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【レポート】2019年度講道館杯全日本柔道体重別選手権マッチレポート③最終日男子3階級

(2019年11月17日)

※ eJudoメルマガ版11月12日掲載記事より転載・編集しています。
2019年度講道館杯全日本柔道体重別選手権マッチレポート③最終日男子3階級
(90kg級、100kg級、100kg超級)
→男子7階級全試合結果(eJudoLITE)
→男子7階級プレビュー
→男子最終日速報ニュース

文責:古田英毅
撮影:辺見真也/eJudo編集部

■ 90kg級 19歳村尾三四郎が初優勝、第1挑戦者の地位得てグランドスラム大阪に進出
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90kg級準々決勝、前田宗哉が田嶋剛希との打ち合いを小外掛「技有」で制する

(エントリー34名)

【決勝まで】

シード選手4名のうち、村尾三四郎(東海大1年)、ベイカー茉秋(日本中央競馬会)、増山香補(明治大3年)の3名はぶじにベスト4入り。

残る田嶋剛希(筑波大4年)は準々決勝で前田宗哉(自衛隊体育学校)に苦杯。田嶋が背負投、前田が大外刈とそれぞれ代名詞的な得意技を持つこの試合は大会ベストバウト級の打ち合いとなる。刈られれば担ぎ、担がれれば刈り、フルタイムほとんどノーガードで投げあった大熱戦は2分50秒に前田が得た小外刈「技有」をテコに決着。優勢勝ちを果たした前田が準決勝へ進むこととなった。

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準決勝、村尾三四郎が増山香補から大外刈「一本」

決勝に進んだのは村尾とベイカー。

8月の東京世界選手権で団体戦代表を務めた村尾は第1シード。この日は2回戦で菊地友輝(郡山自衛隊)を1分12秒大外刈「一本」、3回戦で今期のインターハイ王者・道下新大(国士舘高3年)を大内刈「技有」で下してプールファイナルへと進む。迎えた準々決勝では初戦で北野裕一(パーク24)を送襟絞「一本」で破っている大町隆雄(山口県警察)から一方的に「指導」3つを奪って圧勝。そして山場の準決勝では昨年の全日本ジュニアで苦杯を喫している増山香補とマッチアップ。増山を得意の左背負投の間合いに決して入らせず、かつ常に大技一発を狙いながら静かに試合を進め、迎えたGS2分3秒には突如スピードアップして左大外刈一撃。左大内刈のフェイントに反応した相手を一瞬で吸い込んだこの一発が豪快に決まって、鮮やか「一本」。完璧な内容で決勝進出を決めた。

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準々決勝、ベイカー茉秋が二見省吾から体落「一本」

一方のベイカーも好内容。初戦(2回戦)は今季躍進、全日本学生体重別でも決勝まで進んだ岩渕晃大(国士舘大3年)を2分30秒払巻込と横四方固の合技「一本」で一蹴。3回戦は加藤慎之介(山梨学院大4年)を小外掛「技有」の優勢で下し、準々決勝は今季の実業個人王者二見省吾(旭化成)を2分22秒の体落「一本」に斬り落とす充実の出来。東海大と東海大浦安高で1学年下の後輩、前田宗哉(自衛隊体育学校)を畳に迎えた準々決勝は残り時間1分にならんとするところで急加速。体落崩れの右払巻込で「技有」を奪い、そのまま袈裟固に抑え込んで3分10秒合技「一本」。危なげなく決勝の畳へと辿り着いた。

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3位決定戦、田嶋剛希が増山香輔から小外掛「一本」

3位決定戦、ともに打点の高い背負投一撃を売りとする増山と田嶋の一番は総試合時間8分39秒の熱戦の末に田嶋が相手を抱き止めての小外掛「一本」で勝利。双方担ぎ技の勘どころをよく知るだけに、組み手の高さの調整ひとつでどちらに試合が転ぶかわからない、緊迫感のある内容だった。増山は今季学生以下のカテゴリで投げに投げ捲っていたが、今大会では徹底警戒にあって背負投を1度も決められず。準々決勝はかつて苦手とした長井晃志(日本体育大3年)を大外返「一本」に仕留めてさすがというところをみせたが、今後に課題を残した大会であった。

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村尾三四郎とベイカー茉秋による決勝

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村尾は先に釣り手で前襟を確保、容易にベイカーに接近を許さない

【決勝】
村尾三四郎○優勢[技有・内股]△ベイカー茉秋

村尾が左、ベイカーが右組みのケンカ四つ。村尾一貫して手首をしっかり立てて前襟を掴み、釣り手の状況は優位。引き手を争いながらグイと前に引き落とすと崩されたベイカー一瞬片膝を着き、村尾は続いて片手のまま反時計回りの膝車で大きく崩す。53秒、まだ技の出ないベイカーに「指導」。

密着勝負を挑みたいはずのベイカーだが、村尾の巧い釣り手の捌きの前に釣り手の持ちどころを定められない。前襟、奥襟、背中と探るうちに村尾が思い切って前技フェイントの左小外刈。両足をもろとも刈る勢いの踏み込み深い一撃にベイカー大きく崩れ、腹ばいに落ちる。

ベイカー時折引き手で袖の外側を得て局所的優位は作るが、村尾の釣り手を突破出来ず全体としてはなかなか思うような形が作れない。1分24秒には釣り手を背中に回して接近の構え、しかし村尾割り切って畳を割り「待て」。村尾はしっかり手首を立てて前襟を握り、ベイカーが釣り手の持ちどころを探る間にまず左内股、さらに股中に左体落を落として腹這いに崩し、直後の2分18秒にはベイカーに2つ目の「指導」。

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最終盤の組み際、村尾が左内股で「技有」奪取

後のなくなったベイカーは加速、思い切った前進を見せる。引き手で袖を持ち、釣り手を後帯に回すと村尾の左内股を捌いた流れで右体落。伏せた村尾をアフターで捲り転がすが、しかしこれは技の直前に自らが場外に出てしまっており「待て」が宣された後の技。映像チェックの結果ノーポイントで試合が再開される。この攻防によって一段警戒を強めた村尾が再びしっかり釣り手を管理するようになり、ベイカーは持ちどころが限定されて苦しい状態。それでも右体落、さらに右大内刈と技を積んで場外まで追うと、3分25秒村尾に場外の「指導」。

互いに小外刈を打ち合う中、村尾がこの攻防に混ぜ込んで抜き上げるようにひときわ鋭い左小外刈を放つとベイカー反応してその戻り際に巴投を合わせ「待て」。残り時間は11秒。

誰もがGS延長戦突入を想起するこのタイミングで、しかし敢えて村尾が動く。組み際に釣り手で前襟、引き手で袖口を浅く持つなり間髪入れぬ左内股。内側の脚の膝に足車を掛ける理合で支点を作ると体の外側で回旋を呉れ、クルリと回し落として「技有」。滅多に見られないベイカーが吹っ飛ぶさまに、場内は地鳴りのようなどよめき。

残り時間を考えればもはやこの時点で勝負あり。村尾は片膝を着く形でそのまま上体を制して「抑え込み」の声を聞き、ベイカーが体を捩じると割り切って放す。ここで「解けた」の宣告と同時に試合終了。村尾、講道館杯初優勝なる。

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90kg級メダリスト。左から2位のベイカー茉秋、優勝の村尾三四郎、3位の前田宗哉と田嶋剛希。

【入賞者】
優 勝:村尾三四郎(東海大1年)
準優勝:ベイカー茉秋(日本中央競馬会)
第三位:前田宗哉(自衛隊体育学校)、田嶋剛希(筑波大4年)
第五位:大町隆雄(山口県警察)、増山香補(明治大3年)
第七位:長井晃志(日本体育大3年)、二見省吾(旭化成)

【グランドスラム大阪代表選手】
向翔一郎(ALSOK)、村尾三四郎(東海大1年)、ベイカー茉秋(日本中央競馬会)、長澤憲大(パーク24)

村尾三四郎選手のコメント
「自分の目標は東京オリンピックで優勝することなので、そのためにはオリンピックの金メダリストを倒さなければならない。皆きつい、と思っていたかもしれませんが自分はこの試合に掛けていました。優勝出来てホッとしています。自分優位の組み手にするのがポイントだと思っていたので、先、先と前に出て行きました。最後は投げるのが理想、「技有」ではありましたが投げで決められたのは良かったと思います。グランドスラム大阪も大事な試合、最後はきょうのように優勝して終われたらいいなと思います。」

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準々決勝、増山香輔が長井晃志から大外返「一本」

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田嶋と増山による3位決定戦も大熱戦だった。

【準々決勝】
村尾三四郎○反則[指導3](3:57)△大町隆雄
増山香補○GS大外返(GS3:22)△長井晃志
ベイカー茉秋○体落(2:22)△二見省吾
前田宗哉○優勢[技有・小外刈]△田嶋剛希

【敗者復活戦】
大町隆雄○大外刈(2:10)△長井晃志
田嶋剛希○小内刈(3:44)△二見省吾

【準決勝】
村尾三四郎○GS大外刈(GS2:03)△増山香補
ベイカー茉秋○合技[払巻込・袈裟固](3:10)△前田宗哉

【3位決定戦】
前田宗哉○移腰(0:54)△大町隆雄
田嶋剛希○GS小外掛(GS4:39)△増山香補

【決勝】
村尾三四郎○優勢[技有・内股]△ベイカー茉秋

■ 100kg級 羽賀龍之介優勝、代名詞の内股の威力衰えず
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2回戦、羽賀龍之介は残り5秒の内股「一本」で逆転、池田賢生を退ける。

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準々決勝、羽賀が中野智博から完璧な内股「一本」

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準決勝、羽賀が北山達也から内股「技有」

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準々決勝、西山大希が石内裕貴から大内返「技有」

(エントリー30名)

【決勝まで】

決勝に進んだのは羽賀龍之介(旭化成)と西山大希(日本製鉄)の2名。激戦打ち続いたこの階級であるが、結果的には第1シード選手と第2シード選手が順当に勝ち上がることとなった。

4月の選抜体重別に優勝している羽賀は第1シードで大会をスタート。初戦(2回戦)では30歳のベテラン池田賢生(日本中央競馬会)に1分40秒変則の右小内刈で「技有」を奪われ、そのまま残り時間30秒まで時計の針を進められる大ピンチ。しかし残り25秒となったところで決めた内股「一本」で事なきを得、ぶじ初戦勝ち抜け決定。続く準々決勝は全日本ジュニア2位の中野智博(桐蔭学園高2年)から貫録の勝利。まず「指導」2つをリード、組み手で相手を制すると、嫌った相手が下がって止まるその位置を目掛けてステップを整えた飛び込みの左内股。まるで教則映像を見ているかのような完璧な一発決まって鮮やか「一本」。

大学の後輩、昨年この大会では付き人として帯同したという北山達也(東海大4年)を畳に迎えた準決勝はペースを上げられないまま試合を終盤まで持ち込むことになったが、ともに「指導2」を失って迎えた残り6秒に左内股「技有」を奪って手堅く勝利。ぶじ決勝進出を決めた。

一方の西山は前述の通り2回戦からのスタート、こちらも非常に厳しい組み合わせ。初戦は1回戦で世界ジュニア王者の神垣和他(明治大2年)を内股透「技有」で破っている今季の学生体重別準優勝者・後藤龍真(東海大3年)とマッチアップ。後藤の巧い試合運びに「指導」2つを失ったが、GS延長戦52秒に支釣込足「技有」を得てすべてをリセット。ぶじ勝ち抜けを決める。準々決勝は石内裕貴(旭化成)を相手に2分3秒に奪った鮮やかな大内返「技有」をテコに優勢勝ち。

そして迎えた準決勝、垣田恭兵(旭化成)との一番は想像通りの消耗戦。歯ぎしりするような厳しい組み手の駆け引きが続き、1分0秒垣田に「指導」、2分55秒には双方に「指導」が与えられ、最後は残り24秒、垣田に袖口に指を入れたとの判断で「指導』。これで垣田の累積警告が「3」となって勝敗が決した。

昨年の全日本ジュニア王者関根聖隆(筑波大2年)は初戦2回戦)で北山達也にGS延長戦の小外掛「一本」で敗退。全日本学生体重別を制した山口貴也(日本大2年)は第4シード評価を受けたが3回戦で山下魁輝(国士舘大3年)にGS延長戦の抱分「技有」で敗れ、入賞はならなかった。

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羽賀と西山の決勝は組み手の陣地の取り合い。

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羽賀が左内股

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羽賀が左大外刈を狙うと西山は先んじて左大内刈、ケンケンで追う。

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「指導2」対「指導3」で羽賀の勝利が決まった。

【決勝】
羽賀龍之介○GS反則[指導3](GS1:28)△西山大希

本格派同士の対戦は左相四つ。4月の選抜体重別では羽賀が内股「一本」で勝利しているカード。羽賀が引き手からまず袖、西山が釣り手から前襟を持って応じる形で組み手を争う。互いにこれぞという位置を得れば一発で試合が決まりかねない業師、まことに緊張感溢れる駆け引き。

以後も羽賀がまず引き手から襟、西山が応じて釣り手から掴むという手順をベースに、襟、袖、肘の上げあいと静かに陣地の取り合いが続く。西山が支釣込足を見せた直後の1分13秒、双方に消極的との咎で「指導」。

試合はこの審判の介入を受けてやや加速。羽賀が引き手で前襟を握って内股、続いて腕を抱える形の左大外刈を打たんと釣り手を離したその一瞬を狙って、今度は西山が鋭い大内刈を叩き込んでケンケンで追う。2分過ぎからは羽賀がやや攻勢。奥襟を掴むなり左内股を一撃見舞うと、釣り手で前襟を持ったまま肘を上げて腰を切る牽制を2度、3度。さらに支釣込足の蹴り崩しを入れる。あくまで牽制がベース、展開で半歩先を行ったという形であったがこの間の西山には具体的な攻撃がない。主審がスコアに差をつけたいタイミングという時宜にも適い、2分49秒西山に2つ目の「指導」。西山はこれで後がなくなる。

羽賀が引き手で襟を確保。直後袖を得ると体を揺すって西山の手を切り離し一方的な形を作り掛けるが、ここは嫌った西山がはっきり離れてリセット。残り30秒に今度は西山が良い形を作り掛けると羽賀巧みに体の位置関係をずらして無力化、逆に自身優位の組み手に変換するなり奇襲の巴投に飛び込んで展開を終える。このまま大きな動きはなく、試合はGS延長戦へ。

開始早々西山が奥襟を叩き、羽賀が下がったところで引き手で袖も得てこの試合ほぼ始めて完璧に近い形。しかし羽賀あっという間にこれもずらし、左内股のフェイントで牽制して展開を戻す。以後はほぼ五分の組み合いから羽賀が左小内刈での蹴り崩し、左西山が大外刈から支釣込足と技は見せるものの散発、なかなか展開に差がつかない。互いが僅かな距離と高さ、適切な間合いを求めての駆け引きが続くが、西山が左大内刈のフェイントを見せた直後の1分28秒に主審が試合を止める。裁定は双方への「指導」。これで累積警告は羽賀が「2」、西山が「3」となって試合が終わった。羽賀は実に8年ぶりの講道館杯制覇。

決勝は一見静かな試合であったが、スコア以上に緊迫した内容であった。いずれも一撃の強さが売りの本格派であること、そしてともに相手を封じるだけでなく、自身の投げを決めるという出口を明確に目指して攻防したことで、拮抗は常に前向き。見ごたえのある一番であった。

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100kg級メダリスト。左から2位の西山大希、優勝の羽賀龍之介、3位の垣田恭兵と石内裕貴。

【入賞者】
優 勝:羽賀龍之介(旭化成)
準優勝:西山大希(日本製鉄)
第三位:垣田恭兵(旭化成)、石内裕貴(旭化成)
第五位:中野智博(桐蔭学園高2年)、北山達也(東海大4年)
第七位:山下魁輝(国士舘大3年)、梅野雅崇(国士舘大2年)

【グランドスラム大阪代表選手】
ウルフアロン(了徳寺大職員)、飯田健太郎(国士舘大3年)、羽賀龍之介(旭化成)、西山大希(日本製鉄)

羽賀龍之介選手のコメント
「4試合だけでしたが、しんどかった。最後は自分の思うような柔道が出来ませんでしたが、まずは勝ち切れてホッとしています。(決勝で戦った西山大希選手とは)過去2回対戦したことがあります。自分の年齢では上にも下にも負けられないので、意地を出して頑張りました。内容は全然納得していないですが、勝つことしか意味がない立場ですので、どんな形でも勝とうと思っていました。国内の相手に対しては少しづつ結果が出るようになってきていますが、(五輪代表決定まで)残された時間は多くない。しっかり、出来ることをやっていきたいと思います。」

【準々決勝】
羽賀龍之介○内股(3:03)△中野智博
北山達也○GS技有・小内刈(GS0:49)△山下魁輝
西山大希○優勢[技有・大内返]△石内裕貴
垣田恭兵○優勢[技有・隅落]△梅野雅崇

【敗者復活戦】
中野智博○GS内股(GS4:27)△山下魁輝
石内裕貴○GS反則[指導3](GS0:37)△梅野雅崇

【準決勝】
羽賀龍之介○優勢[技有・内股]△北山達也
西山大希○GS反則[指導3](GS0:24)△垣田恭兵

【3位決定戦】
垣田恭兵○小内刈(3:08)△中野智博
石内裕貴○GS反則[指導3](GS1:01)△北山達也

【決勝】
羽賀龍之介○GS反則[指導3](GS1:28)△西山大希

■ 100kg超級 熊代佑輔がベテランの味発揮、昨年の100kg級制覇に続く2年連続のV
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2回戦、斉藤立が木元拓人から払腰「一本」

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準々決勝、太田彪雅が斉藤の内股を綺麗に透かして「技有」

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敗者復活戦、斉藤は小川雄勢を大外刈で一方的に攻め込み「指導3」奪取。

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3位決定戦、佐藤和哉が斉藤の左体落を出足払に拾って「技有」

(エントリー35名)

【決勝まで】

既に全日本柔道選手権でも2勝を挙げているスーパー高校生・斉藤立(国士舘高3年)の戦いぶりに会場の注目が集まった。初戦(2回戦)は9月の全日本学生体重別を全試合一本勝ちで制している木元拓人(日本大4年)を相手に、なんと僅か2分1秒左払腰一閃豪快「一本」。いきなり会場の度肝を抜いた。続く3回戦では昨年度の実業個人王者・尾原琢仁(旭化成)に挑戦。尾原のしぶとい組み手と体の強さ、そして斉藤の組み立てを熟知した力強い受けに手を焼いたが、「指導1」対「指導2」でリードしたGS5分24秒、左大内刈を決めてこれも見事「一本」。3つ目の「指導」獲得まであと一歩という時間帯が長く続いたが、手数狙いに堕ちずあくまで投げを狙った姿勢は見事の一言。学生王者、実業王者をいずれも「一本」で沈めてみごとベスト8入り決定。

準々決勝ではしかし第2シード選手太田彪雅(東海大4年)の巧さの前に、2分40秒綺麗な内股透「一本」を食って敗戦。これで惜しくも本戦トーナメントを去ることとなったが、迎えた小川雄勢(パーク24)との敗者復活戦が素晴らしかった。昨年の世界選手権個人代表、それも力を伝え合いやすい相四つの大型を相手に左大外刈で真っ向勝負。小川に釣り手を低く落とされても「十分投げ切れる」とばかりに構わず左大外刈に乗り込んで力を籠めるその様は自信満々。相手の腹のあたりに釣り手が当たる状況でも平然と相手の体の裏まで踏み込んで大外刈で刈り込み続け、小川はたじたじ。結果一方的に「指導」3つが積み重なってこの試合は斉藤の快勝となった。

しかし続く3位決定戦では今大会の第1シード選手・佐藤和哉(日本製鉄)の意地が勝った。佐藤の「指導1」ビハインドで迎えた1分20秒、斉藤が左体落を仕掛けるとその瞬間踏ん張った作用足を鮮やかに拾って右出足払「技有」。斉藤、残り30秒には2つ目の「指導」を得て必死に追いすがるがあと一歩及ばずタイムアップ。「技有」優勢で勝利した佐藤が表彰台を確保、斉藤の最終成績は5位となった。

この講道館杯で勝ってグランドスラム大阪に進出、国際大会で連戦連勝して五輪代表に絡むという夢のシナリオはひとまずここで終焉。斉藤、今季の試合はこれにて幕となった。

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準々決勝、香川大吾が王子谷剛志から横四方固「一本」

決勝に進んだのは香川大吾(ALSOK)と熊代佑輔(ALSOK)の2名。ともに東海大卒、同所属の先輩後輩による頂上対決である。

香川は初戦(2回戦)で七戸龍(九州電力)から2分25秒の間に一方的に3つの「指導」を奪って勝利。3回戦は第4シードに配された上田轄麻(日本製鉄)の巧みな組み手をしっかり捌いて着々陣地を進め、GS延長戦1分10秒に払腰「技有」を得て快勝、準々決勝は王子谷剛志(旭化成)の捨身技を圧を掛けながらかわし、横四方固に捉えて試合終了間際の一本勝ち。そして佐藤和哉との準決勝はGS延長戦8分36秒「指導2」対「指導3」で勝ち抜け。初の講道館杯決勝の畳へと駒を進めた。

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準々決勝、「技有」リードの熊代佑輔が小川雄勢に背負投。

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釣り手で裾を握ったまま引き込んで前転を強い「一本」

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準決勝、熊代が太田から出足払「技有」

31歳の熊代は昨年度大会100kg級の覇者。階級を上げ、全日本実業個人を制して今年の講道館杯を迎えた。初戦は上川大樹(広島刑務所)の欠場により不戦勝ち、続く3回戦では巨漢黒岩貴信(旭化成)との「両組み対決」を2分4秒崩袈裟固「一本」で制す。

圧巻は準々決勝。身長190センチ体重136キロの体躯を誇る第3シード選手小川雄勢を「お得意さま」扱い。まず57秒左大外巻込で「技有」を奪うと、2分0秒には「指導」1つを積んでまったく危なげなし。どころかあくまで投げて決めんと2分22秒には左背負投一撃。この技は釣り手で襟裾を持つ「襟釣込腰」、背中を当てて相手に前転運動を強い、鮮やか「一本」。完勝でこの大一番を乗り切った。

迎えた準決勝は第2シードの太田彪雅とマッチアップ。東海大で助監督を務める熊代にとっては教え子である。この試合は開始早々に熊代の出足払が太田の動きの起こりにかちあい、18秒「技有」。残り時間は実に3分42秒の長きにわたるが、全日本選手権ベスト4の学生カテゴリ最強選手・太田といえども己の柔道をよく知る熊代から制限時間内に「技有」を奪わねばならないこのミッションはまさに至難の業。熊代は組み手の駆け引きに誘っては要所で巧みに楔の一撃を入れ、試合を加速させぬままじわじわと時計の針を進める。1分26秒双方に「指導」、3分20秒には熊代にのみ組み手のテクニカルファウルで「指導」が与えられるが、熊代これは計算内とばかりに終盤は寝技に持ち込んで着実に時間を消費。そのまま試合は終わり、「技有」優勢で熊代の決勝進出が決まった。

太田は3位決定戦に回ったが、ここでも先輩の壁に阻まれる。王子谷剛志に「指導2」対「指導3」で屈し、表彰台登攀はならなかった。

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3回戦、王子谷が松村颯祐から袖釣込腰「一本」

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2回戦、高橋翼が上林山裕馬から大内刈「一本」

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敗者復活戦、王子谷が高橋から大外刈「一本」

決勝戦評に移る前に、冒頭触れた斉藤以外の若手の結果について簡単に触れておきたい。

世界ジュニアを制したばかりの松村颯祐(東海大2年)は高木一石(筑波大2年)と名垣浦佑太郎(警視庁)を「指導3」で破って3回戦まで進む。その地力はやはり特筆もの、この試合も大学の先輩王子谷剛志のお株を奪う前進圧力で優位を確保「指導2」対「指導1」でリードして視界良好だったが、ここで王子谷が見せた奇襲の袖釣込腰に嵌ってしまい一本負け。残念ながら入賞には絡めなかった。

中野寛太(天理大1年)は2回戦で黒岩貴信と対戦。体格差に怖じず度々得意の出足払をぶつけるが、黒岩は両の足を畳に着けたまま根が生えたように動かず。ともに「指導2」を失って迎えたGS延長戦56秒、高く組んだところから組み手の左右をスイッチした黒岩の左払巻込に捕まり「一本」。初戦で姿を消すこととなった。

高校選手権無差別の覇者高橋翼(作陽高3年)は健闘。初戦は上林山裕馬(福岡県警察)をGS延長戦大内刈「一本」、3回戦は石川竜多(筑波大4年)をGS延長戦小外刈「一本」と2勝を挙げてベスト8入り。準々決勝は佐藤和哉に大外刈「技有」で敗戦、敗者復活戦は王子谷剛志にGS延長戦大外刈「一本」で屈したが堂々7位に食い込んだ。前襟を持って思慮深けに試合を進めるかと思えば、10センチ以上の上背の差をものともせずなんと王子谷相手に奥襟を叩く大胆さも見せる。大学進学に向けて引き出しを増やさんとしていることが透けて見える戦いぶりだった。

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決勝、開始早々に熊代が払巻込「技有」

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香川は大枠良いところを持って牽制するがどこかやりにくそう。なかなか思い切った技が出ない。

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最終盤、香川が反時計回りに「やぐら投げ」も追い切れず。

【決勝】
熊代佑輔○優勢[技有・払巻込]△香川大吾

左相四つ。熊代は引き手からまず袖を掴む。応じた香川も釣り手を高く持ち、こちらは引き手で前襟の裾を掴んで対峙。力の伝わりやすい、近い位置での組み合いとなる。熊代は香川の引き手の手首を掴んでいったん落とすと、この左手をひらりと揚げて左払巻込。まともに食った香川大きく崩れて転倒、18秒「技有」。

試合開始早々の決定的なポイント。とはいえ残り時間は実に3分42秒、状況は予断を許さず。香川は引き手で前襟の裾をひとまず掴み、釣り手で横襟を得ては組み合いを挑む。熊代は釣り手を高く保って大枠組み合いに応じるが、良い形で組んでいるはずの香川は意外にもやりにくそう。45秒に左大外刈、1分19秒には左払巻込と放つがいずれも効かず。

熊代は敢えて試合を加速させず、引き手で腋下を絞る形をベースに着々時間を進める。2分7秒、香川が組み手を作り直して良いタイミングの左大内刈を放つが投げ切れず。3分35秒、香川が初めてほぼ完ぺきな組み手を作り出すが、攻防未成熟のうちに熊代が大内刈に潰れて展開を切ってしまう。

残り1分を過ぎ、香川は再び釣り手で横襟を掴んで横変形に構える良い形を作り出すが、やはり本当に欲しい間合いは得られていない模様。どこかやりにくそうに位置関係を直し続け、思い切った攻撃が出来ない。そうこうするうちに熊代が左大外巻込で展開を切り、「待て」が掛かったこの時点で試合時間は33秒を残すのみ。

残り14秒、熊代確信的に左払巻込を掛け潰れ、偽装攻撃の「指導」。香川が突進、釣り手で奥襟を掴むと熊代の頭が下がり、はたき込まれる形で潰れて「待て」。残り9秒偽装攻撃で2つ目の「指導」。

最後の一勝負を挑みたい香川、右引き手で横帯を掴むと「やぐら投げ」、脚を突っ込んで反時計回りの回旋を呉れるが、熊代崩されながらも乗り越えて腹から畳に潰れる。

ここでタイムアップ。熊代、昨年の100kg級に続きこの100kg超級でも講道館杯を制することとなった。

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100kg超級メダリスト。左から2位の香川大吾、優勝の熊代佑輔、第3位の王子谷剛志と佐藤和哉。

【入賞者】
優 勝:熊代佑輔(ALSOK)
準優勝:香川大吾(ALSOK)
第三位:王子谷剛志(旭化成)、佐藤和哉(日本製鉄)
第五位:太田彪雅(東海大4年)、斉藤立(国士舘高3年)
第七位:髙橋翼(作陽高3年)、小川雄勢(パーク24)

【グランドスラム大阪代表選手】
原沢久喜(百五銀行)、影浦心(日本中央競馬会)、熊代佑輔(ALSOK)、香川大吾(ALSOK)

熊代佑輔選手のコメント
「自分が色々考えて来た成果が出て良かったと思います。(-決勝は香川選手でしたね?)1つの壁となって若い世代に成長してもらえればということで、戦いました。今後の指導に生かせるような柔道が出来ればと思っていました。香川との試合で、嬉しい反面負けられないなという気持ちもありました。(-払巻込が決まりましたね?)ここを持ったら行ってみよう、というところが持てたので。最後は守ってしまい良くなかったですが。超級に関しては2人強い選手がいますが、なんとか食らいついていけるように頑張りたいと思います。」

【準々決勝】
佐藤和哉○GS技有・大外刈(GS2:33)△髙橋翼
香川大吾○横四方固(4:12)△王子谷剛志
太田彪雅○内股透(2:40)△斉藤立
熊代佑輔○背負投(2:22)△小川雄勢

【敗者復活戦】
王子谷剛志○GS大外刈(GS0:40)△髙橋翼
斉藤立○GS反則[指導3](GS0:37)△小川雄勢

【準決勝】
香川大吾○GS反則[指導3](GS4:36)△佐藤和哉
熊代佑輔○優勢[技有・出足払]△太田彪雅

【3位決定戦】
王子谷剛志○GS反則[指導3](GS2:21)△太田彪雅
佐藤和哉○優勢[技有・出足払]△斉藤立

【決勝】
熊代佑輔○優勢[技有・払巻込]△香川大吾

※ eJudoメルマガ版11月12日掲載記事より転載・編集しています。

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