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【eJudo’s EYE】男女14階級寸評・グランドスラムアブダビ評②

(2019年10月30日)

※ eJudoメルマガ版10月30日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】男女14階級寸評・グランドスラムアブダビ評②
→男子全試合結果 →女子全試合結果

文責:古田英毅

事実関係は既にニュースでお伝えしたので、各階級の代表争いと選手の評を、備忘録的にメモしておく。ぜひ①の技術評(「フォンセカ」に横分、あっという間に伝播する「使える技術」)と併せてお読み頂きたい。

■ 60kg級
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3位決定戦、ディヨルベク・ウロズボエフが「やぐら投げ」から小外掛に繋いで豪快な「一本」

東京世界選手権で準決勝まで進んだカザフスタンの2番手グスマン・キルギスバエフが優勝、代表争いを1段押し返した。ただしこの優勝はあくまで局地戦における勝利の一。階段を1つ登ったことには間違いないが、世界選手権の直接対決におけるスメトフ(同大会3位、今大会5位)勝利のインパクトと実績を押し返すには、このレベルの結果を徹底的に続けるしかない。2位のワリード・キア(フランス)は復調気配、ただし主戦場である「抱き勝負」で屈した決勝はいささか残念。このタイプの強者として立ち、例えば日本勢に伍せるようなレベルまで登れるかというと率直に言って厳しいと見る。

3位の2人は手ごたえありの大会。ヤゴ・アブラゼ(ロシア)は世界選手権銀メダリストのシャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)とスメトフを狩る大戦果で、今回も7位と不調の1番手ロベルト・ムシュビドバゼをもはやこの時点で逆転したのではと思われる出来。ディヨルベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)は「やぐら投げ」など大技を連発して結果だけでなく内容でも魅せた。外野から見ても、五輪のような特異な場では、手堅いルトフィラエフよりも一発があって人間的にも異常さを感じさせるウロズボエフのほうが向いているのではと感じた。

■ 66kg級
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決勝、マニュエル・ロンバルドが得意の肩車を決める。

マニュエル・ロンバルド(イタリア)が強くなっている。世界選手権で一皮むけたという印象、今大会は圧勝と言って良い出来だった。代名詞の肩車はもちろんだが攻防の端々が実に力強い。東京の3位決定戦では阿部一二三を見事に放りながら明らかな忖度判定で「一本」を取り消されて5位に終わったが、結果としてはこの選手を一段強くしてしまったのではと思わされた。アン・バウル(韓国)は3位であったが、足首負傷でそもそも背負投を掛けることすらままならなかった8月の世界選手権を考えれば十分な出来。「背負投に入れるか」というこちらのチェックポイントもしっかり満たし、同大会で敗れたヨンドンペレンレイ・バスフー(モンゴル)にも形上リベンジを果たし(立ち姿勢から危険な形で関節を極めたことによるダイレクト反則負け)てと、本人も復活の手ごたえを感じた大会ではないだろうか。そしてアンが悪くなかったゆえに、そのアンを強烈な大外落でまさに畳に埋めたロンバルドの強さがさらに際立った形。アンと代表を争う立場にある世界選手権銀メダルのキム・リマンは初戦敗退で、これまで1年間丁寧に積み上げて来たアドバンテージをこの1大会で壊してしまった印象。おそらく韓国の強化陣は「やはりアン」との思いを強くしているはず。次回の派遣は正念場である。

そのキムに勝ったキューバのオルランド・ポランコは3位入賞。倒した面子の豪華さ(キムを「指導3」、ヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)を「指導3」)を考えれば相当強いはずなのだが、試合ぶりは「強いのか弱いのかよくわからない」というのが率直な感想。やりとりしているうちに相手に「指導」が溜まり、攻めて来ぬとみれば意外な強さの大内刈が飛んでくる。以後の観察が必要な選手。

■ 73kg級
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73kg級決勝、ビラリ・ジログルの小内巻込「技有」

ビラリ・ジログル(トルコ)が優勝。先日の世界ジュニアを見ていても思ったことだが、いまや世界ジュニアの男子は翌年の世界選手権でメダルに絡むくらいの潜在能力がないと優勝はおぼつかない。昨年のジュニア王者ジログルの躍進がまったく不思議なく受け入れられたこのトーナメントから改めてジュニアのレベルアップを感じた次第だ。

ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)は5位と不出来であったが、この人のワールドツアーの出来はもともとこんなもの。世界大会にのみ極端に強いという、フォーカスする試合のはっきりした選手だ。平時のワールドツアーにモチベーションがあるとすればヒダヤット・ヘイダロフとの代表争いのみと観察するが、そのヘイダロフが今回ついに81kg級に階級アップ。オルジョフとしてはもはや出る理由がないわけだ。むしろその中で、きちんと地力を見せた大会だったのではないだろうか。

復活を期した欧州王者トミー・マシアス(スウェーデン)は3回戦敗退。世界選手権以降はグランプリ・タシケント5位にグランドスラム・ブラジリア初戦敗退、そして今回の予選ランド落ちと完全に悪いスパイラルに入っている。研究されているという事情はあるのだろうが、試合ぶりからは精神的な自家中毒の気配を感じた。アキル・ジャコヴァ(コソボ)も大ベテランの35歳ディルク・ファンティシェル(ベルギー)に小外刈で敗れて3回戦敗退、ツェンドチル・ツォグトバータル(モンゴル)は初戦でベフルジ・ホジャゾダ(タジキスタン)を破る意地を見せたがベスト8で陥落、敗者復活戦では瞬間的にパフォーマンスを上げたオルジョフに一本負けを喫して7位に終わった。ファビオ・バジーレ(イタリア)は初戦敗退、デニス・イアルツェフ(ロシア)も3回戦敗退、ジュニア世代期待のヴィクトル・ステルプ(モルドバ)と代表復活を期すガンバータル・オドバヤル(モンゴル)はともにジログルに食われて入賞なし。人材豊富で、モチベーションやコンディション、組み合わせ配列でいとも簡単に様相が変わる73kg級強豪層の混戦ぶりがよくわかるトーナメントだった。

■ 81kg級
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左から2人目が優勝のイ・ムンジン。もちろんこれがツアー初優勝。

ワールドランキング406位のイ・ムンジンが驚きの優勝。準々決勝でドミニク・レッセル(ドイツ)、準決勝でヴェダット・アルバイラク(トルコ)、決勝でルカ・マイスラゼ(ジョージア)とこの3人の強豪からすべて「一本」で勝利。倒したメンバーの豪華さを見れば今後ツアー上位の常連に座ってまったくおかしくないところだが、大混戦状態の81kg級中堅層では「相互研究の中にあっても勝ち抜ける」かどうかが非常に大事。それが地力なのか、引き出しの豊かさなのか、戦術性なのか、学習能力なのかは選手によって変わるが、とにかく相手に知られた上でなお勝ち抜くだけのものを体内に抱えているかどうかが重要。今回が実質初お目見え、かち決勝のマイスラゼ戦の一本勝ちがいずれも後の先の隅落「技有」による合技であったという点も考えると、いまだこの点は未知数。一定以上の力があることは間違いないが、真価が問われるのはこれからである。今のところライバルになるはずの旧一番手イ・センスほどの魅力を放つには至っていない。

世界選手権3位の若手の旗手・マイスラゼは決勝で敗退。この世代のジョージアはタト・グリガラシヴィリに世界ジュニア王者のウラジミール・アハルカツィと人材に事欠かないが、この若手3人がいずれも強引すぎる前技を捲られて敗戦していることはなかなか興味深い。だから伸びて来た、と解釈することも可能ではある。この先戦い方に鑢を掛けられる選手とそうでない選手で少々差がついてくるのではないだろうか。

3位のドミニク・レッセル(ドイツ)は後の先の巧い試合巧者の域を脱して、時折見せていた思い切りの良い攻撃の頻度が上がった印象。この先もう一段番付を上げる予感が漂った。マイスラゼとレッセルに連敗のアントワーヌ・ヴァロア=フォルティエはやや息切れの感あり。コンディションを作り直して臨むであろう2月の欧州シリーズで真価を見極めたい。

フランク・デヴィト(オランダ)は3位決定戦でまたもや帯取返を自爆。いったい何度同じことを繰り返すのか。そもそも今の帯取返ブームに先鞭をつけたのはデヴィト、その選手がクロスグリップで単に間を詰めれば(デヴィトの技は常に「作り」に欠ける)相手がこの技を待ち構えているのは当たり前。「組み方を強化しようとした」「しかし自分の持ち味は思い切りの良さなので、考えるのをやめた」との旨のインタビューを見たことがあるが、これでは今後も、控えめに言って成績は安定しない。これだけの地力があれば今後も強豪であり続けるだろうし時折ツアーで好成績を残すことも間違いないが、これぞと狙った大会で勝つのは難しいだろう。

ヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)は7位。敗者復活戦でデヴィトに大内刈を食らって大会を終えたが、ハサン・ハルモルザエフ(ロシア)を片手絞「一本」に仕留めるなど輝かしい戦果を挙げて見事ベスト8入り。81kg級第1戦としては(正確には1週間前の世界軍人選手権がデビュー戦、3位)十分過ぎる出来だろう。この先81kg級で戦っていける目途が立った大会と評価したい。国内事情を考えれば少なくとも五輪に出るところまでは確実と考える。

■ 90kg級
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90kg級準決勝、ニコロス・シェラザディシヴィリがネマニャ・マイドフを一瞬で跳ね上げて内股「一本」

世界選手権で失意の3回戦敗退に終わったニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)が、3週間前のグランドスラム・ブラジリアに続いて優勝。世界選手権の評における見立てに従えば「柔道自体が強いタイプ」による陣地の押し返しがいよいよ本格化したということになる。準決勝で戦術派の極ネマニャ・マイドフを長い脚一本で縦回転させた内股「一本」などは真骨頂だった。

2位のガク・ドンハン(韓国)は、世界選手権に続いて完全内股一辺倒、かつて代名詞であった担ぎ技をほとんど1度も仕掛けなかった。ここはどう考えても担ぐべきだろうという局面でも動作すら起こさず。おそらく怪我をしているのだろうと見立てておくしかない。ただしその内股の切れ味は抜群。組み手の巧さもちょっと段違いで、ゆらめくような間合いの外し方、呼吸のずらし方や一瞬で自分の優位に持ち込む誘い込みなどは他と明らかにレベルが違う。跳ねて、担げて(本来)、組み手が巧い。柔道家としての魅力はますます増している。

アヴランディル・チリキシヴィリ(ジョージア)が3位入賞。90kg級世界でもどうやら呼吸が出来るようになってきた。このチリキシヴィリとマイドフの3位決定戦はかなり面白かった。最後は「指導3」で決した試合なのだが、勝負が決まったシークエンスではチリキシヴィリの前技掛け潰れをアフターでマイドフが抱いて突進しようとしたところ、先んじてこの動きを予測したチリキシヴィリがさらりとかわす。地味な場面だったがマイドフが世界選手権で散々見せた「縺れ際の抱き止め隅落」を十分理解しての攻防、旨味たっぷりだった。ちなみにこのシーンはチリキシヴィリのアピールにより、マイドフのベアハグ反則が確定。「指導3」でチリキシヴィリが勝利を得るに至っている。

■ 100kg級
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決勝を戦うチョ・グハン。

チョ・グハンが優勝。その色気ある戦いぶりについてはニュースと「技術評」で濃く書かせて頂いた通り。アルマン・アダミアン(ロシア)とゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)ら旬の欧州系パワーファイターをいずれもしっかり退けたのだからまさに文句なし。決勝は完封、コツォイエフも好選手だが得意の腰技に入り込める気配まったくなく、またもし仮に入ったとしてもチョを持ち上げる絵は到底想像し難かった。戦術の引き出しの数がまったく違う印象だった。

■ 100kg超級
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決勝、ロイ・メイヤーが絞技から抑込技に繋ぐ練れた連携。

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3位決定戦、キム・スンミンの谷落「一本」。完全に誘っていた。

ロイ・メイヤー見事優勝。決勝のヤキフ・ハモー(ウクライナ)戦はスコアからすれば決して楽勝ではないのだが、その立ち振る舞い常に自信に溢れ、まったく危うさを感じさせなかった。世界選手権のメダル獲得で一皮剥けた印象。

この決勝ではメイヤーの「立ちから寝」の連携と寝技の確かさが光った。相手の伏せ際をすぐさま絞め、絞めを効かせたまましっかり抑え込んだ。オランダ勢は男女ともに寝技に進境著しい。相当の強化が透けて見える。

3位の32歳キム・スンミン(韓国)が今回も非常に面白かった。かつての典型的重量級ファイターが年々技を積み、引き出しを増やして柔道の幅を広げていることはかねてお伝えして来たとおりだが、今回は横落を積極投入。実に楽しげに試合をしていた。東京世界選手権は当日エントリー取り消し、立場上は19歳キム・ミンジョンの追撃を受ける位置にあるのだが、むしろ長年勤めあげた1番手の地位からようやく解放されたと言わんばかりの自由闊達な試合ぶり。3位決定戦では片手状態でユーリ・クラコヴェツキ(キルギスタン)を明らかに払巻込に誘って待ち構え、見事嵌めての谷落「一本」。この人の最高成績は2011年パリ世界選手権の銅メダルだが、今のほうが遥かに面白い柔道をしている。

5位のオレクサンドル・ゴルディエンコ(ウクライナ)が3位決定戦で見せたアクションは今大会の、マイナス方向での白眉。剛力のウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)を相手に、自分にはこれしかないからとばかりに腰高の小外掛。コカウリは腰を切ることすらなく、どうしても欲しい密着と「股中」を自動的に得て内股一撃「一本」。相手の力と自分が出来ることの計算が出来ていない明らかな思考停止、78kg超級決勝におけるアン=ファトゥメタ・ムバイロ(フランス)の行動(まったく同じ)と並んでこの豪華大会におけるワーストアクションであった。ここ1年頑張って来たが、ハモーが復活したことで「お役御免」の可能性高し。もうこの先は国を背負うような立場を与えられることは難しいのではないかと思われる。

■ 48kg級
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決勝の崩上四方固「一本」

ビロディド強し。このレベルでは躓きようがないのだが、それでも「誰もが来るとわかっている」はずの横三角からの崩上四方固で仕留めた決勝などはやはり見事。世界選手権決勝で見せたメンタルの揺れをどう消化し、いかに試合に生かしてくるのかを見たかったところだが、参加者のレベルからしてこれは叶わぬ望みであった。

■ 52kg級
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52kg級決勝、ケルメンディの谷落「一本」

ケルメンディ優勝。決勝の強敵オデッテ・ジュッフリダ(イタリア)戦の勝利は見事だった。ジュッフリダは粘戦も、試合時間9分に迫る展開に焦れたか明らかに雑な払腰。これをケルメンディが確実に谷落「一本」に捉えた。短気を起こしたジュッフリダが弱点であるメンタルの脆さを見せる一方でケルメンディは最後まで冷静。冷静であること自体が強さ、と確信し切ったような進退にはかつての「絶対王者」の貫録が感じられた。ジュッフリダは足技に進境著しいが、力関係で上の相手にはそもそも繰り出すこと自体がまだ厳しいという印象。決勝の進退に危険な匂いは感じられなかった。

3位のチェルシー・ジャイルス(イギリス)は世界選手権に続いて存在感発揮。ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)もしっかり隅落「技有」に仕留めた。今後も、少なくともツアーの上位に絡み続けるだろう。5位のエストレーヤ・ロペス=シェリフ(スペイン)は2回戦で見事な払釣込足「一本」を披露。これは「技術評」に載せているのでぜひ動画をご覧頂きたい。

テティアナ・レヴィツカ=シュクヴァニ(ジョージア)が5位入賞。ジョージアはどんどん女子選手を試合に投入している。世界ジュニア57kg級を制したエテリ・リパルテリアニをはじめ、ジョージア女子の動向は今後も注目。

■ 57kg級
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キム・ジンアが豪快な投げを連発

滅多に試合に出てこないキム・ジンア(北朝鮮)が凄まじい強さで優勝。袖釣込腰に体落と今大会も投技が冴えた。今季はアジアパシフィック選手権、グランプリ・フフホトに今大会とここまで無敗。間違いなく世界大会でメダルに届くレベルの選手と思われるが、ただし柔道が綺麗ゆえ、日本勢を脅かすに至るかどうかとなると疑問。直近の2敗がいずれも日本勢で、本格派を泥沼の粘戦に引きずり込むのが得意な玉置桃(アジア大会)、戦術面の引き出し豊かな芳田司(バクー世界選手権)であることは、逆に納得できる。

サハ=レオニー・シジク(フランス)は2位に終わったが、グランドスラム・ブラジリアの躓きを乗り越えて再び成長軌道に乗り始めたと見る。今大会では素晴らしい払釣込足を2発決めてモノの良さを見せつけた。

韓国勢は冴えず。世界選手権を欠場した1番手(のはず) クォン・ユジョン(韓国)は2回戦でアレクサンドラ=ラリサ・フロリアン(アゼルバイジャン)に一本負け。キム・ジャンディは3位決定戦でそのラリサ・フロリアンに勝利して銅メダルを確保したが、準々決勝のシジク戦は完敗。人材打ち揃う57kg級のトップに伍すことは少々難しいのではと思われた。

■ 63kg級
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トルステニャクは安定の強さ

ティナ・トルステニャク(スロベニア)が順当に優勝。飛び抜けた出来ではなかったが、危なげなく優勝を決めた。48kg級同様第1シード選手が突出した「一点豪華主義」のトーナメントで、語るべきトピックは多くない。手堅さを増したヤン・ジュインシア(中国)、グランドスラム・ブラジリアで優勝した勢いそのままに生気溢れる戦いを披露したケトレイン・クアドロス(ブラジル)の、両ベテランのメダル獲得が目立ったくらいか。期待されたチョ・モッキ(韓国)はヤンに「指導3」で敗れ予選ラウンド敗退、韓国はこの階級も苦戦が続く。

■ 70kg級
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決勝、ポリングの大外刈「一本」

世界王者マリー=イヴ・ガイ(フランス)があっさり3回戦敗退。バルバラ・マティッチ(クロアチア)を相手に組み際明らかに気を抜き、下がりながら小外掛を食らって一本負けを喫した。体つきから変わってこの1年で明らかに強くなったガイだが、まだまだ精神面の不安定さは払拭出来ていない。

優勝したキム・ポリング(オランダ)は素晴らしい出来。東京世界選手権で躓いたが、無事に今季の基調である上昇軌道に乗り直した大会となった。3位のエルビスマル・ロドリゲス(ベネズエラ)とミヘイラ・ポレレス(オーストリア)はいずれも逞しさが増した印象。昨年後半からにわかに活気づいた70kg級上位戦線であるが、今年伸びたのはこの2人ではないだろうか。昨年躍進して上位常連となったアンナ・ベルンホルム(スウェーデン)やマルゴ・ピノ(フランス)、サリー・コンウェイ(イギリス)らに続く、次代の波が寄せつつある印象を受けた。

■ 78kg級
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優勝は長身選手クララ・アポテカー。

70kg級同様かなり密度の濃いメンバーであったが、その中を身長187センチの長身選手クララ・アポテカー(スロベニア)が優勝。ついこの間までは背が大きいがどの技術も完成度が低い、という不器用型でどこまで行っても脇役の域を脱せまいと予想していたのだが、地力が閾値に達するなり意図した攻撃や動きがしっかり嵌るようになり、主役級の活躍を見せるようになった。同じく長身で売りだし中のロリアナ・クカ(コソボ)にもしっかり一本勝ちして、階級内における「この枠」の第一人者の座を確定させた感あり。

世界王者マドレーヌ・マロンガ(フランス)は準々決勝で2位入賞のルイーズ・マルツァーン(ドイツ)に苦杯。ここから立ち直って2連続一本勝ちでぶじ銅メダルは確保したが、70kg級の王者ガイ同様不安定感は払拭できず。逆に、70kg級で新井千鶴が成し遂げた2連覇がどれほど高いハードルであったかを思い知らされた、フランスの世界王者2人の陥落劇だった。

韓国勢はイ・ジョンギュン(韓国)とユン・ヒュンジ(韓国)を送り込んだがイは5位、ユンは初戦敗退。上昇の気配が見えてこない。

■ 78kg超級
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決勝、ハン・ミジンの内股「一本」

ハン・ミジン(韓国)が優勝。見事な結果であるが内訳はパウラ・クラガ (ポーランド)に内股「一本」、エリザヴェータ・カラニナ(ウクライナ)に足車「一本」、ジアン・ヤナン(中国)に合技「一本」、ラリサ・セリッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)に隅落「技有」に、アン=ファトゥメタ・ムバイロ(フランス)に内股「一本」と、倒したビッグネームはセリッチ1人のみ。身長2メートルのカラニナを足車で一発投げたことは高く評価したいが、トーナメントの主役を挙げるならむしろ銀メダルのムバイロのほうで、こちらが挙げた首級はアナマリ・ヴェレンセク(スロベニア)、マリア=スエレン・アルセマン(ブラジル)、キム・ミンジョン(韓国)と錚々たるもの。ハンの勝利はムバイロがトーナメントを荒らし捲った挙句、決勝で決定的なミスを犯した(100kg超級のゴルディエンコと同じく、雑な小外掛をそのまま内股で放られた)という事情に多分に負っており、額面通りに評価するのは少々早計。

ただし、ライバルのキム・ミンジョンの出来が悪すぎたこともあり、どうやら韓国の1番手がこのハンに移ったということは言って良いのではないかと思われる。我々は東京世界選手権において韓国女子が全階級に亘り1番手を出し渋ったと観察していたのだが、今大会における57kg級のクォン・ユジョンや63kg級のハン・ヒジュ(※世界選手権には出場)とチョ・モッキ、78kg級の2人やこのキム・ミンジョンの低調さをみるにつけ、単に1番手が入れ替わっていた、あるいは韓国の女子は予想以上に悪い状態にあったのではないかと思えて来た。男子は負傷者だらけ、女子は1番手クラスが崩壊。一部のスター選手の活躍に救われているが、今年の韓国は大苦戦である。

東京世界選手権でも代表を務めた(2回戦敗退)ムバイロ、準決勝までの戦果は見事であったが決勝は信じがたい失策で敗退。負傷の噂のあるジュニア世代の旗手ホマーヌ・ディッコの存在を考えればなんとしてもこのあたりで成績を残しておきたかったところで、惜しい結果であった。ただしこのミスはケアレスミスというよりも、メンタルや戦術遂行力といった根源的な資質の不足を感じさせるもの。外野から見れば選手としての質はディッコの方が遥かに高い。フランスはかつてあの戦いぶり不安定なエミリー・アンドルを五輪金メダリストまで押し上げた来歴があり、軽々に断ずることはできないが、最終的にこの国の代表はディッコが務めることになると見る。

※ eJudoメルマガ版10月30日掲載記事より転載・編集しています。

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