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【プレビュー】代表権の行方ほぼ見えた階級多数、みどころは2枠目巡る綱引きと『体重別日本一』の行方・平成31年全日本柔道体重別選手権大会男女14階級展望

(2019年4月4日)

※ eJudoメルマガ版4月4日掲載記事より転載・編集しています。
代表権の行方ほぼ見えた階級多数、みどころは2枠目巡る綱引きと『体重別日本一』の行方
平成31年全日本柔道体重別選手権大会男女14階級展望
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今年も福岡の地で体重別柔道日本一が決まる。
※写真は30年大会開会式

今年の体重別日本一決定戦、平成31年全日本選抜柔道体重別選手権大会(4月6日~7日、福岡国際センター)の開催がいよいよ今週末に迫った。組み合わせを見るだけでも胸躍る、全階級全ブロックに強者が詰まって「穴」などありようもない世界最高峰レベルの豪華なトーナメント。大会のプレビューとして、各階級の展望を簡単に記してみたい。

周知の通り、この大会は最重量級を除く男女6階級の東京世界選手権(8月25日~9月1日、日本武道館)日本代表最終選考会を兼ねる。とはいえ、現行制度では代表を争う権利のある選手は第3次予選のワールドツアー欧州シリーズ2大会(グランドスラム・パリ、グランドスラム・デュッセルドルフ)に派遣されたものに絞られており、このシリーズまでの結果をもって既に代表権の行方が実質決まってしまっている階級も実はかなりある。少なくとも、ここに派遣されなかった選手は今回「体重別日本一」の称号に挑戦する権利はあるが、今年の世界選手権日本代表に選ばれるチャンスはない。

というわけでこの恒例の「ひとこと展望」は二つの観点で語る「ふたこと」という構成になる。ひとつは各階級ごとの代表権の帰趨と、「2枠目」(男女とも代表は7階級に9人、複数派遣は1階級2人まで)行使の可能性について。もう1つは体重別日本一を巡るトーナメント自体のみどころについてである。

各階級評に入る前に、全体像として。これは「読み」の域に入ってくるが、昨年の実績と第3次予選までの成績(および階級によっては周囲との成績の差、ターゲット選手との対戦歴)からおそらく60kg級髙藤直寿(パーク24)、66kg級阿部一二三(日本体育大4年)、73kg級大野将平(旭化成)、81kg級藤原崇太郎(日本体育大3年)、100kg超級原沢久喜(百五銀行)、女子48kg級渡名喜風南(パーク24)、57kg級芳田司(コマツ)、63kg級田代未来(コマツ)は極めて有力、というよりほぼ既に代表権を手中に収めていると見ておいて良いのではないだろうか。100kg級のウルフアロン(了徳寺学園職)も限りなくこれに近い位置にある。現実的にこのメンバーを外すのはもはや難しく、たとえ今大会1回戦で負けても、欠場があったとしても、この立場はそうそう揺らがないと考える。代表争いのみどころは、どの階級に2枠目行使が為されるのか、そしてその条件節として誰がどのような成績を収めるのか、である。

2枠目選定について。強化の考え方は色々あろうが、ざっくり2つの方針が考えられる。

1つは、2020年東京五輪における勝利を第一に考え、「バックアッパー」(ライバル)の養成を優先すること。これは複数同時強化を進めて必ずライバルを置くことでその階級のレベルアップを図るというこれまでの強化方針に則るとともに、第1候補がたとえば負傷で離脱したときに、それに代わる候補がいない(経験値が不足している)という取り返しのつかない事態を避けるための極めて現実的な、ドライな戦略でもある。この場合、第2候補が「世界選手権を経験しているかどうか」が非常に大きいはず。いきなり五輪の大舞台に放り込むのはリスクが大きすぎる。となると投資先として浮上するのは、これぞという成績を残した実力者がおり、かつまだその選手が世界選手権を経験していない階級。たとえばアジア大会の覇者で第3次予選のグランドスラム・デュッセルドルフでも優勝している飯田健太郎(国士舘大3年)がいる100kg級、昨年のグランドスラム大阪で阿部一二三を倒して以降国際大会全勝中の丸山城志郎(ミキハウス)がいる66kg級(丸山はもはや第1候補級の成績であるが)、女子ならこれもアジア大会を制し世界選手権金メダリストの朝比奈沙羅にもっか3連勝中の素根輝(環太平洋大1年)がいる78kg超級などが有力である。続いて、周囲の状況や今大会の出来などの厳しい条件節をつけた上で、佐々木健志(ALSOK)の81kg級を挙げておくべきか。

もう1つの考え方は、あくまで今年の世界選手権における勝利を優先すること、そしてそれとほぼ同義であるが徹底的に現時点の実績から2枠目を割り出す「フェアネス」に大きく重心を傾けること。この場合、既に2度世界選手権を経験している(2018年バクー世界選手権銅メダル)がここまで選考大会全勝中の永山竜樹(了徳寺学園職)の60kg級、グランドスラム・パリで復活優勝を果たした橋本壮市(パーク24)の73kg級、2017年度世界王者にしてグランドスラム・パリの同国決勝を制している志々目愛(了徳寺学園職)のいる52kg級が有力。おなじくもと世界王者でグランドスラム・パリで復活Vを果たした近藤亜美(三井住友海上)の48kg級、昨年の世界選手権銅メダリストで同じくパリで素晴らしい内容で優勝した大野陽子(コマツ)とワールドマスターズ王者の新添左季(自衛隊体育学校)のいる70kg級も視野に入ってくるだろう。

男子はこの2ついずれの観点からしても66kg級丸山城志郎の派遣は極めて濃厚。となると考え方として「60kg級あるいは73kg級」か、それとも100kg級かという価値観上の綱引きが選考のみどころということになる。女子は現体制の特徴としてなにより「フェアネス」を重視する傾向があるということを考えて情勢を読んでいくのが良いだろう。

いずれ、変数としての選抜体重別の成績が重要なことは言うまでもない。上記は候補者全員がしっかり、それも素晴らしいパフォーマンスでこの大会に勝った場合を想定している。それぞれの選手がどんな戦いを見せてくれるか、非常に楽しみだ。

[文責]
前文・男子7階級:古田英毅
女子7階級:小林大悟/eJudo編集部

■ 60kg級 髙藤直寿欠場、永山竜樹は人事を尽くして選考を待つ
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髙藤直寿との直接対決がなくなり、永山竜樹は優勝が必須

第1シード:髙藤直寿(パーク24)※欠場 → 市川龍之介(東海大3年)に変更
第2シード:永山竜樹(了徳寺学園職)

世界選手権代表争いの権利者は前述の通り髙藤直寿と永山竜樹の2名。しかし髙藤は欠場し、実績からも代表入りはほぼ確実。代表争いにおける争点は、まず永山がしっかり今大会を優勝出来るかどうかということになる。前述の通り永山はグランドスラム大阪、グランドスラム・デュッセルドルフと選考大会では全勝も、ここまで既に2度世界選手権に出場しながら優勝していないという理屈上の弱みがある。実力は間違いなく世界王者レベルだが、世界選手権では直接対決で髙藤に敗れ、また予選2大会の優勝も当たりに恵まれず例えば「強豪を次々なぎ倒しての優勝」という圧倒的な絵を作れたわけではない。今大会の優勝は選考の俎上にあがるための必須条件のはずだ。直接対決で髙藤を倒すチャンスを逃したことは惜しいが、為すべきことを為し、あとは強化の判断を待つしかない。内容が良ければ良いほど代表権は近づく。モチベーションは高く保てるはずだ。

初戦で大物食いの得意な青木大(パーク24)、準決勝では組み手と寝技の巧者で展開をとることにも長けた大島優磨(旭化成)とその道は決して平坦ならず。逆サイドからは志々目徹(了徳寺学園職)の進出が有力。

■ 66kg級 2枠行使の最有力階級、最大のみどころは阿部一二三の「内容」
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世界選手権連覇中の阿部一二三、注目はその内容に技術的な上積みがあるかどうか。

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乗りに乗っている丸山城志郎は国際大会3連勝中

第1シード:阿部一二三(日本体育大4年)
第2シード:丸山城志郎(ミキハウス)

シードを受けた選考対象選手ふたりが優勝争いの二強。いずれもこの時点で既に世界選手権代表選出が濃厚だが、東京五輪代表の行方を巡る戦いは、今大会が分水嶺になる可能性が非常に高い。

阿部のパフォーマンスが最大の注目ポイント。みどころは、2つ。

まずは、丸山との相性。どうにも「苦手」という印象が残ったグランドスラム大阪決勝(※丸山が巴投「技有」で勝利)の戦いぶりを見る限り、再戦における展望は決して明るからず。組めず、具体的な仕掛けの道筋に乏しく、かつ組まれれば内股の襲来を怖がって状況を悪くするあの日の戦いからは次は阿部はこのようにして勝つ、という具体的な道筋は見出しがたかった。現時点、国内国外を問わず阿部の最大のライバルは丸山。そのライバルに相性噛み合わないとなればこれは間違いなくキャリア最大のピンチだ。勝敗はもちろん、そこに苦手意識の払拭あるか、ケンカ四つの強者に対して蓋然性のある攻めの手立てがあるかが観察の最重要ポイント。

もう一つは、前述と相似だが、「技術的な上積みがあるかどうか」。これは今後の阿部を測る上での最重要観察ポイントである。2017年に世界を制した阿部は、翌2018年のバクー世界選手権で連覇を達成したが、「技術の上積みなくば勝ち続けられない」はずのこの時代にあって1年前とほぼ同じ手立て、むしろ作りのパターンを減らして、もっとも使いやすいほぼ1つのパターンを貫く強行突破で優勝して見せた。しかしこれに早くもレッドカードが突き付けられたのが今年2月のグランドスラム・パリにおけるマニュエル・ロンバルド(イタリア)戦の敗戦。殻に閉じこもった相四つの相手を引っ張り出す手段に欠け、世界選手権で頼みとした釣り手を片襟に入れながらの右技は完全に読まれ、この技の起点である「左引き手で袖一本を持っての攻防」というベースに戻ったところを、その左腕を引き込まれての肩車2発に沈んだ。ハッキリ、このやり口だけではもう右相四つの強者とは戦えない。

1回戦でマッチアップする木戸清隆(天理大学クラブ)、準決勝で対戦が濃厚な田川兼三(了徳寺学園職)はいずれも右組み。木戸は阿部の柔道を良く知っており、田川は昨年10月の全日本学生柔道体重別団体優勝大会で投げ切れずに引き分け、「実は打開の手立てに乏しい」ことを露呈した阿部が調子を落とすきっかけの一となった因縁の相手である。双方ロンバルド戦をしっかり研究していることは間違いなく、相似の手段を、少なくとも手札のひとつとして懐に呑んではくるだろう。ここで阿部は、かつて対日本選手戦の定番であった「抱き勝負」やパワー勝負で無理やり破壊を試みるのか、なんらか技術的な上積みを見せてくれるのか。これが最大のみどころだ。パワーや勝負力の高さで無理やり突破したとなればこれはこの日この場での勝利という結果のみに留まるが、そこに技術的な上積みがあれば、阿部のこの先には一気に展望が開ける。このところの元気のなさを考えればそもそもまずこの2試合を勝ち抜けるかどうかというのが率直なところだが、コンディションが嵌った時の阿部の破壊力は比類なし。試合を楽しみに待ちたい。

■ 73kg級 「リオ-東京」期最後の大物対決、大野将平対橋本壮市の両世界王者激突に期待
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着々五輪へ道を進める大野将平、今シリーズの成績は完璧に近い

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グランドスラム・デュッセルドルフ優勝で生き返った橋本壮市

第1シード:橋本壮市(パーク24)
第2シード:大野将平(旭化成)
第3シード位置:海老沼匡(パーク24)
第4シード位置:立川新(東海大4年)

対象大会に4人が派遣され、優勝を果たした大野将平と橋本壮市の2名のみが生き残った形で最終予選を迎えることとなった。橋本には東海大の後輩立川新、大野には講道学舎の先輩海老沼匡と、それぞれ準決勝で刺客が配されている。

橋本は立川に2017年グランドスラム東京で「指導3」の完封負けを喫しており、対戦あるとなればそれ以来。片手をブラブラさせながらの変幻自在の組み手と、片手交換の間に見せる握り込みの「作り」が橋本の進退のベースだが、立川のひたすら相手を狭い空間に押し込めていく組み手の力と技術に橋本がその方法論を塗りつぶされてしまったというのが前回対戦の様相だった。試合に出るたび戦いの幅を広げている橋本が、立川の「指導地獄」をどうかわして勝利に繋げていくのか、非常に楽しみ。

大野はグランドスラム大阪、グランドスラム・デュッセルドルフと海老沼に連勝中。昨年の選抜体重別で1度敗れてはいるが、以降の2試合を見る限りともに攻撃志向の両者の対戦は良くも悪くも噛み合い、結果地力に勝る大野の側に勝ちが振れているという印象。今回もこの予測をもって試合を見守るのが事前予測の段階では妥当かと思われる。

橋本と大野の決勝は世界選手権代表のみならず、東京五輪代表を直接占う(どころか下手をすると決定的にしかねない)大一番。世界での戦いの勝ちぶりを見る限り実力の絶対値は大野が上ではないかと考えるが、橋本の技術はこういった地力比べを無力化し得るケレン味がたっぷり。こと直接対決では事態はどう転ぶかわからない。実際に、2015年の選抜体重別準決勝の対戦では優勝候補の大野が、当時は代表を争う権利のなかった橋本に左の「一本大外」で「有効」を失って敗れてもいる。

東京五輪出場に向けて明らかにターボを掛けた昨夏のアジア大会以降大野は全勝。必要なことを着々と積んで五輪への道を進んでいるが、その埋めるべき最後のピースがこの「橋本との直接対決」。圧倒的な柔道力を押し立てて、勝負運や相性ではなく「強いがゆえ」に五輪の頂点に立った大野が、その「強さ」だけでは解決できない可能性がある橋本という癖のある個とどう戦うか。本格派の極みである大野と、独自の技術体系でオンリーワンの方向に進化を続ける業師・橋本。タイプの違う両王者の対戦、まことに楽しみだ。

■ 81kg級 藤原崇太郎と永瀬貴規のベスト4対決に注目集まる
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世界選手権銀メダリストの藤原崇太郎。グランドスラム・デュッセルドルフでは今シリーズ日本人唯一の優勝を果たした。

第1シード:藤原崇太郎(日本体育大3年)
第2シード:佐々木健志(ALSOK)
第3シード位置:小原拳哉(パーク24)
第4シード位置:永瀬貴規(旭化成)

代表争いという観点においては、バクー世界選手権銀メダリストで、第3次予選のグランドスラム・デュッセルドルフでも優勝した藤原崇太郎(日本体育大3年)の実績が他を圧している。グランドスラム大阪とワールドマスターズを制した佐々木健志(ALSOK)が欧州でもある程度の成績を残していればタイに近い立場で畳に上がることも考えられたが、グランドスラム・パリで入賞なしに終わった佐々木が狙えるのは、この大会で圧倒的な成績を残しての「2枠目」のみ。しかも他階級の状況から考えるに行使の可能性は僅かだ。

というわけで藤原の代表選出がほぼ確定、佐々木が2枠目の僅かな可能性に掛けるというのが代表争い上の構図。ただしトーナメントはなかなかに厳しく序列通りに進むかどうかは読みがたい。藤原は準決勝でもと世界王者永瀬貴規(旭化成)と戦わねばならず、間違いなくここが大きな山場。永瀬は負傷から復帰してまだ本来のパフォーマンスを見せていないが、1戦ごとにあの理不尽なほどの体幹の強さが戻ってきているように思われる。欧州シリーズへの派遣はバックアッパー枠のグランドスラム・エカテリンブルク(2位)で今年の代表選出の目はほぼ潰えているが、以後のキャリアを考えてもここで藤原と佐々木を潰しておくことには十分な意味あり。優勝へのモチベーションは低くないだろう。

佐々木は準決勝で小原拳哉(パーク24)あるいは講道館杯2位の佐藤正大(自衛隊体育学校)とマッチアップ予定。極めて高い攻撃力と、それと裏腹の「自爆」リスクを抱えた佐々木であるが、今大会をどう規定して戦うのか。すなわち、圧倒的な内容伴わずば意味なしと考えるのか、それともまずは優勝に辿り着くべきと手堅く試合を組み立てるのか。佐々木の今後を測る上で、結果はもちろん戦い方にも注目したい。

■ 90kg級 役者揃ったハイレベル階級、最注目は伸び盛りの18歳村尾三四郎
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世界王者ガク・ドンハンを倒しもっか勢いはナンバーワンの村尾三四郎

第1シード:長澤憲大(パーク24)
第2シード:向翔一郎(ALSOK)
第3シード位置:村尾三四郎(東海大1年)
第4シード位置:ベイカー茉秋(日本中央競馬会)

欧州シリーズで結果を残したのは長澤憲大(グランドスラム・パリ3位)と村尾三四郎(グランドスラム・デュッセルドルフ2位)の2人。ともに優勝はなかったが長澤にはバクー世界選手権3位という過去の実績、村尾三四郎にはグランドスラム大阪に続く連続表彰台という現時点での成績と世界王者ガク・ドンハン(韓国)らターゲット選手への一本勝ち歴、とそれぞれアドバンテージがあり、さらにもう1人加えれば、欧州シリーズでは成績を残せなかった向翔一郎(グランドスラム・パリ5位)にもグランドスラム大阪優勝という勲章がある。3人の中では実績で上を行く長澤が12月のワールドマスターズで初戦敗退を喫してその最大の売りである「安定感」に疑問符がついているという情勢もあいまって、代表争いの行方は混沌。男子でもっとも先が見えない階級となっている。トーナメントを見渡せば、欧州シリーズ欠場でほぼ代表権潰えたもののこの大会での復活に掛ける五輪王者ベイカー茉秋(日本中央競馬会)、グランドスラム・エカテリンブルクで3位に入った田嶋剛希(筑波大4年)ら優勝クラスの実力者がひしめいており、優勝争いという観点でも試合は読みがたい。

その中であえて注目ポイントを挙げるなら、村尾三四郎の出来ということになるだろう。まさに揚がる勢い、1試合ごとにめきめき強くなっている村尾は、閉塞感を隠せない日本90kg級に現れた新風。巧者に勝負師、一発屋と厄介なタイプが打ち揃うこの重囲を現時点で勝ち抜けるようなら、高校1年時から公言していた東京五輪への挑戦は一気に、具体的に手が届くものとなる。もともと左相四つのパワー型を苦手にしていたが、欧州シリーズでは片襟を混ぜることで打開するなど試合に思考の「量」が垣間見えることにも期待が持てる。かつて増山香補(明治大)の担ぎ技の放列を凌げず敗れているが、成長した今、同じく担いでくるタイプにどう戦うかもみもの。初戦の長井晃志(日本体育大3年)は増山とは型が違うが担ぎも利く厄介な相手。まずはこの戦いに注目したい。

■ 100kg級 「一抜け」ほぼ確実のウルフアロンがV候補、飯田健太郎はキャリア掛かった大一番
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グランドスラム大阪を制し、グランドスラムパリでもしっかり決勝まで進んだウルフアロン

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飯田健太郎は今大会の勝利に初の世界選手権代表が掛かる

第1シード:ウルフアロン(了徳寺学園職)
第2シード:飯田健太郎(国士舘大3年)
第3シード位置:羽賀龍之介(旭化成)

代表争いの観点からは、ウルフアロンの「一抜け」はほぼ確定的。2枠目を引き寄せられる可能性のある飯田健太郎の戦いに注目、というのが大枠の構図。

好カード目白押しも、まず羽賀龍之介と飯田健太郎の準決勝に注目したい。昨秋復帰後の羽賀は大枠の体の強さと巧さを見せるも、それが決めるべき技である内股に繋がっていないという印象。ただし飯田の現状の課題は、まさに体の強さと巧さを兼ね備えた相手にしっかり刃を入れられるかというところ。勝って世代交代を宣言するのか、羽賀が踏ん張りを見せるのか。両者の組み手が、投げに至る過程の成否に技術の占める割合が多いケンカ四つであるところも注目ポイント。圧が効けば羽賀、ずらして隙間に足をねじ込むような巧い戦い方が出来れば飯田という読みになる。羽賀にはのっけに西山大希(日本製鉄)戦という山場があり、まずここの戦いで現状が問われる。

ウルフはパワーに加えて、他の追随を許さぬ思考量に裏打ちされた技術と戦術の高さが売り。現在の100kg級では頭ひとつ抜けた存在で、国際大会では素晴らしい出来を見せる飯田もこと対ウルフ戦に関してはここまでは圧倒されてしまっている。前回対戦では飯田の課題がことごとくウルフの長所であり、まったくもって噛み合わないという印象であったが、この差をどのようにして、どこまで詰めているのか。飯田の今後を測る注目の対決だ。高校時代から天才と評判高かった飯田のキャリアの重心が東京五輪なのか、それともパリ五輪に先送りされるのかを決めてしまいかねない大一番と言えよう。

ウルフは準決勝で熊代佑輔(ALSOK)と垣田恭兵(旭化成)の勝者との試合が待っており、これも非常に楽しみ。タイプは違うがともに業師で大物食い属性あり。熊代-垣田は泥臭く絡みつける垣田に相性的な分があり、一方ウルフとの対戦では間合いを取りながら意外な一撃を狙える熊代のほうが面白いと見る。

■ 100kg超級 注目は第1シードの原沢久喜、国際大会の好調反映されるか
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欧州シリーズ絶好調、復活なった原沢久喜

第1シード:原沢久喜(百五銀行)
第2シード:影浦心(日本中央競馬会)
第3シード位置:小川雄勢(パーク24)

第2次選考(グランドスラム大阪)終了時点では、「候補者なし」と言われかねない惨状を呈していた100kg超級だったが、続く欧州シリーズで選考事情は一変。グランドスラム・パリで2位入賞し、グランドスラム・デュッセルドルフでは素晴らしい出来で優勝した原沢久喜がいまや大きく抜け出し、期待を一身に集めている。世界選手権があくまで海外選手と戦う場である以上、国際大会の実績でここまで差がついてしまえば他選手に追いかける術はもはやほとんどない。

今大会の興味は、欧州シリーズで見せた原沢のあの強さが国内の磁場でいかほど発揮されるかということに尽きる。組み合わせは初戦で七戸龍(九州電力)、準決勝でおそらく王子谷剛志(旭化成)という厳しいもの。代表争いにおける優位があまりに明白、かつ3週間後に最終選考の全日本選手権が控える状況でモチベーションを保つのは難しいかもしれないが、逆に、ここで勝ってしまえばその立場は揺るぎないものとなるはず。今春国内でしっかり成績を残せば、この優位の賞味期限は間違いなく五輪代表決定時期まで続くことになるはずだ。

逆側の山は影浦心、佐藤和哉(日本製鉄)、小川雄勢、太田彪雅がひしめく大混戦。原沢がここまで抜け出した以上、他選手に出来る手立ては粛々夏以降に向けて楔を打つこと。まさにサバイバルである。

■ 48kg級 第1シードの渡名喜風南が欠場、2番手近藤亜美は優勝が必須
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復調気配の近藤亜美に、渡名喜風南との直接対決の機会は与えられず

第1シード:渡名喜風南(パーク24) ※欠場
第2シード:近藤亜美(三井住友海上)

第1シードに置かれた2018年バクー世界選手権2位の渡名喜風南(パーク24)が欠場。3月14日に左膝を負傷、20日に受診して左膝内側靭帯を痛めたと診断された。とはいえ、渡名喜は世界選手権以降もグランドスラム大阪とグランドスラム・デュッセルドルフの2大会に優勝しており、代表選出はほぼ確実な情勢。欠場による選考への影響はほとんどないと考えて良いだろう。

一方、2枠目での代表選出を狙っていた近藤亜美(三井住友海上)にとっては、この渡名喜の欠場は非常に痛いもの。直接対決でアピールをする機会を失うこととなってしまった。近藤は2月のグランドスラム・パリを好内容で制しているものの、昨年シーズンの不首尾を考えると現時点で渡名喜に追いつくまでの成績は残せていないと考えるべき。他階級との比較でも2枠目選出の可能性は高くないと思われるが、もし優勝を逃すと渡名喜の独走を許すことになってしまう。なんとしても勝利して2番手の位置を死守したい。

■ 52kg級 志々目愛と角田夏実の同門ライバル対決に注目
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2017年世界選手権の覇者・志々目愛。2枠目獲得にもっとも近い位置につけている。

第1シード:志々目愛(了徳寺学園職)
第2シード:角田夏実(了徳寺学園職)

バクー世界選手権王者の阿部詩(日本体育大1年)が既に代表内定を決めており、参加選手が狙うのは2枠目ということになる。この権利を有しているのは、まずは志々目愛(了徳寺学園職)。平均値の戦いができれば、決勝進出までは間違いないだろう。実績という意味では十分なものを有しており、前述の通り強化陣に「フェアネス」を重視する傾向があることからも、優勝した場合には選ばれる可能性が高いと思われる。対抗馬は昨年の本大会王者の角田夏実(了徳寺学園職)。角田もグランドスラム大阪とパリで2位、ワールドマスターズ優勝と十分な結果を残しており、実績的には志々目と同等のものを持っている。

両者はパリ大会の決勝で対戦しており、その際は志々目が「指導3」の反則で勝利している。ここで一応の差がついた格好となっているが、今大会の直接対決で角田がインパクトのある勝利を上げた場合には、逆転する形での代表選出も十分あり得るだろう。

■ 57kg級 芳田司の代表選出が確実、玉置桃は2番手の座キープを目指す
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芳田司は現時点で代表権獲得がほぼ確実視される

第1シード:芳田司(コマツ)
第2シード:玉置桃(三井住友海上)

現役世界王者の芳田司(コマツ)が実質的に代表に内定している状況。芳田はグランドスラム大阪こそ5位だったが、その後のワールドマスターズとグランドスラム・デュッセルドルフには連続で優勝しており、内容も極めて良し。一方その間に対抗馬の玉置桃(三井住友海上)は1度も優勝出来ておらず、その成績の優劣は明らかだ。玉置は2枠目での選出も厳しいと言わざるを得ず、ここで意地を見せて勝利、場を乱しておいて夏以降の戦いに可能性を繋ぎたい。

トーナメント。芳田の側には特筆すべきライバルはいないが、玉置の方は初戦で石川慈(コマツ)、準決勝で所属の後輩・舟久保遥香(三井住友海上)と強豪と連戦予定。最低でも芳田との直接対決まで辿り着きたいところだ。

■ 63kg級 田代未来が国際大会の実績で大きくリード、国内制しての代表獲得を目指す
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田代未来も代表ほぼ確実な情勢、しっかり勝って世界選手権に弾みをつけたい

第1シード:田代未来(コマツ)
第2シード:鍋倉那美(三井住友海上)

この階級も国際大会での実績では第1シードの田代未来(コマツ)が大きく抜け出ており、実質的な内定状態と考えるべき。2番手の鍋倉那美(三井住友海上)は昨年8月のアジア大会以来優勝できておらず、グランドスラム・パリで得意としていたティナ・トルステニャク(スロベニア)に敗れていることからも第1代表として選出の可能性はほぼないと言って良いだろう。ただし、田代は国内での戦いに不安があり、昨年の本大会は初戦敗退を喫している。余計な議論を呼ばないためにも、今回は確実に優勝して代表の座を手にしたい。田代は準決勝でグランドスラム大阪で敗れた能智亜衣美(了徳寺学園)と対戦予定となっており、ここが最大の山場だ。

■ 70kg級 大野陽子と新添左季がトーナメントの柱、新井千鶴に続く2枠目出場を目指
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復調の大野陽子。虎視眈々と2枠目確保を狙う。

第1シード:大野陽子(コマツ)
第2シード:新添左季(自衛隊体育学校)

52kg級と同様、本階級も現役世界王者の新井千鶴(三井住友海上)が既に代表に内定している。よって、こちらも出場者が狙うのは2枠目での世界選手権出場。この権利を有しているのは大野陽子(コマツ)と新添左季(自衛隊体育学校)の2名だ。新添がワールドマスターズ優勝、大野がグランドスラム・パリ優勝とどちらも実績は十分。前述のとおり現在の女子強化陣はフェアネスを重視する傾向があり、この大会に優勝すれば2枠目での選出も十分にあり得るだろう。他の階級のライバルに差をつけるため、出来るだけ良い内容での勝利を目指したい。

■ 78kg級 強者ひしめく大混戦、最大の見どころは梅木真美と佐藤瑠香の準決勝
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大混戦の78kg超級。きょうこの時点でリードがあるのは梅木真美。

第1シード:濵田尚里(自衛隊体育学校)
第2シード:梅木真美(ALSOK)
第3シード位置:佐藤瑠香(コマツ)

混戦という意味では、今大会屈指の激戦階級がこの78kg級。現役世界王者の濵田尚里(自衛隊体育学校)はバクー世界選手権後1度も優勝できていないためかなり厳しい状況だが、梅木真美(ALSOK)と佐藤瑠香(コマツ)の2人が激しく代表の座を争っている。直近の大会でもグランドスラム大阪では佐藤が優勝、梅木が2位、ワールドマスターズでは梅木が優勝、佐藤が2位と競っており、グランドスラム・パリの直接対決での勝利を以て、紙一重で梅木がリードしている状況だ。
両者は準決勝で対戦予定となっており、ここが代表選考における最重要試合。両者の差は今大会の内容次第では十分逆転可能なものであり、この試合の勝者がそのまま代表に選ばれる可能性大だ。

また、東京五輪の代表争いという意味では、濵田や髙山莉加(三井住友海上)、泉真生(コマツ)もまだまだ選考圏内にいる。これら3選手は全員が上側の山に置かれており、誰がここを決勝に勝ち上がるのかにも注目したい。

■ 78kg超級 朝比奈沙羅と素根輝のライバル対決第1ラウンド、両者ともに初戦に山場
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現役世界王者の朝比奈沙羅。グランドスラム・デュッセフドルフ決勝でイダリス・オルティスに敗れ、「海外選手への強さ」というアドバンテージに傷をつけてしまった。

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素根輝は朝比奈沙羅に3連勝中。

第1シード:朝比奈沙羅(パーク24)
第2シード:素根輝(環太平洋大1年)

現役世界王者の朝比奈沙羅(パーク24)とワールドマスターズ王者の素根輝(環太平洋大1年)による代表争い第1ラウンド。最終的な判断は皇后盃全日本女子柔道選手権の結果を待つこととなるが、ここで勝利した選手が限りなく代表に近づくこととなる。実績では世界王者の朝比奈に軍配が上がるものの、素根も昨年はアジア大会優勝、グランドスラム大阪2位、ワールドマスターズ優勝と大規模国際大会で実績を残しており、かつ直接対決3連勝中。現時点での差はほとんどないと考えられ、代表の決定はこの4月に行われる2大会の結果がそのまま反映されることになるだろう。

組み合わせではともに初戦に強敵が置かれており、朝比奈が山部佳苗(ミキハウス)、素根が児玉ひかる(東海大1年)と対戦する。どちらも一筋縄ではいかない実力者。まずは両者がどのように大会を滑り出すのかに注目したい。

※ eJudoメルマガ版4月4日掲載記事より転載・編集しています。

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