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【eJudo’s EYE】影浦心がリネール狩りの大金星も、代表争いへの影響は限定的/グランドスラム・パリ男子7階級評

(2020年2月19日)

※ eJudoメルマガ版2月17日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】影浦心がリネール狩りの大金星も、代表争いへの影響は限定的
グランドスラム・パリ男子7階級評
→男子7階級全試合結果(eJudoLITE)

文責:古田英毅

全試合結果をまとめたり見逃した予選ラウンドの試合を追いかけなおしたり(5面同時進行である。ご容赦願いたい)しているうちに、「グランドスラム・デュッセルドルフにおける1番手選手の大量欠場」という大事件が起こってしまった。不覚ながら呆然としているうちにヨーロッパオープン2大会も過ぎてしまい、ゆえにちょっとインパクトが薄れてしまったかもしれないが。代表争いを中心に、ここでグランドスラム・パリ各階級の評を記しておく。

まず男子から。優勝者は永山竜樹と橋本壮市の2人。大会オーバービューで示した通り、代表争いにおいて今大会で意味のある結果とは優勝のみ。ゆえにミッション達成に成功したのはこの2人のみと断じて間違いない。リネール狩りを果たした100kg超級の影浦心といえど残念ながらこれは例外ではない。永山と橋本はともにグランドスラム大阪を落としているゆえに1番手との「差を詰めた」とまでは言い難いが、為すべきことをしっかり為したといえる。

日本代表以外では、66kg級を制したアン・バウル(韓国)の背負投系ファイターとしての完成度の高さにあらためて衝撃を受けた。90kg級で頂点に立ったニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)のこれぞ本格派という柔道は痛快、100kg超級で優勝したヘンク・フロル(オランダ)の柔道選手としての奥深さも鳥肌ものだった。

■ 60kg級 永山竜樹しっかり優勝、人事を尽くして天命を待つ
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60kg級決勝、永山竜樹の見事な背負投「技有」

日本代表選手:永山竜樹(了徳寺大職) 優勝

永山、当たり前だが強い。ワリード・キア(フランス)の被り際を狙っての左袖釣込腰「技有」に、引き出しながらカマ足で入れた出足払「技有」といずれも出色。キム・ウォンジン(韓国)が得意の腰を切りながらの牽制を入れると瞬間に膝で太腿を持ち上げる小外掛で「技有」、さらに肘抜きの背負投「一本」とまったく相手にせず。唯一のピンチ、もっとも危うかったのは決勝、ヤゴ・アブラゼ(ロシア)得意の「加藤返し」からの裏固に捉えられた十数秒。あと数秒で何もかも失うところだったが、執念でこれを脱出すると、左背負投「技有」に裏投「技有」であっさり勝負を決めた。やはり地力では頭1つ抜けている。世界選手権やオリンピックレベルの調整をしなければ、海外選手が永山に勝つのはちょっと無理だなとまたもや思わされた大会であった。ターゲット選手であったシャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)が抜け、イェルドス・スメトフ(カザフスタン)との対戦がなかった大会ではあるが、「着実に、瑕疵なく仕事を果たした」。今回の永山の評価はこれに尽きる。人事は尽くし、あとは天命を待つのみ。

周辺トピックとしてはミフラジ・アックス(トルコ)のベスト4入りを称えたい。先日から再三話題に挙げている「サンボ式の谷落」のオリジンの一、フォロワーの73kg級マルティン・ホヤック(スロベニア)がグランプリ・テルアビブで2位入賞するなど先に名を揚げていたが、本家としての意地を見せた大会となった。

アブラゼはロシア代表にふさわしい強さを備えてきた。序列上はロベルト・ムシュビドバゼ(ロシア)がまだ上にカウントされている可能性もあるが、柔道単純ながら意外性や性格適性(巻き込みに偏執する姿には博打が出来るタイプの異常さを感じる)からもこの選手のほうが五輪では怖いと感じさせる。

■ 66kg級 アン・バウル完全復活、業師ぶりを存分に発揮
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融通無碍の戦いを見せたアン・バウル

日本代表選手:相田勇司(國學院大2年) 4回戦敗退

アン・バウル(韓国)が見事優勝。1月のグランプリ・テルアビブ大会に続きワールドツアー2連勝、完全復活である。勝ち上がりはマッテオ・メドヴェス(イタリア)からGS延長戦背負投「技有」、ムラード・チョパノフ(ロシア)からGS延長戦背負投「技有」、大一番の4回戦はデニス・ヴィエル(モルドバ)から鮮やかな出足払「技有」優勢、ダニエル・ペレス=ロマン(スペイン)から背負投「技有」優勢、ヨンドンペレンレイ・バスフー(モンゴル)からはGS延長戦大内刈「一本」、そして決勝の同国対決はキム・リマン(韓国)からGS延長戦「指導3」。

アンは強い。実は筆者はアンを世評よりも低く見積もっていたところがあるのだが、この2大会ですっかり見直した。組み手と担ぎ技の連動、担ぎ技の引き出しの多さと餌巻きの「作り」の巧さ、一瞬で相手を置き去りにする緩急とギリギリまでその「急」を溜める精神的な懐の深さ。この2大会ですっかりファンになってしまった。先日「日本勢最大の敵はロンバルド」と書いたばかりで恐縮なのだが、タイプ的にもやはりこの選手は非常に怖い。

それにしても、66kg級は本当に豊かになった。2017年と18年の不作っぷりが嘘のよう。タイプの違う濃い役者が各地域に揃い、誰が勝ってもおかしくない。しかも各人、異なる方向で着々強くなっている。やはり「五輪前の1年間」はそれまでと全く違う。日本の阿部一二三、このままでは「レベルが低い年だけ圧勝したチャンピオン」になりかねない。もう1度どうしても世界の頂点に立たねばだ。

キム・リマンは決勝の直接対決で敗れ終戦。アンは一発投げようというよりも、敢えて絶対に負けない柔道を繰り広げ、かつ勝利を収めたと思えた。キムは強いが、アンが強すぎるという印象。五輪代表は極めて高い確率でアン・バウルとなるであろう。

日本の新鋭・相田勇司は4回戦でバルチ・シュマイロフ(イスラエル)にGS延長戦隅返「技有」を食って敗退。大阪の出来からすればベスト4すら想起される組み合わせであるが、百戦錬磨のシュマイロフは一筋縄ではいかなかった。いかに強くとも、新鋭に続けて勝たせない。今の66kg級のレベルの高さを感じさせる結果だった。

最後にもう1人、ゲオルギー・ザンタライア(ウクライナ)について。この日は腕挫十字固を極めに極め捲って3位入賞。準々決勝でシュマイロフの半端な「出し投げ」にすぐさま反応、腕挫手固から肘を極めたまま腕挫十字固に繋いだ暴虐ぶりは圧巻であった。エネルギーと攻撃意欲が体から漏れ出ている。4回戦で極められたボジダル・テメルコフ(ブルガリア)などは悲鳴を上げんばかり、そんなに叩かなくてもいいのにという回数畳を叩いて「早く止めてくれ!」とアピールしていた。無理もない。ザンタライアにあの勢いで極められたら、誰だって恐怖する。いずれザンタライア同様、この五輪直前に来ての各選手の成長ぶりは凄い。五輪後2年の焼け野原状態を考えるに、死んだふりをしていた選手も多いであろうこの階級。この先ひときわ目が離せない。

■ 73kg級 橋本壮市がワールドマスターズに続くV、格の違い見せつける
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橋本壮市は圧勝、格が一段違った。

日本代表選手:橋本壮市(パーク24) 優勝、海老沼匡(パーク24) 5位

危ない場面一切なし。予選ラウンド序盤のガンバータル・オドバヤル(モンゴル)戦が対戦シナリオ上の1つ山場であったが、GS延長戦の大内刈「技有」で退け、以降は余裕の進退。得意の片手、単に切ったり切られたりするのではなくほぼ必ず片側を持ち返す「交換」を繰り返すうちに陣地も形も橋本のものになっていく。4回戦のマーク・フリストフ(ブルガリア)戦はこの片手交換から「橋本グリップ」を作り出すなり余裕の片手袖釣込腰(橋本スペシャル)「技有」、世界選手権以降メキメキ売り出し中のベフルジ・ホジャゾダ(タジキスタン)には本戦時間内に「指導」3つを押し付けて圧勝、海老沼匡を倒したビラル・ジログル(トルコ)にも「指導3」で勝利し、決勝はジャンサイ・スマグロフ(カザフスタン)の崩れ際を立たせて押し込み隅落「技有」で勝負を決めた。あらためて、橋本は強い。格の違う戦いぶりだった。ワールドマスターズに続く2連勝。グランドスラム大阪のV逸という決定的瑕疵がなんとも悔やまれるが、現時点で出来ることはすべて為したという形。

海老沼匡は素晴らしい投技を連発、相変わらず「魅せる」柔道ということでは随一であったが、準々決勝のビラル・ジログル(トルコ)戦、3位決定戦のツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)戦ともに少々厳しい「指導」を受けて、悔しい形の連敗。最終結果は5位であった。

グランプリ・テルアビブで素晴らしいパフォーマンスを披露したファビオ・バジーレ(イタリア)は4回戦でヒクマティロフ・ツラエフ(ウズベキスタン)に両袖の大外刈「技有」を食って敗退。随所で光る動きは見せていたが、いったいに集中力を欠いた進退。乗り切れないという印象で、本調子ではなかった。

同時出場のモンゴル勢は前述の通りガンバータルが橋本に予選ラウンドで敗退、一方のツォグトバータルは海老沼に駆って3位。じわりと差が広がったという印象だ。

■ 81kg級 カッス優勝、藤原は再びボルタボエフに屈す
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マティアス・カッスとシャロフィディン・ボルタボエフの決勝戦。

日本代表選手:藤原崇太郎(日本体育大3年) 3位

優勝こそ東京世界選手権の銀メダリスト、12月のワールドマスターズを制したマティアス・カッス(ベルギー)が浚ったが、個人的には今大会の主役として銀メダルのシャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)を挙げておきたい。準々決勝では東京世界選手権の覇者サギ・ムキ(イスラエル)をGS延長戦の大外刈「一本」に沈め、準決勝では世界選手権に続いて藤原崇太郎に「指導3」で勝利と大物2人を立て続けに狩った。ムキを沈めた大外刈は体落から振り向きざまに放ったセンスと勇気溢れる素晴らしい一撃。最後は力尽き、カッスの巧さにGS延長戦「指導3」で敗れたが十二分に力を見せた大会だった。ドワーフ然とした風貌と低い重心が印象的、強い体幹で相手を弾き返し、しかもここぞの勝負勘は抜群。藤原は昨年の世界選手権で裏投を切り返されての大内刈「技有」でこの選手に敗れているが、今にして思えば、初戦で戦うには少々きつい相手であったことは間違いない。

さて、優勝したカッス。毎度違うモードを持ち込み、必ず技術的な向上を見せる選手だが、今回の流行りは巴投から繋いでの腕挫十字固。アバス・アジゾフ(ロシア)にアルファ=ウマ・ジャロ(フランス)といずれも格下相手ではあるが、この技で2つの「一本」をマークしている(タイムアップと同時のため認められなかったが、オトゴンバータル・ウーガンバータルからもこの技で「参った」を引き出しているから実は実質3つである)。怪物揃いの81kg級にあってフィジカル的に飛びぬけたもののないカッスがいかに上位常連として座り続けているか、その生存戦略が垣間見えた大会であった。

藤原は残念ながらミッション達成ならず。3位は確保したが、優勝出来ず、かつ同じ選手に2度負けるという内容面でのマイナスも見せてしまった。第1候補永瀬貴規の出来に、その生き残りの如何が掛かる「他力」状態だ。

■ 90kg級 シェラザディシヴィリ鮮やか優勝、長澤憲大は決勝で苦杯
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決勝、ニコロス・シェラザディシヴィリの豪快な釣込腰「一本」

日本代表選手:長澤憲大(パーク24) 2位、村尾三四郎(東海大1年) 3回戦敗退

2018年の世界王者ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)がワールドツアー7度目の優勝。3回戦でダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)を「指導3」で下すと、大山場の準々決勝では過去3敗と鬼門のアクセル・クレルジェ(フランス)を背負投「技有」で突破(この技を得意の寝技に繋がんとクレルジェが隅返に切り返し、あくまで退かないシェラザディシヴィリが転がりながら投げ切った攻防は素晴らしくエキサイティングだった)。準決勝はママダリ・メディエフ(アゼルバイジャン)を小外掛「一本」、決勝は長澤憲大を釣込腰「一本」で破った。伸びやかさと思い切り、これぞシェラザディシヴィリというパフォーマンスを見せての戴冠だった。実はボボノフ戦ではウズベキスタン選手得意の左右スイッチ背負投に引っかかり「技有」失陥、負け寸前にまで追い込まれているのだが、残り4秒で「指導3」を得て逆転勝ちを収めている。このあたりの勝負強さもさすがは金メダル経験者。

一癖も二癖もある勝負師がずらり居並ぶ90kg級で、シェラザディシヴィリのような「柔道自体が強い」本格派タイプが勝ち抜くには、単に強さ比べで勝るに倍する力量が必要。あらためてそのスケール感の高さを見せつけた大会となった。

長澤憲大はまことに惜しかった。準々決勝でイワン=フェリペ・シルバ=モラレス(キューバ)、準決勝でノエル・ファンテンド(オランダ)と、いずれも「指導3」による勝利ではあるが挙げた首級だけなら世界王者レベル。それでも「ミッション達成に至らず」といったん総括してしまうしかない、五輪代表争いという戦いの厳しさをあらためて感じざるを得ない。ただし90kg級は混戦ゆえ、デュッセルドルフ大会における向翔一郎の振る舞い次第では少々揉める可能性もあるとみる。長澤が一段逞しくなっていること自体は、間違いない。

村尾三四郎は2試合を素晴らしい内容で勝ち上がりながら、3回戦でママダリ・メディエフ(アゼルバイジャン)を2度大外刈で投げつけながらポイントが入らず(2度とも「技有」があっておかしくないし、1度目は完全にポイント相当と思った)、終盤背負投で転がされて「技有」失陥。これで終戦となった。メディエフを真っ向大外刈で、それも立て続けに投げつけるのだからそれだけで力は間違いなく階級上位。ただし前述の通り、本格派タイプが90kg級で生き残るには単に強いだけでなく、単なる背比べを超えた圧倒的な力量が必要。その域にはいまだ足りずと捉えておくしかない。

■ 100kg級 羽賀龍之介、飯田健太郎ともに入賞逃す
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100kg級決勝は所謂「頭突っ込み」のダイレクト反則で決着した。

日本代表選手:羽賀龍之介(旭化成) 3回戦敗退、飯田健太郎(国士舘大3年) 2回戦敗退

個人的な最大トピックは、グランドスラム大阪で復活Vを遂げた羽賀龍之介の早期敗退。1回戦でセドリック・オリヴァ(フランス)を内股「一本」、2回戦でもエルマー・ガシモフ(アゼルバイジャン)に横落「技有」を奪われながら内股「一本」。いずれも全盛期を、あるいは井上康生監督の現役時代を彷彿とさせるこれぞ羽賀という素晴らしい一撃であった。ゆえに、3回戦のシャディー・エルナハス(カナダ)戦におけるGS延長戦の外巻込「技有」失陥はショックだった。とはいえこの試合、中途で苦笑いを浮かべたり、相手の掛け逃げを両手を広げてアピールしたり、少々怪しい「フラグ」は立っていた。いずれも羽賀が苦戦時に見せる悪い卦。技術においては羽賀のほうがはるかにレベルが上だが、若く元気の良いエルナハス、それなりにやりにくかったのだろう。本戦では双方「指導2」ずつ失陥も、水面下でエルナハスは「勝てる」との手ごたえを得ていたはず。残念ながらノンエクスキューズだ。

飯田は評価の俎上に上げること自体が難しい。初戦でフランス4番手の27歳、ユニバーシアードで2位2回の実績あるも主戦場はコンチネンタルオープンでツアーでは7位が最高成績というクレモン・デルヴェー(フランス)に横から抱き着かれると虚を突かれたのか棒立ち。ここで失った谷落「技有」を取り返せずに終戦となった。残念ながらはっきり、ミッション失敗である。

優勝は持ち前の硬質な強さを発揮したペテル・パルチク(イスラエル)。グランプリ・テルアビブに続く2大会連続Vである。ここではパルチクの好調ぶりはもちろんのこと、決勝、ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)が所謂「頭突っ込み」で反則負けしたシーンを記憶しておきたい。日本国内なら確実に一発アウトであるこの事例、昨年までのIJF主催大会では見逃されることが実に多かった。今回はほとんど議論の余地なしという体で、主審は毅然と「反則負け」を宣告。その判定まことに正当、パリ大会最終日の決勝という誰もが注目する晴れ舞台でこれが宣告された意味は重い。これからも頭を支点にして投げるような技はルール通りにしっかり「反則負け」が宣せられるものと考えておきたい。

面白かった試合として、リパルテリアニ対アルマン・アダミアン(ロシア、この日は世界王者ジョルジ・フォンセカを横落「技有」で破っている)の準決勝を挙げておきたい。ラベルは「加藤返し合戦」。60kg級のヤゴ・アブラゼを始めロシア勢がこのところ多用する「加藤返し」であるが、まずこれを仕掛けたアダミアンが首尾よく裏固に抑え込む。しかし、SuperstarOnlineで「加藤返し」を講義するほどこの技を自家薬籠中の物としているリパルテリアニにこれを仕掛けるのは無謀。返しやすいが、極めが甘いと返されやすい。この技の特性を存分に知るリパルテリアニは後転する形でこれを抜け出すと絡まれた腕を極め返し、ひっくり返して逆に裏固で抑え込む。これで抑え切って「一本」。横たわる相手を引き起こして健闘を称えると、観客席に手を振って大歓声に応えるリパルテリアニ、引き起こされたその姿勢のまま膝を着いてしばし悔しさに動けぬアダミアン。日本発祥の技術でロシアとジョージアのトップ選手が争う(いってしまえば柔道競技自体がそうなのだが)、まことに興味深いシーンだった。

■ 100kg超級 影浦歴史に残る金星も、代表争いへの影響は限定的
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テディ・リネールを撃破。金星を挙げた影浦心。

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決勝、ヘンク・フロルの素晴らしい小内刈「一本」

日本代表選手:影浦心(日本中央競馬会) 2位

この階級については「リネール評」という形で既にかなり書き込んだので、そちらを参照頂いたうえでの、以下は代表争いという観点からの補完という形になる。影浦のリネール打倒は歴史に残る勝利であったが、代表争いに与える影響は限定的だ。理由は大小2つ。小さい理由は、前述の「リネール評」で書かせて頂いた通りリネールの状態があまりに悪く、影浦レベルの選手であれば勝利は十分現実的なものであったこと。大きな理由は、他でもない。影浦が唯一最大のミッションである優勝に失敗したからである。しかも負けた相手はヘンク・フロル(オランダ)。これまで黒星を喫したオール・サッソン(イスラエル・0勝2敗)、ルカシュ・クルパレク(チェコ、1勝のあと直近3戦で全敗)、タメルラン・バシャエフ(ロシア、1勝1敗)、グラム・ツシシヴィリ(ジョージア・1勝1敗)に連なる「アスリート型」の選手である。本格派タイプへの適性というアピールポイントをリネール撃破という最高の形で証明した一方、「アスリートタイプに弱い」という弱点をもっとも悪い形で上積みしてしまったということになる。

影浦はこれで、実は2018年8月のグランプリ・ブダペスト以降、ツアー7大会に出場してノンタイトルである。1年半国際大会に派遣されつづけて優勝のない選手が五輪代表を争うことは、現行制度化においてはちょっと考えがたい。また、影浦は今大会の決勝、あるいは昨年の全日本柔道選手権準々決勝の加藤博剛戦、あるいは昨年11月のグランドスラム大阪、12月のワールドマスターズにおけるルカシュ・クルパレク戦など、人生掛かった大一番をことごとく落としている。これ以上ない「博打」でもある五輪に送り込む選手を選ぶにあたって、このあたりを見逃す強化ではない。

影浦は間違いなく頂点に立つ力と柔道の質を兼ね備えた選手であるが、現行制度下においては大きく離された序列2番手であり、以後の逆転に必要なだけの成績を積めていない。リネール撃破の功はまさに激賞さるるべきだが、この事実ははっきり認識しておくべきだろう。リネール撃破の功はまさに激賞さるるべきだが、この事実ははっきり認識しておくべきだろう。代表争いが揺れたのは、影浦がリネールを倒してから決勝が終わるまでの数時間のみ。影浦の優勝濃厚と観測されたこの時間帯、強化サイドは色々なシナリオに思いを巡らせたことであろう。この1年間、もっとも代表争いの行方が揺れた数時間であったことは間違いない。まさに「一夜の夢」であった。

というわけで優勝は34歳になったヘンク・フロル。影浦に対し、左足を意識させながら襲い掛かった右小内刈「一本」は作りといいタイミングといい乗り込みの決めの巧さといい、まさに大会ベスト一本級の一撃だった。今度は足技。いったいこの人はいつまで成長を続けるのだろうか。現状のオランダ1番手は東京世界選手権3位の人気者ロイ・メイヤーだが、彼は良くても悪くても常に全力投球で「底を見せながら」戦うタイプ。フロルのような奥深さはない。ほぼ間違いなく五輪はメイヤーが出ると予想されるが、日本勢にとって怖いのはどう考えてもフロル。この国の代表争いからも、目が離せなくなってきた。

※ eJudoメルマガ版2月17日掲載記事より転載・編集しています。

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