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【レポート】グランドスラム大阪2019・第1日男子2階級マッチレポート

(2019年12月5日)

※ eJudoメルマガ版12月2日掲載記事より転載・編集しています。
【レポート】グランドスラム大阪2019・第1日男子2階級マッチレポート
(60kg級、66kg級)
→第1日男子プレビュー
→第1日男子速報
→男子全試合結果(eJudoLITE)
【eJudo’s EYE】グランドスラム大阪2019第1日評
【eJudo’s EYE】次なる五輪代表内定大会、欧州シリーズの派遣計画を予想する・グランドスラム大阪男女14階級評


文責:古田英毅 取材:eJudo編集部
撮影:乾晋也、辺見真也

■ 60kg級 両雄が決勝で激突、大一番制したのは髙藤直寿
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2回戦、永山竜樹がレナン・トーレスから内股「技有」

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3回戦、永山がアユブ・ブリエフから一本背負投「一本」

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準々決勝の大一番、永山がキム・ウォンジンから払腰「一本」。理と技術、美しさと揃った大会ベスト一本級の一撃。

(エントリー33名)

【決勝まで】

永山竜樹(了徳寺大職)と髙藤直寿(パーク24)の優勝候補2人が順当に勝ち上がり、ファンの期待通りに決勝で雌雄を決することとなった。

第1シードの永山はまず2回戦でレナン・トーレス(ブラジル)に内股「技有」で勝利。3回戦はアユブ・ブリエフ(ロシア)の粘りに手を焼いたがGS延長戦26秒に一本背負投を決め「一本」、結果としては快勝でベスト8入り決定。

本戦トーナメント最大の山場と目されたキム・ウォンジン(韓国)との準々決勝は大激戦。この試合は永山が右、キムが左組みのケンカ四つ。前戦までとは見違える動きの良さを見せるキムがまず「両襟奥」の強気の組み手で横腰を晒す牽制から永山に引き手を切らせ、その瞬間身を翻して逆方向への片襟背負投に飛び込む。この右の担ぎ技に永山大崩れ、体捌き良く膝から落ちたかに思われたが、激しくバウンドしたこの一撃に主審は「技有」を宣告。試合開始からわずか1分22秒、永山非常に厳しいビハインド。しかし永山このまま時間を過ごしては不利になるばかりとすぐさま動き、「両襟奥」を敢えて受け入れると今度は己が片手を離しての左「一本大外」。慌てたキムが刈り足を抜くタブーを犯した瞬間には既に一本背負投に連絡してインパクトを呉れており、キムは片脚になって支えを失うなり左前隅に吹っ飛び「技有」。失点からわずか15秒、「一本」級の大技だった。精神的にも優位に立った永山はこの機を逃さず、続く展開では組み合うなり僅かに相手の陣地を下げると真っ向から投技を叩きいれる。右内股で僅かに左脚に触ると、回避のために重心を移したキムの右脚めがけて強烈な右払腰一撃。投げ込みのように綺麗に決まったこの一撃に主審は迷わず「一本」を宣告。試合時間1分54秒、永山は強敵キムから「技有」、「一本」と立て続けに奪い、結果的には快勝だった。この払腰は大会ベスト一本級、技術といい投げた相手のグレードといいまさに文句なしの素晴らしい一発。

永山、続く準決勝は世界選手権でも存在感を見せた今季の成長株ヤン・ユンウェイを相手に貫録の試合ぶり。「指導1」を奪って迎えた終盤、残り19秒の組み際に左袖釣込腰を入れて「技有」。そのまま寝勝負に持ち込み、相手に脚を絡んで耐えさせたままタイムアップを迎える。危なげないまま「技有」優勢で試合終了、しっかりライバル髙藤の待つ決勝の舞台へと歩を進めた。

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2回戦、髙藤直寿がハクベルディ・ジュマエフから内股「技有」

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準決勝、青木の変則の払腰は肘を極めながらの投技と判断されてダイレクト反則負け。

一方の髙藤は第2シード。2回戦はハクベルディ・ジュマエフ(トルクメニスタン)を1分5秒の間に内股「技有」、さらに隅返「技有」と2度投げつける快勝で突破。3回戦はダヴド・ママドソイ(アゼルバイジャン)から2分28秒に左内股「技有」を奪い、終盤偽装攻撃で「指導」2つを貰ったもののこのまましっかり試合を締めて優勢勝ち。

準々決勝はイ・ハリン(韓国)を相手にせず、1分10秒に隅返「技有」、2分1秒に再び隅返「技有」と奪う圧勝。最難関と思われた準決勝は、チームの同僚青木大(パーク24)の変則組み手を巧みに利用、「指導2」まで奪ったところで青木が得意の「ケンカ四つ」クロスから無理やり放った払腰が「立ち姿勢で肘関節を掛けながら倒れた」と判断されてゲームセット。GS43秒、青木のダイレクト反則負けにより髙藤の決勝勝ち上がりが決まった。

ダイレクト反則負けを犯してしまった青木は次戦出場の権利がなく、最終結果は5位。古賀玄暉(日本体育大3年)は初戦でシード選手トルニケ・チャカドア(オランダ)にGS延長戦の浮落「技有」で屈し、入賞に絡むことが出来なかった。

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開始早々、髙藤が永山の一本背負投に片手絞を狙う。

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大きく刈り足を延ばして左小内刈を狙う髙藤

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永山が相手の動きの先を捉えて右内股、引き手が切れて「待て」。

【決勝】
髙藤直寿○GS技有・小内刈(GS1:42)△永山竜樹

永山が右、髙藤が左組みのケンカ四つ。開始早々に永山が左の一本背負投。抱えた袖の位置が内巻込様に浅く、迎え撃った髙藤素早い動きで片手絞に捉える。あるいは数秒で試合決着かという深さで襟が首に食い込んだように思われたが、永山は手を入れてしっかり防御。反転に合わせて脚を払いのけ、袖を絞り落として拘束を緩め「待て」。経過時間は41秒。

組み際に永山が右出足払を空振りするがそのまま体捌き良く360度転回、いったん離れて釣り手の位置を変え合いながらの引き手争いが続く。1分30秒、下から釣り手を得た髙藤が一足の左小内刈を見せるが、この技が流れた反時計回りの移動に合わせて永山が外から釣り手を抱え込んだまま右体落。吹っ飛んだ髙藤が反転して伏せ「待て」。

永山が釣り手の先で髙藤の体にタッチすると髙藤瞬間肘を挙げて襟を持たせず、あっという間に引き手で袖も得る。抗した永山が右出足払から左一本背負投に繋ぎ、またも髙藤が素早く片手絞を試みて「待て」。ここで髙藤の出血による中断があり、再開と同時に髙藤に消極的との咎で「指導」。経過時間は2分3秒。

永山は出足払、応じた髙藤は反時計回りの動きから巴投。これで永山を潰すと先に立ち上がって引込返一撃。永山吹っ飛んだが敢えて手足を畳に着ける寝姿勢で受けておりこれはノーカウント、攻防は継続される。髙藤引き手を求めながら反時計回りの動きで左小内刈を2連発、さらに釣り手を外から抱えての巴投に打って出るがこれは永山がかわして効かず。残り時間は1分を切る。

ここで永山が組み手をスイッチしての片襟左背負投。鋭い動きに場内沸くが、しかし予期した髙藤が隅返で剥がし返して大過なし。残り33秒で再度出血による中断があり、再開後に髙藤が「ケンカ四つクロス」で釣り手を抱き込むと、永山は相手が引き手を求めて出来上がった反時計回りの動きに合わせて右内股。動きの起こりを捉えた技ゆえ髙藤は吹っ飛ぶが、永山の技に相手の体を捕まえる要素は薄く、そのまま伏せて「待て」。試合はGS延長戦へ。

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重心を見極めた髙藤が得意の左小内刈。

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残った脚の膝に体重を掛けて乗り込み「技有」。

髙藤が作用足を相手の膝裏に当てる「外サリハニ」で止めて間合いを測り、次いで両襟から内股フェイントの隅返。しかし永山は内股の段で前に出て詰めており、髙藤の隅返はこの後に襲うであろう永山の後の先を嫌って単に体を捨てた感あり「待て」。続く展開、髙藤は釣り手を得ると自らの襟を隠しながら引き手を狙い、永山は出足払から内股で対抗、さらに引き手で手首を掴んで前へ出る。髙藤は左内股で迎え撃ち、ケンケンからまたもや隅返に潰れて「待て」。続く展開で髙藤が釣り手を下から突きながらまたもや「襟隠し」。主審今度は見逃さず、GS1分23秒髙藤に「指導」。これで反則累積は0-2、髙藤は後がなくなってしまう。相手に詰められて捨身技で攻防を流す展開が続いていることもあり、見通しは決して明るいとは思えない。

しかしここで試合が大きく動く。髙藤釣り手で背を抱き、「外サリハニ」で相手を止めながら相手の重心移動を見極め、引き手で袖を得るなり反時計回りに大きく体を捌く。相手の左外側に軸足を踏み込むと、振り向きざまに得意の左小内刈一閃。踵に足の側面を当て、相手の膝の前に膝を入れて脚自体をロックする十八番の技法。このまま膝に体重を掛けられた永山一瞬で真裏に崩れ、勝利を確信した髙藤はその体を乗り越えてまっすぐ乗り込み「技有」。釣り手で脇下を握っての上体拘束も見事、永山が反転すべき方向の道を完全にふさいでいた。

あと1つの「指導」で勝利に辿り着くはずのこのタイミングがエアポケットとなったか。立ち上がって手を開いて喜びをあらわにする髙藤の後で、永山は座ったまましばし呆然。大一番の勝者は髙藤となった。

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大一番の勝者は髙藤となった。

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60kg級メダリスト。左から2位の永山竜樹、優勝の髙藤直寿、3位のキム・ウォンジンとヤン・ユンウェイ

【入賞者】
1. TAKATO, Naohisa (JPN)
2. NAGAYAMA, Ryuju (JPN)
3. KIM, Won Jin (KOR)
3. YANG, Yung Wei (TPE)
5. AOKI, Dai (JPN)
5. LEE, Harim (KOR)
7. BOUDA, Romaric Wend-Yam (FRA)
7. TSJAKADOEA, Tornike (NED)

【成績上位者】
優 勝:髙藤直寿(パーク24)
準優勝:永山竜樹(了徳寺大職)
第三位:キム・ウォンジン(韓国)、ヤン・ユンウェイ(台湾)

髙藤直寿選手のコメント
「ずっと一番手でやって来たんですが、1回負けただけで回りの人の見る目が変わってしまった。なので、勝ててうれしかったです。永山選手は本当に強くて、試合中どうしたらいいか何度も何度も考えて、その結果、得意の小内刈で投げることが出来ました。『指導』2つは取られてもいい、最後は投げで決着する、必ず投げるか投げられるかで終わると思っていました。オリンピックは2枠目がない。あらためて『60は髙藤に任せてくれ』と言いたいです。ありがとうございました。」

永山竜樹選手のコメント
「完全に勝てる試合だったんですが、一瞬の隙でやられてしまった。隙のない柔道をしていかなければいけない、とあらためて思いました。絶対勝たなければいけないと思っていたし、勝つしかなかった試合。最後に詰めの甘さが出てしまったと思います。まだあきらめるわけにはいかないので、しっかり準備して、これからの試合すべて勝ちます。」

【準々決勝】
永山竜樹○払腰(1:54)△キム・ウォンジン(韓国)
ヤン・ユンウェイ(台湾)○GS反則[指導3](GS0:47)△トルニケ・チャカドア(オランダ)
髙藤直寿○合技[隅落・隅返](2:01)△イ・ハリン(韓国)
青木大○不戦△ホマリック=ウェンド=ヤム・ブダ(フランス)

【敗者復活戦】
キム・ウォンジン(韓国)○裏投(3:44)△トルニケ・チャカドア(オランダ)
イ・ハリン(韓国)○不戦△ホマリック=ウェンド=ヤム・ブダ(フランス)

【準決勝】
永山竜樹○優勢[技有・袖釣込腰]△ヤン・ユンウェイ(台湾)
髙藤直寿○GS反則[DH](GS0:43)△青木大

【3位決定戦】
キム・ウォンジン(韓国)○不戦△青木大
イ・ハリン(韓国)○崩上四方固(1:42)△ヤン・ユンウェイ(台湾)

【決勝】
髙藤直寿○GS技有・小内刈(GS1:42)△永山竜樹

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2回戦、髙藤の隅返「技有」

【日本代表選手勝ち上がり】

髙藤直寿(パーク24)
成績:優勝


[2回戦]
髙藤直寿○合技[内股・巴投](1:05)△ハクベルディ・ジュマエフ(トルクメニスタン)

[3回戦]
髙藤直寿○優勢[技有・内股]△ダヴド・ママドソイ(アゼルバイジャン)

[準々決勝]
髙藤直寿○合技[隅落・隅返](2:01)△イ・ハリン(韓国)

[準決勝]
髙藤直寿○GS反則[DH](GS0:43)△青木大

[決勝]
髙藤直寿○GS技有・小内刈(GS1:42)△永山竜樹

永山竜樹(了徳寺大職)
成績:2位


[2回戦]
永山竜樹○優勢[技有・内股]△レナン・トーレス(ブラジル)

[3回戦]
永山竜樹○GS一本背負投(GS0:26)△アユブ・ブリエフ(ロシア)

[準々決勝]
永山竜樹○払腰(1:54)△キム・ウォンジン(韓国)

[準決勝]
永山竜樹○優勢[技有・袖釣込腰]△ヤン・ユンウェイ(台湾)

[決勝]
永山竜樹△GS技有・小内刈(GS1:42)○髙藤直寿

青木大(パーク24)
成績:5位


[2回戦]
青木大○後袈裟固(2:20)△エリック・タカバタケ(ブラジル)

[3回戦]
青木大○GS反則[指導3](GS0:58)△ラグワジャムツ・ウヌボルド(モンゴル)

[準々決勝]
青木大○不戦△ホマリック=ウェンド=ヤム・ブダ(フランス)

[準決勝]
青木大△GS反則[DH](GS0:43)○髙藤直寿

[3位決定戦]
青木大△不戦○キム・ウォンジン(韓国)

古賀玄暉(日本体育大3年)
成績:2回戦敗退


[2回戦]
古賀玄暉△GS(GS0:18)○トルニケ・チャカドア(オランダ)

■ 66kg級 阿部一二三意地のリベンジ、丸山城志郎五輪代表内定ならず
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2回戦、相田勇司が世界王者アン・バウルの左背負投を払腰の形で切り返し「技有」。相田はこの勢いのまま準決勝まで進んだ。

(エントリー43名)

【決勝まで】

誰もが待ち望んだ丸山城志郎(ミキハウス)と阿部一二三(日本体育大4年)の決勝対決が実現。

しかししばし。両雄の勝ち上がりを追う前に字数を頂いて、講道館杯王者相田勇司(國學院大2年)の活躍に触れないわけにはいかない。この日は1回戦でジョアオ・クリソストモ(ポルトガル)を3分0秒燕返「一本」で破ると、2回戦で2015年世界王者アン・バウル(韓国)に挑戦。今季負傷で不調も、五輪代表選出に向けてもはや負けられぬバックグランドを背負った大物である。この試合は機動力の高さでアンに対抗、ともに「指導2」を失ったGS延長戦4分2秒にアンの左背負投をかわし、そのまま押し込むと左払腰の形で身を切って投げ切り劇的「技有」確保。大一番に勝利し、3回戦へと駒を進めることとなった。

相田は3回戦でかつての一線級チャールズ・チバナ(ブラジル)からも小外刈「技有」を得て快勝、相手のレベルが一段下がった準々決勝はダビド・ガルシア=トルネ(スペイン)を体落と浮落の合技「一本」に仕留めて見事ベスト4まで勝ち進んだ。準決勝はこの日絶好調の阿部一二三に隅落「技有」、背負投「一本」と立て続けに失って敗れたが、3位に入賞する大活躍。ワールドツアー初出場でのメダル獲得(グランプリ・タシケント2位)に講道館杯制覇と躍進した2019年を、みごとグランドスラム大阪の表彰台という大戦果で締めて見せた。西山祐貴(警視庁)も3位に食い込み、66kg級の表彰台は日本勢4名が占めることとなった。

アン・バウル早期敗退の中、もう1人の韓国代表キム・リマンも3回戦でダークホースのダニエル・ペレス=ロマン(スペイン)に背負投「技有」優勢で敗れて入賞なし。韓国の五輪代表争いはまだまだ予断を許さない情勢。

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2回戦、丸山城志郎がパヴェル・ペトリコフから内股「一本」

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3回戦、丸山がジャコ・ヴァロアを内股で叩き落として「一本」

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2回戦、阿部一二三がネイサン・カッツから背負落「技有」

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準決勝、阿部は上り調子の相田を寄せ付けず。小内刈「一本」。

さて、あらためて2強の勝ち上がりを追ってみたい。

今年度世界チャンピオンの丸山はもちろん第1シード配置。負傷のため十分稽古が詰めなかったとの情報だが準決勝までの段階では隙を見出しがたし。2回戦はパヴェル・ペトリコフ(チェコ)から開始25秒お手本のような左内股を決めて鮮やか「一本」。3回戦はジャコ・ヴァロア(カナダ)をこれも3分25秒、今度は釣り手で片襟を差し、敢えて腰を切り過ぎずに真下に叩き落とす形の左内股に沈めて「一本」。準々決勝はニジャット・シハリザダ(アゼルバイジャン)をGS延長戦21秒の巴投「技有」で退け、準決勝は食い下がる西山祐貴から3分11秒、左内股のモーションで引っ張りだしながらの巴投で「技有」奪取。以後も手堅く、しかしあくまで「一本」取らんと貪欲に攻め続け、危なげなくタイムアップまで辿り着く。すべての試合で投技を決め、五輪代表内定決めの大一番へと向かう。

一方の阿部の勝ち上がりは圧倒的。まずネイサン・カッツ(オーストラリア)から1分32秒片襟の右背負落から追いかけて押し込み「技有」、さらに2分3秒、釣り手でいったん奥襟を叩くと今度はこの手を肘下に流しての右背負投で「一本」。3回戦はマテイ・ポリアク(スロバキア)を相手に40秒右腰車、インパクトだけでガクリと膝を着いた相手をすぐさま押し込んでまず「技有」。さらに2分21秒には右出足払で足元を崩し、流れを切らずに上から背中を叩いて右釣込腰「一本」。勝負どころと目された準々決勝はかつて世界選手権決勝を争ったミハイル・プルヤエフ(ロシア)を相手に1分30秒、体落様に脚を流しながら片襟の右背負落を見舞う。左釣り手で背を抱えていたプルヤエフが右膝を着いて耐えると躊躇なく決めに移行、内股の要領で脚を差し入れて回し貴重な「技有」。この一撃をテコに優勢勝ち。

この日絶好調の相田勇司を畳に迎えた準決勝は圧巻。奥襟圧力で主導権を得ると、打開を図った相田が左引き手で首を抱えながら放った右小外掛をあっさり振り落として1分17秒隅落「技有」。さらに1分50秒には両袖のまま袖釣込腰フェイントの右小内刈。初動の刈りは浅かったが十分崩せたとみると、一気に刈り足を踏み込んで相手の股中まで体ごと進出。そのまま体を投げ出し、右後隅に叩き落として豪快「一本」。今が旬の若手のホープを全く寄せ付けなかった。

ともに好勝ち上がり、その中で目立ったのは阿部のコンディションの良さ。カッツ、プルヤエフ、相田と組み合わせの難易度は阿部の方が高かったが、それを感じさせぬ「一本」連発。カッツ相手に見せた追い込みの早さ、ポリアクを初動だけで振り落とした腰車の威力、不十分ながらもプルヤエフを投げ切った力強さと決めの早さに、相田の足先を捉えるなり一気に体ごと股中まで踏み込んだスピードと、とにかく攻防の端々から力が溢れている。字に起こすと普通のはずの体捌きがいちいちこちらの予想を超える、力が「はみ出している」この状態が阿部に訪れるのは、実は世界選手権V1時の2017年8月以来ではないだろうか。阿部、会心の出来で宿敵丸山が待つ決勝の畳へと向かう。

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開始早々、阿部が右内股の形で捩じりを呉れて丸山を崩す。

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阿部は組み手争いを最小限に、まず釣り手で袖を握る

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丸山組み手不十分ながらも左内股で崩しに掛かるが、阿部は受け切って動ぜず。

【決勝】
阿部一二三○GS技有・内股返(GS3:27)△丸山城志郎

丸山が左、阿部が右組みのケンカ四つ。阿部はまず突進、釣り手で前襟を掴んで距離を詰めるとその勢いのまま丸山の左内股モーションの起こりに合わせてさらに一段間合いを詰めながら、右内股の形で足を差し入れて回旋を呉れる。これは下から襟を持った釣り手の肘が相手の腋に入る極めて強い形、まともに力を食った丸山の側が崩れて「待て」。経過時間は18秒。

阿部続く展開は釣り手争いを拒否して直線的に袖を掴み、一方的な両袖を作り出す。互いに腰を引き合ってしばし進退、丸山埒があかないとばかりにいったん自ら潰れて「待て」。経過時間は50秒。

以後も手先の攻防から阿部が先に袖をキャッチして両袖を作り、前に出ることで丸山を封じるという展開。膠着の中、1分21秒に丸山が両袖からの飛び込み内股を見せるがインパクトの前に阿部が体を当て、丸山は弾き返される。阿部はまったく崩れず、両者のコンディションの差が端的に表れた攻防。続いて丸山片袖を両手で握った左内股で捩じるも投げ切れず、攻めさせてしまった阿部はすかさず両襟の右大外刈に飛び込む。投げる可能性は薄かったが、思い切った大技であっという間に陣地を復した格好。

緊迫のまま残り時間は1分。手先の探り合いから両袖の絞り合い、阿部が自らいったん引き手を切って釣り手一本で袖を一方的に持つと、これを腹側に送り込みながら良いタイミングの右送足払を見せる。丸山引き手を掴み直して両袖の巴投に飛び込むが、一貫して相手の良く見えている阿部がしっかり押し込んで潰す。残り時間は41秒。

ここで丸山両襟を持つことに成功、あわやと思わせるが阿部は両袖を掴んでの袖釣込腰に潰れてすぐさまこの形を終わらせてしまう。丸山今度は「ケンカ四つクロス」を経由して両襟を作って圧力。阿部耐え切れず潰れ、すぐさま立って背を抱いての引込返で丸山を一回転させるがこれは既に「待て」の後でノーポイント。主審は潰れた阿部に防御姿勢の「指導」を付与。この時点で残り時間は3秒、そのまま試合はGS延長戦へ。

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阿部が後帯を掴んでの引込返

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この試合のハイライト。阿部が後帯を掴んで釣腰を連発

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丸山の左内股を阿部が弾き返す

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決め切って内股返「技有」

過去3連敗の丸山に対し、大枠優位のまま本戦4分を戦い抜いた阿部の表情には生気がありあり。かなりの手ごたえが感じられる。丸山体ごとぶつかるように一気に距離を詰めるが、阿部は手先でブロックするとあっという間に両袖組み手を作り出す。丸山巴投に潰れ、GS20秒偽装攻撃の「指導」。これで反則累積は1-1のタイ。

阿部が両袖を作ると丸山は左体落、阿部が潰れるとすぐさま横三角を試みるが阿部迷わず手で下穿を握ってブロック「待て」。

続いてこの試合のハイライト。阿部が引き手で襟、釣り手で後帯を掴むとかつてもっとも得意とした右釣腰を2連発。丸山体重を抜いてぶらさがることでディフェンスするがこの大技に場内は大歓声。直後のGS56秒、丸山に2つ目の「指導」。ついに丸山は後がなくなる。

丸山ほとんど走り込む体で距離を詰めて釣り手で背中を叩こうとするが、インパクトと体捌きが噛み合わずぶつかった瞬間自ら前に潰れて「待て」。波に乗りつつある阿部は釣り手で背中を叩き、応じた丸山に対しそのまま前に詰めて前進圧力。丸山左内股も阿部割り切ってすぐに潰れて投げ切らせず、寝技の攻防を経て「待て」。続く展開、阿部が両襟から右大内刈一撃。応じた丸山が左内股から大内刈と繋ぐが、阿部は腹を出して大内返の形で弾き返す。これは両者が場外に出た後でノーポイントだったが、展開はじわじわと阿部の優位に傾く印象。

丸山両手を下げてユラリと前に出るが、あの世界選手権時の迫力がない。阿部は襟を掴んで来た丸山の左を切り離すと強気に背中を抱き、後帯を掴んでの「出し投げ」で崩す。先に倒れた阿部を丸山が片手絞で追うが、阿部が立って振り落とし「待て」。丸山続く展開では釣り手で袖を一方的に得るものの、阿部が掛けさせる前に自ら前技に潰れて展開を切り「待て」。

この時点で試合時間はGS3分8秒。両者同時の「指導」でも負けが決まってしまう丸山は一合も攻めを休むことが許されない。その中でじわじわ阿部が優位を進め、状況いよいよ煮詰まった感あり。

しばし離れて間合いを探り合ったのちの3分20秒過ぎ、丸山手を大きく伸ばして釣り手で襟を掴むと、続いて引き手も前襟を掴む両襟組み手。阿部の下がり際に合わせてそのまま一歩前進、加速しながら左内股に飛び込む。しかし間合いが遠く、予期した阿部には時間的余裕がある。腹を出して弾き返すと、軸足を踏み込みんだ瞬間に衝撃を食らった丸山は真裏に大崩れ。阿部は両袖の拘束を緩めず投げ切って劇的「技有」。試合時間はGS延長戦3分25秒、阿部が劇的な一発で丸山にリベンジを果たした。

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熱戦は阿部の勝利に終わった。丸山は五輪代表内定ならず。

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66kg級メダリスト。左から2位の丸山城志郎、優勝の阿部一二三、3位の相田勇司と西山祐貴。

【入賞者】
1.ABE, Hifumi (JPN)
2.MARUYAMA, Joshiro (JPN)
3.AIDA, Yuji (JPN)
3.NISHIYAMA, Yuki (JPN)
5.PEREZ ROMAN, Daniel (ESP)
5.GARCIA TORNE, David (ESP)
7.SHIKHALIZADA, Nijat (AZE)
7.PULIAEV, Mikhail (RUS)

【成績上位者】
優 勝:阿部一二三(日本体育大4年)
準優勝:丸山城志郎(ミキハウス)
第三位:相田勇司(國學院大2年)、西山祐貴(警視庁)

阿部一二三選手のコメント
「凄く嬉しい気持ち。でもまだ1回勝っただけで今からがスタートだと思います。これからはもう、1度も負けずに、勝ち続けたいと思います。決勝は絶対やるしかない、と倒すことしか考えていなかった。自分が勝つ想像しかしていなかったです。これまで、本当にやられっぱなしで悔しい思いをしました。これからまだまだ戦わなければいけない相手ですが、もう1度も負けるつもりはありません。リオ五輪を逃してから4年間、東京を目指してここまでやって来た。自分がやって来たものを簡単になくすことはできません。これからも勝ち続けて、1つ1つ積み上げて五輪を目指します。」

【準々決勝】
丸山城志郎○GS技有・巴投(GS0:21)△ニジャット・シハリザダ(アゼルバイジャン)
西山祐貴○合技[背負投・小内刈](3:54)△ダニエル・ペレス=ロマン(スペイン)
相田勇司○合技[体落・浮落](3:51)△ダビド・ガルシア=トルネ(スペイン)
阿部一二三○優勢[技有・背負落]△ミハイル・プルヤエフ(ロシア)

【敗者復活戦】
ダニエル・ペレス=ロマン(スペイン)○GS合技[背負投・袖釣込腰](GS1:19)△ニジャット・シハリザダ(アゼルバイジャン)
ダビド・ガルシア=トルネ(スペイン)○優勢[技有・背負投]△ミハイル・プルヤエフ(ロシア)

【準決勝】
丸山城志郎○優勢[技有・巴投]△西山祐貴
阿部一二三○小内刈(1:50)△相田勇司

【3位決定戦】
相田勇司○優勢[技有・袖釣込腰]△ダニエル・ペレス=ロマン(スペイン)
西山祐貴○隅落(1:16)△ダビド・ガルシア=トルネ(スペイン)

【決勝】
阿部一二三○GS技有・内股返(GS3:27)△丸山城志郎

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準々決勝、丸山がニジャット・シハリザダから巴投「技有」

【日本代表選手勝ち上がり】

丸山城志郎(ミキハウス)
成績:2位


[2回戦]
丸山城志郎○内股(0:25)△パヴェル・ペトリコフ(チェコ)

[3回戦]
丸山城志郎○内股(3:25)△ジャコ・ヴァロア(カナダ)

[準々決勝]
丸山城志郎○GS技有・巴投(GS0:21)△ニジャット・シハリザダ(アゼルバイジャン)

[準決勝]
丸山城志郎○優勢[技有・巴投]△西山祐貴

[決勝]
丸山城志郎△GS技有・内股返(GS3:27)○阿部一二三

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3回戦、阿部がマテイ・ポリアクから釣込腰「一本」

阿部一二三(日本体育大4年)
成績:優勝


[2回戦]
阿部一二三○背負投(2:03)△ネイサン・カッツ(オーストラリア)

[3回戦]
阿部一二三○釣込腰(1:39)△マテイ・ポリアク(スロバキア)

[準々決勝]
阿部一二三○優勢[技有・背負落]△ミハイル・プルヤエフ(ロシア)

[準決勝]
阿部一二三○小内刈(1:50)△相田勇司

[決勝]
阿部一二三○GS技有・内股返(GS3:27)△丸山城志郎

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3位決定戦、相田勇司がダニエル・ペレス=ロマンから袖釣込腰「技有」

相田勇司(國學院大2年)
成績:3位


[1回戦]
相田勇司○燕返(3:00)△ジョアオ・クリソストモ(ポルトガル)

[2回戦]
相田勇司○GS技有・払腰(GS4:02)△アン・バウル(韓国)

[3回戦]
相田勇司○優勢[技有・小外刈](3:19)△チャールズ・チバナ(ブラジル)

[準々決勝]
相田勇司○合技[体落・浮落](3:51)△ダビド・ガルシア=トルネ(スペイン)

[準決勝]
相田勇司△小内刈(1:50)○阿部一二三

[3位決定戦]
相田勇司○優勢[技有・袖釣込腰]△ダニエル・ペレス=ロマン(スペイン)

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3回戦、西山祐貴がアルチュール・テから背負投「技有」

西山祐貴(警視庁)
成績:3位


[2回戦]
西山祐貴○反則[指導3](2:58)△アユブ・エリドリッシ(カタール)

[3回戦]
西山祐貴○優勢[技有・背負投]△アルチュール・テ(キルギスタン)

[準々決勝]
西山祐貴○合技[背負投・小内刈](3:54)△ダニエル・ペレス=ロマン(スペイン)

[準決勝]
西山祐貴△優勢[技有・巴投]○丸山城志郎

[3位決定戦]
西山祐貴○隅落(1:16)△ダビド・ガルシア=トルネ(スペイン)

※ eJudoメルマガ版12月2日掲載記事より転載・編集しています。

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