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【eJudo’s EYE】東京五輪延期、現時点の材料では「代表メンバーの維持」が妥当

(2020年3月25日)

※ eJudoメルマガ版3月25日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】東京五輪延期、現時点の材料では「代表メンバーの維持」が妥当
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2月27日の時点で「2番手以降と歴然とした差がある」と判断された選手12名が新たに日本代表に内定した。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

7月24日に開幕予定だった東京オリンピックの延期が決まった。安倍晋三首相とIOCが合意した変更日程は、報道が伝えるところによれば「遅くても来年の夏まで」。

まず延期の決定を歓迎する。これから関係者と選手に掛かる多大な負担を考えると軽々にそう言い切ってしまうのは憚られるところもあるのだが、もはやこの状況では予定通りの日程での開催は不可能。となれば負のインパクトが大きいこと自体は決まっているわけで、あとはそれをどれだけ減殺するかの問題。決定は早いほどいい。「延期」という一時が決まったことでIFも社会も関係者も、そして選手も、ようやく前を向いて動き出すことができる。

五輪延期という大きな社会的事象については既に識者が大量に情報を発信しているので、ここでは敢えて狭く、柔道競技の代表選考について筆者の現状の見解を記すこととする。

まず。現時点での材料を以て「1年延期なら再選考が筋」という意見は拙速。その時点での最強選手を送り込むべきだと言いたくなる気持ちはわからないでもないが、これはいま置かれた現実を飛び越えた理想論であると評したい。状況を冷静に考えれば、通せる筋と通せない筋があるというものだ。

ものすごく簡単に言って。現代表はあくまで「海外勢への強さ」、具体的には「勝負どころの国際大会(=世界選手権)での強さ」を基準に選ばれている。いまからのスケジュールで、この基準で選手をフェアに競らせる場はない。1年延期なら再選考が筋という意見は、それが「通常の1年」であれば正論になり得る。しかし世界選手権の開催がなく、どころか国際大会自体の再開がいつになるのかすら見通せないこれからの1年は常とはロジックがまったく異なる。現体制が最大の評価軸にしてきた「海外選手全員がフォーカスしてくる真剣勝負の場での適性」を見極めなおす場など、もうないのだ。

もう1つ。現体制が五輪で勝つための切り札として用意した早期内定制度を切り口として考えたい。これは「五輪で勝つためには選手に4か月から5か月の準備期間を与えることがベスト」という強化陣の見解に基づく。IOCと安倍首相が同意した開催時期は「遅くても来年の夏まで」であり、ということは極端に言えば「来年の今頃」という可能性すらあるということ(7月下旬開幕がもっとも可能性が高いとは思うが)だ。ここから逆算して4か月か5か月の準備期間を置くとすると、11月には代表の再選考が終わっていなければいけないことになる。そこまでに、しかも世界選手権なしで、「海外選手全員がフォーカスしてくる真剣勝負の場での適性」をフェアな条件で見極め直すことなど不可能だ。無理をしてギリギリの時期まで最強選手を選ぶことにリソースを傾けるというのならこれぞまさに本末転倒であり、自己矛盾。これまで積み上げてきたことの否定に他ならない。

そもそも、現時点で新型コロナウイルスの蔓延収束(世界的×社会現象的に)は、まったくその時期が見通せていない。たとえばかつてWHOの天然痘根絶プログラムを率いた疫学の専門家の1人、ラリー・ブリリアントは「WIRED」のインタビュー(https://wired.jp/2020/03/25/coronavirus-interview-larry-brilliant-smallpox-epidemiologist/)で、「12~18か月以内にワクチンが完成すること」「人口の70~80パーセントが免疫を持っている状態」をひとつの基準に挙げているが、つまり現時点では、極端に言えば来年の五輪ギリギリまでワクチンが開発されず、国際大会が一切開催されない事態すら可能性として視野に入れなければいけないということだ。

それは筆者も感情的には、実力的に競っている階級は「選び直し」があっていいのではないかと思わないでもない。ターゲット選手がいる階級はその相手への適性を考慮する場があっても面白いのではないかとも考えないでもないし、1年延長に鑑み選手としてのピークを今一度精査すべきという気持ちがよぎらないでもない。しかし、では、内定の段階で1度「対海外選手の適性を基準として歴然とした差がついた」と判断したはずの選手たちについて、それも国際大会の開催自体がまったく見通せない状態で、いったいどこで、どう、論理的に、フェアに「この階級はスライド」「この階級は選び直し」という基準を設けるのか。まさに泥沼、非現実的だ。世界選手権(海外選手全員がフォーカスしてくる真剣勝負の場)での再評価の必要がない、これからの選考の可能性を残せる階級は、現時点で選抜体重別に勝負を持ち越している男子66kg級以外は理屈としてありえないのだ。これを覆すのは、これまで強化が営々積み上げて大事にしてきた「フェアネス」を自ら壊すことになる。

まとめると、先の日程がまったく見通せない現段階においては、

① これまでの方針(海外選手に強い選手を選ぶ、早期内定で調整期間を確保する)
② 現実 (国際大会が再開されるかどうか自体がまったく見通せない)

の2項の掛け合わせで検討するしかない。となれば少なくともこの段階で「1年延期なら再選考を」という意見はありえない。これまで積み上げてきた理屈との軋みが大きすぎる。

まずは五輪の開催時期の具体的決定を待つこと、IOCがIFに通達するであろうガイドラインを待つこと、IJFが作成する新たなスケジュールを待つことである。しかしこれに「そもそも感染収束の時期が見通せていない(そのスケジュール通りに大会が開催できるかどうかがわからない)」という項を掛け算すると、それでも再選考に含みを持たせることが果たして五輪で勝つための最上策になり得るのだろうか。現体制の拠りどころである「フェアネス」を満たすことになるのだろうか。

筆者の現時点での見解は以上である。感染収束が見通せない状況、正確な開催時期が確定していない現時点では、代表メンバーの維持を支持する。

※ eJudoメルマガ版3月25日掲載記事より転載・編集しています。

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