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※eJudo携帯版「e柔道」5月3日掲載記事より転載・編集しています。

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全日本柔道選手権マッチレポート
準決勝~決勝 2/2


決勝

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写真:決勝開始の声を聞く加藤
加藤博剛、石井竜太の両者とも初めての決勝進出。

加藤は国士舘大出身の26歳、全日本選手権5回目の出場。身長174cm、体重93kg。学生時代から代名詞の「加藤返し」で知られる寝技を武器に特に無差別の団体戦で活躍、勝負師として名を揚げて来た。無差別での強さは知る人ぞ知るところで、ここ3年は全日本選手権の関東地区大会を圧倒的な強さで3連覇している。
この日は2回戦で長尾翔太を巴投「一本」(3:17)、3回戦で香川義篤を袖釣込腰「一本」(5:11)と素晴らしい立ち上がり。準々決勝で棟田康幸を僅差3-0、準決勝では百瀬優から「技有」を奪っていずれも優勢勝ち、見事初の決勝戦へと駒を進めた。

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写真:同じく石井。
「始め」の声に気合十分
石井は東海大出身の24歳、全日本選手権2回目の出場。身長193cm、体重135kg。学生時代から大物候補として知られていたが、社会人入りしてからの厳しいトレーニングと増量で昨季一気にブレイク。「勝っても負けても一本」という学生時代の不安定さがなくなり、圧倒的なパワーをベースに「一本」連発で講道館杯を制覇、人材払底の100kg超級の救世主現ると騒がれた。
この日は2回戦で中山将男を僅か14秒の内股「一本」、3回戦も加藤博仁を大外刈(3:44)、準々決勝は高橋和彦を大外刈(1:03)、準決勝は鈴木桂治に総合勝(1:32)とオール一本勝ち、6分戦というこの過酷な全日本選手権で合計試合時間394秒、平均試合時間僅か98秒という圧倒的な勝ち上がりでこの決勝まで辿りついた。

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写真:石井の豪快な払腰。
加藤辛うじて伏せて耐える
加藤左、石井は右組みのケンカ四つ。

石井これまでの試合と同様、ケンカ四つの加藤に対し敢えて引き手から右襟を狙うが、加藤これを嫌って一旦離れる。

14秒、加藤に距離を取られ続けて業を煮やした石井スタスタと歩み寄っておもむろに引き手で右襟を掴むと、引き寄せて釣り手で背中を握る。加藤がおもわず防御姿勢になったところに右大外刈、膝を捕まえるとみるや払腰に連絡すると加藤大きく浮く。この試合も「秒殺」で決まるかと場内どよめくがこれは加藤が外側に逃れ、辛くも伏せて落ち「待て」。経過時間は25秒。

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写真:加藤の左背負投。
石井は逆回りに体を逃がすが、
体勢を崩して引き込みの形へ
再開後、なかなか右襟を空けない加藤に対し、石井はこれを争うと見せて左手で加藤の左前襟を引き寄せ、右手に持ち替えてしっかり釣り手を得、これを橋頭堡に両襟をガッチリ掴んで圧をかける。
しかし加藤はこれに耐えながら体をズラして隙間を作ると一瞬背筋を立て、左袖を両手で握った左背負投に座り込む。逆側に回って一旦膝をついてこれを止めた石井、滑るように尻餅をついて寝技に引き込む体勢となる。加藤のポイントが宣告されてもおかしくない場面であったが、3審ともにこれは取らず「待て」。経過時間は47秒。

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写真:加藤、果敢な左小内刈で
石井を崩す
石井は再び引き手で加藤の右襟を持ち、引き寄せて両襟の形。
加藤は圧を受ける形だが、果敢に引き出しの左小内刈に足を絡めて石井を大きく崩すと次いで巴投、さらに石井が展開終了と一瞬油断するところに立ち上がって左袖を両手で握った左背負投に入り込む。石井これは腰を出して潰すが、3連発の技のたびに会場大きくどよめき、試合の流れはやや加藤に傾きかかる。経過時間は1分11秒。

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写真:加藤が石井の右小外掛を透かし、
体を浴びせて「一本」
再開後、引き手を欲しがる加藤が石井の左袖を手繰るが、石井これを嫌って一旦切り離し組み手はやりなおし。

と、加藤が組み立てを変えて釣り手で石井の右脇を差して深く背中を掴み、横腰に抱きつく。大型選手に対する誘いの一手だが、石井はこの接近戦を受け入れ釣り手で背中を叩き、引き手で加藤の右襟を掴む。
石井ほとんど間髪おかずに腰を切って前技のフェイントを僅かに入れると、体を倒して右小外掛。

ところがこれは加藤のコントロール下。加藤鮮やかにこれを透かすと石井は右足を畳について投げようと踏ん張ったその姿勢のまま仰向けに倒れ、加藤は胸を合わせてこれを制しきって決めに掛かる。大木が倒れるように石井背中から畳に落ちて「一本」。加藤が腰に食いついてから僅か1.7秒、あっと言う間の攻防であった。

試合時間は1分29秒。勝負師・加藤がついに最高峰である全日本柔道選手権という頂上を極めることとなった。

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写真:会心の笑みを浮かべる加藤。
中量級の優勝は昭和47年大会の
関根忍以来という快挙となった
勿論加藤は初優勝。玄人筋からは「十分ありうる」と評されていた今回の優勝だが、客観的に見ればやはり加藤の立ち位置はダークホース。
「夢みたい。自分がいまどこにいるのかわからないくらい興奮している」というコメントは偽らざるところだろう。決勝はここまで手堅い組み手で勝ち上がってきた石井の組み手をブレイクし、かつての石井の弱点である、取るか取られるか一か八かの勝負を仕掛けるフィールドに誘い出して試合を決めた。まさに勝負師の面目躍如といったところだ。

敗れた石井であるが、地力はまさしく全日本選手権を獲るに十分。一瞬の判断ミスで敗れた形だが、この一瞬が示唆するものは根深い。
石井はかつて良くも悪くも「勝っても負けても一本」と評されていた選手、勝ちぶりも良ければ負けぶりもまたキップが良いという典型的な大型選手であった。これがパワーアップと技の技術の向上、そして手堅い組み手を獲得することで一気に一流選手としてのし上がってきたわけだが、決勝のあの瞬間はまさしく石井を一流としてのし上げた要素が欠けてしまっていた。

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写真:惜しくも初優勝を逃した石井。
間違いなく優勝クラスの地力があった
この日の石井はケンカ四つの相手と3連戦、いずれもセオリーの釣り手ではなくまず引き手で相手の右襟を引き寄せ、相手が手詰まりとなったところで両襟を得て圧力が掛かる状況をしっかり作っていた。釣り手で奥襟、もしくは背中を持つ場面もあるにはあったが、いずれもこの手順を経て隙間を殺して相手の釣り手を縮め、圧力が掛かる状態を作り出してのもの。大型選手が中量選手に対して犯してがちな「奥襟、背中を『持たされて』実は圧力が掛かっていない」状況とは無縁であった。
この日の石井で特筆すべきは、技の破壊力やパワーでなく、この丁寧な組み手、自身の力が生き、相手の力が死ぬ状況をまず積み上げてから勝負を掛けるという我慢の組み手だったのである。
学生時代、思考停止して「思い切った技」を仕掛けるという場面が多かったゆえに一本勝ちも一本負けも多かった石井と、この点選手のステージとしては一線を画する。手堅さと思い切り、弱点を克服して長所を生かし続けたこの日の石井はまさに無敵だった。

しかし加藤の「腰抱き」に応じた石井、この場面ではなぜか簡単に背中を叩き返し、加藤に腰を抱かれた状況で相手に圧は掛からず。しかも、性急に、安易な後技である小外掛を選択した。彼我のパワー差が無力化される腰を抱かせての近距離戦、この危ない局面で体格に任せたイチかバチかの小外掛という選択。投げ急いだと言う他はない。少なくとも、勇気を持って前技を仕掛けていれば、裏返しに「一本」まで失うという最悪の事態はなかったはずだ。

この全日本選手権の石井の全5戦、合計488秒の中で最後の1秒半、この瞬間だけは石井は現在の石井でなく、強気と弱気が不安定に同居する「勝っても負けても一本」の学生時代の石井に針が戻っていたと言っていい。地力十分の石井は全日本選手権者となるために必須のメンタル面の研磨、ここがあと一歩、足りなかったということだろう。

ターニングポイントとして気になるのは、47秒に繰り出した加藤の左背負投である。本人は「あれは大丈夫だった」とその影響を否定したが、両前襟を得るというこの日の石井の柔道を支えてきた典型的な形、圧力が掛かる形を掻い潜られてあわやポイント失陥というあの場面が石井の心理に大きく作用したのではないか。中量選手に対して圧が掛かりきらず一発潜られてしまう、この面倒な展開への無意識な忌避が、体格を利して早く勝負を決めたいというあの、背中を叩いて体重を後ろに預ける「重量級の小外掛」に繋がったと推測したい。

石井本人は「あの場面だけなぜか組み手が雑になった。フッと持ってしまった。せめて大内刈や前への技を仕掛けていればあんなことにはならなかったのに、なぜ小外刈にいったのかわからない。未熟です」と語ったが、これは急成長した石井をこのステージまで引きずりおろした加藤の老練さを褒めるべきだろう。上述の石井の心理状態の推移を加藤の行動に引き写していくと、「石井の得意の組み手に引かずに潜りこむこと、掛けつづけることで疑心暗鬼を誘っておき、かつての一番悪い癖を引っ張り出すべく腰を抱いて接近戦を挑む」という完璧に近い試合展開が浮き上がるからである。加藤としては「勘」で処理した部分もあるかもしれないが、急成長した石井のまさに突貫工事で盛ったばかりの部分を取り払い、本来の弱点を浮き上がらせる。勝負師加藤の真骨頂と呼べる試合であったと評したい。

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写真:天皇杯を授与される加藤
さて、この全日本選手権の総評だが、加藤、石井の両雄の素晴らしい活躍を高く評価したい。羽賀龍之介という次代のエース候補がついに全日本選手権で頭角を現してきたこと、ベテラン棟田、鈴木の気合の入った試合振りもあり、戦前評に比して十分見ごたえのある大会であった。観客も満足して帰路についたのではなかろうか。
しかし、これを前提にした上で、やはり今大会は主役不在、真打不在の全日本選手権であったと評せざるを得ない。

無差別の戦いを得意とする中量級の勝負師・加藤。
急成長、昇竜の勢いで一本勝ちを連発する巨漢の新鋭・石井。
相手の良いところを消すところに長け、誰とやっても「面白くない」試合に引きずり込む試合巧者・百瀬。

優勝、準優勝、3位のこの3人。どの時代の全日本にも、このタイプは存在した。観戦歴の長いファンであれば上記のキャプションの名前の部分だけをかつての名選手に綺麗に入れ替えることが出来るはずだ。それも何通りも。
どの時代にも、どの全日本にもこの選手たちはいた。ただし主役ではなく大会を盛り上げる名脇役、玄人好みの名優としてだ。

全日本という場は厳しい。試合という行為に極端に長けた中量級の勝負師、圧倒的な力を持つが経験不足の次代のホープ、相手の力を消すのが上手で新人たちを翻弄する曲者、しかしこれらの名優たちは全て、全日本選手権という「格」それ自体を担う重量級の本格派の第一人者たちに叩き潰され、蓋をされ、選手権獲得には辿りつけない、もしくは何年もの挑戦を経て周囲が選手権者として納得できるだけの苦労と成長を経てようやくその栄冠を得るというのが伝統であった。

しかし、今大会は蓋をすべき超級の本格派が不在。
元来彼ら「名優」たちの活躍のメインフィールドは、3回戦、準々決勝であったはず。「全日本は3回戦が一番面白い」と言われ続けた所以であるが、彼らに蓋をすべき主役級、勝ち上がらせてはいけないという重責を担うべき重量級のエース格がスコンと抜けたため活躍の場はトーナメントの山一段階ぶんずつ、繰り上がった感がある。

石井慧が勝負にこだわる柔道で全日本を制し、その柔道スタイルが王者らしくないと非難を浴びた一時期がある。石井本人への非難は明らかに的外れで、このタイプの選手がもう一皮向けて本格派に脱皮するまでは準々決勝、準決勝で叩き潰されてきた場、それが全日本であり、攻められるべきは石井ではなく、その時点で石井を勝たせてしまった周囲だったはずである。
一昨年王者穴井隆将の欠場という事情はあったものの、6年前と「主役不在」の構造が変わっていないこの状態、全日本選手権はどこへ行くのかとおののかざるを得ない。

繰り返しになるが、正直前評判の芳しくなかった今年度大会だがやはり中身の濃い、面白い大会であった。やはり全日本は全日本、素晴らしい大会、衆目を集めるに足る最高権威大会であると改めて感じざる大会であった。

しかしやはり総評として浮き上がらせざるを得ないのは、超級本格派の王者という主役の不在。約40年ぶりの中量級優勝という偉業を成し遂げた加藤への敬意とともに、主役不在の芝居、真打を務める主役級を差し替え、名脇役だけで固めきり、彼らの熱演によりかかってなんとか終えた興行であったと今大会を評してこの稿を終えたい。

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写真:見事優勝を成し遂げた加藤
【入賞者】
優勝:加藤博剛(千葉県警)
準優勝:石井竜太(日本中央競馬会)
第3位:鈴木桂治(国士舘大教)、百瀬優(旭化成)
第5位:棟田康幸(警視庁)、上川大樹(京葉ガス)、羽賀龍之介(東海大3年)、高橋和彦(新日本製鐵)

加藤博剛選手のコメント
「夢なのかなんなのか、自分がどこにいるのかわからないくらい興奮しています。自分の柔道を信じてやってきたこと、兄と二人三脚で一生懸命稽古してきた成果だと思います。調子はまあまあ、試合をやっていくにつれ上がっていったという感じです。全部の試合が山場でした。必死でした。決勝は特に作戦というのは考えていなかったですが、奥襟を叩かれてはいけないというのはありました。最初危ない場面がありましたがその後はしっかり立て直すことができました。(中量級の優勝は40年ぶりだが?)勝つことだけ考えていた、とても記録なんて意識はしていませんでした。2週間後の選抜体重別に気持ちを切り替えて頑張りたいです。自分は代表争いには絡めませんが次の世界選手権を目指して結果を残せればと思います」

鈴木桂治選手のコメント
「こんな形で全日本選手権を終わってしまって申し訳ありません。」

※病院直行のため、連盟広報を通じたコメント

上川大樹選手のコメント
「結果は…不甲斐ないです。試合なので状態は万全、オリンピックイヤーだからといって雰囲気の違いは感じませんでした。自分が弱かっただけだと思います。試合は後半前に出たけれど、前半下がってしまって技が出なかった。1回戦から慎重な試合で、「攻めろ、止まるな」とは言われていたんですが。負けた試合では自分のいいところも出せず、判定になったときには厳しいと思いました。福岡(選抜体重別)もあるのでそれに向けて頑張ります。今日負けてしまったので優勝したいです。五輪は、望みがあるならば頑張りたい。代表に向けての意欲は切れていないです」

高橋和彦選手のコメント
「代表争いのプレッシャーはありませんでした。完敗です。あそこまでやられたら文句は言えない。気力、体力、技術、全てが石井には敵わない。100回やっても勝てない、そのくらいの差があると思いました。気力でカバーできるような相手ではなかった。石井は本当に強いです。福岡は悔いが残らないようにやりたいです、」

羽賀龍之介選手のコメント
「判定の瞬間は、勝ったということもなく、負けたという気持ちもなく迎えました。有利ではないとわかっていた。鈴木選手は自分の強いところを出すのが上手い。前半は勢いでやれましたが後半は息があがって詰められてしまいました。1回戦はとにかく緊張して「まず一勝」が目標でした。手ごたえは感じていますが、アジア選手権ではなく、無理を言ってこちらに出させてもらったので内容ではなく結果を残したかったです」

篠原信一・男子日本代表監督のコメント
「まず加藤の優勝は素晴らしい。中量級の優勝は40年ぶり、その頑張りを讃えたいです。来年も非常に楽しみです。重量級の3人に関してはいったい何をやっているのかなと思います。おのおの怪我もあったでしょうが、それは他の選手も同じこと。今日はオリンピックの予選ではなく『全日本』ですから、もう少ししっかりして貰わないと。上川と高橋は何がなんでも勝つという気迫、意気込みが1回戦から感じられなかった。五輪も絡むし、全日本選手権優勝という思いのあまり動きが悪くなるということもあるでしょうが、五輪はもっとプレッシャーが掛かる。五輪は出るだけでなく金メダルを狙いにいくわけですから、こんなことをしていてはいけない。五輪に出る、金メダルを狙うと言いますが、思いだけでなく結果を残さないと話にならない。誰かが優勝すれば事情は違いましたが、3人が3人とも負けたわけですから福岡のスタート位置は3人完全にフラットです。この3人は全日本選手権に出るのであれば調子が良くても悪くても優勝しなければならない。そのあたりが甘い。加藤が非常に良い内容で優勝して、羽賀も良い試合をした。石井も素晴らしかった。そういう試合を期待したのですが、残念です。それにしても、全日本の監督という立場でどういういうようなことではないですが、自分が目指していた、井上康生が目指していた全日本選手権という場はこんなに甘いものだったかな、という感じです。全日本で上に行くのであれば対外国人は絶対に負けられない、軽量級には絶対負けられないという気持ちがないのか。歯がゆいです。羽賀、石井ら若い選手が出てきたという好材料の一方で、非常にこの先も厳しいなと思っております。」


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