引いても、もう少しいい試合をして欲しかったというのが正直な感想でした。その後1ヶ月半くらい、彼にはかなり相当厳しい言葉を掛けてきたので、さてどう変わってくるかという試合でした。特に入りに注目していたのですが、この日の太田は組み手が厳しかったですね、非常に彼らしく、圧力の掛け方がうまかった。小川選手も近畿地区で優勝している実力者ですが、その小川選手が太田の圧力を逃がしきれなくて、もろにかぶっていました。最後の内股透も掛けざるを得ないというところで掛けて、回された感じ。入りとしては良いのではないかと思いました。

朝飛 同じことになるんですが。今大会は太田選手の柔道IQと言いますか、組み立ての上手さが目立った大会だったのですが、この初戦にもっとも強くそれを感じました。仰る通り小川選手はもはや掛けざるを得ない状況になっていて、太田選手の側としてはもはやそれを待っていてただ合わせただけという印象でしたね。太田選手、この後の向選手との試合、田中選手との試合、もちろん佐々木選手との試合も、全部がシナリオ通りに終わっているような気がしてなりません。この試合は、小川選手が前の試合同様アグレッシブに行く中で、まったくいいところを出せないまま、しかも本人が悪いというわけでもなく、掛けざるを得ない内股を掛けて、それで勝負を決められてしまった。太田選手の底知れぬ頭の良さというか、作戦遂行能力の高さを感じました。

古田 本戦でも小川選手が苦しまぎれに左内股を仕掛けて、太田選手がめくろうとした場面がありました。決まった場面も、右の小外刈で誘ったように記憶しています。

朝飛 審判が「技有」と言う前に開始線に戻っていましたからね(笑)すごい。こういう風に決めようと思っていたのが分かりました。

古田 西森さん、いかがですか?

西森 釣り手を支配する。引き手も先に取る。小川選手としてはやれることがないですよね。組み手が7対3の、3の状態でも行かないといけない状態にされてしまうので、最後、言葉は悪いですが「嫌(いや)倒れ」のような感じですよね。もう返されても仕方ない、打つ手がありませんという感じ。決して柔道の実力がそんなに違うわけではなくて、組み手の部分で小川選手の良いところが完全に殺されている。そこが太田選手の強さなんだなと感じました。

古田 上水先生、講道館杯からここまで厳しい言葉を掛けられたそうですが、具体的には?

上水 太田はいい時、悪い時を交互に繰り返す習性があるんですね。

古田 小学生の頃から一貫してそうですよね。

上水 波に乗ってそのままダダダ、と行けないんですよね。行ったかと思うと落ちて、また行ったかと思うと落ちてということを繰り返す。私は選手によって掛ける言葉を変えるのですけれども、普通は、落ちた時には責めるようなことは言わないんですよ。根拠を挙げて、ここを変えるとお前はこう出来るぞ、という形でどちらかというと励ます方向で話をするんです。ただし太田に関しては真逆です。彼の場合は反発する力の方が強いですから、少し刺激を与えた方がいいんです。「あんな試合なら俺でも出来るよ」とか、「あんな負け方なら俺でも出来る」とか。「お前は人が好いな。行けるところなのにわざわざ自分の地位を下げて、横一線になろうとする」とか。彼は、運動会でスタートダッシュしたのにみんなでゴールするみたいな、そういう人の好さがあるんですよね。そういう部分でいったん突き抜けないと難しいよと。例えば影浦がいるからとか、王子谷がいるからとか、先輩がいるからまだいいやと思っていたらこのままで飲み込まれてしまうぞと、かなり厳しく言っています。技術的には、彼は悪い時はどうしても傾向として巻き込み技が増えるんです。体を捨てだすと悪い時なんです。だから体を捨てないことを練習の中で意識させます。あとは、トレーニングでもここやっておけというのを明確にしていますね。具体的な内容は企業秘密なんですけど、実は、このトレーニングの目付け役でつけたのが羽賀だったんです。「龍、ちょっとこれは甘いから見ろ」とお願いして。あり得る可能性はありましたけど、正直、羽賀と太田がピンポイントで決勝で戦うとは思っていませんでしたから。羽賀はトレーニングでも太田と一緒に追い込んでいるんです。決勝にはそういった伏線もあったんですね。

古田 インサイドの話として面白過ぎます。お聞きして良かった…。選手の個性と能力を見極めて、掛ける言葉を変えて。本当に濃やかですね。

朝飛 いま上水先生の話を聞いてよくわかるんですけど、太田選手、大学生になってから竹村(昂大)選手を投げた体落だったり、小川(雄勢)選手を投げた内股であったり、すべて釣り手が効いているんですよね。本当に変わっていったというか、巻きは出て来ていないなあと思っていました。

古田 東海大に行ってから一番変わったなと思ったのはそこでしたね。最初の1年の変化は相当なものでした。巻かなくなったな、太田選手と思っていました。私の太田選手観測のベンチマークは小・中・高と「巻くかどうか」でした。この小学6年生以来の基準点に、きょう上水先生に答え合わせを頂いた形で、その意味でも大変興味深い内容でした。

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向翔一郎が下和田翔平から左背負投「技有」

【2回戦 第14試合】
向翔一郎(推薦・ALSOK)○腕緘(3:12)△下和田翔平(関東・京葉ガス)
向が左、下和田が右組みのケンカ四つ。向組むなり左背負投、下和田が頭から畳に刺さると膝を伸ばして走り込んで制し、ごろりと転がして「有効」。そのまま腕をロックして抑え込みを狙うが下和田逃れて「待て」。続いての組み際も向は片袖の右背負投に入り込み、重ね餅の形で潰れ「待て」。組み際の技を2つ許した下和田まず組み止めようと両襟で圧を掛けるも向は裏投で応じ、ペースを渡さない。中盤は距離を取って一気に担ぎ技に潜り込みたい向、間合いを詰めて圧を効かせたい下和田という構図の組み手の駆け引き。下和田度々両襟で組み止めるが向はすぐさま体を開いていったん片手となり、体の自由を確保し続ける。2分40秒、下和田は組み際にまず引き手で襟を持ち、釣り手を高く入れながら腰ごと入れて刈りこむ右大外刈。これに向が裏投で応じる面白い攻防となるが、向が離れて場外に出「待て」。続く展開、下和田が再び引き手から襟を持つと、向いったん相手の左に流れてから左一本背負投。下和田を抜け落して伏せさせると、動きを止めずに掴んだ腕を拘束、肘を制して腕緘。横四方固の形で「抑え込み」の宣告を受け、そのまま相手の上体を浮かせながら極め続けると下和田諦めて「参った」。


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向の腕緘。敢えて大きく振りかぶった背負投で相手を抜け落すところからひと繋がりの、明らかに意識した動きだった。

古田 向翔一郎選手が登場、下和田翔平選手と戦いました。まさにうまみたっぷり。向選手らしい試合でした。

西森 フィニッシュは背負投で釣り手側に抜けたところから腕緘に入って抑えたんですけど、最初からそれを織り込んでいた動きでしたね。向選手としてはもちろん背負投で投げるというのも考えていて、最初それで「有効」を取ったんですけど、もうひとつ、下和田選手との身長差を考えて釣り手側にわざと振りかぶって抜けさせて、そのまま寝技で取るというのをきちんと考えていた。向選手が十分準備してこの大会に臨んだのだな、と感じた試合でした。

朝飛 全体的に見て向選手強くなっていましたし、西森さんご指摘の通りしっかり準備を整えてきているというのを感じました。入るまでの動きや足技からの繋ぎも面白かった。下和田選手は手足が物凄く長いですから、あまりにもくっつかれてしまったら裏への投げを狙うような場面も出て来るかなと楽しみにしていたのですが、そうなる前に全部捌いていましたね。とにかく、準備して来たなという試合でした。

古田 準備、そして寝技への連携というところではかつて選抜体重別で村尾選手に仕掛けた技を思い出しました。

上水 払巻込が抜けたところから、腋固のような技術を使っていましたね。

古田 なにより準備力、加えて下和田選手の大外刈に裏を狙うという思い切り。2つの方向性で向選手の魅力を見せてくれた、良い試合であったと思います。

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飯田健太郎と永山竜樹がマッチアップ、身長差は実に32センチ。

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永山の左袖釣込腰を飯田が小外掛に捉え「一本」

【2回戦 第15試合】
飯田健太郎(推薦・国士舘大4年)○GS小外掛(GS1:00)△永山竜樹(推薦・了德寺大職)
身長188センチの飯田、同156センチの永山ともに右組みの相四つ。永山は飯田の周囲を旋回しつつ接近。飯田引き手で襟、さらに釣り手で上から肩甲骨のあたりを深く持つと危機を感じた永山はすかさず左外巻込で伏せる。飯田そのまま寝技で2度ローリングして脚を絡もうとするがサイズが噛み合わず「待て」。飯田再びまず引き手で襟、ここから右一本背負投のフェイントを入れると永山は弾かれたように左背負投。飯田これを潰して再び寝技を狙い「待て」。続く展開は組み手のやりとり一合あって、飯田が引き手で袖、釣り手で奥襟を掴む完璧な形を作る。ここで腰をグイと寄せると永山守るどころか背中に食らいついて裏投一発、飯田は腰を切ったまま尻餅をつき、上半身を残して辛うじて耐えきる。ここから飯田みたび「脚三角」を狙うが果たせず1分40秒「待て」。飯田引き手で袖、釣り手は再び上から背部へ。腰を切ると永山またもや裏投、しかし予期した飯田今度は外してポンと左小外刈。永山が崩れ伏せて「待て」。2分27秒、「両襟奥」を掴んだ飯田やや焦れて切れ味鋭い右内股一撃、しかし永山鮮やかに透かし、両者が一瞬宙に浮いて飯田は肩口から畳に落ちる。大きな見せ場であったが、これは腹ばいでノーポイント。飯田は以後やや警戒を強め、しっかり組んで離さず、大技を控えて永山に「際」を与えないまま左右の出足払で崩し続ける。永山右袖釣込腰を放つが飯田あくまで離さずに引き戻し、再び足技。ここで本戦が終わり、試合はGS延長戦へ。永山組み際に左背負投を放つが飯田は動じない。飯田引き手で袖、釣り手で奥襟を得ると腰を寄せ、今度は右足車一撃。永山高々宙を舞ってあわや「一本」かと思われたが回転がつきすぎた格好で腹ばいに落ち、この技はノーポイント。以後も飯田はあくまで慎重、引き手で袖を一方的に得、釣り手で奥襟を得て出足払で崩し続ける。さしもの永山も耐えきれず左袖釣込腰で勝負、しかし待ち構えていた飯田振り返して押しつぶし小外掛「一本」。


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永山なんと裏投、飯田の体を抱えて放り投げる。

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飯田辛くも手を着き、尻餅でこらえる。

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飯田の右内股を永山が鮮やかに透かす。

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飯田は外側の技に狙いを切り替え、右足車。永山大きく宙を舞うが腹ばいで着地。

古田 ここで飯田健太郎選手と永山竜樹選手の試合となります。身長188センチ対156センチという対戦です。存分に語っていただければと思います。

西森 永山選手が裏投狙いにいったのはびっくりしましたね。

古田 異次元の絵でした(笑)

上水 飯田選手の意識に、あの技がかなり残ったと思うんです。その後、大外系が打てなくなったのはあの裏投が効いたんでしょうね。相四つの裏投なんて普通は打たないですよね。永山はあれが得意なので、一発嵌れば面白いなと思ってはいました。さすがに飯田選手を投げることは出来なかったんですけど、ちょっと嵌りそうになりましたよね。手で止めましたけど。あの裏投が試合が長引いた要因なのかなと思います。大外刈だと裏投に来る、では内股、ところがこれが透かされた。となると飯田選手もどうしようというところになって、永山の消耗を待つ形になったんですね。

古田 …なるほど。メモを見るとその通りの展開ですね。永山選手が裏投を打ったのが残り2分40秒で。もう一回食いつこうとしたところを飯田選手が警戒して小外刈で切って、その後なんですね、右内股に行ったのは。なるほど。よく流れが分かりました。

朝飛 さきほど説明があった通り、飯田選手は156センチの選手と練習する機会はまずほとんどないですよね。なので、逆にうまさが邪魔をした側面があると思います。軽量級と戦う場合には無理やりでもくっつくとか、わざと変形になるとか、右足を大きく出して腰を近づける、ちょっと大胆なやり方のほうが相手にとって嫌なんだ、というのを教わったことがあるんですが、飯田選手は柔道の綺麗さがありますから。…心の中では、飯田選手は背負投が上手いから、ここで担ぎ技を掛けてくれないかなと勝手に期待していました。そうしたら歴史に残る名勝負になるんじゃないかなと。ただ、飯田選手は最後まできちんと考えて、消耗を強いて、僅かな隙を狙ったなと思いました

西森 しかしGS延長戦まで合わせて5分以上ですからね。裏投で大きく崩して、内股透で腹ばいにもさせた。あの飯田選手と五分で戦う永山選手は凄いと思いました。

古田 本戦の残り50秒あたりから、逆に飯田選手のほうが、際を作らないように慎重に戦うようになりました。上水先生がさっき仰った、消耗を待つ形ですね。

上水 あれをされると永山はどうしようもないですね。

西森 このあたりは私の持論でもあるんですけど、やっぱりもう少し軽量級が勝ちやすいルールにする必要があるとは思いますね、全日本選手権は。その方が間違いなく大会として魅力的になりますよね。

古田 今大会でこれは面白いと思ったポイントを掬い上げて、そこを最大化するように考えて欲しいですね。重量級の打ち合いが面白かった、小さい選手が勝ちそうになるのが面白かった、出られる選手が多くなったのが面白かった。こういう、魅力を感じた部分をより大きくするように、レギュレーションやルールを変えていくということだと思います。

西森 競技としての柔道は、柔道というひとつの武道のどこをどう切り取るかというものですから、そこには所与のものではなくて、こちらが柔道競技をこうしていきたいという意図が入るべきなんですよね。どうしても日本人って、ルールは与えられるものという考え方になりがちでそこで思考が止まってしまうことが多いのですが、自分たちがこうしたいという競技の方向性があるのなら、それが反映されるようにルールを作っていくべき。全日本選手権は、講道館柔道はすごいんだよ、面白いんだよということが伝わるルールを考えてやると良いと思います。全日本選手権という場が、講道館柔道の魅力を伝えるショーウインドウになって欲しい。

古田 これからは今年のように、全日本選手権の日には海外の選手や関係者が一斉にライブ中継にアクセスすることになるでしょう。機は熟したように思います。

西森 だと思います。たとえばこの試合の飯田選手と永山選手は、2人ともに海外のファンにとってはおなじみの選手ですからね。日本の代表選手2人がなんか試合しているし、しかも永山が飯田に裏投仕掛けたぞ、と(笑)

上水 チダオバでグビニアシヴィリとオクルアシヴィリが試合して、グビニアシヴィリが投げたのなんて、やっぱり見ますもんね。

古田 確かに私も、2人が試合をしたと聞いてYoutubeで探しました。あの試合で始めてチダオバを見たという人も、結構いるのでは。すると、あれはチダオバの「ショーケース」ですね。

朝飛 優勝の賞品でもらった車に乗って帰ったときですね(笑)

上水 あの映像はインパクトありました。あんな技掛け切るのかと。

古田 というわけで、飯田選手と永山選手の試合、全日本選手権の可能性を示すのに十分な一番だったと思います。最後は飯田選手の我慢が効いたという形ですね。

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田中源大が左大内刈、尾原琢仁を大きく崩す。

【2回戦 第16試合】
田中源大(近畿・日本製鉄)○GS反則[指導3](GS5:22)△尾原琢仁(九州・旭化成)
両者左組みの相四つ。尾原は両襟、田中は引き手で袖、釣り手で横襟を掴んで対峙。田中は組み手争いの中相手の下がり際に出足払に踏み込んで先制攻撃。以後はやや横変形にずれての組み合いが続き、尾原が田中の釣り手を顎で噛み殺そうとすると田中はその動きに支釣込足を狙う良い攻めを見せる。2分35秒、引き手で一方的に袖を得た田中が左大内刈に出、尾原はバランスを崩して腹ばいに伏せる。直後尾原に消極的との判断で「指導」。組み合いっての攻防では徐々に手が詰まる印象の尾原、組み際に左払巻込を見せるが田中立ったまま弾き飛ばして動ぜず。3分53秒、両者に「指導」が与えられて試合はGS延長戦へ。GS35秒、尾原の左小内刈に田中が左出足払を絡ませて応じ、大きく崩して「待て」。以後も田中は組み手争いに混ぜ込みながら度々切れのある足技を見せ、少しづつ優位を積み上げる。GS3分53秒には大内刈から「小内払い」への連携で尾原に膝を着かせ、徐々に明確な差がつき始めた印象。GS4分半、横変形の組み合いから尾原支釣込足も、これで逆に釣り手を上げることに成功した田中が思い切った左払巻込を放ってあくまで展開を渡さない。GS5分22秒、田中が引き手を「手四つ」で争いながら釣り手側への肩車を仕掛けると、主審が試合を止めて尾原に消極的との咎で3つ目の「指導」。これで試合は終了となった。


古田 打って変わって重量級対決。尾原琢仁選手と田中源大選手の試合です。左相四つ、重量級らしい試合だったと思います。お互いちょっと横にずれて、あるいは正面から組み合っての力比べ。その中に、出足払に燕返、足技の良い攻防がありました。

朝飛 田中選手の足技がポイントだったと思います。お互いが左で組み合った時に、支釣込足はもちろん、「小内払」みたいなものがあると、がくっと長身選手の重心がずれる時があるんですね。ああいうところが勝負の分かれ目になるのだと思います。

古田 「蹴り崩し」、横変形で組んでいる場合は特に効きますよね。節目節目でこれが良く効いていました。

上水 試合が終わってから旭化成のコーチの海老(泰博)が言っていたんですけど、田中選手が強くて、尾原選手も手詰まりになったと言っていましたね。自分の受けが強いことを前提に出せるはずの技が、足を効かされてしまったのでどの技を出せばいいか手立てに詰まってしまい、必然的に「指導」を貰うことになったと。どうだった、と聞いたらそういう感想だったと。田中選手の地力が凄いと思うんですよね。

古田 外から見ると互いにがっちり組み合って足を打ちあう時間が長かったわけですが、尾原選手の手が詰まるほど、田中選手の組み力、地力が強かったと。

上水 普通は体型見るとどっちが有利か分かりますよね。尾原選手の方が上背があって有利のはずなのに、それをものともしないというのは、田中選手の地力がかなり強いということだと思います。

西森 田中選手は明治大学時代は小川雄勢選手と練習して来ているはずなので、尾原選手のような体型はやり慣れているのかもしれませんね。本来であれば相四つの長身は嫌だと思うんですけど、どんどん下から突き上げるような感じで、まったく苦にしていなかったですよね。そこはすごく感じました。

古田 田中選手これは強いぞ、という予感さらに高まった試合ということで。ここまでで2回戦は終了、3回戦に移ります。


→3回戦に続く

※ eJudoメルマガ版2月11日掲載記事より転載・編集しています。

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