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【eJudo’s EYE】あまりにも豪華な「五輪前哨戦」、ファンは3日間寝不足必至/ワールドマスターズ・ドーハ2021男女14階級オーバービュー

(2021年1月11日)

※ eJudoメルマガ版1月10日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】あまりにも豪華な「五輪前哨戦」、ファンは3日間寝不足必至
ワールドマスターズ・ドーハ2021男女14階級オーバービュー
文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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会場内。
(写真:Judoinside)

1次エントリーから、びっくりするくらい選手が削れなかった。わかりやすいところで言えばテディ・リネールも残ったし、ダリア・ビロディドもいる。アン・チャンリンも出るし、2020年をひとり勝ちしたロシア男子チームはほぼフルメンバーだ。コロナ禍で五輪出場(シード)ポイントを稼ぐ機会が極端に限られる中、再開第1戦となるこの高配点大会に強豪選手が殺到したという形である。あまり安売りしたくない惹句だが今回は「五輪前哨戦」とか「予行演習」と呼んでしまって差し支えないレベルの大会だ。

どの階級も密度が高すぎて、語り始めれば無限に続けられてしまう。もちろん各階級のプレビューはこのあとお届けさせて頂くが(これもどこまでで話題を切るかだけが焦点になるはず)、まずは(がんばって)簡単に注目階級、そして駆け足で14階級のみどころを紹介したい。

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2019年グランドスラム・パリ時のテディ・リネール。この時は体が大きすぎ、明らかに調整不足であった。
(写真:Judoinside)

大向こう受けで言えば、男子は100kg超級(最終日)がまず目を引く。第1シードの原沢久喜に、テディ・リネール、2018年世界王者グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)に、もっか超級世界を席捲中のイナル・タソエフとタメルラン・バシャエフのロシア勢2人とここまでで既にお腹いっぱい。これにキム・ミンジョン(韓国)にゲラ・ザアリシヴィリ(ジョージア)、ロイ・メイヤー(オランダ)、オール・サッソン(イスラエル)に売り出し中のシプーツ・リハールド(ハンガリー)と続く垂涎の陣容だ。ロシア(2人)、ジョージア(3人)、韓国(2人)の選手重複を考えればある意味五輪以上の難関トーナメントである。

その中でひときわ注目すべきはやはりリネール。今年2月のグランドスラム・パリでは影浦心に敗れて連勝記録が「154」でストップ。この時は明らかに調整不足であったが、半年近くのトレーニング期間を経て迎えた10月のフランスクラブ選手権(団体戦)ではまったくの格下ジョセフ・テヘーにも「指導3」の反則で敗れてしまっている。審判の拙さに泣かされた試合ではあったが、さすがに加齢による衰えを疑わざるを得ない。今夏までにリネールがどこまで仕上げて来られるのか、今大会の出来を補助線にかなりの見当が付けられるはず。注目の初戦はロイ・メイヤーがマッチアップ。圧が掛かりやすい相四つということもあって本来であれば戦いにくい相手ではないはずだが、リネールが不調の場合メイヤーの担ぎ技をひたすら、それも思い切り連発する燃料消費激しいスタイルが逆に嵌る可能性もある。見逃せない一番。

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サイード・モラエイ

81kg級(第2日)は「永瀬貴規抜きの東京五輪」と言ってしまっていい豪華さ。サギ・ムキ(イスラエル)とサイード・モラエイ(モンゴル)の世界王者2人にヴェダット・アルバイラク(トルコ)、タト・グリガラシヴィビリ(ジョージア)、ルカ・マイスラゼ(ジョージア)、ハサン・ハルモルザエフ(ロシア)、マティアス・カッス(ベルギー)、アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)ら各ブロックに隙間なく強豪が配された。「やるたびに結果ががらりと変わる」と日本代表の井上康生監督が語る通り、あまりに変数が多すぎて実は当日始まってみるまでみどころすら設定しがたい階級なのだが、国籍変更してある程度の時間が経ち、環境が安定しているはずのモラエイの出来は五輪の様相を測る上でひときわ重要と考える。しかも初戦の相手はマイスラゼ。勝てる保証などまったくない強敵だ。ファンはこの試合だけは見逃さないよう、Ippon.tvに張り付いておくべきだろう。

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ミハイル・イゴルニコフ

向翔一郎が送り込まれる90kg級(最終日)も面白い。もちろん強豪勢ぞろいで破格に面白いトーナメントなのだが、個人的にはまず「イゴルニコフを見ろ」とだけ叫びたい。先日勝手に「片足の帝王」と命名させて頂いたこのミハイル・イゴルニコフ(ロシア)は、ご存じの通り2020年後半の90kg級世界を席捲した強豪。左足一本突っ込めばそのまま降ろさず大内刈か内股で投げ切ってしまうという、トップレベルでは信じられないシンプルなやり口で、2018年の世界王者ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)をはじめとするメダルクラスの強豪たちを全員、それもあっさり屠ってしまっている。これから半年間の観察軸を「五輪でイゴルニコフ以外に金メダルの可能性があるのかどうか」に据えてしまってもいいくらい、今の強さは圧倒的だ。もし抱き勝負に応じる悪癖を自覚し、前襟横襟を掴んで間合いを保つ戦術を徹底してくるようであれば、ちょっともう攻略は難しいのではないか。
しかし今回はガク・ドンハン(韓国)が出る。柔道のタイプ的に、イゴルニコフ攻略にもっとも希望が持てるのはこの人のはず。長い休養期間を経て負傷も癒えているであろう。少なくともその奥行きの深い柔道と対峙させることで、イゴルニコフがなんらかの隙を見せる可能性は十分とみる。2人の対決があるとすれば準決勝。まさに五輪までの90kg級世界の構図を決めてしまう、重要な一番になるだろう。

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渡名喜風南は準決勝でダリア・ビロディドに挑戦。

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負傷癒えた吉田司。久々のハイパフォーマンスに期待。

女子は日本の五輪代表が送り込まれる48kg級、57kg級、78kg級にそのままフォーカスしていい(もちろん全階級みどころだらけであるのは論を待たないのだが)。

48kg級(第1日)は五輪の金メダル候補であるダリア・ビロディド(ウクライナ)、渡名喜風南、ディストリア・クラスニキ(コソボ)の3強が揃って出場。加えてベテランのムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)とパウラ・パレト(アルゼンチン)の両世界王者、売り出し中の若手からシリーヌ・ブクリ(フランス)にアンドレア・ストヤディノフ(セルビア)と、各層のスター選手がほぼ全員顔を揃えた。渡名喜は準々決勝でパレト、そして準決勝でビロディドとの対戦がほぼ確実。すべてを見せることはないだろうが、この1年半養って来たビロディド対策の一端が垣間見える試合になるはず。勝ち負け以上に、どこで手ごたえを得、どこまで刃を入れ、どこで矛を収めるかという渡名喜の振る舞い自体が注目。一挙手一投足から目の離せない対決だ。

57kg級(第1日)の注目ポイントは芳田司の出来。代表争いの最終盤はまさに満身創痍状態であった芳田だが、コロナ禍を奇貨としてしっかり休養、どうやら負傷が癒えたとの情報。コロナ対策の「バブル方式」運営のため、食事や水分摂取、練習環境が普段とはかなり違うとのことで体重調整が心配ではあるが、久々芳田のフルパフォーマンスが見られる大会になるのではないか。組み合わせには比較的恵まれ、逆側の山でジェシカ・クリムカイト(カナダ)とサハ=レオニー・シジク(フランス)が潰し合い、これを決勝で待ち受ける形。

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待ちわびた「実戦」に燃える濱田尚里

濱田尚里が送り込まれる78kg級(最終日)は、フランスからマドレーヌ・マロンガ、ファニー=エステル・ポスヴィト、オドレイ・チュメオのトップ3が全員出場。この点で言えば明らかに五輪よりも難易度の高いトーナメントと言える。しかし昨秋から「今すぐにでも試合に出られるコンディション」「すぐにでも試合がしたいと言っている」と好調が伝えられてきた濵田にとってはこれぞ望むところであろう。そして組み合わせは、チュメオ、ポスヴィト、マロンガの順にこの3人全員と「戦えてしまう」という過酷な、しかし実戦を切望していた濵田にとってはある意味最高の配置。ここは、濵田がもっか78kg級世界を席捲するフランストリオを立て続けに打ち破る、その勝ちぶりこそが最大の見どころと推しておきたい。寝技が代名詞の濵田であるがもともと投技もパワフルで、むしろ本人の志向は「投げて勝つ」ことにある。このコロナ禍期間は立ち技にも進境著しく、増地克之代表監督は「『投げの濵田』にも注目して欲しい」とこの点も高く評価している。濵田は実戦を繰り返して調整するタイプ。ここは勝ち負け以上に納得のいく試合、濱田らしい思い切りの良い戦いに期待したい。

■ 第1日
【男子60kg級】
ロベルト・ムシュビドバゼとヤゴ・アブラゼのロシア対決が軸で、準決勝で激突するこの2人の対決がそのまま優勝の行方を左右する。下側の山は準々決勝でシャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)とルフミ・チフヴィミアニ(ジョージア)の2019年世界選手権決勝の再戦が濃厚。この山の中に配されたキム・ウォンジン(韓国)、隣の山に配されたイェルドス・スメトフ(カザフスタン)の出来にも注目。

【男子66kg級】
第1シードのマニュエル・ロンバルド(イタリア)の一種サイボーグ的な強さと進化がこの先も続くのかどうか。これが五輪に向けた最重要観察ポイント。トーナメント最大のみものであるアン・バウル(韓国)との準決勝対決が実現すれば、得られる情報はかなり多いはずだ。日本勢が参加しない、つまりは過去3年の世界選手権王者がいないトーナメントなので大向こう受けする大物の数は少なめだが、この2人の対決があるのであればみどころとしては十分以上。同日の60kg級が混戦の割には比較的様相見えやすい(何度も戦っているロシア勢がトーナメントの軸)こともあり、このロンバルド-アン戦がこの日の男子最注目カードと言ってしまって良いだろう。

【女子48kg級】
ファン視点では、ビロディド、渡名喜、クラスニキの3強の試合をしっかりフォローすること。どの試合も戦いぶり自体がビビッドに五輪に繋がってくる。ビロディド対渡名喜は準決勝の予定。五輪までもはやあるまいと思われたこの豪華対決が、1年延期によって本番前に実現することになった。まさに必見中の必見である。注目ポイントは前述の通り、渡名喜の戦いかた自体。

【女子52kg級】
アモンディーヌ・ブシャー(フランス)、志々目愛、オデッテ・ジュッフリダ(イタリア)、マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)と揃ったAシード選手4人がそのまま優勝候補。ケルメンディには初戦でアンドレア・キトゥ(ルーマニア)、さらに準々決勝でジョン・ボキョン(韓国)が配されて勝ち上がりの難易度が高くなっているが、軸はこの4人で間違いない。強豪に戦いぶり読める選手が多い中で、五輪本番でおそらくもっとも競技力が跳ね上がるのはジュッフリダ。その立ち振る舞いから、何を隠し持っているのかを探ってみるのも面白い見方。

【女子57kg級】
負傷癒えた芳田司の出来が最大の注目ポイント。大会全体を通じた注目カードはクリムカイトとシジクの準決勝、そしてその勝者が芳田と戦う決勝ということになる。

■ 第2日
【男子73kg級】
橋本壮市とアン・チャンリン(韓国)の両世界王者による決勝対決が最大のみどころ。勝ち上がりの難易度は橋本の方が高く、初戦でガンバータル・オドバヤル(モンゴル)、準々決勝でファビオ・バジーレ(イタリア)とタイプ異なる曲者と戦わねばならない。勝利自体は動かないが、橋本がどう詰めてどう仕留めていくかがみもの。上側の山、橋本との準決勝への勝ち上がりを争うプールBにはヴィクトル・ステルプ(モルドバ)やニルス・ストンプ(スイス)ら旬の選手が詰め込まれた。実はもっとも面白いブロック。

【男子81kg級】
前述の通り、様相は「永瀬貴規抜きの東京五輪」。あまりにもみどころあり過ぎるのだが、敢えて言えばモラエイの出来(まずはマイスラゼとの初戦)が第1の注目ポイント。あとは勝ち上がりの中で「今日、『来ている』選手」を見出して追跡するという見方しかない。使い古された言い回しだが「誰が勝ってもおかしくない」トーナメント。

【女子63kg級】
第1シードのクラリス・アグベニュー(フランス)と第2シードの鍋倉那美による決勝対決、みどころはこれに尽きる。チョ・モッキ(韓国)、オズバス・ソフィー(ハンガリー)と鍋倉の勝ち上がり過程に注目すべき選手はいるのだが(各階級プレビューで詳述)これはあくまでディティール。この2人の対決という大きなシナリオがトーナメント全体を規定する。

【女子70kg級】
マリーイヴ・ガイ(フランス)、マルゴ・ピノ(フランス)、サンネ・ファンダイク(オランダ)、キム・ポリング(オランダ)と優勝候補4人のブロックが分かれ、うち3人にそれぞれ刺客が配されることになった。ガイにユリ・アルベール(コロンビア)、ピノに大野陽子、ポリングにミヘイラ・ポレレス(オーストリア)という形。第1シードのガイがメンタル的に極めて不安定、さらに敵役のアルベールも調整の程度でパフォーマンスの上下動激しいタイプ、ということで、強者がはっきりしている割には意外と進行が読めないトーナメント。手堅いピノと大野が揃ったプールCが優勝争いの天王山になる確率が高いのではないか、と観察する。

■ 最終日
【男子90kg級】
前述の通り、ミハイル・イゴルニコフの強さ自体、そして彼とガク・ドンハンの対決が最大のみどころ。彼ら2人の勝ち上がりに付随するガクvsノエル・ファンテンド(オランダ)、イゴルニコフvsラシャ・ベカウリ(ジョージア)orネマニャ・マイドフ(オランダ)の準々決勝も見逃せない。と書くと向翔一郎は配置に恵まれたかに思われるかもしれないが、2戦目でベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)かマーカス・ニーマン(スウェーデン)、準々決勝でイワン=フェリペ・シルバ=モラレス(キューバ)かエドゥアルド・トリッペル(ドイツ)とやはりかなりの濃さ。「まったく新しい戦い方」を模索しているという向、全日本選手権の好調ぶりを持ち込んでの活躍に期待。

【男子100kg級】
選手の質が高く濃く、配置はバラけ、つまりは高いレベルでの均衡ゆえに軸になる優勝候補を挙げることが難しいという、非常にサマライズが難しいトーナメント。たとえば、離れて配置されたアルマン・アダミアンとニヤズ・イリアソフのロシア代表争いに注目し、彼らの周りに配された強者に目を配るという見方は面白いかもしれない。Aシードはペテル・パルチク(イスラエル)、チョ・グハン(韓国)、ジョルジ・フォンセカ(ポルトガル)、ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)の4人で、アダミアンはエルマー・ガシモフ(ジョージア)とともにパルチクのいるプールAに配置。イリアソフはフォンセカのプールDに配された。

【男子100kg超級】
前述の通り、五輪の予行演習というべき濃い陣容。序盤の最注目カードはリネール対メイヤー。リネールはここで勝っても鬼門の「左組みで動きの速い担ぎ技タイプ」であるバシャエフとの準々決勝という高いハードルが待ち受ける。原沢は楽な山とは言えないが準決勝進出までは既定路線、ここでのリネール戦が非常に楽しみ。

【女子78kg級】
前述の通り濱田尚里の大暴れに期待。チュメオ、ポスヴィト、マロンガと揃ったフランス勢3人は相手にとって不足なし。寝技一択であれば全員並べてあっさり片づけてしまうくらいの力があるが、濱田がそれ以上の面白い試合を見せてくれる可能性も十分である。

【女子78kg超級】
イダリス・オルティス(キューバ)とマリアスエレン・アルセマン(ブラジル)が第1、第2シードを張り、形上は優勝候補の筆頭。ただし既に力の上限が見え、かつ調整具合で大きくパフォーマンスが変わるこの2人の出来以上に注目すべきものがある。最大のみどころは、いまが伸び盛りの新鋭ホマーヌ・ディッコ(フランス)の試合ぶりであると考える。ディッコが五輪までどこまでやれるようになるのか、これから半年間の超級世界における最大の観察ポイントは間違いなくここだ。組み合わせはなんと2回戦でオルティスという、この観点からは最高の配置。見逃すべからず。

※ eJudoメルマガ版1月10日掲載記事より転載・編集しています。

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