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【レポート】エース斉藤立が初めて出動、国士舘が大牟田下して優勝飾る・第41回全国高等学校柔道選手権男子団体戦レポート⑥決勝

(2019年5月16日)

※ eJudoメルマガ版5月16日掲載記事より転載・編集しています。
エース斉藤立が初めて出動、国士舘が大牟田下して優勝飾る
第41回全国高等学校柔道選手権男子団体戦レポート⑥決勝
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取材:古田英毅/eJudo編集部
撮影:乾晋也、辺見真也

■ 決勝
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優勝候補筆頭の名に恥じぬ勝ちぶり、危なげなく決勝まで進んだ国士舘高

決勝は第1シード校と第2シード校による本命対決。国士舘高(東京)と大牟田高(福岡)によって争われることとなった。

既に全日本柔道選手権本戦出場を決めているエース・斉藤立を擁する国士館は絶対の優勝候補。この日は二回戦で延岡学園高(宮崎)を二人残し、三回戦で四日市中央工高(三重)を一人残し、準々決勝で桐蔭学園高(神奈川)を二人残し、準決勝で作陽高(岡山)に二人残しと危なげない勝ち上がり。決勝までの勝ち上がり自体は予想通りだが、この日はプラスの要素あり。今大会開始時点ではチーム内序列の5番手の座を争っていた1年生の岡田陸が大活躍、二回戦で2人抜き、三回戦で1人抜き1分け、準決勝で2人抜きを果たしてチームに勢いを与えているのだ。つまりはエース斉藤立を使わず、かつ他4人は全員が試合をこなし、しかも5番手の1年生が大活躍。ほぼこれ以上はない、万全の形で決勝まで辿り着いた。

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大牟田高は初戦で苦戦したが、以降は手堅い戦いぶりで決勝まで勝ち残った。

一方の大牟田も、個人戦81kg級連覇者竹市大祐、攻撃の中核服部大喜、エースの森健心らがしっかり仕事を果たしての決勝進出。2回戦は埼玉栄高(埼玉)に2点先取されるという波乱の出だしであったがこれをスコア一人残しで振り切ると、以降は三回戦で大成高(愛知)を三人残し、準々決勝で崇徳高(広島)を二人残し、準決勝で日体大荏原高(東京)を一人残しといずれも強豪ばかりを、それも手堅く下して決勝進出を果たした。決して試合自体に面白みがあるという内容ではなかったが、2戦目以降はまったく隙を見せず、非常にソリッドな勝ち上がり。

開示されたオーダー順は下記。

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オーダー順が開示される

国士館高(東京) - 大牟田高(福岡)
(先)岡田陸 - 竹市大祐(先)
(次)長谷川碧 - 服部大喜(次)
(中)道下新大 - 久保田皓晴(中)
(副)藤永龍太郎 - 森健心(副)
(大)斉藤立 - 石本慎太郎(大)

国士舘は陣形を準決勝から動かさず。この日絶好調の岡田陸を先鋒に、長谷川碧を後詰の次鋒に据えてこの2人で前衛ブロックを形成。中盤に手練れの道下新大と藤永龍太郎を置き、大将に絶対のエース斉藤立を座らせる3ブロック布陣をこの試合も貫いた。

大牟田は副将に森健心を置いたうえで前衛を竹市大祐と服部大喜の2人が務めるという準決勝のポリシーを軸に、陣形を微調整。大将と中堅を入れ替え、先鋒には満を持して竹市を配した。竹市で刃を入れ、服部と久保田が抑え、リードを保ったままなんとか副将森で斉藤まで辿り着こうという意図と考えて良いだろう。

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岡田陸がこの日決めまくっている右大内刈で先制攻撃

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竹市大祐がすかさず左小内刈で逆襲

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竹市は担ぎ技を中心に攻める

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岡田譲らず右大内刈で攻め続け、先鋒戦は引き分けに終わった

超高校級・斉藤立の存在ある限り、おそらく国士舘の最終的な勝利は揺るがない。大牟田の現実的な目標は1人差をリードして副将・森を斉藤にぶつけること。彼我の戦力差からここまでは十分手が届くライン。この「1人差」に必要な先勝を担うべきはポイントゲッター竹市に、1年生の岡田陸がマッチアップする先鋒戦だ。

その先鋒戦は岡田陸が右、竹市大祐が左組みのケンカ四つ。岡田「はじめ」が掛かるなりこの試合も自信満々、ケンケンの大内刈から右内股に繋ぐ先制攻撃。竹市は一瞬手をついて立ったまま残し、右一本背負投に潰れて「待て」。後手を踏んだ竹市はすかさず逆襲、釣り手を内側から、次いで引き手で袖を得るなり身を切って左小外刈。今度は岡田が伏せて「待て」。

続いて岡田が上から釣り手を持ってまたもや右大内刈、しかし竹市そのまま低く左背負投に切り返す。あわやポイントかと思われるタイミングであったが、これは投げ切れず「待て」。

ここまで岡田が大内刈、竹市は担ぎ技と得意技を交互に出し合った形であったが、このやりとりによって相手の危険さを感じたか、以降は双方が先に良い形を作らんと粘り強く組み手を争う展開。引き手争いを軸とした絞り合いは大枠互角、前進意志と寝技の攻めで岡田がやや優位という印象であったが、1分58秒竹市の側に「取り組まない」咎による「指導1」。

あと1つの「指導」を得れば勝利となる岡田は前へ、竹市左背負投に飛び込むも疲労ゆえか走り切れず潰れて「待て」。勢いを得た岡田は両襟を握ってケンケンの右大内刈、竹市は袖を引っ掴んでの巴投で対抗するが岡田しっかり腰を切ってパス、竹市が伏せて「待て」。

この時点で残り時間は1分。得点必須の竹市は右一本背負投を繰り出すが焦りゆえか入りの角度が浅く、岡田はいったん止めて寝勝負に持ち込むと2度ローリングを見せて場外へ。残り時間は25秒。

引き分けによるゴールが見えた岡田は片襟を抑えて相手の攻めの入り口を封殺。竹市左背負投フェイントの小内刈から片手の右袖釣込腰と繋ぐが得点の気配は漂わず。

あっという間に4分間が終了。結局この試合は引き分けに終わった。ポイントゲッターを潰した岡田は殊勲、一方チームの大戦略である「先制」を担ったはずの竹市にとっては悔しい結果。

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第2試合、開始早々に長谷川碧が左内股で先制攻撃

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長谷川が再び左内股

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作用足を振り上げた瞬間、服部大喜が鮮やかに透かして「技有」

次鋒同士による第2試合は国士舘の長谷川碧、大牟田の服部大喜ともに左組みの相四つ。服部はここまで5つの一本勝ちと出色の出来。

長谷川両手で左袖を得るなりまず浅く左内股、これを餌に釣り手で奥襟を掴んで作用足を深く差し入れ、軸足の膝をピンと伸ばして本命の左内股一撃。服部頭から前受け身の形で畳に落下して「待て」。

過程を飛ばして技の要諦だけを抑えた素早い攻め。ここまで試合ぶり不安定の長谷川が開き直って積極的に攻めに出たとも、スタミナに不安があり昨年来後半にミスすることが多い長谷川の、早く決めてしまいたいという弱気が出たとも取れる先制攻撃であった。

この後の攻防が注目されるところであるが、服部が奥襟を掴み、横変形で対峙すると長谷川ふたたびケンケンの左内股。しかし服部これを背筋を伸ばしたまま受け入れ、長谷川が投げ切らんといま一段の力を込めて軸足の膝を伸ばすと、瞬間これに合わせて自身の脚を振り上げ内股透。作用足を空転させたまま捩じられた長谷川肩口から畳に落下、42秒「技有」。服部そのまま縦四方固に抑え込むがやや乗り込み過ぎ、長谷川がその脚を手で持ち上げて払いのけ8秒で「解けた」。

ビハインドの長谷川それでも左内股を見せるが、後の先の一発を食った直後とあってさすがに深くは追いきれない。服部は前進圧力、これを長谷川が支釣込足で剥がしながら一発のチャンスを狙うという攻防が続く。2分を過ぎると疲労が目立ち始めた長谷川、しかしここは譲るわけにはいかないとばかりに、組み勝つなり左内股を2連発。しかし服部は二本を持ったまま受け切り揺らぐ気配なし。

しかしこの攻防を受けた2分37秒服部に消極的との咎で「指導」。エンジンをふかさざるをえない服部は両襟を高く持って前へ。すると思わず下がった長谷川は巴投。加藤博剛式に爪先を相手の股中に差し入れる形であったが、これは効かず。この場面で捨身技の選択は少々微妙なところ、追撃ムードを自ら打ち消してしまった感あり。

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第3試合、道下新大が思い切った左大外刈で先制攻撃

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体格差に怖じず、今度は肩越しに左払巻込で攻め続ける

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道下の左大外刈。この攻防のあと、服部に「指導2」。

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道下の大外刈に服部肩口から落下。ポイントは与えられなかったがここで「指導3」となる。

服部が両襟で前に出ると長谷川これを少々持て余し、以降時折意を決してケンケンの左内股を見せるも得点を想起させるまでには至らず。この試合はこの構図大枠変わらぬまま終了、服部の「技有」優勢による勝利で大牟田は貴重な1点を先制。

続く第3試合は畳に残った服部、国士舘の中堅道下新大ともに左組みの相四つ。体重110キロの服部に対して道下は90キロ、線の細さ否めずという印象であったが、しかし道下は積極的。左出足払で服部にたたらを踏ませると、続いて思い切った左大外刈。ガクリと服部の膝が折れ、道下が縦に刈り込まんと乗り込んだところで服部がなんとか伏せて逃れ「待て」。

この一撃に自信を得たか以降のペースは道下。服部パワーにものを言わせて釣り手でガブリと奥襟を叩くが、道下強引に肩越しに左腕を抱き、左大外巻込。これは潰れて「待て」となったが、続いて奥襟を叩いて横変形に構えるといったん時計回りにハンドルを切り、今度は返す刀で左小外掛。服部体を入れ替えてなんとか凌ぐも、直後の1分30秒服部に「指導」。

勝負の上手い道下はこの良い流れを逃がさない。試合が再開されるなり腕を抱えて思い切り左払巻込一撃。服部方から落ちかかって「待て」。さらに2分3秒には横変形から斜めに左大外刈、これで服部の足を止めると踏み込んで縦に大きく刈り込む素晴らしい攻め。これもポイントにはならなかったが、続いての寝技の攻防が終息した2分24秒、主審は服部に2つ目の「指導」を宣告。

道下は疲労の見える服部に対し前に出続け、ハンドル操作で揺さぶる。服部は道下の左小外掛に右浮腰を合わせて対抗するが自ら膝を着いてしまい、反撃の糸口がつかめない。道下、3分5秒には膝裏に左小外刈を入れて追いかけ、再び服部を伏せさせて猛攻。続いて引き手で襟、釣り手で奥襟を掴むと勝負を決すべく左大外刈。刈り込み深く、しかし服部が首を抜いて縺れたままドウと畳に落下。副審1人が「技有」を示して合議が持たれるが、技のポイントはスルー。しかし同時に服部に3つ目の「指導」が宣告されて試合は終了となる。この試合は服部の「指導3」の反則により道下の勝利に終わった。

道下は完璧な試合。1点失った後に間を置かずすぐ抜き返したという結果、これを実現すべく攻めまくった試合内容、相手の体格とパワーに怖じず大技を繰り出して自軍の士気を揚げた試合姿勢と、非の打ちどころのない一番であった。

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第4試合、久保田皓晴が裏投で道下を持ち上げる

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道下の左出足払に久保田が大きく崩れる

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疲労した道下だが中盤以降ペース復活、左足車で久保田を腹ばいに落とす。

スコアは再びタイ。第4試合の中堅同士の対決は畳に残った道下が左、大牟田・久保田皓晴が右組みのケンカ四つ。

久保田釣り手で奥襟を掴み、肘を載せて道下の左を殺そうと試みる。道下はこれをさせず、丁寧に組み手を直しに掛かるが久保田は引き手で袖を得るなりの右内股でこれをリセット、さらに抱きつきの裏投に打って出る。道下巧みにバランスを取り立ったまま受け切り「待て」となるが、久保田の凄まじいパワーが際立つ立ち上がり。

久保田力に任せて続いてフェイントの右小外掛、しかし道下これもバランスよく堪えると、続いて奥襟を得た久保田が腰を切った瞬間にカウンターの左出足払を呉れる。久保田がドウと潰れて「待て」。経過時間は1分2秒。

続いて久保田が腰を切りながら右内股で2度攻撃、これを餌に本命の右体落に飛び込むが道下谷落に切り返してあわやポイントという場面を作る。しかし先手を取り続ける久保田の優位を主審が認め、1分57秒道下に「指導」。

「指導」の直後は、以後の試合展開を決定づける非常に大事な時間帯。道下はかなり疲労があるようだが、巧みな間合いの出し入れで久保田にラッシュを掛けさせぬままこの大事な時間を凌ぎ切り、残り1分が近くなると頃合い良しとばかりに反撃開始。2分59秒には両襟からの左足車であわやポイントという場面を作り、さらに左大外刈を叩きこんで主導権を取りに掛かる。道下のペースの変化に久保田少々ついていけず、道下は左大腰に左大外刈からの左体落、さらに腰車様の左体落と立て続けに攻めて完全に流れを掌握。久保田思い切って抱き勝負の奇襲に出るが道下が払巻込に捉え返し、直後久保田に「指導1」。この時点で残り時間は9秒、試合はこのまま引き分けに終わった。

久保田はパワーを前面に押し出して健闘も、道下の試合運びの巧さに力を出させてもらえなかった印象。道下は相当疲労していたようだが、試合技術と勝負を見る目、なによりここぞでの思い切った技を厭わぬ勇気をテコにしっかり試合を締めてみせた。

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第5試合、大牟田・森健心は藤永龍太郎の袖を殺すことに腐心

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大枠、組み手の優位を作らんとしたまま、4分間が過ぎ去る。

副将同士の第5試合は国士舘の藤永龍太郎、大牟田のエース森健心ともに左組みの相四つ。この後に控える大将が、国士舘がエースの斉藤、大牟田は1年生の石本であることを考えると、特に大牟田にとってはこの日の試合をそのまま決めてしまう大一番だ。

藤永引き手で袖を得て絞るが、森は片襟を経由して絞り返す。藤永が奥襟を叩かんとすると森はこれをさせず、双方が先に引き手で袖を絞らんと激しい組み手の駆け引きが続く。

藤永が引き手を襟に切り替えて持つと、森は応じて持ち替えて左、右と得意の出足払を放つが角度が足りず、藤永はまったく揺るがない。森は引き出しの小内刈を試みるがこれも効かず、大枠組み手の主導権争いのまま静かに時間が経過。1分14秒双方に消極的との咎で「指導」。

状況を考えれば森は加速して然るべきだが、以後も藤永に付き合う形で組み手の確保と状況の積み上げに腐心。一方的に組めば、あるいは相手がミスを犯せば足技の一撃で試合を決めると肚を据えた敢えてのスローペースとも解釈できるが、しかし藤永は右引き手で袖、襟と状況に応じて使い分けて間合いを取り、試合を壊すようなミスの可能性をまったく感じさせない。森は片襟の左背負投に小内刈と見せるがいずれも浅く、藤永は左小内刈に右出足払で応じてまったく動ぜず。残り1分、大牟田ベンチからは「(相手は)来ないから、行け!」との叱咤が飛ぶ。

しかし直後攻めたのは藤永の側、払巻込に潰れて「待て」。この時点で試合時間は残り55秒。

森はまたしても引き手でじっくり袖を絞ると左右の出足払に左小内刈を見せるが、スクランブルをかける気配はまったくなし、藤永はゆらめくようにいなしながら機を見てはツイと踏み込んでの左小内刈を見せ、森のスローペースに付き合い続ける。森は最後まで丁寧な柔道のまま、試合を壊すような動きを一切見せずにこのままタイムアップ。第5試合は引き分けに終わり、勝負の行方は大将同士の対決に委ねられることとなった。

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第6試合、石本慎太郎が釣り手で襟を掴み、斉藤立の顔を突いて対峙。

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斉藤が左内股、勢いがつき過ぎて石本は腹這いに落下

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2分25秒、ついに斉藤の左内股が決まって「一本」。

第6試合は今大会初出場の斉藤立が左、石本慎太郎が右組みのケンカ四つ。石本前襟を下から突く良い形で引き手を争い、半身のまま釣り手を出し入れして右大内刈を繰り出す。大物斉藤を前に非常に勇気ある進退。一方の斉藤は釣り手をまず上から持ち、手首を立てて接近して引き手を求める。

44秒、石本に片手の咎で「指導」。しかし石本怖じずに右大内刈、さらに股中に右体落を落として奮闘。斉藤は引き手で袖を持って左内股、石本が崩れると一歩前に出て押し込むが投げ切れず「待て」。経過時間は1分20秒。

必殺の一撃を耐え切った石本は釣り手を立てて思い切った右大外刈、さらに片手の右大内刈も繰り出しながら引き手を争う。しかし斉藤、釣り手を上から潰して引き手で袖を持つなり吸い込むように左内股。石本が高く吹っ飛び会場どよめきに包まれるが、しかし勢いがつきすぎ、1回転半を経た石本の着地は腹這い。これは「待て」となる。

石本は健闘。右大内刈に打って出るが斉藤は揺るがず、続いて出来上がったのは袖を持った引き手を腹に添え、釣り手で奥襟を持って手首を立てる万全の体勢。この試合初めて、石本がなんの防壁も築けないノーガード状態である。斉藤いったん腰を入れて相手の動きを止めるなり左内股一撃、石本吹っ飛んで「一本」。

試合時間は2分25秒。スコア1人残しで全戦が終了、国士舘の優勝が決まった。

国士館高(東京)○一人残し△大牟田高(福岡)
(先)岡田陸×引分×竹市大祐(先)
(次)長谷川碧△優勢[技有・内股透]○服部大喜(次)
(中)道下新大○反則[指導3](3:17)△服部大喜(次)
(中)道下新大×引分×久保田皓晴(中)
(副)藤永龍太郎×引分×森健心(副)
(大)斉藤立○内股(2:25)△石本慎太郎(大)

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優勝を決めた斉藤を迎える道下、藤永らチームメイト

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岩渕公一監督の訓示

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優勝インタビューに臨む国士舘の面々。今大会は岡田陸の活躍が光った。

国士舘は危なげない優勝。エース斉藤の手首と肘の負傷が心配されたが、登場は決勝の1試合のみ。長谷川の決勝におけるポイント失陥、藤永の三回戦における2人抜き後の僅差優勢負け、道下の同じく三回戦における初戦引き分けなど細かいミスはあったが、主力が大枠力をしっかり発揮した大会と言っていいだろう。

そして何より今大会の収穫は、1年生岡田陸の活躍。12月の松尾三郎杯で林将太郎を負傷で失ってなかなか5番手を決め切れなかった国士舘だが、新チーム結成時点では6番手、あるいは7番手だったこの選手が全国大会の本番で6勝1敗3分け、しかも準々決勝以降3戦連続で先鋒の重責を担い、かつ準決勝は1人で3人を賄って、最後は決勝でポイントゲッターを止めるという大仕事をやってのけた。まさに驚きである。

岡田がこの日決めまくったのはケンケンの右大内刈(内股)。岩渕公一監督によると、百瀬晃士コーチの指導によって得た、相手の内腿を高く蹴り上げる方法が「嵌った」とのこと。柔道経験者であればおそらく誰でも、この「1つコツを覚えた直後、劇的に技が掛かる」状態には経験があるかと思う。魔法に掛かった時期とでもいうべきか、覚えるなりとにかく技が決まりまくる。一定期間が過ぎると周囲が対応を覚えることで、あるいは自身の言語化が行き過ぎてしまうことや1つの技に固執し過ぎること、さまざまな要因でこの魔法は1回解けてしまい、ここから一段壁を破ることで技が本当に身に着くことになるわけだが、この日の岡田の柔道には、まさにその「魔法」の期間にしか発散しえない喜びが溢れていた。下手をすると岡田が本当に技を掴んだ、魔法に掛かったのはこの日の試合中だったのではないだろうか。この「覚えてすぐにしかやってこない」確変状態が、稽古ではなく、まさに全国大会のその日に、日本武道館の畳の上の「本番」で立ち現れていたようにすら見受けられた。岡田はこの日、柔道をすることが楽しくて仕方がなかったのではないだろうか。

岩渕公一監督は、毎年のように、この高校選手権の勝ち上がりには「主力以外の選手の活躍」「ベンチの予想を超える活躍をする選手の出現」が必要と言い続けている。これが、滅多にないほどの直球ど真ん中で実現したのが今大会だった。率直に言ってしまえば藤永、道下、長谷川の主力3枚は力通りに仕事をしてみせた一方で、それぞれミスもあり、少なくとも決して抜群の出来ではなかった。優勝にどうしても必要な「他校の予想を超える活躍」の項を満たしたのは間違いなく岡田だった。岩渕監督をはじめとする国士舘のスタッフが、試合本番に合わせてこの「確変」を仕込んだ、あるいはそのタネを撒いておいたたとすればこれは異次元級のプロデュース力である。

前年度「二冠」メンバー4人の残留を受けて、5番手の固定をテーマに林、鈴木郷生、岡田と試し続け、本番における「確変」のタネを撒き続けて来た国士舘。その戦力と、勝負に対する論理の厚さが他校を凌駕した大会だったと総括すべきであろう。

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大牟田は準優勝、前評判の高さに恥じぬ成績であった。

一方の大牟田。第2シード評価という前評判の高さに恥じない見事な成績。地方からの決勝進出は素晴らしい結果である。前年全国大会上位候補に挙げられながら県予選の突破かなわなかった、あの悔しさを見事に晴らしたと言えるだろう。森、竹市というリーダー2名を牽引役とした「選手主導」の立ち働きとチームの雰囲気は、これまでの強豪チームにはなかった爽やかなもの。声のかけ方1つにも、「自分たちで作るチーム」の自由さと、ゆえに生まれる責任感がありあり。高校柔道の新時代到来を感じさせた。

ただ、内容に関して言えば。本戦までの圧倒的な成績と前評判の高さに比して、率直に言って物足りなかった。地力の高さをベースにした手堅い組み手に確実な寝技、分けるべきところできちんと分ける戦術性の高さ。どれも勝利の必須条件ではあるが、これを超える「破れ」がなく、実力通りに勝つことは出来るが、逆に格上相手に力以上のものを出せるような技術的ポテンシャルが感じられなかった。全体として小さくまとまってしまったという印象を受けた。例えば、我々が昭和の柔道勢力地図から描く、地方から物凄いチームが勃興して全国制覇を狙う、という構図に嵌る「九州の柔道」とはかなりイメージの違う戦いぶりであったと感じる。中央の強豪が練れた組み手と試合運びで地方から出て来たスケール感あるチームを封殺するというのが長年この手の対決にあった構図であるが、たとえば、準決勝などは相手方の東京代表・日体大荏原などのほうが「未完成で組み手も粗いがスケール感がある」地方属性のチームに感じられたくらいである。組み手に練れて、戦術で相手を封じることに長けて、徹底的に結果にこだわる柔道を貫いたのは地方の雄・大牟田の側であった。

エース森の戦いぶりにこのあたりは端的だ。中学時代からその才能を嘱望されて特に強化回りのコーチたちの評価が高い森であるが、前日の個人戦の敗戦を受けて臨んだこの日の団体戦で見せたのは、徹底して組み手にこだわる、一切妥協のない会話なしの封殺柔道。袖を絞り、一方的に自分が組み勝つ以外の形での進退は拒否してタイの組み合いはほぼまったく行わず、勝負どころの準々決勝と準決勝では「ストレートアームバー」という奇策を持ち込んで、寝技という知っているものが知らないものに圧勝し続けるフィールドにおける「知識比べ」によって形上の勝利を得た。そして決勝は、自身が勝利する以外では事実上チームの敗戦が決まってしまう副将同士の対戦で、それでも執拗に「負けない」ための一方的な組み手に最後までこだわり、試合を壊しにいくことも、スクランブルをかけることもなく自身の引き分けとチームの敗戦を受け入れてしまった。

前述「地方から興ったスケール感ある強豪のイメージ」に関して言えば。たとえば81キロの軽量ながら機動力と担ぎ技で相手を翻弄した竹市の働きはこの「地方のスケール感ある強豪」のバイプレイヤーとして十分嵌るものであるし、類稀なるパワーでブンブン前に出て片手技も厭わず最後は寝技で決めてしまう服部の柔道も、たとえば昭和の金鷲旗で活躍した九州の強豪チームの副将格のキャラクターに嵌るもの。これでエースがスケール感ある柔道を繰り広げれば最後のピースが嵌ったと思うのだが、この役回りを引き受けるべき森が手堅過ぎる柔道に陥ったことが全体のこじんまり感を生んでしまったのかもしれない。ここまで読んで、同じ九州・福岡からこの高校選手権で「天下取り」を成し遂げた1988年第10回大会の優勝チーム・東海大第五高を思い起こしたファンも多いのでないだろうか。「多い」と勝手に仮定して筆を進めさせて頂く。あのチームは中量級中心であったが、中村佳央、本田勝義、北田晃三、西田一幸、野瀬守弘とやはり強く、しかも非常に手堅い選手が揃っていた。今回の大牟田に例えるなら中村が森、本田が竹市という役どころか。しかしその差はやはりエースにある。中村は86kg級の選手で例えば今大会における斉藤立のような絶対性まではなかったが滅法勝負強かったし、何よりここぞで何が何でもと取りに行く姿勢があった。ここ一番での攻撃姿勢と勝負強さには悪魔的なものすら感じさせられたものだ。それを考えれば、今代大牟田における「最後のピース」であるはずのエース森の破調のなさはいかにも勿体なかったし、森をはじめ全体があまりに賢すぎ、あまりに「ちゃんとやり過ぎた」印象が残る。

森は、全国中学校柔道大会の段階ではむしろ類稀なる伸びしろを感じさせた、スケール感のある選手である。あの全中を見て得た、この選手は伸びる、という手ごたえは忘れがたい。しかし最終戦の引き分けを自ら受け入れるような破綻のない戦いぶりはこの印象とはかなり異なった。前日の個人戦で敗れてしまって自信が揺らいだ結果、縺れ際に強い藤永を相手に試合を動かして「失敗する」ことを怖れて、引き分けで試合をまとめてしまったようにすら見受けられた。

なぜ大牟田が小さくまとまってしまったように見えたのかを、しばし考えてみる。以降、すべては根拠のない妄想である。

ひとつは、この代の主力選手が極めて研究熱心であることが、「伸びしろ」が見えるかどうかという観点からは、今大会では逆の目に出てしまったという可能性。高校生世代の研究熱心な選手が技術を突き詰めると、どうしても相手を封じる組み手、あるいは寝技による知識合戦といった即効性のあるものに視点が偏りがちだ。2年生レギュラー5人のこの日の柔道には、この「即効性のある技術」がかなりの密度で詰まっていた。

ふたつめはこれに関連して。即効性のある技術に頼り過ぎた今大会の戦いぶりには、昨年県大会で蓋をされて檜舞台を踏めなかった大牟田今代の全国大会に掛ける思いのあまりの強さや、初めての全国にも関わらず優勝候補の評価を受けた中での、失敗出来ないという激しいプレッシャーが背景にあったのではないだろうか。これが初の全国であること、負けられない思い、緊張、昨年蓋をされ続けたことに起因する気負いとプレッシャーによって、本来のスケール感を損なったという見立てである。

もう一つは、九州北部地区という競技先進地域いったいの技術的な早熟さが、高校最終学年という世代に至って「スケール感の不足」という形で顕在化しているのではないかという仮説。早い世代から勝ち負けにこだわる風土の中、一通りの技術は網羅してきたものの、未完の部分を敢えて残す、実は高校世代にもっとも求められる「粗削りでも投げ切る能力」の涵養に欠けるところがあったのではないか、そしてそれがこの世代の地区トップチームである大牟田に反映されているのではないかという考え方だ。これも印象以外に根拠のない完全なる妄想仮説であるが、この日のインプレッションとしてひとつ書き残しておく。

とはいえ大牟田。今大会唯一斉藤立を引っ張り出したという事実、準決勝までの圧倒的な勝ちぶり、なにより具体的に得点を挙げて「斉藤以外」の対戦では互角だった決勝での星取り。十分に国士館と渡り合えるとその力を証明した大会でもあった。地元・福岡で開催される金鷲旗大会では大声援を背中に受けて間違いなく一段力を上げて国士舘の前に立ちはだかるであろうし、点取り方式で行われるインターハイでは、配列が嵌れば国士舘の上を行くことすら、十分現実的に手が届くラインだ。

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閉会式終了。スタンドに陣取る応援団に一礼する国士館チーム。

大牟田は、選手が自分たちで考え、行動できる新しい型のチーム。今大会に何が足りなかったのかをしっかり考えて埋めてくるであろうし、ひょっとすると「賢く戦い過ぎた」今大会を踏まえて、意図的に「破れ」を作ることすらやってのけるかもしれない。九州の雄・大牟田の巻き返しに大いに期待したい。

平成最後の全国高校選手権大会はこれにて幕。優勝候補筆頭の名に違わぬ強さを見せてまず「一冠」を獲得した国士舘、手堅い戦いで決勝まで進んだ九州の雄・大牟田、逆に思い切り「破れ」を見せながらエース髙橋のすべてを呑み込む強さでベスト4入りした作陽。これら有力校が夏はどんな姿を見せてくれるのか。7月の金鷲旗大会、8月のインターハイでの彼らの戦いを楽しみに待ちたい。

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国士舘高は2年連続10度目の優勝

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準優勝の大牟田高

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第三位の作陽高

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第三位の日体大荏原高

【入賞者】
(エントリー52チーム)

優 勝:国士舘高(東京)
準優勝:大牟田高(福岡)
第三位:作陽高(岡山)、日体大荏原高(東京)
第五位:桐蔭学園高(神奈川)、木更津総合高(千葉)、崇徳高(広島)、東海大仰星高(大阪)

最優秀選手:斉藤立(東京・国士舘高)
優秀選手:岡田陸(東京・国士舘高)、髙橋翼(岡山・作陽高)、森健心(福岡・大牟田高)、グリーンカラニ海斗(東京・日体大荏原高)

国士舘高・岩渕公一監督のコメント
「斉藤立を使わずに勝とう、と皆で頑張りました。これが出来れば100点でしたが、最後に斉藤が出たのできょうは70点ですね。斉藤には一昨日『出さない』と言い渡して、他の選手には残りの5人で頑張りなさいとまで話したのですが、本人が『インターハイで自分のせいで負けてしまった。国士舘高校の生徒として、どうしても自分も入って三冠を獲りたい』と直談判に来まして。それで起用を決めました。(-岡田陸選手が大活躍でしたね?)百瀬コーチが大内刈のコツを教えてくれて、それがいきなり効きましたね。本当によくやってくれました。道下、藤永はもっとやれるはず。良くなる兆しがありますのでかなり期待しています。長谷川は肩を怪我していたこともあって、まだまだの出来でした。彼は『借金』が一杯あるから、夏に一気に返してくれると思っています(笑)。(-「三冠」挑戦の権利を得ましたね?)なんとか今年は獲りたいなと思っています。もう一段、足りないところをしっかり埋めて、仕上げて、あらためて三冠に挑みます。」

大牟田・杉野健次郎監督のコメント
「オーダーは、昨日個人戦が終わった時点で全員でミーティングを持ち、生徒たちが皆で考えました。初戦から決勝まで、彼らが決めた順番そのままです。もちろんこんなことをしたのは初めてです(笑)。森も竹市も本当にしっかりしていてリーダーシップがあり、彼らを囲む選手もちゃんと会話が出来る、自分の考えを持った子たちです。本当に面白いチームです。(-初戦は慌てたのではないですか?)最初の試合は難しいですから、いきなり取られるということもあり得ると思っていました、ただまさか次鋒まで続けて取られるとは。しかし森と竹市が非常に落ち着いていて『仕方がないな、今から勝負だ』という表情。これで周囲が冷静さを取り戻して戦えていました。(-それにしても、そこまで選手中心なのは素晴らしいですね?)柔道界の流れは、自分たちの世代が習って来たものと大幅に変わっていますし、試合になったらどうせ自分で考えなければいけないわけですから、こういうやり方もいいなと思いました。今日は、自分たちで決めたことだからと選手が頑張れた場面がたくさんあったと思います。決勝、1年生の石本が向かっていってくれた試合などは、負けはしましたがとてもうれしかったですね。(-夏に向けて?)選手は悔し涙。森は『2位を目指していたわけではない』と皆の前で言ってくれましたし、決してこの成績に満足していない。マークもされると思いますが、2位という結果におごることなく、生徒たちと一緒に一段進化して夏に臨みたいと思います。」

作陽高・川野一道監督のコメント
「(-凄い数のOBが集まっていましたね?)50人くらい駆けつけてくれました。選手も大変だったと思います(笑)。初めての高校選手権ベスト4に、個人戦無差別優勝。よくやったと思いますし、もともとの実績を考えれば全国大会で戦うような選手ではなかった子もいるわけですから、本当に頑張ったと言ってあげたい。ただ選手には『きょうこれだけボコボコにやられて、同じ高校生として、人間としてどうなのか』『ここまで強くなったけど、この先、これだけの差を埋めるのは私では出来ないよ』と話しました。指導者に出来るのはここまで、あとは選手自身が自分でどう考え、どう行動してくれるかですね。また夏に向けて、がんばります」

【準々決勝】

国士館高(東京)○二人残し△桐蔭学園高(神奈川)
作陽高(岡山)○代表戦△木更津総合高(千葉
大牟田高(福岡)○二人残し△崇徳高(広島)
日体大荏原高(東京)○二人残し△東海大仰星(大阪)

【準決勝】

国士館高(東京)○二人残し△作陽高(岡山)
大牟田高(福岡)○一人残し△日体大荏原高(東京)

【決勝】

国士館高(東京)○一人残し△大牟田高(福岡)

※ eJudoメルマガ版5月16日掲載記事より転載・編集しています。

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