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優勝候補筆頭は富士学苑、3連覇狙う夙川学院と米川明穂擁する藤枝順心が後を追う・第41回全国高等学校柔道選手権女子団体戦展望

(2019年3月18日)

※ eJudoメルマガ版3月17日掲載記事より転載・編集しています。
優勝候補筆頭は富士学苑、3連覇狙う夙川学院と米川明穂擁する藤枝順心が後を追う
第41回全国高等学校柔道選手権女子団体戦展望
■ 有力校
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今年も聖地・日本武道館に精鋭が集う

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富士学苑高。写真は体重無差別の若潮杯制覇時。

高校「三冠」タイトル、女子は大会ごとにまったく違うレギュレーションが採られており、その開幕戦であるこの全国高校選手権は体重別3人制(先鋒52kg級、中堅63kg級、大将無差別)というひときわ特殊な方式で行われる。問われるのは「総合力」。加えて昨年度からは代表戦が任意代表制から引き分けカードの再試合に変更となり、この傾向はいや増すこととなった。もはや、重量級の大型エース1枚だけで本戦と代表戦を勝ち抜くワントップ型チームが頂点にまで勝ち抜くことは不可能に近い。

この総合力という観点から優勝候補の筆頭に挙がるのが第1シードの富士学苑高(山梨)だ。先鋒枠に52kg級全日本カデ王者の藤城心、中堅枠には階級を下げた瀬戸亜香音を据え、大将には全日本ジュニア78kg級3位の黒田亜紀と平野友萌の強力2枚が控えている。この冬は黒潮旗武道大会の接戦を制して優勝、これで勢いに乗ると水田杯、若潮杯と12月のハイレベル3大会を全て制してその強さを示してみせた。大舞台に強い藤城と圧力タイプで試合の誤差が少ない黒田という計算できる2枚に加え、階級を下げた瀬戸が体を絞ったことで技の切れが増して戦力アップ、さらに中堅枠のバックアッパーには小斉穂奈美が控えており、補欠2名を加えた5人の戦力が分厚い。先月は強豪大学を地元に迎えて高校選手権レギュレーションで練習試合を敢行、学生体重別の上位入賞者を含む強力陣容との2試合にいずれも堂々勝利を収めているとのこと。かなりのレベルで仕上がっているという印象だ。

加えて今年の強みは、昨年度大会の失敗を知る世代であること。ご存知の通り昨年度大会では結城彩乃を軸に頂点への挑戦を謳いながら、3回戦で東海大翔洋高に敗れて上位争いに絡むことが出来なかった。矢嵜雄大監督はこの時の反省を繰り返し語っており、今年はエース黒田を皇后盃予選に敢えて出場させず、目先の勝負ではなく稽古で柔道の幅を広げることにこだわってこの選手権に備えて来た。コメントも行動も完全な現実主義、良い意味で楽観視がない。高校柔道界には強い世代一代のみではなかなか成果を得られず、二代続けて強いチームを作って初めて実力相応の成績が得られるという法則があるように思われるが、今年はこの成果を残せる「二代目」の形に嵌るのではないかと期待させるものがある。

不安要素は、伝統的に手堅さを旨とするチームであり、全員が良くも悪くも「破れ」のない柔道で試合を組み立てる選手であること。徹底的に手堅さを押し出す安全運航型のチームがそのまま優勝した例は実は多くなく、今大会にもどこかで腹をくくって勝負せねばならない場面が出てくるはず。その時に選手たちがどんな行動を取れるかが勝敗の鍵になるのではないだろうか。

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夙川学院高。体重無差別の若潮杯は新名彩乃、畑田暁菜、桑形萌花が最終陣形だった。

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藤枝順心高。写真は体重無差別の水田杯決勝、袴田佳名瑚、米川明穂、山本杏。

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敬愛高。左から松澤佑栞、丸山みかの、有瀬心里。

これを追いかけるのが第2シードの夙川学院高(兵庫)と藤枝順心高(静岡)の2チーム。

3連覇を狙う夙川学院は、これまでとは打って変わって全員が1年生という若いチーム。無差別枠の大将を務めるインターハイ70kg級王者・桑形萌花がエースを務め、先鋒枠の52kg級に山﨑笑佳、中堅枠には63kg級の畑田暁菜と57kg級の全日本カデ準優勝者・新名寧々が控える元気のいいチームだ。黒潮旗では決勝で富士学苑に敗退(代表戦で桑形が黒田に判定0-3)、水田杯では準決勝で藤枝順心高に敗退(新井友那が米川明穂に「指導3」で敗れ1-1の内容差)、若潮杯では準決勝で敬愛高に敗れている(1-1の内容差)のだが、近畿ブロック大会での充実ぶり(無失点優勝)や、シニア無差別カテゴリである皇后盃近畿予選での桑形の活躍(2位入賞で本戦進出)を見る限り、どうやらチームは上向き。また、桑形が超攻撃型であり、松本純一郎監督がチーム全体に「攻めるべきときはリスクを冒しても『一本』獲りに行く」と宣言しているその言動などからしても、今大会ではこのチーム最大の魅力であるバイタリティの高さが存分に引き出される匂いが立ち込めている。昨年度大会では連覇のプレッシャーからか慎重過ぎる試合が散見された夙川学院だが、今年はその経験ゆえか、それとも若いチームゆえにこれが必要と見たか、攻めることで勢いを出そう、そのことで手堅い富士学苑を凌ごうという意図が随所に感じられる。純戦力的には富士学苑が上だが、これは面白い戦いが期待できるのではないか。戦力的にはどうしても先鋒枠が見劣りするが、この大会では「前をしのぐ」というミッションはつまり軽量級同士の戦いになるわけで、後衛枠2つに比べて実はやりやすい。注目である。

藤枝順心高は、昨年度の無差別準優勝者で全日本カデ最重量級の覇者、インターハイ78kg超級で2位入賞の米川明穂の存在が最大の強み。冬季シリーズでは少々元気がなかったが、本来のパフォーマンスを見せれば今大会では飛び抜けたポイントゲッターである。総合力勝負の今大会で鍵を握るのは中堅を務める、全日本ジュニア57kg級5位の袴田佳奈瑚。シード順は3番手だが、実力的には夙川学院と入れ替わって第2シードを張ってもおかしくないのではないか。大駒米川と周囲の粘りで、頂点獲りを狙う。

第4シードに入った敬愛高(福岡)がこれら3チームを追う。敬愛は今代も重量級に主力が集まっており高校選手権はレギュレーションやや噛み合わない印象だが、松澤佑栞と丸山みかのが登録している大将枠はやはり強力。九州新人63kg級王者宮崎七海と辻野瑠流伽が登録している中堅枠、多田薫で戦う先鋒枠と、前衛の頑張りが勝負の鍵を握る。

■ 組み合わせ
どのブロックもシード校同士の争いが軸。ただしシード校以外にも3ポジションのいずれかにこれという好選手を据えたチームが点在しており、3人制という狭い戦場の中では油断は禁物。1か所に刃が入り、これに焦って試合を決めてしまう2点目を失う危険が常にあり、相対的優位はあっという間に消滅しかねない。シード校にとってはミスなく戦うことはもちろん、不測の事態が起こった場合に焦らず、シナリオをすぐさま巻き戻す冷静さが求められる。

【1回戦~準々決勝】

[Aブロック]
シード校:富士学苑高(山梨)、大成高(愛知)

富士学苑の勝ち上がりが濃厚。大成は超級枠に全日本カデ70kg級3位の松本りづ、中堅枠にこの代の全国中学大会の覇者・小山遥佳を置く好布陣で様相は競り合い。しかし富士学苑が先鋒枠における藤城心の得点をベースに手堅く試合を進めるのではないか。富士学苑が先取点を背景に圧力の壁を形成に掛かった場合、これを追いかけるのはどんなチームにとっても容易ではない。

[Bブロック]
シード校:敬愛高(福岡)、立命館宇治高(京都)

下側の山のシード校、立命館宇治のエースは岡田恵理佳。骨の太い柔道で全日本カデとインターハイ57kg級を制し、昨秋の講道館杯では驚きの3位入賞を果たしている。1階級上の63kg枠での出場ではあるが今回は全階級通じて有数のポイントゲッターだ。先鋒枠の西村瑞穂は全日本ジュニア44kg級の準優勝者で、この「階級落ち」の前衛2枚をテコに敬愛に挑むこととなる。

とはいえ西村が本職の44kg級から2階級差があること、敬愛の大将枠の強力さを考えれば、事前予測としては敬愛優位は否めない。揉める予感漂うカードではあるが、ベスト4入りには敬愛を推す。

[Cブロック]
シード校:夙川学院高(兵庫)、熊本西高(熊本)

激戦ブロック。夙川学院は初戦(2回戦)で横須賀学院高(神奈川)の挑戦を受けることとなり、続く3回戦では先鋒枠に全日本カデ48kg級王者中馬梨歩を擁する国分中央高(鹿児島)とのマッチアップが濃厚。気の抜けない試合が続く。

ブロックのハイライトはもちろん夙川学院 - 熊本西による準々決勝。熊本西は先鋒枠にインターハイ48kg級2位の白石響がおり、この選手の打撃力が最大の武器。大将には九州新人78kg超級3位の平川真有と同78kg級2位の渡邊花胤が控える好チームだ。とはいえ後2枚は夙川学院が上。夙川学院にとっては、前で我慢して後で走る、今大会の布陣における典型的な戦いが求められる。頂点取りの可否は、この試合の戦いぶりで見えてくるのではないだろうか。

[Dブロック]
シード校:藤枝順心高(静岡)、埼玉栄高(埼玉)

藤枝順心は3回戦で沖縄尚学高(沖縄)とマッチアップ濃厚であり、ここが最初の関門である。沖縄尚学は昨年この大会でベスト8入りした吉田涼、宮城杏優菜、外間蘭の3人がそのまま残っている。宮城は48kg級の選手で今年はここに1年生の宮里心菜を加えることとなったが、優勝候補藤枝順心とどこまで戦えるかに注目。

埼玉栄は大将の70kg級インターハイ準優勝者・佐藤星麗七が軸。63kg級にも昨年度高校選手権ベスト8の渋谷萌々音を置く好布陣だが、最大の得点源である佐藤が2階級上の全国優勝候補・米川とぶつかる準々決勝の陣形は苦しい。事前予測としては、ベスト4入りは藤枝順心と見ておくのが穏当だろう。

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昨年度大会決勝。夙川学院高と帝京高で争われた。

【準決勝~決勝】

いずれのチームも準々決勝でタフな戦いがあり、一筋縄ではいかないはず。しかし仮に、準決勝カードは下記を予想しておきたい。シード順通りの大会進行である。

富士学苑高(山梨) ― 敬愛高(福岡)
夙川学院高(兵庫) ― 藤枝順心高(静岡)

富士学苑-敬愛の試合は、前衛2枚で勝負に目途をつけてしまいたい富士学苑と、大将対決に持ち込んでひと勝負したい敬愛という構図。先鋒枠は藤城心を擁する富士学苑が優勢、ここで得点が生まれれば富士学苑がそのまま手堅く勝ち抜けるのではないかとみる。いくつか条件分岐を考えてみると、富士学苑勝利に帰結するシナリオのほうが数で勝る。事前予測としては富士学苑を推す。

夙川学院と藤枝順心。藤枝順心は前提条件として大将戦における米川明穂の勝利を折り込まねばならない。これまでの力関係を見ればこれは十分手の届くところにあるミッションであるが、不安は前述の通り、新チーム結成以降米川の柔道にもうひとつ元気がないこと。昨夏までの米川のパフォーマンスが貫ければいかな桑形と言えども攻略は容易ではないが、皇后盃出場を決めて意気揚がる桑形が攻めまくれば試合はどう転ぶかわからないのではないか。米川の圧力、桑形の先手攻撃とそこに混ぜ込む大技一発という構図で、この試合は非常に面白い。前衛でのリードがあれば、先手攻撃を軸に桑形が引き分けてしまう展開もあるのではないだろうか。勢いを買って、夙川学院の勝利を推したい。

ということで、決勝の予想カードは、

富士学苑高(山梨) ― 夙川学院高(兵庫)

としておきたい。

この試合、順当に進めば富士学苑が優位。理想的なシナリオは藤城で取り、瀬戸が圧して「指導」差勝利を狙いながら試合を進め、黒田が圧力で桑形を止めてまとめる。この、おそらくもっとも実現の可能性高い筋書きを軸にいくつか条件分岐が考えられていくわけだが、純粋な戦力比べでは、多少のずれあれど富士学苑の勝利に収着すると考える。ほとんどのシナリオは富士学苑の勝利となるはずで、夙川学院が勝利するには、机上の計算を越えた何かが必要だ。

具体的にはリード、あるいはタイで大将対決に持ち込むこと。12月までの戦いを見る限り黒田の圧力は桑形相手にも良く効きそうであるが、一方で黒田は決して気持ちの強い選手ではない。日本武道館独特の雰囲気の中、それも決勝で日本一を決める試合で、先手攻撃が効いて常に一撃を狙ってくるインターハイ70kg級王者桑形を前に平常心が保てるかどうか。富士学苑リードで大将に襷が回って来て自身は順行運転で良し、圧力という「飴玉の芯」のみの平常運行で試合を終えられるという状況なら問題ないのではないかと思われるが、勇を鼓して攻めることで状況を切り開かねばならないという一段上のミッションを課されて試合を迎えたときに、常のパフォーマンスが貫けるかどうか。夙川学院としては前で粘り、日本武道館独特の雰囲気という力を借りて、桑形の吶喊で全てを自軍に持ってくるしかない。

富士学苑はあくまで藤城で取り、以降が手堅く戦うという王道の、それももっとも実現の可能性高い筋書きでの勝利を目指したい。

と色々書かせて頂いたが。前述の通り3人制は短期決戦、1ポジションのアクシデントで何がどう転ぶかはわからない。ここに挙げたシード校以外のチームにも、アップセットを起こす可能性は十分ある。今年も熱い戦いを期待したい。

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