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【レポート】東海大が筑波大との熱戦制して4連覇、全軍通じた作戦遂行力の高さ光る・第68回全日本学生柔道優勝大会レポート④決勝

(2019年7月20日)

※ eJudoメルマガ版7月20日掲載記事より転載・編集しています。
東海大が筑波大との熱戦制して4連覇、全軍通じた作戦遂行力の高さ光る
第68回全日本学生柔道優勝大会レポート④決勝
大会日時:2019年6月23日
会場:日本武道館
文責:古田英毅
撮影:乾晋也、辺見真也

→[記録]男子全試合対戦詳細(eJudoLITE)
→レポート①1回戦~3回戦
→レポート②準々決勝
→レポート③準決勝

■ 決勝
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4連覇は目前。決勝を前に円陣を組んで士気を高める東海大

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今年も決勝まで勝ち上がった筑波大

第68回全日本学生柔道優勝大会、決勝は昨年度大会と同じ顔合わせとなった。東海大(東京)と筑波大(関東)、再度の決戦である。

4連覇を狙う東海大はここまで無失点。2回戦で関西大を6-0、3回戦で順天堂大を6-0、準々決勝で山梨学院大を5-0、そして準決勝では今大会の台風の目・日本体育大をも5-0で下す圧勝。今年の全日本柔道選手権でベスト4まで進んだエース太田彪雅の得点力は絶対的、今大会においてはまさしく「誰とやっても獲る」最強カードと評して間違いなし。後藤龍真、松村颯祐、そして核弾頭役になり得る村尾三四郎ら続く層の攻撃カードにまだ若い選手が多く、「重量級の大砲をずらり揃えた」というような豪華陣容とまではいかないが、それでもその戦力の厚さは他の追随を許さない。

一方の筑波大は2回戦で東洋大を4-1、3回戦で同志社大を7-0で下すと、準々決勝は明治大を3-2で振り切り、準決勝の国士舘大戦では6戦連続の引き分けを受けた大将田嶋剛希が今季のグランドスラム・デュッセルドルフ100kg級王者飯田健太郎を豪快な大外刈「一本」に仕留める劇的展開の末にスコア1-0で勝利を決めている。純戦力的には東海大の陣容に一歩譲るが、体格個性に凹凸ありもこのチームのカラーはポイントゲッターの田嶋剛希と関根聖隆の戦いぶりに集約されている。それは異常な勝負力の高さ。64回大会では東海大の連覇を止め、昨年度大会では代表戦の土壇場まで追い詰めたこの「勝負力」をテコに、そして準決勝の劇的勝利の勢いを背に、4年ぶり2度目の頂点を目指す。

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オーダー順が開示される

両軍がこの大一番に送り込んだ決戦メンバー、そして配列は下記。

東海大 - 筑波大
(先)立川新 - 佐々木卓摩
(次)清水拓実 - 田嶋剛希
(五)村尾三四郎 - 石川竜多
(中)星野太駆 - 横内晋介
(三)松村颯祐 - 上野翔平
(副)太田彪雅 - 千野根有我
(大)後藤龍真 - 関根聖隆

ともに準決勝を戦ったメンバーを保持、かつ配列をドラスティックに入れ替えてきた。
東海大は前戦で斬り込み役を担った後藤龍真を大将に起用。松村颯祐、太田彪雅、そしてこの後藤と信頼できる3枚で後衛ブロックを固めた。太田を大将ではなく副将に前出ししたのは筑波大の勝負力を警戒して、代表戦突入の可能性を考えての措置か。先鋒には73kg級ながらもっとも安定感のある立川新を送り込み、ここから重量(清水拓実)、攻撃カード(村尾三四郎)、重量(星野太駆)と属性を交互に繰り返す形で前衛ブロックを構成した。オーダー意図を読む1つの方法として「どうブロックを作るか」という視点があるわけだが、立川先鋒起用とこの属性を「混ぜた」(吉兆いずれもハッキリした結果を企図しにくく、差がつきにくくなる)3枠を構成するのが、小回りの利く相手には思わぬ失点を喫しやすい重量カード2枚であることを考えれば、これは「前で耐えて」「後で捲り、あるいはまとめる」戦型と考えていいだろう。もし当たりが悪くても大差をつけさせず(かつ良ければリードは十分可能)、後ろには信頼できる攻撃カード3枚をまとめて、状況悪ければスクランブル体勢の連続攻撃、リードで回って来れば手堅く逃げ切り、と採り得るシナリオに流動性を持たせた。例えば、「取れるが取られる可能性もある」カードを先鋒から3枚纏めて切る「性善説オーダー」で臨んだ第62回大会時とはくらべものにならない、練れた采配。同時に、清水に星野と属性の重なる典型的な重量選手2枚を同時に「使わざるを得ない」実はかつかつの戦力の中で採り得る策として、かなり巧みな用兵である。

一方の筑波大のトピックはまず田嶋剛希の次鋒起用と、関根聖隆の大将起用。前で取って、中で耐えて、最後は誰が相手でも「前の担ぎと後ろの刈り」の組み合わせだけで一方的に試合を持って来る関根の勝負力に賭けようという布陣だ。続くトピックは佐々木卓摩の先鋒起用で、これはおそらく立川投入を読んでの措置。体格で上を行きかつ機動力で負けない佐々木は、立川にとっては関根と田嶋以外ではもっとも面倒な相手。

オーダー開示から試合開始までは僅かの時間しかない。配列が大掲示板で発表された瞬間の率直な感想は「筑波にとっては悪くない」であった。この戦いにおける筑波の攻撃カードは田嶋と関根の2枚であるが、いずれも相性の噛み合う、獲る可能性のあるタイプがマッチアップしており、かつ以後の戦線維持のために勝利必須の田嶋の方が相性的により「取れる」可能性の高い相手。「前で取って、お膳立てを整えて最後はどんな強敵が来ても関根で勝負」というシナリオにしっかり嵌る。後衛の上野翔平と千野根有我は太田が来た場合「捨てカード」を担う駒であるが、このいわば生贄役としての千野根も全体で見れば「うまく捨てられた」と評すべき。立川には前述の通りもっとも嫌であろう佐々木を当てられたし、重量カードもう1枚の星野にも機動力タイプの横内晋介を手当て出来た。村尾三四郎にも1階級上で組み手が手堅く、かつパワーも機動力もあって村尾が苦手な「相四つの大型」に嵌るタイプの石川が入り、止め得る、どころか得点の可能性すら十分。純戦力で言えば東海大のほうが上だが、東海大が相当に巧くオーダーしたにも関わらず、配列と相性というフィルタを通した結果だいぶこの差が縮まったという印象だ。当たりが悪ければ大差の東海大勝利もありえたカードだが、これは十分勝負になる配列。

というわけで東海大としては前で耐えて、出来得れば立川と村尾のいずれかで得点して、後衛の3枚で一気に突き放すのが理想のシナリオ。この中で、清水が田嶋を抑えられれば言うことなしである。とはいえ後藤が後のない状況で、有無を言わせず「指導然らずんば投げ」という我儘な柔道を仕掛けてくる関根を相手にするのは避けたい。いかに後藤が強者といえど場がそこまで煮えてしまえばどんな事故が起こるかわからない。出来得れば太田までで試合を決めてしまいたいところだ。「太田の前に1点リード」が目指す合格ラインということなる。

一方の筑波大。副将枠での1点献上から逆算すると、そこまでの5戦で最低限行わねばならない仕事は決まってくる。重要度順に「田嶋の得点」「他戦の全戦引き分け」「どこかでプラス1点」。田嶋の得点をテコにロースコアゲームを続け、勝負が成立する緊張ある時間を出来るだけ長く続けて戦線を維持せねばならない。大将戦を迎えた段階で、強敵後藤を相手に関根が勝負を掛けることに意味がある、関根の勝利で自軍の価値が決まる、あるいは代表戦に持ち込めるだけのスコアで繋いでいることがおそらく現実的には唯一優勝に繋がるシナリオ。もしどこかで差がつき、戦線が切れると一気に崩壊が起こり、純戦力通りに大差の負けを喫する可能性すらある。難しいミッションではあるが、近年の筑波の売りである「勝負力」の高さでこの細い一本道を渡り切りたい、というところ。

4連覇を狙う東海大、4年ぶりの優勝を目指す筑波大。優勝候補同士の大一番、いよいよ熱戦の火蓋が切って落とされる。

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佐々木卓摩が奥襟を叩くと立川新がいなす

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中盤勢いに乗った佐々木が支釣込足で立川を崩す

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立川の左大内刈

先鋒戦は立川新、佐々木卓摩ともに左組みの相四つ。体に勝る佐々木はこれを生かさんと釣り手を振り回して奥襟を襲うこと2度、これを立川がいなして試合がスタート。佐々木が前に出ると立川が深く左一本背負投、佐々木が潰して寝勝負に持ち込むが「待て」。

立川が組み際に左大内刈、さらに左一本背負投に潰れると佐々木は待ってましたとばかりに再び寝勝負。ローリングから首を固めて縦四方固の構え。立川脚を絡んで小さく体をまとめて耐え、抜けぬと見た佐々木は腕挫十字固を狙う形に展開するが立川これもなんとか耐え切って「待て」。経過時間は1分5秒。

この寝技のプレッシャーが立ち勝負にも効き始めた気配。佐々木引き手で袖を得ると相手に横を向かせて支釣込足。立川前に崩れ、佐々木はまたもや寝技で厳しく攻める。「待て」が掛かった1分30秒立川に「指導」。佐々木前に出ると立川左一本背負投に潰れ、佐々木は引きずって絞めを狙う。立川にとっては苦しい時間帯。

しかし立川は絡みつくような左小外刈に左小内刈で圧を剥がし、ここから1分余りを組み手争いに粘着してやり過ごすことに成功。2分50秒には座り込むような左大内刈で佐々木を腹ばいに伏せさせる。「待て」が掛かった時点で残り時間は59秒。

こうなると一転、焦るのは前半優位だった佐々木。なんとか得点を得ねばと激しく前に出るが、立川は手を張って止めつつ刃を入れるタイミングを伺い精神的に余裕が出て来た印象。残り14秒には佐々木の前進を利用して左背負投に飛び込み、前につんのめらせて「待て」。このまま試合は終了。軽量の立川が良く耐えて試合をまとめた、という形で先鋒戦は引き分けとなる。

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田嶋剛希が横落に飛び込むが清水拓実は揺るがず

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田嶋の右内股を外して清水が脚を振り上げると、吹っ飛んだのは田嶋の側。

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後のなくなった清水の突進を田嶋が抱いて吸い込み、右大内刈「技有」

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田嶋は縦四方固で抑え切って合技「一本」

次鋒戦は身長185センチ体重150キロの清水拓実が左、同172センチ90キロの田嶋剛希が右組みのケンカ四つ。右の担ぎを狙う田嶋は釣り手を上から持って間合いを図り、これを十分警戒する清水は下から入れ、時折肘をこじあげて時計回りの力を掛けながらにじり寄る。田嶋展開に窮屈さを感じたかいったん肘を外し、背中を抱いて後襟を狙うが中途でこれも矛を収め、再びステージは釣り手の陣地の取りあいと引き手争いに戻る。

清水は担ぎを食わぬよう、敢えてゆっくり、じわりとにじり寄る。田嶋1分過ぎに釣り手を外して下から持つ形を作り、片手の右内股を放つが効なし。1分22秒双方に片手の「指導」。田嶋一計を案じ清水が肘を載せてきたところに左横落を見舞うが潰れ、「待て」。

背負投が徹底警戒されていることを見て取った田嶋、下から釣り手を持つと奥襟を得て一点右内股。背を抱えて迎え撃った清水が左内股に切り返して田嶋が振り回される形で攻防は終わったが、これは一定の効ありの気配。田嶋はこのあたりからやや加速、片手の右背負投で間合いを整え、2分59秒には深く左一本背負投。伸びあがるように決めに掛かると清水が背に載りながら潰れて「待て」。流れを掴んだ田嶋、続く展開では上から背中をガッチリ掴み、前に大きく引き出しての右内股。体を伸ばされた清水崩れて膝を着き、主審は田嶋の攻勢を認めて清水に「指導2」を宣告。経過時間は3分26秒、残り時間は34秒。

あと1つ「指導」を失えば星を落とす清水、焦ったか吸い寄せられるように前へ。これまでの釣り手の防壁がなくズイと体ごと間を詰めた形のこの粗い前進を田嶋退かずに迎え撃ち、背中を抱えて右大内刈。まともに食った清水思わず下がると巨体ゆえ加速がついてしまい一歩、二歩と崩れが大きくなる。三歩目で上半身が仰け反ってしまい、田嶋思い切り浴びせて3分30秒「技有」。

田嶋は縦四方固に連絡。体重150キロの清水の上体を必死に抑え続け、最後は右腕一本にしがみつくところまで登って3分50秒合技「一本」まで辿り着く。期待の田嶋がしっかり仕事、貴重な先制点は筑波大が得る。筑波大がシナリオの分岐点を、1つ確実にものにした形である。丁寧な釣り手操作で田嶋の攻めを殺していた清水だが、「指導2」失陥で一瞬思考停止に陥ってしまった。的確にここを突いた田嶋の勝負勘、見事。

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村尾三四郎が組み際に左大外刈

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石川組み手厳しく迫るが、袖口を握り込んでしまい「指導」失陥

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組み際に活路を見出した村尾が左大内刈で大きく崩す

五将戦は村尾三四郎、石川竜多ともに左組みの相四つ。村尾が組み際に左大外刈を見せるが、以後は双方手堅い組み手争い。石川が引き手で袖を得たところから釣り手を奥襟に叩き入れるも瞬間村尾は位置をずらしてクロス組み手を強い、石川はいったん釣り手を戻してやり直す。以後も一方が良い形を作るとすかさず相手が剥がすという展開が続く。再び石川の奥襟襲来を村尾が首をずらして抜けるが一瞬遅れ、首を抜く形となってしまう。主審見逃さず1分44秒村尾に首抜きの「指導」。

奮起した村尾、引き手を得ると釣り手を叩き入れながら強烈な左大内刈。石川腹這いに崩れて「待て」。村尾は石川の厳しい組み手に手を焼くがこのあたりから組み際に効ある技が入り始め、2分43秒には片襟を差した釣り手の肘を入れて左大外刈。石川にたたらを踏ませ、どうやら流れは村尾に傾き始める。

村尾ここで一方的に引き手で袖を得る。そのまま前に出ると、石川自身のミスを認めるかのようにここはあっさり畳を割り、2分55秒「指導」失陥。これでスコアはタイだが、石川引き手で袖を得ると袖口を絞り込んだまま進退。主審見逃さず試合を止め、3分8秒「指導2」宣告。石川は僅か12秒で「指導」2つまで失ってしまう。

村尾は当然加速。しかし主将の石川ここは踏ん張りどころと粘り強く村尾の組み手を切り離し、奥襟を得ると支釣込足の蹴り崩しで陣地を取り返す。この試合は結局このまま終了、中堅戦は引き分けとなった。村尾が石川の粘り強い組み手を崩し切るには至らなかったという一番であり、同時に相性的に優位に立てるはずの石川が組み手で粘ることまでで矛を収めたとも取れる試合。スコア1-0、筑波大のリードは継続。

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横内晋介が背負投、星野太駆がしっかり捌く

中堅戦は星野太駆が右、横内晋介が左組みのケンカ四つ。体格に大きく勝る星野がじわりと寄り、機動力のある横内が引き手争いの中から足を出し、担ぎ技を狙うという展開。1分10秒に横内低く左背負投を見せるが高さ噛み合わず潰れて「待て」。横内よく動き、相手の身体を引き起こしながらの左小内刈で攻撃のリズムも良し。圧を掛けて横内のミス待ちという構えの星野も、1分42秒には前技フェイントの出足払を見せ、陣地を譲らず。

2分30秒過ぎから星野が釣り手で奥襟、引き手で袖の外側を得る良い形を作って加速。内股を入れながら、そして相手を潰さぬままコーナーまで追い詰める。横内ここは割り切って外に出、主審はすかさず場外の「指導」を宣告。

この時点で残り時間は1分17秒。以後は奮起した横内が良い形で持つことが増え、左小内刈に左背負投とタイミング良く技を積むもいずれも不十分。残り27秒には組み際に右一本背負投を試みるが空転、星野が寝勝負に持ち込んで「待て」が宣せられたときは残り時間僅かに8秒。そのままこの試合は引き分けに終わった。4戦を消化してなお東海大は無得点、スコア1-0の筑波大リードは継続。

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松村颯祐の圧力に上野翔平は苦境

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上野意地の裏投、これで展開をいったん留保。

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松村が右払腰で捩じり、上野辛くも膝を着いてポイントは免れる

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松村が左小外掛で追う。この直後上野に3つ目の「指導」

三将戦は重量級対決、松村颯祐と上野翔平ともに右組みの相四つ。松村にとってはビハインドという背景からも、後ろの盤面からも、そして力関係的にも絶対に得点が欲しい一番、

上野引き手で襟を持って間合いを取らんとするが松村両襟で応じると前へ前へと体を運ぶ。40秒過ぎからは引き手を袖に持ち換えてほぼ完ぺきな形を作り出し、上野を試合場の隅まで追い詰めて力の差を見せつける。上野支釣込足で位置の入れ換えを試みるが果たせず、松村が引き手を折り込んで上から圧を掛けると腹這いに潰れる。直後の1分4秒上野に「指導」。

続くシークエンスも松村優位。上野果敢に奥襟を叩くが松村あっさり剥がして前に出、引き手で襟を得ると打点高く内股巻込。組み手不十分ゆえ、揚げられた上野が回転し切らぬまま作用足から降り、腹ばいに落ちて「待て」。松村さらに前へ前へと体を運び、圧倒的優位。1分5秒には支釣込足から右払腰に連絡。しかし少々優位の演出に気持ちが傾いていたか崩しがいま一つ、作用足が空を切ってしまい、上野に抱き着きの裏投による切り返しを許す。松村腹這いに落ちて「待て」。ポイントは回避したが積み上げた優位はいったんリセットされた形。

それでも松村は前進を止めない。引き手で袖を得てにじりよると得意の左袖釣込腰でいったん耐えさせ、相手が降りると右大外刈。上野またもや体を捨てて裏に返そうとするが今度は心得た松村崩れず、振り向いて立ったまま叩き落とし「待て」。直後の2分32秒上野に2つ目の「指導」。残り時間は1分28秒、あと1つの「指導」があれば松村の勝利である。

松村引き手で襟を握って前へ。上野果敢に片手の右大外刈で斜めに抜け出してリセットも、松村ふたたびにじり寄ると勝負を決せんと右払腰。これは角度も深さも十分であったが、上野膝を着いて良く残し「待て」。上野右大外刈を見せて展開を一歩戻すが、松村払巻込で再び膝を着かせる。3分23秒から始まったシークエンスでは松村の支釣込足を受けた上野が大外刈で対抗も、松村ふたたびの支釣込足で畳を割ってしまい、3分41秒に主審が合議を招集。上野に場外の「指導3」宣告が十分ありえる状況であったが、結果はスルー。ここで松村が取るか、上野が引き分けるかはそのまま試合の勝敗に直結する。残り時間は19秒、場内は緊迫。

ここで松村突進。奥襟を叩いて迎え撃った上野の浅い大内刈を弾き返すと支釣込足で蹴り、足をおろすなり左小外掛で投げに掛かる。相手が崩れて下がると二段攻撃で追いかけ、上野はたまらず腹ばい。残り時間10秒、場内沸き返る中主審が合議を招集し、上野に消極的との咎で3つ目の「指導」を宣告。ここで松村の勝利が決まり、スコアは1-1。東海大はようやく試合をタイに戻す。

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千野根有我が右大外刈も太田彪雅が弾き返す

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太田は見事大内刈「一本」

副将戦は東海大のエース太田彪雅、筑波大の1年生レギュラー千野根有我ともに右組みの相四つ。千野根得意のステップを切っての支釣込足を見せるが太田まったく揺るがず弾き返し、16秒には左袖釣込腰。千野根背に載りながらも脱力して耐え、太田の袖を握った引き手が切れて「待て」。

体格は千野根が上だが組み力は明らかに太田。太田は引き手で袖、釣り手で奥襟という完璧な形を作り出すと相手をゆすり出しに掛かる。千野根の頭が下がったところで引き手を折り込み、足元を蹴ると千野根たまらず腹ばいに潰れて59秒「極端な防御姿勢」の咎で千野根に「指導」。千野根右払腰で反攻を試みるが太田はあっさり弾き返し、潰れて「待て」。

続く展開、太田は引き手で袖、釣り手で奥という完璧な形から右大内刈。遠間から引っ掛け、鋭く踏み込んで力を籠めると相手の下がり際に刈りが噛み合い、巨漢千野根の両足が完全に浮き上がる豪快なフィニッシュとなる。これはもちろん「一本」。試合時間は1分16秒、東海大はここで勝ち越しに成功する。スコアは2-1、両軍の得点はすべて「一本」であり、筑波大に残された道は大将戦の「一本」あるいは「指導3」奪取による代表戦突入のみ。

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大将戦の開始早々、関根聖隆の左背負投を後藤龍真が突っ込んで返し「技有」。

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後藤は関根の左一本背負投を今度は片手絞に捉える

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関根は退かずに担ぎ技で連続攻撃

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関根は後ろ技も交えて快走、「指導2」まで得る

大将戦は後藤龍真と関根聖隆ともに左組みの相四つ。昨年度大会準決勝の大将戦でチームを救う大外刈「一本」をマークしている関根はその再現を狙って気合い十分。試合が始まるなり引き手で襟を掴んで組み合うと、畳を蹴る勢いで思いきり左背負投。体が仰け反るほど入れ込んだ一撃であったが、予期した後藤肘を制しながら体を投げ出して関根を真裏に制動。一瞬後藤が逆側に抜け落とされたかと見まがう速い攻防は後藤に凱歌、関根背中から畳に落ちて14秒「技有」。東海大の選手たちが思わず右手を真上に上げて「一本」をアピールする、極めてスピード豊かな攻防だった。

あっという間のビハインドだが、関根は退かず続いて左一本背負投。しかしこれは掛け急ぎの感あり。後藤潰すと関根の背後から片手絞で絞め上げる。襟を握った手は首元に入っており、絞めは効いているはず。関根は軽挙しては絞めの効果を高めるのみと敢えて動かず、そのままの形で耐え続ける。あるいは絞め落とされてしまったのではと思うほど体を動かさずにそのまま耐え切って54秒「待て」。ここまでの1分余、関根が掛けたのは得意の担ぎ技2発のみ、初弾は後の先を食い、2発目は絞めに切り返されてと展望は決して明るくない。

しかし、「わかっていても防げない」のが関根の機関車攻撃。後藤釣り手を振り立てて威嚇するが関根は引き手で襟を得ると左一本背負投を連発。後藤は脱力して重心を抜くことで耐えるが徐々に腰が引けてしまい、関根が腕を抱えたまま引きずるとそのまま前に崩れる場面も現出。関根が左一本背負投の形で引きずり出し、片襟に持ち換えて背負投を放った1分35秒には後藤に消極的との咎で「指導」。東海大ベンチは、あるいは代表戦突入ありえるとみたか、ここで上水監督が熊代コーチを呼び、主将太田に声を掛けに立ち上がる。

関根はどうやら本来のペースに乗った模様、前技から一転左の「一本大外」で大きく崩し、前技フェイントの左大内刈で崩し、続いて左一本背負投に飛び込む。後藤は掛け終わりを待つと、背を抱くなり前に回り込んで抱分一発。関根あるいは側面から落ちたかに思われたがこれは後藤の脚の上に体が乗ってスルーされ「待て」。関根は片襟の小内刈に大外落、さらにこれで耐えさせておいての左一本背負投に飛び込んで快走、後藤はまたも腹這い。1分36秒にはついに後藤に2つ目の「指導」。続く展開も関根が左小内刈と一本背負投で攻め、後藤は苦境。

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後藤は横三角で関根の頭をロックすると手立てを次々繰り出し、「待て」の隙を与えない

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ついにタイムアップ。東海大の4連覇が決まった

残り時間は1分を切る。ここで関根がまたもや片襟の大外落から左背負投の連携。しかし後藤は潰して横三角、脚を組んで関根の頭と腕をロックすることに成功する。そのまま脚を抱えれば抑え込み完成、まず足先を掴んで力を籠め、次いで太腿を抱えて反転を狙い、これが果たせぬとなると今度は胴を抱えて回しかける。脚の拘束が効いていることと、可能性のある展開が切れ目なく続くことで主審には「待て」で介入する隙がない。回り掛けた関根が耐えて体勢を戻し、後藤が脚を組みなおそうとした瞬間「待て」。この時点で残り時間は僅か14秒。関根は展開に乗った「ゴールデンタイム」を寝技の防御で使い切ってしまった。

関根左背負投、さらに左一本背負投を放つがポイントには至らず。後藤が回り込んで前から引き込んだところでついに終了ブザーが鳴り響く。この試合は後藤の「技有」優勢で終了。そして東海大の4連覇が決まった。

東海大 3-1 筑波大
(先)立川新×引分×佐々木卓摩
(次)清水拓実△合技[大内刈・縦四方固](3:47)○田嶋剛希
(五)村尾三四郎×引分×石川竜多
(中)星野太駆×引分×横内晋介
(三)松村颯祐○反則[指導3](3:50)△上野翔平
(副)太田彪雅○大内刈(1:16)△千野根有我
(大)後藤龍真○優勢[技有・隅落]△関根聖隆

筑波大の勝負力にぎりぎりまで追い詰められながらも、東海大の面々があるべき仕事をしっかり果たすことで戦力差を盤面に反映し、これを弾き返したという一番。形上失点を喫した清水も含め、全員に染みた「今、何を為すべきか」という役割の理解と遂行力の高さがこの勝利を支えた。

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後藤龍真は準決勝で先鋒、決勝で大将と職掌の違う重要ポジションを連続で務め、全試合に勝利した。

作戦の妙と、戦術理解。これを考えるにあたり、私的MVPとして後藤龍真を挙げることをその端緒としたい。3年生の後藤は今大会まさに獅子奮迅の活躍。マークしたスコアは全試合一本勝ちの太田と松村には及ばない(5戦5勝3一本勝ち)が、全試合に出場して先鋒を2試合、大将を1試合とまったく職掌の異なる重要ポジションを2つ務めて全て勝ち星を得る大車輪の働きであった。しかも先鋒を務めたのは準決勝、大将に入ったのは決勝といずれも「本番」、かつ連戦である。このユーティリティーぶりは後藤個人の能力の高さとともに、実は前述の東海大戦力の「かつかつ」ぶりを表してもいる。エース太田は別格として、他に体格も機動力も一撃の力もあって戦術性に長けた、団体戦の中核を果たすべき「なんでもできる」軽重量級の駒がいない。いずれも能力高いが属性的に重量級特有の横腹の弱さをどうしても計算に入れねばならない清水と星野、向こうっ気も強く取り味もあって戦術性も高いが決定的に軽量の立川、まだ1年生で相四つの本格派に事故を起こす可能性が排除し切れない村尾と、どの選手にも、練度を超えた本来的な弱点がある。タイプ的に後藤と似た仕事を担える可能性がある伊藤好信に中島大貴、石川智啓は序盤戦で引き分けを演じて決戦兵力から脱落してしまっており、太田と松村の得点力を生かしたまま「どこでも出来る」マルチな選手は後藤1枚しかいない。本来的な弱点を抱えた凹凸ある選手が多く揃い、かつ(この決勝のように)その凹みに相手の配列が噛み合ってしまう可能性がある限り、後藤に目いっぱい仕事をしてもらって陣形を整えるしか東海大勝利のシナリオはありえなかったのである。高校生時、技一発に長けていたが明らかにその起動スイッチの数が足りず戦術性に弱点のあった後藤が、あるいは「団体戦最強選手」かもしれない難剣遣い関根聖隆を相手に、その技を読んで後の先で先にポイントを取り、絞めて得意技の起動に圧を掛け、それでも攻めてくる相手に立っている限りおそらく敗戦というところまで追い詰められた時間帯を、今度は寝技に持ち込んで凌いでみせたのだから恐れ入る。対関根戦は育成という観点から見ても圧巻であった。

そして、この「後藤を目いっぱい回すこと」で為すべきことを明確にされた選手個々が、実にしっかり立場と自分の個性を弁えた試合をしていた。立川も村尾も無理をすればもっと行けたかもしれないが、後衛勝負を念頭にリスクを負わない範囲で取りに行き、危うい「際」を作らなかった。清水と星野は軽挙せずにじりよって展開からディティールまで攻防自体をスピードダウンさせたまま圧を掛け、担ぎ一発のリスクを極力減らしながら試合を進めていた。松村は一転この陣形では自分の勝利以外に可能性なしと、1秒たりとも休まず全てのシークエンスを自分の攻めで塗りつぶしに掛かった。「巨大戦力」とあたかも勝って当然のごとくの東海大評を耳にすること多々あるが、今代の優勝を支えたのは駒の厚みではなく、何より戦術理解と、作戦遂行力の高さである。為すべき仕事に対して積み上げた具体的な技術的ディティールも、他チームとは一段違う濃さがあった。

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惜しくも敗れた筑波大。勝負力の高さと用兵の巧みさで今年も会場を沸かせた。

筑波大。単に「勝負力の高さ」と書き続けてしまったがこれを支えた作戦の巧さも見逃すわけにはいかない。特にオーダー配置は職人芸的なレベルであった。繰り返しになってしまうが、決勝は機動力で防壁を張るタイプの立川に同じく機動力があってかつ体格が上の相四つ選手佐々木を充て、どうしても取らなければいけない田嶋は横腹脆い重量級属性の選手を狙って清水に、同じ文脈で横内は星野に、そして村尾には体格が上で動ける相四つの石川を手当て出来た。ほぼ完ぺきな「当たり」だったのではないだろうか。準決勝でも大将を誰もが予期した関根ではなく順番を入れ替えて田嶋を投入、おそらくは同階級の力関係がまっすぐ反映できる飯田健太郎で面倒な関根を抜かんとする構えだった国士舘をあざ笑うかのごとく虎の子の1点を得た。準々決勝の明治大戦も捨て方、取り方ともに文句なし。配置を眺めるだけで勝ちへの道筋が見えるオーダーの妙、見事であった。

ひとつ、主将石川竜多にもう一歩の働きを期待したかった。体の力の強さにスケール感の大きさと将来は全日本選手権で上位進出が狙えるレべルの逸材ではないかと思うのだが、性格なのか、それとも稽古での力関係に我々のうかがい知れぬところがあるのか、一貫して自身を低く見積もっているように思われた。同階級の1年生藤鷹裕大とひたすら切り合った準々決勝、典型的重量選手加賀谷武弘に攻めの遅さを突かれて試合をコントロールさせてしまった準決勝、おそらく自身を嫌な相手と思ってくれるであろう村尾三四郎相手にギアを上げ切れなかった決勝と、かつての石川からは意外なほど、よくも悪くもまとまりのある試合を続けてしまった。主将の責任感からリスクのある戦いに舵が切れなかったのかもしれないが、筑波大あと一段の上昇装置になり得た存在と思われるだけにその不完全燃焼やや惜しまれる。

第68回大会は、東海大の4連覇という結果で終了。いかに勝つかをもっとも突き詰めていた東海大、今年も比類なき勝負力の高さで王者・東海大をあと一歩まで追い詰めた筑波大、劇的勝利の連続で会場を沸かせた日本体育大。今年も、優勝大会は熱かった。

入賞者と、東海大・上水研一朗監督のコメントは下記。

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4連覇を果たした東海大

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上水監督が胴上げで宙を舞う

【入賞者】
優 勝:東海大
準優勝:筑波大
第三位:日本体育大、国士舘大
優秀校:山梨学院大、天理大、明治大、早稲田大

※東海大は4年連続24度目の優勝

優秀選手:太田彪雅、松村颯祐(東海大)、石川竜多、田嶋剛希(筑波大)、大吉賢(日本体育大)、山下魁輝(国士舘大)、岩田歩夢(山梨学院大)、中野寛太(天理大)、神鳥剛(明治大)、空辰乃輔(早稲田大)

上水研一朗監督のコメント
「勝ち続けることは本当に難しいです。力通りにやれば勝てるとは思っていましたが、勝負は何が起こるかわからない。しんどい試合でした。この代は、2015年の奈良インターハイで国士館高校が記録的な勝ち方をした(※編集部註:準決勝と決勝をともに5-0)世代。これからは厳しい時代が待っているぞと覚悟したものですが、あれから4年。なんとか勝つことが出来て感慨深いです。(-決勝のオーダーの読みは?)村尾三四郎のポジションが予想と違いました。少々分が悪いと思ったので、最悪2点取られて代表戦というシナリオも考えていました。(-東海大の選手たちは実に陣形をよく弁えて試合をしています。何をやるべきか、意識を共有する場は設けているんですか?)オーダーが出てすぐ試合になるので、共有しなおす時間はありません。ただ、事前に想定して話しあっています。(-それは、ホワイトボードなどを使って作戦会議を?)今回はそこまでの時間がなかったので、配布資料で説明しました。過去には3点取られて逆転したときもあるし、長くやってきたので、失敗のケーススタディも溜まっている。就任したての頃はなかなか学生に耳を貸してもらえませんでしたが、やはり実際に起こった例というのは説得力がありますので、今はしっかり聞いてくれます。(-東京学生優勝大会で課題が見えた、と仰っていましたね?)だいぶ解消されたと思ってます。(-相手の研究はどのように?)あまり話せませんが、たとえば、『得意な形の稽古はもう要らないから、嫌な相手、嫌な状況にどうするかだけ考えろ』と言っています。優勝大会のライバルチームで当たる可能性があるのは多くて20人くらいですから、その中で、嫌な相手の、嫌な状況を想定して考えなさいと。まあ、このくらいで(笑)。今年は大味な選手が多くて、組み手、試合ぶりが甘かった。ですので『蟻の一穴』を起こさないようにしっかり戦うことを心掛けさせました。その中では、キツい役割を担った後藤が良く頑張ってくれたと思います。」

※ eJudoメルマガ版7月20日掲載記事より転載・編集しています。

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