
大野将平が優勝、世界王者3名入り乱れる激戦を制す・平成28年全日本選抜柔道選手権73kg級レポート
(2016年4月25日)※ eJudoメルマガ版4月25日掲載記事より転載・編集しています。
大野将平が優勝、世界王者3名入り乱れる激戦を制す
平成28年全日本選抜柔道選手権73kg級レポート
世界選手権の王者3人が参加するという柔道界屈指のハイレベルマッチは、秋本啓之(了徳寺学園職)の初戦敗退というショッキングな形で幕開け。秋本は田村和也(パーク24)を相手に「指導」3つをリードしてスコア的には安定した試合ぶりであったが、残り44秒に内股「有効」を食って状況まさしく暗転。取り返しに出た残り26秒には小内刈を食ってしまい、無情の「一本」で畳に沈んだ。30歳の秋本は2010年以来(優勝)世界選手権にこそ出場していないが、この2年間ここぞという国際大会に過たず勝ち続け、常に「誰もが認めざるを得ない」結果を示してここまで命を繋いできた。負ければそのまま選手キャリアの終了に繋がりかねないというプレッシャーの中で自らを追い込み、そして結果を残し続ける様には若手選手も学ぶところが大きかったのではないだろうか。力が尽きたかのように散った今大会の無念は想像するに余りあるが、今大会もファンの心に残した存在感は他と比べようのないものであった。
決勝カードは第1シード選手と第2シード選手による世界王者対決、大野将平(旭化成)と中矢力(ALSOK)の対戦となった。
大野は1回戦で学生王者福岡克仁(日本大2年)の粘り強さを攻略し切れず、しかし隙も全く見せないという戦いで「指導1」を奪っての優勢勝ち。準決勝は昨年敗れた橋本壮市から2分50秒に奪った肩車「有効」をテコに優勢勝ちを果たし、無事決勝進出決定。
一方の中矢は1回戦で山本悠司(天理大3年)と対戦、序盤に巴投で「有効」を奪い、「指導3」まで失うもなんとか逃げ切って優勢勝ち。準決勝の田村和也戦は2分27秒に「韓国背負い」で「技有」奪取、さらに「指導」を3つまで積む完勝で決勝への勝ち上がりを決めて来た。
決勝は大野、中矢ともに右組みの相四つ。
開始早々中矢が両襟の巴投、耐えた大野をあくまで引きずり込んで寝勝負を挑みこの試合に挑む方針明らか。大野が足を絡んで耐え「待て」となるが、中矢は続く展開も片手の右背負投で潰れ、寝技に誘う。
続く展開、大野の圧を嫌った中矢が左への前技に腰を切ろうとしたところを大野ズイと抱き抱えて返す。力関係に十分自信のあることがわかるこの対応以降試合展開は大野に振れ、直後大野が引き手で袖、釣り手で奥襟の完璧な組み手を作り出すと中矢自ら膝を屈して潰れる。主審はこの攻防を引き取って中矢に偽装攻撃の「指導1」を宣告。経過時間は1分41秒、残り時間は3分41秒。
以降も地力に勝る大野と、展開の中でなんとかチャンスを探そうという中矢という構図で試合は推移。2分半過ぎ、組み手の手立てを変えた大野が引き手で脇下、釣り手で頭裏から奥襟を持ちながら思い切り右大外刈。鉈を振るうような強烈な一撃に中矢吹っ飛びかかるがなんとか身を捩じり、後ろ手に畳に落ちる。大野は肩を確保して縦四方固を狙い、中矢は足を絡んで「待て」まで耐え切るが立ち上がり際の様子がおかしい。「後ろ手」のまま落下した際に肩を負傷した模様。
スコアでアドバンテージのある大野が展開をも握り、かつビハインドの中矢が負傷したことでもはや試合の趨勢決した感あり。
大野が引き手で袖を得て奥を掴むと中矢は右一本背負投に潰れ、大野引き起こして大外刈を試み「待て」。残り時間は55秒。
大野再び引き手から得て釣り手を奥に入れると、中矢は一旦噛み殺し、左内股の形で切ってリセット。
大野が「巴十字」を試みたところで残り時間は28秒。中矢に勝利の可能性がある寝勝負に必要な時間を考えると、もはや試合はクロージングの段階。大野の前進を中矢が巴投で凌ぐという展開が2度あって「それまで」の声が掛かる。この試合は「指導1」の優勢で大野が勝利することとなった。
ワールドツアー大会同様絶対の優勝候補と目されながら、つまりは徹底的なマークを受けながらしっかり結果も残した大野の強さはやはり出色。決勝も大枠の構図からディティールまでしっかり地力を染みわたらせ、スコアこそ「指導1」だが、最大のライバルである中矢に攻略の糸口を与えない完勝であったと言える。世界最強を誇る日本の73kg級が、1人代表として五輪の舞台に送り込むにふさわしい強さと安定感を見せつけたと言えるだろう。
五輪代表には全く異論なく大野が選出された。日本チーム全体を通してもっとも金メダルに近い位置にいるのはおそらく大野、本番ではこの圧倒的な強さにふさわしい結果を期待したい。
【成績上位者】
優 勝:大野将平(旭化成)
準優勝:中矢力(ALSOK)
第三位:橋本壮市(パーク24)、田村和也(パーク24)
大野将平選手のコメント
「日本の73kg級は一番レベルが高い階級と思っていますし、そこで自分が一番強いということを証明しようと思って戦いました。(中矢選手は)リオ五輪代表を4年間ずっと争ってきたライバル。とにかく5分間集中して戦いました。まだまだ内容が偏っていますが、五輪に向けては、先輩方がやってきた日本柔道を継承して、そして自分の柔道を見直して稽古に励みます」
【1回戦】
大野将平(旭化成)○優勢[指導1]△福岡克仁(日本大2年)
橋本壮市(パーク24)○優勢[指導3]△土井健史(ダイコロ)
田村和也(パーク24)○小内刈(4:34)△秋本啓之(了徳寺学園職)
中矢力(ALSOK)○優勢[有効・巴投]△山本悠司(天理大3年)
【準決勝】
大野将平○優勢[有効・肩車]△橋本壮市
中矢力○優勢[技有・背負投]△田村和也
【決勝】
大野将平○優勢[指導1]△中矢力
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