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髙藤直寿と橋本壮市が復活V、阿部一二三の初戦敗退は油断負けにあらず・グランドスラムパリ2019第1日男子3階級レポート

(2019年2月12日)

※ eJudoメルマガ版2月12日掲載記事より転載・編集しています。
髙藤直寿と橋本壮市が復活V、阿部一二三の初戦敗退は油断負けにあらず
グランドスラムパリ2019第1日男子3階級レポート(60kg級、66kg級、73kg級)
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→【eJudo’s EYE】ワールドツアー欧州シリーズ男子日本代表20人「採点表」

日時:日時:2019(平成31)年2月9日
場所:GAccorHotels Arena of Bercy (フランス・パリ)

本文・総評:古田英毅
決勝戦評:小林大悟

■ 60kg級 髙藤直寿貫録の優勝、決勝は久々躍動のスメトフに完勝
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60kg級メダリスト。左からイェルドス・スメトフ、髙藤直寿、ダシュダヴァー・アマルツヴシン、テムル・ノザゼ。

(エントリー36名)

【入賞者】
1.TAKATO, Naohisa (JPN)
2.SMETOV, Yeldos (KAZ)
3.DASHDAVAA, Amartuvshin (MGL)
3.NOZADZE, Temur (GEO)
5.TSJAKADOEA, Tornike (NED)
5.BEN DAVID, Daniel (ISR)
7.PRECIADO, Lenin (ECU)
7.PULKRABEK, David (CZE)

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3回戦、髙藤は地元の若手ロマリック=ウェンド=ヤム・ブダのパワーに振り回される。

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決勝、髙藤がスメトフの肩車をかわして押し込み決定的な「技有」

日本代表の髙藤直寿(パーク24)が貫録の優勝。

スロースタートぶりは今回も変わらず序盤の動きは決して冴えたものではなかったが、戦術性の高さに足業の巧さと、柔道の幅の広さを利してしっかり勝ち残る。ケンカ四つのイ・ハリン(韓国)に粘られた1回戦は「指導2」ずつを失って迎えた終盤に激しく引き手を求めて攻勢構図を顕在化、相手に「取り組まない咎」による「指導3」を押し付けて勝利。地元の若手ロマリック=ウェンド=ヤム・ブダ(フランス)のパワーに振り回された3回戦は3分12秒に小内刈を引っ掛け絡ませ、この瞬間芸で「技有」を得てベスト8入り。一息ついた形の準々決勝でトルニケ・ツヤカドエア(オランダ)から一方的に3つの「指導」を得て勝ち抜くと、準決勝以降は一気に加速。新鋭テムル・ノザゼ(ジョージア)から袖釣込腰「技有」に内股「技有」と得て合技の一本勝ち、積年のライバルである2015年アスタナ世界選手権王者イェルドス・スメトフ(カザフスタン)との決勝は48秒と1分22秒に立て続けに「指導」を得、焦った相手の肩車を押し込み返して「技有」を追加するという完勝。危なげなく表彰台の真ん中に立った。髙藤のグランドスラム・パリ優勝は2013年、2015年、2017年に続く4度目。

何をやってくるかわからないアクシデント属性を孕んだ「危険な選手」の少ない大会ではあったが、髙藤の安定ぶりは見事。前半抑えて後半にギアを入れるペース配分、これを可能ならしめる戦い方の幅の広さ、勝負どころの見極めの良さにここぞの加速の速さと、バクー世界選手権で見せた融通無碍の戦いぶりは健在であった。爆発力よりも安定感、何があっても勝ち抜く歩留まりの良さを見せつけた大会であった。

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準決勝、スメトフがダシュダヴァー・アマルツヴシンから背負投「一本」

2位のスメトフは久々「らしさ」を見せた大会。ここ1年半ほどは良いパフォーマンスがなく、上位まで勝ち抜く大会も地力自体で押し切る歩留まり勝ちが多かった印象だが、この日は準決勝では第2シードのダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)を背負投「一本」に斬り落とすなどもともとの持ち味である技の切れ味の良さを披露。技自体で強さを感じさせるあのスメトフが帰って来たと、率直に感心させられた1日であった。1年半後の五輪に向けて上がり目が見えてきた印象である。

上位入賞者と準々決勝以降の結果、決勝の戦評は下記。

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4回目の優勝を決めた髙藤

【上位入賞者】

優勝:髙藤直寿(日本)
2位:イェルドス・スメトフ(カザフスタン)
3位:ダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)、テムル・ノザゼ(ジョージア)

【準々決勝】
髙藤直寿○GS反則[指導3](GS1:49)△トルニケ・ツヤカドエア(オランダ)
テムル・ノザゼ(ジョージア)○合技[小外掛・隅落](1:51)△レニン・プレシアド(エクアドル)
ダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)○反則[指導3](2:46)△ダニエル・ベン=ダヴィド(イスラエル)
イェルドス・スメトフ(カザフスタン)○反則[指導3](3:10)△ダヴィド・プルクラベク(チェコ)

【敗者復活戦】
トルニケ・ツヤカドエア(オランダ)○合技[隅落・隅落](2:26)△レニン・プレシアド(エクアドル)
ダニエル・ベン=ダヴィド(イスラエル)○GS反則[指導3](GS3:58)△ダヴィド・プルクラベク(チェコ)

【準決勝】
髙藤直寿○合技[袖釣込腰・内股](3:31)△テムル・ノザゼ(ジョージア)
イェルドス・スメトフ(カザフスタン)○背負投(3:23)△ダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)

【3位決定戦】
ダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)○反則[指導3](3:57)△トルニケ・ツヤカドエア(オランダ)
テムル・ノザゼ(ジョージア)○優勢[技有・隅落]△ダニエル・ベン=ダヴィド(イスラエル)

【決勝】
髙藤直寿○優勢[技有・浮落]△イェルドス・スメトフ(カザフスタン)
髙藤が左、スメトフが右組みのケンカ四つ。開始20秒、まずは髙藤が左方向への肩車で先制攻撃。これはスメトフが耐えて「待て」。ここから組み合っての膠着状態が続き、48秒、スメトフにブロッキングの「指導」が与えられる。さらに1分22秒にはスメトフに取り組まないとして2つ目の「指導」が追加され、スメトフは早くも「指導2」で後がない状況となる。ここからスメトフは作戦を変え、引き手で奥襟を持っての密着戦法を展開。状況の打開を試みるが、2分3秒には髙藤が相手が引き手を深く持ちに来る動作を利用して左小内刈を放ち、あと一歩でポイントという惜しい場面を作り出す。2分25秒には両者横にずれた状態からスメトフが得意の肩車を繰り出すが、髙藤余裕を持ってこれを潰す。試合の流れは完全に髙藤。しかし、2分48秒、髙藤の左小内刈を起点にスメトフが右内股で切り返し、髙藤がぶら下がるような体勢となる危険な状態が生まれる。スメトフ、これを隅返で捲ろうと試みるが、集中力の高い髙藤すぐに伏せてこれを回避。試合終了が見え始めた残り15秒、お互いに腰を引いた姿勢からスメトフが右方向への肩車。しかし、髙藤上体を起こしたままこれを受け止め、ハンドル操作で振り返す。スメトフ体側から勢い良く畳に落ちて「技有」。「待て」が掛かった時点で試合時間は5秒しか残されておらず、スメトフが右内股からの隅返を狙ったところで試合終了。髙藤がグランドスラム・パリ4度目の優勝を果たした。

【日本代表選手勝ち上がり】

髙藤直寿(パーク24)
成績:優勝


[2回戦]
髙藤直寿○反則[指導3](3:46)△イ・ハリン(韓国)

[3回戦]
髙藤直寿○優勢[技有・小内刈](3:06)△ロマリック=ウェンド=ヤム・ブダ(フランス)

[準々決勝]
髙藤直寿○GS反則[指導3](GS1:49)△トルニケ・ツヤカドエア(オランダ)

[準決勝]
髙藤直寿○合技[袖釣込腰・内股](3:31)△テムル・ノザゼ(ジョージア)

[決勝]
髙藤直寿○優勢[技有・浮落]△イェルドス・スメトフ(カザフスタン)

■ 66kg級 阿部一二三初戦敗退、優勝のヴィエルにシュマイロフら新興勢力台頭の気配
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66kg級メダリスト。左からヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ、デニス・ヴィエル、ゲオルギー・ザンタライア、バルチ・シュマイロフ。

(エントリー49名)

【入賞者】
1.VIERU, Denis (MDA)
2.MARGVELASHVILI, Vazha (GEO)
3.SHMAILOV, Baruch (ISR)
3.ZANTARAIA, Georgii (UKR)
5.LOMBARDO, Manuel (ITA)
5.ABDULZHALILOV, Abdula (RUS)
7.ABDELMAWGOUD, Mohamed (EGY)
7.SEIDL, Sebastian (GER)

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2回戦、阿部はマニュエル・ロンバルドの肩車を捌き損ない「技有」失陥。

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同じ肩車で2つ目の「技有」を失って終戦。初戦で畳を去ることとなった。

世界選手権2連覇中の阿部一二三(日本体育大3年)が初戦敗退。昨年の世界ジュニアを制し、1月のグランプリ・イスラエルを制して売り出し中のマニュエル・ロンバルド(イタリア)に肩車2発を食って合技「一本」で終戦。入賞にすら絡むことが出来なかった。

簡単にこの試合の様子を伝えたい。この試合は阿部、ロンバルドともに右組みの相四つ。
ロンバルド、阿部の釣り手を噛み殺して相四つ横変形で低く構える。この防御に対し阿部は打開の手立てなく、殻を剥がせないまま58秒双方に消極的との咎で「指導」。直後、阿部は引き手を得るなり釣り手で片襟を差した右背負投。しかし完全に読まれて防がれる。ロンバルドは自信満々に奥襟を叩いて低く構え、阿部が嫌って切り離す。2分4秒にはロンバルドの肩車を阿部が潰して絞めを狙ったまま押し込まんとするが中途半端、ロンバルドそのまま回転に巻き込んで阿部に背中を着かせ「技有」。続く展開もロンバルドは奥襟を叩き、阿部が嫌って切ると残った左腕を抱えて肩車に飛び込む。2分47秒、ロンバルドが釣り手で奥襟を叩くと阿部が嫌って1回切る。返す刀で奥襟を叩こうと釣り手を伸ばすが、ここにロンバルドが左への肩車。体の伸びた阿部が肩から畳に落ち、映像チェックの結果これが「技有」。合技「一本」で試合が決した。

勝ったロンバルドは準々決勝でデニス・ヴィエル(モルドバ)相手に裏投を自爆して敗退、3位決定戦ではバルチ・シュマイロフ(イスラエル)の内股を食って一本負け。最終結果は5位で、穏当に現状の序列の中に納まった。今後必ず出てくる選手であるがこの結果からも戦いの内容からもロンバルドが規格外に強いから阿部が負けたというわけでもなく、阿部の油断負けというわけでもない(新星登場、と早々騒いだ人たちは実際の試合を見ていないのではないかと思うし、阿部のこれまでの試合を見積もり損なっているのではないかと思う)。このところの阿部の技術的閉塞が凝集されたような試合だった。

阿部の課題は第一がケンカ四つで引き手を先に得て組み勝つための具体的手段と相手に組み合うことを強いる詰将棋の手立てが少ないこと、足技など状況を作ることに関わる技に幅がないこと、作りの手立てが足りず実は相四つで組み合って専守防衛に出た相手を剥がす具体的手段に乏しいこと。このうち今回噴出したのは後者2つであるが、現状これを突破する阿部の手立てはワンパターン、昨年の世界選手権から一貫して、引き手を先に得て、片襟を差しながらの大技一発を連発して投げ切ってしまうことほぼ一択である。このあたりはグランドスラム大阪直前のコラム「【eJudo’s EYE】グランドスラムを目前に、阿部一二三の「ライバル不在」を危惧する」で指摘させて頂いた通り。

相四つ相手に組み合って低く防がれると実は打開の手段なく、頼りの、片襟を差しながらの技は完全に読まれる。ロンバルドはむしろ自信満々、むしろ「奥襟を叩けば阿部は嫌って切ってくる」「そして片襟技を狙ってくる」と確信していったん切らせ、そこに着実に刃を入れて(残った阿部の引き手めがけて肩車)いた。ロンバルドにとっては一から十まで読み通りに進んだ試合であったはず。双方への「指導」直後に阿部が仕掛けた片襟技などは、ロンバルドにとっては「シナリオ通り」とむしろ自信を深める結果になったのではないか。

阿部の昨年の勝ちぶりはワンパターンで、したがって読まれやすい。これはおそらく本人も自覚しているところで当然の展開であるが、読まれたその先を行くものがなかったことは問題。「成長し続ける」という現代柔道に必須の要素を満たしていないと評されても仕方がない。本来であれば、読まれたその先に既に手立てを用意していきなり対応し、「阿部はもう次を考えていた」「過去の試合の研究だけでは阿部には勝てない」と周囲を恐怖させねばならない局面であった。

作りのないまま肩の柔らかさと決めの巧さに頼ってひとまず「投げて来てしまった」ツケ、相手とのやりとりを経ず、力に頼って自分だけが組んで仕掛ける一方通行の柔道のツケが回りつつある。本来は、勝ち続けているうちに、柔道の幅を広げるべきであった。妹の52kg級阿部詩が次々手立てを増やして柔道の幅を広げているのとはこのあたり対照的。公開合宿での練習の様子や、インタビューに応えての「次に習得すべき技術の方向性」にも、現状の課題とのズレを感じる。

今回のグランドスラムにおける筆者の予想は、「阿部が圧勝優勝するが、内容を精査すれば技術的課題は克服できていない」という線であったが、その予想より早く課題の顕在化が起こったと解釈できる。次戦の阿部がどんな方向性での上積みを見せてくれるか、期待して楽しみに待ちたい。

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決勝、デニス・ヴィエルが美技を披露、右体落「一本」。

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3位決定戦、バルチ・シュマイロフが内股でロンバルドを一蹴「一本」。

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ワールドツアー初優勝を飾ったヴィエル

トーナメントの勝者はロンバルドに勝ったデニス・ヴィエル。決勝では、これまでアン・バウル(韓国)と並んで阿部追撃グループのトップを走っていたヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)から豪快な右体落「一本」で勝利した。刹那的に体を捨てるドロップ式の体落ではなく、まず浅い右小外刈で相手の左足を下げさせ、次いで残った右足めがけて体落を叩き入れるという、日本人好みの素晴らしい組み立て、それこそ「作り」の効いた一撃であった。モルドバからは初のグランドスラム制覇、これまでヴィエルはベスト8狙いの中堅の強豪という評価であったが、どうやら一皮剥けた印象。

3位決定戦では前述の通りバルチ・シュマイロフが鮮やかな内股一発を披露。実はロンドン五輪後は数名のトップ選手のみで回して長年全体の層が薄かった66kg級であるが、ついにこの中間層の突き上げ、トップグループのレベルアップが起こりつつあるのかもしれない。日本が長年ほぼ「独り勝ち」を続けてきた66kg級であるが、今年の上位戦線は目が離せない。


【上位入賞者】
優勝:デニス・ヴィエル(モルドバ)
2位:ヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)
3位:バルチ・シュマイロフ(イスラエル)、ゲオルギー・ザンタライア(ウクライナ)

【準々決勝】
デニス・ヴィエル(モルドバ)○優勢[技有・浮落]△マニュエル・ロンバルド(イタリア)
ゲオルギー・ザンタライア(ウクライナ)○反則[DH](3:14)△モハメド・アブデルマウゴウド(エジプト)
※立ち姿勢から関節を極めたことによる
ヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)○優勢[技有・大内刈]△セバスティアン・ザイドル(ドイツ)
バルチ・シュマイロフ(イスラエル)○GS合技[体落・肩車](GS1:16)△アブドゥラ・アブドゥルジャリロフ(ロシア)

【敗者復活戦】
マニュエル・ロンバルド(イタリア)○不戦△モハメド・アブデルマウゴウド(エジプト)
アブドゥラ・アブドゥルジャリロフ(ロシア)○優勢[技有・一本背負投]△セバスティアン・ザイドル(ドイツ)

【準決勝】
デニス・ヴィエル(モルドバ)○GS技有・大内刈(GS1:06)△ゲオルギー・ザンタライア(ウクライナ)
ヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)○GS合技[外巻込・大腰](GS0:25)△バルチ・シュマイロフ(イスラエル)

【3位決定戦】
バルチ・シュマイロフ(イスラエル)○内股(2:23)△マニュエル・ロンバルド(イタリア)
ゲオルギー・ザンタライア(ウクライナ)○優勢[技有・隅落]△アブドゥラ・アブドゥルジャリロフ(ロシア)

【決勝】
デニス・ヴィエル(モルドバ)○体落(1:26)△ヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)
ヴィエルが右、マルグヴェラシヴィリが左組みのケンカ四つ。20秒、マルグヴェラシヴィリが組み合うなり巴投を放つが、ヴィエルは側方倒立回転の要領で回避する。ヴィエルは相手を引きずり回しながら右小内刈に右大内刈と足を飛ばして攻勢。しかし、マルグヴェラシヴィリも体幹の強さを生かして余裕を持ってそれを全て受け切る。1分26秒、マルグヴェラシヴィリが釣り手で背中を抱き込むと、ヴィエルは浅い右小外刈で相手の左足を下げさせ、同時に抱え込まれた釣り手の肘を外して右体落に飛び込む。右足に重心を移されたマルグエラシヴィリは放物線を描いて勢い良く背中から畳に落下。主審が高らかに「一本」を宣告して、ヴィエルの優勝が決まった。

【日本代表選手勝ち上がり】

阿部一二三(日本体育大3年)
成績:2回戦敗退


[2回戦]
阿部一二三△合技[肩車・肩車](2:48)○マニュエル・ロンバルド(イタリア)

■ 73kg級 橋本壮市優勝、決勝はひさびさ「らしさ」見せる
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73kg級メダリスト。左からツェンドオチル・ツォグトバータル、橋本壮市、ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ、ファビオ・バジーレ

(エントリー58名)

【入賞者】
1.HASHIMOTO, Soichi (JPN)
2.TSEND-OCHIR, Tsogtbaatar (MGL)
3.SHAVDATUASHVILI, Lasha (GEO)
3.BASILE, Fabio (ITA)
5.HEYDAROV, Hidayat (AZE)
5.GJAKOVA, Akil (KOS)
7.KARAPETIAN, Ferdinand (ARM)
7.CHAINE, Guillaume (FRA)

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山場の準決勝、橋本壮市がヒダヤット・ヘイダロフから体落「技有」

強豪打ち揃ったトーナメントを、日本代表の橋本壮市(パーク24)が優勝。

60kg級の髙藤直寿動揺前半の動きは決して冴えたものではなく、一種淡々としたもの。2回戦では手足の長いアントワーヌ・ブシャー(カナダ)の内股を受け損なって「技有」を失う場面もあったが、結果としては全試合一本勝ちでしっかり勝ち上がる。内容は2回戦でソモン・マフマドベコフ(タジキスタン)に体落2発の合技「一本」、3回戦はブシャーから払腰「一本」、準々決勝は地元のギヨーム・シェヌ(フランス)に粘られたがGS延長戦の「指導3」反則。

ここからはギアを明らかに一段アップ。最大の山場と目された準決勝のヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)戦は「指導」1つを先行されたが、ここから1分10秒に体落「技有」、1分30秒に大外刈「技有」と2発投げ飛ばす圧巻の出来。

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決勝、橋本はツェンドオチル・ツォグトバータルの隅返をかわすと、立ち上がり際に右背負投を決めて「技有」

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片襟を握り込んだ体落で「一本」。山嵐、とも取れる一発だった

決勝は激戦ブロックの勝者、準々決勝ではラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)を小外刈「技有」で、準決勝ではアキル・ヤコヴァ(コソボ)との注目対決を隅返「一本」で勝ち抜いてきたツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)とマッチアップ。この試合に至って橋本は全開、「指導1」対「指導2」のビハインドで迎えた1分48秒、ツェンドオチルの隅返を側方倒立回転の要領でかわすと、相手の立ち上がり際に背負投を叩き入れて「技有」奪取。技を仕掛けたのはツェンドオチルだが投げたのは橋本、極めてアクロバティックかつ、ちょっと見たことのない組み合わせの攻防である。残り12秒、焦ったツェンドオチルががむしゃらに抱きついて最後の勝負を挑むと、橋本は釣り手を片襟に差して無理やり肘をねじ込み、右体落。相手の右脚を払いあげる、あるいは山嵐かとも思われるような技法で相手を一回転させ「一本」。これで優勝を決めた。5戦5勝、全試合一本勝ちという素晴らしい出来である。

昨年は怪我が続いて元気のなかった橋本。この日もバクー世界選手権同様勝ちはするが橋本らしい「衒気」ともいうべきオーラが感じられない、という一種淡々とした試合ぶりであったが、どうやら自制を利かせていた模様。決勝は身体のほうが勝手に動いてしまうという体でまさに全開、予想し難いアクロバティックな投げに、相手の状況を利しての大技一発。これぞ橋本というオーラ漂う試合であった。試合終盤、相手の腕挫十字固を「アフターで極めた」と痛がって執拗に審判にアピールする様は決して爽やかではなかったが、これも橋本らしさ。いかに勝ちを重ねようともこの、器から勝手にこぼれるような「オラオラ感」がなければ橋本ではない。技術に結果、そして「オラオラ」と、2017年の世界王者・橋本がついに復活したと評すべき大会だったのではないだろうか。選抜体重別における大野将平との直接対決が楽しみになって来た。

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3位決定戦、ファビオ・バジーレが肩車「一本」。

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手でハートを作るバジーレ。まだ礼は終わっていない。

この日目立った選手はここまで名前の挙がったツェンドチルにヤコヴァ、そしてなにより66kg級五輪王者のファビオ・バジーレ(イタリア)。得意の足技にひときわ冴えを見せて印象的な投げを連発、3位決定戦も昨年のグランプリ・ザグレブ決勝で敗れたアキル・ヤコヴァ(コソボ)を肩車「一本」に仕留めた。礼も済まぬまま両手を広げてアピール、胸のイタリアエンブレムを叩いて指でハートマークを作って見せるバジーレの振る舞いにベルシーの観衆は冷淡であったが、本人はどこ吹く風、退場時にはカメラに向かって吼えて見せるなど、相変わらずの「自分好き」。いかにもこの人らしいマイペースさを最後まで貫いた。

バジーレはこれで73kg級に参戦して7大会をこなしたことになり、完全に対応が終わった印象。古巣の66kg級にはジュニア世代からマニュエル・ロンバルドの台頭があり、おそらくこのまま73kg級で戦い続けると思われる。となればたとえば東京五輪で大野将平対バジーレという金メダリスト対決もありえるわけで、単に実力だけでは測れないバジーレの強さは日本勢にとって大きな脅威になり得る。この人のこれからも、目が離せない。

もう1人の日本代表立川新(東海大3年)は2回戦敗退。フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)を相手に「指導1」対「指導2」と反則ポイントを先行されると一気に手が詰まり、焦って出たところを浮技「技有」失陥。残り8秒では同じく取りに出たところを一本背負投「技有」に捉えられるという悪循環、合技の一本負けで畳を去ることとなった。
戦いぶり手堅く、状況を積み上げれば投げの決着も望めるが「指導」を先行されると厳しいという、立川の弱点が出てしまった試合だった。

上位入賞者と準々決勝以降の結果、決勝の戦評および日本代表選手の試合結果は下記。

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優勝の橋本。拳を突き上げる様にも「らしさ」の復活が見て取れた。

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準々決勝、ツェンドオチル・ツォグトバータルがラシャ・シャヴダトゥアシヴィリから小外刈「技有」

【上位入賞者】
優勝:橋本壮市
2位:ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)
3位:ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)、ファビオ・バジーレ(イタリア)

【準々決勝】
ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)○GS技有・小外刈(GS1:57)△ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)
アキル・ヤコヴァ(コソボ)○GS膝車(GS0:41)△フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)
橋本壮市○GS反則[指導3](GS2:49)△ギヨーム・シェヌ(フランス)
ヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)○GS技有・小内巻込(GS1:39)△ファビオ・バジーレ(イタリア)

【敗者復活戦】
ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)○優勢[技有・払腰]△フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)
ファビオ・バジーレ(イタリア)○GS反則[指導3](GS1:38)△ギヨーム・シェヌ(フランス)

【準決勝】
ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)○GS隅返(GS0:10)△アキル・ヤコヴァ(コソボ)
橋本壮市○合技[体落・大外刈](1:30)△ヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)

【3位決定戦】
ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)○不戦△ヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)
ファビオ・バジーレ(イタリア)○肩車(1:44)△アキル・ヤコヴァ(コソボ)

【決勝】
橋本壮市○体落(3:48)△ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)
橋本が右、ツェンドオチルが左組みのケンカ四つ。ツェンドオチルが奥襟を得て一方的に組み勝つ形で試合がスタート。これを打開しようと場外に押し出した橋本に対して、33秒、押し出しの「指導」が与えられる。ここからは距離を取りたい橋本と密着したいツェンドオチルという構図での組み手の攻防が続き、1分18秒、両者に消極的の「指導」。橋本はこれで「指導2」となり形上後がなくなる。1分48秒、橋本はずらすようにして釣り手の位置を上げると前進、これに対してツェンドオチルは隅返を仕掛ける。橋本前方に大きく崩れるも、側方倒立回転のような動作で着地、それと同時に起き上がらんとする相手を右背負投で担ぎ投げて「技有」を得る。技を仕掛けたのはツェンドオチルだが、最後に投げたのは橋本という形のアクロバティックな攻防に、観客から大きな歓声が上がる。リードを許したツェンドオチル、本来ならばここで一度スクランブルを掛けるべきところだが、鷹揚に組み手を始めてしまい、場を落ち着かせてしまう。一方の橋本は攻略法を掴んだ様子で、前段の攻防と同じように釣り手をずらして優位な形を作り、2分47秒には右体落で惜しい場面を作る。残り時間1分を過ぎたあたりからツェンドオチルがようやくペースを上げるが、時期を失した感あり。残り30秒には巴投から腕挫十字固へと繋ぐが、橋本に持ち上げられて「待て」となる。ここで橋本が腕を激しく痛がり、試合が一時中断。3分48秒、ツェンドオチルががむしゃらに抱きついて最後の勝負を挑むと、橋本は釣り手を片襟に差して無理やり肘をねじ込み、右体落。引き落とすようにして投げ切り「一本」を得る。橋本が優勝を果たした。

【日本代表選手勝ち上がり】

橋本壮市(パーク24)
成績:優勝


[2回戦]
橋本壮市○合技[体落・体落](3:31)△ソモン・マフマドベコフ(タジキスタン)

[3回戦]
橋本壮市○払腰(2:15)△アントワーヌ・ブシャー(カナダ)

[準々決勝]
橋本壮市○GS反則[指導3](GS2:49)△ギヨーム・シェヌ(フランス)

[準決勝]
橋本壮市○合技[体落・大外刈](1:30)△ヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)

[決勝]
橋本壮市○体落(3:48)△ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)

立川新(東海大3年)
成績:2回戦敗退


[1回戦]
立川新○反則[指導3](2:34)△ベンジャマン・アクスス(フランス)

[2回戦]
立川新△合技[浮技・一本背負投](3:52)○フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)

※ eJudoメルマガ版2月12日掲載記事より転載・編集しています。

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