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【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第65回

(2018年11月12日)

※ eJudoメルマガ版11月12日掲載記事より転載・編集しています。
【隔週刊・嘉納治五郎師範のひとこと】第65回
柔の形というものを作って、道場もなく稽古衣も入らず教師も要せずただ文字上の説明と図解だけで一通り出来る方法を設けた。
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嘉納治五郎師範
資料提供 公益財団法人講道館
copyright:Kodokan Judo Institute

※写真の無断転載および転用を厳に禁じます

出典:「柔道会の事業」 柔道1巻5号 大正4年5月
(『嘉納治五郎大系』1巻124頁)
 
講道館柔道の修行方法には、「乱取」「形」「講義」「問答」の4つがあると師範は述べています。

そのうち、実技については「乱取」と「形」の2つが主になりますが、講道館のホームページによると、現在、主に行われている「形」は8つとされています。そのうちの7つが、段位毎に修得すべき形としてそれぞれの段位に配されています。
 今回の「ひとこと」で出てくる「柔の形」は、一教から三教まで各教5本、合計15本となる形ですが、現在は四段になる際、修得すべき形とされています。

この「柔の形」、当身技に投技、固技と、全て分野の技を含み(※1)、他の形には見られない<相手を投げない><道衣を握らない>という特徴があります。これは道場や稽古衣を必要としないようにするためです。
道場でないところで投げられたら怪我をしますし、怪我をしないまでも、痛みを感じることによって、柔道が嫌になるかも知れません。年代によっては、投げられるという行為自体がダメな人もいるでしょう。また、稽古衣についても、買うことが大変かもしれませんし、着替える場所や時間も必要です。そういったことを避けるための工夫と言えるでしょう。

加えて、師範は教師がいなくても一通り出来るようにしているとしています。当時、師範は雑誌「柔道」に「柔の形」の連載を行っていました。毎月1本ずつ、動作はもちろんのこと、その理由や目的も解説しており、指導者がいなくても、出来るようにしようという気持ちが伝わってきます。
現在の教本では記述されていないことについても、詳しく説明され、「柔の形」を学ぼうとする人にとって、今でも貴重な資料となっています(※2)。

さて、柔道を学びたくても<場所がない><道衣がない><先生がいない>、そんな状況でも、出来るよう工夫された「柔の形」。師範は初心者が最初に行うのに良い形としています。また、別の資料では、形の習得の順番として、<柔の形を最初>としているときもあります。

柔道をはじめようとしたら、道場や先生を探し、さらに、柔道衣を購入しなければいけない等々。そういった常識を打ち砕く、師範の発言。いつものことですが、講道館柔道を普及するための師範の思考の柔軟さと意欲が伝わると同時に、師範が広めようとしていた「講道館柔道」とは何か?を改めて考えさせられます。

最後に、この「柔の形」は、現在ほぼ行われていない「剛の形」と併せて、学校体育に講道館柔道を導入させる意図で創られたとの指摘があります。筆者もこれに同意します。
現在、中学校で武道は必修となっていますが、課題は多くあると聞いています。100年以上前の工夫が、そのまま役立つとは思いませんが、何か参考になるところもあるのではないでしょうか。

※読みやすさを考慮して引用は『嘉納治五郎大系』から行っています。
※1 この点を含め某十段が「柔の形が一番洗練された形じゃないだろうか」とおっしゃったと伝え聞いています。興味深い指摘ではないでしょうか。
※2 この連載、年代が古く、復刻・翻刻された本もこれまで入手・閲覧が困難でしたが、現在、講道館機関誌「柔道」で復刻掲載が行われています。

著者:元 敏季(ハジメ・トシキ)
1975年生まれ。柔道は中学校から始め、大学までは競技を中心に行うが、卒業論文を機に柔道の文化的側面に関心を持ち、大学院へ進学。凡そ10年、大学院・研究機関に所属するも、研究とは異なる分野の仕事に就き現在に至る。ライフワークとして嘉納治五郎に関する史料を蒐集・研究し、その成果を柔道振興のため発信しようとしている。

※ eJudoメルマガ版11月12日掲載記事より転載・編集しています。

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