PAGE TOP ↑
eJudo

【eJudo’s EYE】ワールドマスターズ青島2019・男子7階級「評」

(2019年12月23日)

※ eJudoメルマガ版12月16日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】ワールドマスターズ青島2019・男子7階級「評」
遅くなったが、ワールドマスターズ青島2019の「評」をお届けしたい。当日は予選ラウンドの映像が配信されず、ゆえに事後試合を大量に見直すこととなって時間が掛かってしまったが(JSPORTSの中継に携わっていたため、筆者も現地ではなく日本国内にて観戦)ご容赦願いたい。なるべく予選ラウンドの様相にも触れ、速報記事・全試合結果と合わせた総体でレポート記事として機能することを目指す。

文責:古田英毅

<参考>→男子全試合結果 <参考>→男子最終日速報
<参考>→男子第2日速報 <参考>→男子第1日速報
<参考>→女子7階級評

■ 60kg級 永山竜樹しっかり優勝、代表争いのポジションを維持
eJudo Photo
永山竜樹は豪快な投げを連発、全試合一本勝ちで頂点に立った

永山竜樹がしっかり優勝。ヤゴ・アブラゼ(ロシア)が得意のクロス組み手で叩きに来るところを見極めて左一本背負投を合わせた初戦に始まり、イ・ハリン(韓国)が圧力を嫌がって袖釣込腰で腰を切って逃げようとしたその戻りを捉えての右大外刈「一本」、ラグワジャムツ・ウヌボルド(モンゴル)の釣り手側に呼び込みながらの左内股に浮かされつつもしっかり股中で処理した内股透「一本」、シャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)に左一本背負投を仕掛け、内巻込の形で支えて投げ切っての「一本」と次々投げを決めて他を寄せ付けず。決勝はフランシスコ・ガリーゴス(イタリア)の内股動作を膝を揚げて弾き返す形での小外掛「技有」、さらに相手の「サリハニ」動作を一瞬で外しての内股透「一本」と2度投げ、全試合一本勝ちで大会を終えた。

今大会の永山の試合ぶりに瑕疵はなし。代表争いにおけるポジションを落とすことなく、2月の欧州シリーズに向かうこととなった。

ただし。薄々感じつつこのところようやく確信を持つに至ったのだが、60kg級はどうやら「コンディションの階級」。減量の過酷さゆえか大会ごとの選手の出来不出来の差が他階級に比べて大きく、それが選手個々というよりは「全員のラインの上げ下げ」という現象として起こる。「強豪がぎっしり詰まった激戦」と毎大会書かねばならぬほど実績ある強豪が多いのに、トーナメント自体が盛り上がらないまま終わってしまうことが頻発するのもこのあたりの事情ゆえと考える。あたかも大会ごとに調整度合いの「黙契」があるがごとしのラインの上げ下げ。最軽量級ゆえ、過酷な減量があるがゆえであろうか。考えてみればリオ五輪で「選手全員普段とまったく出来が違う」と恐怖を抱かされたのはなんといっても初日の60kg級。筆者はあれを五輪特有の「全員が巻き上がってくる」全階級共通の現象のスタートと捉えて衝撃を受けたのだが、大会が終わってみてあらためて振り返ってみても、この「上昇幅」やはり60kg級が最大であったように思える。大会ごとのレベル差の激しい階級なのである。

その中で「本番」の戦闘力を測るには、常の出来はともかく最高到達点が高い「爆発力を秘める選手」(ウロズボエフやチフヴィミアニ、スメトフあたりがこの代表格である)が軒並みハイコンディションでやってくる場が必要。つまりは世界選手権で誰とどう戦い、どんな結果を収めたかが他階級以上に大事になってくる。このあたりはターゲット選手のイダリス・オルティスやマリアスエレン・アルセマンの出来不出来が極端に激しかったロンドン-リオ期における78kg超級と事情が似ている。

この「ラインの上げ下げ」で言えば、今大会はそのライン、決して高くなかった。永山の相手役を務めたもう1人のファイナリストがこの階級の安定株(ラインの上下に関わらず一定の力を出し続け、引き潮状態のときに着実に成績を残すことでランキングの上位に残る)の代表格であるガリーゴスであることにこのあたり端的だ。

安定して高い力を発揮できることを改めて証明した永山。グランドスラム大阪における髙藤直寿との大一番を落としたことは痛かったが、欧州シリーズでハイコンディションの大物と出会うことが出来れば、次はこれを倒すことで到達点の高さをも示したいところ。少なくとも今大会で振り落とされることはなかったし、髙藤直寿追撃に向けて出来ることはすべて積んだという形の大会だった。

■ 66kg級 本性現し始めたロンバルド、おそらく五輪では最強の敵
eJudo Photo
あの「丸山スペシャル」を思わせるアブない技を連発したマニュエル・ロンバルド

日本勢不在のなか、マニュエル・ロンバルド(イタリア)が圧勝V。グランドスラム・ブラジリア(2位)、グランドスラム・アブダビ(1位)に続いてまたもや力を見せつけた。周知の肩車はもちろん、今大会アン・バウル(韓国)とヨンドンペレンレイ・バスフー(モンゴル)の強豪2人を畳に沈めた変形の袖釣込腰が非常に恐ろしい。片手で釣り上げ、残る手を相手の腰に回して自ら畳にダイブして投げ切る危険な技。そう、あの丸山顕志氏の「丸山スペシャル」とほぼ同じ技である。

馬力があり、「空気を読まない」タイプのロンバルドがこの大鉈を振るいまくるのだから面倒。アンは1度投げられ掛け、嫌がっている間にもう1度抱えられて投げ捨てられてしまっていた。アンが怖がったのも無理はない。せっかく畳に戻って来たのに、シーズンオフに片足を突っ込んでいるようなこの時期の試合で怪我をさせられてはたまらないだろう。引き落とす肩車、釣り上げる「丸山スペシャル」という上下の落差ある組み合わせも厄介さをいや増す。

それにしてもロンバルド、こんなに乱暴な柔道をする選手とは思わなかった。世界ジュニア優勝時(2018年)と比べると顔つきまでまるで変ってしまった。いよいよ本性を現しつつあるということだろう。阿部一二三に実質2度勝っている(東京世界選手権3位決定戦では抱分「一本」を得たが直後取り消し)ことでわかるとおり、地力は既にナンバーワンクラス。66kg級、東京五輪における日本勢最大の敵はこの選手と見る。

■ 73kg級 橋本壮市しっかり優勝も、追撃者の成績散った感あり
eJudo Photo
橋本壮市は豪快な投げを連発

eJudo Photo
3位決定戦、海老沼匡が見せた大会ベストスロー級の「一本」

橋本壮市がしっかり優勝。初戦のジャンサイ・スマグロフ(カザフスタン)戦で見せた巧みな「橋本グリップ」(引き手で外側から内を握る)からの「橋本スペシャル」(片手の袖釣込腰)、そしてヴィクトル・スクヴォトフ(UAE)戦で見せた、フォローで左足を大きく振り上げての豪快な左一本背負投「一本」と、持ち味を十分発揮した大会。左、右と持ち手を交換しながらいつの間にか自分の形を作り上げてしまう組み手の引き出しの豊かさと、相手にこれを理解させないまま投げ切るところまで試合を運ぶスピード感覚。もはや職人芸である。

海老沼匡も持ち味を発揮、イゴール・ヴァンドケ(ドイツ)に押し込ませながら一瞬で組み手を整えての内股「技有」、ヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)に背中を叩かせながら入れたカウンターの大内刈「技有」、そして3位決定戦でスクヴォトフを放った大会ベスト一本級の一本背負投「一本」と素晴らしい投げを連発した。いずれも相手を動かしてチャンスを作り出す、海老沼のモビリティの高さが生み出した「らしい」投げであった。

ただしトハル・ブトブル(イスラエル)に食った左小内刈「技有」は、これも海老沼が試合を動かしながらチャンスを作るタイプゆえ相手の鋭い動きを引き出してしまった印象あり。ブトブルのフェイント技を返そうとしたまま抱えてしまい、その態勢のまま頽れて決定的なポイントを失った。一撃の威力は増したが意外に成績が安定しない、73kg級転向以来の海老沼の戦い方がよく表れた大会と評することが出来るだろう。

代表争いについて。橋本は為すべきことを為して瑕疵のない大会だったが、リードする大野将平の立場から考えれば、グランドスラム大阪で海老沼(優勝)、ワールドマスターズで橋本(優勝)と追撃者の成績が割れる事態は決して悪いものではない。もっとも怖いのは、どちらか片方に成績がまとまる状況であったはず。大野がリード、橋本が振るい落とされずに追撃者の立場を保ったという格好で、勝負は欧州シリーズへと引き継がれる。

■ 81kg級 モラエイ本領発揮できず、「後の先」に進境著しいカッス
eJudo Photo
2回戦、モラエイがパルラーティの大外刈に捕まり「技有」

モンゴル移籍を果たしたばかりのサイード・モラエイの戦いぶりに注目が集まったが、意外な初戦敗退となった。長身のケンカ四つ、クリスティアン・パルラーティ(イタリア)を相手に引き手争いのさなか右大外刈を引っ掛けられ、返そうとしたまま吹っ飛んで「技有」失陥。直後肩車で「技有」を取り返すも、パルラーティが膝つきの右大内刈を絡めるとこれを返そうとして止め合い、そのまま後ろにすっ飛んで2つ目の「技有」を失った。モラエイの柔道の源泉である「力」がまったく感じられない試合だった。母国を出、難民選手団での試合出場に舵を切り、そして電撃的なモンゴルへの国籍変更。この状況でまともなコンディション調整が出来るとは思えない。少々気の毒な内容だった。

eJudo Photo
優勝はまマティアス・カッス。写真は初戦の膝車「技有」。

優勝はマティアス・カッス(ベルギー)。世界選手権銀メダルに続いてワールドマスターズ優勝と2019年はまさに躍進の1年となった。今大会では「後の先の技」が冴えていた。初戦のイヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)戦は動き決して良くなく、GS延長戦に膝車で「技有」を得ての辛勝だったが、以後の勝ち上がりがまことに面白い。イ・スンホ(韓国)の左一本背負投を抱分に切り返しての「技有」、カモリディン・ラスロフ(ウズベキスタン)の左一本背負投を抱分の要領で隅返に捉え返しての「技有」、さらにドミニク・レッセル(ドイツ)の右小内刈を透かすなり瞬間左で肩裏を制しての小内返「一本」と3戦連続「後の先」の技による勝利。イの左一本背負投を敢えて右に一歩動くことで立たせ、中途半端な姿勢と重心移動を強いて捉えた抱分などは出色の巧さであった。この「後の先」の獲得、絶対的なパワーや看板になる必殺技があるタイプではないカッスが、銀メダリストという「狙われる立場」になって求めた新たな方向性と解釈したい。決して進化を止めない、現代柔道の強者の姿勢かくあるべきである。

決勝は棄権したが、世界王者サギ・ムキ(イスラエル)も充実していた。ジャー・ラサイ(中国)との初戦は攻め粗く、受けも危うく出来悪し。しかしここを左小外掛「技有」で突破すると、気合いを入れなおしたか以後は快調。まずアントニオ・エスポージト(イタリア)を後帯を掴んでの左内股「技有」に、相手の「韓国背負い」をまたいで正面から押し落としての隅落「一本」で一蹴。この力技のあとは一転瞬間芸、アラン・フベトソフ(ロシア)が両手を伸ばして奥襟を叩きに来たところをそのまま左腕を抱え込んで迎え撃ち、鮮やか大外落「一本」。続いてヴェダット・アルバイラク(トルコ)を左小外掛で追い込むなり左釣込腰で投げ切る大技でもろとも回して豪快「一本」。この際負傷した模様だが、自身の身体能力の高さゆえ、加速がつき過ぎて怪我をしたという体であった。2019年初頭からの上り調子はいまだ継続中、五輪は当然優勝候補の一角と考えるべきだろう。

藤原崇太郎はフベトソフを相手に初戦敗退。左相四つの相手に引き手で袖、釣り手で片襟を指してあおる動きで主導権を確保、この形からの肩車で投げ掛かり、さらに縦四方固で抑え掛けてどうやら危なげなしと思われたが、この2つのチャンスを決めきれなかったことが痛かった。GS延長戦、片襟の左背負投をまたがれ、釣り手側の胴体を足で引っ掛けられてしまい隅落「技有」失陥。残念ながら決勝ラウンドに進むことかなわず、入賞はならなかった。代表争いはさらに半歩後退となったが、永瀬貴規に続く2番手の立場で欧州シリーズに望みをかける。

■ 90kg級 「宇宙人」ベカウリついにワールドツアー初制覇、ジョージアの代表争い予断ゆすらず
eJudo Photo
ファンテンド戦勝利直後のベカウリ。今年の世界王者を倒して喜びをあらわにする。

世界ジュニア2連覇者ラシャ・ベカウリ(ジョージア)が同時派遣の1番手ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)をしのぐ形で優勝。2回戦はブー・ヘビリゲ(中国)を得意の低い軌道の釣込腰で投げ切って「一本」。大山場の3回戦では東京世界選手権の覇者ノエル・ファンテンド(オランダ)の生命線である右手を抑え続けて双方「指導」2つずつを失う消耗戦に引きずり込み、疲労困憊のファンテンドが根負けして圧を受けたまま左技に身を切ろうとした瞬間、押し込み落として隅落「技有」で勝ち抜け決定。準々決勝は村尾三四郎の内股に捩じられ、さらに谷落を透かされてと映像チェックが入る危うい場面をなんとかしのぎ、中盤に後帯をひっつかんで得た引込返「技有」で勝利。ミカイル・オゼルレル(トルコ)との準決勝は相手の巻き込み技を胴タックルで止め、耐えきり、相手が捨身技に変化した瞬間に左大内刈をねじ込んで叩き落とし「一本」。決勝は2018年世界王者ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)が放った隅返を足を挙げて鮮やかに透かし、同時に上体を制し落として攻防一致の隅落「一本」。みごと優勝を決めた。実は、これがツアー初優勝である。

ベカウリは良くも悪くも周囲が見えない一点集中タイプ。めっぽう強いがその方法論が地に足着いたものであるグヴィニアシヴィリに比べると安定感はないが、こういう跳躍力のある宇宙人タイプが五輪のような一発勝負の場で強いことは周知の通り。シェラザディシヴィリの隅返を一瞬で、しかも制しながら透かした身体能力の高さも、そして発想もまさに異能者のそれ。この先まったく目が離せない。

リオ五輪銅メダリスト、チェン・シュンジャオ(中国)久々の試合にも注目が集まった。初戦は2015年の世界王者ガク・ドンハン(韓国)を相手に左一本背負投、ここから低い姿勢のまま左「一本大外」で足首を絡め、立ちなおしながら背負投の形で投げ切って「一本」。続くクエジョウ・ナーバリ(ウクライナ)戦は抱き合っての投げ合いに応じるタフさを見せたが、得意の形を防がれたままこの「よそ行き」の攻防が長くなって腰が引けてしまい、綺麗な足車「一本」を食って終戦となった。リオ五輪以降国際大会に姿を見せたのは4回だけ(得意の左「一本大外」の軸足となる右足首を骨折、一時引退を考えるほどの重症であったとの情報がある)だが、この時点で試合に出てくる以上東京五輪にフォーカスしていることは明らか。得意のガクが相手ではあるが、問答無用の体の強さを見せつけた2回戦の一撃はやはり異様。引き続き気に留めておくべきかと思われる。

日本勢2人はふるわず。村尾三四郎はベカウリ戦を落とすと、コムロンショフ・ウストピリヨン(タジキスタン)戦も不完全燃焼のまま「指導3」を失い意外な7位フィニッシュ。長澤憲大は好調だったが準々決勝でネマニャ・マイドフ(セルビア)の内股を抱いたまま受けてしまい、釣腰に連絡されて「技有」失陥。巧者マイドフを相手にこの決定的なビハインドを追いかけることは難しくこのまま本戦トーナメント脱落、ミカイル・オゼルレル(トルコ)との3位決定戦も落として最終成績は5位だった。

この階級の欧州シリーズ派遣陣形は非常に難しい。暫定1番手の向翔一郎をグランドスラム・デュッセルドルフに送り込み、今大会に出た2人を再びグランドスラム・パリで同時派遣するというのが穏当なところだが、3者の力関係的にも、国際舞台における日本人の立ち位置という観点から見ても、少々出口のシナリオが読みがたいところがある。仮に「向がはっきり勝つ」以外の目が出たときにどういう筋書きの可能性があり、それに対してどう準備をするのか。強化は頭の痛いところだろう。筆者は前述の陣形の可能性が高いとみるが、予断を許さない状況。

■ 100kg級 ウルフアロン2位も、ターゲット選手ことごとく破って代表争いは一歩前進
eJudo Photo
マイケル・コレルがヴァーラム・ルパルテリアニから素晴らしい内股「一本」

eJudo Photo
ジョルジ・フォンセカ戦を戦うウルフアロン

マイケル・コレル(オランダ)が優勝を果たした。この日はまさに絶好調、白眉は準決勝のヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)戦。右相四つの形でがっぷり組み合うと、軸足を真横にひいて引きずり出しながらの右内股一撃。引き手を腹に抱き込んで回旋を作り出し、素晴らしい「一本」で会場を驚かせた。決勝ではウルフアロンからも左一本背負投「技有」で勝利、普段はどちらかというと歩留まりが良いタイプのコレルに時折訪れる「確変」が、これ以上ないほどの形で現れた1日だった。

ウルフは決勝では意外な敗戦を喫したものの、十分成果のあった1日。カール=リヒャード・フレイ(ドイツ)から内股「一本」、今年の世界王者ジョルジ・フォンセカ(ポルトガル)から「指導3」の反則と強豪に2連勝した後に、アルマン・アダミアンとニヤズ・イリアソフというターゲット選手2人から星を挙げたことが非常に大きかった。

アダミアン戦は、相手の背を抱いての左小内刈を振り返し、釣り手を片襟に、引き手で帯をひっつかむ力技の左大内刈で「技有」。そして今年の世界選手権銀メダリスト・イリアソフには後襟に四指を入れる得意の組み手で主導権確保、残り7秒にこの形から内股、小外掛とフェイントを2回入れると最後は内股で敢えて円周小さく鋭く投げ切り「技有」。まさに完勝であった。

周知の通りウルフは昨年の世界選手権でイリアソフに敗れており、これが直接対決初勝利。欧州シリーズという大一番を控える中、「まだ勝っていない大物」をここでしっかり潰したことは大きい。もう、ここまでウルフが勝っていないターゲット選手はチョ・グハン(韓国、過去0勝1敗)くらいではないだろうか。代表争いは視界良好、あとは欧州でしっかり成績を残すのみである。

■ 100kg超級 原沢久喜完璧な試合ぶり、五輪代表に一歩前進
eJudo Photo
決勝、原沢の強烈な小内刈「一本」

世界選手権銀メダルの原沢久喜がしっかり優勝。初戦はアントン・クリヴォボコフ(ロシア)から「指導3」、2回戦はベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)の担ぎ技にまったく動じず、大内刈で腰を引かせると本命の内股で叩き落として「一本」。準々決勝はヘンク・フロル(オランダ)を引きずり出しての右内股「一本」、そして山場の準決勝はグランドスラム大阪の覇者イナル・タソエフ(ロシア)を鋭い右小内刈で崩し、相手が捨身技で粘ったところをそのまま押し込んで強烈「一本」。決勝は今年の世界王者ルカシュ・クルパレク(チェコ)が棄権して再戦はならなかったが、文句なしの優勝だった。

今年上積みした右小内刈に、原沢のコンディションのベンチマークである右内股。ここで決めておきたい技をしっかり決めたその内容が素晴らしかった。負傷を受けて「ひとまず結果を残す」のではなく、五輪に向けた長いスパンで見てその調整順調であると示した大会であったのではないだろうか。クルパレクへのリベンジこそならなかったが、相手が「逃げた」体での優勝は今後に向けて悪い形ではない。

個人的には、相四つの相手に奥襟を叩かれた(≒組み負けた)際に中途半端に背を握るのではなく引き手で横帯を掴むオプションを行使したこと、またここからの出口が1つでなく、右内股に加えて、「横に落とす帯取返」(1回戦と準決勝で見せていた)という新たな試みがあったことも高く評価したい。引き手を低く保つ大原則を守ったまま体の軸が作れて、しかもここから体の力をダイレクトに伝える攻撃があり、その出口は複数。悪くない。休場中も油断なくその柔道の幅を広げ続けていた、意識の高さが垣間見えた。

eJudo Photo
3位決定戦、影浦心が見せた「送り小外掛」。これも大会ベスト一本級の一撃だった。

同時派遣の影浦心も素晴らしい出来。敗れた相手は原沢が対戦しなかったルカシュ・クルパレクで、かつ今大会ではキム・ミンジョン(韓国)を凄まじい勢いの背負投「一本」(キムは影浦の組み手を嫌って突っ張り、瞬間的にバンザイをする形になっていた。ゆえにまさしく吹っ飛んだ)、さらにロイ・メイヤー(オランダ)を背負投「一本」と今年の銅メダリスト2人を立て続けに撃破。さらに3位決定戦ではグランドスラム大阪の覇者タソエフを、あの世界選手権団体戦のシリル・マレ戦と同様の「送り小外掛」で両足を捕まえ豪快「一本」。倒した相手も内容も文句なしであったが、このあたりが追うものの辛さ。「原沢が(グランドスラム大阪で影浦を倒して優勝した)タソエフを破って優勝」したことで、代表争いは半歩差が開くこととなった。

※ eJudoメルマガ版12月16日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る