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【eJudo’s EYE】ワールドツアー欧州シリーズ男子日本代表20人「採点表」

(2019年2月26日)

※ eJudoメルマガ版2月26日掲載記事より転載・編集しています。
【eJudo’s EYE】ワールドツアー欧州シリーズ男子日本代表20人「採点表」
IJFワールドツアー欧州シリーズの花形であるグランドスラム・パリ(2月9日~10日)とグランドスラム・デュッセルドルフ(2月22日~24日)の2大会が終わった。81kg級の永瀬貴規や100kg級の羽賀龍之介などビッグネームも参加するグランドスラム・エカテリンブルク(3月15日~17日)がまだ残されてはいるが、東京世界選手権日本代表選考のメインフィールドはあくまでこの2大会。選考対象選手がこの2大会に絞って派遣されているという厳然たる事実と、思った以上にコントラストが効くこととなったその結果に鑑み、敢えてこの時点で、2019年世界選手権日本代表選考第3次予選(欧州シリーズ2大会)に参加した選手たちの「採点」を試みたい。

文責:古田英毅/eJudo編集部
※採点は10点満点

■ 60kg級
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積年のライバルであるイェルドス・スメトフとの決勝を戦う髙藤直寿

髙藤直寿 6.0
成績:グランドスラム・パリ優勝
評価:↑


スロースタートであったが的確に加速し、しっかり優勝。決勝では久々本気のパフォーマンスを見せていた2015年世界王者イェルドス・スメトフ(カザフスタン)に完勝した。超一線級との対戦がスメトフだけであることや、前半戦で相手の粘りを許したことを減点材料にする向きはあるかもしれないが、髙藤が昨年来見せている融通無碍の試合ぶりを考えれば、むしろ「柔道の幅の広さを利した省エネスタート」と「的確なタイミングでのアクセルの踏み込み」とポジティブに捉えたい。必要とされるリソースを必要とされるだけ投入し、力を余したままきちんと結果を得たという印象だ。ただしスロースタートが定番となりつつあることには一定の不安もある。全ての相手が血相を変えて臨み、初戦からアクセル全開が求められる五輪でどう戦うのか。これが「癖」でなくしっかりコントロールの効いたものであることを再確認しておいてほしい。

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永山竜樹は圧勝でしっかり優勝を果たした

永山竜樹 6.0
成績:グランドスラム・デュッセルドルフ優勝
評価:↑


こちらも前半戦は抑え気味だったがしっかり勝ち上がって準々決勝以降明らかに加速、終盤は3連続一本勝ちの圧勝で表彰台の真ん中に立った。こちらは速さと力という「強さ」で周囲を圧倒。スピードファイターが揃う最軽量級にあって、永山の体内時計の刻みの細かさは特筆もの。相手の動作と動作の間、思考と思考の間の「秒」に「毫」のアクションを突っ込んで相手を置き去り。「やれる」と手ごたえを得つつある相手が次々意識の外から突っ込まれた技で転がる様に永山の資質の高さが良く表れていた。パワーは階級屈指、スピード豊かで動作に隙がなく、大技一発の威力は抜群。素直に「これは永山に勝つのは大変」と思わされた大会であった。こちらもメダルクラスの強敵との対戦は決勝で対戦した昨年の世界選手権準優勝者ロベルト・ムシュヴィドバゼ(ロシア)戦に限られ、ゆえに採点は抑えめ。世界王者髙藤を追う立場としては、むしろ強敵との連続対戦を望んでいたのではないか。出来得ることは全て為したという体、いよいよ選抜体重別で王者・髙藤との決戦に挑む。

■ 66kg級
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阿部一二三はマニュエル・ロンバルドに2度肩車で投げられて初戦敗退

阿部一二三 3.5
評価:↓
成績:グランドスラム・パリ2回戦敗退


初戦で世界ジュニア王者マニュエル・ロンバルド(イタリア)に、いずれも肩車で2度投げられて敗戦。アクシデント負けではなく、阿部の展開力の乏しさという弱点にきっちり刃を入れられた格好。近年の技術的閉塞を集約したような一番だった。世界選手権1度目の戴冠以来ほぼ同じ柔道で勝ち続けて来た阿部であるが、この敗戦を糧にして変わることが出来るのか。技術的にも精神的にも必要とされるものをきちんと割り出し、直線的な行動を取ることが必要だ。評価4.0相当、以降ロンバルドが上位に勝ち上がらなかったことで減点してこの点数とした。

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丸山城志郎はこれでワールドツアー3連勝となった。

丸山城志郎 6.5
評価:↑
成績:グランドスラム・デュッセルドルフ優勝

阿部に勝利したグランドスラム大阪から数えて、これでワールドツアー3連勝。単に勝つだけでなくその豪快な技で会場を魅了、「特別な選手」としての尊敬を集めて表彰台の真ん中に立った。2週間前の阿部の敗退でより大きなプレッシャーが掛かる状況ではあったと思われるが、これを弾き返したことは大きい。ツアー2連勝を受けての徹底マーク、そしてライバル敗退により逆説的に増したプレッシャーと揃った技術的、そして精神的なハードルを乗り越えての優勝は評価大幅アップ間違いなし。結果に内容と揃った上に阿部を倒したロンバルドとの直接対決にもしっかり勝っており、今大会はほぼ満点の出来と言っていいだろう。まさしく今が旬、「乗っている」と形容するしかない。初の世界選手権代表に限りなく近づいた大会であった。

■ 73kg級
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決勝、橋本壮市が背負投でまず「技有」。結果、内容とも久々「らしさ」を見せた大会だった。

橋本壮市 6.0
評価: ↑
成績:グランドスラム・パリ優勝


この人もスロースタート、2回戦ではアントワーヌ・ブシャー(カナダ)の内股を受け損なって「技有」を失うなど危うい場面もあったが淡々と勝ち上がって準決勝以降に加速。ここでヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)を2回投げ飛ばして合技「一本」、決勝はツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)から背負投「技有」に体落「一本」と連取する圧倒的な強さで優勝を決めた。結果としては全試合一本勝ち、毎回面白い技術を投入してくる橋本だが今回は体落をブラッシュアップしており、技術的な上積みという項でも合格。前半の失点と対戦相手のグレードに鑑み、この採点とした。評価は上昇、ワールドマスターズの2敗で危うくなっていた代表争いにも「権利者」としてしっかり復帰である。

立川新 4.5
評価: ↓
成績:グランドスラム・パリ2回戦敗退


昨年の欧州王者、トップと中堅層の汽水域に生息する強豪フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)に敗退。反則ポイントでリードされると一気に手が詰まり、焦って出たところを浮技「技有」失陥、同じく前に出て一本背負投「技有」も失った。「詰将棋」というべき手堅さが最大の武器である立川の柔道の、構造的な弱点が出てしまった試合である。2回戦敗退という結果自体と、柔道の構造的な弱点を見せつけた内容、そして先行者3人が揃って好成績という相対的な状況を考えればこの時点で代表レースは脱落である。選抜体重別は権利のない状態で臨むことになると考えて然るべし。

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次々「一本」を決めて優勝した大野将平。写真は準決勝。

大野将平 6.5
評価:↑
成績:グランドスラム・デュッセルドルフ優勝


あらためて凄みを見せつけた大会。前半戦を見る限り明らかにコンディション不良、2回戦では総試合時間9分を超える長時間試合を戦ったが、「なぜ?」と不思議になるほどの冷静さ、この試合は淡々とチャンスを作って大外刈からの小外掛「技有」で勝利。そして3回戦から対戦相手のグレードがあがるなり一気に加速、ヴィクトル・スクヴォトフ(UAE)とルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)をともに2分掛からず投げ飛ばすと、準決勝ではソモン・マフマドベコフ(タジキスタン)にも余裕を持って一本勝ち。最後は決勝における海老沼匡との決戦を浮技「技有」で勝利して優勝を決めた。投げ一発の威力は相変わらず、さらに強烈な足技も確実に武器にしつつある技術的な上積み、異常と言えるほどの冷静さに垣間見えるメンタルの充実と、評価材料には事欠かない。この不調で、最終的にはこれだけインパクトがある内容で表彰台の真ん中に立ってしまうのだから恐ろしい。対戦相手のグレードの高さと、国内のライバル海老沼を下した点に鑑みて加点した。

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海老沼匡は左一本背負投と小内刈を軸にしたかつてと異なる組み立てで「一本」を量産した。

海老沼匡 6.0
評価:→
成績:グランドスラム・デュッセルドルフ2位


決勝までの勝ちぶりの良さはライバルの大野と橋本よりも上。全試合一本勝ちという結果はもちろん、いつ投げが飛び出すかわからないいかにも海老沼らしいエキサイティングな柔道で会場を魅了した。ガンバータル・オドバヤル(モンゴル)にムサ・モグシコフ(ロシア)と倒した敵のグレードも申し分なし、決勝で大野に敗れたことだけが瑕疵だった。これだけ素晴らしい結果と内容を残したわけだが、代表争いのライバルとの直接対決に連敗(※グランドスラム大阪決勝で大野に敗退)という事実は重い。攻撃型の海老沼の柔道は良くも悪くも大野と噛み合ってしまい、地力に勝る大野に対してこの先も直接対決の展望は明るくない。内容、存在感ともに素晴らしかったが代表争いという観点では一歩後退と総括せざるを得ない。個人的には評価アップの大会だが、客観的な成績に鑑みて評価は「→」。

■ 81kg級
佐々木健志 3.5
評価:↓
成績:グランドスラム・パリ1回戦敗退


ワールドツアー3連勝を狙ったが初戦敗退。無名のパワー派アルマン・ハレイシャン(フランス)に釣り手を噛み殺されたまま無理やり右腰を突っ込んでの大技を企図し、弾き返されて「技有」失陥、そのまま敗れてしまった。無茶な仕掛けであり、久々の「自爆」負けである。間違いなくその強さ世界王者級であるが、ここまで勝ち負けの波が激しくては強化としてもなかなか「1人代表」として送り込み辛いだろう。以降は有無を言わせぬ成績が必要になる。内容に少し踏み込むと、失点は勿論のこと、以降思い切った攻めが見えなかったことも不安。アジア大会での「2回連続の自爆」が頭をよぎったわけではないだろうが、思い切りの良さが身上のはずの佐々木が、再度の返し技を怖れて腹を括った行動に出られない悪循環に陥ったとも観察された。状況に合わせた、手持ちの技術と戦術の整理が必要である。評価4.0相当、阿部一二三と同じくハレイシャンが上位に残らなかったことで減点し、この点数とした。

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小原拳哉は世界王者サイード・モラエイに袈裟固「一本」で敗退。

小原拳哉 4.0
評価:↓
成績:グランドスラム・パリ2回戦敗退


2回戦、第1シードのサイード・モラエイ(イラン)に1分22秒袈裟固「一本」で敗退。まことに厳しい配置ではあったが、現役世界王者との直接対決という序列一発逆転の大チャンスであったこともまた事実。好機を生かせず「賭け」に敗れた格好で、2回戦負けという結果はまっすぐ受け入れねばならない。刃を入れず、何もできないまま負けたという形になった内容の悪さ(ファーストアタックの巴投を潰されて抑え込まれる)も痛い。グランドスラム大阪の善戦で形上代表戦線に生き残っていたが、ほぼ権利潰えたと思われる情勢。

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決勝を戦う藤原崇太郎

藤原崇太郎 6.0
評価:↑
成績:グランドスラム・デュッセルドルフ優勝


負傷からの復帰戦、実にバクー世界選手権(2位)以来となる久々の国際大会でしっかり優勝を飾って見せた。この事実ひとつに今シリーズの藤原の評価は尽きるだろう。唯一の勝負どころとなった準々決勝、アンリ・エグディゼ(ポルトガル)戦では裏投で完全に放られて「一本」を失うピンチがあり(幸運にもなぜか「技有」に訂正)、これをどう見るかということになるが、ここは谷落「一本」による逆転をより高く採っておきたい。手堅さと全方位性が売りで相手の強弱に関わらず誰とでも「試合になってしまう」藤原が、必要とあればスクランブル一発で危機を乗り越える力を見せたと解釈することが出来るからだ。もう1つ。優勝候補20人と評される激戦81kg級だが、実は藤原は昨年のGSエカテリンブルク、世界選手権(の準決勝まで)、そして今大会と奇跡的に出来上がったエアポケット(今大会はおそらくここ1年のツアーではもっとも、飛び抜けて人材が薄い)に配され、実は超難敵との対戦はほとんどまったくない。藤原にはこういう運の良さがある。本番当日、始まってみるまで何がどう転がるかわからない大混戦の81kg級、藤原に長年付きまとうこの「運気」はひとつその特異な属性として頭に入れておいて良いのではないだろうか。ツキのある男は、買える。

■ 90kg級
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長澤憲大は向翔一郎を抑え込んでぶじ表彰台を確保

長澤憲大 5.5
評価:→
成績:グランドスラム・パリ3位


準決勝で絶好調ガクドンハン(韓国)に翻弄され、大外刈「一本」で敗退。ここまでノエル・ファンテンド(オランダ)にクリスティアン・トート(ハンガリー)と面倒な2人にきっちり勝利しており、さらに最終的には表彰台を確保してと合格点の大会のはずだが、この一本負けのインパクトが鮮烈に過ぎたかもしれない。しっかり結果を残した一方で、手堅い長澤が、ガクの進化に置いて行かれたという「負け」の印象のほうが強く残ってしまった大会でもあった。3位決定戦の相手も同国の向で、代表争いでは一歩前進もこれから国際戦線に殴り込みをかけるというような「上がり目」の勢いを見せられなかったことは残念。力を示して一定の結果を得たが「長澤でなければ」というところまでは登り詰められなかった。バクー世界選手権以降の停滞から抜け出し、代表戦線にしっかり復帰した大会、という評が的確か。暫定一番手の座を取り戻したシリーズである。

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3位決定戦、向は帯取返を自爆する形で長澤の抑え込みを許す

向翔一郎 4.5
評価:↓
成績:グランドスラム・パリ5位


結果、内容ともに評価ダウン。11月のグランドスラム大阪で見せた自制は見事なもので、得意の、そしてリスクと隣合わせの抱き勝負を封印したまましっかり優勝。この「手堅く勝ち抜く力」をこれからも見せて代表権を勝ち取れば、逆にちょっと「狂った」選手でなければ勝ち抜けない五輪本番では向本来のジャンプ力がいよいよ生きる、というところまで仮想シナリオが見えつつあったのだが、今大会はもっとも悪い卦が出た。2回戦で世界選手権2位のイワン=フェリペ・シルバ=モラレス(キューバ)に我慢に我慢を重ねて「指導3」で勝利したあたりまでは良かったのだが、準々決勝ではイスラム・ボズバエフ(カザフスタン)を前に我慢出来ず中途半端な抱き勝負を挑み、抱き返されての小外掛一発で轟沈。3位決定戦ではGS延長戦でこれまた我慢出来ず、長澤憲大の背中越しに帯を叩き、十分考える時間を与えてしまってから帯取返の大技一発というミス。そのまま抑え込まれて5位に沈んだ。今回負けたボズバエフがグランドスラム大阪で村尾三四郎に完敗していること、3位決定戦の直接対決の相手がライバル長澤であったことも明確な減点材料。周囲に爆発的な成績を残した選手がいないゆえまだ逆転の可能性がなくはないが、選抜体重別では「権利者」の最後方という立場で臨む形となる。大阪以降得つつあった「手堅く勝つモードを獲得しつつある」という評価は雲散、「いい時はいいが悪い時はコントロールが効かない」と、評価は逆戻りである。

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高校生の村尾三四郎は難敵相手に「一本」を連発、決勝までのぼり詰めた。

村尾三四郎 6.5
評価:↑
成績:グランドスラム・デュッセルドルフ2位


今シリーズ全階級を通じた日本代表の白眉。最激戦ブロックに配されながら1回戦における開始僅か20秒の大内刈「一本」に始まり、2回戦で面倒なダヴィド・クラメルト(チェコ)を内股「一本」、そして3回戦ではパリ大会に優勝し今シリーズ出色の出来を誇るもと世界王者ガク・ドンハンをなんと僅か46秒の大外刈「一本」で一蹴。さらに昨年の欧州王者で世界選手権開始前は優勝候補筆頭に推す声もあった現時点での90kg級の「軸」ミハイル・イゴルニコフ(ロシア)をGS延長戦「指導3」で畳から追った。この時点で既に世界選手権優勝級の戦果である。決勝は敗れたがこの面子に5試合一本勝ち、現役王者ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)も参加したトーナメントで2位という結果は掛け値なしに凄い。ガクが明らかに村尾を舐めていた(相四つで引き手を一方的に与えていた)こと、ツアー2戦目でまだ周囲に研究されていないことなど割り引く材料はあるが、昨秋以降の力の伸びはまさに出色。90kg級日本代表候補に足りない「揚がる勢い」、将来への期待感を抱かせるという点でまさに希望の星である。柔道の幅はまだまだ狭いが、片襟からでも次々攻められる戦型はひとまず現在のルールにも噛み合う。世界の舞台で見てみたい、と素直に思わされる戦いであった。戦果とインパクトは7.0相当、決勝を落としたことで減点とした。

ベイカー茉秋 ―
評価:→
成績:欠場 (グランドスラム・デュッセルドルフ)


大会3週間前に右ハムストリングを肉離れ、今シリーズは欠場となった。仮に評価を「→」(現状維持)とさせていただいたが、グランドスラム大阪(予選ラウンド敗退)で「大型パワー派の海外選手に対する(肩の負傷の可能性の)恐怖心」を見せてしまったベイカーにとってこのシリーズはこの払拭を見せねばならない、「巻き返し」の機会になるはずであった。下がり目で迎えたシリーズの現状維持とはすなわち評価ダウンに他ならず、2次予選(グランドスラム大阪)、3次予選(今回)と実績ゼロで最終予選会を迎える事態はまことに痛い。選抜体重別での圧勝に掛けるほかはない情勢。

■ 100kg級
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ヴァーラム・リパルテリアニとの決勝を戦うウルフアロン

ウルフアロン 5.5
評価:→
成績:グランドスラム・パリ2位


さすがの強さで勝ち上がりながら、2017年世界選手権決勝の再戦となったファイナルではヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)に内股「技有」で敗戦。2位でしっかり力を見せた大会であったが、かつて「この先絶対に負けない」と思わせるレベルの完封劇を演じたリパルテリアニに敗れたこと(≒戦略戦術が売りのウルフが力で突破されたこと)、そして準決勝で伏兵ペテル・パルチク(イスラエル)に一本背負投「技有」を失ったことで、その絶対性に傷がついた大会でもあった。昨年の世界選手権(5位)は負傷明けの強行出場という大きなエクスキューズがあり、しかも超強豪との連戦を勝利で乗り越えた直後の黒星ということでその負けはアクシデントの範疇、実は2017年の戴冠以降ウルフは実質無敗であったのだ。力を見せたが、周囲に「ウルフにも刃は届く」と思わせてしまった大会でもあった。100kg級はウルフが大本命の座から陥落、この先はさらなる混戦が予想される。

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優勝を決めた飯田健太郎。昨年のアジア大会に続き、現役世界王者ガク・ドンハンに連勝。

飯田健太郎 6.0
評価:↑
成績:グランドスラム・デュッセルドルフ優勝


ハイレベルトーナメントをきっちり優勝。リオ五輪銅メダルのシリル・マレ(1回戦でGS裏投「一本」)、2週間前にウルフに勝利してパリ大会を制したばかりのリパルテリアニ(3回戦で内股「技有」)、そして2018年バクー世界選手権王者のチョ・グハン(韓国・決勝で送足払「技有」)と倒した相手のグレードも申し分なし。まだ線の細さは否めないが、技一撃の切れ味はやはり他の選手にはない魅力である。軽量級があまりにも充実し過ぎているゆえ「2枠目」がこの階級に行使されるかどうかは不透明だが、バックアッパーも含めて五輪候補(≒世界選手権を経験している選手)を複数養成せねばならないはずの強化の事情を考えれば、1度も世界選手権に出ていない飯田の立場はむしろ有利に働くという考え方も出来る。ぜひ世界の舞台で見てみたいと素直に思わされる、充実の勝ちぶりであった。純競技力的にも相性的にも飯田最大の難敵は間違いなくウルフアロン。ウルフに勝つことはイコール、「パワー」「戦略」「戦術」「発想力」で勝ること、ウルフの長所であり飯田の課題でもあるこれらの要素で上を行かねばならないということである。ウルフを凌がんとすることが、そのまま世界の頂点への最短距離。ぜひ「対ウルフ戦」に全てを注いでもらいたい。

■ 100kg超級
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グランドスラム・デュッセルドルフ決勝。原沢久喜は今シリーズを象徴するような豪快な内股「一本」で戦いを締めた。

原沢久喜 6.5
評価:↑
成績:グランドスラム・パリ2位、グランドスラム・デュッセルドルフ優勝


ついに復活の狼煙。パリでは決勝まで進んで2位、デュッセルドルフでは見事優勝を果たした。単に3年ぶりのワールドツアー優勝(2016年2月のグランドスラム・パリ以来)という事実を持って「復活」と規定するのではない。なにより内容が良いのだ。リオ後の2年間どうしても武器として機能しなかった内股が面白いように掛かり、2大会10戦でこの技による一本勝ちが4、10戦9勝のうち投技による一本が実に8試合、計9試合で投げてポイントを奪っている。原沢がこんなに自信溢れる試合を見せたのは、おそらく2016年のリオ五輪以来初めて。足を突っ込むなり突進する思い切りの良さは、まさしく全盛期を思わせるものであった。パリで復調し、デュッセルでターボが掛かったという「上がり目」曲線も大いに買える。現役王者グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)との対戦こそなかったが、世界選手権2位のウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)、ロシアの新2トップであるタメルラン・バシャエフとイナル・タソエフを全員真っ向内股「一本」で投げつけており、対戦相手のグレードも十分。日本の第一候補は原沢と周囲に強く印象付ける、単に勝つだけでなく今後の上がり目ベクトルを示した意義あるシリーズであった。東京五輪に出場叶うとなれば、間違いなくこの2019年欧州シリーズがターニングポイントとして振り返られることとなるだろう。

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影浦心はヘンク・フロルから小外掛「一本」で勝利して銅メダルを確保

影浦心 5.0
評価:→
成績:グランドスラム・パリ3位


しっかり3位を確保。ただし準々決勝、オール・サッソン(イスラエル)に喫した袖釣込腰「技有」による敗戦は相当に痛い。リオ五輪以降の最重量級を切るキーワードは「アスリート体型の担ぎ技系選手の台頭」であり、その先頭集団を走っていたはずの影浦は、これでワールドマスターズにおけるツシシヴィリ、バシャエフに続いてこの型の選手に3連敗となってしまったからだ。間合いの近いところから担げて返せる柔らかさとスピードを武器に本格派タイプを倒してのしあがった影浦だが、ワールドマスターズでの2敗を受けた今大会は「以後どう戦うか」を示すべき大会であったはず。メダル確保でワールドマスターズ(5位)の失敗からぶじ代表戦線に復帰した一方、上がり目を見せたとまでは言い難い。評価は「現状維持」(→)だが、原沢の爆発的な勝ちぶりを考えれば、相対的には一歩後退だろう。

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ウルジバヤル・デューレンバヤルとの3位決定戦を戦う小川雄勢

小川雄勢 4.5 
評価:↓
成績:グランドスラム・デュッセルドルフ5位


2敗を喫して5位。1回戦では一発狙いのファイセル・ヤバラー(チュニジア)を縦四方固「一本」で破り、続いて自身と似たタイプの「指導」獲得型強者ラファエル・シウバ(ブラジル)に「指導3」で競り勝ち、そろそろ投げの欲しい3回戦ではベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)を小外掛「一本」で退けてと戦果はなかなかのものだったが、以降連敗で画竜点睛を欠いた。この連敗は相手も内容も悪し。準々決勝で浮技「技有」で屈したタソエフ、3位決定戦で「指導3」を奪われたウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)はともにこの日原沢に内股「一本」で完敗している選手、代表争いという観点ではこれ以上ないほどコントラストが効いてしまった。内容についてだが、ウルジバヤル戦の最終盤、抱きつかれて間合いを詰められた際、巻き込み掛け潰れという選択に出て即偽装攻撃の「指導3」を失った場面に注目したい。「抱きつき」に対して何を選択するかは国際大会で勝ち抜けるかどうかを読み解くカギ。この日タソエフに抱きつかれた原沢は呼び込んでの内股一発で斬り落とし、パリ大会ではパワー派のマリー=イヴ・ガイ(フランス)の抱きつき攻撃を大野陽子がやはり呼び込みながらの豪快な内股「一本」に仕留めている。密着をチャンスとして跳ね返す技と、なにより肚があるかどうかは日本選手の生命線なのではないか。まだグランドスラム・エカテリンブルクというチャンスが残されている小川であるが、現時点で「脱落」とすら思える内容、そして成績であった。

※ eJudoメルマガ版2月26日掲載記事より転載・編集しています。

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