PAGE TOP ↑
eJudo

【eJudo's EYE】今大会のベストスロー・石原隆佑の体落を解析、「技の中大」の系譜匂いたつ/令和2年全日本柔道選手権早出し評④

(2020年12月30日)

※ eJudoメルマガ版12月28日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo's EYE】今大会のベストスロー・石原隆佑の体落を解析、「技の中大」の系譜匂いたつ
令和2年全日本柔道選手権早出し評④
eJudo Photo
身長170センチ、体重90キロの石原隆佑が、187センチ145キロの王子谷剛志に挑む。

(「早出し評」③から続く)

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

■ベストスローは石原隆佑の体落「技有」

令和2年全日本柔道選手権「ベストスロー」には、北海道から初出場の石原隆佑(トーエー企業)が王子谷剛志(東京・旭化成)からマークした左体落「技有」を、いの一番に挙げたい。技の切れ味、技術的な裏付け、狩った相手の格、そして出来上がった魔術的な絵、さらにバックグランドに想起させる系譜とまさに申し分なかった。なぜ「一本」にならなかったのが不思議だが、その技の価値いささかも減じるものではない。

石原はまず1回戦で、大町隆雄(中国・山口県警察)とのともに頭から流血する大熱戦を得意の「抱き勝負」からの後技2発で勝ち抜き(小外掛と裏投の合技「一本」)、この2回戦で過去優勝3回の王子谷剛志(東京・旭化成)とマッチアップ。会場を驚かせたこの美技が生まれたのは開始48秒だ。

試合はケンカ四つ。右組みの王子谷に対して石原がまず一の矢の左小外掛。王子谷がツト攻められた右、次いで無意識に左と足を順番に下げると、石原は小外掛で左足を置くと同時に運んでいた右足を軸足としてもう本命の左体落に入り込んでいる。作用足は王子谷の股中、つまり近い足への体落である。王子谷は下げかけた右脚の腿が相手の左膝に引っかかって腰高、しかも左足先も下がり際という極めて中途半端な姿勢で受けて、というよりまったく反応出来ないままこの技を食ってあっという間に一回転。まさに意識の外から襲った技、145キロの巨体は超高速で畳に落下。もちろん「一本」と誰もが思ったが、主審あまりの事態に呆気にとられたか「技有」を宣告。

いましがた「一回転」「畳に落下」と記したが、「ブッ飛んだ」と書く方がより芯を食った表現だろう。あまりに勢いがありすぎて王子谷の体は埋まるのではなく背中を丸めたままドカンとバウンドしていた。(※筆者はライブ実況では「小外掛から内股」と叫んでしまっているのだが、私が見ていたのはワンフロア上の、しかも石原の右(掛けたときの背中)側でもっとも遠くの正面向かって左奥。かなりの距離と角度があった。上体の動きと、王子谷の吹っ飛び方で発言。たぶん吹っ飛んで上を向いた王子谷の足が遠方からは一瞬石原の作用足に見えてしまっている。お許し願いたい)

さてこの「小外掛から体落」、色々な方向から語ることが可能。

まず技術自体から。技の進行手順は「王子谷が一歩下がり、反対の足でもう一歩下がってバランス取ろうとしたところを、近い足に体落」。

このところの弊サイトの「技術評」や「ベストスロー」などの技術コラムの流れを受けていえば、この技の理合はこれまで紹介してきた今年の大流行技術である「フォンセカ」や「モチダ」(払釣込足)に近い。一撃目で相手の自分に近い側の脚を下げてやり、続いて無意識に下げる遠い足を本命の二撃目で狙う。「フォンセカ」なら一撃目の相手の右足を下げる機能を担うのが大内刈(モチダなら小外刈)、続いて無意識に動く2つ目の足(左足)の下がり際を本命の払釣込足で蹴り(払い)飛ばしてやるわけだが、この「下げながらの体落」も同じ理合。一撃目の大内刈か小外刈(掛)は一緒、2つ目の足をめがけた本命の蹴とばしが作用足の落とし込みに変わるのみ。本命のインパクトに合わせて相手の上体を操作して前方回転を強いるのも同じで、相手の側を向いたままこれをやるのが「フォンセカ」(払釣込足)、反転して自分が前を向くのがこの二段体落ということになる。今回の石原の体落は作用足を股中に落としているので直接2つ目の足にインパクトを加えているわけではないが、「1つ目の足を先ず下げ、これに引っ張られて無意識に動く2つ目の下がり際に本命を打ち込む」という理屈は同じ。今回は1つ目の足(右脚)が石原の膝で宙に持ち上がっており、同時に2つ目の足(右脚)の移動の着き際という、実は「両足とも宙に浮いている」ところに体落の衝突が来たので、そのあと起こる現象も払釣込足に良く似ていた。両足が奥に向かって下げられ(1つは後退、1つは蹴り飛ばされる)、次いで上体だけが前に伸ばされるという「/」→「-」のスーパーマンが体を平行に宙を飛ぶ状態が一瞬出来上がり、ここから前への回旋が来るわけだ。

まずはこの理合、「一歩目を下げ、無意識に下がる二歩目の着き際を狙う」というメカニズムの強さをまたもや思い知らされた一撃であったと言える。筆者も講道館杯の後に道場で少しやってみたのだが、このメカニズム実に理屈として“強い”。私のようにセンスがなくても、2歩目が下がると信じて決め打ちするだけでかなり効く。ぜひ試してみて欲しい。最後にもう1つ付け加えると、今回の石原の一撃は、一の矢の左小外掛に引き続いて置いた右足の位置も素晴らしく、本命の左体落の軸足の踏み込み位置として絶妙であった。「狙った技」であることがよくわかる。

もう1つは中量級の石原(90キロ)と、超重量級の王子谷(145キロ)という普段違う世界に棲んでいる2人が同じ空間で混ざったことで起こったスピード的なギャップ。これによって魔術的な絵が出来上がった。

王子谷は投げられる瞬間ギリギリまで石原の体落がまったく見えていない。相手の足技が来たから少し下がる、という王子谷にとっての1動作の間に、石原は2動作(それも2動作目は、軸足を運んで反転し作用足を落としながら、上体では引き手を上げて下げる+釣り手を押しあげて下げるという複雑な動き=体落)を一気に行っている。ここには純粋なスピード差はもちろん企む(プログラムした複雑な動きを計画通りに行う)側とそうでない側(単にオートマテイズムに則って動く)という準備の差という側面もあり、この差で既に王子谷は置きざりにされてしまっている。そもそも技を仕掛けるタイミングなんか存在しないと思っている秒と秒の隙間の毫にしかもこれだけ複雑な、それも「殺しに来る」動きを差し込まれては、たまったものではない。

...続きを読む

※ eJudoメルマガ版12月28日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る