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【eJudo’s EYE】「フォンセカ」に横分、あっという間に伝播する「使える技術」・グランドスラムアブダビ評①

(2019年10月27日)

※ eJudoメルマガ版10月27日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】「フォンセカ」に横分、あっという間に伝播する「使える技術」・グランドスラムアブダビ評①
文責:古田英毅

世界選手権の最終日評と総評を書きかけのまま寝かせていることに相当な罪悪感を感じているのだが、目を瞑って頂き。たとえ短くても「eJudo’s EYE」を都度発信するという新方針のもと、アブダビ大会についても簡単に感想を書いてみたい。各階級の勝敗の大枠は既にニュースで配信済みなので、この項では技術的なトレンドについて。そのあともう1本、各階級の所見メモという2本立てでお送りしたい。

■ 「フォンセカ」大流行、あっという間に伝播する「使える技術」
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担ぎ技で世界の頂点に立ったフォンセカは足業の手練れでもある。

まず技術について。国際大会全ての試合の映像に誰もが簡単にアクセスでき、「使える」技術はあっという間に広まるというこの時代。世界選手権から2か月経過したこの大会でもっとも「来ている」ことがわかりやすかったのは、我々が編集部内で勝手に「フォンセカ」と呼んでいた技術。具体的には(右)大内刈と、(左足の)払釣込足の連携だ。視認しただけで4つか、5つは決まっていた。既にアップされているものから2つピックアップしてみたので、下記リンクから動画をご覧頂きたい。

→女子52kg級2回戦 エストレーヤ・ロペス=シェリフ(スペイン)○払釣込足(0:51)△カチャコーン・ワラシハ(タイ)
(1:20~)
→女子57kg級3回戦 サハ=レオニー・シジク(フランス)○払釣込足(0:56)△レイラニ・アキヤマ(アメリカ)
(1:25~)

命名の由来はもちろん東京世界選手権100kg級金メダリストのジョルジ・フォンセカ(ポルトガル)から。このところ担ぎ技で勝ちまくっているフォンセカであるが、もともとは成績残し切れずとも切れる足技でインプレッシブな「一本」を量産していた業師。この「大内刈で下げて、払釣込足(あるいは出足払)で仕留める」は彼が度々見せて、「海外の選手には珍しい」(当時としては、である)と常々我々を唸らせていた技術。この同時多発的流行、世界王者になってあらためて周囲が彼の来歴を掘り起こし、その有用性に気付いたということであろうか。下記に2016年グランプリ・デュッセルドルフで見せた彼の一撃の動画へのリンクを貼っておく。

→2016年GPデュセルドルフ2回戦 ジョルジ・フォンセカ vs ダニロ・パンティッチ

これは出足払の形で決まっているが、まるで日本の持田達人氏を彷彿とさせるような鮮やかで確信的な連携。ポルトガルのコーチが日本出身の角田豪氏であることも考えると、日本→ポルトガル→スペイン、フランスというような伝播経路も夢想されて非常に楽しい。

それにしても。東京世界選手権でもあらためて強く感じたのだが、海外選手に足業の手練れが劇的に増えた。4、5年前はフォンセカやユーリ・クラコベツキ(キルギスタン)、オトーヌ・パヴィア(フランス)らが決める足技の評として「まるで日本人のような」という表現を度々使わせて頂いたのだが、いまや「切れる足技」はまったく珍しいものではなくなった。日本のアドバンテージ増々減じて来た印象が否めない。

■ 「次に来るはず」横分は標準技術化すると予想
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ルカ・マイスラゼ

もう1つピックアップ。編集部内で「次はこれが来るはず」とここ1年騒ぎ続けている横分も見られた。「足取り禁止」以降横車や抱分など技術の復古が盛んな国際柔道であるが、ルールの変遷や、ガップリ深く組んで力を伝え合う今のヨーロッパ柔道の流れを考えるとそもそもこの技が流行らない理由がないのである。国内では、今年3月の関東選手権で加藤博剛選手が決めてみせ、大いに騒がれた。我々は「今の競技の流れを考えればこんな方法が用いられるのではないか」と作りや掛けのアレンジを具体的に想像しながらこの技が「来る」のを待っているところなのであるが、今回はジョージア81kg級のホープ、東京世界選手権銅メダリストのルカ・マイスラゼが魅せてくれた。

→男子81kg級準々決勝 ルカ・マイスラゼ(ジョージア)○GS合技[大外刈・横分](GS0:48)△フランク・デヴィト(オランダ)
(07:50~)

まさにガッチリ肩越しに相手を捕まえるタイプの選手が、力を伝えやすいパワーファイター相手に決めた典型的な一撃。鮮やかである。おそらく今後は一撃必殺の必殺技というよりは隅返や横車、帯取返や浮技というような深く背中を取った体勢から放つ捨身技の選択肢の一として、普通に人口に膾炙していくものと想像する。

横分についてもう少し。一部の日本選手の”蹴り出す”巴投の理合はほぼ横分である。膝を伸ばして巴投の形を取るのも非常に理に叶っていて実戦的。横分をより精度高く決めるためにアレンジしたらここに収着するのではと(おそらく出来上がった過程はこれとは違うと推察するが)唸ってしまうくらい。これについては近々1本独立したコラムとして書いてみたいと思っている。

■ 体落は完全復古
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世界選手権81kg級3位決定戦で決まったアントワーヌ・ヴァロア=フォルティエの体落

ルールと技術トレンドに対して必然性のある技術ということでは、体落も挙げておきたい。今回は男子で5回、女子で5回これが決まっている。背負投や内股のようなメジャー技に比べれば少ない数字だが、かつて一線からほとんど消えかけた技術であることを考えると、1大会で10発はかなりのもの。

東京世界選手権評(81kg級評のアントワーヌ・ヴァロア=フォルティエのくだり)でも書かせて頂いたが、二本持ったまま掛けられ、返される可能性が低く(ちなみに背負投が返されにくい技だとの主張をウェブ上で見かけたが、これは現状のトレンドには即していない。2012年以降の後の先技術はまさにこの「背負投をどう返すか」というトピックを軸に発達して来たという観察すら可能なくらいで、背負投へのカウンター技術はもはや分厚く、返し技の来襲を想定せずに仕掛けることは難しい)、続けて仕掛けられて、他の技との連動性が高い。今大会からは、この技の得意なユール・フランセンの決めた一撃を紹介する。

63kg級2回戦 ユール・フランセン(オランダ)○体落(2:45)△ラーケ・オルセン(デンマーク)
(3:30~)

ちなみに、今大会で体落が決まった回数を男女合わせて10回と書かせて頂いたのだが。実はカウントし切れていない「体落に類する技術」がかなり増えており、これを含めると出現頻度はさらに上がる。重量級の選手が使うことが多いこの技法、決まり技名称としては払腰や足車としておくしかないのだが、詰めることで相手を前隅に転がしており、理屈としては体落に近い。脛体落とでも呼ぶべきか。現状自分が持っている武器をアレンジして前述体落の利点を生かさんと工夫したらこの形に落ち着いた、という印象。世界選手権以来「たまたまそうなったのかな」と観察して流すことを重ねるうち、これがあまりにも多いので確信的なものではないかと今回思い至った次第。大外刈を起点にした前隅に放る技術(払腰や足車)が、この形に向かって収斂しつつあるという見方も出来る。

技の伝播サイクルは、年を追うごとに早くなっている。かつて髙藤直寿が支釣込足の「足が持てない」時代のカウンター技術として持ち込んだ深く引き寄せての浮落が標準技術として全階級に行き渡るまでには2年近くの時間が掛かったものだが、世界選手権からここまでの2か月で早くもトレンド入りした技も多数。もはや「ビッグゲームだけを見る」では世界の流れは追い切れない。まことに面白く、そして気の抜けない時代である。

■ またもや工夫見せたチョグハンの柔道は色気たっぷり
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今大会も背負投連発で勝ち抜いたチョ。(写真は決勝)

最後に新たな「工夫」が見られるという観点から1つ。ニュース記事でも少し触れさせて頂いた、100kg級チョ・グハン(韓国)の片襟背負投である。相手の右襟を、両手で高低差をつけて握り、かつ上下に煽る際には両手をそれぞれ上下互い違いに動かす(通常のあおりは両手を同時に上下に動かす)。

100kg級3回戦 チョ・グハン(韓国)○背負投(1:32)△グリゴリ・ミナシキン(エストニア)
(1:15~と、2:27~)

ベースの戦い方は変えず、あくまで引き出しの1つとして繰り出してくるのがいかにもチョらしい。そしてなるほど、高低差をつけて握れば反転した後もしっかり相手の上体を固定できる。「互い違いのあおり」は持った手を切らせないためなのか、はたまた片襟反則を回避すべく審判に目くらましを掛けているのかはわからないが、非常に面白い。こういう「やられればわかるが、なかなか思いつかない」、少し背伸びすれば届く工夫はチョの真骨頂。いったいどういう方向性で、どんな密度で工夫を重ねているのか。この選手からもやはり目が離せない。

そしてやはり国際大会は面白い。もっと皆に見てもらいたい。今の上位対戦は互いに相手が何をしてくるかを十分理解した上で戦うので、事前情報があるとないとでは面白さのレベルがまったく違う。それぞれの戦いに背景があり、繰り出す技術に文脈があり、続けてツアーを見ていると感じられる「流れ」がある。見れば見るほど面白いのだ。

国際大会に興味を持ってくれる層は確実に増えて来たが、記事へのアクセス数などを見る限りまだまだ「自分の回りの大会」である国内大会にのみ興味を持つファンが大多数という印象。「この世界選手権からなんとなく見始めた」という競技初心者や一般のスポーツファンが実にすらりと海外選手のファンになってくれる(私の回りではフォンセカやメイヤー、ヨンドンペレンレイが人気だ)一方で、「やる柔道」の出身者はどうしても自分と地続きの日本選手の応援というフィルタを通して試合を見がち。メルマガ版を購読してくださっているディープなファンの方々には、ぜひガイド役を務めて頂き、周囲の柔道好きたちをこの魅力的なワールドツアーの世界に誘って頂きたい。日本選手が1人も出ないこのアブダビ大会が極めて豪華で面白いものであったことで、一層その感を強くした次第である。

※ eJudoメルマガ版10月27日掲載記事より転載・編集しています。

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