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【レポート】100kg級は羽賀龍之介が意地の初優勝、最重量級は好調原沢久喜が順当V・平成31年全日本選抜柔道体重別選手権大会第1日男子レポート

(2019年5月1日)

※ eJudoメルマガ版5月1日掲載記事より転載・編集しています。
100kg級は羽賀龍之介が意地の初優勝、最重量級は好調原沢久喜が順当V・平成31年全日本選抜柔道体重別選手権大会第1日男子レポート
(90kg級、100kg級、100kg超級)
→第1日男子全試合結果(eJudoLITE)
→男子第1日速報ニュース
→男女14階級プレビュー

取材・文:小林大悟/古田英毅・eJudo編集部
撮影:乾晋也

■ 90kg級・向翔一郎が初優勝、ライバル2人との直接対決制して代表の座掴む
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準決勝、長澤憲大がベイカー茉秋を左内股で攻める

(エントリー8名)

【決勝まで】

決勝進出者は長澤憲大(パーク24)と向翔一郎(ALSOK)。結果として第1シードと第2シードが順当に勝ち上がり、決勝で相まみえることとなった。

長澤は持ち味である組み手の巧さを生かしての勝ち上がり。1回戦では深山将剛(東海大3年)から、互いに「指導2」を取り合ってのGS2分2秒に相手の消極的試合姿勢による「指導3」をもぎ取って勝利。山場となった準決勝でも復活を期すベイカー茉秋(日本中央競馬会)を相手に貪欲に左内股で攻め続け、1分24秒、3分19秒、GS1分30秒と一方的に3つの消極的の「指導」を重ねて勝利。技によるポイントこそなかったものの、長澤らしい安定感を見せての決勝進出。

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準決勝、向翔一郎が村尾三四郎から腕挫腋固「一本」

一方の向は1回戦で前田宗哉(自衛隊体育学校)を相手に、1分23秒袖口を絞り込んだ咎で「指導」、直後の1分39秒にはベアハグの「指導2」と自らのテクニカルファウル2つで後がなくなるピンチ。しかし再開直後怖じずに抱きつきの小外掛に飛び込み、反則にも委縮する様子はなし。左背負投で展開を掴み直して2分31秒「指導」、さらに左足車から左背負投で伏せさせ、抑え込みかけた3分34秒には2つ目の「指導」を取り返しタイスコアに戻して本戦4分を終える。こうなれば展開は向のもの、GS14秒に片手の左背負投「技有」を得て、この難しい試合を逆転勝ちで突破。

続く準決勝の相手は村尾三四郎(東海大1年)。村尾はグランドスラム・デュッセルドルフで世界王者ガク・ドンハン(韓国)をはじめ強豪を次々なぎ倒して決勝まで進んでおり、全階級通じた今シーズンの「最優秀新人」。一方の向の欧州シリーズはグランドスラム・パリで2敗して5位という低空飛行であり、この試合は90kg級の序列あるいは一気に変わるかと注目された大一番である。しかし、ここは向が巧さを見せつけた。

互いに「指導2」を奪い合って迎えたGS43秒、向が左外巻込を掛け潰れたところから流れるように腕挫腋固に連絡する。まず外巻込、自らは伏せるが残った村尾の左腕を抱え込み、村尾の体の下から頭を抜いて天井を向く形で抜け出すと時計回りに半回転。まだ高校を出たばかりのルーキー村尾さすがにこの連携技にはついていけず、無念の「参った」。向、大型新人村尾を蹴落とす形で決勝進出決定。

村尾同様90kg級に新しい息吹を吹き込む存在として期待された田嶋剛希(筑波大4年)は1回戦でベイカーと対戦。開始直後に引き込み際を躱され、横四方固で抑え込まれて一本負け。僅か37秒で大会を去った。

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決勝、長澤憲大が左内股で惜しい場面を作る。

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向翔一郎が左一本背負投からの左内巻込を狙う

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向が脇を差して長澤を振り回し、畳に這わせる。直後長澤に「指導3」が与えられ決着

【決勝】

向翔一郎(ALSOK)○GS反則[指導3](GS1:44)△長澤憲大(パーク24)

向、長澤ともに左組みの相四つ。向は礼の後に屈伸運動をして試合を開始、やる気十分の様子。まずは長澤が引き手で先に袖を得るが、向が強引な左外巻込でこれを切り離す。長澤の丁寧な組み手、向の荒々しさと一合目からお互いの持ち味が出た格好。ここからは持っては切り、切っては密着してという形で組み手争いが展開される。向は小刻みに跳ねながら首を左右に振るボクシングのような動きで長澤を幻惑、スタンスも左右入れ替えながら、独特のリズムで進退を行う。この向の変則的な組み手を長澤やや警戒したか一瞬両者がお互いの出方を窺うような形となり、主審的確に試合を止めて1分12秒、両者に取り組まない咎による「指導」を与える。しかし、以降も試合の中心は組み手争い。お互いに持っては切り離すことを繰り返す形となり、なかなか組み合っての攻防に発展しない。1分58秒には長澤が右袖釣込腰で相手の懐深くまで侵入して反対に抜き落とそうとするが、向は畳に伏せてこれを凌ぐ。2分36秒、両者に再び取り組まない咎による「指導2」。ここからも試合の様相に大きな変化はなく、勝負は双方「指導2」のタイでGS延長戦へ。

延長戦に入ると長澤の組み手と圧が効き始め、向が押し込まれる展開が増える。向は密着と切り離しを駆使してこれを凌ぐが、試合の流れは長澤の側に振れる。GS32秒、長澤が右構えから回し込むように首を抱いて両襟の左内股を仕掛けると向は大きく崩れ、片手を畳に着いて耐えて辛うじて失点を回避する。長澤は続く展開でも組み際に奥を叩きながらの左大内刈を仕掛けて技を積みに掛かるが、ここは向が耐えて反対に左払腰から畳に引き落として展開を切る。

GS1分6秒、向が組み際に左一本背負投。相手の懐深くに潜り込むと、そのまま左内巻込に変化して強引に投げに掛かる。これは長澤が堪えて「待て」。続く展開、ここが勝機と読んだ向は引き手を得るなり再び左一本背負投に座り込む。鷹揚に組み手を開始した長澤、向のスピードに置いていかれる形で抜き落とされて腹這いで畳に落下する。直後の攻防では長澤も左大内刈を打ち返すが、向がその技の終わりに左一本背負投で掛け潰れ、すぐにそれを塗りつぶす。

これで向の技で終わる流れが3度続いたこととなる。長澤も当然この状況の悪さは理解しており、続く展開では一直線に相手に向かい、引き手で袖を得るなり背中深くに釣り手を叩き入れる。しかし密着勝負は向も得意とするところ。迎え撃って長澤の右脇に食らいつくと、走るようにして反時計回りに大きく振り回し、もろとも飛び上がるようにして強引な右浮落。長澤は腹這いで畳に叩きつけられる。技のポイントこそないものの、これで向の攻撃で終わる展開は4度連続。「待て」が掛けられてのGS1分44秒、長澤に消極的による「指導3」が与えられて勝負が決した。試合が終わった瞬間、向は両手で顔を覆って畳に座り込み感涙。勝機を的確に読んで手数を積んだ向が、昨年の王者長澤を下して優勝を飾った。

90kg級は成績で抜けている選手はおらず、今大会が始まる前の段階で代表レースに生き残っていたのは向翔一郎(ALSOK)、長澤憲大(パーク24)、村尾三四郎(東海大1年)の3名。東京世界選手権の代表にはトーナメントの結果をそのまま反映する形で、向が選ばれることとなった。

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90kg級上位入賞者。左から優勝の向翔一郎、2位の長澤憲大

【入賞者】
優 勝:向翔一郎(ALSOK)
準優勝:長澤憲大(パーク24)

向翔一郎選手のコメント
「パリで負けていから、本当に色んな人に助けてもらいました。ここで勝たなかったら東京はないと思っていたので、最後全部出し切ろうと思って戦いました。(-この1年間は今までの柔道人生で一番稽古を積んだと言っていましたね?)それが合っていたか間違っていたかわからないですけど、金野先生に1年生の頃はもっと練習していたと言われて、初心に戻って、ちゃんともう一回一から練習追い込んで見ようと思ってやりました。怪我もちょっとありましたが、正解だったと証明出来て良かったです。またここからがスタートだと思っているので、練習を怠らず、これからも追い込んでいこうと思います。」

【1回戦】
長澤憲大(パーク24)○GS反則[指導3](GS2:02)△深山将剛(東海大3年)
ベイカー茉秋(日本中央競馬会)○横四方固(0:37)△田嶋剛希(筑波大4年)
向翔一郎(ALSOK)○GS技有・背負投(GS0:14)△前田宗哉(自衛隊体育学校)
村尾三四郎(東海大1年)○反則[指導3](3:48)△長井晃志(日本体育大3年)

【準決勝】
長澤憲大○GS反則[指導3](GS1:30)△ベイカー茉秋
向翔一郎○GS腕挫腋固(GS0:43)△村尾三四郎

【決勝】
向翔一郎○GS反則[指導3](GS1:44)△長澤憲大

■ 100kg級・羽賀龍之介が意地の初優勝、ウルフアロンと飯田健太郎を撃破
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1回戦、ウルフアロンが伊藤好信を左内股で投げる。相手が一回転してしまいポイントはなし。

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1回戦、羽賀龍之介が西山大希を華麗な左内股「一本」に仕留める

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準決勝、羽賀が飯田健太郎から左内股「技有」

(エントリー8名)

【決勝まで】

決勝に進出したのはウルフアロン(了德寺学園職)と羽賀龍之介(旭化成)。ともに東海大OBの世界王者同士による対決となった。

ウルフは1回戦で伊藤好信(東海大4年)と対戦。左内股で相手を一回転させるなど一方的に攻め続け、2分14秒、2分45秒、3分41秒と消極的の「指導」3つを得て勝利する。準決勝の相手は試合巧者の垣田恭兵(旭化成)。この試合は「指導2」を取り合いGS延長戦までもつれ込むが、GS1分29秒に垣田に取り組まないとして3つ目の「指導」が与えられ決着となる。決して抜群の出来とは言えないながらも、順当に決勝進出。

一方の羽賀は、勝ち上がりがそのまま本階級のハイライトと言うべき強敵との連戦を勝ち抜いての決勝進出。1回戦で西山大希(日本製鉄)と対戦すると、本戦終了間際の3分44秒に場外際の華麗な左内股「一本」で勝利。

続いて準決勝では飯田健太郎(国士舘大3年)を畳に迎える大一番。

この試合は飯田が右、羽賀が左組みのケンカ四つ。序盤は飯田が優勢に試合を進め、試合が半分まで進んだ時点で飯田が「指導1」対「指導2」でリード。しかし、終盤から羽賀は新兵器の巴投を導入、この技をテコに幾度となく惜しい場面を作り、残り9秒に「指導」の差を追いついてGS延長戦へ。最後はGS2分27秒、飯田が脇を差して強引に左小外刈を狙ったところに左内股を合わせて「技有」。この執念の一撃で見事決勝進出を決めた。

グランドスラム・デュッセルドルフを素晴らしい内容で制し、この大会の出来次第であるいは「2枠目」行使対象の目もあるかと観測された飯田は無念の敗戦。これで東京世界選手権出場日本代表の可能性は完全に潰えた。高校3年生でグランドスラム・パリを圧勝してこれぞ日本のホープと世界を騒がせてから2年、飯田は世界選手権のないまま五輪代表選考年を迎えることとなる。

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決勝、羽賀龍之介がウルフアロンを巴投で攻める

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ウルフの左大内刈を羽賀が大内返

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体を浴びせて「技有」

【決勝】

羽賀龍之介(旭化成)○GS技有・大内返(GS1:57)△ウルフアロン(了德寺学園職)

羽賀、ウルフともに左組みの相四つ。組み手争いから35秒に羽賀が奥襟を得ての左小内刈で蹴り崩して相手を潰す。ここから「横三角」を試みるも、これはウルフが余裕を持って耐えて「待て」。再び足を飛ばし合いながらの組み手争いとなり、ウルフが奥襟を得た1分39秒、羽賀が巴投から腕挫十字固を狙うが、ここもウルフが凌いで「待て」。

以降、試合は組み合っての膠着状態へ。両者が離れた2分29秒、主審が試合を止めて双方に消極的の「指導」を与える。しかし試合は以降も停滞。残り14秒に羽賀が抱きついて左方向への支釣込足を狙い、ウルフが押し込んで返そうとする攻防が見られたのみで、探り合いのまま本戦の4分間が終わる。勝負はGS延長戦へ。

延長戦で先に自分の形を作ったのはウルフ。奥襟を得て相手の引き手を抱き込み、一度反対方向に振ってから左小外刈を放つ。しかし、羽賀は崩れながらも自ら釣り手を離すことで距離を取って回避、再び両者の組み手が離れる。続く攻防、今度は羽賀が奥襟を得て激しく釣り手をあおり、左の「小内払い」に左大内刈と技を繋ぐ。ウルフは一時守勢に回るが、敢えて脇を差して間合いを詰めることで状況の打開に成功。これを嫌った羽賀が左内股で掛け潰れると、ウルフはその頭を押し込み隅落で捲ろうとする。ポイントに繋がってもおかしくない場面であったが、ここは羽賀が凌ぎ切って「待て」。

続く展開のGS1分30秒過ぎ、ウルフが組み手争いから釣り手で背中深く、引き手で袖を得た万全の形を完成させる。羽賀は頭を下げられながらも背筋を伸ばし、引き手で相手の脇を突いてまずは防御姿勢。この形のままじりじりと釣り手の位置を上げ、自らも奥襟を得てがっぷり四つの形へと持ち込む。

しかし羽賀は釣り手側の肩が下がっており、形上の力関係は依然としてウルフ優位。GS1分50秒、ウルフは一瞬の脱力から刈り足を引っ掛けるような左大内刈。羽賀がたたらを踏んで耐えると、反時計回りに移動する相手の動きに合わせて再度左大内刈に飛び込む。しかし、この技はやや強引すぎたか体が伸びてしまい、ボディーバランス抜群の羽賀が重心を残して捻りを加えるとウルフは体側から畳に落下。羽賀、押し込むようにして決め切り、GS1分57秒、勝負を決する大内返「技有」。勝利した羽賀は満面の笑みで手を叩きながら立ち上がり、会場の歓声に両手を挙げて応える。羽賀が大学の後輩ウルフを下して初優勝を達成。ベテランの意地を見せた試合だった。

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準決勝、羽賀龍之介が飯田健太郎を巴投で攻める

羽賀はここまでの大会で成績を残せていないために世界選手権代表の権利はなし。飯田が準決勝で羽賀に敗れたため、東京世界選手権の代表はウルフに決定した。羽賀は今回の優勝で東京五輪の代表争いに生き残った格好。これ以降の戦いで序列を逆転しての代表権獲得を狙う。ベテラン羽賀、昨秋の復帰以降は筋力の維持と引き換えにバランスと柔らかさを失ったようにも見受けられ、一瞬剛体となってしまう場面が多かった印象だが、今大会ではまさにその動きながらの調整力とバランスの良さが勝因となった。新技の巴投も効果的に使っており、良いところを維持しながら、柔道の幅を広げている。その内容には、一線に勝ち残らんとの明確な意志あり。以後の戦いは注目に値する。

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100kg級上位入賞者。左から優勝の羽賀龍之介、2位のウルフアロン

【入賞者】
優 勝:羽賀龍之介(旭化成)
準優勝:ウルフアロン(了德寺学園職)

羽賀龍之介選手のコメント
「大学1年生のときからずっとこの選抜には出させてもらっていて、いつも負けてばっかりでした。初めて優勝出来て嬉しいです。(-壁になってやると言っていましたね?)過去に世界選手権、オリンピックに出た自分は、どういう風にヨーロッパで勝たないと世界選手権に出られないと分かっていました。ですので、今回優勝したところで、勝ったところで…という思いもありましたが、そんな気持ちで勝負に臨みたくないと思いました。一つひとつ悔いなく戦おうと思い、この結果に繋がりました。今日も飯田君に勝ったり、ウルフに勝ったり、僕が3番手で追いかけるなかで彼らにプレッシャーもあると分かりました。もう現役も長くないと思うので、これから自分の出来るところまで、やり切って終わりたいと思います。」

【1回戦】
ウルフアロン(了德寺学園職)○反則[指導3](3:41)△伊藤好信(東海大4年)
垣田恭兵(旭化成)○一本背負投(1:29)△熊代佑輔(ALSOK)
飯田健太郎(国士舘大3年)○内股(2:12)△松雪直斗(福岡県警察)
羽賀龍之介(旭化成)○内股(3:44)△西山大希(日本製鉄)

【準決勝】
ウルフアロン○GS反則[指導3](GS1:29)△垣田恭兵
羽賀龍之介○GS技有・内股(GS2:27)△飯田健太郎

【決勝】
羽賀龍之介○GS技有・大内返(GS1:57)△ウルフアロン

■ 100kg超級・好調の原沢久喜が順当に優勝、東京世界選手権の代表に向けて大きく前進
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1回戦、原沢久喜が七戸龍から右大内刈「技有」

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1回戦、佐藤和哉が影浦心を得意の足技で攻める

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1回戦、太田彪雅が小川雄勢から右内股「一本」

(エントリー8名)

【決勝まで】

決勝進出者は原沢久喜(百五銀行)と佐藤和哉(日本製鉄)。日本大のOB同士による対戦となった。

第1シードの原沢は1回戦から七戸龍(九州電力)とマッチアップする過酷な組み合わせ。この試合は原沢の「指導1」対「指導2」リードでGS延長戦へともつれ込むが、GS1分22秒に七戸が左小外掛で勝負に出たところを原沢が右大内刈で投げ返して「技有」で決着。

続く準決勝の相手は、これまで何度も名勝負を演じてきた好敵手王子谷剛志(旭化成)。試合は原沢が組み勝って細かく技を打ちながら攻め、王子谷が前進圧力で対抗という構図で進む。しかし、時間の経過とともに原沢の圧が勝る場面が増え、58秒、GS41秒、GS2分32秒と一方的に王子谷に消極的の「指導」が累積。結果として「指導3」の反則により原沢の勝利が決まる。原沢危なげなく、そして順当に決勝進出。

一方の佐藤は初戦で昨年の講道館杯決勝で敗れている影浦心(日本中央競馬会)と対戦。この試合は試合時間8分を超える消耗戦となるが、「指導2」を奪い合って迎えたGS4分4に右背負投で掛け潰れた影浦に偽装攻撃の「指導3」が与えられて決着。続く準決勝では、太田彪雅(東海大4年)を前戦と同じく「指導2」の同点で迎えたGS2分26秒に、組み手争いから急加速しての左「一本大外」で「技有」を奪って勝利。強敵を立て続けに投げて優勝した全日本選手権東京都予選(3月9日)の勢いそのままに、決勝の大舞台へと勝ち上がる。

昨年のバクー世界選手権で原沢とともに代表を努めた小川雄勢(パーク24)は、1回戦で試合巧者の太田に苦杯。欧州遠征で露呈してしまった脇に付かれると弱いという弱点を突かれ、1分42秒、場外際で下がったところを右内股で綺麗に回され「一本」。小川の巨体の頭が下がり、吹っ飛ぶさまに会場が大きく揺れた。国内の試合で小川が「投げられる」ことは非常に珍しい。圧力を利しての優位確保と「投げられない」受けの強さは小川の生命線。これが崩されたこの絵のインパクトは比類なし、完敗だった。

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決勝、佐藤和哉が原沢久喜を右大外刈で攻める

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この日の原沢は右小内刈を有効に用いて試合を進める

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原沢が右内股で佐藤を大きく崩す。直後、佐藤に「指導3」が与えられて決着。

【決勝】

原沢久喜(百五銀行)○GS反則[指導3](GS6:21)△佐藤和哉(日本製鉄)

原沢、佐藤ともに右組みの相四つ。原沢が引き手で前襟、佐藤が釣り手で前襟をそれぞれ持つ形で試合がスタート。組み力に勝る原沢が奥襟を得て圧を掛けながら投げを狙い、佐藤が引き手を突いて距離を取りつつ足技を出して凌ぐという構図。佐藤が開始直後、さらに29秒と右大外刈を2度続けて放つが、原沢はいずれも余裕を持ってかわす。ここから試合は組み手争いに陥り、佐藤が巴投で引き込んだ46秒、原沢に消極的の「指導」が与えられる。

これを受けて原沢は右内股を2度放つがいずれも不発、続いて組み合ったままの膠着状態が訪れる。2分16秒に原沢が片襟の右大内刈を仕掛けるが、佐藤は上体の拘束を外してこれをかわし、ステージは再び組み合っての膠着へと回帰。原沢が奥襟を得て右内股を狙った3分11秒、佐藤に極端な防御姿勢による「指導」が与えられる。以降は両者組み手争いに嵌り、大きな動きがないまま本戦の4分間が終了。試合はともに「指導1」のタイでGS延長戦へと突入する。

延長戦開始直後のGS8秒、佐藤が組み手争いから奇襲の左一本背負投。しかし、原沢背筋を伸ばして崩れずにこれを受け切る。以降は再び本戦同様、組み合っての攻防。原沢が奥襟を得て右小内刈に右大内刈、右内股と積極的に技を出すと、佐藤が強引な右大外刈を打ち返して「指導」失陥を先延ばしする。組み手の攻防で試合が膠着したGS2分51秒、両者に消極的試合姿勢による「指導2」。直後の攻防、佐藤が組み際に思い切った右大外刈に飛び込むが、原沢を崩すには至らず、そのまま右大内刈に連絡する形で畳に伏せる。さらに続く展開でも佐藤が右支釣込足で原沢を時計回りに崩して手数を積む。しかし、直後のGS3分35秒、原沢は右大外刈で釣り手が抜けながらも強引に掛け切り、佐藤を畳に這わせて、手数の差はあっという間にリセット。両者一歩も退かぬ好勝負である。GS4分14秒には原沢が奥襟を得て相手を引き出しての右内股を仕掛け、懐深くまで侵入するがそのまま潰れて伏せる。直後の展開、佐藤は釣り手を片襟に差して右大外刈を狙うが、原沢は前傾姿勢で防御、佐藤は一度戻ってから右外巻込で掛け潰れる。ここからは再び組み手争い。GS5分過ぎには原沢が奥襟を得ての右大外刈、さらに二の矢の右小内刈で佐藤を大きく崩す場面が生まれるが、ポイント獲得には至らない。試合はついに10分の大台を超える。両者の疲労は明らか。

GS6分10秒、原沢は圧を掛けて相手を場外際に追い込み、思い切り良く右内股に飛び込む。佐藤が足を上げてこれを凌ぐとケンケンで追いかけ、一度戻って再度の右内股。さらにその戻り際に右小内刈を空振ったところから、三度目の右内股を仕掛けて畳に伏せる。この時点で経過時間はGS6分21秒。ここで展開に差が生まれたとして佐藤に消極的の「指導3」が与えられ、熱戦は決着となる。原沢が大学の後輩佐藤を圧倒、大枠危なげない試合運びで優勝を飾った。

原沢は緻密な組み手で決して相手にチャンスを与えず、かつ常に投げを狙っていた。勝負技の内股や大外刈はもちろん、この日良く効いていたのが小内刈。右小内刈で崩すことで大技への道筋を作り、相手はこの「道筋」が見えてしまうこと自体で次の手立てを封じられていった。オーバートレーニング症候群を乗り越え、その復調の梯子としてメンタル面の強化が語られることが多い原沢だが、復調の影にはこういった明確な技術的な上積みがある。他の重量級候補選手がなかなか柔道の幅を広げられない中、原沢が抜け出しつつあるのは一種論理的な結果であると言えるだろう。

100kg超級は最終選考会として全日本選手権(4月29日、日本武道館)が残っているため、今回の代表発表はなし。しかし、3次予選の欧州遠征で結果を残しているのが原沢のみであること、この際派遣されていた影浦と小川の候補者2人がこの日ともに1回戦負けであったを考えると、全日本選手権での結果を待つことなく、原沢の代表決定は確定的。このあと原沢は同大会も制しての完全な形での代表選出、それ以外の選手たちは意地を見せて来年の東京五輪に可能性を繋ぐことを目指すこととなる。

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100kg超級上位入賞者、左から優勝の原沢久喜、2位の佐藤和哉

【入賞者】
優 勝:原沢久喜(百五銀行)
準優勝:佐藤和哉(日本製鉄)

原沢久喜選手のコメント
「佐藤は大学の後輩。意地でも負けられないなと思って、根性出して頑張りました。結果的には『指導3』で勝ちになりましたが、どうにか『一本』を取りたいなという思いで戦いました。今日の試合は反省点が多くあったので、そこを改善して、4月の全日本選手権、また世界選手権に繋げて、金メダルを獲れるように頑張っていきたいです。(-強い原沢選手を見ることが出来ました)まだまだだと思っています(笑)。頑張ります。」

【1回戦】
原沢久喜(百五銀行)○GS技有・大内刈(GS1:22)△七戸龍(九州電力)
王子谷剛志(旭化成)○支釣込足(3:48)△上田轄麻(日本製鉄)
佐藤和哉(日本製鉄)○GS反則[指導3](GS4:04)△影浦心(日本中央競馬会)
太田彪雅(東海大4年)○内股(1:42)△小川雄勢(パーク24)

【準決勝】
原沢久喜○GS反則[指導3](GS2:32)△王子谷剛志
佐藤和哉○GS技有・一本背負投(GS2:26)△太田彪雅

【決勝】
原沢久喜○GS反則[指導3](GS6:21)△佐藤和哉

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