PAGE TOP ↑
eJudo

【プレビュー】優勝候補は先鋒にエース投入の富士学苑、大型揃えた敬愛と朝飛真実擁する桐蔭学園凌いで「三冠」制覇狙う・第68回インターハイ柔道競技女子団体戦展望

(2019年8月7日)

※ eJudoメルマガ版8月7日掲載記事より転載・編集しています。
【プレビュー】優勝候補は先鋒にエース投入の富士学苑、大型揃えた敬愛と朝飛真実擁する桐蔭学園凌いで「三冠」制覇狙う
第68回インターハイ柔道競技女子団体戦展望
→第68回インターハイ柔道競技組み合わせ(公式サイト)

文責:古田英毅

eJudo Photo
三冠に挑む富士学苑高。写真は今回の本登録3人で全勝した昨冬の招待試合シリーズ時。

eJudo Photo
敬愛高は重量3枚で頂点獲りを狙う。写真はこちらも今大会の本登録3名で戦った若潮杯武道大会時。

高校女子の「三冠」大会はそれぞれがまったく違うレギュレーションで行われる。どの大会でも常に問われるのは総合力ということなのだが、体重無差別3人制点取り試合×代表戦任意選出、という方式で行われるこのインターハイは少数精鋭型のチームがパフォーマンスしやすい大会であり、そしてなにより現状3大会のうちもっとも「絶対的なエースの保有の有無」の意味が大きい大会であると言っていい。トータル3ポジションしかなく1点の価値が比類なく重い、かつ最大(代表戦を含めて)エース1枚で2点獲得までの仕事を為し得るこのインターハイではエースの質と、そしてその配置が決定的な要素になるのだ。

というわけで例年この女子団体戦は配列開示を待ってからの展望リリースということになっているのだが、この事情を頭に置いた上で、まずは優勝を狙うレベルの有力校を簡単に紹介したい。

優勝候補筆頭はここまで全国高校選手権、金鷲旗大会を制して今大会で「三冠」制覇の偉業に挑む富士学苑高(山梨)。もともとは軽量級から重量級まで全方位性の選手がずらり揃った「粒」の厚さとしぶとさで勝負する総合力型のチームなのだが、ここに来てエースの黒田亜紀の取り味が増し、明確なポイントゲッターを得たことでチーム全体として一段高いレベルに登ったように見受けられる。平野友萌、瀬戸亜香里、そして63kg級の小齊穂奈美と、この無差別レギュレーションでもその陣容は非常に厚い。

対抗馬は、この「無差別3人」レギュレーションのインターハイを待ちに待っていた格好の敬愛高(福岡)。松澤佑栞と丸山みかのを軸に野地川友里、有瀬心里と重量級の駒を分厚く保有。こちらはワントップ松澤を押し立てるというよりも、「重量3枚」という厚みで頂点まで辿り着かんという少数精鋭型のチームだ。ただし金鷲旗大会ではこのチームの性格ゆえか、松澤を筆頭に強くはあるが突き抜けられない一種の閉塞感も感じられた。今代結成時からもっとも意識していたはずのこの本番・インターハイで本来の力を発揮できるかどうか。

eJudo Photo
エース朝飛真実を押し立てて、「狙える」陣容を作り上げた桐蔭学園高

皇后盃全日本女子柔道選手権大会出場の栄も得た今季の高校無差別王者・朝飛真実という大駒を押し立てるのが桐蔭学園高(神奈川)。70kg級の朝飛がチーム最重量、以下は63kg級の猪川そよ、57kg級の江口凛と長友瑠奈の4人で組む軽量集団だがその戦いぶり実に練れており、しぶとさと勇気のバランスが良く取れた好チームである。特に1年生江口の試合力の高さには目を見張るものがあり、朝飛以外の2枚の戦い方次第では2年ぶりの頂点取りが見えてくるかもしれない。

同じく皇后盃出場、朝飛と高校選手権無差別決勝を争った70kg級インターハイ王者・桑形萌花がエースを張るのが須磨学園夙川高(兵庫)。こちらも軽量チームだが、63kg級インターハイ王者畑田暁菜、57kg級の強者新名彩乃ら名だたる強者が脇を固め、ビッグタイトル奪取を虎視眈々とねらう。

これに78kg超級のV候補米川明穂を軸とする藤枝順心高(静岡)を加えたところまでが戦力的な一つの区切り。以降は佐藤星麗七を軸にしぶとく成績を残し続けている埼玉栄高(埼玉)、大成高(愛知)、長崎明誠高(長崎)、熊本西高(熊本)、1トップ型では八巻衣音を保有する広陵高(広島)などの名前が挙げられる。

eJudo Photo

そして最重要要素である選手配列であるが、非常に興味深いことに今大会は先鋒にエース格が集中した。別表に挙げた有力5チームだけでも富士学苑の黒田、桐蔭学園の朝飛、藤枝順心の米川といずれもワントップを持つ3校が一斉にこの戦型を採った。エースをどの位置に置くかには歴代なぜか「トレンド」があり、同年どのチームも揃ってしまう傾向にあるのだが、この依り代が先鋒になる年は非常に珍しい。

富士学苑は明確な意図あり。組み手手堅く守りが厚く、とにかくしぶとい選手が揃ったこのチームを他校が追いかける展開は非常に難しい。金鷲旗大会でもエース黒田を前に出して抜き役を担わせ、以降で殿戦を戦う形で優勝まで辿り着いたわけだが、まさに相似の発想であると考えていいだろう。追いかけるよりは追いかけさせるほうが得手、どうせリードして守る展開を考えるならば、最大の打撃力である黒田を他校のエース格とかち合う可能性が(中堅より)低い先鋒に送り込んで確実に取り、得意とする「殿戦」のフィールドを広く取ったほうが勝ちやすい、かつ代表戦になった場合の休息も最大限に取れる、と踏んでの策だろう。チームの特徴からして、理に叶った戦型である。

動機付けは一段消去法的方向にずれるが、桐蔭学園も意図としては似通っている。朝飛で取り、中堅を守り、出来得れば大将でもうひと頑張りする。不確定要素になり得る、不思議な試合力の高さのある全日本カデ57kg級王者江口凛を中堅ではなく大将に置いたのは、相手の駒のグレードが中堅より一段下がり、得点(あるいは引き分け)の可能性が大きくなると踏んでのことだろう。

あとは、桑形を補欠に残した須磨学園夙川高が、いかにこの戦況を噛み砕き、どのようなアウトプットを為すか。畑田暁菜、新井友那、新名彩乃のいずれも強者揃いで惜しい駒ではあるが、いずれの選手も「桑形をもっとも効果的な位置に置く」アドバンテージの大きさとは引き換えられない。大会全体の様相を左右しかねない「桑形の置きどころ」、まさに注目である。

以降はベスト8以上のカードを見極めるべく、各ブロックへの強豪の振り分けを簡単にチェックしておきたい。

■ Aブロック
上側の山は桐蔭学園高の勝ち上がりが濃厚。2回戦で東大阪大敬愛高(大阪)、3回戦で熊本西高(熊本)と山場が2つある厳しい戦いだが、東大阪大敬愛のポイントゲッター衣笠恵美子の配置が同じ70kg級の強者朝飛真実とぶつかる先鋒であることもあり、いずれの試合も朝飛の1点獲得をテコに順当に勝ち抜けるのではないか。

下側の山からは埼玉栄高が勝ち上がり、3回戦で桐蔭学園とベスト8入りを争うことになるはず。佐藤星麗七の位置は中堅でこれは得点の可能性が見込めるが、朝飛真実出動の先鋒戦は桐蔭学園の1点獲得が確実。大将の比嘉萌が軽量相手に我慢の利くタイプではなく、かつ江口凛が大型狩りを得意とする型であることからも、桐蔭学園が2点奪取、あるいは朝飛の1点をテコにしてしっかり逃げ切る可能性が高いのではないか。

■ Bブロック
上側の山は空白地帯。大成高がしぶとくベスト8まで勝ち上がってくると読んでおきたい。中堅松本りづがポイントゲッターとしてしっかり仕事を出来るかどうかが最大のポイント。1点確実に取ることで周囲の仕事を明確にして、着実に戦いを進めたい。

下側の山は須磨学園夙川高と、広陵高(広島)が3回戦で激突。中堅八巻衣音の仕事ぶり次第、桑形萌花の投入位置次第ではあるが、八巻がベストの働きを見せたとしても3ポジションすべてが厚い須磨学園夙川を崩すことは難しい。須磨学園夙川がしっかり上がるだろう。準々決勝の相手も中堅重心の大成であり、同じ理由でここは須磨学園夙川の勝ち上がりを推す。

■ Cブロック
富士学苑高の牙城に迫るだけのチームは見いだせない。下側の山には初戦で長崎明誠高対創志学園高(岡山)という好カードが組まれているが、ここを勝ち上がった長崎明誠が準々決勝に進み、これに勝利した富士学苑がベスト4入りを果たすというシナリオがほぼ確実視される。

■ Dブロック
敬愛高の出来、そしてこの重量3枚構成で臨むチームの実力を測る上で、3回戦の帝京高(東京)戦は見逃せない。勝ち上がり自体は揺るがないとみるが、特に松澤の取り味をしっかり見極めたいステージ。帝京の登録は先鋒から三谷桜、田嶋海佳、池田海実。補欠に1年生の全国中学校大会最重量級の覇者・大高ひかりを取り置いている。

下側の山からは藤枝順心高(静岡)の準々決勝進出が濃厚。敬愛戦は米川がしっかり取ることがまず大前提。このシナリオの場合、敬愛の以降2枚の攻撃力が「追いかける」状況でどこまで発揮されるのか、次戦の大山場・富士学苑戦に向けて貴重な観察の機会になるはずだ。

■ 準決勝~決勝
予想カードは、

桐蔭学園高(神奈川) - 須磨学園夙川高(兵庫)
富士学苑高(山梨) - 敬愛高(福岡)

第1試合のみどころは、前述した通り果たして須磨学園夙川が桑形萌花をいったいどこに入れて来るのか。これによって盤面解釈がまったく変わってしまう。金鷲旗大会の善戦を補助線に、先鋒に入れて朝飛と潰し合わせ、以降2戦の力比べで勝らんとするのか、それとも朝飛を前衛で泳がせ、後衛に桑形を入れて2点奪取を狙うのか。チーム全体としての対戦相性が桐蔭学園に(なぜか)優位ということもあり、このまっさらな状態での事前予測としては桐蔭学園勝ち上がりを推しておく形を採りたいが、桑形の配置を軸に意思統一がハッキリ出来れば、試合はどう転ぶかわからない。

第2試合は富士学苑を推す。敬愛が有瀬、あるいは補欠の野地川を繰り出す2択しか駒の選択がない先鋒戦はおそらく黒田の勝利が濃厚。以降の松澤と丸山であるが、バックグラウンドなしでいずれかが必ず勝利を得ねばならない個人戦であればともかく、金鷲旗大会を見る限りでは瀬戸と平野(あるいは小齊)を相手にしての追撃戦で得点をもぎ取るのは難しいのではないか。

というわけであくまでこの段階での予測であるが、決勝カードは

桐蔭学園高 - 富士学苑高

と見立てておきたい。

間違いなくこれが富士学苑にとっての今年度最難関試合。今大会、黒田の得点が事前に織り込めないカードはこの一戦のみ。そして何より、富士学苑にとって代表戦突入を避けたい唯一のカードがまさにこの桐蔭学園戦なのである。朝飛真実を相手に個人戦1試合の結果がそのままチームの浮沈を決める状況は、本来チーム全体の骨太さで勝負する型の富士学苑としてはなんとしても避けたい。そして中堅以降の2戦は失点の可能性こそ少ないが、特に大将江口は深追いすると何が起こるかわからない非常に面倒なタイプ。全戦引き分けで代表戦突入、あるいはその筋書きを避けんとの深追いでとんでもない事故を起こす、と隙の少ない今代富士学苑がこれほど負の条件分岐を想起しやすい対戦は、他にない。

実は勝負のポイントは富士学苑にとってはどうしても欲しい、桐蔭学園にとってはどうしても与えたくない中堅戦ということになるのではないだろうか。総合力で二冠を勝ち取った富士学苑が、少数精鋭型×ワントップ型の桐蔭学園を前に、三冠獲得に至る最後の試合でその最大のアドバンテージである「総合力」を試される。非常に面白い試合になるはずだ。

※ eJudoメルマガ版8月7日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る