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ガクドンハン素晴らしい出来で90kg級制覇、100kg級ウルフアロンは決勝でリパルテリアニに苦杯・グランドスラムパリ2019最終日男子4階級レポート

(2019年2月20日)

※ eJudoメルマガ版2月20日掲載記事より転載・編集しています。
ガクドンハン素晴らしい出来で90kg級制覇、100kg級ウルフアロンは決勝でリパルテリアニに苦杯
グランドスラムパリ2019最終日男子4階級レポート(81kg級、90kg級、100kg級、100kg超級)
→最終日男子プレビュー
→最終日男子速報ニュース
→最終日男子全試合結果
→【eJudo’s EYE】ワールドツアー欧州シリーズ男子日本代表20人「採点表」

日時:日時:2019(平成31)年2月10日
場所:AccorHotels Arena of Bercy (フランス・パリ)

本文・総評:古田英毅
決勝戦評:小林大悟

■ 81kg級 本命の佐々木健志が初戦敗退、優勝は「後の先」特化の試合巧者レッセル
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81kg級メダリスト。左からサギ・ムキ、ドミニク・レッセル、アラン・クベトソフ。3位のサイード・モラエイは表彰式を欠席した。

(エントリー63名)

【入賞者】
1.RESSEL, Dominic (GER)
2.MUKI, Sagi (ISR)
3.MOLLAEI, Saeid (IRI)
3.KHUBETSOV, Alan (RUS)
5.KHALMURZAEV, Khasan (RUS)
5.MUSSAYEV, Ruslan (KAZ)
7.CASSE, Matthias (BEL)
7.ESPOSITO, Antonio (ITA)

11月のグランドスラム大阪と12月のワールドマスターズを制し、ついに81kg級に「本命」誕生かと周囲の期待を集めた日本代表・佐々木健志(筑波大4年)が衝撃の初戦敗退。1回戦で、コンチネンタルオープンが主戦場でワールドツアー出場はこれが2度目という国際的には無名の24歳、地元フランスのアルマン・ハレイシャン(フランス)に屈した。

この試合は右相四つ、まずハレイシャンに奥襟を叩かれた佐々木が両腕を突っ張って防御し、「極端な防御姿勢」による「指導」失陥。次いでまたもや奥襟を掴まれた佐々木、今度は横変形で釣り手を低く噛み殺されている不利な状況から強引に右大外刈に打って出る。前に踏み込んでの釣込腰とも取れる強引な技であったがさすがにこれは無謀、入り際に腰ごと弾き返されて37秒痛恨の「技有」失陥。久々見せた佐々木の「自爆」であった。

ビハインドの佐々木、今度はそれこそ自爆覚悟のスクランブル攻撃が必要な情勢だが、相手のパワーの前に再びの返し技を怖れたかこの選手としてはやや慎重な試合運び。このまま「技有」優勢で敗れ、2日目の競技開始から10分を待たずに畳から降りることとなった。佐々木が勝って節目が訪れるかとも観測された81kg級の「優勝候補20人、大会ごとに上位総入れ替え」の混戦様相は今後も継続ということになる。

佐々木に勝ったハレイシャンは3回戦でアントニオ・エスポージト(イタリア)にあっさり敗れ、序列相応の位置に収まった。

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決勝、ムキが左大外刈で「技有」を先行。

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試合巧者のレッセルが得意の後の先の技で逆転、谷落「一本」。

混戦を勝ち抜いて決勝に進んだのはドミニク・レッセル(ドイツ)とサギ・ムキ(イスラエル)の2人。この決勝は一貫して攻撃型のムキが優勢、58秒には片襟の左大外刈で「技有」を得、直後同じ技で2つ目の「技有」をマークして主審は合技「一本」を宣告。しかし映像チェックの結果2つ目の「技有」が取り消され、これがこの試合の潮目を大きく変えることとなる。勝負を焦ったムキは組み際にみたび左大外刈に出るが、待ち構えたレッセルは体を開いて空振りを強いると、続いて襲ったムキの左小内刈を潰して背中に回り込み、相手をまたぐようにして谷落。1分44秒に放ったこの技が「一本」となりレッセルの逆転勝ちが決まった。

あらゆるタイプの強者が入り乱れる81kg級であるが、レッセルはこの中にあってひときわ異彩を放つ試合巧者。ほとんど技を掛けず、能動的な技はほぼすべてが「見せ技」。これで「指導」失陥をまぬがれたまま攻勢を採り、焦った相手の後の先を取るというのが必勝パターンの不思議な選手だ。上位20名ほぼすべてが表彰台レベル、攻撃型の強豪ばかりが揃う「リオ-東京期の81kg級」という特殊環境でのみ生息し得るタイプの異人種と言える。この後の先特化の異人種がグランドスラム・パリという超ビッグゲームのタイトルを獲ってしまうのだから(※レッセルのワールドツアー優勝は18年7月のGPザグレブに続く2度目)、81kg級の混戦ぶりここに極まった感がある。

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位決定戦、モラエイはハサン・ハルモルザエフを圧倒。小外刈「一本」。

この階級については、佐々木と並んで優勝候補の一角だった現役世界王者サイード・モラエイ(イラン)の動向について触れないわけにはいかない。第1シードのモラエイは2回戦で日本代表の小原拳哉(パーク24)に袈裟固「一本」、3回戦で2017年の世界王者アレクサンダー・ヴィーチェルツァク(ドイツ)を肩車「一本」と順調に星を積んでいたが、準々決勝ではランキング209位のルスラン・マッセエフ(カザフスタン)を前にまったくの無気力試合、僅か18秒の右一本背負投で一本負けを喫した。その後は敗者復活戦でマティアス・カッス(ベルギー)、3位決定戦でハサン・ハルモルザエフ(ロシア)と強者2人に一本勝ちを決めているのだから、マッサエフ戦の負けは故意としか考えられない。

準決勝でのサギ・ムキ戦、つまりはイスラエル選手との戦いを避けたゆえの意図的敗戦というのが衆目の一致するところである。古くはアテネ五輪における世界王者アラシュ・ミレスマイリの棄権(形上は計量失格)、最近ではモラエイ自身がグランドスラム・アブダビ準決勝のカッス戦で為した棄権負け(形上は左足首負傷のため棄権)と類似の事案だ。ちなみにこの日、モラエイはハルモルザエフ戦終了直後に膝を負傷したとのアピールを行っており、形上はまたもや負傷によるアクシデント。これにより、表彰台には姿を現さなかった。

IJFのマリウス・ビゼール会長はこの日の試合後予定されていたtwitterの「AskViser」上で質問を受けてこの件に言及、「故意の敗戦」疑惑に関しては注意深く分析して正しい解決方法を見出すように努めたい、としたが、その一方で、自分や家族の立場を考慮すれば国の方針に一選手が背くのはほとんど不可能との見解も示した。

IJFワールドツアーシステムは成熟期を迎えており、国際大会の場はかつてとは比較にならないほどその数自体が増えた。かつイラン、イスラエルとも常に複数の強者を送り出す強国に成長しており、非常に簡単に言って、これからもこのような後味の悪いケースは増えるだろう。積極的にイスラエル選手の受け入れを進め、昨年はグランドスラム・アブダビでイスラエル国歌を流す交渉をまとめるなど、IJFは「Judo more than a sport」の旗印のもと、単なる「普及」を越えた活動を行っている。アラブ世界とイスラエルの関係に留まらず、これからもスポーツと政治がせめぎあう、厳しい事案は増えるはず。落としどころのなかなかみつからない、後味の悪い事態に対してIJFがどのような態度を取っていくのか、ファンにはこれも注視しておいてもらいたい。

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1回戦、イ・フイジュンが見事な「やぐら投げ」でバケル・アルジダニーンを持ち上げる。

戦術派の躍動に国家間の事情と話題盛りだくさんの81kg級であったが、技術的な観点から最後に1つ。選手の力に差のある1回戦ではあるが韓国の2番手イ・フイジュン(韓国)が見せた「やぐら投げ」(内股)は出色であった。引き手側に回旋を強いる形でそのままリフトした一撃、パワーに劣る東アジア勢の「やぐら」としては非常に興味深い。参考までに動画へのリンクを貼っておく。

→イ・フイジュン(韓国)○内股(2:58)△バケル・アルジダニーン(ヨルダン)

準々決勝以降の結果と決勝の戦評、日本人選手全試合の結果は下記。

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グランドスラム・パリ優勝の栄を得たレッセル。ワールドツアータイトルはこれが2つ目。

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決勝の谷落「一本」。

【上位入賞者】
優勝:ドミニク・レッセル(ドイツ)
2位:サギ・ムキ(イスラエル)
3位:サイード・モラエイ(イラン)、アラン・フベトソフ(ロシア)

【準々決勝】
ルスラン・マッセエフ(カザフスタン)○一本背負投(0:18)△サイード・モラエイ(イラン)
サギ・ムキ(イスラエル)○袖釣込腰(0:59)△マティアス・カッス(ベルギー)
ドミニク・レッセル(ドイツ)○GS浮技(GS0:34)△アントニオ・エスポージト(イタリア)
ハサン・ハルモルザエフ(ロシア)○反則[指導3](2:32)△アラン・フベトソフ(ロシア)

【敗者復活戦】
サイード・モラエイ(イラン)○GS払巻込(GS0:46)△マティアス・カッス(ベルギー)
アラン・フベトソフ(ロシア)○GS大外返(GS1:32)△アントニオ・エスポージト(イタリア)

【準決勝】
サギ・ムキ(イスラエル)○袖釣込腰(1:02)△ルスラン・マッセエフ(カザフスタン)
ドミニク・レッセル(ドイツ)○GS反則[指導3](GS5:24)△ハサン・ハルモルザエフ(ロシア)

【3位決定戦】
サイード・モラエイ(イラン)○小外刈(3:18)△ハサン・ハルモルザエフ(ロシア)
アラン・フベトソフ(ロシア)○優勢[技有・小外掛]△ルスラン・マッセエフ(カザフスタン)

【決勝】
ドミニク・レッセル(ドイツ)○谷落(1:44)△サギ・ムキ(イスラエル)
レッセルが左、ムキが右組みのケンカ四つ。試合は一貫してムキが優勢、圧を掛けながら一方的に前に出続ける。58秒、相手を場外際に追い詰め、片襟の左大外刈で刈り倒して「技有」。さらに直後の1分13秒にも、同様の技で相手を体側から畳に叩き落として「技有」を追加する。一度はムキの合技「一本」が宣告されるが、これは映像による確認の結果取り消し。そのまま試合が続行される。1分37秒、ムキは勝負を急いだか組み際に3度目の左大外刈。しかし、これはレッセル読んでおり、体を開いて相手の刈り足を空振りさせる。ムキがあくまで投げ切ろうと左小内刈に連絡すると、レッセルこれを潰して背中側に回り、相手を跨ぐようにして谷落。捲るような理合で引き倒して、1分44秒、「一本」を得る。レッセルが逆転勝ちで優勝を飾った。

【日本代表選手勝ち上がり】

小原拳哉(パーク24)
成績:2回戦敗退


[1回戦]
小原拳哉○合技[小外掛・隅落](3:40)△ニコラ・シラ(フランス)

[2回戦]
小原拳哉△袈裟固(1:22)○サイード・モラエイ(イラン)

佐々木健志(筑波大4年)
成績:1回戦敗退


[1回戦]
佐々木健志△優勢[技有・大外返]○アルマン・ハレイシャン(フランス)

■ 90kg級 ガクドンハンが新スタイル披露、素晴らしい柔道で優勝飾る
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90kg級メダリスト。左からイスラム・ボズバエフ、ガク・ドンハン、クリスティアン・トート、長澤憲大。

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準々決勝、ガクはアクセル・クレルジェに回旋を強いたまま動きを止めずに左内股。開脚したまま耐えたクレルジェは左脚を負傷。

(エントリー55名)

【入賞者】
1.GWAK, Donghan (KOR)
2.BOZBAYEV, Islam (KAZ)
3.TOTH, Krisztian (HUN)
3.NAGASAWA, Kenta (JPN)
5.KOCHMAN, Li (ISR)
5.MUKAI, Shoichiro (JPN)
7.CLERGET, Axel (FRA)
7.GANTULGA, Altanbagana (MGL)

2015年アスタナ世界選手権の覇者ガク・ドンハン(韓国)が素晴らしい出来で優勝をさらった。

ガクは第4シードで大会をスタート。2回戦はファルク・ブレクロフ(キルギスタン)から2分11秒の間に「指導」3つを奪って「指導2」対「指導3」で勝利、3回戦はハテム・アブド=エル=アーヘル(エジプト)から2分5秒これも「指導2」対「指導3」で勝利。続く準々決勝のアクセル・クレルジェ(フランス)戦は「指導2」ずつを失ったところから左内股を仕掛けると、開脚を強いられる形で背中から畳に落下したクレルジェが脚を負傷、左のハムストリングを抑えて悶絶。棄権を表明してベスト4入り決定。

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準決勝、ガクが長澤憲大から左大外刈「一本」。

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決勝、ガクがボズバエフから左内股で2つ目の「技有」。

ここまでスコア的には地味、見た目は「指導」勝ちに相手の棄権といかにも粘戦タイプのガクらしくしぶとい勝ち上がりであるが、本領発揮はここから。準決勝の長澤憲大戦は組み手争いに足技を混ぜ込み「指導1」対「指導2」のリードで迎えた2分8秒、釣り手を片襟に入れての足技で長澤の頭を下げさせるとそのまま左大外刈に繋いで鮮やか「一本」。決勝のイスラム・ボズバエフ(カザフスタン)戦は相手の右袖釣込腰の起こりに腰を切って自らの体を押し付け左浮落「技有」、さらにケンケンの左内股で「技有」を追加してあっという間の合技「一本」。結果としては、反則、棄権を含む全試合一本勝ちで優勝を決めた。

切りまくって泥臭く先手攻撃の担ぎ技、という典型的粘戦型韓国ファイターであったガクだが、いまや主戦武器は内股。そして技も柔道もとにかく驚くほどに柔らかい。切って掴んで掴ませて切って、の変幻自在の組み手はそのままに、相手を歩かせ、転回を強い、巧みな進退に足技を絡ませながら常に「指導」を、そしてこの形を変えぬまま跳ねて刈ってと大技一発を狙ってくる。クレルジェの負傷はガクの柔らかい進退と技に肉体がついていけなかったとも解釈できるもの。つかみどころのない柔道は近年のガクの持ち味であるが、これをベースにしたまま、柔らかく威力ある跳ね技を盛ったことで明らかに一段上のステージへと柔道を進化させた。

ガク。思えば、昨年の世界選手権では不調であった。代名詞の担ぎ技をほとんどまったく使わず内股中心で戦い、煮えきらない戦いのまま2回戦でクレルジェに敗退。弊サイトの観戦チームは「ガクは何をしたいんだ?」「アジア大会(優勝)で燃え尽きたのではないか?」と大いに戸惑ったものだが、今思えばアジア大会の勝利で立場を得て、世界選手権は敢えて割り切って新スタイルで戦っていたのではないだろうか。一定の手ごたえを得たのだろう、最終日の団体戦では「指導2」ずつを失う苦戦から強豪フランク・デビト(オランダ)を内股で投げつけて勝利している。あくまで自身の進化にこだわったあの「テスト運航」が、この羽化を呼び込んだと解釈しておきたい。

ロンドン五輪直後は切った張ったの組み手争いがベースの「指導」狙いファイターだったガクが、担ぎ技の威力を盛った「ニュークラシックスタイル」で2015年の世界選手権を制覇。そしていまや、柔らかい組み手と機動性ある進退に、内股に大外刈と本格的な投技を搭載した、誰も実現したことのない新たなスタイルに歩を進めている。

ただでさえ強豪多き90kg級、これは大変なことになってきた。現代柔道においては「進化し続けること」は一線の競技者の必須要素であるが、日本勢は上り調子の村尾三四郎ら若手はともかく、ベテランたちはその進化のスピードが世界のライバルたちに及んでいないのではないか。それほど衝撃的なガクの勝ちぶり、柔道スタイルの進化であった。

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イワン=フェリペ・シウバ=モラレスとの3回戦を戦う向翔一朗

日本勢は長澤が3位、向翔一郎が5位。長澤は前述の通り準決勝でガクに敗れ、向は準々決勝でボズバエフに一本負けを喫した。この試合の向は開始早々に両袖の袖釣込腰を受け損ない、逆側に落ちてしまい体勢微妙ながら「技有」失陥。とはいえこれはアクシデントに近いもの、以後はパワー派のボズバエフに対ししっかり組んで我慢に我慢を重ねていたが、残り試合時間2分を切ったところでこの拮抗が決壊。焦ったか禁忌のはずの抱き勝負に出るが、左の小外掛で投げ切れぬと見ると脚を戻していったん停滞。間合いを詰めたまま半端に作ってしまったこの「待ち」が致命傷、抱きつきの右小外掛に食いつかれ「一本」で本戦脱落となった。

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3位決定戦、向は帯取返に出るが待ち構えた長澤の前に自爆となってしまう。

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長澤ガッチリ抑え込んで「一本」。

3位決定戦は長澤と向が直接対決。「指導2」対「指導1」の長澤リードで迎えたGS延長戦1分過ぎ、向が寝技からの立ち上がり際に食いついてまたもや「抱き勝負」。ここからいったん鉾を収めて間合いを詰めたまま、強引に帯取返に出たところを長澤に読まれて背中から落下。そのまま長澤が横四方固に抑え込み、「一本」で勝負が決した。

3位を確保した長澤、勝ち上がりの途上ではノエル・ファンテンド(オランダ)、クリスティアン・トート(ハンガリー)と強敵2人を倒しており今大会の出来は及第以上。しかしグランドスラム大阪欠場にワールドマスターズ初戦敗退という背景、対ガク戦の完敗という内容を考えれば決して上積みとまでは言い切れない。一方グランドスラム大阪を制して暫定一番手となっていた恰好の向だが、表彰台を逃した上に代表争いのライバル長澤に一本負けとこちらは大きく陣地を下げた形。3回戦で世界選手権銀メダルのイワン=フェリペ・シウバ=モラレス(キューバ)を倒したところまでは上々の出来だったが、終わってみれば序列を大きく下げることに。「勝ってもともと、負ければ地獄」の第三次予選・ヨーロッパシリーズの厳しさを存分に感じさせる結果だった。

エドゥアルド・トリッペル(ドイツ)は2回戦でボズバエフと対戦、26秒の背負投「一本」で畳を去っている。

上位入賞者と準々決勝以降の結果と決勝戦評、日本代表選手全試合の結果は下記。

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素晴らしい柔道で優勝を決めたガク・ドンハン

【上位入賞者】
優勝:ガク・ドンハン(韓国)
2位:イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)
3位:クリスティアン・トート(ハンガリー)、長澤憲大(日本)

【準々決勝】
長澤憲大○GS技有・巴投(GS4:00)△クリスティアン・トート(ハンガリー)
ガク・ドンハン(韓国)○棄権(3:27)△アクセル・クレルジェ(フランス)
イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)○小外掛(2:00)△向翔一郎
リー・コツマン(イスラエル)○袖釣込腰(0:49)△ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)

【敗者復活戦】
クリスティアン・トート(ハンガリー)○不戦△アクセル・クレルジェ(フランス)
向翔一郎○反則[指導3](3:31)△ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)

【準決勝】
ガク・ドンハン(韓国)○大外刈(2:08)△長澤憲大
イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)○優勢[技有・外巻込]△リー・コツマン(イスラエル)

【3位決定戦】
クリスティアン・トート(ハンガリー)○背負投(3:33)△リー・コツマン(イスラエル)
長澤憲大○GS横四方固(GS1:48)△向翔一郎

【決勝】
ガク・ドンハン(韓国)○合技[浮落・内股](3:15)△イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)
ガクが左、ボズバエフが右組みのケンカ四つ。お互いに担ぎ技を軸とする選手であり、やや腰を引いた姿勢で刃を入れるタイミングを探り合う。先に動いたのはボズバエフ。30秒に思い切り右内股に飛び込むと、ガクは宙を舞って腹這いで畳に落下する。この一撃でガクは警戒を強め、以降は組み合うことを拒否。双方が釣り手のみを持っての引き手争いが続き、1分11秒にガク、2分に両者に対して取り組まない咎による「指導」が与えられる。直後の攻防、ガクが釣り手から得て体を開くと、ボズバエフは体を伸ばして引き手を持ちにいくミスを犯す。ガクはこれを待ち受けて引き手を確保、相手を抱き込んだ万全の形を作ると、右袖釣込腰を狙う相手が腰を切ろうとした瞬間に腰を切り、そのまま押し込んで2分15秒左浮落「技有」を得る。試合巧者のガクがポイントを先行した時点でほぼ勝負あり。以降は組み手巧みに相手をコントロールし続け、3分15分にはケンケンの左内股で相手を乗り越えるようにして投げ切って2つ目の「技有」を追加。合技「一本」でガクが優勝を飾った。

【日本代表選手勝ち上がり】

長澤憲大(パーク24)
成績:3位


[2回戦]
長澤憲大○GS崩袈裟固(GS2:12)△オーレリアン・ディエス(フランス)

[3回戦]
長澤憲大○反則[指導3](3:53)△ノエル・ファンテンド(オランダ)

[準々決勝]
長澤憲大○GS技有・巴投(GS4:00)△クリスティアン・トート(ハンガリー)

[準決勝]
長澤憲大△大外刈(2:08)○ガク・ドンハン(韓国)

[3位決定戦]
長澤憲大○GS横四方固(GS1:48)△向翔一郎

向翔一郎(ALSOK)
成績:5位


[1回戦]
向翔一郎○GS技有・内股巻込(GS0:21)△イェスパー・シュミンク(オランダ)

[2回戦]
向翔一郎○GS反則[指導3](GS0:41)△イワン=フェリペ・シウバ=モラレス(キューバ)

[3回戦]
向翔一郎○優勢[技有・背負投]△ヨアキム・ボットー(ベルギー)

[準々決勝]
向翔一郎△小外掛(2:00)○イスラム・ボズバエフ(カザフスタン)

[敗者復活戦]
向翔一郎○反則[指導3](3:31)△ガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)

[3位決定戦]
向翔一郎△GS横四方固(GS1:48)○長澤憲大

■ 100kg級 ウルフアロンまさかの決勝敗退、優勝は出色の出来見せたリパルテリアニ
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100kg級メダリスト。左からウルフ・アロン、ヴァーラム・リパルテリアニ、ペテル・パルチク、チョ・グハン。

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準々決勝、リパルテリアニがアレクサンドル・イディーから肩車「技有」。内巻込のような、自身得意の動きをよく生かした決めだった。

(エントリー44名)

【入賞者】
1.LIPARTELIANI, Varlam (GEO)
2.WOLF, Aaron (JPN)
3.PALTCHIK, Peter (ISR)
3.CHO, Guham (KOR)
5.KUMRIC, Zlatko (CRO)
5.BILALOV, Niiaz (RUS)
7.IDDIR, Alexandre (FRA)
7.KOTSOIEV, Zelym (AZE)

極めてレベルの高いトーナメントを決勝まで進んだのは第1シードのヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)と第7シードのウルフアロン(了徳寺学園職)。まずは両者の勝ち上がりを示すことでトーナメントの様相を炙り出してみたい。

リパルテリアニは2回戦からの登場。初戦はウェイ・プヤン(タイ)を内股「技有」による優勢、3回戦は日本大所属のダニエル・ディチェフ(ブルガリア)を外巻込「一本」に仕留めてプールファイナル進出決定。迎えた準々決勝はここまでキリル・デニソフ(ロシア)を内股「技有」、エルマー・ガシモフ(アゼルバイジャン)をGS延長戦「指導3」と強豪を立て続けに破った地元期待のアレクサンドル・イディー(フランス)を肩車「技有」で破り、準決勝は激戦ブロックをぶじ勝ち上がった現役世界王者チョ・グハン(韓国)とマッチアップ。

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準決勝、ついにチョの右腕を捕まえたリパルテルアニが外巻込「一本」。

昨年の世界選手権決勝の再戦となるこの試合では2分4秒、チョの切り合いに嵌められて左一本背負投「技有」を失ってしまう。切り合いが命の試合巧者チョを相手にビハインドを負うこの状況は絶体絶命、以降のチョは予想通りに手を前に張って防壁を作り、左右順番に切り離し、持ち替えること自体で時計の針を進める完全クロージング態勢。しかしリパルテリアニは脇下、片襟と場所に構わず柔道衣を掴むと敢えて頭を下げたまま徹底前進。チョは巴投で試合を散らすクレバーさも見せたが所かまわず掴んでは体を縮めたまま前に出てくるリパルテリアニに根負け、ついにもっとも与えてはならない右腕の確保を許してしまう。リパルテリアニすかさず抱え込むなり必殺の右外巻込一撃、3分3秒「一本」。

「歩留まり」なら業界随一のチョを相手にビハインドをひっくり返すのだからやはり強い。劇的な逆転勝利でリパルテリアニが決勝進出を決めた。

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準決勝、ビハインドを負ったウルフは粛々と圧を掛け、ペテル・パルチクを追い詰める。

グランドスラム大阪の勝者ウルフは第7シードながら対戦相手に比較的恵まれ、勝ち上がりは順調。2回戦はラシャ・タヴェルリ(ジョージア)を内股「一本」、3回戦はエリヘムバツ(中国)から内股「一本」、準々決勝では2回戦で第2シードのマイケル・コレル(オランダ)を破ったゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)に粘られる格好となったがGS延長戦で的確に加速、2分20秒に相手の反則を引き出して突き放し、「指導1」対「指導3」で勝利。

6分以上を戦ったこの試合で消耗したか、準決勝は第3シードのペテル・パルチク(イスラエル)を相手に開始9秒、左へ背負投崩れの片襟大外落を食らってまさかの「技有」失陥。両組みのパルチクに対して左袖を一方的に与えてしまい、決定的な一撃を食ってしまった。予想外の方向であったか懐に相手を抱く形でまともに食ってしまっており、むしろ「技有」に留めたウルフの身体能力の高さのほうに感心させられるという一発だった。

しかし以降は落ち着いて、かつしつこい進退。2分半すぎの立ち際に体ごと捕まえて左相四つの組み合いを強いると、近い間合いの圧力に焦ったパルチクが窮屈な体勢のまま隅返。これを巧みに捌くと攻防一致で被さって電光石火の横四方固、20秒を抑え切って逆転の「一本」。結果的には全試合一本勝ち(1試合の「指導3」含む)で決勝まで辿り着くこととなった。

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決勝、リパルテリアニがウルフから右内股「技有」。

決勝はリパルテリアニが右、ウルフが左組みのケンカ四つ。リパルテリアニが背中深くを持って抱き込み、ウルフが釣り手を下から突いて距離を取るという構図で試合が進む。ウルフは2017年世界選手権決勝でリパルテリアニと対戦しており、この際は敢えて我慢を続けることで相手に消耗を強い、GS延長戦が始まるなりスピードを上げて大内刈で「技有」を得て勝利したという来歴がある。ゆえに後半勝負を想定した「我慢」は織り込み済みのはずだが、この日のリパルテリアニは背中に回した釣り手の抱き込みが常以上に深く、かつ展開はスローながらも自身優位の組み手以外は一切付き合わないという地味ながら効果的な駆け引きを徹底、少々あの時とは様相が異なる印象。試合時間2分を過ぎたところではリパルテリアニが引き手で袖、釣り手で背中深くを得る万全の形を作り、腰を切って牽制すると守るしかなくなったウルフは膝を着いてしまう。リパルテリアニはこのまま引きずる形を長く続けて右大外刈を狙い、ウルフは割り切って伏せることでなんとか「極端な防御姿勢」の「指導」1つでこの局面を脱出。続く展開ではウルフが組み際に脇を差しての支釣込足でリパルテリアニを腹ばいに追い込んで逆襲を見せるが、少々意図と違う形で試合を加速させざるを得ない感あり。

残り時間1分を切ったところでウルフが背中越しに相手の後帯を得ると、応じたリパルテリアニがさらに深く釣り手で背中を引っ掴む。ここから作用足を引っ掛けてケンケンの右内股を仕掛けると、あまりの間合いの深さにさすがのウルフも受け切れず横転「技有」。このままリパルテリアニの勝利が決まった。

12月のワールドマスターズで優勝し、2018年をワールドランキング1位で終えたリパルテリアニは順風満帆の出だし。2019年の初戦を見事優勝で飾り、変わらぬ力を見せつけた。巻き込みのバリエーションが増え、組み手のカスタマイズも深まり、順調に進化を続けていると高く評価したい。

一方のウルフ、決して絶好調ではなかったがさりとて極端な不出来というわけでもなく、決勝はリパルテリアニの好調さの前に一歩譲ったという形。このハイレベルトーナメントで、しかも徹底マークを受ける立場でありながらしっかり決勝まで勝ち上がったことは高く評価さるるべきだ。

しかし、その絶対性に大きな傷がついたことは否めない。昨年のバクー世界選手権では形上敗れているが、デニソフにフレイと立て続けに襲い掛かった超一線級をともに「一本」で退け、イリアソフとの本命対決で潰し合ったという内容は、負傷明けという状況を考えればむしろ良い出来。その前後のグランプリ・ブダペストとグランドスラム大阪では当たり前のように優勝を飾っており、これによって世界選手権での苦杯はあくまでアクシデントの域に押し込まれていた。今大会は2017年の戴冠以降「実質無敗」だったウルフに初めてエクスキューズなしの土がついた大会なのである。

2位という結果はもちろん、内容面での衝撃も大きい。ジョージア勢は頻繁に日本を訪れて強豪チームへの出稽古を繰り返しており、東海大を拠点としているウルフはリパルテリアニの方法論を知悉している。2017年世界選手権の決勝の完封劇を見る限りではもうこの先リパルテリアニがウルフに勝つことは絶対にない、とすら思えるほどであった。つまり今回の負けは、作戦立案能力を最大のアドバンテージとするウルフがこれを力で突破されたという構図。準決勝の「技有」失陥も、ウルフの手堅さをよく知るライバルたちを「付け入る隙あり」と勇気づけてしまうものだったのではないだろうか。

とはいえ、これだけ強豪が揃った100kg級世界にあって「常勝」はそもそも無理のあること。幸か不幸か代表争いという観点では現状ウルフは独走態勢。しっかりコンディションを整え、ターゲットとする世界大会には万全の体勢で臨んでもらいたい。ただしウルフの方法論は徹底研究に晒されており、勝利の確率を上げるにはいま一歩、二歩の具体的な攻撃方法の上積みも必須だ。

ほか、話題に上がっていて、かつまだ言及し切れていない強豪たちについて。グランドスラム大阪の躍進で注目を浴びたカナダの新星シャディー・エルナハスは、3回戦でおそらくもっとも相性噛み合わぬチョ・グハンとマッチアップ、一本背負投「技有」で敗れた。業師ジョルジ・フォンセカ(ポルトガル)は2回戦でズラトコ・クムリッチ(クロアチア)に合技「一本」で敗退。パリ大会で無類の強さを誇るシリル・マレ(フランス)は2回戦でイワン・レマレンコ(UAE)に隅落「技有」で苦杯、第6シードのラマダン・ダーウィッシュ(エジプト)は、2回戦でニイアズ・ビラロフ(ロシア)に大内刈「一本」で敗れている。

3位決定戦ではチョとパルチクの準決勝進出組がともに勝利。順当に表彰台を決めた。

上位入賞者および準々決勝以降の結果と決勝の戦評、日本代表選手全試合の結果は下記。

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優勝のヴァーラム・リパルテリアニ

【上位入賞者】
優勝:ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)
2位:ウルフアロン(日本)
3位:ペテル・パルチク(イスラエル)、チョ・グハン(韓国)

【準々決勝】
ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)○優勢[技有・肩車]△アレクサンドル・イディー(フランス)
チョ・グハン(韓国)○優勢[技有・一本背負投]△ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)
ウルフアロン○GS反則[指導3](GS2:20)△ゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)
ペテル・パルチク(イスラエル)○谷落(3:35)△ニイアズ・ビラロフ(ロシア)

【敗者復活戦】
ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)○払巻込(1:26)△アレクサンドル・イディー(フランス)
ニイアズ・ビラロフ(ロシア)○背負投(0:43)△ゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)

【準決勝】
ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)○外巻込(3:03)△チョ・グハン(韓国)
ウルフアロン○横四方固(2:51)△ペテル・パルチク(イスラエル)

【3位決定戦】
ペテル・パルチク(イスラエル)○合技[大腰・隅落](2:29)△ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)
チョ・グハン(韓国)○一本背負投(2:15)△ニイアズ・ビラロフ(ロシア)

【決勝】
ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)○優勢[技有・内股]△ウルフアロン
リパルテリアニが右、ウルフが左組みのケンカ四つ。リパルテリアニが背中深くを持って抱き込み、ウルフが釣り手を下から突いて距離を取るという構図で試合が進む。2分間際に背中と引き手を得て万全の形を作ったリパルテリアニが腰を切ると、ウルフたまらず膝を突いてしまう。リパルテリアニはそのまま引きずるようにして右大外刈を狙ってウルフにとっては非常に危うい状況であったが、ここは脱力してぶら下がることで防御。直後の2分0秒、ウルフに極端な防御姿勢による「指導」が与えられる。続く展開、ウルフは脇を差して前進、釣り手方向への支釣込足で相手を大きく崩すが、一回転して腹這いで逃れられてしまう。3分20秒、ウルフが背中越しに相手の帯を得ると、リパルテリアニは巧みに巻き替えて背中深くを確保、作用足を差し入れケンケンの右内股を仕掛ける。釣り手の深さを利用して釣腰のような理合で引っ張り上げながら追い込むと、ウルフは堪らず横転して「技有」。残り時間30秒でリパルテリアニが決定的リードを得ることとなる。ビハインドを負ったウルフはギアを一段上げて追い上げを図るが、リパルテリアニは釣り手を突いて組み合わず、残り9秒に極端な防御姿勢による「指導」が与えられたのみで終戦。この日好調のリパルテリアニが優勝を飾った。

【日本代表選手勝ち上がり】

ウルフアロン(了徳寺学園職)
成績:2位


[2回戦]
ウルフアロン○内股(0:53)△ラシャ・タヴェルリ(ジョージア)

[3回戦]
ウルフアロン○内股(3:40)△エリヘムバツ(中国)

[準々決勝]
ウルフアロン○GS反則[指導3](GS2:20)△ゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)

[準決勝]
ウルフアロン○横四方固(2:51)△ペテル・パルチク(イスラエル)

[決勝]
ウルフアロン△優勢[技有・内股]○ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)

■ 100kg超級 原沢久喜が好パフォーマンス披露も画竜点睛を欠く、優勝はキムスンミン
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100kg超級メダリスト。左から原沢久喜、キム・スンミン、影浦心、ウシャンギ・コカウリ。

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準決勝、キム・スンミンがオ-ル・サッソンから払腰「技有」

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勝負どころの準々決勝、原沢久喜が世界選手権2位のウシャンギ・コカウリから完璧な右内股「一本」。

(エントリー31名)

【入賞者】
1.KIM, Sungmin (KOR)
2.HARASAWA, Hisayoshi (JPN)
3.KAGEURA, Kokoro (JPN)
3.KOKAURI, Ushangi (AZE)
5.GROL, Henk (NED)
5.SASSON, Or (ISR)
7.KHAMMO, Yakiv (UKR)
7.HEINLE, Sven (GER)

決勝に進んだのはともにこの日好調のキム・スンミン(韓国)と日本代表の原沢久喜。

第4シードで大会をスタートしたキムは1回戦で地元のメッシー・カタンガ(フランス)を「指導3」で手堅く下すと、3回戦は前戦でバトトルガ・テムーレン(モンゴル)を破っているヨハネス・フレイ(ドイツ)を1分29秒払巻込「一本」で一蹴。勝負どころの準々決勝はヤキフ・ハモー(ウクライナ)を払巻込「技有」で破り、さらに難度の上がった準決勝はオ-ル・サッソン(イスラエル)に僅か1分54秒、払腰と袈裟固の合技「一本」で完勝。充実の出来で決勝進出決定。

一方の原沢はノーシード、立て続けに強豪とぶつかる非常に厳しい組み合わせであったが、昨年後半の停滞を振り払うような素晴らしい出来で勝ち上がった。1回戦は売り出し中のタメルラン・バシャエフ(ロシア)をGS30秒の右内股「一本」に仕留め、3回戦はダニエル・アレルストルフェル(オーストリア)を2分18秒支釣込足「一本」。最大の勝負どころと目された準々決勝は世界選手権2位のウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)を3分7秒なんと豪快な内股一発に斬り落として鮮やか「一本」。準決勝はグランドスラム大阪の覇者ヘンク・フロル(オランダ)をGS延長戦47秒、横四方固「一本」で退け、全試合一本勝ちで決勝まで勝ち上がった。

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決勝、キムが原沢の内股の戻りを捉えて隅落「一本」。

しかし決勝は意外なほどあっさり決着。1分29秒、これまで比較的鷹揚に戦っていた原沢がスピードを上げて右内股、しかしキムが前に出てインパクトをずらす。やや体勢を崩した原沢は最後まで掛け切れず、首を抱かれたまま中途半端に戻ってしまう。キムはこれに合わせて体ごと押し込み隅落「一本」。これで試合が決まってしまった。

今年6月で32歳になるキムだが、実は一昨年あたりから充実期を迎えており、昨年9月のアジア大会(優勝)の戦いぶりを見る限りむしろ今が一番強い。かつての鈍重な巻き込みファイターではなく、パワーとバネのある本格派へと意外な変貌を遂げている。ハモー、サッソン、そして原沢を立て続けに退けた今大会の出来は決してスポット的なアクシデントではない。少なくとも、ロンドン五輪前後がキャリアハイのベテラン重量選手というイメージはいったん消し去るべきだろう。この年齢ではすべての大会でハイパフォーマンスを発揮するわけにはいかないだろうが、ここ一番では怖い存在だ。

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1回戦、原沢は売り出し中のタメルラン・バシャエフを圧倒。

惜しくも優勝を逃した原沢であるが、その勝ち上がりは近来稀に見る良い出来であった。コカウリを投げた一撃などは「これぞ原沢」と思わず手を打ちたくなるもの。

内股で相手を投げた、これがとにかく大きい。ここ数年の原沢の不調の端緒となったのは2017年グランプリ・デッュセルドルフと同年の選抜体重別と影浦心に立て続けに食った内股透ではないかと思うのだが、以降浮き沈みを繰り返したこの間の原沢の試合の印象は、とにかく「内股で投げられない」。公開稽古等でも仕掛けはするが決まらない場面が目立つことがままあり、かつ投げにいくことで出世したはずの原沢が、見せ技として内股を使って「指導」を獲りに行くことが過剰に増えてしまった感が否めない。こちらは原沢がどれだけ勝っても「内股で投げることが出来たか」を判断基準にその仕上がりを測って来たところがあるのだが(ロンドン-リオ期は「海外のパワー派を大外刈で投げる力があるか」がベンチマークであった)、なかなかこれをクリアできないことが続き、もどかしい思いを抱いていた。それがバシャエフを仕留め、パワーなら当代随一のコカウリを真っ向から投げつけただから、これは完全復活が見えてきたのではないだろうか。優勝という明確な結果を得ることは出来なかったが、幸いにして原沢にはグランドスラム・デュッセルドルフという「お代わり」が待っている。キム、さらにグランドスラム大阪で形上負けを取られたツブシンバヤル・ナイダン(モンゴル)もエントリーしているこの大会でどんな柔道を見せてくれるか。大いに期待したい。

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3位決定戦、影浦心がヘンク・フロルから小外掛「一本」。

影浦心は残念ながら準々決勝でサッソンに得意の袖釣込腰で「技有」を奪われて本戦から脱落。3位決定戦でもフロルに袖を手首上で握り込まれる「ツシシビリ・グリップ」を許したまま仕掛けた内股を捲り返され「技有」を失うピンチに陥ったが、相手の右内股の戻りを左小外掛で叩き落とす「一本」で逆転、無事表彰台は確保した。しかしこれでワールドマスターズのツシシビリとバシャエフ、そして今回のサッソンと自身とタイプの被る「担ぎ技系」に3連敗。かつて「対リネール戦に一番向くのは影浦」と囁かれた柔道組成的なアドバンテージを失いつつある感は否めない。今大会は勝利はもちろんのこと、「これからどう海外勢と戦うのか」というこれ以後の戦術方針を首脳陣に見せつけて「買い」の評価を得ることが大事であったと思われるのだが、この点では合格とは言い難いはず。厳しい1日であった。

準々決勝以降の結果と決勝の戦評、日本代表選手全試合の結果は下記。

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優勝のキム・スンミン。30歳を越えて充実期を迎えている。

【上位入賞者】
優勝:キム・スンミン(韓国)
2位:原沢久喜(日本)
3位:影浦心(日本)、ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)

【準々決勝】
オ-ル・サッソン(イスラエル)○優勢[技有・袖釣込腰]△影浦心
キム・スンミン(韓国)○優勢[技有・払巻込]△ヤキフ・ハモー(ウクライナ)
原沢久喜○内股(3:07)△ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)
ヘンク・フロル(オランダ)○出足払(2:32)△スヴェン・ハインル(ドイツ)

【敗者復活戦】
影浦心○GS背負投(GS0:48)△ヤキフ・ハモー(ウクライナ)
ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)○谷落(0:41)△スヴェン・ハインル(ドイツ)

【準決勝】
キム・スンミン(韓国)○合技[払腰・袈裟固](1:54)△オ-ル・サッソン(イスラエル)
原沢久喜○GS横四方固(GS0:47)△ヘンク・フロル(オランダ)

【3位決定戦】
影浦心○内股返(2:25)△ヘンク・フロル(オランダ)
ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)○合技[内股巻込・崩袈裟固](1:11)△オ-ル・サッソン(イスラエル)

【決勝】
キム・スンミン(韓国)○隅落(1:29)△原沢久喜

【日本代表選手勝ち上がり】

原沢久喜(フリー)
成績:2位


[1回戦]
原沢久喜○GS内股(GS0:30)△タメルラン・バシャエフ(ロシア)

[2回戦]
原沢久喜○支釣込足(2:18)△ダニエル・アレルストルフェル(オーストリア)

[準々決勝]
原沢久喜○内股(3:07)△ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)

[準決勝]
原沢久喜○GS横四方固(GS0:47)△ヘンク・フロル(オランダ)

[決勝]
キム・スンミン(韓国)○隅落(1:29)△原沢久喜
キム、原沢ともに右組みの相四つ。お互いに引き手で襟を持って釣り手で奥襟を狙う形で試合をスタート。20秒にキムが隅返を狙うが、これは距離が空いており、原沢余裕を持って立ったまま受け切る。ここからは組み手争いが続き、58秒、双方に消極的の「指導」。1分29秒、がっぷり四つの状態から原沢が右内股を仕掛けると、キムは前に出ながらこれを受け止め、前進を止めずに一気に浴びせ倒す。インパクトの位置をずらされた原沢は大きくバランスを崩されており、そのまま背中から畳に落ちて「一本」。原沢は呆然。キムは31歳、7回目の出場にしてグランドスラム・パリ初制覇。

影浦心(日本中央競馬会)
成績:3位


[2回戦]
影浦心○合技[背負投・横四方固](2:03)△オニセ・ブガゼ(ジョージア)

[準々決勝]
影浦心△優勢[技有・袖釣込腰]○オ-ル・サッソン(イスラエル)

[敗者復活戦]
影浦心○GS背負投(GS0:48)△ヤキフ・ハモー(ウクライナ)

[3位決定戦]
影浦心○内股返(2:25)△ヘンク・フロル(オランダ)

※ eJudoメルマガ版2月20日掲載記事より転載・編集しています。

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