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平成30年度講道館杯全日本体重別選手権大会展望③最終日男子(90kg級、100kg級、100kg超級)

(2018年11月2日)

※ eJudoメルマガ版11月2日掲載記事より転載・編集しています。
平成30年度講道館杯全日本体重別選手権大会展望③最終日男子
(90kg級、100kg級、100kg超級)
文責:古田英毅/eJudo編集部

■ 90kg級 ベイカー茉秋が第1シード、向翔一郎、田嶋剛希らが出世に目を光らす
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第1シードはベイカー茉秋。アジア大会では肩の負傷を抱えたまま銅メダルを獲得した。

(エントリー32名)

グランドスラム大阪進出決定選手:長澤憲大 (パーク24)
グランドスラム大阪出場権残枠:「3」

バクー世界選手権で銅メダルを獲得した長澤憲大が形上1番手を走っているものの、絶対のリードとまでは言い難い状況。実質的にはリオ五輪後の「リセット」が掛かったままの状態であり、男子7階級でもっともこの先の展開が見えない階級である。グランドスラム大阪への進出枠も最大限である「3」が残されており、これぞという選手がいずれも東京五輪を狙って目を光らせる、サバイバル状態が続いている。

今大会の優勝候補として挙げられるのは第1シードのアジア大会代表・ベイカー茉秋(日本中央競馬会)と第2シードでバクー世界選手権では団体戦で活躍した向翔一郎(ALSOK)。これに学生体重別を全試合一本勝ちで制し、癖のある担ぎ技という対海外選手向けの明確な武器を持つ田嶋剛希(筑波大)、実業個人を制した前田宗哉(自衛隊体育学校)、全日本選手権の主役・加藤博剛(千葉県警察)が絡み、新人枠の村尾三四郎(桐蔭学園高3年)がこの厚い陣容に挑むというのが大枠の構図。有力候補であった渡邊勇人(了徳寺学園職)、さらに田嶋同様海外に通じる癖のある担ぎを持った全日本ジュニア王者増山香補(明治大2年)が負傷でトーナメントから抜けてなお、この役者の揃いっぷり。みどころだらけの階級である。

注目はトーナメント下側。準々決勝の予想カードは向―田嶋、村尾(小林悠輔)―加藤博剛。いずれもワンマッチで「ゼニが取れる」レベルの超好カードだ。

【Aブロック】
ベイカーの山。アジア大会では肩の負傷でほぼまったく自分の力を出せなかったが、その回復の如何が相手云々を越えた勝ち上がり最大の変数。初戦で曲者・北野裕一(パーク24)との対戦が組まれており、いきなりその仕上がりが問われることとなる。準々決勝では後輩の前田宗哉との対戦が濃厚。

ベイカーは金メダルを獲得したリオ五輪後、負傷が続いて本来のパフォーマンスが発揮できていない、どころか試合自体がまだほとんど出来ていないと言って良い状況。万が一今大会で早期敗退を喫した場合、これまでの立場と負傷を掛け算しての救済措置が取られる(≒グランドスラム大阪の出場権が与えられる)かどうかはまったくの未知数、最低でもそのラインは3位決定戦進出ではないかと推察される。アジア大会では肩をおもんばかった「必要最低限の駆け引き」で銅メダルを獲得しておりその地力の高さ明らかも、果たして現状どこまで戦えるか。注目である。組み合わせを見る限り、マッチアップする選手との相性はどれも決して悪くない。

【Bブロック】
シード選手増山香補が直前で欠場。下側の山の長井晃志(日本体育大2年)や増山と対戦予定だった田中英二朗(筑波大3年)ら大学生選手中心の混戦となった。

【Cブロック】
第2シード選手・向翔一郎の山。2戦目で神鳥剛(明治大3年)あるいは杢康次郎(東海大3年)の挑戦を受けるが、向の実力、そして負傷からの復帰以降いまだ元気のない神鳥のパフォーマンスを考えればベスト8までの勝ち上がりは確実。

そして、ここで田嶋剛希-向翔一郎の対決が実現濃厚。前述の通り、決勝レベルの注目カードである。

【Dブロック】
シード選手はアジア大会で団体戦代表を務めた小林悠輔(旭化成)。この選手の初戦にインターハイ2連覇者・村尾三四郎(桐蔭学園高3年)が配された。村尾としては苦手の相四つであるが、このところこの弱点はやや払拭されつつある気配。序列通りなら小林、村尾の昨今やや減退しつつある「飛び級」感復活なら勝負はどうなるかわからない。村尾は組み勝ち、パワー勝ちすることが試合の前提条件だが、世界ジュニアでは圧倒的な勝ちぶりと、膂力ある相手の前後の揺さぶりへの脆さという二面性を見せており、ちょっとその様相読みがたい。シニアのトップレベルである小林に現時点でどのような試合が出来るか非常に楽しみ。

逆側の山には加藤博剛が配されている。2回戦の白川剛章(天理大4年)戦を経てベスト8で上側の山の勝者と激突予定。体重別ではいまひとつ本領を発揮し切れない加藤だが、今回はどのようなパフォーマンスを見せるか。村尾が勝ち上がってくる可能性もあるが、となえばかつて高校世代の大物と騒がれたベイカー茉秋にこの大会で加藤が「蓋をした」あの戦いを思い起こさずにはいられない。ひとことでいって、村尾にとっては小林・加藤と村尾にとっては相当過酷な相手が準備された山である。

■ 100kg級 羽賀龍之介復帰、その仕上がりが最大のみどころ
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リオデジャネイロ五輪の銅メダリスト羽賀龍之介が畳に復帰。

(エントリー30名)

グランドスラム大阪進出決定選手:ウルフアロン(了徳寺学園職)、飯田健太郎(国士舘大2年)
グランドスラム大阪出場権残枠:「2」

リオデジャネイロ五輪銅メダリスト・羽賀龍之介(旭化成)の現状の出来ばえが最大のトピック、とまず言い切ってしまって良いはず。ここを飛ばして単なるシード順や昨年の成績云々でトーナメントの勝ち負けを喋々することは、展望としての本質を損なう。

2015年アスタナ世界選手権を制した羽賀は、リオ五輪後は膝の負傷もあってその働きいまひとつ。2017年の世界選手権では予選ラウンド敗退に終わり、東京五輪に向けて一段ギアを挙げんとした今年2月のグランプリ・デュッセルドルフでは初戦で古傷の左肩を脱臼して戦列を離れた。今大会は8か月ぶりの試合復帰である。

羽賀にとって「左肩の負傷」が持つ意味は極めて重い。高校カテゴリで連戦連勝、大学1年生で早くも講道館杯を制した羽賀の一気の出世を阻んだものこそ、この左肩であったからだ。2012年に手術という決断を下し、過酷なリハビリを経て2015年ついにブレイク、世界の頂点を極めたわけだが、エリート羽賀に「回り道」を強いたこの爆弾がついに再び爆ぜたとなればその前途決して、控えめに言って容易ではないはず。

トップと伍したまま戦列から消えた羽賀にいまだ戦える力があるのかは世界の100kg級事情を揺るがす一大トピック。日本にとっても、2017年に世界王者となったウルフアロン、今年のアジア大会を制した新鋭飯田健太郎の「若手2人の競り合い」で五輪までを戦うのか、ここに世界王者羽賀を加えた3人体制で強化を組み立てるのかは戦略上の大問題。初戦から学生体重別2位の山下魁輝(国士舘大2年)というタフな相手が配されており、その一挙手一投足から目が離せない。

第1シードは階級を上げて4月の選抜体重別を制した西山大希(新日鐵住金)、順当に進めば羽賀とは準決勝での対戦が予定される。

第2シードは熊代佑輔(ALSOK)。袖釣込腰一撃の威力はいまだ国内屈指、かつて勝負どころで羽賀キラーぶりを発揮していた経緯もあり、今大会も優勝候補に挙げて良いはず。

この階級は若手が勃興中。ジュニア世代の旗手である山口貴也(日本大1年)と同期のライバルで世界ジュニアを制したばかりの関根聖隆(筑波大1年)がぶつかるDブロックの戦いは特に見逃せない。学生カテゴリからは見違えるようなパフォーマンスで学生王座の座を射止めたばかりの伊藤好信(東海大3年)に注目。

【Aブロック】
第1シード西山大希と、全日本選手権屈指の好役者にして8月の全日本実業個人を制した垣田恭兵(旭化成)によるもと90kg級強化選手対決がブロック勝ち上がりの軸。西山には川田修平(明治大4年)、垣田には昨年度学生王者吉良儀城(国士舘大4年)とイキの良い大学生がそれぞれ配されたが、両者の対決を阻むことは難しそう。垣田は西山タイプの本格派が得手のはず、勝敗は予断を許さず。

【Bブロック】
羽賀龍之介がシード位置に配された。前述の通り初戦が山下魁輝、次戦が辻本拓記(兵庫県警察)あるいは後迫孝誠(福岡大4年)、準々決勝の相手はほぼ間違いなく石川竜多(筑波大3年)と考えられる。山下の圧力は相当なものだが組み手はケンカ四つであり羽賀としては比較的戦い易いはず。相四つの石川戦の戦いぶりから、羽賀の肩の状態を推し量りたい。

【Cブロック】
第2シード熊代佑輔の山。準々決勝での対戦を争う4人は絶好調の学生王者・伊藤好信のほか、神垣和他(明治大1年)、小林督之(旭化成)、佐々木卓摩(筑波大2年)とこれまた強豪揃い。ただし、熊代優位は動かないと見る。

【Dブロック】
シード選手は下和田翔平(京葉ガス)。警察選手権を制した松雪直斗(福岡県警察)に学生体重別3位の古田伸悟(天理大4年)、郡司拳祐(旭化成)と直下の陣容は非常に厚い。郡司と下和田いずれかの勝ち上がりと見る。

下側の山は本文で紹介させて頂いた通り、山口と関根の同学年対決に注目。高校時代終盤は山口が優位であったが、羽化の過程か組み手にきちんと取り組むことで一時的に爆発力が減じている印象の山口に比べ、関根は「一本背負投の形に腕を抱えて前後×内外」の戦法を続けて極めて元気あり。この先も長く戦っていくであろうライバル同士の、現時点での様相見逃せない。

■ 100kg超級 王子谷剛志と影浦心が優勝候補、ホープ斉藤立の戦いぶりに注目集まる
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優勝争いという視点を越えて、大会の最注目選手に挙げられる高校2年生・斉藤立。

(エントリー31名)

グランドスラム大阪進出決定選手:原沢久喜(フリー)、小川雄勢(明治大4年)
グランドスラム大阪出場権残枠:「2」

GS進出の残枠は2席のみ。決勝に勝ち残らねばほぼ間違いなくその時点で権利失効、2020年東京五輪出場の目がその時点で潰えるという過酷な戦いである。

トーナメントは有力選手多数。特に若手のこれぞという選手が下側(C-D)ブロックに密度高く詰め込まれた。

優勝争いという観点からは第1シードの王子谷剛志(旭化成)と第2シードの影浦心(日本中央競馬会)、さらに第3シードの太田彪雅(東海大3年)までをV候補に、注目の若手としては、絞りに絞って斉藤立(国士舘高2年)1名を挙げておきたい。

王子谷はまたもや海外で勝ち切れず。8月のアジア大会ではキム・スンミン(韓国)相手にダイレクト反則負けを喫し、以降の試合を戦う権利も失ってまさかの5位に終わった。またもや講道館杯からのスタートで国際大会出場権を争わねばならないわけだが、柔道の中身よりもこの繰り返しが生むキャリア上の疲労感がもっとも心配。

影浦は、最重量級の現時点のシニア強化選手(Bまで)で唯一担ぎ技をアイデンティティに戦える選手で、国際大会への適性は随一。世界の舞台に出さえすれば、との思いは人一倍強いはずで今大会はハイパフォーマンスを繰り広げる可能性大と見る。同じく既に国際大会でも活躍している太田はサイズのなさを補う戦略性と戦術を身に着け着々進化中だが、影浦という壁は大きい。地力ならおそらく影浦に軍配、どう崩してどう勝つのか、具体的な方策の有無が求められる。

高校2年生にしてU-20カテゴリでは無敵の勝ちぶり、ファン期待の斉藤だが、状況はかなり厳しい。斉藤は10月7日~8日の国民体育大会を腰の痛みによりリタイア。その後13日から世界ジュニアに旅立ち、帰国は10月24日。国体前にも稽古を休んでいたであろうことを考えれば、おそらく講道館杯前の1ヶ月、追い込んだ稽古が出来たのは数日というレベルではないだろうか。伸び盛りの高校2年生の秋ではあるが、このスケジュールで乾坤一擲の大会に臨むのは、いかにも厳しい。組み合わせも初戦で昨年大会で敗れた上田轄麻(新日鐵住金)、勝てば学生体重別3位の巨漢奥野拓未(東海大4年)、さらに準々決勝で太田、勝っても準決勝で影浦という非常に厳しいもの。これなら「名前のあるベテラン」との対戦のほうがまだ希望が持てたのではないだろうか。五輪代表争いに絡むことはもはや難しそうだが、どこまでの試合が出来るのか、今後に向けてその「中身」に期待という評が展望としては誠実だろう。成績としてはなんとか準々決勝に進んでレぺチャージに進出し、選抜体重別出場選考の俎上に乗るところまで辿り着きたい。

【Aブロック】
王子谷の山。直下では黒岩貴信(新日鐵住金)に高校無差別王者・中野寛太(天理高3年)が挑戦。中野がどこまでやれるのか非常に楽しみ。逆側の山も七戸龍(九州電力)、田上創(了徳寺学園職)、名垣浦祐太郎(警視庁)、松村颯祐(東海大1年)と多士済々。王子谷が本来の力を出せるかどうかが、勝ち上がり最大の変数。

【Bブロック】
シード選手は上川大樹(京葉ガス)。2回戦で蓜島剛(慶応義塾大2年)の挑戦を受け、準々決勝では佐藤和哉(新日鐵住金)との対戦が有力。調子の振れ幅が大きい現在の上川の出来を事前に予測することは困難、ここは佐藤の勝ち上がりを推しておきたい。

【Cブロック】
影浦心の山。初戦を勝ち抜けると東部直希(日本大1年)と村上拓(愛知県警察)の勝者と戦う。下側の山は香川大吾(東海大4年)と西尾徹(大阪府警察)、実業王者の尾原琢仁(旭化成)によるマッチレース。香川がいまだ負傷から調子戻り切らぬこと、尾原の実業個人におけるハイパフォーマンスを勘案し、ここは影浦と尾原が戦い、影浦がベスト4進出を果たすと見る。

【Dブロック】
シード選手太田彪雅、注目選手斉藤立という豪華なブロック。勝ち上がり候補は太田、斉藤のパフォーマンスと、レペチャージ進出権のある準々決勝まで勝ち上がれるかどうかに注目。

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