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【ROAD TO 高校選手権】【レポート】第42回全国高等学校柔道選手権大会神奈川県予選・男子団体戦マッチレポート

(2020年1月26日)

※ eJudoメルマガ版1月26日掲載記事より転載・編集しています。
第42回全国高等学校柔道選手権大会神奈川県予選・男子団体戦レポート
第42回全国高等学校柔道選手権大会(3月21日~22日・ALSOKぐんまアリーナ)の神奈川県予選が1月25日、神奈川県立武道館(横浜市)で行われ、5人制勝ち抜き制で行われる男子団体戦は東海大相模高が優勝した。同校の優勝は5年ぶり24度目。

戦評および記録、東海大相模高・水落健太監督のコメントは下記。

取材・撮影:eJudo編集部
文責:古田英毅

■ 戦評
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2回戦、東海大相模の先鋒近藤那生樹が法政二高の副将高山から袖釣込腰「一本」

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準々決勝、尼田光志朗が相洋高の山口由馬から大外刈「一本」

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準決勝、天野拓斗が慶應義塾高の山田陸斗から大内刈「一本」

【決勝まで】

東海大相模高と桐蔭学園高、2強がしっかり決勝まで勝ち上がった。

東海大相模は順風満帆。1回戦は鶴見大付高を5人残しで下し、2回戦の法政二高戦では12月末の若潮杯で膝を負傷し戦列を離れていた近藤那生樹が先鋒で出場。快癒を内容で示さんとばかりに内股、袖釣込腰、大外刈と多彩な技で「一本」の山を築きあっという間に全員を抜き去る。準々決勝の相洋高戦も尼田光志朗が4勝1敗、最後は次鋒で準備していたエース菅原光輝が内股と崩上四方固の合技「一本」で佐藤龍道を仕留めて、四人残しの大差で勝ち抜け決定。

慶応義塾高との準決勝ではいったん近藤を外し、先鋒に5番手候補の1年生、個人戦81kg級県代表の天野開斗を起用。線の細い天野はよく鍛えられて体格のある慶應義塾の選手に組み負ける場面も多かったが、センスの良さとあくまで攻撃に繋ぐ行動論理の良さを源泉に次々投げを決める。先鋒山田陸斗から大内刈「技有」に続き1分12秒大内刈「一本」、次鋒小川諒輔には内股から連絡しての小内刈「技有」に前技のフェイントを効かせた小外刈「一本」、60kg級代表の藤井大志からも手堅く「技有」を奪って3人抜きを果たす。副将澤田康太からも開始早々背負投で「技有」を得るが、ここで力が尽き、終盤場外で3つ目の「指導」を失って敗戦。しかしここから次鋒工藤海人が畳に残った澤田から開始30秒払巻込「一本」、さらに大将松永蓮太郎を2度投げて2分29秒大内刈と払巻込の合技「一本」でフィニッシュ。スコア四人残しの大差で勝負を決めた。

負傷の近藤を序盤戦で乗せ、決戦直前の準決勝は補欠の天野の複数枚抜きで主力の試合数を減らして乗り切り、かつ大駒菅原を含む決戦兵力ほぼ全員が試合をこなしている。理想的な形での決勝進出である。

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2回戦、負傷明けの中野智博が逗子開成高戦を1人で賄う。

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準々決勝、桐蔭学園の副将持田龍己が日大高・吉田将人から内股「一本」

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準決勝、桐蔭学園は副将持田が横浜高・田所力輝斗に小外掛「技有」を奪われ痛い黒星。

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緊急出動した大将中野が残り2人を賄う。写真は大将谷田龍生サンティアゴから体落「一本」

一方の桐蔭学園は1回戦を無敗で突破すると、2回戦の逗子開成高戦では先鋒に中野智博を起用。12月末の松尾三郎杯で左肩を負傷し戦線離脱、2週間前の個人戦も欠場していたエースの復帰戦をこの段階で組んだ。逗子開成の選手登録は3名、決勝で複数枚抜きの使命が控える中野を1度「動かしておく」にはこの段階での出動が適切と踏んでの策。中野は自らの仕上がりを確かめるかのように、内股「一本」、体落「一本」、一本背負投用に腕を固めた大外刈「一本」と得意技を次々披露して3連勝。その動きと表情には精神的にも肉体的にも充実が感じられる。

桐蔭学園は続く準々決勝、中野を大将に置いて臨んだ日大高戦で副将渡辺賢が大将吉田将人に裏投と背負投の合技「一本」で敗れる不首尾があったが、結果的に黒星はこの1試合のみ。これを受けた副将持田龍己が出動するとあっという間の内股「一本」で試合を終わらせ、スコア二人残しを以て準決勝進出決定。

しかし準決勝、横浜高戦は難しい試合となる。先鋒秦崚馬が本田和也と引き分けたところまでは良かったが、次鋒戦の巨漢対決で佐藤琉絢が内田大翔との組み合いから抜け出せず「指導1」対「指導3」の反則負けで先制点献上。中堅渡辺が畳に残った内田を引き分けで止め、続いて副将持田龍己が好選手玉代勢将斗の巴投の掛け潰れを突いての崩上四方固「技有」で下して、ここでようやくスコアをタイに戻す。しかし続く副将同士の対決、持田は田所力輝斗を相手に内股で攻めこまれると、続いて襲った小外掛に捕まって痛恨の「技有」失陥。そのまま横四方固に抑え込まれて1分48秒一本負けを喫してしまう。ここでスコアはまたもや1人差ビハインド。

桐蔭学園は大将中野智博が緊急出動、畳に残った田所からまずあっという間に左内股「技有」を奪う。続いて「指導」2つをもぎ取ると、1分8秒には左内股から左体落に繋ぐ上手い連携。中野の特徴である振り落とす崩しが良く効いた一撃、田所大きく宙を待って中野の足元に落下「一本」。続く大将同士の対決、中野は谷田龍生サンティアゴと対峙。距離を取って守らんとする相手に組み付き、無理に間合いを詰めずに前に引きずって歩かせ続ける。谷田たまらず潰れること2度、主審これにいずれも偽装攻撃の「指導」を宣告。勝利をほぼ確定させた中野は2分21秒にブンと左体落、またもや振り落とす崩しを良く効かせた一撃を見舞う。作用足の引っ掛かりなど関係なく、ほとんど浮落の形で谷田は宙を舞い、次いで鋭角に畳に叩きつけられて「一本」。スコアは一人残し、ここで桐蔭学園の決勝進出が決まった。

桐蔭学園、総体戦力の薄さを考えれば決勝までよく勝ち上がったとは言えるが、たった1つの外せないミッションである「中野温存」は実現できず。東海大相模との決戦直前に2試合の連戦を強いてしまった。中野に次ぐ戦力で、来る東海大相模戦では貴重な止め役になるはずの持田がこの段階で失点するという不首尾も演じ、相手方に与えるプレッシャーも減じた感がある。順風満帆の東海大相模とは対照的な、苦しい勝ち上がりである。

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桐蔭学園は先鋒のエース中野智博を突っ込む積極策

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恒例の円陣を組み、5年ぶりの優勝に向けて気合いを入れる東海大相模の面々。

【決勝】

桐蔭学園高 - 東海大相模高
(先)中野智博 - 近藤那生樹(先)
(次)佐藤琉絢 - 金子竜士(次)
(中)平野蒼空 - 工藤海人(中)
(副)渡辺賢 - 尼田光志朗(副)
(大)持田龍己 - 菅原光輝(大)

桐蔭学園が賭けに出た。唯一と言っていい、そして今代の高校生屈指の打撃力である中野を先鋒に投入。続く戦力である持田龍己を後詰として大将に配した。間の3枚は招待試合シリーズと個人戦の出来を見る限り、到底今代の高校柔道界の主役・東海大相模相手に伍して戦えるような戦力ではない。下手をすると中3枚はフリーパス。超セパレート陣形である。

バックグラウンドなしの1対1の対決ならば中野はもはや今代の高校生にはほぼ負けないはず、この試合における純実力的な敵は全日本カデ90kg超級王者の菅原光輝のみ。相手のオーダー順どうあれ、中野で、少なくとも菅原と戦うまですべての選手を抜くしか勝つ方法はないと考えての特攻策と読める。では菅原を相手にどう試合を終わらせるのかとまで考えると一抹甘さは否めない(中野が菅原までたどり着けなかった場合の二の矢、三の矢の構えが見えない)が、周辺戦力極めて薄い中、布陣自体の思い切りの良さで力以上のものを出そうという意欲溢れるオーダーだ。

一方の東海大相模は、この桐蔭学園の奇襲をありうる選択として十分考えに入れていた模様。重石役の工藤を後衛ではなく前出しして配置、展開分岐の番人として中堅に置いた。前衛には攻撃型の近藤と金子を突っ込み、大将にはエース菅原を配するという陣形。

いかな中野といえども負傷明けで、かつ直前に2連戦を終えたばかりの体力で今代の高校柔道界の本命・東海大相模を1人で抜き去ることは至難の業。ただし昨夏来の中野の異様な充実と、「相模-桐蔭」というこの伝統の一戦が生み出す特殊な磁場、そしてこの磁場に4年連続で桐蔭学園が勝利しているという来歴の電流をプラスすれば、勝負はどう転がるかはわからない。理想のシナリオは菅原までたどり着き、たとえ1度敗れても残る4枚で削りに削って最後は持田で引き分け、かつて勝利歴がある中野-菅原の代表戦カードに望みを託すこと。極めて細い道ながら、ベンチはこれがもっとも可能性のあるシナリオと踏んだという格好だ。

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先鋒戦、中野智博が近藤那生樹を左一本背負投で攻める。

先鋒戦は中野智博、近藤那生樹ともに左組みのケンカ四つ。中野が寄り、体格に劣る近藤がその圧をゆらめくようにかわし、いなしながらチャンスを探す形で試合が進む。しかし52秒、主審はこの早い段階で近藤に「取り組まない」咎による「指導」を宣告。勝負どころと見た中野はここで加速、左一本背負投を2連発すると続いて片襟を差して上下にあおり、さらに払巻込を仕掛け、奥襟を叩いてラッシュ。1分34秒、主審は中野の攻勢を認めて近藤に「指導2」付与。

近藤は立ち位置をずらして小内刈、なんとか一撃見舞う隙を見出さんとするが、中野は肩で息をしながらも前進行動を止めない。2分22秒に近藤が場外に押し出されると主審は映像確認を要求。結果、ここで近藤に場外の「指導3」が与えられて勝敗が決した。

中野先鋒という特異な状況、そしてこの特攻策を目の当たりにした会場の盛り上がりに背を押されたか「指導」付与の基準がこれまでの試合に比べて若干厳しく感じられたが、勝敗自体は妥当。中野がまず1人を抜いて桐蔭学園が先制。

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第2試合、中野が金子竜士から一本背負投「技有」

第2試合は畳に残った中野に金子竜士がマッチアップ。金子は相四つ横変形に組み合って位置をずらし、左小内刈の形で足元を蹴り崩して手堅く試合を進める。1分12秒には双方に消極的との咎で「指導」。中野は金子が試合を壊しにこないとみるやここで加速、まず左一本背負投を放ち、これをきっかけに奥襟を掴んでがっちり組み勝ち、頭を下げさせてから再度の左一本背負投に飛び込む。打点の低いこの技に金子一瞬で頭を持っていかれ、1分56秒「技有」。ビハインドを負った金子は、しかし気落ちせず。こうなれば使命は中野の体力を削ることのみと割り切り、むしろその攻撃は思い切りを増す。左内股に左小内刈と繋ぎ、2分22秒には良いタイミングで左大内刈。これは中野が支釣込足に切り返して潰し、直後同じ形の投げ合いがもう一合。しかし互いに取り切るには至らずこのまま4分間が終了。中野が「技有」優勢で勝利して2人抜きを果たす。中野さすがに息が切れ、肩を揺らして服装を正す。

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第3試合、工藤海人が小外掛「一本」。中野は2勝1敗で下がることとなる。

そして迎えた第3試合は畳に残った中野が左、東海大相模の中堅工藤海人が右組みのケンカ四つ。引き手争いの中で工藤が前に出、37秒中野に「指導」。奮起した中野が前に出ると工藤はコーナーに詰まってしまうが、ここで軽挙しては相手の思うつぼとばかりに敢えて動きを少なく、じっくり我慢してこの場面をやり過ごす。1分22秒には工藤にも「指導」。

その直後。「指導」差で追いついた中野が一息つくであろう、そのエアポケットを見透かしたかのように工藤が抱き着きの右小外掛。受けの強い中野が一瞬で崩落、工藤しっかり胸を合わせて投げ切り文句なしの「一本」。この「一本」の意味を知る場内はまさに、どよめく。

2人を抜いた中野、ここで敗退。桐蔭学園の特攻策は崩れ去り、スコアは1つ詰まって桐蔭学園の1人差リードに変わる。

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工藤が佐藤琉絢から払巻込「一本」。これでスコアはタイとなる。

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中堅同士の第5試合、桐蔭学園の平野蒼空が工藤海人から殊勲の「技有」獲得。

第4試合は畳に残った工藤、桐蔭学園の次鋒佐藤琉絢ともに右組みの相四つ。佐藤圧を掛けんとにじり寄るが、1分16秒に工藤が右払巻込を放つともろくも一回転。主審いったんは「技有」を宣するが、映像チェックが入ってこれは「一本」に訂正となる。工藤が2人を抜き、東海大相模はここで追いつく。

中堅同士の対決はここまで2人を抜いた工藤が右、桐蔭学園の平野蒼空が左組みのケンカ四つ。線の細い平野、工藤の圧力に窮して組み手を切るなり潰れてしまい、24秒偽装攻撃の「指導」失陥。平野は左大内刈に左背負投と見せるがいずれも工藤は返し、あるいは止めて動ぜず。しかし息が切れ始めたか動きが止まり、再び左背負投の侵入を許したところで工藤にも「指導」。それでも体格とここまでの試合展開を考える限り少なくとも工藤の負けだけはないかと思われた。
この様相が試合時間3分に迫らんとするところで急転。平野がヒラリと左払腰の形で作用足を振って牽制すると工藤思わずこれに思い切った右小外刈で反応。瞬間平野これを待っていたかのように鋭い動きで透かし、一本足となった工藤を振り向きざまに叩き落として2分56秒なんと「技有」獲得。

体格差、そして実力差を考えれば予想しえなかった、今後の試合全体の展望を揺るがしかねないビッグポイント。工藤前に出るがもはや具体的な作りが出来る体力は残っておらず、残り3秒に防御姿勢となった平野に「指導」が与えられのみでタイムアップ。平野が殊勲の1勝、再び桐蔭学園が1人差をリードする。

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第6試合、東海大相模の副将尼田光志朗が平野蒼空から小外刈「技有」

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渡辺賢と尼田光志朗による副将対決

第6試合は畳に残った桐蔭学園の中堅平野に、東海大相模の副将尼田光志朗がマッチアップ。平野いきなり思い切った大内刈、狙いすました尼田が体を捨てながら大内返で放るが、これは尼田が背中を着いてからの技となってノーポイント。少々試合が荒れ始めた感あり。尼田は前へ、平野は左背負投を試みるも尼田がっちり止めて揺るがず。1分32秒、平野が背負投に入らんとしたところに尼田が力強く小外刈を合わせて手堅く「技有」確保。そのまま横四方固に抑え込んで合技「一本」。尼田、実力差はあったが、場が荒れ始めた状態で迎えるこの試合は難しかったはず。しっかり流れを引き戻して仕事を果たした形。スコアは再びタイに戻る。

副将同士の対戦となった第7試合は桐蔭学園の渡辺が左、尼田が右組みのケンカ四つ。渡辺に1分7秒消極的の「指導」。尼田の体力が減じた終盤に渡辺が左大外刈から背負投とよく攻めるが、尼田は片手の右内股に潰れた3分32秒に「指導」を失ったものの大過なく試合を進める。尼田が敢えて無理をせず、しかし渡辺に突破できるだけの力なく、という形でこの試合は引き分け。試合は大将同士の対決に持ち込まれる。

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大将戦、菅原光輝が持田龍己を内股で高々跳ね上げる。

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着地から押し込んで「技有」

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合技「一本」、東海大相模5年ぶりの優勝が決まった。

大将対決は桐蔭学園の持田龍己が左、東海大相模のエース菅原光輝が右組みのケンカ四つ。菅原右小内刈の形で持田の足元を蹴り崩し、さらに身を翻し、ステップを切っての右小内刈で今度は正面から刈りこんでたたらを踏ませる。足技の得意な持田に対し、逆にまず足技で攻めこんで柔道の軸を定めさせない素晴らしい立ち上がり。続いて右小内刈から右内股、さらに思い切って右大外刈で投げに出る好組み立ても見せて快走。なすすべない持田に1分0秒には「指導」が与えられる。続いて菅原が肩車に飛び込むがこれは浅く、持田が絞めを狙って「待て」。

直後の1分20秒、菅原両襟を掴んで持田の頭を下げさせると、体を仰け反らせながら唸る勢いで右内股。持田右手を突いて耐えようとするが頭を制され、かつ足を高く揚げられてその体勢は一瞬垂直。肩を着いたところに菅原回旋を呉れながら体を預けて押し込み、これは「技有」。菅原動きを止めずに横四方固に抑え込んで合技「一本」。満を持して登場した菅原がしっかりエースの仕事を果たし、ここで東海大相模5年ぶりの優勝が決まった。

東海大相模高〇一人残し△桐蔭学園高
(先)近藤那生樹△反則[指導3](2:22)〇中野智博(先)
(次)金子竜士△優勢[技有・一本背負投]〇中野智博(先)
(中)工藤海人〇小外刈(1:31)△中野智博(先)
(中)工藤海人〇払巻込(1:17)△佐藤琉絢(次)
(中)工藤海人△優勢[技有・隅落]〇平野蒼空(中)
(副)尼田光志朗〇合技[小外刈・横四方固](1:36)△平野蒼空(中)
(副)尼田光志朗×引分×渡辺賢(副)
(大)菅原光輝〇合技[内股・横四方固](1:38)△持田龍己(大)

東海大相模が戦力一杯使い切って、最後は大駒・菅原でしっかり勝負を決めたという戦い。オーダー配置唯一最大の変数は敵方のワントップ・中野の位置であったが、もし中野が後衛で来たときには近藤と金子の攻撃型2枚で枚数をしっかり減らす、もし前で来た場合には中野の体力を削った上で中堅までで止める、との2種類のシナリオに対応した「中堅・工藤」の配置が功を奏した形。桐蔭学園の平野と渡辺の頑張りで大将戦まで勝負を持ち込まれたが、菅原が最後に控えていること、既に準決勝で敗戦を喫している持田が、体力十分で登場する菅原と引き分けることが実力的に難しいであろうことを考えれば、まずまず想定内に収まった試合かと思われる。

桐蔭学園。先鋒・中野は十分あり得る策であり、かつ「菅原まで抜き切る」ことも決して非現実過ぎるシナリオというわけではなかったのだが、中野が直前の準決勝で最終2戦の出動を強いられていたことがまず痛かった。間に女子の決勝3試合を挟んだとはいえ中野は実質5連戦、負傷明けのコンディションでこの負担はかなり大きかったと考える。対相模戦1試合においては桐蔭の周辺戦力もよく頑張っており、この点「相模-桐蔭」の伝統の一戦における磁場は健在であった。ただし今代の戦力差を考えれば、決勝で頑張っただけでは足りなかったということだ。中野がフル稼働せねばならぬ決勝が控えているのであれば、準決勝は石にかじりついてでも中野を取り置いたまま試合を終わらせるべきであった。

桐蔭学園としては、勝ち切るためには最終的に中野が菅原を倒すしかない。ただし、「周囲の戦力を剥がして菅原を引っ張り出す」というパートをも中野が負わねばならなかったこのオーダーは、さすがにきつかった。試合が終わってみれば、「周辺戦力がこれだけ頑張れるのだから、中野を後に配置して他で枚数を削れば良かったのではないか」と見ることも出来るが、つまりはベンチが周辺戦力に対してそこまでの信頼を置けなかったということだろう。前か、後ろに周辺戦力をまとめる以外にブロックとしての戦略的価値がないと判断し、その二択の中で「後ろ」を選んだ形になったと解釈する。周囲に与える仕事として、少なくともミッションの入り口に辿り着くことは確実な「中野が戦えるところまで相手の枚数を削る」よりも、中野にそもそものミッションスタートの成否までを預ける「最大人数で菅原に当たる」ことを採った、良く言えば中野を信じ切った、言い方を変えればそこまで中野に頼るほか道はないと割り切ったオーダーであったと言える。

というわけで「中野先鋒」。そもそもこの奇策を取らざるを得ないところまで指揮官を追い込んだ戦力差を考えれば、結果としての勝敗はやはり妥当であった。大駒対決が起こりやすい抜き試合でありながら、この代の全国中学校大会最重量級の決勝を争った菅原-中野のエース対決が見られなかったことは残念であるが、それだけ戦力差、というよりも双方の「想定戦力」に差があったということと考えるしかない。

いずれ、もともとの双方の戦力を考えれば想像以上に盛り上がった試合。5年ぶりの優勝というプレッシャーに打ち勝った東海大相模、中野1枚をテコに大健闘した桐蔭学園、双方の健闘をたたえたい。

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優勝の東海大相模高

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5年ぶりの優勝を果たした東海大相模高。優勝決定直後、水落健太監督の訓示。

【入賞者】
(エントリー32校)
優 勝:東海大相模高
準優勝:桐蔭学園高
第三位:横浜高、慶應義塾高

東海大相模高・水落健太監督のコメント
「奇襲を仕掛けてくるのではないかと思っていましたので、先鋒に中野選手を入れてくるというのは想定の中にありました。試合としては、まず近藤が、形上負けはしても引かない試合をしてくれたことが金子の頑張りに繋がりましたし、金子がフルタイム戦ってくれたことが次に生きた。工藤は、12月の招待試合では『自分の代だから、取りに行かなくては』と焦ってペースを失うこともあったのですが、まずしっかり圧を掛けて隙を探るという本来の試合が出来ていました。結果としては工藤を3番目に配したことが効いたと思います。(-かなりプレッシャーがあったのでは?)ここ7年で6回負けているわけですから、やはり県予選、このカードならではの怖さがありました。中野選手がいるということもありますし、個人戦で4階級を獲ったことで選手が浮足立つのではという不安もありました。個人戦が終わったところで乗せていくのではなく敢えて締めて掛かりましたし、きょうの試合も、『取って取られて』というような追いかける側に有利な場の荒れを作らないよう、じっくり勝負させました。(-菅原選手の試合ぶりに成長を感じました。監督の目から見ていかがですか?)組み手や技の幅が広がったことはもちろんですが、精神的にも、力という意味でも、彼が柱に成長したことがやはり大きい。彼が中心にいて、近藤と工藤の2人がいてくれる形が1つ出来ています。ただ、彼らはもちろん、他の選手もまだまだ組み手や技の幅を広げていかないと全国を勝ち抜くことはできない。やるべきことはたくさんあります。(-全国大会に向けて、ひとことお願いします)この代は『三冠を獲る』と言って入って来た代。もちろん狙いに行きますが、まだ我々には全国大会を獲った経験がない。何が何でも優勝するつもりで、あと2か月、死に物狂いでやっていきます、」

【準々決勝】

慶応義塾高〇三人残し△桐光学園高
桐蔭学園高〇二人残し△日大高
横浜高〇二人残し△立花学園高
東海大相模高〇四人残し△相洋高

【準決勝】

桐蔭学園高〇一人残し△横浜高
(先)秦崚馬×引分×本田和也(先)
(次)佐藤琉絢△反則[指導3](1:29)〇内田大翔(次)
(中)渡辺賢×引分×内田大翔(次)
(副)持田龍己〇優勢[技有。・崩上四方固]△玉代勢 将斗(中)
(副)持田龍己△合技[小外掛・横四方固](1:48)〇田所力輝斗(副)
(大)中野智博〇合技[内股・体落](1:08)△田所力輝斗(副)
(大)中野智博〇体落(2:21)△谷田龍生サンティアゴ(大)

東海大相模高〇四人残し△慶應義塾高
(先)天野開斗〇大内刈(1:22)△山田陸斗(先)
(先)天野開斗〇小外刈(1:00)△小川諒輔(次)
(先)天野開斗〇優勢[技有]△藤井大志(中)
(先)天野開斗△反則[指導3]〇澤田康太(副)
(次)工藤海人〇大外刈(0:30)△澤田康太(副)
(次)工藤海人〇合技[大内刈・払巻込](2:31)△松永蓮太郎(大)
(中)金子竜士
(副)尼田光志朗
(大)菅原光輝

【決勝】
東海大相模高〇一人残し△桐蔭学園高
(先)近藤那生樹△反則[指導3](2:22)〇中野智博(先)
(次)金子竜士△優勢[技有・一本背負投]〇中野智博(先)
(中)工藤海人〇小外刈(1:31)△中野智博(先)
(中)工藤海人〇払巻込(1:17)△佐藤琉絢(次)
(中)工藤海人△優勢[技有・隅落]〇平野蒼空(中)
(副)尼田光志朗〇合技[小外刈・横四方固](1:36)△平野蒼空(中)
(副)尼田光志朗×引分×渡辺賢(副)
(大)菅原光輝〇合技[内股・横四方固](1:38)△持田龍己(大)

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