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【eJudo’s EYE】「1.5線級」台頭の予感・グランドスラム大阪2019評

(2019年12月5日)

※ eJudoメルマガ版12月5日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】「1.5線級」台頭の予感・グランドスラム大阪2019評
文責:古田英毅
写真:乾晋也、辺見真也

この短いコラムは本命の2項+雑感1つの3項構成。グランドスラム大阪2019の技術評であるとともに、1つ目は「エテリ・リパルテリアニの衝撃」(世界ジュニア評)、2つ目は「『フォンセカ』に横分、あっという間に伝播する『使える技術』」(GSアブダビ評)の直接的な続きである。グランドスラム大阪については短いコラムを散発する形で「評」を行っているのだが、そのうちの一本という位置づけで認識頂きたい。

■ 「1.5線級」台頭の予感
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48kg級準々決勝、フリア・フィゲロアが古賀若菜から帯取返「技有」

まず48kg級で日本人2人を倒して決勝まで進んだフリア・フィゲロア(スペイン)について書くところから。筆者は前掲「エテリ・リパルテリアニの衝撃」において、女子57kg級のエテリ・リパルテリアニ(ジョージア)がいままで女子に術者が少なかった「やぐら投げ」や帯取返(しつこく繰り返すが引込返の俗称と混同しないで欲しい)などグルジアスタイルのパワー技を決めまくって世界ジュニア選手権を獲ったことを紹介した。その項の最終2パラグラフをここに引用する。

<これはあくまで彼女の体の力があってこそ、フォロワーが現れるかどうかはまだまったくわからない。(中略)
しかし「女子でも出来る」との扉を開けた、最初の1人が現れたインパクトは計り知れない。例えば「日本の女子を倒すにはこれが一番手っ取り早い」と考えるコーチはもちろん現れるであろうし、己がこのスタイルで戦えないか試してみる選手も当然ながら増えるだろう。話のスケールを少々小さくしてしまうが、国内にこのタイプの選手がいない日本勢は苦戦必至のはずだ。今季急成長、技の威力はもちろん受けの強さ抜群の袴田が強引に(しかも1度いきかけて止め、やっぱりもう1回と仕掛け直した、襲来を予期出来る技であった)吹っ飛ばされたシーンにはそう思わされるだけのインパクトがあった。>

フィゲロアは今大会の準々決勝で古賀若菜(南筑高3年)をまさにこの帯取返(「技有」)で破り、続く準決勝では角田夏実をも、今度はイランレスリングスタイルのパワー技である「モラエイ」(「技有」)で下している。

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フィゲロアが角田夏実に決めて見せた「モラエイ」

女子、特に軽量級と中量級においては、「パワーはあるが、トップファイターと伍するような技術的戦術的なハシゴがない」選手が実は非常に多い。フィゲロアはまさにそういう選手の典型であったわけだが、今後彼女ら「1.5線級」が、一斉にこれらの技術の習得に舵を切る可能性があるのではないか。フィゲロアが古賀に決めた帯取返が完璧なものではなかったことにも逆にかなりの可能性を感じる。リパルテリアニのように、あるいは男子のように完全に相手を持ち上げることは出来なかったが、相手の上体を伸ばして崩した上で横に転がして投げている。これは2017年初頭の男子帯取返再勃興期に多く見られた形。力技の代表格のように語られる帯取返だが、なんのかんのでやはり理に叶った技なのだ。「やぐら」も例えば完全に持ち上げる(内股や移腰)形でなくても、重心が浮いた相手を振り落とし(浮腰や浮落)たり、「フォンセカ」様に支釣込足や払釣込足で決めをフォローする形が流行るかもしれない。なんといってもここ数年の新技術勃興の特徴は同時多発的であること。とにかく「出来る」「やってみる」マインドが醸成されつつあることは見逃してはならない。彼女たちの中には既に角田夏実スタイルの「隅返様に爪先を股中に入れることで間合いが遠くても持ち上げてしまい、その後は相手の体を歩いて送る、あるいは崩れた方向に応じて上体を制し、足裏を支点に当て、落ち際に膝を入れてコントロールして投げ切る」巴投を取り入れている選手もおり、使える技術の導入には本当に貪欲。個人的には、パワーはあるが欧州型のクラシカルな首抱きスタイルから抜けきれず攻撃の手立てが凡庸な選手、このクラスタに棲む選手の動静に注目したいと思う。

余談ながら。前回のコラムで、海外柔道サイトの情報に従ってエテリ・リパルテリアニを、男子の強者ヴァーラム・リパルテリアニの「親族」と紹介させて頂いたが、これは誤りであったようだ。2人に血縁関係はない。彼らはスヴァネティという地域の出身で、かの地においては「リパルテリアニ」はごく一般的かつ、非常に多い姓とのこと。日本なら「佐藤」「鈴木」といったところか。この情報は現場の解説でご一緒させて頂いた西山将士さんの取材によるもの。感謝とともに、この場で一言紹介させて頂く次第である。

■ フォンセカ大流行中、横分の標準化も着々進行
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イナル・タソエフ。このユーリ・クラコヴェツキ戦で鮮やかな「フォンセカ」を決めた。

これはGSアブダビ評の直接的な続き。テーマを絞った定点観察である。「フォンセカ」は“来ている”。いくつか見られた中から、イナル・タソエフが足業の手練れユーリ・クラコヴェツキ(キルギスタン)を見事に嵌めた一撃を紹介したい。

100kg超級2回戦 イナル・タソエフ(ロシア)○払釣込足(0:33)△ユーリ・クラコヴェツキ(キルギスタン)

「フォンセカ」の流行には思わされることが多い。前回はその伝播経路を夢想して楽しませて頂いたが、今回は「なぜそんなに流行るのか」について思いを巡らせてみる。まずはなんと言っても効果抜群であること、もう1つは、今既に体の中にある「材料」(技)を組み合わせることで出来る、見た目手の届きやすい技術であること。そしてなんといっても、これぞ講道館柔道というべき「切れる足技」への潜在的な憧憬があるのではないか。切れる足技は講道館柔道の妙味であり、他格闘技と差異化の図れる、これぞ柔道というアピールの効く美しい技術でもある。注目されること多い欧州ファイターたちへの伝播と拡散を歓迎する次第だ。読者の方々にも、ぜひ実際に試してみることをおすすめしたい。持つ場所に応じた手の使い方や、初動の脚の入れ方の使い分け、フィニッシュが払釣込足になる場合と、出足払の方が向いている場面の使い分けとその理由。考える材料がなかなか多く、実に楽しい技術である。

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90kg級準決勝、ダヴラト・ボボノフがガク・ドンハンから横分「技有」

横分の標準化についても着々進行中。90kg級で大躍進したダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)が決めた一撃へのリンクを下記に貼っておく。相手はなんとガク・ドンハン(韓国)である。

90kg級準決勝 ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)○合技[横分・隅落](2:43)△ガク・ドンハン(韓国)

これは前回紹介したような「背中抱きの捨身技の選択肢の一」ではなく、日本の一定以上の年齢の方にはなじみ深い、「腕返し」に近い掛け方。公式記録が「背負投」にされてしまったところは少々切ないが、それだけ現代柔道では見かけなくなった技とうことだろう。いまは復古の途上、おそらく数年後には、皆がパッと判断できる技になっていくはずだ。

■ ウズベキスタン勢、大躍進
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90kg級2位のボボノフ。決勝ではベカ・グヴィニアシヴィリから背負投「技有」を先行し、最後まで壮絶な投げ合いを演じた。

2項構成はこれでおしまい。この項はおまけ。

ウズベキスタン勢の躍進に唸らされた。チーム全体として非常に好調。世界選手権でも地力の高さは際立っており、「これは相当にやるな」と唸らされたものであるが、加えて今大会では、強者が登り詰めるにあたってどうしても必要な「己を高く買う能力」が増していると思わされた。切所で退かない、あきらめない、当たり前に決めるのだという確信をもって強気の技を仕掛ける、そしてもともと地力があるのでこれが決まる。実際にウズベキスタンが獲ったメダルは2つ(ボボノフが90kg級2位、アリシェル・ユスポフが100kg超級3位)であるが、この結果以上の印象であった。今回強国が一線級の派遣をためらった事情は割り引かなけれなばならないが、そもそもウズベキスタンが日本のグランドスラムで複数のメダルを獲ったのは実は9年前。結果にもその躍進ぶりが表れていると言っていいだろう。

やや短絡的だが、思いつく理由はやはりイリアス・イリアディス氏の監督就任。スーツを持って来ていなかったのか?決勝ラウンドではコーチボックスではなく後の客席からの応援となったが、予選ラウンドでは声を嗄らし、机を叩いて選手を励ます熱血ぶりを見せていた。軽重量級のアイコンの存在が選手の自信を高めていることは間違いないだろうし、氏のパーソナリティからしてそのモティベーターとしての資質は相当なものがあることは容易に推察される。加えて、同国は副監督に先日までモンゴルのコーチを務めていた鳥居智男氏を招聘したとの情報。イリアディスのモティベートと、鳥居氏の緻密な技術指導が噛み合えば「確変」の可能性もあるのではないか。

この項は以上。少々テーマがばらけてしまったが、全体評からはこぼれてしまいそう、かつまたいつ書けるかわからないのでこの場で出しておく。以降のグランドスラム大阪関連は、レポート記事、および「eJudo’s EYE」各階級評という形でアウトプットの予定。

※ eJudoメルマガ版12月5日掲載記事より転載・編集しています。

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