PAGE TOP ↑

柔道1

柔道2
柔道4 柔道5

eJudoとは?情報募集・お問い合わせサイトマップ

【バクー世界柔道選手権2018特集】日本代表全選手採点表、男女代表総評

(2018年10月19日)

※ eJudoメルマガ版10月19日掲載記事より転載・編集しています。
【バクー世界柔道選手権2018特集】日本代表全選手採点表、男女代表総評
→特設ページ・バクー世界選手権2018完全ガイド
文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

eJudo Photo
個人戦で金メダル7つを得た日本は男女混合団体戦にも優勝、有終の美を飾った。

男子代表総評

最終結果は金メダル2個、銀メダル2個、銅メダル3個。60kg級の髙藤直寿が見せた異常な完成度の高さ、66kg級阿部一二三の階級内における相対的な抜け出しぶり、リネールなき最重量級王者の奪取失敗、とポジティブにもネガティブも様々なトピックのある大会であったが、はっきりしたのは2020年東京五輪における日本代表・勝負の様相。手堅く、間違いなく戦えば必ず勝てるというところまで行きつけるのは軽量3階級のみ。残りの4階級は、トップとギリギリの競り合いが出来るところまで持っていって当日に勝負を掛ける、のが仕事として強化がなし得る「天井」だということだ。

そして今大会の結果自体は満足すべきものではなかったかもしれないが、戦いぶりを見る限り強化の方向自体は間違ってはいない。組み合わせに恵まれたとはいえ「永瀬なし」の81kg級でファイナリストを輩出したことなどは大いなる一歩。最大の課題は90kg級。人材、成績と強化進行のあるべきスケジュールに1年程度遅れているのではないか。フェアなピックアップと論理的な強化で復活を遂げた日本男子であるが、ここに関しては大胆な人材登用など久々伯楽的な視点、あるいは派遣回数増加などの集中強化が必要、順行運転では単に時間的に間に合わないのではないかと危惧する。グランドスラムまでに強化意中の人材が順当に上がって来ればひとまず良し、それ以外の場合には一段上の策が必要だ。

女子代表総評

5階級を制し、かつ全階級でメダル獲得という結果自体については既に各メディアで十分評価されて(褒められて)いるであろう。そこに関してはまことに正当、素直に選手と強化陣を評価したい。ただしその中身は額面通りに受け取れるものでは決してない。女子柔道は現状海外勢のレベルが落ちている階級が多く、ゆえにむしろこの出来でここまでの圧倒的な結果が出てしまったこと、これにより世間の期待値が上がり過ぎてしまうことに率直な恐怖を覚える。

48kg級、63kg級という本当に強いチャンピオンがいる階級は過たず頂点に届いていない(ただし63kg級でアグベニューに敗れた田代未来の戦いがMVP級に素晴らしかったことは強く言っておきたい)一方、日本が勝った階級の内容は手放しでは喜べないものが多い。78kg超級は脆弱な陣容とコンディション整わぬもとトップ選手を相手に決して快勝とは言えない辛勝、78kg級はミスと危うい判断の繰り返しで本来五輪本番1回しか許されない「結果オーライ」の連続であったし、70kg級も課題をクリアできぬまま結果が残ったという形の勝利であった。

57kg級の芳田司と52kg級の阿部詩の2人は掛け値なしに素晴らしい出来、戦術・技術上の具体的な進化と成長がしっかり見えておりこれは対戦相手云々を越えて明らかに水準点以上、一段も二段も上の評価を為されるべき。しかし他階級は内容的に「勝ったから許される」ことが多すぎたのではないか。強化陣はこの点十分理解しているはず。ざっくり言って、結果に比して「放っておいてはいけないこと」が非常に多い大会であったと感じた。この先も、そもそも世界の層が厚くない女子は、ツアーにあっては日本勢が結果を残し続けるはず。ファンもメディアも結果ではなくその勝ちぶりの「中身」を注意深くウォッチしていくべきだろう。

■ 男子
eJudo Photo
まったく違う位相の強さを見せた髙藤直寿

60kg級 髙藤直寿 7.0
これまでと全く違う高いフェーズでの勝利。立って良し、寝て良し、二本持って良し、抱いて良しの技術的全方位性の獲得に加え、足技を軸にした手堅い戦術、逆に必要とあれば単に緻密なだけの戦いの地平から一気に「ジャンプ」してみせる勝負度胸、敢えて相手の策を受け入れて相対的に優位を作る駆け引きのレベルの高さ、と凡庸な言い方で恐縮だが、チャンピオンに必要な全ての条件を備えていた。負けない戦いを組み立て、必要とあればバクチも厭わずと、高所から自身の戦いを俯瞰するような凄みのある戦いぶり。競技者というよりもはや柔道家として高いレベルで仕上がって来たという印象。どこまで進化を続けるのか、今後が楽しみ。

60kg級 永山竜樹 5.5
出来は決して悪くなく、自身の良さを十分出した1日。敗れた髙藤戦も大激戦、ただし髙藤の側の出来が良すぎたという大会であった。あくまで表彰台に齧りつき、追撃への足掛かりを確保した点はさすが。ただし引きの悪さか対戦相手に強豪が少なく、高得点評価は難しかった。

66kg級 阿部一二三 6.0
結果とスコアだけ見ればまったく文句なしの出来。全選手に狙われる状況での連覇達成は素晴らしい。ただし特定選手以外のレベルが極端に落ちる66kg級の現況では、阿部の勝利は実力的には既定路線。その中にあって本来評価ポイントになるはずの技術的、戦術的上積みをはっきり見せることが出来なかったのは少々残念(※抱き勝負一辺倒をあらため、前襟を持つスタイルで圧勝した昨年の戦いにはこの「成長」がはっきり見えていた)。圧倒的な力があるゆえ、片襟や両袖の一方的な組み手で「早く投げてしまおう」という様には、むしろ試合を揉めさせてはならないという焦り、一種の恐怖感すら感じられた。この点、前日髙藤が見せた融通無碍の戦いぶりとはかなり様相が異なる。一方的に組んで投げに出るものの決め切れないというシーンがかなり見受けられたが、おそらくコンディションが万全ではなかったのではないか。それでも圧勝してしまう地力の高さと連覇達成の偉業自体に加点。前述「上積みの有無」を考慮してこの点に留めた。

73kg級 橋本壮市 5.5
5月の怪我による調整不足もあってか、アクセル踏み込み切れない戦いぶり。結果を残すことで全てを振り切るしかないという内容であったが、決勝でアン・チャンリンの小外掛「一本」に屈してこのシナリオは瓦解した。顔面強打のアクシデントで右目が見えなかったことが大きく報じられていたが、これは事実なれど今大会の様相を切るにあたっては決して本質的にはあらず。橋本の出来は一貫して良くなく、一方のアンはキャリア史上最高のパフォーマンス。現象として、アンの出来が橋本を上回ったと捉えるのが妥当である。

81kg級 藤原崇太郎 6.0
永瀬貴規不在の中、戦国81kg級を勝ち抜いて見事銀メダル獲得。アジア大会でライバル佐々木健志が無謀な捨身技2発で自滅したばかりということもあってか、ひときわ丁寧な試合ぶりであった。超激戦大会にあって唯一の空白域となったプールC配置であったことが逆に少々勿体ない。大会の主役を張ったプールABの強豪たちと戦っても十分「やれる」戦いぶりであったが、この大舞台で力を試す機会を逸した感あり。本人の責ではないが、この点で大幅加点には至らず。

90kg級 長澤憲大 5.5
3位確保はこれまでの来歴からも、対戦した相手の面子からも高く評価されるべき。ただしその手堅過ぎる戦い方、勝つべき相手にしっかり勝つ一方で、強者の上に一瞬でジャンプする「ハシゴ」の欠けた戦いぶりには一定の閉塞感あり。丁寧に状況を積み上げて戦う長澤流で最後まで勝ち抜くには敵に倍する地力が必要であり、90kg級世界にあってこれは現実的ではない。シェラザディシヴィリやシウバ=モラレスら新興勢力が放つ光の強さを見るにつけ、むしろ日本が取り残された印象を受けた。旧来の強者にはことごとく勝利したが、これから加速すること間違いなしの90kg級の進化スピードにあっては、これだけでは足りない。次へ繋いだというよりは流れの中に爪を立てて引っ掛かったという印象。その功績に加点、戦いぶりを割り引いてこの評価。この流儀で戦うのであれば我慢比べとなったシウバ=モラレスとの「指導」の取り合いを譲ってはいけなかった。

100kg級 ウルフアロン5.0
デニソフ、フレイ、コレルの強豪3人に一本勝ちするさすがの力を見せたが、最大の敵と目されたイリアソフに敗退。選考対象試合に1試合も出ぬまま、負傷明けのまま出場を「請われた」形の今大会に、(国内選考事情からは)ウルフが失うものなし。かつここまでは堂々たる結果。ただし3位決定戦で喫した2敗目が余計であった。ポジティブ、ネガティブそれぞれないまぜの内容と結果、強行出場という背景のエクスキューズを加味してこの採点。

100kg超級 原沢久喜5.5
ウルジバヤル・デューレンバヤルに思わぬ敗戦を喫したが3位を確保。決してスーパーな出来ではなく、五輪時のトップフォームに戻っているとも感じられなかったが、昨年のオーバートレーニング症候群による惨敗を思えばむしろ現状の平均点の出来できちんと強豪たちと息が出来、結果が残せることに安堵させられた。団体戦含めて強豪を投げまくったキム・ミンジョンを2回しっかり退けたあたりは貫録。第一人者の責として「リネール以外」の新王者が日本人ではなかったという悔しさを忘れず、以後を戦ってもらいたい。

100kg超級 小川雄勢4.5
3回戦敗退。相手のテムル・ラヒモフは昨年の世界ジュニアで山口貴也を屠った力のある選手であり、かつまったく不当な誤審であったが、小川の力をもってすれば問題の場面が訪れる前に決めるべき試合であった。特にほぼ完全に抑え込みながら逃がした場外際の攻防は残念。これは個人戦の評であるが、挽回すべき団体戦でウシャンギ・コカウリに小外掛で叩き落とされてしまったことも痛かった。コカウリは個人戦2位だがこの日の出来は良くなく、小川はさらに一段評価を落とすこととなってしまった。

■ 女子
eJudo Photo
5階級優勝の日本女子の中でも、芳田司の出来は出色であった。

48kg級 渡名喜風南 5.5
連覇を狙ったが決勝で唯一無二のターゲットにしてきたはずのビロディドに敗退。前回敗戦時とまったく同じ形に同じ技、強化も含めて「何をどう対策して来た」結果なのかを厳しく問われるべき事態だ。それまでの勝ち上がりも受けの甘さを身体能力と体力で弾き返す場面が多く、率直に言って粗さが目立った。現代柔道で連覇を果たすには明確な技術的・戦術的上積みが必須であるが、絶好調と伝えられた渡名喜が、絶好調であること以外の何を所以に頂点に立たんとしたのかは、今一度検証さるるべきであろう。尖った特徴のない渡名喜の昨年の戴冠はコンディション、年齢、立場、相性と全ての要素が揃ったゆえ。同じ方法論での再現は、ビロディドの出現云々を越えて難しかったのではないだろうか。

52kg級 阿部詩 6.5
初出場初優勝。内容的にも文句のない出来であった。投げ一発の強さを売りに出世した阿部がこの日は寝技でもテクニカルな決めを連発。ブシャーの心ごと折った準決勝の腕緘「一本」などは圧巻であった。立って良し寝て良しの完成度の高さはもちろん、現代柔道の評価最大の項である「成長を止めない」こと、引き出しを増やし続ける努力を高校生が粛々実行する様には脱帽である。勝負どころの決勝を鮮やかな一本勝ちで決めるあたり、やはりスター性十分。現在海外勢のレベルが低い52kg級であるが、優勝という結果と引き出しを増やし続けるという「項」を満たしたことを高く評価して加点、志々目以外の対戦相手のレベルに鑑みてこの点に留めた。

52kg級 志々目愛 6.0
惜しくも2位。クズティナ、ミランダと強豪を一手に引き受けた形であったが戦いぶりは良し。対阿部戦も相手のフィールドである両袖の対策とそこからの攻撃を練った跡十分、見ごたえのある戦いであった。阿部が「指導3」勝利を確信し、これが取り消されたショックでやや停滞した本戦中盤が大チャンスであったが、ここを逃したことが悔やまれる。いずれ、阿部が一段評価を上げたものの、少なくとも志々目自体の評価が下がるような戦いではなかったと評したい。

57kg級 芳田司 7.0
不調が伝えられた大会前の様相に基づいた弊サイトの低評価(それでも優勝候補だったが)を恥じ入る次第。動きの速さと質の良さ、密度の高さで他選手を圧倒。得意の小外刈と内股に加えて新境地の担ぎ技や横落も駆使し、寝勝負の速さはライバルたちがついていけぬほど。間違いなくこの日のベストファイターだった。いままでの芳田とは一段も二段も違う戦いぶり、結果、内容、そしてしつこいようだが「成長」という項、すべてを高い水準で揃えての優勝となれば、高得点で報いて然るべし。アジア大会では玉置桃がこれも素晴らしいパフォーマンスで優勝を飾ったばかり、日本の57kg級は新たなフェーズに入ったと言っていいだろう。

63kg級 田代未来 6.0
本来なら7.0をつけたい素晴らしい内容。優勝出来なかったことを落胆する向き、あるいは「これでは東京までにアグベニューには勝てない」とガッカリしたファンがいるとしたら、それはそもそもアグベニューの力量を見誤っていたのではないかと言いたい。ここ数年、トルステニャク以外に本気のアグベニューとまともに試合が出来た人間はいないのである(昨年のワールドマスターズはあくまでアクシデント、その後田代が一蹴されている事実は重い)。準決勝ではトルステニャクをも技術ではなく地力自体で一蹴、63kg級が「3すくみ」から、「アグベニューと田代だけが他を引き離して強い」時代に進んだ大会であった。敗れて畳に沈む田代を、アグベニューが歩み寄って引き上げ抱擁した最後の絵は感動的。何より63kg級というメジャー階級で、日本選手がここまでワクワクする試合を、それも海外の誰もが認める「鉄板対決」として繰り広げる時代が再び訪れたことには胸踊らされる。先輩の谷本歩実-リューシー・デコスのような「名勝負数え歌」の実現に期待せずにはいられない。

70kg級 新井千鶴 6.0
ここ一年の迷走を振り払って優勝。地力を上げることで頂点に登攀した昨年から、「形が出来なくとも力を出す」方向に舵を切って2連覇を達成した。とはいえ、例えばイチかバチかの勝負をするしかないガイに対してノーガードの腰の抱き合いに応じて一発食った決勝などを見る限り、戦術性と組み手という根本的な弱点はまだ解決されていない。強豪の世代交代と階級変更、あるいは欠場で階級自体のレベルが下がっている折でもあり、手放しの評価は難しい。連覇という偉業の、結果自体に加点。

70kg級 大野陽子 5.0
準々決勝敗退も銅メダルを確保。躍進の因である方法論の増加を生かせず、緊張ゆえか視野狭窄の感あり。準々決勝では自身の長所であるパワーでニアンの後塵を拝し、小外掛一発に沈んだ。これは個人戦の採点だが、挽回すべき団体戦でも決勝でガイに一本負けを喫して日本の勝利を先送りしてしまうなど、ここ一番で勝負弱いとの評はどうしても避けられないところ。新井の2連覇を許し、代表争いでは大幅後退となった。

78kg級 濵田尚里 6.0
初出場初優勝の偉業達成。グラフ、フェルケルク、ステインハウスと倒した相手もなかなかの面子、決勝の「指導3」も含めれば全試合一本勝ちと形的には圧倒的だった。しかし絶対の優位がある寝技を避けて受けに脆さがある立ち勝負偏重、危うい組み手のまま攻めに出る攻守のタイミングの見極めの危うさ、ビハインド状況での側転にサリハニに対する「ペンギン歩き」等の不可解な受けなど「理」に欠ける戦いぶり。地力の高さはまさに世界チャンピオン級、むしろおつりがくるほどだが、「勝ったから良かったものの」とのエクスキューズつきで語られる場面があまりに多すぎた。この戦い方で高い点をつけられるのは五輪本番のみ。観戦者の心臓に良くない1日だった。

78kg超級 朝比奈沙羅 6.0
初優勝。受けに回った昨年度大会決勝の反省を生かし、割り切った先手攻撃でもと王者オルティスを寄り切り念願の世界王座に就いた。ただし昨年敗れたユー・ソン含めた中国2トップが欠け、オルティスが往時のコンディションに遠く及ばぬ中で、この内容(たとえば、前技のポイントゼロで決まった投げは支釣込足(相似の膝車もあり)のみ、など)では本人も満足はしていないはず。かつて志した大きな柔道を忘れずに成長を続けて欲しい。国内で素根輝に連敗中ゆえ、国際大会で勝ち続けるほか道はなし。優勝という結果自体と、そう肚を括って結果をもぎ取った執念に加点。対戦相手と内容を考慮してここに留めた。

■ 男女混合団体戦
73kg以下 立川新 6.0
3戦全勝。アゼルバイジャン戦でオルジョフを破り、今大会日本最大の苦境を救った功は大きい。決勝ではかつて敗れたシェヌを倒して「海外勢に良くない」評価の根を断つおまけつき。間違いなく評価を上げた大会だった。

90kg以下 向翔一郎 5.5
そのアゼルバイジャン戦でメディエフに敗れ日本大苦戦の原因となってしまったが、決勝のフランス戦では個人戦銅メダルのクレルジェに勝利して日本の金メダルを決めた。功罪相殺して、この採点となった。

57kg以下 玉置桃 - 
※順当に勝利も、出場1試合のため評価なし

70kg以上 素根輝 6.0
2勝0敗。落ち着いた試合ぶりでしっかり仕事を果たした。

→特設ページ・バクー世界選手権2018完全ガイド

※ eJudoメルマガ版10月19日掲載記事より転載・編集しています。

→eJudoトップページに戻る
→「ニュース・マッチレポート」に戻る
→「書評・DVD評」に戻る




supported by KAYAC 運営会社サイトポリシー  RSS copyright (c) 2005 ejudo all rights reserved.