パラリンピック柔道の実態と問題点(神取忍氏のレポート)
パラリンピック柔道の実態と問題点 皆さんは、パラリンピックについて正しい知識を持っていますか? パラリンピックというのは、オリンピックと同じ年、同じ場所で開催される、身体障害者の為の世界最高峰のスポーツ大会の事です。 しかし実際には、日本では「オリンピックのついでに行われている」というような印象しかないのではないでしょうか。 事実、私はパラリンピックの現状について、これまで知らなかった事が沢山ありました。 例えばあなたは、パラリンピック柔道66kg級日本代表、藤本聡選手の事を知っていますか? 彼はこれまで三度パラリンピックで金メダルを獲得し、今回の北京には4連覇の期待がかかり、そのプレッシャーの中で、大きな目標に向かって懸命にトレーニングを重ねてきました。 残念ながら、今回のパラリンピックの結果は、銀メダルに終わったものの、大変素晴らしい記録ではないでしょうか? 運動選手としては凄まじいまでの偉業です。 しかし、同じく4連覇を目指していた野村忠宏選手の事は知っていても、藤本選手の事は誰も知らないのが実情ではないでしょうか。 諸外国、特に中国、フランス、イギリス、オーストラリアなどではパラリンピック選手をバックアップする社会的環境が完璧に整っており、代表選手はオリンピック選手と同等か、またはそれ以上の尊敬を集めているそうです。 ところが日本では、パラリンピックは「障害者のリハビリに過ぎない」としか考えられていないのか、選手たちの努力や苦労がなかなか認められないのです。 ある選手が、パラリンピックに出場したいと言ったら「長く休まれては困るので、やるなら会社を退職してから大会に行ってほしい」と言われたという信じられないような話も聞き、怒りを覚えました。 それから、金銭面について。 指導者、競技支援者の大会、合宿参加の為の交通費、宿泊費は、ほとんどがそれぞれの「ボランティア」。(最近では少しずつ改善されているようですが…) ボランティアと言えば聞こえはいいですが、つまりは自腹です。 彼らに対する協会や行政からの資金援助は、厳しいものです。 競技者本人も、旅費等の30%は自己負担しているそうです。(2008年10月現在) 信じられますか? これでは、競技をしたい人も、競技者をバックアップしたい人も、金銭的な理由でそれが不可能になってしまいます。 また、視覚障害者柔道の競技を活発化していく為には、盲学校の柔道部の数を増やし、積極的に大会などを行う必要があります。 しかし、視覚障害者によるインターハイのような全国大会は行われていなかったそうです。 やっと2008年12月23日に広島で、記念すべき第一回の全国学生大会が開かれるようです。この大会が開催されることで、視覚障害者柔道の底辺拡大が大きく期待できます。 選手たちのモチベーションを高め、己の技の進歩を確かめ合う機会が得られるのではないでしょうか? さらに、柔道では対戦相手の得意技や組み手などの情報収集が重要なのですが、視覚障害者の場合は自分で相手の試合を見る事が出来ない為、このバックアップが絶対に必要なのです。 今回の北京パラリンピックでは、日体大の学生のご協力があり、情報収集要因を北京に送り込むことができたそうです。日々少しずつ改善が図られていることは大変喜ばしいことです。 健常者の場合でも、何をしてくるかわからない相手と戦うというのは非常に不安なものです。 それは視覚障害者にとっては、何倍ものプレッシャーとなるでしょう。 選手の不安を解消し、最高の精神状態で試合に出場させてあげる為にも、今後も競技支援者の育成は重要なのです。 しかし、まだまだ金銭的な理由で指導者や競技支援者が育たず、大会や合宿に参加したくても出来ない、また指導・競技支援をしたくても出来ない。 これは、競技の発展にとってとても残念な話です。 競技が活発化していくことによって、新しい希望や生き方を見つけることが出来る障害を持つ人たちが、きっと沢山いるはずです。 それから、オリンピックではメダルに対して金メダルで300万円という報奨金があるにも関わらず、パラリンピックには今まで全くありませんでした。 舛添要一厚相のご尽力もあり、今回の北京パラリンピックから報奨金制度を創設することができました。 金額はオリンピックには届かないものの、金メダルが100万円、銀メダルが70万円、銅メダルが50万円。財源は民間からの募金を充てることになっています。さらに、現行の税制では所得税が課せられるため、現在税制改正を要望しています。 最後に、金銭的な負担だけでなく、今まさに進行していく病気と闘いながら競技を続けているある選手の事を紹介したいと思います。 北京パラリンピック日本代表のK選手は、網膜色素変性症という難病に侵され、網膜が破壊されて奪われていく視界とともに、苦労して身につけた技の数々が失われていくという恐怖とも戦っています。 これは、格闘技をやる人間としては、まさに身を切られるような絶望感だと思います。 その絶望を乗り越え、自分の運命と同時に日本代表として世界の強豪と戦っているK選手は、心技体の全てに優れた素晴らしい柔道家だと思います。 これまで目を向けられる事のなかった視覚障害者柔道、また、あらゆるパラリンピック競技の現実に目を向け、考え、バックアップをしていくきっかけにしようではありませんか。 ※この記事に対するご意見、ご連絡は、contact@ejudo.info までお願いします。 |
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