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【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第102回

(2020年7月13日)

※ eJudoメルマガ版7月13日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第102回
選挙を全うするがごとき人を作るのは普通教育者の任にほかならない。
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嘉納治五郎師範

資料提供 公益財団法人講道館
copyright:Kodokan Judo Institute

※写真の無断転載および転用を厳に禁じます

出典:「師範学校教育上特に注意すべき二、三の事項について 第二回(中)」
「中等教育」第21号 大正3年3月 (『嘉納治五郎大系』5巻240頁)
 
嘉納治五郎師範が柔道に止まらず、幅広い分野で活動されていたことは、皆様ご存じの通りですが、その中には「政治」も含まれます。
今回は師範の「政治」と「教育」が交差した「ひとこと」になります。

我々は、民主主義の社会で生活していますが、その根幹となる制度が「選挙」です。
その選挙を「全うする」、つまり<きちんと遂行する>人を育てるのが普通教育(全国民が共通の一般的、基礎的な教育)に携わる者の任務と師範は言います。
今は、18歳以上の男女に与えられている選挙権ですが、当時は、まだ限定された一部の人に与えられた権利でした(大正3年当時は、満25歳以上、直接国税10円以上を修める男子)。
 
師範は、選挙を全うするために、どのようなことを言っているでしょうか。

まず、自分が選ぼうとする議員について、普段からその人物や主義、その能力を調べるよう心掛ける。(仮に当選したら)当選後も、その議員の言動について注意を怠らないようにしなければならないと言います。
さらに、普段から、政治経済のことを考え、自分の説がなくても、他者の説を読んだり聞いたりして、それが社会にとって良いことか悪いことか判断するくらいの知識を養っておかなければならないと言います。

かなりハードルが高いことを言っているようですが、要は、普段から、政治や経済に関心を持ちながら、議員の動向に注意を払い続けるということでしょう。
考えてみたら、当たり前のことです。しかし、残念なことに、当時もそれが出来ている人は多くなかったようです。

現在の民主主義というのは、人類が長い歴史と闘争を経て獲得したものです。
ですが、この数による意志決定は、弱点を包含しています。決定が合理的観点から行われるとは限らないということです。大多数が間違った判断をした場合、社会が間違った方向に進むことになり、そのしっぺ返しを全体(場合によっては後世の人たちまで)受けなければいけなくなります。

だからこそ、一人一人の資質や姿勢が大事であり、師範も満25歳以上のすべての男子に選挙権が認められた大正14年には、普通選挙、婦人参政権の可否を議論する際<国民の智徳の進歩を考慮する>ことを重要なファクターとしています。

さて、今回の「ひとこと」、講道館柔道とは全く関係ないため、単純に師範の活動の多様性の紹介と取ることも出来ます。また、普通教育に携わる者(今で言えば、義務教育の先生達)以外には関係ないと思われるかもしれません。
事実、師範は、選挙を全うする人間を育てることが、本当に出来るのは、普通教育に携わるものだけだと言っています(政治に対する意識を小さい頃から育てるということだと推測されます)。

ですが、柔道修行者は、柔道にかかわる者である以前に、社会の一員です。
そして、社会の一員である以上、「選挙」から離れる事はできません。自分自身、あるいは、将来選挙権をもつであろう、若者たちにとっても重要なことです。そう考えると、講道館柔道の創始者が語る「政治」の話、傾聴の価値が十分にあるのではないでしょうか。
 
本稿を書くにあたり、師範の興味深い指摘があったので、最後に紹介します(意訳)。
<今日新聞紙上や演説上にあらわれる世論というもはたして国民の世論だろうか、おそらくは言論家が言う世論であろう。言論家の世論が本当に国民の世論を代表している、と言うことは出来ない>。
今のネット社会にも通ずる含蓄ある指摘です。

※引用は、読みやすさは考慮して、『嘉納治五郎大系』から行っています。

著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版7月13日掲載記事より転載・編集しています。

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