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【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第64回

(2018年10月29日)

※ eJudoメルマガ版10月29日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第64回
(雑誌の名称を「大勢」としたのは:筆者注)世界現時の大勢に順応して将来の大勢を作るという趣旨に基づいたのである。
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嘉納治五郎師範
資料提供 公益財団法人講道館
copyright:Kodokan Judo Institute

※写真の無断転載および転用を厳に禁じます

出典:「本誌発行の趣旨」 大勢1巻1号 大正11年4月
(『嘉納治五郎大系』6巻323頁)
 
「柔道」という名前の雑誌があります。
A4サイズの半分のA5版。雑誌ではあまり見られないサイズです。写真も巻頭数頁はカラーですが、あとはすべてモノクロ。大きな書店でもなかなか見ることはありませんが、これは柔道の総本山である講道館が月に1回発行している機関誌です。
お世辞にもメジャーとは言えない雑誌ですが、その起源を辿っていくと嘉納師範の時代にまでさかのぼることが出来る歴史のある雑誌です。

本連載を開始する時、師範とそれまでの武道家の違いとして「言説による普及活動」をあげましたが、その多くは、雑誌に発表されたものです。
師範はその生涯で「国士」「柔道」「有効の活動」「柔道界」「作興」などの雑誌を立ち上げました。これらの雑誌は柔道の普及だけを目的としたものではなく、また講道館から発行されたものばかりでもありませんが、一括して「講道館雑誌」と呼ばれて、現在、柔道の歴史や師範の思想を学び、研究するのに貴重な資料となっています。

そういった「講道館雑誌」の1つに「大勢」という雑誌があります。その命名の理由が今回の「ひとこと」です。ここで言う「大勢」とは、<世の成り行きや形勢>といったところでしょうか。もっとくだけて言えば、世界の流れと言っても良いかもしれません。その世界の情勢を知り、さらに、将来の世界の流れを作ろうとする、この師範の姿勢はまさに、「気宇壮大」。高い志を感じることが出来るでしょう。
もちろん、ここで言う世界が柔道界に限定された狭いものではないことは言うまでもありません。

ところが、この「大勢」、わずか数冊出たところで、同時に発刊された雑誌「柔道界」と合併してしまい、その名称はなくなってしまいます。その後、数度の変遷を経て、現在の冒頭で紹介した「柔道」が確立され、現在に至っています。

この雑誌の事業ついて、師範は後年、あまり成功したとは言えないと回想しています。特にこの「大勢」と「柔道界」については「失敗に帰した」と言い切っています。

雑誌を作成するのには、当然お金がかかります。また、せっかく作った雑誌も売れなければ、出費が増えるばかりで、事業としてなりたちません。残念ながら、これらの雑誌は売れなかったようです。
師範の世界を視野にいれた高い志からはじめた事業も、残念ながら、経済的な理由により路線を変更せざるを得なかったわけです。
 
もっとも、別のところで、師範は雑誌の事業がうまくいかなった理由の1つとして<柔道修行者が本を読まない>ということも挙げています。

修行者がもっとも世界の情勢に関心を持ち、雑誌を購入し、師範の志に少しでも近づこうとしていれば・・・。歴史に「もし」はありませんが、今とは違った世界があったのかもしれません。


※読みやすさを考慮して引用は『嘉納治五郎大系』から行っています。

著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版10月29日掲載記事より転載・編集しています。

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