PAGE TOP ↑
eJudo

【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第75回

(2019年4月15日)

※ eJudoメルマガ版4月15日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第75回
人のために尽くし、国のために尽しながら、平和的におのずから大をなした人である。
eJudo Photo
嘉納治五郎師範

資料提供 公益財団法人講道館
copyright:Kodokan Judo Institute

※写真の無断転載および転用を厳に禁じます

出典:「渋沢子爵の薨去を悼み心に浮ぶまま述ぶ」
柔道2巻12号 昭和6年12月 (『嘉納治五郎大系』6巻426頁)

20年ぶりに紙幣のデザインが変更されることが発表されました。
柔道修行者の中には、嘉納治五郎師範が入っていないことにガッカリしている人もいるという話も聞きました。確かに師範のお札が出来れば、嬉しいですが、社会的な評価として、これは素直に受け止めるしかないでしょう。我々柔道修行者が社会的に、高評価をうける人達ばかりであれば、もしかしたら違ったかもしれませんが・・・。

さて、今回の新紙幣に選ばれた人達、ニュースの街頭インタビューを見ると、あまり知られていないように思われます。特に1万円の渋沢栄一は、聖徳太子や福沢諭吉にくらべると少し、社会的に認知度が低いかもしれません。

ところが、この渋沢氏は、嘉納師範とつながりがある方です。
超エリート(東大2期生、一学年の人数が数える程しかいない時代です)の師範ですから、当時の上流階級とは、何らかのつながりがあっても不思議ではありません。ですが、この渋沢氏は、講道館が、明治43年に財団法人になってから、本人が亡くなる昭和6年まで、監事をつとめていました。講道館とも深い関わりがあったわけです。

他にもいくつか、接点があるのですが、柔道に関係するところでは、アメリカ元大統領のグラント将軍の訪日があげられます。この時、接待係を務めた渋沢氏の斡旋で、柔術の披露が行われていますが、その中に、修行中の師範が天神真楊流の門人として参加しています。

浅からぬ間柄であった師範と渋沢氏ですが、その渋沢氏が亡くなった際、師範は雑誌「柔道」にて追悼文を寄せています。具体的な来歴や業績は記されていませんが、渋沢栄一の人柄がよく分かる文章になっています。師範は、様々な人の追悼文を書いていますが、その中でも渋沢氏に対するものからは、特に心服していたことが伝わってきます。

師範は「大人物」を世に大なる変化を起こした人のことを言うといいます。しかし、そういった大人物は、大体は自分の目的を達成するために他の人を倒したり、損害を与えたりすると言います(この師範の見方も興味深いところです)。ところが、<渋沢氏は大人物ではあっても、そういった人達とは違う>と述べた後に、続くのが今回の「ひとこと」です。人や国家という他者に尽くしながらも、平和的に自分のことも達成したということでしょう。

師範はさらに、他の実業家の渋沢評を引用します。<渋沢さんは自分ばかり儲けようようとはしない、かならず人にも儲けさせて自分も儲けようとする人である>と。
講道館柔道の大事な理念である「自他共栄」と通ずる考えです。

師範は東京大学在学中に、渋沢氏の講義を週に1回受けていたことあると言います。内容は経済学についてだったようですが、その中に「自他共栄」の成立に繋がるようなヒントがあったのではないか・・・史料的な裏付けはありませんので、想像にすぎませんが、夢がある話ではないでしょうか。日本の大実業家と柔道理念に共通点があることを、我々はどう捉え、考えるべきでしょうか。

著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版4月15日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る