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無敵のエース斉藤立擁する国士館と西の横綱大牟田が優勝争いの軸、大物食いに燃える作陽に注目・第41回全国高等学校柔道選手権男子団体戦展望

(2019年3月18日)

※ eJudoメルマガ版3月17日掲載記事より転載・編集しています。
無敵のエース斉藤立擁する国士館と西の横綱大牟田が優勝争いの軸、大物食いに燃える作陽に注目
第41回全国高等学校柔道選手権男子団体戦展望
文責:古田英毅/eJudo編集部

■ 有力校
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今年も聖地・日本武道館に精鋭が集う

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優勝候補筆頭は2連覇を狙う国士館高

高校三大タイトル最初の関門、全国高等学校柔道選手権大会の開幕がいよいよ今週、20日に迫った。

まずは「抜き勝負」で争う最注目カテゴリ、男子団体戦の様相を展望してみたい。ぜひ、有力校紹介として機能するはずの全文公開記事「【eJudo's EYE】男子「四つ角」確実は国士舘と大牟田、全国高等学校柔道選手権シード8校を予想する」と併せてお読みいただきたい。

本命は、まずなんといっても連覇を狙う国士舘高(東京)。エースの斉藤立はまだシニアの国際大会に出ていないのが不思議なほどの大物、昨年は高校2年生にしてインターハイ個人戦と全日本ジュニア選手権100kg超級を制するという圧倒的な成績を残したが、この実績だけではその強さとスケール感は到底語りつくせない。今回は個人戦に出場せず、照準は既に4月の全日本柔道選手権にあり。身長190センチ、体重150キロの豊かな体躯に柔らかく威力のある技を搭載、ライバル校の監督たちが「高校生では相手にならない」と慨嘆するのはまさしく妥当である。力がしっかり結果に反映されるタイプでもあり、高校生のレベルでは攪乱することすら至難の業。極端に言えば、斉藤さえいればたとえ相手方に5人全員が残っていても全てをひっくり返して勝負を決めてしまえるほどの、圧倒的な力がある。「抜き勝負」なら斉藤1枚の存在だけで国士舘は間違いなく優勝候補の筆頭。

加えて。国士舘は前代高校選手権と金鷲旗の二冠を獲ったレギュラーから斉藤のほかにも藤永龍太郎、道下新大、長谷川碧と3人が残った。藤永は相手を送り出しながらの足技と腰技を組み合わせて相手を嵌める業師で斉藤に次ぐ得点源、手足の長い道下はバランス抜群の受けをベースに相手の意識の外から襲い掛かる足技と巻込技でしっかり仕事ができ、長谷川は幾種類もの内股を使い分け、その太い腰をぶつけるように仕掛ける投げの破壊力はまさしく抜群。全国優勝チームからレギュラー4枚が残り、しかもエースの斉藤は超高校級の大物。主催者が第1シードに押すのは当然のこと、理屈的には間違いなく頭ひとつもふたつも抜けた優勝候補の大本命である。

ただし不安もないわけではない。藤永はケンカ四つに抜群の取り味を誇りながら、左相四つになるといきなりこれが減じる課題をいまだ払拭できず、100kg級から階級を下げた道下は弱点の線の細さがクローズアップされることになり、バランス抜群のはずのこの選手が東京都予選では意外な一本負けの場面を演じてしまっている。長谷川は凄まじい攻撃力の一方でインターハイでチームの流れを狂わせた弱気を克服出来ず、若潮杯武道大会決勝では相手の小外刈を食うなりまさかの後退行動、これまた意外な一本負けでチームを窮地に追い込んでしまった。大雑把に言って、個々の最高到達点は高いがメンタル面が不安定でパフォーマンスが対戦相性に左右されやすく、点が線になりにくいチームと言える。

さらに、「そうは言っても全てをひっくり返す」はずの斉藤が3月初旬に手首と肘を負傷。10日の東京柔道選手権はぶじ勝ち抜けた(※ベスト8まで残って全日本選手権出場権を得たところで棄権)が、試合の様子や周囲のコメントを聞く限り万全とは呼び難い模様。「超高校級エースの脇を経験豊富な3枚が固める」はずのチームの組成が、「メンタルの不安定な周辺戦力と、それが頼るべきエースが負傷中」という「裏の目」にひっくり返ってもおかしくない匂いが立ち込め始めている。斉藤以外の戦力が、岩渕公一監督が繰り返し語る「他に頼らず、自分が仕事を果たす」戦いを貫けるかどうかが勝負の鍵になるだろう。昨年から出場して周囲に戦い方を知悉されている3枚がその上をいくパフォーマンスを見せられるか、さらに鈴木郷生と岡田陸の新戦力2枚がチームに力を与えることが出来るかどうかに注目。

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圧倒的な攻撃力で戦う度評価を上げて来た大牟田高。今大会は第2シード評価を受けた。

そして2番手は間違いなく大牟田高(福岡)。主催者も過たずこのチームを第2シードにピックアップしてきた。こちらは90kg級の森健心と81kg級全国高校選手権の覇者・竹市大祐のダブルエースを中心とした、5人の能力の高さで勝負するチームだ。森は内股や袖釣込腰の一発はもちろん巧みな体捌きから放つ出足払や払釣込足などの足技に取り味ある業師、竹市は相手が大きければ担ぎ、小さいとみれば抱き勝負の小外掛一撃を厭わないオールラウンダー。そして前述の通りこのチームの魅力は5枚の粒が揃った穴のなさ。服部大喜、久保田皓晴、石本慎太郎、廣吉弘樹いずれも攻撃力が高く、この「森・竹市以外」の急成長によって秋以降は森を敢えて前衛に持ってくるような布陣も度々見せて狙いどころの定めにくいチームに進化。11月の九州新人大会は25戦22勝0分けで無失点のまま優勝、関東に遠征した12月の水田杯でも6試合30戦して26勝1敗3分け、マークした26勝は全て「一本」という素晴らしい内容で優勝を飾っている。国士舘に斉藤の存在なくば優勝候補はこちらでは、と推す声も多い。

攻撃力を売りに勃興して来た地方の有力チームが、中央の強豪に組み手で絡まれて形を作らせてもらえずその投げの力を発揮できない、というのがこれまで多くあった絵であるが、大牟田の面々はオーソドックススタイルはもちろんのこと、両袖、片襟、抱きつきとむしろ相手を組み手の型に嵌めて投げることが多い印象。上記の爆発的なスコアも、投げの威力はもちろん組み手の形をしっかり研究し、技の入り口を増やしていることがその因とみる。ゆえにおそらく本番当日も、これまで多くの強豪チームが嵌り込んだ「思ったよりも力が出せない」落とし穴に捕まる絵は想像し難い。

ただしこのあたりがまさしく不確定要素でもある。ひとつは組み手で一方的展開に相手を嵌めて来たこれまでのやり方が、国士舘など超一線級と対峙したときにも通用するか、そして仮に組み負けたときに、これまでのような一方的優位でない状況でも力を発揮できるかどうか。負けない組み手、相手とやりとりをしない一方的な組み手は柔道の偏狭さと表裏一体であり、地力で勝るときにはどこまでも圧勝するがそうでないときには一気に手が詰まるという側面もある。今回は大牟田の地力が「一方的に勝つ組み手」を貫けるだけまで上がっているかどうかが大会自体の結果を左右するポイントになるのではないか。

もう1つは経験値。大牟田は昨年も全国的な有力校と騒がれながら、シーズン開始当初は県内2番手と目された福岡大大濠高に蓋をされ、高校選手権、インターハイともに本戦には出場自体がかなわなかった。初の大舞台でまっすぐ力を発揮できるか、前述の通り方法論的には停滞の想像し難いチームであるが、メンタル面ではどうであろうか。これも大きな注目ポイントだ。方法論的にも経験値の蓄積という観点でも、間違いなく活躍するのは竹市。軽量のこの選手の鼓舞に周囲が応えられるかどうかだ。

今大会はこの国士舘と大牟田が2強。両者が決勝までどのような戦いを見せるかが大会を貫く観戦上の軸と言って良い。

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作陽高。松尾杯ではこの迫力ある入場で会場の注目を集めた。

これに絡む注目チームとしては同じく「四つ角」評価の作陽高(岡山)を挙げたい。こちらは昨年の金鷲旗大会以降ブレイク中の巨漢、高橋翼を押し立てる好チーム。身長177センチ、体重130キロと体に恵まれた高橋は、尽きぬスタミナとベンチプレス200キロを挙げるパワーが武器。間合いを詰めた一撃の強さに加えて抜群のスタミナ、そして蟻地獄のような固技手順を搭載したこれぞ作陽型の極まりとでもいうべき選手だ。これまた作陽らしく「思い込む力」の強さが並外れており、一度この選手に格下として認知されるともはやこれを乗り越えることは困難。一代上の全国中学大会の覇者千野根有我(桐蔭学園高)をインターハイで破ると、次回対戦の国民体育大会では勝って当然とばかりに「一本」を取り切った戦いぶりにこのあたり顕著だ。

周囲を固めるのは仕事が出来るタイプの嵐大地に、相撲でも全国大会出場歴のある身長188センチ体重160キロの大型、一発のある丸鳩紹雲。周辺勢力が小粒なことが弱点と目されていたが、榎本開斗と半田壮が冬を越えてから一段力が上がり、怪我で離脱していた佐藤良平も復調。どうやら陣容整ったという印象だ。歴代大物食いに適性があり、特に対国士舘への相性がいい。今回国士舘に刃を立て得るチームは、戦力的に大牟田、相性的にはこの作陽と日体大荏原までに限られるが、実は「倒せる」確率が多少なりともあるのは作陽ではないかとすら感じる。ただし作陽は強いチームに良い勝負が出来る一方で、たとえば大牟田のような型とは対照的に、どのチームとも接戦になってしまう傾向があるチーム。これは強さの絶対値というよりもタイプの問題であるが、「2強」と比べるとまず勝ち上がることにしっかり気を張らねばならないステージのチームでもある。

これに第3シードの日体大荏原高(東京)、木更津総合高(千葉)、東海大仰星高(大阪)、崇徳高(広島)らシード校、合わせて田村高(福島)、福井工大福井高(福井)らが続き、さらに形上シード入りした桐蔭学園高(神奈川)らが集団で後を追うというのが今大会の構図。これらのチームについては、続く各ブロック展望で紹介していきたい。

■ 組み合わせ
シード校は下記。そして、相当に偏りのある組み合わせとなった。大牟田と日体大荏原が座る右側の山が分厚く、わけても大牟田のいる右上の山の密度が極端に高い。一方、国士舘が配された左側の山は強豪の影が薄く、かなり戦い易い巡り合わせとなっている。ここではトーナメントをAブロック(左上)、Bブロック(左下)、Cブロック(右上)、Dブロック(右下)の4つに割って、それぞれの様相をまず展望してみたい。

[四つ角シード]
①国士舘高(東京・Aブロック)、②大牟田高(福岡・Cブロック)、③日体大荏原高(東京・Dブロック)、④作陽高(岡山・Bブロック)
[ベスト8シード]
⑤東海大仰星高(大阪・Dブロック)、⑥崇徳高(広島・Cブロック)、⑦木更津総合高(千葉・Bブロック)、⑧桐蔭学園高(神奈川・Aブロック)

[参考]
→男子団体戦組み合わせ(主催者サイト)

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神奈川県予選を勝利し、シード校の栄を得た桐蔭学園高

【1回戦~準々決勝】

[Aブロック]

シード校:国士館高(東京)、桐蔭学園高(神奈川)

他に比べればちょっと驚くほどの無風区。国士舘は初戦で近江高(滋賀)と延岡学園高(宮崎)の勝者と戦い、続く3回戦は東海大諏訪高(長野)・盛岡中央高(岩手)・四日市中央工高(三重)の混戦ブロックの勝者が相手。ここまででベスト8入りが決まる。

下側の山のシード校・桐蔭学園は過去2代にわたって存在感を放った村尾三四郎・千野根有我・賀持喜道の黄金世代が抜けて戦力を大きく落としており、ここまでの招待試合では形上今大会同格のBシード校木更津総合高(千葉)に0-3の完敗を喫するなど本戦出場校に4敗、未出場校に2敗という苦難の行軍。全国大会で抜き役を担えるのは1年生エースの中野智博のみ、この選手で抜いて主将の安藤健志が抑えを務めねばならないという厳しい陣容だ。率直に言ってシードピックアップを受けるには力不足。しかしこのブロックも特定の敵を定めるのが難しいほどの無風区であり、ツキに恵まれた形の桐蔭学園は十分ベスト8入りの可能性がある。あの県予選決勝、全国「四つ角」候補の東海大相模を倒した1試合の価値は比類なし、あるいは史上もっとも脆弱ではと囁かれ本戦出場ほぼ絶望と思われたチームが、いまや全国べスト8に手が掛かる位置にある。シード校ゆえ、ベスト8入りに必要な勝利は「2」のみ。後に控えるのが国士舘戦ということもあり、ここはかえって存念なくこの2試合に全リソースを注ぎ込むことが出来るだろう。上り調子の佐々木光太朗が斬り込み、中野が獲り、安藤が抑える、このチームの一番いい形が出れば勝ち残りの可能性は十分。

そして迎える準々決勝の勝者は国士舘でほぼ確定。いかなアクシデントが起ころうとも、このブロックに国士舘の勝ち上がりを揺らすチームがあるとは考えられない。国士舘のこのステージの3戦は、準々決勝以降に向けてどれだけ雰囲気良く勝つか、戦力の損耗を分散して勝つかという内容面が問われることになる。

しかしこの組み合わせの良さ、個人的には決して良い卦にはあらずと見る。思い出されるのはエース飯田健太郎を擁し、周辺戦力に本間壘や磯村亮太らを配して「巨大戦力」と称された2016年大会。内容に破綻の要素をはらみながら、それでも力に差があるがゆえに問題が覆い隠されたまま勝利だけは積み重なり、それが決勝で思わぬ敗戦という形で顕在化したあの大会である。今大会優勝のキモは準決勝以降よりもむしろこの、「無風」のはずのベスト4までの戦いにあるはず。単に勝つだけではなく周囲の予想を超えるような内容が必要であり、どこまで厳しく自己の中に「合格ライン」を設定できるかがこの大会のゴールを規定する。失敗続きだが勝ちは重なる、というエンジン温まらぬ状態でいきなり準決勝の場に立つようでは、いかに絶対の優勝候補といえども破綻の可能性はいや増す。勝敗よりも国士舘が何をしてくれるか、こちらの予想を上回るような内容を見せてくれるかに注目したい。ごく端的にいって、このステージではありえないと思うが、斉藤に「頼ってしまう」(ウォームアップを意図しての出場以外での登場)ようでは以後の勝利はおぼつかない。ほか、序盤のみどころとしては、負傷の状態を確認する意味で、暖機運転を企図しての斉藤登場があるかどうかに注目しておきたい。本当に状況が良くないのであれば「肩慣らし」は避けて出場自体を後半戦に取り置くはずだ。

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東京都第2代表の東海大高輪台。シード校作陽の直下に配された。

[Bブロック]

シード校:作陽高(岡山)、木更津総合高(千葉)
有力校:東海大高輪台高(東京)

どちらかというと上側、作陽の側に強豪が集められたブロック。前述の通り作陽は相手の格に関わらず「試合になってしまう」接戦傾向のチームであり、油断するわけにはいかない。

その作陽が初戦で戦うのは東海大高輪台高(東京)と加藤学園高(静岡)の勝者。古豪・東海大高輪台は2年前に就任した福岡政章監督の下で急成長、今大会は柔道のスケール大きい石村健真を軸に、泥臭く勝利を狙える柴野明紀、本格派孫俊峰らを揃えて激戦区東京都から出場の栄を得た。招待試合シリーズでの出来を比較する限り加藤学園には厳しい試合になるのではないかと思われるが、対作陽の適性があるのは加藤学園の側かもしれない。注目はエース深井大雅よりもむしろ短駆重量で機動力の高い1年生たち。運動量の多さで作陽の大型を引っ掻き回し、かつ周辺戦力の榎本や半田を腰の太さで一発嵌める展開が十分にイメージ出来る。一方の東海大高輪台は良くも悪くも柔道が伸びやかで、相手の良いところを消しながら戦うことに長けた作陽、そして機動性高い加藤学園の中軸には噛み合わない可能性があるのではないだろうか。

3回戦ではおそらく長崎南山高(長崎)と小杉高(富山)の勝者が待ち受ける。県内でこれぞの選手が過たず集まった長崎南山は今年が勝負の年、好チーム小杉との対戦はみどころあり。

いずれ、ベスト8への第1候補は作陽。観戦的には、高橋や丸鳩よりも、榎本、半田、佐藤ら周辺戦力の仕上がりをしっかり見極めておきたい。

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木更津総合高。写真の黒潮旗決勝時は北條嘉人を敢えて外して布陣した。

下側の山のシード校は木更津総合高(千葉)。ベスト8入りまではまず間違いなく、作陽との対戦はまさしく注目の一番になる。もともと、山下魁輝ら大型で強気の選手を軸に据えて周辺戦力を練度高く整備するという型で出世の階段を残った木更津総合であるが、この役割を果たすべきエースが年を経るごとに小型化。今年は体重103キロの金澤聡瑠、同110キロの稲邉嵩斗と大型の好選手はいるが、木更津伝統の「強気のエース」の役割を担うのは73kg級の北條嘉人、あるいは66kg級の唯野己哲である。この、チームの運命を1人で変えてしまう権利のある吶喊タイプが軽量であることがそのまま結果にも反映され、北條が大型の一発を食う形で招待試合シリーズでは成績を残し切れず。黒潮旗の2位はともかく、松尾杯のベスト8(崇徳に3-1で敗退)、水田杯でのベスト8(東京・修徳高に2-2の内容差で敗退)はこのチーム本来の力からすれば少々物足りない。

稽古の雰囲気が良いのか数年前までに比べると良くも悪くもノビノビ柔道をしている印象があるが、全員がギリギリの切所で詰め切る厳しさを発揮できるか、ここぞで相手に譲らぬ覚悟を見せることが出来るかどうかが勝敗を分けることになるだろう。ベスト8勝ち上がり自体は揺るぎないが、ここまでで軽量の北條や唯野を消耗させず、体力はもちろん、勝負どころで繰り出すべき精神的なリソースをいかに残せるかどうかがポイント。北條はタフな選手だが、ガンガン仕掛けることで相手の心を挫く「作り」に手数が掛かる燃費の悪いタイプでもあり、出来ればこの発動は上位対戦に温存したいはず。いかに北條でも「イチかバチかの勝負を仕掛けて勝ち切る」ことを幾度も繰り返すようでは、持たない。

準々決勝はオーダー配列がかなり重要。5人の総合力では木更津のほうが上ではないかと思われるが、作陽のキャラクターの凹凸をどう攻略するかはなかなか難しい。木更津総合の中核を務める金澤、稲邉らの重量選手は、作陽のエース髙橋には力を力で塗りつぶされる形となるはずで、おそらく分が良くない。体と力はあるが小回りが利かない高橋の特徴を考えればぶつけたいのは北條や唯野だが、さすがに体重に差がありすぎること、前衛に一発屋で大型相手の適性もある丸鳩を突っ込んで来るであろう作陽に対し、北條後衛配置の策を採った場合自陣がそもそもそこまで持つかどうかという懸念もある。木更津が北條を前に出して後に重量選手を配し、かつ作陽が高橋を最後衛に構える双方オーソドックス陣形での戦いなら作陽に分があり、木更津が「高橋を消耗させて北條あるいは唯野で終わらせる」リスクある策を貫き切れば木更津勝利の目が出てくると仮説を立てておきたい。トーチカ役になるはずの嵐の配置も大きな分岐点になるはずで変数は多いが、現時点では、作陽の勝利を推しておく。

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昨年度準優勝の天理高。混戦ブロックから大牟田への挑戦権獲得を狙う

[Cブロック]

シード校:大牟田高(福岡)、崇徳高(広島)
有力校:埼玉栄高(埼玉)、大成高(愛知)、天理高(奈良)、田村高(福島)

最激戦区。大牟田の勝利自体は揺るぎなく、かつ対戦相性と大牟田の強さからして揉める可能性も少ないとは思われるが、見どころは多い。

上側の山からのベスト8入りは間違いなく大牟田。2回戦ではおそらく強豪・埼玉栄高(埼玉)とマッチアップするが、同校の招待試合シリーズでの己を高く買いきれない戦いぶりや、格上以上との対戦になると途端に目減りする攻撃の質を考えると、大牟田の圧勝すら念頭において差し支えないだろう。埼玉栄にはプライドのある戦い、爪痕を残さんとする意地を見せてもらいたい。

3回戦での大牟田への挑戦権を争うのは大成高(愛知)と、天理高(奈良)のいずれか。ともに前代から大きく戦力を落としており今年は厳しい戦いが続いている。大成は大竹龍之助という吶喊型の好選手がいるが、81kgの軽量で絶対的なエースにはなりえず。他選手は招待試合シリーズを見る限り戦いぶり煮え切らず、勝ち負けや内容の良さを追い求めるよりもスコアをまとめる方向に総意が流れていく傾向にあり、チーム総体としては買えないというのが率直な感想。一方の天理はインターハイ優勝チームでレギュラーを張った池田凱翔が担ぎ技中心で勝利に手数が掛かるタイプであること、春に怪我をした井上直弥が伸び切れていないことでやはり苦しい状況ではあるが、1年生の鈴木太陽をはじめ志向している柔道の質が良く、全体として試合がしっかり栄養になっていると感じる。メンバーだけでいえば互角、あるいは大成優位とみることも出来るが、招待試合期の内容からこの数か月の伸びしろを「透かし見る」ことで天理を買っておきたい。とはいえ、現時点で大牟田に勝利するのは難しいはず。意地剥き出しの天理を、大牟田がどう獲っていくか、これが見どころになるのではないだろうか。

このブロックでは初出場の開志国際高(新潟)にも注目。かつて豊栄高を率いた高校柔道の名物男・大倉太監督が新興チームを率いて日本武道館に帰還、同校はこれからの強化にも力を注ぐ模様で、志向する柔道の質にひとつ注目しておきたいところ。

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シード校入りした崇徳高

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東北王者の田村高。魁春旗大会決勝では崇徳を破っている。

下側の山は崇徳高(広島)と田村高(福島)の一騎打ち構図。

崇徳は福永夏生を中心に飯田恒星、福本佑樹、徳持英隼、毛利允弥とメンバー的には充実の布陣。新チームスタート時にはこの大会の「四つ角」候補かと思われたが、ディティールの不安定さが結果にそのまま響き、ここまでなかなか勝ち切れていない。とはいえ地力と潜在能力は確か、しっかり状況を見極めて試合を運び、上位進出を狙いたいところ。

田村は東北ブロック王者、松尾杯ではベスト8で作陽と2-2(内容差)の激戦を演じている強豪だ。今代はエース鈴木直登を中心とした攻撃型かつ粘り強いチームで、5人全員の戦闘力が高い。力だけでいえばシードピックアップが十分あり得たはず。組み合わせは相応に厳しく、初戦で京都学園高(京都)、2回戦では黒潮旗大会で好パフォーマンスを見せた前橋商高(群馬)とのマッチアップが濃厚。そして3回戦では崇徳と戦わねばならない。

崇徳-田村。田村の地元・三春町で行われた魁春旗争奪全国高等学校選抜柔道練成大会決勝では田村が3-1で勝利しているが、互いの対戦相手を精査して5人制に変換すると結果は1-1周辺が妥当。戦力は互角とみて間違いない。双方練度が高いため、エースを止め得る力と技術は十分にある。三春大会同様、エース以外の周辺戦力の戦いが勝敗を分けることになるのではないだろうか。

そして準々決勝。大牟田は田村、崇徳いずれのチームとも対戦歴があり、水田杯では田村を4-0、崇徳を4-1で破っている。いかに伸びしろ豊かな高校生といえども、3か月でこれだけの戦力差を詰めるのは非現実的。ベスト4進出は大牟田だ。

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日体大荏原高は第3シードの評価を受けた。

[Dブロック]

シード校:日体大荏原高(東京)、東海大仰星高(大阪)
有力校:佐賀商高(佐賀)、神戸国際大附高(兵庫)、福井工大福井高(福井)

このブロックもかなり厳しい山。配された有力校の数はCブロックに劣るが、個々のレベルが高い。

シード校日体大荏原は、グリーンカラニ海斗と平山才稀を軸にした好チーム。大型で肉厚、圧力の強いグリーンと長身痩躯でセンスある平山という個性あるこのツートップを軸に周辺を固め、松尾杯では0-1、東京都予選では1人残しと今代V候補筆頭の国士舘と接戦を繰り広げて来た。新代スタート時には率直に言って四つ角に絡むチームとまでは買えなかったが、今年は歴代におけるこの時期の成長曲線を大きく超えて選手が進化。前代から出場の藤原秀奨に加え、1年生の海堀陽弥、73kg級で東京都代表の座を勝ち取った島本真司郎、加えて山城和也ら周辺戦力が伸びている。

ただしベスト8までの2戦はいずれも強敵が待ち構えており、その道のりは楽ではない。2回戦ではおそらく佐賀商高(佐賀)、3回戦では神戸国際大附高(兵庫)の挑戦を受けることになるはずだ。佐賀商は松尾杯で桐蔭学園を破ってベスト8まで進むなど大健闘、この試合でエース小畑大樹が中野智博を内股「一本」で破ったシーンは今季招待試合シリーズのハイライトだった。

ただしこの大会の準々決勝で佐賀商を蹴散らしたのがほかならぬこの日体大荏原。スコアは4-1、先鋒戦で田中龍馬が島本を一本背負投「一本」で投げて佐賀商が先制したが、以降は日体大荏原が4戦いずれも勝利している。当たりの運不運はあったが、これだけの戦力差があれば多少のずれがあっても勝敗自体を浸食するレベルまで揉めることはほとんどないだろう。神戸国際は体幹の強さと手堅い方法論、そしてケレン味のない技で相手を追い詰める王道チームだが、ゆえに実力差を乗り越える飛び道具には欠ける印象。日体大荏原の選手は体格、タイプの凹凸があるゆえ多少の傷は負うかもしれないが、ここも大枠として日体大荏原勝利の可能性が高いと言ってしまっていいだろう。

下側の山はシード校東海大仰星の直下に、田村同様シード校相当の実力があると目される福井工大福井高(福井)が配された過酷な配置。両者が対決する2回戦がこのブロックの山場だ。東海大仰星はエース中村雄太の得点力をテコに、しっかり戦える選手を揃えて近畿大会を制した強豪。一方の福井工大福井はエース酒井晃輝を軸に5枚が揃った攻撃型チーム、中央のメジャー大会に出張っていないため全国的な認知度はいまひとつだが、関係者の評価は非常に高い。どちらが勝ってもおかしくない注目の一番。

準々決勝カードは日体大荏原対、東海大仰星もしくは福井工大福井ということになるが、ここはこの数か月の成長を評価して日体大荏原を推しておきたい。ただし、総力戦が前提である。簡単に勝ち抜ける相手ではない。

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国士舘のエース斉藤立。

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作陽はエース高橋翼に全てを掛ける。

【準決勝~決勝】

準決勝はシード順通り、下記の2カードを予想する。

国士舘高(東京) ― 作陽高(岡山)
大牟田高(福岡) ― 日体大荏原高(東京)

国士舘と作陽は因縁のカード。両校の対戦といえば、あの2013年インターハイ準決勝、中学時代無敵を誇った国士舘の田崎健祐、江畑丈夫、磯田範仁ら「三銃士」世代を作陽が打ち破った試合を思い起さずにはいられない。作陽は今回も国士舘を徹底研究、絶対の優勝候補の牙城を打ち破るべく相当に策を練ってくるはずだ。

国士舘が絶対的に優位。あくまでこれが前提だが、思考実験が面白いカードであるのでしばし筆を費やしたい。まずエース対決、斉藤立と高橋翼の戦いについて思いを巡らせてみる。実力は圧倒的に斉藤。だが、これまでの戦いと、怪我の箇所(左釣り手の手首と肘)を考えるかぎり、斉藤はケンカ四つ相手では万全のパフォーマンスが発揮できない可能性がある。東京選手権ではシニアカテゴリの戦いで4一本勝ちをマークした斉藤であるが相手はいずれも相四つ、斉藤は釣り手の負担を減らし、体ごと相手の裏に進出するような左大外刈を主戦武器に据えて戦っていた。

高橋は右組みのケンカ四つ、しかも世界ジュニアで斉藤が敗れたゲラ・ザアリシヴィリ(ジョージア)と同じく、抱き込んで小外掛と裏投を狙うパワーファイターである。前述の通り斉藤の優位は揺るがないが、見どころがはっきりしているということでこの試合は非常に面白い。

そして、作陽の「お膳立て」が整えばこの対決の興味はいや増す。お膳立てとはつまり、高橋にタイで斉藤戦への襷を渡すことに他ならない。率直に言って残り4枚の力比べでは国士舘が圧倒的に上、だが、ゆえに、もしもタイで襷を繋ぐことが出来れば、達成感を得、盛り上がるのは間違いなく作陽の側だ。そして川野一道監督曰く、高橋は周囲の盛り上がりや期待を力に換えられるタイプ。国士舘が圧倒的優位の試合だが、仕事を後に流してしまった国士舘の面々の罪悪感、タイプ的な相性、そして斉藤の負傷、という国士館にとっての悪い材料、そしてみごと襷を高橋に繋いだ作陽の盛り上がり、と両軍に全ての条件が揃えばひと揉め起こってもおかしくないのではないだろうか。

作戦面。この段階になれば斉藤は大将配置以外にありえない。作陽としては、相手の最後衛に斉藤が座ることが確実な以上、副将高橋で分けさせて1枚を余らせる「置き大将」作戦も選択肢に入ってくるはずだが、残り4枚の戦力を考えれば、これは難しいのではないか。引き分けで勝利を得られる作戦上の論理を取る(副将髙橋)か、残りを全て前に出す総力戦で「高橋を無傷で斉藤に当てる」可能性を優先する(大将高橋)か。筆者はここでは、両軍ともにエースを大将に配置と読んでおきたい。

いずれ結果はどうあれ非常に面白い試合。見どころは国士舘の藤永、道下、長谷川らがしっかり責任を持って、斉藤の力を使わずに高橋を引きずり出し、止めることができるかだ。第1のみどころは前衛戦、実現なれば斉藤-高橋戦がハイライトだ。

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大牟田のエンジンは81kg級高校選手権王者竹市大祐

大牟田と日体大荏原はこれが今季初対決。他をまさしく蹴散らす勢いで吹き飛ばして来た大牟田と、大学への出稽古を続けて地力を増した日体大荏原の戦いはまさに胸躍るものがある。

ただし招待試合シリーズを見た段階の印象から言えば、やはり大牟田が上。日体大荏原には駆け引きの中でこそ力を発揮する選手も多く、こういう選手には大牟田はしっかり策が練れている。日体大荏原の、たとえばグリーンカラニ海斗や平山才稀の地力がこの大牟田の組み手を凌駕するレベルまで上がっていれば話は別だが、パワーにも優れた大牟田相手にさすがにそれは厳しい印象。勝負すべき試合が1試合、2試合と限定されていればオーダー配置で山場を演出し、ここから刃を入れていくというシナリオも考えられるが、5枚の平均値が高い大牟田には戦線を広く展開せざるを得ないので、この筋書きも難しい。多少の揺れあれど、勝ち上がるのは大牟田と見ておくのが穏当だろう。

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写真は昨年度大会決勝、試合開始直前。今年はどんな戦いが繰り広げられるか。

ゆえに。決勝カードは、現時点では下記を推しておきたい。

国士舘高(東京) ― 大牟田高(福岡)

このカードの実現なれば。「斉藤1枚の取り味比類なく、抜き勝負に絶対の適性がある国士舘」「総合力なら日本一、点取り制なら国士舘を倒し得る大牟田」という世評が端的に表れる戦いになるのではないか。

このセンからもっともイメージしやすいシナリオは、タイ、もしくは1人差程度のアドバンテージを持って大牟田が大将斉藤に辿り着き、しかし斉藤が残る大牟田の面々を抜き去って栄冠に辿り着くという筋書きだ。双方の勝ち上がり(特に国士舘の周辺戦力にどのような雰囲気が醸成されているか)、対戦順(国士舘の主力4枚は全員左組みで、斉藤以外はケンカ四つのほうが得手、対する大牟田は6人中左が4名で右は石本と久保田のみ)と斉藤の怪我の程度という変数で照準精度は落ちるが、着地点はあくまでここ。と見ておくのが事前予測としては妥当に考えられるのだが、いかがであろう。

大牟田の側から本気で勝利を考えると、斉藤に当てる枚数は2枚や3枚ではなく、4枚5枚が必要になるはず。しかしこれは、少なくとも事前予測の段階では非現実的。本丸・斉藤に迫る掘割を徐々に埋められるも、次第に寄せ手の戦力は削がれ、最後は斉藤が全てを決めると考えるのが、現状の戦力分析からはもっとも可能性の高いシナリオだ。

以上、都道府県予選と各種招待試合の観察、指揮官たちへのインタビュー等を材料に、第41回大会男子団体戦を展望してみた。現時点での最善を尽くしたつもりではあるが、本番ではこの展望を超える面白いドラマが過たず展開されるのも毎年の恒例。今年も、高校生たちによるわれわれ外野の予想を超える戦い、熱い1日に期待したい。

※ eJudoメルマガ版3月17日掲載記事より転載・編集しています。

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